海外クライアントとの英文契約書テ���プレート|必須条項と注意点

長谷川 奈津
長谷川 奈津
海外クライアントとの英文契約書テ���プレート|必須条項と注意点

この記事のポイント

  • 海外クライアントと契約する際の英文契約書テンプレートと必須条項を解説
  • フリーランスが押さえるべきポイントを紹介

海外クライアントとの契約で「未払い」を防ぐ!英文契約書の必須7条項とトラブル対策【行政書士監修】

海外クライアントとの仕事で一番怖いのは報酬の未払いです。先日もWebデザイナーのユウトさんから「アメリカのスタートアップ企業に納品したのに、その後3ヶ月が経過しても支払いがない。Slackも既読にならず、メールも無視されている」という切実な相談がありました。

残念ながら、このようなケースは珍しくありません。なぜなら、多くのフリーランスが「契約書を交わしていなかった」「口頭とチャットのやり取りだけで仕事を始めてしまった」という状態でプロジェクトに着手しているからです。国内案件でも同様のトラブルはありますが、海外の場合は「準拠する法律が違う」「言語の壁がある」「時差により連絡がスムーズにいかない」といった要因が重なり、トラブル解決のハードルが格段に上がります。

行政書士としてこれまで200件以上のフリーランス契約書、特に国際間取引のリーガルチェックを行ってきた経験から断言します。海外案件において、あなたの報酬と身を守れるのは「正しく書かれた契約書」だけです。

実は私自身も独立初期に、非常に痛い経験をしています。アジア圏のクライアントからWebデザインのレビューと改善案の作成を依頼された際、信頼関係を優先して契約書を「あとで送ります」という言葉を信じて着手してしまいました。結果、合計15万円相当の作業時間がすべて未払いに。相手国の法律や商習慣の壁により、日本の少額訴訟制度は一切使えず、弁護士費用を考えれば追及も断念せざるを得ない「泣き寝入り」状態になりました。あの苦い経験以降、私は「契約書が締結されなければ1秒たりとも作業を開始しない」ことを鉄則にしています。

フリーランスでは海外からの案件をもらえる機会の増える人もたくさん出てきました。私はクライアントのほとんどが海外の方で、全員英語でやりとりしています。受信ボックスを見直してみると、質問を除く90%ぐらいは同じような会話です。 — 出典: アメリカ在住8年によるフリーランスやりとりの90%はこれ(note)

海外案件のやり取りは、文化的な違いはあれど、実務レベルではパターン化できる部分が非常に多いのが特徴です。英文契約書の基本テンプレートを持ち、各条項の意味を正しく理解しておけば、英語が得意でなくても効率的かつ安全に仕事を進めることが可能です。

なぜ海外案件で未払いが発生しやすいのか?3つの主な理由

具体的な条項に入る前に、なぜ海外案件でリスクが高まるのかを整理しておきましょう。

  1. 物理的な距離とコストの壁: 日本の裁判所に訴えても、海外の相手に判決を執行するのは至難の業です。数万〜数十万円程度の未払いでは、法的手段にかかるコスト(翻訳費用、現地弁護士費用など)が報酬額を上回ってしまいます。
  2. 商習慣の希薄さ: 日本のような「察する文化」や「性善説」は通用しません。契約書に書いていないことは「存在しない」ものとして扱われます。
  3. 為替変動と送金トラブル: 報酬額を円建てにするかドル建てにするかで、受取額が10〜20%変動することもあります。また、銀行間の海外送金では中継銀行手数料が発生し、届いた金額が想定より少ないといったトラブルも頻発します。

これらを防ぐために、以下の英文契約書の必須条項をマスターしましょう。

英文契約書に必須の7条項

1. Scope of Work(業務範囲の定義)

もっとも重要なのは「何をどこまでやるか」の境界線を引くことです。ここが曖昧だと「これもやってくれると思っていた」というスコープクリープ(業務範囲の肥大化)を招き、結果として時給単価が50%以下にまで下落してしまいます。

The Contractor shall provide the following services:
- Design of website homepage (1 page)
- Design of 5 sub-pages (About Us, Services, Contact, Blog, FAQ)
- Responsive design for mobile and tablet devices
- 2 rounds of revisions based on initial feedback

修正回数の上限は必ず数値で明記してください。「Unlimited revisions(無制限の修正)」という文言は、プロジェクトを永遠に終わらせない呪文のようなものです。業界の相場としては2〜3回が妥当であり、それを超える場合は追加費用が発生することを明文化します。

