VR/ARゲーム開発の実績の見せ方|出せない仕事をどう伝えるか


この記事のポイント
- ✓VR/ARゲーム開発の実績の見せ方で最大の壁は
- ✓受託案件の多くが公開できないことです
- ✓守秘義務を守ったまま技術力を伝える書き換えの型
VR/ARゲーム開発の実績の見せ方で行き詰まる原因は、作品の質ではない。この分野の仕事は、そもそも見せられないものが多いという構造にある。結論から書くと、出せない仕事は「成果物」ではなく「解いた問題」の形に書き換えれば伝わる。そして書き換えは、守秘義務を破らずに実行できる。
この記事では、何が公開できて何ができないのかの切り分け、許可の取り方、公開できない案件を実績として語り直す型、そして体験型の成果物をどう見せるかを、受注後の実務の手順として並べる。
発注側は、実績の何を見ているのか
見せ方を考える前に、読まれ方を知っておく。発注側がポートフォリオを開く目的は、作品を鑑賞することではない。自分の案件を任せて大丈夫かを判断することにある。
判断の材料は、大きく3つに分かれる。1つ目は、必要な技術を持っているかどうか。2つ目は、似た条件の仕事をやり切った経験があるかどうか。3つ目は、話が通じそうかどうか。このうち、公開できる成果物が担っているのは1つ目の一部だけになる。残りの大半は、文章で伝える領域にある。
この構造がわかると、優先順位が変わる。見せられる作品が少ないことを嘆くより、2つ目と3つ目を厚くするほうが、投入した時間に対する効果が大きい。実際、発注側が最初に読むのは冒頭の自己紹介であり、そこで条件が合わないと判断されれば、作品まで到達しない。作品を並べる前に、何ができて何をやってきたかの要約が要る。
もうひとつ、この分野特有の事情がある。発注側の担当者が、VRやARの発注に慣れていないことが多い。慣れていない相手は、技術の細部を評価できない。評価できない相手に細部を並べても伝わらず、逆に「難しそうな人」という印象だけが残る。相手の理解度に合わせて言葉を選び直す作業まで含めて、実績の見せ方になる。
VR/ARの実績が「見せられない」のは、担当者の怠慢ではない
ポートフォリオが薄いことを自分の実力不足だと感じている人は多い。しかし、この分野で公開できる成果物が少ないのは、構造上ほぼ必然だ。理由は3つある。
受託開発の成果物は、権利が発注元にある
受託の契約では、納品物の著作権が発注元に移る条項が入っていることが多い。移らない場合でも、公開には事前の書面の承諾が必要と定められているのが通例になる。この条項がある限り、自分が作ったものであっても、勝手に載せることはできない。
厄介なのは、この条項の存在に気づかないまま公開してしまう事故だ。契約書を読まずに納品だけしていると、数か月後にポートフォリオへ載せた画像が問題になる。まず自分の過去の契約書を開き、公開に関する条項を探すところから始める。探す語は「秘密保持」「成果物の利用」「実績の公表」「広報」の4つでほぼ足りる。
公開の場そのものが存在しない案件が多い
VRやARの依頼は、一般に配信される娯楽向けのゲームばかりではない。むしろ、産業向けの用途が大きな割合を占める。建設現場の訓練、住宅や設備の完成イメージの提示、製造ラインの作業手順の習得、展示会での一度きりの体験。こうした案件は、そもそも一般公開されない。公開されていないものは、リンクを貼れない。
この分野が業務の中に組み込まれて広がってきた経緯は、開発の現場からも語られている。
Unreal Engineや、Unityを使ったゲームエンジンを使い、弊社が得意とする空間デザインやUX・ユーザエクスペリエンス(体験の提供)の組み合わせによって、建築建設、製造業、物流インフラ、自然災害、教育から医療業界にサービスを提供しています。 出典: moguravr.com
対象の業界がこれだけ広いということは、案件の多くが特定の企業の業務に紐づいているということでもある。つまり、公開できないのが標準の状態になる。
体験しないと伝わらない形式である
仮に公開の許可が下りても、次の壁が来る。VRの体験は、静止画にしても魅力が伝わらない。装着して振り向いたときの空間の広がりや、手を伸ばしたときの反応が価値の中心であり、その部分は平面の画像に写らない。ARも同様で、現実の空間に重なっているという感覚は、切り出した画像では伝わりにくい。
だから、見せ方の工夫が要る。単に画像を並べるのではなく、何が起きているかを補助する情報を添える設計が必要になる。
出せない仕事を、出せる形に書き換える型
