副業に割増賃金は要らないのか|労働時間の通算と会社への届け出


この記事のポイント
- ✓副業に割増賃金は要らないという言い方が広まっていますが
- ✓雇われる形の副業では労働時間が通算され
- ✓後から契約した会社に割増賃金の支払い義務が生じます
「副業に割増賃金は要らない」という説明を、求人の募集文や会社の説明で見たことがある人は多いはずです。一方で、本業で週40時間働いたうえに土曜日に別の会社で働いたら、その時間は法定労働時間を超えているのだから割増が付くのではないか、という疑問も残ります。
結論から言うと、どちらも部分的に正しく、部分的に間違っています。分かれ目は「雇われる形かどうか」です。この記事では、労働時間が通算される場合と通算されない場合を厚生労働省の資料で確かめ、どちらの会社が払うのか、会社への届け出をどうするかまでを整理します。
「割増賃金は要らない」という言い方が出てくる理由
この言い方には、3つの出どころがあります。
1つ目は、業務委託の副業と、雇われる副業を区別していない説明です。フリーランスとして請け負う仕事に割増賃金の考え方はありません。ここだけを見て「副業に割増は要らない」と書かれた説明が広まりました。
2つ目は、労働時間の通算を知らないまま募集を出している会社の説明です。副業を歓迎する募集文に「ダブルワーク歓迎」と書きながら、通算の仕組みを織り込んでいないため、割増賃金を前提にしていない金額が提示されます。
3つ目は、通算の結果として割増を払うのが自分の会社ではないと理解している本業側の説明です。後から契約した会社が払う仕組みなので、本業の側では「うちは払わない」という説明になり、それが「副業に割増は要らない」と伝わります。
この3つが混ざったまま情報が出回っているため、働く側は自分がどの立場にいるのか分からなくなります。まず、自分の副業が雇われる形なのか請け負う形なのかを確定させてください。そこで答えが半分決まります。
結論。雇われる形の副業は労働時間が通算される
根拠は労働基準法の第38条第1項です。条文は短く、こう書かれています。
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。 出典: e-Gov法令検索
問題は「事業場を異にする場合」の意味です。同じ会社の別の店舗のことだけを指すのか、別の会社まで含むのか。ここは厚生労働省のガイドラインで明示されています。
「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合をも含む(労働基準局長通達(昭和23年5月14日付け基発第769号))とされている。 出典: 厚生労働省
つまり、A社で働いた時間とB社で働いた時間は足し合わせて数えます。合計が1日8時間または1週40時間を超えた部分が時間外労働になり、割増賃金の対象になります。「副業だから通算されない」という説明は、雇われる形の副業については成り立ちません。
割増の率は、労働基準法第37条第1項で通常の賃金の計算額の2割5分以上と定められています。1か月について60時間を超えた部分は5割以上です。この率は副業だからといって下がりません。
通算されない働き方
一方で、通算されない場合があります。ガイドラインは対象を列挙しています。
次のいずれかに該当する場合は、その時間は通算されない。 ・ 労基法が適用されない場合(例 フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等) ・ 労基法は適用されるが労働時間規制が適用されない場合(農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度) 出典: 厚生労働省
副業として最も多いのは、上の1つ目です。業務委託や請負で仕事を受け、成果物を納めて報酬を受け取る形は労働基準法の対象ではありません。この場合、本業の労働時間と足し合わせる計算は起きず、割増賃金という概念そのものがありません。
ここで注意が要るのは、契約書の題名ではなく実態で判断されることです。業務委託契約書を交わしていても、働く場所と時間を指定され、進め方を細かく指示され、代わりの人を立てられない状態であれば、雇われているのと同じ扱いになることがあります。名前だけを業務委託にして割増賃金を免れる形は通りません。
2つ目の列挙にある管理監督者は、役職名で決まるものではありません。経営に関わる立場にあり、労働時間の裁量があり、待遇がそれに見合っている人が該当します。課長という肩書きだけでは当たらないことが多く、ここを誤解した運用は後で問題になります。
