英語・多言語翻訳のポートフォリオの作り方|見る人が知りたいこと

丸山 桃子
丸山 桃子
英語・多言語翻訳のポートフォリオの作り方|見る人が知りたいこと

この記事のポイント

  • ✓英語・多言語翻訳のポートフォリオは
  • ✓訳文を並べるだけでは判断材料になりません
  • ✓守秘義務のある案件をどう見せるか

英語・多言語翻訳のポートフォリオを作ろうとすると、最初に手が止まります。実務で訳した資料は守秘義務で出せない、出せる訳文を集めても読み手が優劣を判断できない、そもそも何を載せれば依頼に繋がるのかが分からない。この記事では、ポートフォリオを見る側が何を確認しようとしているかから逆算して、載せるもの、載せ方、公開の形を手順として整理します。

ポートフォリオを見る人が確認していること

作り方を考える前に、読み手の目的を把握します。ここを外すと、丁寧に作っても判断材料にならないものができます。

読み手は訳文の優劣を判定できない

翻訳を依頼する側の多くは、対象言語のネイティブではありません。英語であればある程度読める人もいますが、それ以外の言語では文の良し悪しを判定する手段がありません。

つまり、訳文だけを並べたポートフォリオを見せられても、読み手は「訳せるらしい」以上の情報を得られません。ここを理解していないと、最も自信のある訳文を厳選して並べるという、労力の割に効果の薄い作り方をしてしまいます。

読み手が実際に確認しているのは、自分の分野を扱った経験があるか、依頼したい形式に対応できるか、やり取りが成立しそうか、という3点です。訳文の質はこの3点を満たした先で、実際に依頼してみて初めて分かる領域として扱われています。

分野の一致が最初の関門

依頼者が探しているのは「翻訳ができる人」ではなく「自分の資料を訳せる人」です。医療機器のマニュアルを訳したい相手にとって、文学作品の美しい訳文は判断材料になりません。

そのため、ポートフォリオの構成で最も重要なのは、どの分野を扱っているかが一目で分かることです。作品を年代順や出来の良い順に並べるより、分野で分類して並べるほうが読み手の目的に合います。分野が複数ある場合も、優先して受けたい分野を先頭に置きます。

手間がかかりそうかどうかを見ている

読み手は、依頼したときの手間も同時に見積もっています。連絡先が分かりにくい、対応できる形式が書かれていない、納期の目安が分からない。こうした情報の欠落は、問い合わせる前の段階で候補から外れる理由になります。

訳文の掲載に時間をかけるより、こうした実務情報を整えるほうが問い合わせに直結します。ポートフォリオは作品集であると同時に、依頼のための案内でもあります。

守秘義務がある案件をどう扱うか

翻訳の実務で扱う資料は、公開前の製品情報、社内文書、契約書など、外に出せないものが大半です。ここをどう処理するかが、翻訳のポートフォリオ特有の難しさになります。

そのまま載せてはいけないもの

依頼者から受け取った原文、納品した訳文、参考資料。これらは秘密保持の対象になっていることが多く、許可なく掲載すると契約違反になります。NDAを結んでいない案件でも、公開前の情報を勝手に出すのは信用を失う行為です。

判断の基準は単純で、その資料が公開されているかどうかです。公開済みのウェブサイトやパンフレットであれば掲載できる場合がありますが、それでも依頼者に確認を取るのが安全です。「翻訳の実績として掲載してよいか」を尋ねるだけで、後の問題を防げます。

掲載の許可を取るタイミング

許可を求めるのは、案件が完了して一段落したあとが自然です。作業中に持ち出すと、本来の業務と関係のない話として扱われます。

尋ね方は、掲載したい範囲を具体的にします。「訳文の一部を実績として掲載したい」「企業名は出さず、分野と作業内容のみ記載したい」など、範囲を示せば相手も判断しやすくなります。断られた場合でも、企業名を伏せた形での記載が認められることがあります。