守秘義務は「何をやったか」の全部を封じているわけではない。特定の企業名、特定の製品、画面の見た目、そこに映る固有の情報が対象になる。逆に言えば、それらを外した抽象の層は、多くの場合そのまま話せる。書き換えには5つの型があり、案件の性質に応じて組み合わせて使う。どれか1つだけを使うより、条件と判断と数値を重ねたほうが立体的に伝わる。
型1: 条件と制約だけを抜き出す
「どこの誰に何を作ったか」を消し、「どんな条件下で何を成立させたか」だけを残す。たとえば、装着時間が15分を超える体験で酔いを抑える設計、複数人が同時に同じ空間を見る仕組み、通信環境が不安定な現場でも止まらない構成、といった書き方になる。
この型の利点は、読み手が発注を検討している企業のとき、自分の案件に置き換えて読めることだ。企業名を出した実績より、条件を出した実績のほうが問い合わせに繋がるという傾向は、この分野に限らず見られる。正直なところ、企業名を並べただけの実績一覧は、読み手にとって情報量がほとんどない。
型2: 課題と解決の構造で語る
何が問題で、どう考え、何を選び、結果どうなったか。この4段で書く。固有名詞は一切要らない。たとえば「手袋を着けたまま操作する必要があり、細かい指の認識に頼れなかったため、視線と頭の向きだけで完結する操作に切り替えた」と書けば、どの企業の何の案件かは伏せたまま、判断力と技術の両方が伝わる。
この型は、発注側が最も読みたい情報でもある。発注側が知りたいのは作品の見た目ではなく、想定外のことが起きたときにこの人がどう考えるかだ。書き方の骨格を持っておくと、案件が終わるたびに15分ほどで1本書ける。
型3: 自分の権利で再現サンプルを作る
案件で使った技術のうち、公開できない部分を外し、自分の素材で作り直した小さなサンプルを用意する。中身は1分程度の体験で足りる。目的は作品として評価されることではなく、「この処理を実装できる」ことの証明にある。
再現サンプルを作るときは、案件のデータを一切流用しない。モデルもテクスチャも設定値も、自分で作り直す。流用すると、外形が違っても著作権と守秘義務の両方に触れる。手間はかかるが、一度作れば恒久的に自分の資産になり、次の案件の下地としても再利用できる。
型4: 数値化できる部分だけを取り出す
案件の中身は伏せても、測った結果は語れることがある。たとえば、処理の負荷を下げて目標のフレームレートを維持できるようにした、起動から体験開始までの手順を3手に減らした、体験の途中で離脱する人の割合を下げた、といった書き方だ。数値そのものが機密に当たる場合は、改善したという事実だけを書く。
この型が効くのは、読み手が発注の判断をするときに「効果があるかどうか」を気にしているからだ。作れることと、成果を出せることは別に見られている。数値で語れる材料を1つでも持っていると、他の応募者との差がはっきり出る。ただし、測っていない数値を書くのは論外になる。面談で必ず聞かれるので、根拠のない数字は自分の首を絞める。
型5: 第三者の言葉を借りる
発注元から一言の推薦を書いてもらえないか打診する。企業名を出せない場合でも、「製造業の企業」「教育機関」といった業種の表記であれば承諾されることがある。第三者の言葉は、自分が書いた説明の何倍も信用される。断られても失うものはないので、納品と検収が終わって関係が良好なうちに聞いておく。
公開の許可を、どう取るか
書き換えの型を使えば許可なしでも語れるが、映像や画像を出せるなら効果は段違いになる。許可を取りに行く手順を決めておく。
契約の段階で聞くのが最も通りやすい
納品後に「載せていいですか」と聞くと、担当者は判断に迷い、社内の確認が要り、面倒だから断るという流れになりやすい。一方、契約の交渉中であれば、条件のひとつとして自然に話せる。「実績として掲載したいので、掲載の可否と範囲を決めさせてください」と切り出す。
このとき、掲載したい範囲を具体的に示す。企業名を出すか出さないか、映像を出すか静止画だけか、いつから公開できるか。全部を求めず、通りやすい範囲から段階的に決める。企業名は無理でも映像は可、という着地はよくある。
打診の文面は短く、判断しやすく書く
長い文面は判断を遅らせる。掲載したいもの、掲載する場所、伏せる情報、公開を始めたい時期。この4点を箇条書きにして送る。相手が社内で回覧しやすいよう、そのまま転送できる形にしておく。
たとえば「〇〇株式会社 ご担当者様」で始め、「先日納品いたしました件について、実績として弊方のポートフォリオへ掲載してよいかご確認をお願いいたします」と用件を先に書き、続けて掲載範囲の箇条書きを置く。返信で可否だけ答えられる形にすると、承諾率が上がる。
「匿名なら可」の範囲を誤解しない
