印鑑届書のひな形と記入例


この記事のポイント
- ✓法人印鑑届出書(印鑑届書)のひな形の入手先と
- ✓1枚の紙をどの順番で埋めるかを記入例つきで整理しました
- ✓押す印鑑が2本あること
まず、安心してください。法人印鑑届出書は、A4の紙1枚です。書く項目は10もありません。会社の名前、本店の住所、代表者の資格と氏名と生年月日。あとは印鑑を2か所に押して、個人の印鑑証明書を1通つければ終わりです。
つまずくのは、押す印鑑が2種類あることに気づかないときと、添付する印鑑証明書に期限があることを知らないときです。この2つを外すと窓口で差し戻され、設立の登記ごと止まります。ここでは、ひな形をどこから手に入れて、1枚の紙を上からどの順で埋めるのかを、法務局と法務省が公表している様式と記載例で確かめた内容だけで並べます。代理の人に出してもらう場合の書き方と、オンラインで出すときに様式が変わる点もあわせて書きます。
ひな形は法務局のサイトにあり、2つの種類がある
紙の様式は法務局のサイトで配られています。「商業・法人登記の申請書様式」というページの後半、第8という区切りに並んでいます。ここで注意したいのは、置いてあるものが2つの性格に分かれていることです。
1つめが、法人の種類ごとの記載例です。株式会社、特例有限会社、持分会社、NPO法人、一般社団法人、一般財団法人、事業協同組合、社会福祉法人、医療法人、学校法人、管理組合法人、有限責任事業組合、投資事業有限責任組合、商号使用者、会社支配人と、15種類ぶんのPDFが並んでいます。これは見本であって、書き込む用紙ではありません。自分の法人の種類に合うものを開いて、どの欄に何が入るのかを目で確かめるために使います。
2つめが、実際に書き込む「印鑑(改印)届書」の様式です。こちらはPDFとExcelの両方が用意されています。書式は法人の種類で分かれておらず、1つの様式に全種類ぶんの選択肢が並んでいる作りです。資格の欄に「代表取締役・取締役・代表理事・理事」と候補が印刷されていて、自分に当たるものを丸で囲む、という埋め方をします。
紙に手書きするならPDFを印刷し、パソコンで打ち込んでから印刷したいならExcelを使ってください。どちらでも受け付けられます。ただし印影だけは、印刷した紙に実物の印鑑を押す必要があります。画像を貼り付けた「電子印鑑」は届け出られません。この点は後述します。
設立の登記を申請するのと同時に出す場合は、設立の申請書一式の中にこの1枚を挟み込みます。法務局のサイトでも、株式会社の設立登記申請書の記載例のところに印鑑届書の様式と記載例が並べて置かれていて、セットで用意することが前提になっています。
太枠の中だけを埋める。外側は登記所が使う欄
様式を開くと、太い枠で囲まれた区画があります。記載例の冒頭には「太枠の中に書いてください」と書かれています。
太枠の外にある「印鑑処理年月日」「印鑑処理番号」「受付」「調査」「入力」「校合」といった欄は、登記所の職員が処理の記録を残すためのものです。ここは空欄のまま出します。親切心で日付を入れたりすると、かえって補正の対象になります。
太枠の中は、大きく4つの塊に分かれています。上から順に、提出する印鑑を押す欄、印鑑提出者の情報を書く欄、印鑑カードの引き継ぎに関する欄、そして届出人の欄と委任状です。この順番で埋めていけば迷いません。
提出する印鑑を押す欄が、この書類の本体
左上に大きめの四角があり、記載例では「提出する印鑑」「届出印は鮮明に押印してください」と説明が添えられています。ここに押した印影が、そのまま会社の実印として登記所に登録されます。
押し直しはできないと考えてください。かすれたり、二重に写ったり、朱肉がにじんで輪郭が埋まったりしたものを出すと、照合に適さないと判断されます。法務局は、登記の申請書に押された印鑑が照合に適さないものであるときは、登記官が改印その他相当の措置を求めることができるとしています(商業登記規則第9条の3)。つまり、あとから押し直しを求められる可能性があります。
朱肉は印鑑用のものを使い、下に硬い板を敷いて、垂直に押してください。練習用に別の紙で何度か押してから本番に移ると失敗が減ります。押し損じたら、その紙は捨てて新しい様式に書き直すのが確実です。修正液で消したり、二重線を引いて隣に押し直したりすると、どちらが届出印なのか判断できなくなります。
会社の名前と本店は、登記するとおりに一字一句合わせる
印影の右側に、商号・名称の欄と、本店・主たる事務所の欄があります。株式会社の記載例では「株式会社 法務商事」「東京都千代田区霞が関一丁目1番1号」と入っています。