NG例とOK例

項目 NG例(トラブルの元) OK例(安全な記載)
業務範囲 "Design a website" "Design 1 homepage + 5 sub-pages"
修正回数 "Unlimited revisions" "Up to 2 rounds of revisions included"
納品形式 "Files" "Source files (Figma) and exported PNGs"
追加作業 記載なし "Additional work billed at $50/hour"

2. Payment Terms(支払い条件と送金方法)

支払い時期、方法、手数料の負担を明確にします。

Total fee: USD $3,000 (excluding bank fees)
Payment schedule:
- 50% ($1,500) Deposit: Upon signing this agreement
- 50% ($1,500) Final Payment: Within 7 days of final delivery
Payment method: Wise or PayPal (Client to bear all transaction fees)
Payment due: Within 14 days of invoice issuance

海外案件では、着手金(Deposit)の設定が「命」です。見知らぬ海外の相手と仕事を始める際、30〜50%の前払いを求めるのは国際的なスタンダードです。「前払いを一切拒否するクライアントとは、どんなに魅力的な案件でも契約しない」という断る勇気を持つことで、未払いリスクを0にはできずとも、致命傷を避けることができます。

また、海外送金手数料をどちらが負担するかも重要です。中継銀行手数料(Lifting Charge)で2,000円〜4,000円ほど引かれることがあるため、必ず「Client to bear all transaction fees(クライアントが全手数料を負担する)」と記載しましょう。

3. Intellectual Property Rights(知的財産権の移転タイミング)

「成果物の権利はいつ移転するのか」をコントロールすることが、未払いへの最強の抑止力になります。

All intellectual property rights in the deliverables shall
transfer from the Contractor to the Client only upon receipt 
of full and final payment by the Contractor.

この条文の肝は「全額の支払いが完了したときのみ(only upon receipt of full and final payment)」権利が移転するという点です。つまり、報酬が1円でも未払いの状態であれば、著作権は依然としてあなた(フリーランス側)にあります。クライアントが報酬を支払わずに成果物を公開した場合、それは「著作権侵害」という法的根拠を持って対抗できることになります。

4. Confidentiality(機密保持の範囲と期間)

情報漏洩のリスクを抑えるための条項ですが、期間の設定に注意が必要です。

The Contractor agrees to keep confidential all proprietary
information disclosed by the Client. This obligation shall 
continue for a period of 2 years after the termination 
of this agreement.

クライアント側が提示する契約書では、機密保持期間が「Permanent(永久)」や「Indefinite(無期限)」になっていることがありますが、フリーランスにとってこれはリスクが高すぎます。過去に扱った技術や知識を将来別の案件で使えなくなる恐れがあるからです。1〜3年程度の常識的な期間に修正を求めましょう。

5. Termination(契約終了とキャンセル料)

プロジェクトが途中で頓挫した際の精算ルールです。

Either party may terminate this agreement with 14 days' written notice. 
In the event of termination, the Client shall pay for all work 
completed up to the date of termination, plus a cancellation 
fee of 20% of the remaining contract value.

「やっぱりこのプロジェクトはやめることになったから、報酬は払えない」という身勝手な主張を防ぎます。着手した分(Completed work)の支払いは当然として、急なキャンセルによる機会損失を補填するためのキャンセル料(例:残額の20〜30%)を設定しておくと、より強力な保護になります。

6. Governing Law(準拠法)

万が一裁判になった際、どこの国の法律を適用するかを決めます。

This agreement shall be governed by and construed in
accordance with the laws of Japan.

当然、私たちは「Laws of Japan(日本法)」を希望しますが、相手も自国の法律を主張して譲らないことが多いでしょう。交渉が決裂しそうな場合の妥協案としては、ビジネス法が整備されており、どちらの国に対しても中立的とされる「Singapore Law(シンガポール法)」や「English Law(英国法)」を選択するケースが国際実務では一般的です。

7. Dispute Resolution(紛争解決の手続き)

トラブルが起きた際、どこで、どのように決着をつけるかです。

Any dispute arising out of this agreement shall be finally 
resolved by arbitration in Tokyo, Japan, in accordance with 
the rules of the Japan Commercial Arbitration Association (JCAA).