なお、通算されない場合でも、過労で業務に支障が出ないよう就業時間を把握して配慮することが望ましいとされています。会社が副業の時間を尋ねてくるのは、この配慮のためであることもあります。
どちらの会社が割増賃金を払うのか
雇われる形の副業で通算される場合、次の疑問は「どちらが払うのか」です。ガイドラインは順番を決めています。
所定労働時間については、時間的に後から労働契約を締結した会社が払います。本業に週40時間で勤めている人が、後から土曜日に別の会社と契約した場合、その土曜日の労働は通算して法定労働時間を超えるため、後から契約した会社が割増賃金を払う側になります。
所定外労働時間については、発生した順に通算します。両方の会社で残業が出た場合、先に残業が発生した会社の分から積み上げ、法定労働時間を超えた部分を、その時間に働かせていた会社が払います。つまり、順番によってどちらが払うかが変わります。
ガイドラインの本文は、この2段階の手順をはっきり書き分けています。まず労働契約を締結した先後の順に所定労働時間を通算し、次に所定外労働が発生した順に所定外労働時間を通算する。この2つを足して1人の労働時間を把握し、そのうち自分の事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分について、自ら働かせた時間に対して時間外労働の割増賃金を払う。これが会社に課されている義務の中身です。
ここで「後から契約したほうが払う」と覚えるのは危険です。契約の先後が効くのは所定労働時間の部分だけで、所定外労働は発生した順で決まります。本業で残業が出た日は、本業の側が払う側になることがあります。
実務でこの計算をするには、お互いの会社が相手の労働時間を知る必要があります。ガイドラインは、他の会社での労働時間を本人からの申告などで把握することを前提にしています。つまり、副業をしていることを会社に伝えなければ、この計算は動きません。黙っていれば割増が付くわけではなく、単に計算されないまま終わります。
数字で追ってみる
言葉だけでは分かりにくいので、雇われる形の副業を数字で追います。
本業のA社で月曜から金曜まで1日8時間、週40時間働いているとします。土曜日にB社で4時間働きます。
所定労働時間を契約の先後で通算すると、A社の40時間が先で、B社の4時間が後になります。週40時間の法定労働時間をA社で使い切っているため、B社の4時間はすべて法定労働時間を超える部分です。この4時間について、B社が割増賃金を払う側になります。B社の時間あたりの賃金が1,200円なら、2割5分の割増が乗って1時間あたり1,500円という計算になります。
次の例です。A社で1日8時間、週5日働いていて、ある水曜日にA社で2時間の残業が出ました。同じ週の土曜日にB社で4時間働きます。この場合、所定外労働の発生順で通算するので、水曜日のA社の2時間が先です。A社の所定労働時間で週40時間を使っているため、水曜日の残業2時間はA社が払います。土曜日のB社の4時間もB社が払います。
3つ目の例です。B社での副業が業務委託で、成果物を納めて報酬を受け取る形だとします。この場合は通算されないので、B社に割増賃金の支払い義務は生じません。A社での残業が出ればA社が払いますが、B社の作業時間はA社の計算に入りません。
この3つを見比べると、割増賃金が付くかどうかは「働いた時間の長さ」ではなく「契約の形」で決まることが分かります。同じ4時間の作業でも、雇われていれば割増の対象になり、請け負っていれば対象外です。
通算されない規定もある
労働時間の通算というと全部が足し合わされる印象を持ちますが、通算されない規定があります。ここを混同すると、会社との話が噛み合いません。
通算されないのは4つです。1つ目は、36協定で延長できる時間の限度時間です。これは事業場ごとの協定の内容を規制するものなので、それぞれの会社で別に定めます。2つ目は、特別条項を設ける場合の1年についての延長時間の上限です。3つ目は休憩と休日です。4つ目は年次有給休暇です。
休憩と休日と年次有給休暇が通算されない理由は、これらが労働時間に関する規定ではないからです。A社で休日を取っていても、B社で働く日をB社の休日として数えることはできません。A社で年次有給休暇を使った日にB社で働いても、A社の年次有給休暇の日数がB社の分だけ減ることはありません。