ここで多いつまずきが、住所の書き方です。ふだん名刺に刷っている「1-1-1」のような略した書き方は使いません。登記する住所と同じく「一丁目1番1号」の形で書きます。丁目は漢数字、番と号は算用数字という組み合わせが標準です。設立の登記を同時に申請するなら、申請書に書いた本店の表記をそのまま写してください。表記が1文字でも違うと、別の住所として扱われかねません。
商号も同じです。株式会社を前に付けるか後ろに付けるかは会社ごとに決まっているので、定款と登記申請書に合わせます。記載例のように、会社の種類を表す部分と固有の部分の間に空白を入れている場合は、その空白の有無まで登記の表記に合わせてください。
資格・氏名・生年月日の3つは、本人を特定するための欄
その下に「印鑑提出者」という縦書きのラベルが付いた区画があり、資格、氏名、生年月日の3つを書きます。
資格の欄は、印刷されている「代表取締役・取締役・代表理事・理事」から自分に当たるものを選びます。株式会社で取締役会を置いている会社なら代表取締役、取締役会を置いていない会社で代表取締役を定めていないなら取締役です。候補に無い立場のときは、隣の空欄に書き込みます。
氏名は戸籍のとおりに書きます。ふだん略字を使っている人でも、ここは住民票や印鑑登録証明書と同じ字を使ってください。
生年月日の欄には「大・昭・平・西暦」という選択肢が印刷されています。自分の使う表記を丸で囲んで、年月日を入れます。ここに生年月日を書かせるのは、同姓同名の代表者を区別するためです。省略できません。
押す印鑑は2本ある。ここが最大の落とし穴
この書類でいちばん間違えやすいのが、印鑑を押す場所が2か所あり、それぞれ違う印鑑だという点です。
1か所目が、すでに触れた左上の「提出する印鑑」の欄です。ここには会社の実印にする印鑑を押します。まだ登録されていない、これから登録する印鑑です。
2か所目が、下のほうにある届出人の欄です。ここには代表者個人が市区町村に登録済みの印鑑、つまり個人の実印を押します。記載例の欄外にも「市区町村に登録済の印鑑」と注記が入っています。
なぜ2本要るのかというと、会社の印鑑を登録するときに「この印鑑を届け出ているのは本当に代表者本人か」を確かめる必要があるからです。その確認を、個人の実印と、あとで述べる個人の印鑑証明書の組み合わせで行っています。会社の実印だけを押して出すと、本人確認ができていないとして受け付けてもらえません。
逆に、下の届出人欄に会社の印鑑を押してしまう間違いもあります。会社の印鑑はまだ登録されていないので、押しても本人確認の役に立ちません。上は会社、下は個人と覚えてください。
添付する個人の印鑑証明書は「作成後3か月以内」
この届書には、代表者個人の印鑑証明書を1通添付します。市区町村役場で取る、個人用のあれです。記載例の注記にも「この届書には作成後3か月以内の本人の印鑑証明書を添付してください」と書かれており、様式の一番下にも添付書面として明記されています。
期限は商業登記規則でも定められています。
第一項後段の規定により同項の書面に押印した印鑑につき市町村長(特別区の区長を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあつては、市長又は区長若しくは総合区長とする。以下同じ。)の作成した証明書で作成後三月以内のもの。 出典: laws.e-gov.go.jp
会社を作るときは、定款を公証役場で認証してもらう段階でも個人の印鑑証明書を使います。そのときに2通まとめて取っておくと、あとで取りに戻らずに済みます。ただし、定款認証で使ったぶんは公証役場に渡してしまうので、登記所に出すぶんは別に用意してください。
もうひとつ、通数を減らせる道があります。様式の下のほうに「市区町村長作成の印鑑証明書は、登記申請書に添付のものを援用する」というチェック欄があります。設立の登記申請書にも代表者の印鑑証明書を添付する場合、同じものを使い回してよい、という意味です。この欄にレ点を入れれば、印鑑届書のために追加で1通用意する必要はありません。1通あたりの手数料は数百円ですが、役所に行く回数が減るほうが大きな節約になります。
会社法人等番号の欄は、設立のときは空欄でよい
中ほどに「会社法人等番号」という欄があります。記載例には「0101-01-000001」のような12桁の数字が入っていますが、その横に「新設の際は記載不要です」と注記されています。
会社法人等番号は、登記が完了して初めて割り当てられるものです。設立登記と同時に印鑑届書を出す段階ではまだ存在しないので、空欄のまま出します。
