有給消化の期間に副業で働くとき、社会保険と雇用保険はどうなるか


この記事のポイント
- ✓有給消化の期間に副業で働くとき
- ✓健康保険・厚生年金・雇用保険・労災はどう扱われるのかを
- ✓厚生労働省の副業ガイドラインや日本年金機構の案内をもとに整理します
退職が決まり、残った年次有給休暇をまとめて消化する期間に入ると、「この1か月半、家にいるだけではもったいない。副業で少しでも稼いでおきたい」と考える人は少なくありません。転職先が決まるまでのつなぎとして、あるいは独立の準備として、有給消化の期間に副業を始めること自体は珍しい話ではありません。
ただ、有給消化副業で見落とされやすいのが、社会保険と雇用保険の扱いです。有給休暇を使っている間は、まだ元の会社に在籍している状態です。その状態でほかの会社に雇われて働くと、健康保険や厚生年金の手続き、雇用保険の加入先、退職後の失業給付の受け取りに影響が出ることがあります。これ、知らない人が本当に多いんです。
この記事では、有給消化の期間に副業で働くときに、就業規則との関係、健康保険と厚生年金、雇用保険、労災保険、税金の申告がそれぞれどうなるのかを、厚生労働省や日本年金機構の一次資料をもとに順番に整理します。読み終えたときに、自分の働き方でどの手続きが必要になり、どこに確認すればよいかが分かる状態を目指します。
有給消化の期間は「まだ在籍している」期間
最初に押さえておきたいのは、有給消化の期間の立場です。年次有給休暇とは、一定の期間働いた人に法律で与えられる、休んでも給料が支払われる日のことです。退職日の前にまとめて使う場合も、その日は会社に籍があり、給料も支払われます。つまり、有給消化中のあなたは「休んでいる社員」であって、「辞めた人」ではありません。
このため、有給消化の期間に副業をするときは、在籍中の社員として守るべきルールがそのまま生きています。代表的なものが、会社の就業規則にある副業の規定と、社員として負う誠実義務です。誠実義務とは、会社の秘密を漏らさない、会社の利益を不当に害する競業をしない、会社の名誉や信用を傷つけないといった、雇われている人が当然に負う義務のことです。
厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」は、裁判例を踏まえて次のように整理しています。
労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であること 例外的に、労働者の副業・兼業を禁止又は制限することができるとされた場合としては ① 労務提供上の支障がある場合 ② 業務上の秘密が漏洩する場合 ③ 競業により自社の利益が害される場合 ④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合 出典: 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
有給消化の期間は本業の仕事をしていないので、①の「労務提供上の支障」は起きにくいと考えられます。一方で、②から④は在籍している限り関係します。たとえば、今の会社と同じ業界の競合企業で、顧客情報を使うような仕事を始めると、競業や秘密の漏洩として問題になりえます。また、ガイドラインは、許可制の規定に形式的に違反しただけで、職場の秩序や業務に影響しない程度のものは懲戒の対象にならないとした裁判例があることも紹介しています。ただし、これは個別の事情で判断が分かれるところです。
つまり、有給消化中の副業は「休みの日の過ごし方は自由」という原則に乗りやすい一方で、競業と秘密と信用の3点には気を配る必要がある、ということです。就業規則に届出制や許可制があるなら、退職日まではその手続きに従うのがいちばん安全です。退職金の減額や懲戒など、具体的な不利益が心配な場合は、弁護士や社会保険労務士に相談してください。
副業の形で、保険の扱いがまったく変わる
有給消化副業で社会保険と雇用保険の話をするとき、最初に分けて考えるべきなのは、副業が「雇われて働く形」なのか、「業務委託やフリーランスとして請け負う形」なのか、という点です。
アルバイトや契約社員として別の会社に雇われる場合は、副業先でも労働者として扱われます。労働者として働く以上、副業先の労働条件によっては、副業先でも健康保険や厚生年金、雇用保険に入る対象になります。また、労災保険も副業先で適用されます。
これに対して、Webライティングやデザインの制作を業務委託で請け負う場合、あるいは自分で商品を販売する場合は、相手の会社に雇われていません。この場合、副業の分について、健康保険や厚生年金、雇用保険の加入が新たに生じることはありません。厚生労働省のガイドラインも、労働時間の通算が必要ないケースとして、フリーランス、独立、起業、顧問などを挙げています。
