株式を譲るときの承認議事録|譲渡制限のある会社でやること

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
株式を譲るときの承認議事録|譲渡制限のある会社でやること

この記事のポイント

  • 株式譲渡株主総会議事録が必要になるのは
  • 定款に譲渡制限がある会社です
  • 承認を決めるのが株主総会か取締役会かの分かれ目

結論から書きます。株式譲渡株主総会議事録が必要になるのは、定款で株式の譲渡に会社の承認が要ると定めている会社で、かつ承認する機関が株主総会になっている場合だけです。取締役会を置いている会社なら、同じ場面で作るのは取締役会議事録になります。

そしてもう1つ、多くの人が誤解している点があります。株式を誰が持っているかは登記されません。つまり、この議事録は法務局に出す書類ではなく、会社の中に残す書類です。にもかかわらず手を抜くと後で困る理由が、はっきりあります。この記事では、承認が要る会社の見分け方、承認する機関の決まり方、手続きの期限、議事録の書き方と文例、そして議事録を残さなかった会社に何が起きるかまでを順に見ていきます。

承認が要る会社かどうかは定款で決まる

株式には本来、自由に譲り渡せるという性質があります。ただし、会社が定款で「この会社の株式を譲り渡すには会社の承認が要る」と定めることができ、こうした株式を譲渡制限株式と呼びます。

日本の非上場会社では、この定めを置いているのが通常です。株式が自由に動くと、会社と関係のない人がいつの間にか株主になり、経営に口を出せる立場に立ってしまうからです。家族や創業メンバーだけで回している会社ほど、この定めの重みは大きくなります。

自社に譲渡制限があるかどうかは、2か所で確認できます。1つは定款です。「当会社の株式を譲渡により取得するには、株主総会の承認を受けなければならない」といった条文が入っています。もう1つは登記事項証明書です。譲渡制限の定めは登記されるため、「株式の譲渡制限に関する規定」という欄に記載があります。

逆に、この欄が空で定款にも定めがない会社なら、株式は自由に譲れます。承認は要らないので、議事録も要りません。株主名簿を書き換えるだけで終わります。まずここを確かめないと、必要のない会議の議事録を作ることになります。

正直なところ、ここで止まってしまう人がかなり多い印象があります。検索すると譲渡承認のテンプレートが大量に出てくるため、自社に承認制度があるかを確認しないまま埋め始めてしまうのです。順番は逆です。定款を開くのが先です。

承認するのは株主総会か、取締役会か

譲渡制限がある場合、次に決まるのが「誰が承認するか」です。会社法は、原則として株主総会が承認すると定め、取締役会を置いている会社では取締役会が承認すると定めています。ただし、この原則には但し書きがあり、定款に別の定めを置けばそちらが優先します。

つまり判定は3段階です。定款に承認機関の定めがあるなら、それに従います。定めがなく取締役会を置いているなら取締役会です。定めがなく取締役会も置いていないなら株主総会です。

実務では、定款で別の定めを置いている会社がそれなりにあります。「当会社の株式を譲渡により取得することについて当会社の承認を要する場合において、当会社の承認は代表取締役が行う」といった条文です。1人会社や少人数の会社で、いちいち会議を開かずに済ませるための工夫です。この定めがある会社なら、作るのは議事録ではなく「承認書」の形になります。

決議の重さについても触れておきます。譲渡を承認するだけの決議は、特別な多数を必要としない通常の決議です。議決権の過半数を持つ株主が出席し、その過半数の賛成で決まります。ただし、承認せずに会社自身が株式を買い取る道を選ぶ場合は、特別決議という重い方式になります。ここは後の章で詳しく見ます。

請求から名簿の書換えまでの流れ

譲渡承認の手続きは、会社が勝手に始めるものではありません。株主または株式を取得した人が会社に請求するところから動き出します。

株式を譲ろうとしている株主が、会社に対して「この人が株式を取得することを承認するかどうか決めてください」と請求します。これが出発点です。譲り受ける相手の氏名と、譲り渡す株式の数を伝えます。

会社は株主総会または取締役会を開いて、承認するかどうかを決めます。決めたら、請求した人にその内容を通知します。この通知は法律上の義務です。

承認されたら、譲渡する側と譲り受ける側が共同で、株主名簿の書換えを会社に請求します。会社が株主名簿を書き換えて、ようやく譲り受けた人が会社に対して株主だと主張できる状態になります。