出せない案件を実績として示す方法

許可が取れない案件でも、実績として示す方法があります。企業名と具体的な内容を伏せ、分野、資料の種類、扱った言語の組み合わせ、作業の範囲だけを記載する形です。

「産業機械メーカーの取扱説明書、日本語から英語、用語集の整備を含む」という記載であれば、守秘義務に触れずに経験を示せます。読み手にとっても、自分の依頼と近いかどうかを判断するには十分な情報です。訳文そのものより、この一行のほうが判断に使われることも少なくありません。

見せられる訳文を自分で作る

実務の訳文が出せないなら、出せる訳文を作ります。これがポートフォリオづくりの中心的な作業になります。

素材の選び方

題材にするのは、公開されていて、翻訳の需要がある分野に近い文章です。公的機関が公開している資料、企業が公開している製品情報、公開されている技術文書などが候補になります。

避けたほうがよいのは、著作権の扱いが不明な文章と、すでに公式の訳が存在する文章です。前者は掲載自体に問題が生じ、後者は公式訳との比較で不利になります。公式訳がある文章をあえて訳す場合は、自分の訳を並べるのではなく、公式訳との方針の違いを説明する形にすると意味を持ちます。

素材の分量は、長文である必要がありません。400語程度の英語、あるいは日本語で800字程度の文章でも、判断材料としては足ります。読み手は全文を精読しないため、長さより中身の見せ方が効きます。

対訳の形で並べる

訳文だけを載せるより、原文と訳文を対で並べる形のほうが読み手の役に立ちます。原文が読める読み手であれば対応関係を確認でき、読めない読み手でも文の分量の対応から作業の様子が伝わります。

並べ方は、段落単位で左右または上下に配置します。文単位で細かく割ると読みにくくなり、資料全体をまとめて置くと対応関係が分かりません。段落単位が最も扱いやすい粒度です。

判断の説明を添える

ポートフォリオで最も差がつくのがここです。訳文の横に、判断した箇所の説明を添えます。

書く内容は、原文が曖昧だった箇所をどう解釈したか、専門用語で複数の訳語がある中でどれを選んだか、長い日本語の一文をどう分割したか、省略された主語をどう補ったか。この説明があると、読み手は訳文の優劣を判定できなくても、思考の筋道を評価できます。

日本語の原文を英語にする際の文の扱いは、多くの依頼者が実際に困っている点です。

日本語の文書は長くなりやすく、一つの文に複数の情報が詰め込まれることが多いです。これをそのまま英語に翻訳すると、時には読みにくくなることがあります。文を適切に分割することで、翻訳後の文章が読みやすく、理解しやすくなります。この工夫により、誤訳や混乱を避け、多言語翻訳の精度も高まります。 出典: science.co.jp

分割した箇所について「原文の第2文は主語が2回変わるため、英語では3文に分けました」と書き添えるだけで、読み手はこの人が何を考えて訳しているかを理解します。訳文を10本並べるより、説明つきの訳文を3本置くほうが、判断材料としては強くなります。

分量より構成で見せる

ポートフォリオに載せる訳文の数は、多ければよいわけではありません。読み手は全部を読まないため、数を増やすと逆に何を見ればよいか分からなくなります。

分野ごとに2本ずつ、扱う分野が3つなら合計6本程度で十分です。それぞれに判断の説明を添え、資料の種類と作業範囲を明記します。この構成であれば、読み手は自分の分野の箇所だけを見て判断できます。

公開する形をどう選ぶか

ポートフォリオをどこに置くかは、更新の手間と見つけられやすさのバランスで決まります。

自分のサイトを持つ場合

独立したサイトを持つと、構成を自由に決められ、名前で検索されたときに見つけてもらえます。翻訳者の場合、多言語で表示できる形にすることが、そのまま能力の証明になります。

多言語のサイトを作るときは、切り替えの仕組みが最初の関門になります。

Hello world! 私のブログへようこそ。個人のポートフォリオサイトを作成中で、その過程を共有するのはどうかと思いました。成功も失敗も、そして「なるほど!」という瞬間も全て。今日は、多言語対応のウェブサイトデザインに挑戦します。英語をデフォルトにし、日本語に切り替えるオプションを目指しています。簡単そうに思えますが、なかなか大変な冒険になっています。 出典: nora-l.com