海外の裁判所で訴訟を行うのは、個人フリーランスにはコスト面で不可能です。そのため、裁判よりも柔軟で迅速な「仲裁(Arbitration)」を選択するのが実務的です。仲裁判断は「ニューヨーク条約」により、加盟国間(160カ国以上)で裁判の判決と同様の強制力を持って執行できるため、海外案件では訴訟よりも有効な手段となります。

【新設】海外クライアントとの交渉をスムーズにする英文フレーズ集

契約書の修正を依頼するのは勇気がいるものですが、ビジネスとして当然の権利です。以下のフレーズを使えば、角を立てずにプロフェッショナルな交渉が可能です。

  • 着手金を求めるとき

    "As per my standard business policy, I require a 50% deposit upfront before commencing work on the project." (私のビジネス方針として、プロジェクト開始前に50%の着手金をお願いしております。)

  • 修正回数を制限するとき

    "The proposed fee includes up to 2 rounds of revisions. Any additional changes beyond this will be billed at an hourly rate of $50." (提示した料金には最大2回の修正が含まれています。これを超える変更は時給50ドルで請求させていただきます。)

  • 準拠法の変更を提案するとき

    "To ensure neutrality for both parties, I would like to propose Singapore Law as the governing law for this agreement." (双方の中立性を確保するため、本契約の準拠法としてシンガポール法を提案いたします。)

よくあるトラブルと具体的な回避策

海外案件で頻発するトラブルには、契約書の文言一つで予防できるものが多くあります。

トラブルA:「追加作業を無料で」と際限なく要求される

対策: 「Change Order(変更依頼書)」の概念を導入しましょう。「当初の仕様書にない項目は、別途見積もりと合意が必要である」と契約書に一行入れるだけで、無償労働を法的に拒否できます。実際に私が担当したケースでは、この一行があったおかげで、追加のロゴ制作費用として$800(約12万円)を正当に請求できた例があります。

トラブルB:「支払いが遅れている」と言われ続け、何ヶ月も放置される

対策: 「Late Payment Fee(遅延利息)」を設定しましょう。

"Any late payments shall accrue interest at a rate of 1.5% per month." 年利換算で18%程度の遅延利息を設定しておくと、クライアントは「このフリーランスへの支払いを後回しにすると高くつく」と判断し、優先的に支払ってくれるようになります。

トラブルC:「クオリティが期待以下だ」と難癖をつけられ、値引きを強要される

対策: 「Acceptance(検収)」条項で期限を設けます。「納品から7日以内に具体的な不備の指摘がない場合は、自動的に検収完了とみなし、支払義務が発生する」と明記します。これにより、後出しジャンケン的な値引き要求を封じ込めることができます。

契約書を交わす時間がない!という時の「最低限」の防衛術

どうしても正式な契約書を作成する時間がない、あるいは相手が頑なに拒む場合、最低限「Evidence(証拠)」をメールで残してください。これは「Confirmation Email」と呼ばれ、裁判でも有力な証拠になり得ます。

以下の項目を箇条書きにし、「Hi [Name], to confirm our discussion, here is a summary of our agreement. Please reply with 'Agreed' if this looks correct.」と送ります。

  1. Scope: 具体的な成果物と修正回数(例:2 times)
  2. Fee: 総額と通貨(例:USD $2,000
  3. Timeline: 納期(例:By May 20th)
  4. Payment: 前払い額と支払い方法(例:50% via Wise)

相手からの「Agreed」や「Looks good」という一言の返信があれば、メール全体が法的な合意内容として機能します。

【新設】海外送金ツールの選び方:手数料で5%損をしないために

せっかく高単価な海外案件を獲得しても、受け取り時の手数料で数万円目減りしては意味がありません。主要なツールの特徴を把握しておきましょう。

  • Wise(旧TransferWise): 推奨。実際の為替レート(ミッドマーケットレート)を使用するため、銀行送金に比べて手数料を最大8倍安く抑えられます。
  • PayPal: 導入は簡単ですが、受取手数料が3.6%〜4.4% + 固定手数料と非常に高額です。さらに為替スプレッドも上乗せされるため、合計で5〜7%近く引かれることも珍しくありません。
  • Payoneer: AmazonやUpworkなどのプラットフォーム経由の報酬受け取りに強いツールです。

手数料を考慮し、契約時の報酬額を「Net(手取り額)」で交渉するか、手数料分をあらかじめ乗せて請求するのがフリーランスの知恵です。

まとめ:海外案件は「リスク管理」が成功の鍵

海外のクライアントと仕事をすることは、あなたのキャリアやポートフォリオを世界基準に引き上げる素晴らしいチャンスです。しかし、その輝かしいステージの裏には、国内取引とは比較にならないほどのリスクが潜んでいます。