一方で通算されるのは、法定労働時間と、時間外労働と休日労働の合計で単月100時間未満、複数月平均80時間以内という要件です。この2つは働く人個人の実際の労働時間に着目した規制なので、両方の会社での時間を足して見ます。副業を含めた合計がこの線を超える働き方は、どちらの会社の側から見ても問題になります。
「ダブルワークOK」の求人はどう読むか
募集文に「ダブルワークOK」と書かれていても、その会社が割増賃金を織り込んでいるとは限りません。実際にこの点を不安に思う人の声が出ています。
募集要項にダブルワークOKと記載している会社は割増賃金を払ってくれるのでしょうか。 現在週5日40時間働いており土日に副業したいと考えております。ダブルワークOKとしている会社はただ単にダブルワークしていいよというだけで、自身の会社が副業先となり割増賃金が発生する場合は雇わないという可能性もありますか? 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
この不安は的を射ています。応募の段階で確認するべきことは3つあります。
1つ目は、雇用されるのか業務委託なのかです。求人票の雇用形態の欄を見て、アルバイトやパートと書かれていれば雇われる形、業務委託や請負と書かれていれば請け負う形です。
2つ目は、本業での労働時間を申告する仕組みがあるかです。申告の書式がある会社は、通算を前提に運用しています。ない会社は、通算を織り込んでいない可能性があります。
3つ目は、提示されている時間あたりの金額に割増が含まれているのかです。「時給1,200円」と書かれている場合、それが割増前の金額なのか割増後なのかは書かれていません。面接で聞いてください。
ここを聞くと採用されないのではないか、という心配が出ます。実務の感覚で言えば、聞き方で変わります。「割増賃金を払ってもらえますか」ではなく、「本業の労働時間の申告はどのように行いますか」と手続きの形で聞くと、会社の側も答えやすくなります。
会社への届け出。就業規則をどう読むか
副業を始める前に、本業の就業規則を確認します。厚生労働省のモデル就業規則の令和7年12月版では、副業と兼業は第70条に置かれています。
第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。 2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。 出典: 厚生労働省
禁止や制限ができる事由は、同じ条文に4つ挙げられています。労務の提供に支障がある場合、企業秘密が漏れる場合、会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合です。
読み方の要点は、原則が「できる」から始まっていることです。届け出を求めるのは把握のためで、許可制にして一律に禁じる形は前提になっていません。また、副業の相談や自己申告をしたことを理由に不利な扱いをすることはできないと、モデル就業規則の解説に明記されています。
自分の会社の就業規則が許可制になっている場合も、届け出て相談するのが順序です。無断で始めると、仕事の中身とは関係なく手続きの違反で処分の対象になります。届け出の際に伝える内容は、副業先の事業の内容、自分が従事する業務の内容、労働時間の通算の対象になるかどうかです。雇われる形なら、副業先の所定労働日と所定労働時間、始業と終業の時刻まで聞かれます。
届け出の文面は、事実だけを並べた短いものでよいです。書類のやり取りの作法を体系的に押さえたい人にはビジネス文書検定の範囲が参考になります。届け出も交渉も、記録に残る形で進めたほうが後で守られます。
会社が使える簡便な方法
労働時間の通算を厳密にやると、両方の会社が相手の労働時間を把握し続けることになり、手間がかかります。ガイドラインは、手間を減らす方法として管理モデルという枠組みを示しています。
仕組みはこうです。先に契約した会社をA社、後から契約した会社をB社とします。A社の法定外労働時間とB社の労働時間を合計した時間数が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内になる範囲で、それぞれの会社があらかじめ上限を設定します。A社は自分の法定外労働時間について、B社は自分の労働時間について、それぞれ割増賃金を払います。
この形にすると、設定した範囲で働かせる限り、相手の会社の実際の労働時間を把握しなくても法律を守れます。働く側から見ると、「B社では月に何時間まで」という上限を先に決められる形になります。
上限を超えて働かせた会社が、法違反を問われます。つまり、上限が設定されている場合、それを超える依頼が来たら断る理由があるということです。「今月はもう上限です」と言えるのは、この枠組みがあるからです。