言語ごとにページを分けるか、同じページ内で切り替えるか、自動翻訳を使うか。この選択は表示の速さや検索での見つかりやすさに関わります。翻訳者のサイトで自動翻訳を使うのは、内容以前の問題として避けたい選択です。各言語のページを自分で書くほうが手間はかかりますが、その手間自体が実績になります。

サイトを作る技術的な負担が大きい場合、最初は言語を絞って始めても構いません。日本語と英語の2言語で始め、必要になったときに追加する形が現実的です。

プラットフォーム上のプロフィールを使う場合

在宅ワークの仲介サイトや業務委託のマッチングサービス上のプロフィールを、ポートフォリオとして使う方法もあります。依頼者が探しに来る場所に置けるため、見つけてもらえる確率は自分のサイトより高くなります。

制約は、表現の自由度が低いことです。掲載できる文字数や画像の数に制限があり、対訳を並べる形が作りにくい場合があります。この場合、プロフィールには分野と作業範囲を簡潔に書き、詳しい訳文の例は別の場所に置いて案内する形にします。翻訳の仕事がどのような形で募集されているかは、英語・多言語翻訳のお仕事で確認でき、依頼者がどんな条件を書いているかを見るとプロフィールに何を書くべきかが分かります。

文書ファイルとして渡す場合

サイトを持たず、問い合わせがあったときに文書ファイルを送る方法もあります。手間が最も少なく、相手に合わせて内容を差し替えられる利点があります。

この形で作る場合、ファイルの構成を整えることが重要になります。表紙に対応分野と言語の組み合わせ、次のページに実績の一覧、その後に訳文の例と判断の説明という順序が扱いやすい形です。文書の型を整える力そのものが翻訳者の評価に関わるため、実務文書の作法を体系的に扱うビジネス文書検定の学習範囲は、この作業に直接役立ちます。

ポートフォリオに載せるべき実務情報

訳文以外の情報が、実際の問い合わせを左右します。

対応できる言語の組み合わせ

「英語対応可」ではなく、方向を明記します。日本語から英語なのか、英語から日本語なのか、両方向なのか。この2つは求められる能力が違い、依頼者もどちらかを指定してきます。

複数言語を扱う場合、それぞれの組み合わせについて対応の程度を書きます。すべてを同じ水準で扱えることは少なく、正直に区別して書くほうが信用されます。得意でない言語について問い合わせが来て断ることになるほうが、双方にとって損失です。

対応できる形式と工程

納品できるファイルの形式、使える用語管理のツール、字幕の作業に対応できるか、レイアウトの調整まで含められるか。この情報は依頼者が最初に確認したい項目です。

工程の範囲も書きます。訳すだけなのか、用語集の整備を含むのか、原文の不整合の指摘まで行うのか。範囲が明確だと、依頼者は自分に必要なものが揃うかを判断できます。

納期の考え方

具体的な日数を約束する必要はありませんが、どう見積もるかの考え方は書けます。分量と専門性で変わること、参考資料の有無で変わること、確認の往復に時間を見込む必要があること。この説明があると、依頼者は自分の案件でどれくらいかかりそうか想像できます。

秘密保持への姿勢

翻訳者に依頼するとき、依頼者が気にしているのは情報の扱いです。受け取った資料の保管方法、作業後の削除の方針、補助ツールを使う場合の申告。この方針を書いておくと、依頼者は社内での説明がしやすくなります。

書き方は簡潔で構いません。「受領した資料は案件ごとに分離して保管し、納品後3か月で削除します。機械翻訳や補助ツールを使用する場合は事前にお伝えします」という程度で、必要な情報は伝わります。

多言語サイトを作るときの技術的な選択

ポートフォリオを自分のサイトで持つと決めた場合、多言語の扱いをどうするかが最初の分岐になります。翻訳者のサイトである以上、この選択自体が見られています。

言語の切り替え方を決める

言語ごとにページを分ける方式と、同じページ内で表示を切り替える方式があります。前者は言語ごとに固有のURLが生まれるため、検索で見つけてもらいやすくなります。後者は管理する場所が一つで済みますが、検索の面では不利になりやすい方式です。