英文契約書は、決して「相手を疑うための道具」ではありません。むしろ、お互いの責任範囲を明確にし、予期せぬトラブルからプロジェクトを守るための「地図」です。プロフェッショナルな契約書を提示できるフリーランスは、クライアントからも「この人はビジネスを理解している」と高く評価され、結果としてより良好な信頼関係を築くことができます。

@SOHOのお仕事ガイドでは、エンジニア、デザイナー、翻訳家など、各職種のフリーランスがどのような契約形態や単価相場で仕事を受けているかの最新データを紹介しています。

お仕事ガイドで職種別の業務内容・契約のポイントを確認する

※この記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の案件に対する法的助言を構成するものではありません。個別の契約交渉や複雑なトラブルに関しては、国際業務に精通した弁護士または行政書士にご相談ください。

よくある質問

Q. クライアントが契約書を嫌がる場合は?

「法律で義務付けられています」と毅然と伝えてください。それでも拒否するような企業は、後々トラブルになる確率が極めて高いです。関わらないほうが、あなたの身のためです。

Q. 賠償額の上限を「報酬額」にすると、クライアントが損をしませんか?

ビジネスにおける損害は、本来、受益者(クライアント)が負うべきリスクも含まれます。フリーランスにすべてのリスクを転嫁するのは不当な取引です。クライアント側も別途、企業向けの火災・賠償保険に入っていることが一般的なので、 過度な心配は不要です。

Q. クライアントから「契約解除するが、今までの報酬は払わない」と言われました。?

これは明確な契約違反、およびフリーランス新法における不当な代金不払いに該当する可能性があります。成果物を納品している場合、クライアントには支払い義務があります。まずは契約書に基づき請求を行い、応じない場合は国税庁の納税証明等の記録も踏まえつつ、弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。

Q. 海外クライアントとの時差はどうやって克服していますか?

完全な非同期(テキストベース)でのコミュニケーションを前提とする案件を選ぶのが基本です。ミーティングが必要な場合は、日本時間の早朝や夜間に週1回程度設定するなど、事前に稼働可能な時間帯を明確に合意しておくことで、時差による負担を最小限に抑えられます。

英語力を身につけ、海外案件にも対応できるスキルセットを構築することは、フリーランスとしての市場価値を飛躍的に高めます。まずは国内の高単価案件で実績を作りながら、並行して語学力を磨いていくのも有効な戦略です。

自身のスキルを客観的に評価し、より条件の良い案件を獲得するために、ぜひ継続的な情報収集とスキルアップに取り組んでください。国内の相場感やスキルに応じた単価については、→ デザイナーの年収・単価相場 や → 研究者の年収・単価相場 などのデータも役立ちます。また、→ ビジネス文書検定 や → CCNA(シスコ技術者認定) などの資格取得も、プロフィール強化に有効です。

本格的な単価アップや条件交渉のノウハウについては、→ フリーランスの交渉術|単価アップ・条件交渉で損しないための実践テクニック もあわせてご覧ください。

@SOHOでキャリアを加速させよう

@SOHOなら、あなたのスキルを求めているクライアントと手数料無料で直接つながれます。

@SOHOで関連情報をチェック

お仕事ガイド

年収データベース

資格ガイド

長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津

行政書士・元企業法務

企業法務で年間200件以上のフリーランス契約を処理した経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

@SOHOで仕事を探してみませんか?

手数料0%・登録無料のクラウドソーシング。フリーランスの方も企業の方も、今すぐ始められます。

関連記事

カテゴリから探す

クラウドソーシング入門

クラウドソーシング入門

クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド

職種別ガイド

職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク

副業・在宅ワーク

副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス

フリーランス

フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

お金・税金

お金・税金

確定申告・節税・経費・ローンなどお金の知識

スキルアップ

スキルアップ

プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング

比較・ランキング

サービス比較・おすすめランキング

最新トレンド

最新トレンド

市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド

発注者向けガイド

クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア

転職・キャリア

転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師

看護師

看護師の転職・副業・フリーランス・キャリアガイド

薬剤師

薬剤師

薬剤師の転職・副業・キャリアパスガイド

保険

保険

生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人

採用・求人

無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース

オフィス・ワークスペース

バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

シニア・50代

シニア・50代

シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ

セキュリティ

サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック

金融・フィンテック

暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス

経営・ビジネス

経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材

ガジェット・機材

フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方

子育て×働き方

子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理