専属契約を持ちかけられたデザイナーが最初に聞くのは稼働時間と単価


この記事のポイント
- ✓デザイナーの専属条項を在宅ワークで提示されたときの判断基準をまとめました
- ✓他社案件を止める前に確認すべき点を条文レベルで解説します
在宅で仕事を受けているデザイナーが、取引先から「今後はうちの専属で受けてほしい」と言われる。この一言のあとに何を確認すべきかを、契約書の条文単位で整理します。結論から書きます。専属条項そのものは違法ではありませんし、条件次第では受けてよい話です。ただし「他社の仕事を止める」という約束に対して、最低保証も、期間の上限も、解除の道筋も書かれていない契約は、ほぼ確実に受け手側が損をします。判断の分かれ目は「専属かどうか」ではなく「独占に見合う対価と出口が書面にあるかどうか」です。
在宅のデザイナーは、案件の入り口が複数あることでリスクを分散しています。専属条項はその分散を自ら手放す行為です。手放した分の見返りを、口約束ではなく契約書の文言として受け取れているか。この記事では、専属条項の3つの類型、条文チェックの7項目、独占の対価の交渉手順、断りたいときの修正提案の書き方、そして専属条項が労働者性の認定に近づく危険な形まで、順に見ていきます。
在宅デザイナーに専属条項が持ち出される背景
まず市場の状況を押さえます。在宅で働くグラフィックデザイナーやWebデザイナーへの発注は、企業側から見ると「採用より速く、派遣より安く、社内リソースを増やさずに手を動かせる人を確保する」手段として定着しました。求人検索の場でも、業務委託かつ在宅可のデザイナー募集は常時流通しています。
完全在宅で週5日勤務、月給40万円のWebデザイナー募集です。医療系・製薬系クライアントのWebサイトやLP、バナーデザイン業務を担当していただきます。医師や患者さん向けのサイトデザイン、トーン&マナーを考慮したデザインテンプレート作成、パーツ作成などを行います。ディレクターのワイヤーフレームに基づき、XD、Illustrator、Photoshopの実務経験者を募集します。学歴不問で、経験・能力を考慮します。完全土日祝休みで年間休日120日以上、夏季休暇・年末年始休暇もあります。 出典: 求人ボックス
こうした募集の文言を読むと、業務委託でありながら「週5日」「完全土日祝休み」「勤務時間9時から18時」といった雇用に近い条件が並ぶ例が珍しくありません。発注側の本音としては、雇用にすると社会保険料の事業主負担や解雇規制がついてくるので避けたい、けれど稼働は独占したい、という構造があります。専属条項はこの「独占したいが雇用はしたくない」という発注側の要望が、契約書の一条として姿を現したものです。
デザイナー側の状況も見ておきます。デザイン系の在宅ワークは、単発のバナー1枚が数千円という水準から、サイト1本の設計込みで数十万円という水準まで、単価の幅が非常に広い分野です。単発案件を積み上げる働き方は、月ごとの収入が読めないという弱点を抱えます。だから「毎月固定でこの金額を払うので、うちだけ見てほしい」という提案は、受け手にとって一見ありがたく響きます。収入が読める、営業しなくてよい、関係が安定する。この3つはどれも本物のメリットです。
問題は、専属条項の多くが「縛りだけ具体的で、見返りが曖昧」という非対称な形で提示されることです。契約書には「本契約期間中、乙は甲の競合他社から同種業務を受託してはならない」と明確に書いてあるのに、甲が乙に発注する量については「業務量は甲が別途指示する」としか書いていない。これは実質的に「あなたの選択肢は消えるが、私の発注義務は生じない」という約束です。受注側が一方的にリスクを引き受ける形になっています。デザイナーの単価水準そのものを確認したいなら、職種別の相場をまとめたデザイナーの年収・単価相場を先に見て、提示された固定額が独占に見合うかを数字で検証するところから始めるのが確実です。
専属条項は3種類ある。どれを求められているかを特定する
「専属」という言葉は契約書の中で少なくとも3つの異なる意味で使われます。この区別をしないまま交渉すると、必要以上に譲るか、逆に不要な警戒で関係を壊すかのどちらかになります。
競業避止型:競合他社との取引を禁じる
最も一般的なのがこの型です。「甲と競合する事業者から、本件業務と同種の業務を受託しないこと」と書かれます。ポイントは競合の定義です。契約書に競合の定義がないまま署名すると、発注者が「うちと同じ業界は全部競合」と主張してきたときに反論しづらくなります。