順番を飛ばすとどこで詰まるかも押さえておきます。株式の売買契約だけ先に結んでしまい、承認を後回しにするケースがあります。契約自体は当事者の間では有効に成立しますが、会社の承認がない限り、譲り受けた人は会社に対して「自分が株主だ」と言えません。配当も届かず、株主総会の通知も来ません。契約書と承認は、どちらか片方では足りません。

既に株式を取得してしまった人の側から承認を求めることもできます。この場合の請求は、原則として株主名簿に載っている人と共同でしなければならない決まりです。相手と連絡が取れなくなってから動くと手詰まりになるので、承認は取引と同時に片づけるのが安全です。

2週間と40日。放っておくと承認したことになる

この手続きで最も見落とされているのが、会社の側についている2つの期限です。

1つ目は2週間です。承認するかどうかの請求を受けた日から2週間以内に決定の内容を通知しないと、会社は承認したものとみなされます。定款でこれより短い期間を定めることもできますが、伸ばすことはできません。

2つ目は40日です。承認しないと通知した場合、会社は誰かがその株式を買い取る手当てをしなければなりません。通知の日から40日以内に、会社が買い取る旨の通知をしないと、やはり承認したものとみなされます。会社ではなく指定した買取人が買う場合は、期限が10日に短くなります。

つまり、承認したくない相手への譲渡を止めたいなら、会社は期限内に動いて、しかも買い取る手当てまで用意しなければなりません。「気に入らないから放っておく」は、法律上は「承認した」と同じ結果になります。

この仕組みは、株主が株式を換金する道を塞がれないようにするためのものです。譲渡制限は会社を守る制度ですが、株主の財産を会社が一方的に凍結できる制度ではない、という設計になっています。

期限は請求を受けた日から数えます。請求書を受け取ったら、その日付を記録し、2週間後が休日でないかまで確認しておく。地味ですが、ここが効きます。

株主総会議事録に書く項目

株主総会の議事録に書く内容は、会社法の施行規則で決まっています。譲渡承認の場面でも中身は共通です。

開いた日時と場所。オンラインで参加した人がいればその方法。議事の経過の要領とその結果。法定の場面で述べられた意見や発言があればその概要。出席した取締役・会計参与・監査役・会計監査人の氏名。議長がいれば議長の氏名。議事録を作った取締役の氏名。この7つの枠を埋めれば、形式としては足ります。

譲渡承認の議事録で追加して書いておきたいのは、誰から誰に、どの株式が、何株動くのかです。後から株主名簿と突き合わせるとき、この3点がないと照合できません。種類株式を出している会社なら、種類も書きます。

議事録は会社の本店に10年間備え置く義務があります。支店にはその写しを5年間置きます。株主と債権者は、会社の営業時間内であればいつでも閲覧や謄写を請求できます。「社内の書類だから適当でいい」という性質のものではありません。

株主総会議事録の文例

譲渡制限株式の譲渡を、株主総会で承認する場合の骨格です。会社名・日付・氏名・株数は自社のものに置き換えてください。

臨時株主総会議事録

1. 日時 2026年10月1日 午前10時00分
2. 場所 東京都渋谷区○○1丁目2番3号 当会社本店会議室
3. 出席者
   発行済株式の総数 1,000株
   議決権を行使できる株主の総数 4名
   議決権を行使できる株主の議決権の数 1,000個
   出席株主数(委任状による者を含む) 4名
   出席株主の議決権の数 1,000個
4. 出席役員 代表取締役 ○○ ○○
             取締役   △△ △△
5. 議長 代表取締役 ○○ ○○
6. 議事録作成者 代表取締役 ○○ ○○

議長は、定刻に開会を宣し、上記のとおり定足数を満たしている旨を述べ、
議案の審議に入った。

第1号議案 株式譲渡承認の件

議長は、株主○○ ○○より、その保有する当会社の普通株式200株を
□□ □□に譲渡したい旨の承認請求があったことを報告し、
これを承認することの可否を議場に諮った。

   譲渡人 ○○ ○○
   譲受人 □□ □□
   譲渡する株式の種類および数 当会社普通株式 200株

審議の結果、出席株主の議決権の過半数の賛成をもって、
上記の譲渡を承認することが可決された。

以上をもって本日の議案の全部を終了したので、議長は閉会を宣した。
上記の決議を明確にするため、この議事録を作成する。

2026年10月1日
株式会社○○ 臨時株主総会

議長 代表取締役 ○○ ○○  印

承認したら、請求してきた人に通知する書面も忘れないでください。通知は法律上の義務であり、しかも通知しないまま2週間が過ぎると承認したものとみなされてしまいます。手元に控えを残す形で出すのが確実です。