翻訳者のサイトでは、前者を選ぶほうが理にかなっています。英語圏の依頼者が英語で検索したときに、英語のページが独立して見つかる状態を作れるためです。日本語のページしか存在しないと、日本国内からの依頼に限られます。

仕組みの選び方

サイトを作る道具にはいくつも選択肢があり、それぞれ多言語の扱いが違います。

まずはTranslatePress。一見すると、これが一番かなと思いました。ページごとに一つのエントリー、ページ上での翻訳、自動翻訳機能があり、それが無料で利用できる点は魅力的でした。また、他のプラグインよりもユーザーフレンドリーに感じました。 出典: nora-l.com

道具の選択で重要なのは、自動翻訳の機能を使うかどうかです。翻訳者のサイトで自動翻訳をそのまま表示するのは、内容以前の矛盾になります。自動翻訳の機能があっても、下訳としてだけ使い、公開する文は自分で書き直す運用にします。

もう一つの判断軸は、更新のしやすさです。ポートフォリオは一度作って終わりではなく、実績や訳文の例を足していきます。追加のたびに全言語分の作業が発生するため、更新が面倒な仕組みを選ぶと更新が止まります。止まったポートフォリオは、古い情報を見せ続けることになります。

最初から完璧を目指さない

多言語のサイトを一度に完成させようとすると、公開までの時間が延びます。実際には、日本語と英語の2言語で、扱う分野と実績と訳文の例が載っていれば、判断材料としては足ります。

言語を増やすのは、その言語の依頼を実際に受けたい段階になってからで構いません。対応できない言語のページだけが立派にあると、問い合わせを受けてから断ることになり、双方の時間が無駄になります。

ポートフォリオを更新し続ける仕組み

作ったポートフォリオが古いまま放置される例は非常に多くあります。更新が止まる原因は、更新の作業が重いことです。

案件が終わるたびに、実績の一行を足す作業だけを習慣にします。分野、資料の種類、言語の組み合わせ、作業範囲。この4項目を書くだけなら数分で終わります。訳文の例を足すのは年に数回でよく、実績の一行のほうを止めないことが重要です。

訳文の例を差し替えるのは、扱う分野が変わったときです。受けたい分野が変わったのに、古い分野の訳文が先頭に並んでいると、読み手は今も同じ分野をやっていると受け取ります。方向を変えたときは、先頭に置く訳文も入れ替えます。

実務情報の見直しも定期的に必要です。対応できる形式が増えた、使えるツールが変わった、納期の考え方が変わった。こうした変化を反映しないと、問い合わせの段階で食い違いが起きます。

実務がまだ少ない段階での作り方

実務の経験が少ない段階では、載せられる実績がありません。この状態でどう作るかは、多くの人が悩む点です。

実績の代わりに過程を見せる

実績がないなら、訳す過程を見せます。公開されている文章を題材に、原文、訳文、判断の説明を揃えたものを作ります。これは実績ではありませんが、思考の筋道を見せる材料としては実績と同等に機能します。

読み手にとって、実績の件数はそれほど重要ではありません。件数が多くても分野が違えば意味がなく、少なくても分野が合っていれば依頼の対象になります。件数を隠す必要はなく、代わりに扱える範囲を具体的に示します。

分野の知識を示す

翻訳の能力とは別に、その分野を知っているかどうかが問われます。前職での経験、学んだ内容、継続して読んでいる資料。こうした背景は、実務の実績がなくても示せる材料です。

技術分野を扱いたい場合、その分野の資格や学習歴が背景の証明になります。ネットワークやインフラの資料を扱うなら、CCNA(シスコ技術者認定)のような資格の学習範囲を通っていることが、用語や概念を理解している根拠になります。資格そのものが翻訳の能力を示すわけではありませんが、分野の理解を示す材料としては機能します。

語学を使う別の経験を含める

翻訳の実務がなくても、語学を使った経験があれば材料になります。海外との連絡業務、資料の要約、通訳の補助、教える仕事。こうした経験は、言語を実務で使ってきた証明になります。