たとえば化粧品ブランドのLP制作を請けている場合、「化粧品ブランド全般が競合」とされるのか、「同価格帯かつ同チャネルのブランドのみ」とされるのかで、失う案件の量が10倍変わります。定義は必ず契約書に列挙で書かせます。「別紙に定める競合企業リストに掲載された企業に限る」とし、リストの更新は双方合意によるものとする。これが受け手側にとって最も安全な形です。リストが際限なく増やせる契約は、白紙委任と同じです。
範囲の交渉では、業種ではなく「商材」と「チャネル」の2軸で切るのが実務的です。化粧品でもBtoB向けOEM資材のデザインなら競合しない、EC向けの商品ページなら競合する、という具合に切り分けると、発注側も納得しやすくなります。「あなたのビジネスに実害が出る範囲だけ止めます」という提案は、単なる拒否より通ります。
稼働独占型:他社案件そのものを禁じる
「本契約期間中、乙は第三者から一切の業務を受託しないものとする」という書き方です。競合かどうかを問わず、あらゆる他社案件を止めさせる形です。これは受け手にとって最も重い縛りで、実質的に雇用と変わらない拘束を生みます。
この型を提示された場合、確認すべきは対価の設計です。他社案件を一切止めるということは、その期間の収入源が1本になるということ。1本になった収入が、これまで複数の取引先から得ていた合計を下回るなら、単純に条件が悪化しています。加えて、取引先が1社に集中すると、その1社が支払いを遅らせたり事業を縮小したりしたときに、収入がゼロに直行します。稼働独占を受けるなら、最低保証金額と、支払いサイトの短縮と、途中解除時の補償の3点をセットで求めるのが最低条件です。
優先受注型:断らない義務を負う
「甲が発注する業務について、乙は他の業務に優先して受託するものとする」という書き方です。他社案件は禁じられていないので一見ゆるく見えますが、実務では最も扱いにくい型です。他社に納品予定がある日に大量発注が来ても断れない、という状況が生まれるためです。
この型では「優先」の限界を数値で切ることを提案します。月あたりの上限稼働時間、あるいは月あたりの受注上限本数を定め、その範囲では優先する、超える分は個別協議とする。上限のない優先義務は、受け手のスケジュール管理権を全部渡す約束になります。
契約書のここを見る。専属条項の7点チェック
専属を受けるか断るかを判断するとき、私は必ず次の7項目を紙に書き出して埋めています。空欄が3つ以上残る契約は、その時点で署名を保留します。
1. 独占の対価が別建てで書いてあるか
最も重要な項目です。専属条項の対価は、通常の制作報酬とは別の性質を持ちます。制作報酬は「作ったものへの支払い」であり、独占の対価は「他社案件を受けない不利益への支払い」です。この2つを分けて書いてもらいます。
具体的には、月額固定の「専属手当」あるいは「稼働確保料」という名目で、制作報酬とは別に計上してもらう形です。金額の目安としては、専属になることで失う他社案件の粗利相当額が下限になります。仮に月に他社から15万円相当の受注があったなら、その分は最低でも埋まらないと単純に手取りが減ります。
分けて書く実務上の効果は、契約終了時に効いてきます。報酬に混ぜ込むと、発注量が減ったときに「発注が少ないので報酬も少ない」という理屈で独占の対価まで消えます。別建てなら、発注が少ない月でも独占の対価は発生し続けるという主張ができます。
2. 最低保証発注量または最低保証報酬があるか
専属条項とセットで必須なのがこれです。「甲は乙に対し、本契約期間中、月額30万円を下回らない業務を発注する」あるいは「発注量が当該金額に満たない場合も、甲は乙に対し当該金額を支払う」という条項を入れます。
最低保証がない専属契約は、発注側から見ると「タダで人を確保できる権利」です。実際、繁忙期だけ大量に発注し、閑散期は発注ゼロで放置する運用が起きます。受け手は他社案件を止めているので、閑散期の収入がゼロになります。この状態を法的に禁じる条文は一般にはありませんから、契約書で自衛するしかありません。
金額の決め方は、直近6か月の月間平均売上を出し、そこから専属によって失う分を差し引かない金額を提示するのが交渉の出発点です。発注側が渋る場合は、保証額を下げる代わりに競業避止の範囲を狭める、という交換条件に持ち込みます。
3. 期間の上限と自動更新の扱い
期間の定めがない専属条項、あるいは「双方から申し出がない限り自動更新」だけが書かれた条項は避けます。期間は6か月または1年で切り、更新のたびに条件を見直せる形にします。
自動更新条項がある場合は、更新拒絶の通知期限を必ず確認します。「更新を希望しない場合は満了の3か月前までに書面で通知」とあるなら、その3か月をカレンダーに入れておく必要があります。通知期限を逃すと、また1年拘束が延びます。