取締役会で承認する場合の議事録

取締役会を置いている会社では、同じ内容を取締役会議事録として作ります。株主総会議事録との違いが3つあります。

1つ目が署名です。取締役会の議事録には、出席した取締役と監査役が署名または記名押印することになっています。株主総会議事録には、こうした全員の署名の定めはありません。

2つ目が特別な利害関係の扱いです。取締役会の決議で特別の利害関係を持つ取締役は、議決に加わることができません。譲渡承認の場面では、譲渡する本人や譲り受ける本人が取締役である場合にこれに当たると考えられます。該当する取締役がいるときは、その氏名を議事録に書く決まりです。定足数の計算からもその人を外すため、取締役が2人の会社で片方が当事者だと、決議が成立しない事態も起こり得ます。

3つ目が備置きの場所です。取締役会議事録も本店に10年間備え置きますが、株主が閲覧するには原則として裁判所の許可が必要になるなど、扱いが株主総会議事録とは異なります。

株主総会での承認なら、当事者である株主が議決権を行使すること自体は原則として禁じられていません。ただし、著しく不当な決議がされた場合には、決議の取消しを求める訴えの理由になり得ます。少数株主を締め出すような使い方はできない、という歯止めです。

登記が要らないのに議事録を残す理由

株式を誰が持っているかは、登記事項ではありません。株主が入れ替わっても法務局に出す書類はなく、登録免許税もかかりません。だから「書類を作らなくても誰にも怒られない」と考えてしまう人がいます。

そこが落とし穴です。困るのは、株を動かした瞬間ではなく、数年後に第三者が入ってくるときです。

会社を売る話が出たとき、買い手は必ず株主の履歴を確認します。設立時から現在までの株主の移り変わりが、承認の記録と株主名簿で一貫して説明できるか。ここに穴があると、価格が下がるか、話そのものが止まります。金融機関の融資審査や、大手企業との新規取引の与信でも、株主構成の説明を求められることがあります。

相続が起きたときも同じです。株主が亡くなって相続人の間で争いになったとき、過去の譲渡が有効だったかどうかは、承認の記録で決まります。議事録がないと、口頭の記憶で争うことになります。

税務の面でも記録は効いてきます。非上場株式の評価は、誰が取得したかで方法が変わる仕組みになっています。

取引相場のない株式( 「上場株式」 および 「気配相場等のある株式」 以外の株式をいいます。)は、相続や贈与などで株式を取得した株主が、その株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主等か、それ以外の株主かの区分により、それぞれ原則的評価方式または特例的な評価方式である配当還元方式により評価します。 出典: nta.go.jp

誰が同族株主に当たるかは、株式の移動の記録から判定します。記録が曖昧な会社は、税務署への説明にも苦労することになります。なお、株式の値段をいくらに設定すべきかは、会社の規模や資産の中身で大きく変わります。安すぎる価格で譲ると贈与とみなされることがあるため、金額の設定は税理士に確認してから決めてください。

条文そのものを確認したい場合は、e-Gov法令検索の会社法で譲渡制限株式に関する条文を読むことができます。解説記事は改正前の内容が残っていることがあるので、期限のような数字は条文で裏を取るのが安全です。

承認しない選択をしたときに会社が背負うもの

承認しないという結論も、もちろん取れます。ただし、その先に会社の負担が待っています。

承認しないと通知した場合、会社は自分で買い取るか、買い取る人を指定するかを選ぶことになります。会社が自分で買い取る決定をするには、株主総会の特別決議が必要です。議決権の過半数を持つ株主が出席し、その3分の2以上の賛成が要ります。しかも、このとき売主である株主は、この決議で議決権を行使できません。

価格は当事者の協議で決めますが、まとまらなければ裁判所に決めてもらう道になります。会社が買い取る場合には、分配可能な利益の範囲でしか買えないという財源の制限もかかります。赤字続きの会社は、買い取りたくても買えないことがあります。

こうした負担があるため、実務では「承認しない」という選択が取られる場面は限られます。会社と揉めている株主が外部に株を売ろうとしている、といったケースです。日常の株の移動、たとえば創業メンバーの1人が抜ける、後継者に株を集める、といった場面では、承認するのが通常です。