企業名を伏せれば何でも出せる、と考えるのは危険だ。映像に映る画面の中身、独自の作業手順、社内の呼称、扱っている製品の形状。これらは企業名がなくても特定に繋がる。特に産業向けの案件では、業界の人が見れば一目でどこの案件かわかることがある。
匿名での掲載を認められた場合でも、何を伏せるかを先方と文章で確認する。口頭の了解だけで進めない。ここは、書面が自分を守る場面になる。
見せる形式を、どう作るか
許可が取れたら、次は形式の設計になる。VRやARの実績は、作り方を間違えると許可を取った意味がなくなる。
映像は短く、最初の数秒で状況を示す
体験の全編を流しても、最後まで見てもらえない。30秒から60秒に収める。冒頭の5秒で、どんな端末で、誰が、何をしている場面かを文字で出す。この情報がないと、視聴者は映像の意味を推測する時間に脳を使ってしまう。
VRの映像は、ヘッドセット内の映像だけを流すと状況が伝わらない。可能であれば、装着している人を外から撮った映像と、ヘッドセット内の映像を並べる。外の映像は、依頼者の社内の人が映らないよう配慮する。人が映せない場合は、手だけを映す構図でも十分に伝わる。
静止画には、必ず説明を添える
画像を並べただけのポートフォリオは、この分野では機能しない。1枚ごとに、何の場面で、何が技術的な要点かを2行で書く。書けない画像は載せない。載せる価値のある画像は、必ず説明できる。
無料の道具でおおむね足りる
映像の切り出しと簡単な編集、画面の録画、文字の重ね合わせ。この程度であれば無料の道具で完結する。おすすめの構成を探して時間を使うより、手元にあるもので1本作ってしまうほうが早い。凝った編集は評価に繋がらず、状況説明の的確さのほうが評価される。
ポートフォリオの構成と、置き場所
素材が揃ったら、並べ方を決める。並べ方を間違えると、良い素材でも読まれない。
冒頭に要約を置く
最初の画面に、対応できる領域、扱えるエンジン、対応した端末、受けられる作業の範囲を短くまとめる。ここを読んで条件が合わない相手は離脱するが、それでいい。合う相手だけが先を読む状態を作るほうが、問い合わせの質が上がる。
要約に書くのは、できることだけではない。受けていない作業も書く。たとえば、モデルの制作は受けず実装のみ、あるいは実装と検証は受けるが企画から参加しない、といった線引きだ。書いておくと、噛み合わない相談が減り、対応の時間が浮く。
並び順は、新しさより「近さ」で決める
制作年の新しい順に並べるのは、この分野では最適ではない。読み手が探しているのは、自分の案件に近い事例だからだ。用途で分けて並べる。訓練用、展示用、販促用、教育用といった括りにしておくと、読み手は自分の目的の項目だけを読める。
各項目の先頭には、条件を1行で書く。「屋外の展示会で、通信環境が不安定な状況、複数人が同時に体験」といった具合だ。条件が先に見えると、読み手は自分に関係があるかを即座に判断できる。
置き場所は、閲覧の手間が少ないところにする
閲覧に会員登録や専用のソフトを要求すると、そこで読まれなくなる。ブラウザで開けて、スマートフォンでも読める形にしておく。映像は再生ボタンを押すだけで見られるようにし、ダウンロードを求めない。
案件を探す場のプロフィール欄と、自分の置き場所の内容は揃えておく。両方を管理するのが面倒なら、プロフィール欄には要約だけを書き、詳細は1か所に集約する。更新の手間が減れば、更新の頻度が上がる。更新されているポートフォリオは、それだけで活動している証拠として読まれる。
提案や面談の場での、実績の話し方
書面を整えても、話す場面で崩れることがある。話し方にも型がある。
相手の案件に寄せてから、実績を出す
自分の実績を頭から順に説明するのは、最も伝わらない方法になる。まず相手の案件の条件を聞き、その条件に近い経験だけを選んで話す。持ち出す事例は2件で足りる。多く出すほど、どれが強みなのかがぼやける。
公開できないことを、先に短く伝える
「守秘義務がありまして」と長く説明すると、隠しごとをしている印象になる。「詳細はお見せできませんが、条件と進め方はお話しできます」と一言で切り替え、すぐ中身に入る。相手も同じ立場で発注する側なので、この事情は理解されやすい。むしろ、守秘を軽く扱う人のほうが警戒される。
質問を返して、対話にする
一方的に説明し続けると、相手は聞くだけの側になる。ひとつ話したら、「今回はどのあたりが一番難しそうだと感じておられますか」と質問を返す。相手が語り始めれば、そこが本当の要件になる。実績の説明は、相手の課題を引き出すための呼び水として使うほうが効率がいい。
質問を返せる人は、それだけで「話が通じる相手」として記憶される。技術の説明が完璧でも、一方通行だった人は次に思い出してもらえない。実績を並べる力より、相手の言葉を引き出す力のほうが、継続の受注には効いている。