| 副業の形 | 副業先での社会保険 | 副業先での雇用保険 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| アルバイトなどで雇われる | 条件を満たせば加入 | 本業と同時の加入は原則できない | 加入の手続きから本業に知られることがある |
| 業務委託・請負 | 加入なし | 加入なし | 税金の申告と、退職後の失業認定での申告 |
| 自分で販売・事業 | 加入なし | 加入なし | 開業の扱いと、失業認定での申告 |
表のとおり、業務委託や自分の事業の形であれば、在籍中の保険の手続きはほとんど増えません。気をつけるのは、雇われて働く形を選んだときです。次の節から、雇われる副業を中心に、保険ごとに見ていきます。
なお、業務委託であっても、退職後に失業給付を受けるつもりなら、その副業の扱いは大きな問題になります。これは雇用保険の節でまとめて説明します。
健康保険と厚生年金は、副業先の条件しだいで両方に入る
健康保険と厚生年金は、まとめて社会保険と呼ばれます。社会保険に入るかどうかは、事業所ごとに判断されるのが原則です。つまり、本業で入っているかどうかとは関係なく、副業先の労働条件が加入の条件を満たせば、副業先でも加入の対象になります。
副業先で加入の対象になる典型は2つです。1つは、副業先の正社員の所定労働時間と所定労働日数の4分の3以上働く場合です。もう1つは、パートやアルバイトとして短時間で働く人が、次の条件をすべて満たす場合です。厚生労働省の社会保険適用拡大の特設サイトによると、現在の条件は、従業員数51人以上の企業で働いていること、週の所定労働時間が20時間以上であること、2か月を超えて雇われる見込みがあること、学生でないことです。
以前は所定内賃金が月額8.8万円以上という条件もありましたが、厚生労働省の適用拡大Q&Aは、この賃金要件が令和7年の年金制度改正により2026年10月に撤廃されたと明記しています。企業規模の条件も段階的に広がり、従業員数36人から50人の企業は2027年10月から対象に入ります。
有給消化の期間は長くても1か月から2か月程度のことが多いので、「2か月を超えて雇われる見込み」がない短期の副業であれば、副業先で社会保険に入らないケースもあります。ただし、同じ特設サイトは、2か月以内の契約でも更新の予定がある場合などは加入の対象になると説明しています。退職後もそのまま副業先で働き続けるつもりなら、最初から2か月を超える見込みがあると判断されやすくなります。
本業と副業先の両方で加入の条件を満たした場合、本人が手続きをします。日本年金機構の案内では、同時に2か所以上の事業所で働くことになったとき、被保険者本人が「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、事実が発生してから10日以内に提出することになっています。主たる事業所を選び、2つの事業所の報酬を合算した額で保険料の基準となる標準報酬月額を決め、それぞれの会社が自社で払う報酬の割合に応じて保険料を負担する仕組みです。標準報酬月額とは、毎月の給料を一定の幅で区切った、保険料を計算するための基準額のことです。詳しい手続きは日本年金機構の複数の事業所に雇用されるようになったときの手続きで確認できます。
この届を出すと、保険料の通知は選んだ事業所の管轄から両方の会社に届きます。つまり、有給消化中に副業先で社会保険に入ると、本業の会社にも副業の事実が伝わるということです。届出制や許可制の就業規則がある会社なら、先に話を通しておいたほうが、後から気まずい思いをせずに済みます。
退職日の翌日から、健康保険はどうつなぐか
有給消化の期間が終わり、退職日を迎えると、本業の健康保険と厚生年金の資格は退職日の翌日に失われます。ここで、副業先で社会保険に入っているかどうかによって、その後のつなぎ方が変わります。
副業先で社会保険に入っている場合は、本業の資格がなくなったあとも、副業先の健康保険と厚生年金がそのまま続きます。二以上事業所勤務届を出していたなら、本業の会社を辞めたことで2か所勤務の状態が終わるので、その変更の手続きも必要になります。手続きの細かい流れは、副業先の担当者か年金事務所に確認してください。
副業先で社会保険に入っていない場合は、退職日の翌日から次のいずれかを選ぶことになります。