現実的な備えは、承認する場面を減らす設計です。株主の間で「株を外に出す前に会社に声をかける」と約束する株主間契約を結んでおく、あるいは定款で承認機関を代表取締役にして機動的に動けるようにしておく。こうした手当ては、実際に株が動く前にしかできません。

相続で株が動いた場合

株主が亡くなり、相続人が株式を引き継いだ場合は、譲渡ではないため承認の手続きは要りません。相続は当事者の意思による譲渡ではないからです。

ただし、それは「知らない人が株主になってしまう」という結果を招きます。このため会社法には、定款に定めを置けば、相続で株式を取得した人に対して会社への売渡しを請求できる仕組みが用意されています。この請求には株主総会の特別決議が必要で、相続を知った時から1年以内という期限もあります。

中小企業の事業承継では、この株式の分散が実務上の大きな論点になります。中小企業庁が事業承継に関する情報を事業承継・引継ぎ支援のページにまとめているので、後継者に株を集める段階に入っている会社は一度目を通しておくと判断が早くなります。

なお、相続税や贈与税の扱い、株式の評価額の算定は、会社の資産構成と株主の関係で変わります。ここは一般論では決められない領域なので、税務署か税理士に確認してから進めてください。

株主名簿は「あとで作る」ができない書類

譲渡承認とセットで必ず出てくるのが株主名簿です。承認しただけでは株主は変わりません。名簿を書き換えて初めて、譲り受けた人は会社に対して株主だと主張できます。

株主名簿に書く内容は決まっています。株主の氏名または名称、住所、持っている株式の種類と数、株式を取得した日。株券を発行している会社なら株券の番号も入ります。エクセルの1枚で足りる程度の情報量です。

問題は、多くの小さな会社がこれを作っていないことです。設立時の出資者がそのまま株主で、動きもないから作らなかった。ところが最初の譲渡が起きた瞬間、「書き換える元の名簿がない」という状態になります。

名簿がない会社が登記の場面で困るのが、株主リストです。株主総会の決議が必要な登記では、法務省が定める形式の株主リストを添付することになっています。

●議決権数 上位10名 の株主 ※4 ●議決権割合が 2/3に達するまで の 株主 ※4,5 ・・・いずれか 少ない方 の株主について,次の事項を記載した株主リスト 出典: moj.go.jp

この株主リストには、氏名・住所・株式数・議決権数・議決権割合を代表者が証明して書きます。株式譲渡そのものでは登記が要らないので株主リストも不要ですが、役員を変える登記や定款を変える登記のたびに提出することになります。譲渡の記録を放置していると、次の登記の場面で「今の株主が誰なのか説明できない」という壁にぶつかります。

名簿を作る手間は、株主が5人以下の会社なら1時間もかかりません。作らないことで生まれる手間のほうが、後で必ず大きくなります。

みなし承認を防ぐための社内の運用

2週間と40日という期限は、知っていても守れなければ意味がありません。実際に問題が起きるのは、請求書が代表者の手元に届いていなかった、あるいは届いていたが処理が止まっていた、というケースです。

現実的な手当ては3つあります。

1つ目は、受付日を記録する仕組みを作ることです。譲渡承認の請求を受け取ったら、受け取った日付をその場で書き込み、期限の日をカレンダーに入れる。請求は郵送で来ることも、メールで来ることもあります。どの経路で来ても日付が残る形にしておきます。

2つ目は、承認機関を定款で調整しておくことです。株主が散らばっていて株主総会を開くのに時間がかかる会社なら、承認機関を取締役会または代表取締役に変えておくことで、2週間という期限に間に合いやすくなります。定款を変えるには株主総会の特別決議が要るので、平時のうちにやっておく作業です。

3つ目は、株主総会を開かずに決議する方法を使うことです。株主の全員が書面か電子的な記録で同意すれば、株主総会の決議があったものとみなされます。全員が集まる日程を待たずに済むため、期限が迫っているときの現実的な手段になります。この場合の議事録には、決議があったとみなされた事項の内容、提案した人の氏名、みなされた日、議事録を作った取締役の氏名を書きます。同意の書面はみなされた日から10年間、本店に備え置きます。

期限を過ぎて承認したことになってしまった場合、その結果をひっくり返す手段は基本的にありません。止めたい相手への譲渡が成立してしまうのです。だからこそ、仕組みで防ぐ価値があります。