働く人が3社以上で働く場合にも、同じ考え方が使えます。A社の法定外労働時間、B社の労働時間、C社の労働時間について、それぞれ上限を設定します。
労災、雇用保険、社会保険はどうなるか
割増賃金と並んで確認が必要なのが、保険の扱いです。ここは制度ごとに考え方が違います。
労災保険は、複数の会社で働いている人について、災害が起きた会社の賃金だけでなく、もう一方の会社の賃金も合算して給付額を算定する形に変わりました。また、複数の会社での業務上の負荷を総合的に評価して労災の認定を行う仕組みになっています。会社から会社へ移動する途中の災害は、通勤災害として給付の対象になります。
雇用保険は、同じ会社の下で週の所定労働時間が20時間未満の人と、継続して31日以上雇用されることが見込まれない人は対象外です。同時に複数の会社で被保険者の条件を満たす場合は、主な賃金を受ける雇用関係についてのみ被保険者になります。65歳以上の人については、本人の申し出を起点に2つの会社の労働時間を合算して雇用保険を適用する制度が動いています。
健康保険と厚生年金保険は、会社ごとに条件を判断します。ガイドラインには、複数の会社で働いていて、どの会社でも単独では加入の条件を満たさない場合は、労働時間を合算して条件を満たしたとしても適用されないと書かれています。労働時間の通算が効くのは労働基準法の世界の話で、社会保険の加入の判断には持ち込まれないということです。ここを混同すると、「副業を足せば社会保険に入れる」と誤解します。
両方の会社で条件を満たす場合は、どちらかの年金事務所と医療保険者を選び、そこで両方の報酬月額を合算して標準報酬月額を決めます。保険料は、それぞれの会社が支払う報酬の額で按分して納めます。この場合、二以上事業所勤務届の提出が必要です。
保険の扱いは、自分の労働時間と賃金の額で変わります。一般にはこう扱われるという説明は多く出ていますが、自分の場合にどうなるかは、勤務先の担当者と年金事務所、ハローワークの窓口で確認してください。
1日の枠と1週の枠、どちらで超えるのか
法定労働時間は2つの枠で決まっています。1日8時間と、1週40時間です。通算の計算は、この両方で見ます。どちらか一方だけを見て判断すると、結論を間違えます。
1日の枠で超える例です。本業で午前9時から午後6時まで、休憩1時間で8時間働き、その日の夜に別の会社で2時間働くとします。この日の合計は10時間で、1日8時間の枠を2時間超えます。後から契約した会社が、この2時間について割増賃金を払う側になります。
1週の枠で超える例です。本業が月曜から金曜まで1日8時間で週40時間。土曜日に別の会社で4時間働きます。土曜日の4時間は、1日の枠では8時間を超えていません。しかし1週の枠では40時間を使い切っているため、4時間すべてが法定労働時間を超える部分になります。
両方の枠を同時に見る必要があるのは、こういう場合があるからです。本業が1日6時間の短時間勤務で週30時間、副業が週3日で1日4時間なら、1日の枠は超えませんが1週では42時間になり、2時間が超過分になります。
1日と1週の両方で超える時間が出たときは、二重に数えません。1日の枠で超えた時間は、1週の集計でも超過分として扱われるので、同じ時間を2回計上する形にはなりません。計算の実務は会社が行いますが、自分の働き方でどこが超えるのかを把握しておくと、提示された金額が妥当かを確かめられます。
週の起算日にも気を付けてください。ガイドラインでは、週や月の起算日が2つの会社で違う場合、それぞれの会社が自分の労働時間制度の起算日を基に集計すると定められています。日曜日から数える会社と月曜日から数える会社では、同じ働き方でも超過分の出方が変わります。
深夜と休日の割増はどう扱われるか
時間外の割増だけを考えていると、見落とすものがあります。
深夜の割増は、通算とは別に動きます。午後10時から午前5時までの間に働いた時間には、通常の賃金の計算額の2割5分以上の割増が付きます。これは労働基準法第37条第4項に定められたもので、その時間に働かせた会社が払います。本業を終えてから深夜に副業をする働き方では、この深夜の割増が必ず関係します。
時間外の割増と深夜の割増は、重なると両方が付きます。1日8時間を超えた時間が深夜にかかっているなら、時間外の2割5分と深夜の2割5分が合わせて乗る計算になります。副業で深夜に働く場合は、提示された金額に深夜の割増が含まれているかを確認してください。