1つ目は、本業で入っていた健康保険を最長2年間続けられる任意継続です。全国健康保険協会(協会けんぽ)の案内では、退職日までに被保険者期間が継続して2か月以上あること、退職日の翌日から20日以内に手続きすることが条件です。保険料は、会社が負担していた分も自分で払うことになるため、退職時の保険料のおよそ2倍になります。ただし上限があり、住んでいる都道府県によっては2倍にならない場合もあります。協会けんぽの任意継続のページに、条件と保険料の考え方が載っています。
2つ目は、住んでいる市区町村の国民健康保険に入ることです。保険料は前年の所得や世帯の人数で決まり、市区町村によって額が違います。
3つ目は、家族が入っている健康保険の被扶養者になることです。被扶養者とは、家族の健康保険に保険料の負担なしで入れてもらえる人のことで、収入の条件があります。副業で収入を得ているなら、その見込み額も含めて判断されます。
年金については、副業先で厚生年金に入っていなければ、退職日の翌日から国民年金の第1号被保険者になります。国民年金の保険料は令和8年度で1か月あたり17,920円です。手続きは住所地の市区町村役場で行います。
どれを選ぶかは保険料の額で比べるのが基本です。任意継続の保険料は退職前の会社の担当者か協会けんぽに、国民健康保険の保険料は市区町村の窓口に問い合わせると試算してもらえます。20日以内という期限は短いので、有給消化に入った段階で比べておくと慌てずに済みます。
雇用保険は、同時に2か所では入れない
雇用保険は、失業したときの給付や育児休業給付などを受けるための保険です。ハローワークのよくあるご質問によると、雇用保険の被保険者になる条件は、31日以上の雇用見込みがあることと、1週間の所定労働時間が20時間以上であることの2つです。
社会保険と大きく違うのは、雇用保険は原則として同時に2か所では入れないという点です。厚生労働省のガイドラインは、複数の会社に同時に雇われていて、それぞれで加入の条件を満たす場合でも、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける1つの雇用関係でだけ被保険者になると説明しています。
有給消化の期間は、本業の給料が満額で支払われています。多くの場合、主たる賃金を受けているのは本業のほうなので、有給消化中は本業の雇用保険がそのまま続き、副業先では雇用保険に入らない、という形になります。
例外として、65歳以上の人には雇用保険マルチジョブホルダー制度があります。2つの事業所での勤務を合計して条件を満たす場合に、本人がハローワークに申し出ることで特例的に被保険者になれる制度です。厚生労働省によると、1つの事業所での週の所定労働時間が5時間以上20時間未満で、2つを合計して20時間以上、それぞれの雇用見込みが31日以上であることが条件です。65歳以上で複数の短時間の仕事を掛け持ちする人は、退職のタイミングで確認しておくと役立ちます。
問題になるのは、退職日のあとです。本業を辞めたあとも副業先での雇用が続き、副業先の労働条件が週20時間以上、31日以上の雇用見込みを満たしているなら、退職日の翌日以降は副業先で雇用保険に入る対象になります。これは、雇用保険の上では「すでに次の仕事に就いている」ということを意味します。
失業給付を受けるつもりなら、副業の続け方に注意
退職後に雇用保険の基本手当、いわゆる失業給付を受けるつもりの人は、有給消化中に始めた副業をどう続けるかを、特に慎重に考える必要があります。
ハローワークの説明では、基本手当を受けるには「失業の状態」にあることが条件です。失業の状態とは、就職しようとする積極的な意思といつでも就職できる能力があるのに、仕事に就けず、積極的に求職活動をしている状態のことです。
先ほどのとおり、副業先で週20時間以上、31日以上の雇用見込みのある働き方を続けるなら、雇用保険の上では就職している状態です。この場合、基本手当は受けられません。副業先がもともと続ける予定の仕事なら、失業給付を前提にした計画は組まないほうが無難です。
さらに、再就職手当にも落とし穴があります。再就職手当とは、基本手当を受けられる人が早く再就職したときに、残りの日数に応じて受け取れる一時金のことです。ハローワークのリーフレットには、支給の条件の1つとして、受給資格決定(求職の申込み)の前から採用が内定していた事業主に雇われたものでないこと、と書かれています。有給消化中から働いていた副業先にそのまま雇われる形では、この条件に当たる可能性が高いと考えておきましょう。
副業先での勤務を短時間に抑えたり、業務委託の形に切り替えたりして、失業の状態で求職を続ける場合も、仕事をした事実は必ず申告します。ハローワークは、就職や就労(パート、アルバイト、日雇、試用期間なども含む)をしたり、自営を始めたりしたのに失業認定申告書で申告しないこと、内職や手伝いをした事実や収入を隠したり偽ったりすることを、不正受給に当たる行為として挙げています。失業認定申告書とは、失業の認定日ごとに、求職活動や働いた日を記入してハローワークに出す書類のことです。