名義の書換えは、譲った側と譲り受けた側が一緒に請求する

承認が出たら次は株主名簿の書換えですが、ここで見落とされやすいのが「誰が請求するのか」です。

会社法は、株式を取得した人が会社に対して名簿への記載を請求できると定めています。ただし同じ条文の次の項で、その請求は原則として、名簿上の株主、つまり譲り渡した側と共同でしなければならないとされています。買った側が単独で会社に持ち込んでも、原則としては足りません。売った側がすでに連絡を絶っていたり、条件でもめて協力しなくなっていたりすると、ここで手続きが止まります。

譲渡制限株式には、もう1段の仕組みがあります。譲渡制限株式ではこの共同請求の規定がそのまま当てはまらず、会社の承認を受けていること、指定買取人であること、相続などの一般承継で取得したこと、といった場合に限って請求できるようになっています。承認があって初めて書換えを請求できる、という順番が条文の構造として組まれているわけです。承認の議事録が名簿の書換えの前提になるのは、この並びから来ています。

書換えが済んだあとの確認方法も用意されています。株主は会社に対して、自分についての株主名簿記載事項を記載した書面の交付を請求でき、その書面には代表取締役が署名または記名押印します。株券を発行している会社には、この仕組みは適用されません。株券のない会社では、この書面が「自分は株主である」ことを外に示す唯一の書類になります。融資の保証や補助金の申請で株主構成の証明を求められたときに使えるので、書換えを頼むときに一緒に交付も頼んでおくと二度手間になりません。

書換えを後回しにすると、具体的に何が起きるかも押さえておいてください。会社は名簿に載っている人を株主として扱えばよいことになっています。つまり、承認まで済んでいても名義を書き換えていない間は、配当の支払いも株主総会の招集通知も、譲り渡した側に届きます。譲り受けた側が「配当が来ない」と会社に言っても、名簿のとおりに扱った会社の対応が誤っているわけではありません。株を買ったのに株主として扱われない期間が生まれるのは、承認ではなく書換えを飛ばしたことが原因です。

実務としては、承認の決議、名義書換の請求、名簿記載事項の書面の交付を、同じ日のうちに済ませてしまうのが安全です。譲り渡した側が協力してくれる時間は、思っているより短いことがあります。

合同会社で持分を譲るときは、仕組みがまるごと違う

会社の形が合同会社なら、ここまでの話はそのまま当てはまりません。持分会社には株式がなく、社員の持分という別の考え方を使うからです。

原則は、株式会社より厳しい方向に振れています。社員は、他の社員の全員の承諾がなければ、その持分の全部または一部を他人に譲渡することができません。株式会社の譲渡承認は「会社が承認するかどうか」でしたが、合同会社は「他の社員が全員承諾するかどうか」です。社員が3人いて1人が反対すれば、それで譲渡はできません。会社が買い取る、買い取る人を指定する、といった逃げ道も用意されていません。

例外が1つ置かれています。業務を執行しない有限責任社員であれば、業務を執行する社員の全員の承諾があるときに限って譲渡できます。出資だけをして経営に関わらない社員を想定した規定です。そして、この譲渡にともなって定款を変える必要が生じるときは、その定款変更も業務を執行する社員の全員の同意でできます。持分会社の定款変更には原則として総社員の同意が必要なので、ここだけが軽くなっている形です。

これらはいずれも、定款で別の定めを置くことが認められています。社員の入れ替わりが起きそうな合同会社では、平時のうちに定款を見直しておく価値があります。

登記の扱いも違います。合同会社で登記されるのは、業務を執行する社員の氏名と、会社を代表する社員の氏名および住所です。社員全員の氏名は登記事項ではありません。だから、経営に関わらない社員が持分を譲っただけなら登記は発生せず、業務執行社員や代表社員が入れ替わるときに限って、変更が生じた日から2週間以内の登記が必要になります。その税額は、資本金1億円以下の会社なら1万円です。株式の譲渡そのものには登記が不要な株式会社と、ここが分かれます。

もう1つ、抜けたあとに残る責任の規定があります。持分の全部を譲渡した社員は、その旨の登記をする前に生じた会社の債務について、従前の責任の範囲内で弁済する責任を負い、この責任は登記から2年以内に請求または請求の予告がなければ消えます。ただし合同会社は社員が全員有限責任で、出資も設立や加入のときに全額払い込む決まりなので、この責任が実際に効いてくる場面は限られます。無限責任社員がいる合名会社や合資会社では意味が大きく変わるところです。