失敗した案件の話を、1つ持っておく
うまくいった話だけを並べると、判断力が伝わらない。想定と違ったことが起き、どう立て直したかの話を1つ用意しておく。失敗の告白ではなく、対処の説明として話す。この1つがあるだけで、話の信頼度が変わる。
なお、技術以外の証明も効く場面がある。書面のやり取りが多い案件では、ビジネス文書検定のような文書の型を押さえた証明が、仕様書や報告書を任せられる根拠として読まれることがある。作品を見せられない状況では、こうした周辺の証明が判断材料の穴を埋める働きをする。
実績を、腐らせずに運用する
一度作ったポートフォリオを放置すると、時間の経過とともに価値が下がる。運用の手順を決めておく。
案件が終わるたびに、その場で書く
記憶が新しいうちに、条件と判断を書き残す。終わってから1週間も経つと、なぜその選択をしたのかの理由が曖昧になる。公開するかどうかは後で決めればいいので、まず自分用の記録として残す。公開できない案件でも、この記録があれば書き換えの材料になる。
書く項目は固定しておく。案件の条件、対応した端末、直面した問題、選んだ方法、選ばなかった方法とその理由、結果。この6項目を埋めるだけなら、慣れれば短時間で終わる。
古い実績を、消すのではなく畳む
技術の進歩が速い分野なので、数年前の実績は古く見えることがある。ただし、消すと経験の厚みまで消える。表に出す件数は絞り、古いものは一覧の形で残す。件数は経歴の裏付けとして働き、詳細は新しいものだけを見せる。この二層構造にしておくと、鮮度と厚みの両方を保てる。
見せる件数は、多ければよいわけではない
実績が増えると、全部を載せたくなる。しかし読み手の時間は限られており、件数が増えるほど1件あたりの読まれる確率は下がる。表に出すのは5件前後に絞り、用途の違うものを選ぶ。同じような案件を並べても、伝わる情報は増えない。
選ぶ基準は、自分が誇りに思っているかどうかではなく、これから受けたい仕事に近いかどうかにする。過去に多く手がけた分野を並べると、その分野の依頼ばかりが来る。載せる内容は、次に行きたい方向への意思表示でもある。方向を変えたいなら、自主制作でその方向の1件を作り、先頭に置く。
公開の許可には期限がある場合がある
掲載の承諾が期間限定で出ていることがある。展示の終了まで、あるいは製品の発表まで、といった条件だ。承諾を得たときに条件を記録し、期限を管理する。期限が切れたものを掲載し続けると、信用を一気に失う。管理表に「公開可否」「条件」「期限」の3列を持たせておけば済む話になる。
実績が手元にない段階の埋め方
未経験や実績がまだない段階でも、見せるものは作れる。方法は限られているが、確実にある。
自主制作を「案件の形」で作る
好きなものを作るのではなく、架空の依頼を自分で設定して作る。たとえば「作業手順を新人に覚えてもらうための、5分で完結するVRの訓練」といった条件を自分に課す。条件があると、判断が発生する。判断が発生すれば、型2の「課題と解決」で語れる材料が手に入る。
自主制作でも、条件と判断が書いてあれば、受託の実績に近い読まれ方をする。逆に、条件のない自由作品は、技術の証明にはなっても発注の判断材料になりにくい。
技術の記録を書き残す
作った過程を文章にして公開する。詰まった箇所、試した方法、選ばなかった案とその理由。これは実績の代わりになるだけでなく、検索から見つけてもらう入り口にもなる。文章を書く力そのものが評価に繋がる場面は多く、著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、説明を書ける人材の需要が独立した職種として成立していることがわかる。技術者にとっても、書ける力は上乗せの武器になる。
隣接する領域を足して見せ方を厚くする
体験の中で流す音や効果音まで自分で用意できると、実績として見せられる幅が広がる。作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事には、こうした周辺の作業がどう募集されているかがまとまっている。体験の設計に分析や配信の仕組みを組み合わせる相談も増えており、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事に並ぶ要件を眺めておくと、依頼者の期待の輪郭がつかめる。
この分野の案件で発注側が実際に何を求めているかは、VR/AR・ゲーム開発・モデリングのお仕事を見るのが早い。実装の技術だけでなく、体験の設計や検証の進め方まで含めて書かれている募集が多く、ポートフォリオで何を証明すべきかの逆算ができる。