不正受給と判断されると、それ以後の支給がすべて止まり、受け取った額の返還に加えて、その2倍に相当する額以下の納付を命じられることがあります。いわゆる「3倍返し」です。少額の手伝いでも、迷ったら申告する、というのが鉄則です。
参考までに、自己都合で辞めた場合の給付制限の期間も確認しておきます。ハローワークのよくあるご質問によると、正当な理由のない自己都合退職の給付制限は、離職日が令和7年4月1日以降なら原則1か月、令和7年3月31日以前なら原則2か月です。離職日からさかのぼって5年間のうちに2回以上、正当な理由なく自己都合で辞めて受給資格の決定を受けている場合は3か月になります。給付制限の前には、求職の申込みから7日間の待期があり、この間は基本手当が出ません。
なお、有給消化の期間は退職日までの在籍期間なので、離職日は有給を使い切った最後の日になります。ハローワークでの手続きは、会社から届く離職票を受け取ってから行います。
労災保険と労働時間は、副業先でも守られる
雇われる形の副業をするなら、労災保険も知っておきたいところです。労災保険とは、仕事中や通勤中のけがや病気に対して給付を行う保険のことで、労働者を1人でも雇っている会社は加入する必要があります。アルバイトであっても、副業先で働いている間のけがは、副業先の労災保険の対象です。
厚生労働省のガイドラインによると、以前は災害が起きた職場の賃金だけをもとに給付額を計算していましたが、令和2年の法改正で、ほかの職場の賃金も合算して給付額を計算する仕組みに変わりました。複数の職場で働く人の業務上の負荷を総合的に見て、労災かどうかを判断する仕組みも入っています。有給消化中は本業の給料も支払われているので、この合算の考え方が関係することがあります。けがをしたときは、副業先と本業の両方の賃金を申告できるよう、給与明細を手元に残しておきましょう。
労働時間についても触れておきます。労働基準法は、会社が違っても労働時間を通算すると定めています。ただ、有給休暇を使った日は本業で実際に働いた時間がありません。一般には、有給消化中の副業では、労働時間の通算で長時間労働が問題になる場面は限られると考えられます。一方、有給消化の途中で出社日を挟む人や、引き継ぎで在宅作業を頼まれる人は、その日の本業の労働時間と副業の労働時間が通算されます。労働時間の数え方は別の記事でも詳しく扱っていますが、迷うときは副業先の担当者に、本業の勤務予定を伝えておくのが確実です。
税金の申告と、会社に知られる経路
保険の話と並んでよく聞かれるのが、税金と「会社にバレるか」という点です。ここでは、手続きの面から事実を整理しておきます。
有給消化の期間に副業先からアルバイトの給料を受け取ると、その年は給料を2か所以上から受け取ったことになります。国税庁のタックスアンサーNo.1900によると、給料を2か所以上から受けていて、年末調整されなかった給料の収入金額と、給与所得と退職所得以外の所得の合計額が20万円を超える人は、確定申告が必要です。業務委託の報酬で、給与以外の所得の合計が20万円を超える場合も、確定申告が必要になります。
退職する年は、もう1つ確認しておきたい点があります。年の途中で退職し、年末までに次の会社に就職しなかった場合、本業の会社では年末調整が行われません。この場合、源泉徴収された所得税の精算のために確定申告をすると、払いすぎた税金が戻ってくることがあります。会社から届く源泉徴収票は、確定申告に使うので必ず保管しておきましょう。
住民税は、前年の所得をもとに翌年の6月ごろから課税されます。有給消化中の副業の収入は、翌年の住民税に反映されます。退職したあとであれば、本業の会社に住民税の通知が届くことはありません。ただし、副業の収入がアルバイトの給料の場合、住民税の徴収方法として自分で納める普通徴収を選べるのは給与所得以外の所得に限られる、という点は覚えておきましょう。
会社に知られる経路として、実際に多いのは次の3つです。
- 副業先で社会保険に入り、二以上事業所勤務届の手続きを通じて伝わる
- 前の年から続けていた副業の収入が住民税に反映され、在籍中に会社へ届く住民税の通知から分かる
- 同じ業界の人づてや、SNSでの発信から伝わる
1つ目は、短期の副業で社会保険の加入条件を満たさない働き方を選ぶか、業務委託の形にすれば起こりません。ただし、隠すために働き方をゆがめるよりも、就業規則どおりに届け出るほうが、退職金や離職票の手続きでもめるリスクを減らせます。