休日の割増は、少し違います。休日労働の割増は、法定休日に働かせた場合に3割5分以上です。ただし、休日は労働時間に関する規定ではないため、通算の対象になりません。本業で週1日の法定休日を確保している人が、その休日に別の会社で働いた場合、その日は副業先から見ると法定休日ではありません。副業先での扱いは、副業先の休日の定め方で決まります。
ここは会社の担当者でも間違えやすい部分です。「本業の休みの日だから休日割増が付く」という理解は正しくありません。付くのは時間外の割増であり、1週40時間を超えた部分に対するものです。
月60時間を超える部分については、割増の率が5割以上になります。この60時間の数え方も通算の結果で見るため、本業で40時間の残業があり副業で30時間働いた月は、合計70時間のうち60時間を超える部分に高い率が適用される計算になります。誰が払うかは、前述の発生順の考え方で決まります。
副業の時間を自分で記録しておく
通算の計算は会社が行いますが、記録を持っているのは働く側です。申告の求めに答えられる形で残しておく必要があります。
残すのは4つです。1つ目は、副業先ごとの所定労働日と所定労働時間、始業と終業の時刻。2つ目は、実際に働いた日と時間。3つ目は、所定を超えて働いた時間。4つ目は、深夜の時間帯に入った時間です。
記録の形は簡単でよく、表計算のファイルに日付と時刻を並べるだけで足ります。会社から求められる頻度は、毎日ではありません。ガイドラインでは、一定の日数をまとめて申告する形、所定どおりに働いた日は申告を求めず所定外があった日だけ申告する形、上限規制の水準に近づいたときに申告する形が例として挙げられています。
自分で記録を持っておく実利は2つあります。1つは、割増賃金が正しく払われているかを確かめられることです。給与明細の時間外の欄と自分の記録を突き合わせれば、計算の漏れに気付けます。もう1つは、働きすぎの手前で止められることです。時間外と休日労働の合計が単月100時間、複数月平均80時間に近づいていることは、自分の記録を見ていなければ分かりません。
体調を崩してから減らすのでは間に合いません。数字で見える形にしておくと、断る判断が早くなります。
よくある勘違いを4つ整理する
相談を受ける場面で繰り返し出てくる誤解を並べます。
1つ目は、「週20時間未満なら通算されない」という誤解です。週20時間は雇用保険の加入の条件に出てくる数字で、労働時間の通算の話とは関係ありません。週に5時間の副業でも、本業と合わせて法定労働時間を超えれば割増賃金の対象になります。
2つ目は、「本業が残業を認めていないから副業の分は付かない」という誤解です。割増賃金は、本業が残業を認めているかどうかではなく、通算した労働時間が法定労働時間を超えたかどうかで決まります。本業の運用は関係ありません。
3つ目は、「掛け持ちのアルバイトなら関係ない」という誤解です。どちらも雇われる形であれば、正社員かアルバイトかは問いません。2つのアルバイトを掛け持ちしている場合も通算されます。
4つ目は、「割増賃金を払わない約束をしたから払われない」という誤解です。労働基準法で定められた基準を下回る労働条件の約束は、その部分について無効になります。本人が同意していても、割増賃金の支払い義務は消えません。募集文に「割増賃金は含みません」と書かれていても、通算の対象であれば会社に支払い義務があります。
この4つのうち、4つ目でもめる例が最も多いです。書面に書かれていても法律の基準を下回る部分は無効なので、まずは会社に計算の根拠を示してもらってください。話が進まない場合の相談先は、勤務先の所在地を管轄する労働基準監督署です。相談は無料で、匿名での相談も受け付けています。
会社に伝えるときの順序
副業を始める前後で、順序を守ると事故が減ります。
1つ目は、就業規則の確認です。副業や兼業の見出しの下にある条文を読み、届け出制か許可制かを見ます。書かれていない場合は、人事の担当者に確認します。
2つ目は、届け出です。副業先の事業の内容、自分が従事する業務の内容、雇われる形か請け負う形かを書きます。雇われる形なら、所定労働日と所定労働時間、始業と終業の時刻も添えます。
3つ目は、通算の扱いの確認です。雇われる形の場合、どちらが割増賃金を払うのか、労働時間の申告をどの頻度で行うのかを、本業と副業先の両方に確認します。両方が同じ理解になっていないと、後で計算が合いません。
4つ目は、本業の繁忙期との調整です。副業先に対して、本業の繁忙期には稼働を落とすことを先に伝えておきます。後から急に減らすと、副業先の信用を失います。