教える経験は特に、言葉を説明する能力の証明になります。語学レッスン(英中韓など)のお仕事のような仕事を並行している人は、その経験をポートフォリオに含めると、言語の構造を説明できる人だという印象を作れます。翻訳と教育は求められる能力が一部重なるため、無関係な経歴として扱う必要はありません。

よくある作り方の失敗

作り込んだのに問い合わせに繋がらないポートフォリオには、共通した型があります。

失敗1 経歴から書き始めている

学歴、留学歴、語学試験の結果、これまでの職歴。この順序で始まるポートフォリオは非常に多いのですが、読み手が探している情報が後ろに追いやられます。

経歴は必要な情報ですが、先頭に置く情報ではありません。先頭に置くのは、扱う分野と言語の組み合わせ、そして受けられる作業の範囲です。経歴はその根拠として後ろに置きます。

失敗2 対応できることを全部書いている

翻訳、通訳、校正、要約、字幕、教育、資料作成。できることを全部並べると、何を頼めばよいか分からなくなります。読み手は、何でもできる人ではなく、自分の依頼に合う人を探しています。

優先して受けたい仕事を先頭に置き、それ以外は後ろにまとめます。並べる順序自体が、読み手への案内になります。

失敗3 訳文の質だけで勝負しようとしている

最も自信のある訳文を厳選して並べ、それ以外の情報を最小限にする形です。訳文の質を判定できない読み手にとって、この構成は判断材料になりません。

訳文には必ず、原文、判断の説明、資料の種類、作業範囲を添えます。この4点があると、読み手は訳文を読まずに判断できます。読まずに判断できる状態を作ることが、ポートフォリオの目的です。

失敗4 連絡の方法が分かりにくい

問い合わせのフォームがページの最下部にしかない、メールアドレスが画像になっていて読み取りにくい、返信までの目安が書かれていない。こうした細部が、問い合わせの手前で読み手を止めます。

各ページの見える位置に連絡手段を置き、返信までの目安を添えます。「平日は当日中、休日は翌営業日に返信します」という一行があるだけで、問い合わせの心理的な負担が下がります。

見た人が次に取る行動を設計する

ポートフォリオの目的は、読んでもらうことではなく、問い合わせてもらうことです。読み終えた人が次に何をすればよいかが分からないと、そこで止まります。

各ページの終わりに、次の行動を一つだけ示します。連絡先を書く、対応可能な状況を書く、見積もりの依頼方法を書く。複数の選択肢を並べると、どれを選べばよいか迷って止まります。示すのは一つに絞ります。

問い合わせの手前にある不安も減らします。どのような情報を送ればよいか分からない、断られたら気まずい、返信が来ないかもしれない。これらは相手の側にある障害です。「資料の種類と分量、希望納期をお知らせいただければ、対応の可否と目安をお返しします」と書いておけば、送る内容が分かり、返事が来ることも分かります。

対応できない場合の姿勢も書いておくと、問い合わせの心理的な負担が下がります。「対応が難しい場合もその旨をお返しします」という一行があるだけで、無視される不安が消えます。問い合わせの数を増やすのは、内容を良くすることより、障害を取り除くことのほうが効きます。

対応可能な状況を書くのも有効です。現在受け付けている分野、着手できる時期の目安。この情報があると、読み手は今相談してよいかを判断できます。更新の手間はかかりますが、古いまま放置するくらいなら、状況の記載自体を置かないほうが安全です。

公開したあとは、問い合わせが来た経路を記録します。どのページを見て連絡してきたか、何を見て判断したかを尋ねると、実際に効いている要素が分かります。作り手が力を入れた箇所と、読み手が見ている箇所は一致しないことがほとんどです。数件でも記録が溜まれば、次の更新でどこを厚くすべきかが決まります。推測で作り直すより、届いた声に合わせて直すほうが確実です。

独自データから見えるポートフォリオの傾向

在宅ワークの案件情報を長く扱ってきた立場から見ると、問い合わせに繋がるポートフォリオと繋がらないポートフォリオの差は、訳文の質より情報の並び順に出ています。

繋がらないポートフォリオは、経歴から始まり、学んだこと、対応できること、最後に連絡方法という順序になっています。読み手は自分の依頼が扱えるかを知りたいのに、その情報にたどり着くまでに離脱します。繋がるポートフォリオは、扱う分野と言語の組み合わせが最初にあり、そのあとに実績と訳文の例が続きます。