実績の伝え方が、取引の形を変える
20年この市場を見てきた立場から言えば、継続して仕事が途切れない人と、良いものを作っているのに次に繋がらない人の差は、作品の質より説明の質にある。前者は、公開できない案件についても「何を任され、何に困り、どう解いたか」を淀みなく話せる。後者は、見せられる作品がないという理由で、その説明そのものを省いてしまう。
運営者として見てきた限りでは、発注側が最終的に選ぶ決め手は「話が通じるかどうか」に集約されていく。技術の細部を評価できる発注者は少数派で、多くは自分の課題を理解してくれるかどうかで判断している。だから、実績の見せ方とは、作品の陳列ではなく、相手の課題に翻訳して語る技術になる。
もうひとつ、間に何社も挟まる取引では、この説明が発注者に届かないことがある。伝言のうちに要点が落ち、書類の体裁だけが残る。直接やり取りできる関係では、自分の言葉がそのまま相手に届くので、公開できない案件しか持っていない人でも評価されうる。手数料0%の直接取引が効くのは金額の面だけではない。同じ予算で依頼者はより多くを頼め、受け手は手取りが厚くなるうえに、自分の説明が減衰せずに届く。実績を出しにくい分野ほど、この差は大きく出る。
実績の見せ方を整えることには、もうひとつ副次的な効果がある。書き換えの作業を通じて、自分が何を強みにしているのかが言語化される。案件を受けている最中は目の前の実装に集中していて、自分の判断の癖や得意な条件に気づきにくい。過去の案件を条件と判断の形に並べ直すと、繰り返し出てくるパターンが見えてくる。そのパターンこそが、次に狙うべき案件の方向を示している。実績の整理は、営業のための作業であると同時に、自分の進路を決めるための作業でもある。
ポートフォリオの整え方や、独立してからの見せ方の組み立ては、他の職種の進め方も参考になる。UI/UXデザインのフリーランスになるには?必要スキルと案件相場には、成果物の権利が制約される環境でどう実績を積み上げるかの考え方が書かれている。職種が違っても、条件と判断を言葉にして残すという原則は共通している。
よくある質問
Q. 守秘義務がある案件を、ポートフォリオに載せることはできますか?
成果物そのものは載せられなくても、条件と判断は語れます。企業名や画面の見た目を外し、「装着時間が長い体験で酔いを抑えた」「手袋を着けたまま操作する必要があり視線操作に切り替えた」といった形に書き換えます。まず自分の契約書で「秘密保持」「成果物の利用」「実績の公表」の条項を確認し、範囲を把握してから書き換えの型を選ぶのが安全です。
Q. 掲載の許可は、いつ誰に取るのが通りやすいですか?
納品後より、契約の交渉中に取るほうが通りやすくなります。条件のひとつとして自然に話せるためです。打診では、掲載したいもの、掲載する場所、伏せる情報、公開したい時期の4点を箇条書きで示し、返信で可否だけ答えられる形にします。企業名は不可でも映像は可、といった段階的な着地はよくあるので、全部を求めず通る範囲から決めます。
Q. 企業名を伏せれば、映像や画像は自由に出せますか?
出せません。映像に映る画面の中身、独自の作業手順、社内の呼称、製品の形状などは、企業名がなくても特定に繋がります。産業向けの案件では、業界の人が見れば一目でどこの案件かわかることも多いです。匿名での掲載を認められた場合でも、何を伏せるかを先方と文章で確認してください。口頭の了解だけで進めるのは危険です。
Q. VRの体験は静止画で伝わりません。どう見せればよいですか?
映像を30秒から60秒に収め、冒頭の5秒で端末と場面を文字で示します。ヘッドセット内の映像だけでは状況が伝わらないため、装着している様子を外から撮った映像と並べる構成が有効です。人を映せない場合は手だけの構図でも足ります。静止画を使う場合は、1枚ごとに何の場面で何が技術的な要点かを2行添え、説明できない画像は載せません。
Q. 公開できる実績がまだ1本もない場合、何から作ればよいですか?
架空の依頼を自分で設定した自主制作が有効です。「作業手順を新人に覚えてもらうための5分の訓練」のように条件を課すと判断が発生し、課題と解決の形で語れる材料が手に入ります。あわせて、作った過程で詰まった箇所や選ばなかった案とその理由を文章に残して公開すると、実績の代わりになり、検索から見つけてもらう入り口にもなります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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