4. 契約終了後にも縛りが残るか
いわゆる退職後の競業避止に相当する部分です。「本契約終了後1年間、乙は甲の競合他社から業務を受託しない」という条項が入っていることがあります。これは受け手にとって極めて重い負担です。契約が終わり、報酬も入らなくなった状態で、営業先だけ制限されるからです。
契約終了後の競業避止は、雇用の世界では期間・地域・職種の範囲が広すぎると無効と判断される裁判例が積み重なっています。業務委託でも考え方は近く、代償措置のない無限定な事後制限は効力が争われます。ただし個別の契約が有効か無効かは事案ごとの判断になるので、素人判断で「無効だから守らなくていい」と決めつけるのは危険です。事後制限が入っている契約は、署名前に弁護士や地域の法律相談窓口で確認するのが確実です。
現実的な落としどころは、期間を3か月から6か月に短縮し、範囲を「本件業務で知り得た特定プロジェクトに関する競合案件」に限定することです。「終了後は一切制限しない」という主張が通らないときの次善策として用意しておきます。
5. 解除条件が対等か
片方だけが自由に解除でき、もう片方は違約金を払わないと抜けられない契約が実在します。「甲は1か月前の通知により本契約を解除できる」「乙が中途解約する場合、残存期間の報酬相当額を違約金として支払う」という組み合わせが典型です。
これは明確に不均衡です。修正提案としては、解除予告期間を双方同一にすること、違約金条項を削除するか双方に課すこと、の2点を求めます。専属という重い義務を負う以上、抜けるときの条件だけ不利にされる理由はありません。
6. 支払いサイトと検収の定めがあるか
専属で1社に依存するということは、その1社の支払いが遅れた瞬間に生活が詰まるということです。支払期日は「納品月の翌月末日」までに設定してもらい、検収の期限も明記します。「検収完了後に支払う」とだけ書いて検収期限を書かない契約は、検収を放置されると支払いも無期限に遅れる構造になります。
下請取引に該当する取引では、発注者側に書面交付や支払期日設定などの義務が課される場面があります。取引の当事者の資本金規模や取引の内容によって適用の有無が変わるため、自分の取引が該当するかどうかは公正取引委員会の案内で確認するか、専門家に相談するのが確実です。制度の全体像はフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストで発注書・契約書の必須項目として整理していますので、条文の当てはめの前にこちらで全体像を掴んでおくと交渉が速くなります。
7. 成果物の権利と二次利用の範囲
専属契約では成果物の著作権を全部譲渡する条項が入ることが多くなります。譲渡自体は取引として普通のことですが、譲渡の範囲と、譲渡後の実績公開の可否を確認します。
デザイナーにとってポートフォリオは営業資産です。「本件成果物について、乙は一切の公表を行わない」という条項が入ると、その期間の仕事は実績として使えなくなります。専属で1社に集中している期間の成果物が全部非公開になると、契約終了後の営業が極端に苦しくなります。最低限、「甲の事前承諾を得た上で実績として公開できる」という形にしておきます。
独占の対価をどう計算し、どう交渉するか
金額の交渉は感情ではなく計算で進めます。手順は3段階です。
現状の収入構造を数字で出す
直近6か月について、取引先ごとの売上と、その取引先に費やした稼働時間を出します。ここで見るのは合計額ではなく、時間あたりの単価です。専属になると稼働が1社に集中しますから、その1社の時間単価が他社より低い場合、専属化は時間単価の引き下げを意味します。
たとえば他社案件の平均時間単価が4,500円で、専属を求めてきた会社の案件が時間単価3,200円だとします。この状態で専属を受けると、稼働時間が同じでも収入は約3割落ちます。この差額を埋める根拠として、専属手当の金額を提示します。
独占によって発注側が得るものを言語化する
交渉で効くのは「私が損をする」ではなく「あなたが得をする」という説明です。専属化によって発注側が得るのは、優先的な納期確保、案件情報の外部流出リスクの低下、レギュレーション習熟による修正回数の減少、この3つです。
特に修正回数の減少は数字で示せます。新規の外注先に発注すると、トンマナのすり合わせで初回は2回から3回の修正が発生します。専属で継続していれば初回から通る確率が上がり、発注側のディレクション工数が減ります。この工数削減分を、専属手当の原資として提示します。
段階的な条件を用意する