すでに登記されている会社が代表者の交代などで印鑑を届け直す場合は、ここに番号を入れます。番号は登記事項証明書の左上に印字されているほか、法務省が案内しているオンライン登記情報検索サービスでも調べられます。
オンライン登記情報検索サービスは、会社・法人の商号・名称、所在地及び会社法人等番号を検索することができるサービスです。 出典: moj.go.jp
いちばん上にある「申請番号(受付番号)」の欄も、紙で提出する場合は空欄で構いません。記載例には「オンライン申請の場合には、申請番号又は受付番号を余白に記載してください」と書かれており、オンライン申請のときだけ使う欄だと分かります。
印鑑カードを引き継ぐかどうかのチェック欄
会社法人等番号の左に、小さなチェック欄が2つ並んでいます。「印鑑カードは引き継がない」と「印鑑カードを引き継ぐ」です。
印鑑カードは、会社の印鑑証明書を取るときに窓口で提出するカードです。代表者が交代しても、前の代表者が使っていたカードをそのまま引き継いで使うことが認められています。
印鑑の提出をした者がその資格を喪失し、又は印鑑の廃止をした場合においては、その者に替わつて新たに印鑑を提出する者は、印鑑の提出と同時に申し出ることにより、資格を喪失し、又は印鑑の廃止をした者の印鑑カードを承継して使用することができる。 出典: laws.e-gov.go.jp
引き継ぐ側にレ点を入れた場合は、その下の「印鑑カード番号」と「前任者」の欄も埋めます。カード番号はカードの表面に印字されている「1234-1234567」のような形の番号です。前任者の欄には、そのカードを使っていた前の代表者の氏名を書きます。
新しく会社を作るときは、そもそも引き継ぐカードがありません。この欄は空欄のままで問題ありません。印鑑カードがほしい場合は、印鑑届書とは別の「印鑑カード交付申請書」を出すことになります。こちらは手数料がかからず、法務局が示す標準処理期間も申請書の提出から即日です。
代理の人に出してもらうときは、委任状の欄を使う
司法書士に登記を頼んだ場合や、家族や社員に持って行ってもらう場合は、届出人の欄で「代理人」のほうにレ点を入れます。
このとき、住所と氏名の欄に書くのは代理人の住所と氏名です。代表者本人ではありません。そして記載例には、はっきりと「代理人は押印不要」と書かれています。代理人の認印を押す必要はありません。
代わりに埋めるのが、その下にある委任状の欄です。この様式は、委任状が下半分に組み込まれた作りになっています。別紙を用意する必要はありません。
委任状の欄には、まず代理人の住所と氏名を書きます。「私は、(住所)(氏名)を代理人と定め」という文の空欄部分です。次に、委任する権限の範囲を選ぶチェック欄が2つあります。「印鑑(改印)の届出」と「添付書面の原本還付請求及び受領」です。原本還付というのは、添付した個人の印鑑証明書を返してもらう手続きのことです。必要なほうにレ点を入れます。
そして日付を入れ、委任した本人、つまり代表者個人の住所と氏名を書いて、ここに個人の実印を押します。この位置には「市区町村に登録した印鑑」と注記が入っています。本人が直接出す場合の押印位置と同じ考え方で、本人確認は個人の実印と印鑑証明書で行われます。
代理人に出してもらう場合も、添付する個人の印鑑証明書は必要です。代理人の印鑑証明書ではなく、代表者本人のものを用意してください。
届出人の住所は、登記される代表者の住所と合わせる
記載例の注記に、見落としやすい一文が入っています。本人の住所や氏名が登記簿上の代表者の住所や氏名と一致しない場合には、代表者の住所または氏名の変更の登記をする必要がある、という内容です。
引っ越したのに代表者の住所変更の登記をしていない会社は珍しくありません。その状態で印鑑を届け直そうとすると、まず住所変更の登記から片付けることになります。設立のときは登記と同時なのでずれませんが、代表者が交代したり住所が変わったりしたあとに印鑑を届け直す場合は、先に登記簿の記載を確かめてください。
オンラインで出すなら、様式そのものが別になる
登記の申請をオンラインで行い、印鑑の届出もオンラインで済ませたい場合、ここまで説明してきた紙の様式は使いません。法務省が専用の様式を別に用意していて、印刷の仕方からスキャンの解像度まで細かく決められています。
専用様式には1センチメートルごとの目盛りが印刷されています。これは印影の大きさを機械で測るためのもので、拡大や縮小をして印刷すると目盛りが狂い、正しく登録できなくなります。用紙はA4で、汚れや折れや濡れのないものを使い、印刷した様式をさらにコピーして使うことも禁じられています。
押印についても指定があります。
様式には、必ず物体による印章を用いて押印してください。物体による印章ではない「電子印鑑」や「電子ハンコ」は、届け出ることはできません。 出典: moj.go.jp