20年市場を見てきた立場からの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、法人化して数年たった会社が急いで株の整理を始める時期には、はっきりした傾向があります。人を採る直前と、大きめの取引先が決まった直後です。どちらも、外から会社の中身を見られる場面が来るタイミングです。

そして、そこで慌てて過去を遡ろうとして困るのが、承認の記録です。株を動かした当時は「身内だから」と口約束で済ませていたものが、数年後に説明を求められる。運営者として見てきた限りでは、記録を残す手間より、記録がないまま遡る手間のほうが何倍も大きくなります。議事録1枚は、その場では30分の作業です。

もう1つ気づくのは、長く続いている事業者ほど、書類を「誰かに見せるため」ではなく「自分が忘れるため」に作っていることです。人は3年前の取り決めを覚えていられません。覚えていられないことを前提に設計している人が、結果として揉めずに済んでいます。

中間に人が入らない直接の取引では、依頼する側は同じ予算でより多くを頼め、受ける側は手取りが厚くなります。手数料0%という仕組みが効くのは、この「積み上がる関係」の部分です。単発で終わる仕事より、毎月続く取引のほうが差は大きくなります。

株主構成を整えたあとに手をつけたいこと

株の整理は、事業そのものを強くする作業ではありません。整えたあとに何で稼ぐかのほうが本題です。

技術系の受託を法人の柱にするなら、単価の目安を持っておくと見積もりの根拠を説明しやすくなります。ソフトウェア作成者の年収・単価相場は、職種ごとの年収と単価の水準を公的な統計から整理したページで、価格交渉の土台として使えます。書く仕事が中心なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場のほうが実態に近い数字が並びます。株主を増やして資本を入れるより、単価を上げるほうが早いことは珍しくありません。

伸びている領域から柱を選びたいなら、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事が、企業側の需要がどこに向いているかを仕事の中身から整理しています。継続契約になりやすい分野を知っておくと、株の議論より先に手を打てます。開発の受託を増やしたい場合はアプリケーション開発のお仕事が工程ごとの関わり方をまとめています。

資格の面では、議事録や契約書を扱う機会が増える立場ならビジネス文書検定が実務にそのまま効きます。インフラ寄りの案件を取りたいならCCNA(シスコ技術者認定)が入口として機能します。

取引先が増えれば、支払いをめぐるもめごとの確率も上がります。未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】は、費用の目安と手続きの順番を段階ごとに整理しているので、実際に困る前に読んでおくと判断が早くなります。発注書と契約書に何を書いておくべきかはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが項目単位でまとめています。会計まわりを自分で回すか外に出すかを考えている段階なら、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】が、会計の専門家がどういう単位で仕事を受けているかを知る手がかりになります。

株式の譲渡は、金額と人間関係の両方が絡みます。この記事で整理したのは一般的な扱いであり、実際の承認機関や期限は自社の定款で変わります。価格の妥当性や税務上の扱いも会社ごとに違うため、最終的な判断は定款を確認したうえで、司法書士・税理士・弁護士に相談してから進めてください。

よくある質問

Q. 株式譲渡の承認議事録は法務局に提出しますか?

提出しません。株主が誰かは登記事項ではないため、株式を譲渡しても登記の変更は不要です。議事録は会社の本店に10年間備え置く社内の書類になります。ただし会社の売却や融資の審査では株主の履歴を求められるため、残していないと後で説明できなくなります。

Q. 承認するのは株主総会と取締役会のどちらですか?

定款に承認機関の定めがあればそれに従います。定めがなく取締役会を置いている会社なら取締役会、取締役会を置いていない会社なら株主総会です。定款で代表取締役の承認と定めている会社もあり、その場合は議事録ではなく承認書を作ります。

Q. 会社が承認しないまま放置するとどうなりますか?

承認するかどうかの請求を受けた日から2週間以内に決定を通知しないと、会社は承認したものとみなされます。承認しないと通知した場合も、その日から40日以内に買取りの通知をしなければ、やはり承認したものとみなされます。放置は承認と同じ結果になります。

Q. 株式の譲渡価格はどう決めればよいですか?

当事者の協議で決めるのが基本ですが、非上場株式は相続税の評価方法が会社の規模や株主の立場で変わるため、安すぎる価格で譲ると贈与とみなされることがあります。会社の資産構成によって適正額が大きく変わるので、金額を決める前に税理士に確認してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月21日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド

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SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方