最初から満額を出す会社は多くありません。そこで「専属手当を満額出す案」「保証額を下げる代わりに競業範囲を狭める案」「試用期間として3か月だけ限定的な専属にする案」の3案を用意します。選択肢を提示すると、交渉が決裂ではなく調整に変わります。
私が過去にやらかした失敗を1つ書いておきます。初めて専属の打診を受けたとき、私は「専属手当は不要です、その代わり単価を上げてください」と提案しました。単価が上がったので納得していたのですが、半年後に発注量が半減したとき、上がった単価は発注ゼロの月には1円も生みませんでした。独占の対価を報酬単価に溶かしてしまうと、発注量が減った瞬間に消えます。名目を分けて月額で確保しておくべきでした。この構造は、あとから修正しようとしても「前回そう合意したので」と押し返されます。最初の契約でどう書くかが全てです。
専属条項が労働者性の判断に近づくとき
ここは受け手だけでなく発注側にとってもリスクのある論点です。業務委託契約という形式でも、実態が指揮命令下の労務提供になっていれば、労働基準法上の労働者と判断される可能性があります。判断は形式ではなく実態で行われます。
労働者性の判断で見られる要素としては、仕事の依頼に対する諾否の自由があるか、業務の遂行方法について具体的な指揮命令を受けているか、勤務時間や場所が拘束されているか、報酬が労務提供時間に比例していないか、他社の業務に従事することが制約されているか、といった点が挙げられます。専属条項は最後の「他社業務の制約」に直結します。
つまり専属条項が単独で労働者性を生むわけではありませんが、他の要素と組み合わさると認定に近づく材料になります。危険な組み合わせは次の形です。専属条項があり、始業終業の時刻が指定され、日々の作業内容が細かく指示され、報酬が時間で計算されている。この4つが揃うと、契約書の表題が業務委託であっても実態は雇用に近いと見られる余地が出ます。
受け手にとって、これは必ずしも悪い話ではありません。労働者と認められれば労働法の保護が及びます。ただし、実務では認定を争うこと自体に時間と費用がかかり、その間の収入も止まります。認定を狙うより、契約段階で「拘束されるなら雇用契約にしてほしい」と主張するほうが早い場合が多くなります。
労働条件の基本的な考え方や相談窓口については厚生労働省の情報が参考になりますし、取引上の不当な要求については公正取引委員会が窓口を設けています。ただし、個別の契約が労働者性を持つかどうかの判断は事実関係の総合評価になるため、記事の一般論だけで結論を出さず、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや弁護士への相談で確認してください。
断る、あるいは条件を変えるときの伝え方
専属を断ることは、取引を断ることと同義ではありません。伝え方次第で関係は続きます。実務で使える型を3つ挙げます。
全面的に受けず、範囲を絞って受ける
「他社案件を全部止めることは難しいのですが、御社と直接競合するECコスメ領域については受注を控えます」という形です。相手の実害だけを止める提案なので、断りではなく代案として受け取られます。競合の定義を自分から提示できるので、範囲が広がるのも防げます。
期間を区切って受ける
「まず3か月限定で専属として動き、実際の発注量とお互いの相性を見てから、継続の条件を決めさせてください」という形です。発注側にとっても、専属手当を長期で払う判断を保留できるメリットがあります。試用期間中の最低保証は必ず入れます。
保証とセットでのみ受けると明示する
「専属でお受けする場合、月額の最低保証を設定していただく形になります。保証がない前提では、他社案件を止めるリスクを引き受けられません」と、条件を先に置きます。この言い方は強く聞こえますが、理由を添えれば筋の通った要求として通ります。実際、最低保証を渋る発注者は、そもそも安定発注する意思がないことが多いというのが現場の感覚です。
メールの文面としては、次のような構成が使いやすくなります。冒頭で打診への感謝を書き、次に受ける意思があることを明示し、そのうえで必要な条件を箇条で並べ、最後に協議の場を提案する。断定を避けて「検討します」だけ返すと、相手は合意したものとして進めてしまうことがあるので、条件を提示する形で返すのが安全です。
在宅デザイナーが専属条項で得るもの、失うもの
フェアに整理します。専属化にはメリットとデメリットが両方あります。
得るものの筆頭は、収入の予測可能性です。最低保証がついた専属契約なら、月ごとの売上の下限が確定します。これは在宅ワークの最大の弱点である収入変動を直接解決します。住宅ローンや保育料など固定支出が大きい人ほど、この価値は高くなります。