20年この市場を見てきた立場から言えば、選ばれている人は、自分が何をできるかではなく、相手が何を頼めるかの形で書いています。この違いは技能の差ではなく、読み手の立場に立てているかどうかの差です。そして、この視点は翻訳の仕事そのものにも直結します。読み手を想定して言葉を選ぶ作業は、訳す作業と同じ性質を持っているためです。

もう一つ、運営者として見てきた限りでは、仲介の手数料が乗らない直接の取引では、依頼者と受け手の距離が近くなります。間に立つ会社が要約した情報ではなく、実際に資料を使う人の言葉が直接届くため、何を求められているかが分かります。手数料0%の構造では、同じ予算で依頼できる範囲が広がり、受け手の手取りも厚くなります。この余裕が、ポートフォリオを整えたり訳文の例を作り直したりする時間を生みます。時間の余裕がない状態では、目の前の案件を回すだけで手一杯になり、次の依頼者に見せる材料が育ちません。

文章を扱う職種の分類や働き方の傾向を確認したい場合は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。翻訳を独立した職種として位置づけるか、編集や執筆の一部として位置づけるかで、ポートフォリオに載せるべき内容も変わってきます。

案件情報を眺めていて気づくのは、依頼者が募集の文面に書いている情報と、翻訳者がポートフォリオに書いている情報が噛み合っていないことです。依頼者は資料の種類、言語の方向、納品形式、機密の扱いを書いています。翻訳者は語学力と実績の件数を書いています。この食い違いが、問い合わせが起きない理由の多くを占めています。募集の文面をいくつか読んでから自分のポートフォリオを見直すと、足りない項目がはっきりします。

作り始めるときの順序をまとめておきます。扱う分野と言語の組み合わせを決める、その分野の公開された文章で対訳と判断の説明を作る、実務情報を書き足す、置き場所を決める。この順序であれば、実績が少ない段階でも形になります。訳文を磨くのは最後で構いません。読み手が最初に見るのは、訳文ではなく分野だからです。

よくある質問

Q. 実務で訳した資料をポートフォリオに載せてよいですか?

秘密保持の対象になっている資料は、許可なく掲載できません。公開済みの資料であっても、依頼者に掲載の可否を確認するのが安全です。許可が取れない場合は、企業名と具体的な内容を伏せ、分野、資料の種類、言語の組み合わせ、作業範囲だけを記載する形で経験を示せます。

Q. 実務経験がない段階では何を載せればよいですか?

公開されている文章を題材に、原文と訳文を対で並べ、判断した箇所の説明を添えたものを作ります。実績ではありませんが、思考の筋道を見せる材料としては機能します。読み手は件数より扱える分野を見ているため、件数の少なさを隠す必要はありません。

Q. 訳文は何本くらい載せるべきですか?

分野ごとに2本ずつ、扱う分野が3つなら合計6本程度で十分です。読み手は全部を精読しないため、数を増やすと何を見ればよいか分からなくなります。それぞれに判断の説明と資料の種類、作業範囲を添えるほうが、本数を増やすより判断材料として強くなります。

Q. 自分のサイトとプラットフォームのプロフィール、どちらがよいですか?

見つけてもらえる確率はプラットフォーム上のプロフィールが高く、表現の自由度は自分のサイトが高くなります。両方持ち、プロフィールには分野と作業範囲を簡潔に書き、詳しい訳文の例は自分のサイトへ案内する形が扱いやすい組み合わせです。

Q. 訳文以外に必ず書いておくべき情報は何ですか?

対応できる言語の組み合わせを方向まで明記すること、納品できるファイル形式と対応工程、納期の見積もり方の考え方、受領資料の保管と削除の方針の4点です。これらは依頼者が問い合わせる前に確認したい項目で、欠けていると連絡する前の段階で候補から外れます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年2月21日最終更新:2026年9月6日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

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