有給消化副業でよくあるトラブル事例
相談の現場で見聞きした、有給消化副業のトラブルを、特定できないよう内容を変えて紹介します。
1つ目は、退職前の副業先にそのまま就職し、再就職手当がもらえると思い込んでいたケースです。有給消化の初日から週3日のアルバイトを始め、退職後に正社員に切り替わった人が、ハローワークで再就職手当を申請しようとしたところ、求職の申込み前から決まっていた仕事として対象外になりました。採用の時期と、求職の申込みの時期の前後関係を、最初に確認しておくべきだったケースです。
2つ目は、業務委託の副業の収入を、失業認定申告書に書かなかったケースです。本人は「雇われていないから関係ない」と考えていましたが、ハローワークは自営や請負で事業を始めた場合や、内職や手伝いの収入も申告の対象としています。後日、税金の手続きから収入が分かり、返還を求められました。
3つ目は、競合企業での副業が退職金の話し合いでこじれたケースです。有給消化中に、前の職場と取引先が重なる会社でアルバイトを始めたことが分かり、就業規則の競業の規定をめぐって話し合いが長引きました。最終的には解決しましたが、退職日の前に競合先で働き始めるときは、就業規則と、退職時に交わす誓約書の内容を必ず読んでおく必要があります。
いずれのケースも、事前に「誰に、何を確認するか」を決めておけば避けられました。※退職金の減額や懲戒をめぐって会社と対立しそうな場合は、早めに弁護士に相談してください。
働き方別に見る3つのモデルケース
ここまでの内容を、よくある3つの働き方に当てはめて整理しておきます。いずれも、従業員数51人以上の会社を退職する人が、有給消化の期間を約1か月半とした場合の例です。
1つ目は、有給消化の期間だけ、週2日、1日5時間の短期アルバイトをするケースです。週の所定労働時間は10時間なので、副業先で社会保険にも雇用保険にも入りません。退職日の翌日からは、任意継続か国民健康保険を選び、国民年金に切り替えます。退職後にアルバイトを辞めて求職するなら、失業給付の手続きに進めます。アルバイトの給料と本業の給料の両方について源泉徴収票を受け取り、翌年に確定申告が必要かを確認します。
2つ目は、有給消化の初日から週4日、1日6時間のアルバイトを始め、退職後もそのまま続けるケースです。週の所定労働時間は24時間で、2か月を超えて雇われる見込みもあるため、副業先の社会保険の加入条件を満たします。有給消化中は本業と副業先の両方で加入するので、二以上事業所勤務届を出します。雇用保険は、有給消化中は本業で続き、退職日の翌日から副業先で加入します。この場合、退職後は就職している状態なので、基本手当は受けられません。
3つ目は、有給消化の期間に、Webライティングの業務委託を受けるケースです。副業先で保険の加入は生じず、在籍中の手続きは増えません。退職後に失業給付を受けるなら、業務委託の仕事をした日と収入を失業認定申告書に書きます。仕事の量によっては、自営を始めたものとして扱われ、失業の状態と認められないこともあるので、ハローワークの窓口で事前に相談しておくと確実です。
3つのケースを比べると、保険の手続きの量と、失業給付を受けられるかどうかは、週の所定労働時間と雇用見込みの期間でほぼ決まることが分かります。副業の契約を結ぶ前に、週何時間、いつまで働く予定なのかを、自分の言葉で説明できるようにしておきましょう。
有給消化に入る前に確認しておくことのチェックリスト
ここまでの内容を、有給消化に入る前に確認する順番に並べ直します。
| 確認すること | 確認先 | タイミング |
|---|---|---|
| 就業規則の副業の規定(届出制・許可制・競業の制限) | 本業の人事・総務 | 有給消化に入る前 |
| 副業が雇用か業務委託か | 副業先の契約書 | 契約を結ぶ前 |
| 副業先で社会保険の加入条件を満たすか | 副業先の担当者 | 契約を結ぶ前 |
| 二以上事業所勤務届が必要か | 年金事務所・副業先 | 加入が決まった日から10日以内 |
| 退職後の健康保険(任意継続・国保・扶養) | 協会けんぽ・市区町村 | 退職日の翌日から20日以内 |
| 失業給付を受けるかどうか | ハローワーク | 離職票が届いたら |
| 確定申告が必要か | 税務署 | 翌年の申告期間 |
表のうち、いちばん後回しにされやすいのが、退職後の健康保険の選択と、失業給付を受けるかどうかの判断です。どちらも、有給消化中の副業の働き方しだいで答えが変わります。副業の契約を結ぶ前に、退職後の計画を1枚の紙に書き出しておくと、手続きの漏れが減ります。