2つ目は、営業コストの削減です。単発案件を積み上げる働き方では、稼働時間の1割から2割が営業と見積もりと調整に消えます。専属化するとこの時間がそのまま制作時間に変わります。時間単価が同等なら、実質的な収入は上がります。
3つ目は、専門性の蓄積です。同じクライアントの案件を継続すると、業界知識とブランド理解が深まり、提案の質が上がります。これは次の取引先を探すときにも「この業界に詳しい人」という差別化になります。
失うものの筆頭は、取引先分散によるリスクヘッジです。1社依存は、その1社の業績や担当者の異動に収入が直結する状態を意味します。担当者が変わった翌月に発注が止まる、という話は珍しくありません。
2つ目は、単価交渉力です。他に選択肢がない状態では、値上げ交渉が通りにくくなります。相手も「他に行けないこと」を知っているからです。この非対称を埋めるのが、契約書に書かれた最低保証と解除条件です。
3つ目は、スキルの幅です。同じクライアント、同じトンマナの仕事を続けると、扱えるデザインの引き出しが狭くなります。専属期間中も、業界の異なる小さな案件を1本だけ残しておく、あるいは個人制作を続けるといった形でスキルの更新を確保しておくのが現実的な対策です。デザイン以外に領域を広げたい場合は、Webデザイナーのお仕事で在宅のデザイン業務の全体像を確認したうえで、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように隣接領域まで見ておくと、専属期間が終わったあとの選択肢が保てます。音まわりを扱う作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事のように、映像案件とセットで発注されやすい領域を押さえておくのも、依存を減らす手になります。
専属化に向く人と向かない人
同じ条件でも、人によって最適解は変わります。判断の軸を整理します。
専属化に向くのは、固定支出が大きく収入の下限を確保したい人、営業が苦手で案件獲得に時間を取られている人、そして特定業界の専門性を武器にしたい人です。この3つに当てはまるなら、最低保証つきの専属は合理的な選択になります。
向かないのは、複数領域のスキルを伸ばしている途中の人、独立から日が浅く単価を上げていく段階の人、そして将来的に制作会社やチームを組成したい人です。1社に稼働を預けると、その間の成長方向が相手の都合で決まります。
判断に迷ったら、専属化した場合の1年後の自分を書き出してみます。1年後に扱えるスキル、1年後の実績として公開できる作品、1年後の想定単価。この3つが今より良くなっていないなら、条件が足りていません。
独自データから見る在宅デザイナーの取引構造の考察
在宅ワークの求人・案件情報を長く扱っている立場から、専属条項まわりの傾向を整理します。
まず、専属や優先受注を求める発注が増える局面には共通点があります。発注側が「継続的な制作物のライン」を持ち始めたときです。単発のLPを作るだけならスポットで足りますが、毎週のバナー更新、月次のSNS用クリエイティブ、季節ごとのキャンペーン素材といった定期的な業務が発生すると、その都度発注先を探すコストが無視できなくなります。だから専属を求める。この背景を理解していると、交渉で「定期業務の枠を確保するための対価」という言葉が使えます。
次に、職種横断で見たときの傾向として、専属条項が持ち出されやすいのはデザインと動画編集、そしてライティングの3領域です。共通しているのは、成果物にブランドのトーンが強く反映される点と、外注先を変えると品質のブレが出る点です。逆に、仕様が明確に定まる開発案件では専属条項はあまり見かけません。品質のブレが出にくい分野では、発注側が特定の個人を囲い込む動機が薄いためです。
20年この市場を見てきた立場から言えば、専属条項をめぐるトラブルの大半は、条文の文言ではなく「発注量の見込みについての口約束」から生まれています。「うちは毎月コンスタントに出しますから」という担当者の言葉を信じて専属を受け、3か月後に担当者が異動して発注が止まる。この形が繰り返し起きています。担当者に悪意はなく、単にその人が翌年も同じ席にいる保証がなかった、というだけの話です。だから口約束は書面に落とす。それだけで防げるトラブルが大半を占めます。
もう1つ、長く続いている人の共通点として観察できるのは、専属を受ける受けないにかかわらず「相手の社内で自分の仕事がどう使われているか」を把握していることです。自分の作ったバナーがどの広告枠で回り、どの数字を追っているのかを聞ける関係を作っている人は、単価交渉のときに「この施策の成果」という共通の土俵で話せます。作業単位でしか関係を持っていない人は、値段の話が値切り交渉にしかなりません。この差は、専属条項の有無より収入に効きます。