5つ目は、記録の開始です。初日から時間を記録し始めます。後からまとめて思い出して書くと、正確になりません。
この順序で進めると、届け出ていなかったこと、通算の理解がずれていたこと、記録がなかったことという3つの典型的な事故を避けられます。
割増賃金を気にせず働く形を選ぶという判断
ここまで見てきたとおり、雇われる形の副業では、労働時間の通算と割増賃金の計算が必ず付いてきます。会社の側にも手間がかかるため、募集の段階で通算の対象になる人を避ける会社が出てきます。実際に、割増賃金が発生する前提の応募者を採らない可能性を心配する声がありました。
働く側の選択肢として現実的なのは、副業を請け負う形にすることです。業務委託で成果物を納める形なら、通算の計算そのものが起きません。時間ではなく成果で報酬が決まるため、本業の繁忙に合わせて量を調整できます。
ただし、前述のとおり契約の名前だけを変えても意味がありません。働く場所と時間を指定され、進め方を細かく指示される形は、実態として雇われているのと同じ扱いになることがあります。請け負う形で受けるなら、納めるものと期限を決めて、進め方は自分で決められる仕事を選んでください。
運営者として見てきた限りでは、副業を長く続けている人は、時間を売る形から成果を売る形へ早い段階で切り替えています。時間を売る形は、本業の労働時間との合計に天井があるため、増やせる量に限りがあります。成果を売る形は、同じ時間で作れる量が経験とともに増えるので、時間あたりの手取りが伸びます。
もう1つの観察は、手取りの構造です。間に入る事業者が増えるほど、同じ予算から受け取れる額は減ります。手数料0%で直接やり取りができる仕組みが成り立っているのは、依頼する側にとっても意味があります。同じ予算でより多くを頼めるからです。片方が得をして片方が損をする話ではなく、途中で抜けていた費用が両側に戻る構造で、長く続いている取引はほぼこの形をしています。
請け負う形で副業を始めるときに押さえるべき契約の要点は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストにまとまっています。業務内容、報酬、支払いの条件、納期を書面に残すところから始めてください。本業の資格や経験を活かして請け負う形の進め方は会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】でも扱われていて、勤務先との整理の仕方が参考になります。
自分の経験がどの職種で値段の付く形になるかを確かめたい人は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場のような単価の並びと、AIコンサル・業務活用支援のお仕事のような職種別の解説を合わせて読むと、時間を売らずに済む入口が見えます。
よくある質問
Q. 副業に割増賃金は本当に要らないのですか?
雇われる形の副業では要ります。労働基準法第38条第1項で、事業主が違う会社の労働時間も通算すると定められており、合計が法定労働時間を超えた部分は時間外労働として割増賃金の対象になります。要らないのは、業務委託や請負など労働基準法の対象にならない働き方の場合です。
Q. 割増賃金はどちらの会社が払いますか?
所定労働時間については、時間的に後から労働契約を締結した会社が払います。所定外労働時間については、残業が発生した順に通算し、法定労働時間を超える部分を、その時間に働かせていた会社が払います。本業で残業が出た日は、本業の側が払う側になることもあります。
Q. 副業を会社に届け出る必要はありますか?
厚生労働省のモデル就業規則では、勤務時間外に他の会社等の業務に従事できると定めたうえで、会社が届け出に基づいて内容を把握する形になっています。無断で始めると手続きの違反で処分の対象になるため、就業規則を確認して届け出てください。相談や申告をしたことを理由に不利な扱いをすることはできません。
Q. 社会保険は2つの会社で二重に払うことになりますか?
健康保険と厚生年金保険は会社ごとに条件を判断します。両方の会社で条件を満たす場合は、どちらかの年金事務所と医療保険者を選び、両方の報酬月額を合算して標準報酬月額を決め、保険料をそれぞれの会社が按分して納めます。二以上事業所勤務届の提出が必要なので、自分の場合の扱いは年金事務所で確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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