有給消化の期間を、次の仕事につなげるには
有給消化の期間は、収入を確保しながら次の仕事の準備ができる、貴重な期間です。保険の手続きを増やさずに、次の仕事につながる経験を積みたいなら、業務委託の小さな仕事から始めるのも1つの方法です。業務委託であれば、副業先で社会保険や雇用保険の加入が生じず、在籍中の手続きはほとんど増えません。
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業務委託の副業を選ぶ人が知っておきたい単価と職種
有給消化の期間に業務委託で受けやすいのは、自宅で完結し、成果物で評価される仕事です。たとえば文章を書く仕事は、短期間でも成果を出しやすい職種です。著述家,記者,編集者の年収・単価相場では、公的な統計をもとに、書く仕事の年収と業務委託の単価の目安をまとめています。
業務の効率化やAIの導入を手伝う仕事も、会社員として培った業務の知識を生かしやすい分野です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、業務の棚卸しからツールの選定、社内向けの使い方の説明まで、どんな作業を受けることが多いかを紹介しています。
文書を扱う仕事を受ける場合、ビジネス文書の書き方を体系的に学んでおくと、提案書や報告書の品質で評価されやすくなります。ビジネス文書検定では、試験の級ごとの内容と、仕事にどう生かせるかを整理しています。
運営者として見てきた、有給消化副業がうまくいく人の共通点
在宅ワークやフリーランスの市場を20年見てきた立場から言えば、有給消化の期間の副業がうまく次につながる人には共通点があります。それは、有給消化の期間を「稼ぐ期間」ではなく「関係をつくる期間」として使っていることです。短期間で収入を最大にしようとして、社会保険や雇用保険の手続きが絡む長時間のアルバイトを詰め込む人よりも、小さな業務委託を1つか2つ丁寧に仕上げて、「この人に任せると楽だ」と思ってもらえた人のほうが、退職後に継続の依頼を受けやすい傾向があります。
もう1つは、手取りの考え方です。仲介の手数料が差し引かれない直接の取引では、同じ予算でも受け手の手取りが厚くなり、発注する側も同じ費用でより多くの仕事を頼めます。手数料0%の取引が双方にとって得になるのは、金額の大きさよりも、関係を長く続けやすい点にあります。有給消化の期間に始めた小さな仕事が、退職後の主な収入源に育つケースは、この構造の中で多く見られます。
有給消化の期間は、まだ会社の社員である期間です。就業規則と保険の手続きをきちんと押さえたうえで副業を選べば、退職後の生活の不安を減らしながら、次の働き方への準備を進められます。法律はあなたの味方です。分からない点は、年金事務所、ハローワーク、協会けんぽ、税務署といった窓口を遠慮なく使ってください。
よくある質問
Q. 有給消化中に副業をしてもいいですか?
有給休暇の使い方は基本的に本人の自由で、厚生労働省のガイドラインも、労働時間以外の時間の使い方は原則として労働者の自由と整理しています。ただし有給消化中は会社に在籍しているため、就業規則の届出制や許可制、競業の禁止、秘密の保持、会社の信用を傷つけないといった義務は退職日まで続きます。
Q. 有給消化中にアルバイトをすると社会保険はどうなりますか?
副業先の労働条件が加入の条件を満たすと、副業先でも健康保険と厚生年金に入る対象になります。短時間で働く場合は、従業員数51人以上の企業で週20時間以上、2か月を超える雇用見込みがあり、学生でないことが条件です。両方で加入するときは、二以上事業所勤務届を10日以内に提出します。
Q. 有給消化中の副業先で雇用保険に入れますか?
雇用保険は、同時に複数の会社に雇われていても、主たる賃金を受ける1つの雇用関係でしか被保険者になれません。有給消化中は本業の給料が支払われているため、本業の雇用保険が続くのが一般的です。65歳以上の人は、2つの職場を合算して加入できるマルチジョブホルダー制度を使える場合があります。
Q. 有給消化中から続けている副業があると、失業給付はもらえますか?
退職後も副業先で週20時間以上、31日以上の雇用見込みのある働き方を続けるなら、雇用保険の上では就職している状態なので、基本手当は受けられません。短時間の仕事や業務委託を続ける場合も、失業認定申告書で必ず申告します。申告しないと不正受給として、返還に加えて最大2倍の納付を命じられることがあります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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