もう一点、取引構造の観点から触れておきたいのが、間に入る事業者の手数料です。案件の仲介にプラットフォーム手数料が乗る取引では、依頼側が支払う金額と受け手が受け取る金額の間に一定の差が生まれます。手数料0%で直接つながる形の取引では、この差が生まれません。運営者として見てきた限りでは、この構造の効き方は「単価が上がる」という単純な話ではなく、依頼側が同じ予算でもう1本頼めるようになり、受け手は同じ稼働で手取りが厚くなる、という双方向の変化として現れます。専属条項の対価を交渉するときも、間に何が挟まっているかで交渉できる幅が変わってきます。
最後に、専属条項を含む契約を扱う際の実務的な備えについて触れておきます。契約書のやり取りが増えると、条項の管理そのものが業務になります。文書作成の基礎的な作法を体系的に押さえておくと、修正依頼のメールや議事録の精度が上がります。文書実務の基礎はビジネス文書検定で扱う範囲がそのまま実務に使えますし、発注側の情報システム部門と話す機会が多い人はCCNA(シスコ技術者認定)のようなインフラ側の共通言語を持っておくと、要件のすり合わせで有利になります。海外のクライアントと専属的な取引を組む場合は、準拠法と紛争解決地の指定が国内契約とは別の論点になるため、海外クライアントとの英文契約書テンプレート|必須条項と注意点で必須条項を押さえてから交渉に入るのが安全です。税務まわりで顧問を探す段階に来ているなら、税理士資格でフリーランス副業|確定申告代行で稼ぐ方法と注意点のように士業側の視点で書かれた記事を読むと、依頼するときの相場観が掴めます。文章まわりの仕事も並行して受けているなら、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で単価水準を確認しておくと、業務範囲を広げるときの値付けの参考になります。
専属条項は、正しく設計すれば受け手と発注者の双方に利益をもたらす仕組みです。壊れるのは、片側だけに義務を書いたときです。他社案件を止める前に、対価と保証と出口の3つが契約書に書かれているかを確認してください。そして、契約の有効性や労働者性のような法的な評価が絡む論点については、最終的な判断を自分だけで下さず、弁護士や労働基準監督署の相談窓口、公正取引委員会の相談窓口といった公的なルートで確認することをおすすめします。
公的機関・関連参考情報
本記事の内容に関連する公的機関や信頼できる情報源は以下の通りです。最新情報は公式サイトで確認してください。
よくある質問
Q. 専属条項がある契約は、そもそも違法ではないのですか?
専属条項そのものは違法ではありません。当事者が合意すれば有効に成立します。問題になるのは、独占の対価や最低保証がないまま一方的に他社取引だけを禁じる場合や、契約終了後まで無限定に制限する場合です。実際の契約が有効かどうかは個別事情の総合判断になるため、不安がある条項は署名前に弁護士や公的な相談窓口で確認してください。
Q. 専属手当の金額はどのくらいが目安ですか?
一律の相場はありません。計算の起点は、専属化によって受けられなくなる他社案件の月額相当です。直近6か月の他社売上の平均額を出し、その分が埋まる水準を下限として提示するのが現実的です。加えて、制作報酬とは別の名目で月額固定にしておくと、発注量が減った月にも対価が残ります。
Q. 最低保証を入れてほしいと言うと、関係が壊れませんか?
理由を添えれば筋の通った要求として受け止められます。「他社案件を止める以上、収入の下限を確保する必要がある」という説明は発注側にも理解しやすい論理です。むしろ最低保証を強く拒む相手は、安定して発注する見込みが薄い場合が多いので、その反応自体が判断材料になります。
Q. 契約終了後も競合他社と取引できないと書かれていました。従う必要がありますか?
契約終了後の競業制限は、期間や範囲が広すぎる場合や代償措置がない場合に効力が争われることがあります。ただし有効か無効かは事案ごとの判断になるため、自己判断で無視するのは危険です。期間を3か月から6か月に短縮する、範囲を特定プロジェクト関連に限定するといった修正を署名前に交渉し、それでも残る場合は弁護士に相談してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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