押したあとは、原寸大でスキャンしてPDFにします。解像度の目安は600dpi程度とされています。低い解像度で取り込んで印影がつぶれていると、登記官の判断で原本の提出を求められることがあります。そのうえで、作った PDF に電子署名を付けて送信します。使える電子証明書は、商業登記電子証明書、マイナンバーカードによる公的個人認証サービスの電子証明書、そして指定された特定認証業務の電子証明書です。
注意点が2つあります。1つは、印鑑の提出だけを単独でオンラインで行うことはできず、必ず登記申請のデータと一緒に送る必要があること。もう1つは、書面申請の場合、QRコード付き書面申請を含めて、従来どおり紙の印鑑届書が必要になることです。オンライン申請にしたつもりでも、委任状を紙で持参したり郵送したりする場合は紙の届書が要ります。
合同会社や一般社団法人でも、書く紙は同じ
株式会社以外の法人を作る人から「うちの様式は別にあるのか」と聞かれることがありますが、書き込む様式は同じ1種類です。違うのは、資格の欄に何を書くかと、記載例のどれを見本にするかだけです。
合同会社などの持分会社であれば、資格は代表社員です。様式に印刷されている候補には代表社員が無い場合があるので、隣の空欄に書き込みます。一般社団法人と一般財団法人なら代表理事、医療法人なら理事長というように、その法人の代表者を表す肩書を入れてください。
NPO法人、社会福祉法人、学校法人、事業協同組合、管理組合法人、有限責任事業組合、投資事業有限責任組合についても、法務局が記載例を用意しています。自分の法人の種類に合う記載例を1つ開いて、資格欄に何が入っているかだけ確かめてから書き始めると確実です。
添付する個人の印鑑証明書が要る点、作成後3か月以内という期限、印鑑の大きさの決まりは、どの法人でも共通です。会社支配人や商号使用者の届出になると、押す印鑑や添付する書面の組み合わせが変わるので、その場合だけは記載例をよく読んでください。
印鑑を変えたいときも、同じ様式を使う
様式の名前が「印鑑(改印)届書」となっているとおり、この1枚は新しく届け出るときと、届け出た印鑑を別のものに変えるときの両方に使います。
会社の実印を紛失した、欠けてしまった、代表者が交代したので作り直した。こうした場合は、新しい印鑑を左上の欄に押し、同じように代表者個人の実印と印鑑証明書をそろえて出します。前の印鑑を返す必要はありません。新しい届出を受け付けた時点で、前の印影は使えなくなります。
似た手続きに「印鑑・印鑑カード廃止届書」があります。こちらは、新しい印鑑を登録せずに、届け出ている印鑑そのものを取り下げるときの書類です。会社をたたむ前段階や、印鑑を盗まれた可能性があって急いで無効にしたいときに使います。商業登記規則では、この廃止の届出をするとき、印鑑カードを提示すれば押印が要らないと定められています。カードを持って窓口に行けば、実印が手元に無くても止められるということです。
印鑑を変えたあとは、印鑑カードの扱いも確かめてください。カードそのものは印鑑と別の管理なので、同じ人が届け直す場合はカードを作り直す必要はありません。代表者が交代する場合は、前任者のカードを引き継ぐか、新しく交付を受けるかを届書の上で選びます。
窓口で差し戻される形は、だいたい決まっている
実際に補正になりやすいのは、次のような場面です。事前に目を通しておくと、多くは出す前に気づけます。
印影がかすれている、または濃すぎて輪郭がつぶれている。これがいちばん多い形です。押し直しではなく、新しい紙に書き直すのが正解です。
本店の住所を「1-1-1」のように略して書いた。登記の表記と一致しないため、書き直しを求められます。
添付した個人の印鑑証明書が3か月を超えていた。定款認証のときにまとめて取ったものを、登記の申請まで手元に置いているうちに期限が切れるパターンです。認証から登記までに時間が空いたときは、日付を確かめてください。
届出人の欄に会社の印鑑を押してしまった。上下の使い分けを取り違えた形で、個人の実印を押し直すことになります。
代理人に出してもらったのに、委任状の欄が空のままだった。あるいは、委任状の押印を代理人がしてしまった。委任状に押すのは、委任した代表者本人の個人の実印です。
代表者の住所が登記簿と違っていた。印鑑届書の問題ではなく、住所変更の登記が先に必要になる形です。
いずれの場合も、登記所から申請書に書いた電話番号に連絡が入ります。その日のうちに折り返せる番号を書いておくと、手続きが止まる時間が短くなります。
そもそも印鑑の届出は義務ではなくなっている
意外に知られていませんが、法人の印鑑を登記所に届け出る義務は、法律上はすでに無くなっています。商業登記法で印鑑の提出を定めていた第20条は削除されていて、現在は空欄になっています。
では出さなくてよいのかというと、実務では話が別です。書面で登記を申請する場合、申請書や委任状には登記所に提出している印鑑を押すことが商業登記規則第35条の2で定められています。印鑑を提出していなければ、この押印ができません。また、会社の印鑑証明書を請求できるのは印鑑を登記所に提出した者だけです(商業登記法第12条第1項)。
会社の印鑑証明書は、銀行で法人口座を開くとき、事務所を借りるとき、自動車を買うとき、大きな取引先と契約するときに求められます。取引の相手から見れば、印鑑証明書を出せない会社は確認の手間がかかる相手です。実務上は、出しておかないと困る場面のほうが圧倒的に多いと考えてください。
すべてをオンラインで完結させ、電子署名だけで取引する体制を整えられる会社であれば、届け出ない選択もあり得ます。ただし個別の判断は取引先との関係で変わるので、迷うなら管轄の登記所か司法書士に確認してください。
届け出たあと、その印鑑をどう置いておくか
届出が通ると、その印影は会社の実印として登記所のファイルに記録されます。記録の保存期間は永久とされていて、資格の喪失や廃止の記録が入ったものだけが、その記録をした日から2年間で整理されます。会社が続くかぎり、登録した印影はずっと照合の基準として残るということです。
だからこそ、実物の管理は分けて考えてください。会社の実印は、契約書に押す機会がそれほど多くありません。多いのは銀行印や、日常の書類に使う角印のほうです。実印を毎日持ち歩く必要はないので、事務所の鍵付きの引き出しか、自宅の金庫に置いておくのが現実的です。
一人で法人を作った場合にありがちなのが、実印と印鑑カードと個人の実印を同じ袋にまとめて入れておく形です。持ち出しは楽ですが、その袋ひとつで会社の登記を動かせてしまいます。印鑑カードだけは別の場所に置く、というように分けておくと、片方を落としても被害が止まります。
押した印影が薄くなってきた、朱肉のつきが悪くなった、というときは、欠けを疑ってください。照合に適さないと判断されると改印を求められるので、気づいた時点で同じ様式を使って届け直すほうが、取引の途中で止まるより早く済みます。
書き上げたあとの出し先と、その後の流れ
印鑑届書の提出先は、会社・法人が登記されている登記所です。法務局は、登記事項証明書や印鑑証明書は情報交換システムによって全国どこの登記所でも取れるものの、印鑑に関する届出は登記されている登記所に出すよう案内しています。設立のときは、本店の住所を管轄する登記所に設立登記申請書と一緒に出します。
窓口の受付時間は、祝日と年末年始を除く月曜日から金曜日の午前8時30分から午後5時15分までです。ただし法務省は、令和6年1月4日から登記所の窓口対応時間を9時から17時までとする運用を始めたと案内しています。出社前の早い時間や、退社後の駆け込みは避けて、日中に予定を組んでください。
提出してから登記が終わるまでの間は、その会社の登記事項証明書と印鑑証明書は原則として発行されません。再び出せるようになるのは手続きが完了したときで、目安になる「登記完了予定日」は管轄の法務局のサイトで公開されています。法人口座の開設や事務所の契約を予定しているなら、この日付を見てから相手と日程を詰めてください。
補正の連絡は、申請書に書いた電話番号にかかってきます。日中つながる番号を書いておくこと、そして携帯電話の番号でも構わないことを、法務局が明記しています。設立直後で固定電話をまだ引いていない場合は、代表者の携帯番号で問題ありません。
書類の段取りが、受けられる仕事の幅を決める
ここからは、業務委託や在宅で働く人の視点で考えます。
個人事業から法人に切り替えると、この手の書類のやり取りが仕事の一部になります。印鑑届書を出す半日、印鑑証明書を取りに行く半日は、どちらも売上を生まない時間です。それでも避けられないなら、一度で通す書き方を覚えて回数を減らすしかありません。押す印鑑が2本、添付する証明書は3か月以内、住所は登記の表記どおり。この3つを外さなければ、差し戻しはほとんど起きません。
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、長く仕事が続く人ほど、こうした事務を先回りで片付けています。依頼が来てから印鑑証明書を取りに走るのではなく、受ける前提で印鑑カードの置き場所を決め、電子証明書を取っておく。発注する側からすれば「この人に任せると止まらない」という評価になり、次の依頼につながります。腕は良いのに着手が毎回1週間遅れる人は、理由が事務の段取りにあると気づかれないまま、声がかからなくなっていきます。
もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、手取りの厚さを決めるのは表に出る単価そのものより、間に何社入っているかです。仲介手数料が0%の直接取引なら、発注する側は同じ予算でより多くを頼めて、受ける側は同じ仕事でも手取りが厚くなります。双方が得をする代わりに、契約書や印鑑証明書のやり取りも自分の手元で発生します。事務を自分で回せることが、そのまま受けられる仕事の幅になるわけです。
どの分野で法人としての取引が動いているかは、仕事の種類ごとの解説が手がかりになります。企業の生成AI導入や業務の見直しを支援するAIコンサル・業務活用支援のお仕事は契約の単位が大きく、法人同士の取引になりやすい分野です。広告運用から情報セキュリティまでを含むAI・マーケティング・セキュリティのお仕事も継続契約が中心で、書類のやり取りが定期的に発生します。受託開発の進め方を知りたいなら、企画から実装までを説明したアプリケーション開発のお仕事が参考になります。
法人にするかどうか迷っているなら、報酬の水準から逆算するのが現実的です。地域差まで含めたソフトウェア作成者の年収・単価相場や、文章まわりの仕事をまとめた著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、どのくらいの売上から法人化の手間に見合うかの目安が立ちます。
書類の不備そのものを減らしたいなら、書き方を体系立てて学ぶ手もあります。申請書や契約書の型を扱うビジネス文書検定は、登記所や銀行に出す書類の差し戻しを減らすのに直結します。技術側で法人として案件を受けるなら、ネットワークの基礎を示せるCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が、初めての取引先に対する安心材料になります。
取引が始まったあとの守りも決めておいてください。報酬が支払われないときの進め方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に、発注書や契約書で外してはいけない項目はフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストにまとまっています。会社の数字まわりを自分で見る前提なら、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】が、どこまでを外に頼むかの線引きの参考になります。
必要なものは、様式1枚、会社の印鑑、代表者個人の実印、そして3か月以内の個人の印鑑証明書。この4つを机に並べてから書き始めてください。
よくある質問
Q. 印鑑届書に押す印鑑は何本必要ですか?
2本必要です。用紙の左上にある欄には、これから会社の実印として登録する印鑑を押します。下のほうにある届出人の欄には、代表者個人が市区町村に登録している実印を押します。上は会社、下は個人という組み合わせで、会社の印鑑だけを押して出すと本人確認ができず受け付けてもらえません。
Q. 添付する印鑑証明書は誰のもので、期限はありますか?
代表者個人が市区町村役場で取る印鑑証明書を1通添付します。作成後3か月以内のものに限られます。設立登記の申請書にも同じ印鑑証明書を添付する場合は、様式にある援用のチェック欄にレ点を入れれば1通で足りるので、余分に取る必要はありません。
Q. 届け出る会社の印鑑に大きさの決まりはありますか?
あります。辺の長さが1センチメートルの正方形に収まってしまうものと、辺の長さが3センチメートルの正方形に収まらないものは登録できません。加えて照合に適するものである必要があり、輪郭が欠けていたり文字がつぶれていたりすると差し戻される場合があります。法人の実印として売られている標準的なものなら、この範囲に収まります。
Q. 代理人に提出してもらうとき、代理人は押印しますか?
代理人の押印は不要です。届出人の欄で代理人にレ点を入れ、代理人の住所と氏名を記載します。そのうえで様式の下半分にある委任状の欄に、代理人の住所と氏名、委任する権限、日付、委任した代表者本人の住所と氏名を書き、代表者個人の実印を押します。添付する印鑑証明書も代表者本人のものです。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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