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事業主貸とは|経費にならない支出の記帳

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事業主貸とは|経費にならない支出の記帳

この記事のポイント

  • ✓事業のお金を生活費や税金など経費にならない支出に使ったときの勘定科目です
  • ✓経費になる支出とならない支出の境目
  • ✓確定申告での元入金の計算まで

事業主貸(じぎょうぬしかし)とは、事業用のお金を、事業とは関係のない個人の支出に使ったときに記帳する勘定科目です。生活費の引き出し、所得税や住民税の納付、国民年金保険料の支払い、家事按分で経費にできなかった家賃の残りなどが該当します。事業主貸で記帳した金額は経費になりません。経費にならない支出を、帳簿の上で「事業の外に出したお金」としてはっきり分けるための科目だと考えると分かりやすくなります。

会計ソフトに口座の明細を取り込んだとき、「この支払いは経費なのか、事業主貸なのか」で手が止まる人は少なくありません。この記事では、事業主貸と事業主借の違い、経費になる支出とならない支出の境目、家事按分の仕訳、確定申告での扱いと元入金の計算、間違えたときに起きることまで、順番に整理します。

事業主貸とは何か|経費にならない支出を帳簿から外す科目

個人事業主は、事業の財布と家計の財布の持ち主が同じ1人です。会社であれば、会社のお金と社長個人のお金は法律の上で別の持ち主のものですが、個人事業主にはその区切りがありません。そのため、事業用の口座から生活費を引き出したり、事業の売上で家族の買い物をしたりすることが、日常的に起こります。

ところが、所得税の計算では、事業で得た収入から差し引けるのは事業のためにかかった費用(必要経費)だけです。生活のための支出まで経費として引いてしまうと、所得が実際より小さく計算されます。そこで、事業用のお金が事業の外へ出ていったことを記録しつつ、経費とは別の扱いにするために使うのが事業主貸です。

国税庁が公開している記帳の解説資料でも、現金出納帳の記載例の中で次のように説明されています。

「事業主貸」とは、事業用の現金を家計用に充てるような場合に使用する勘定科目。 出典: 国税庁「記帳のしかた(青色申告編)」

名前に「貸」とあるのは、事業の側から見て「事業主個人にお金を貸した」と考えるためです。実際にお金を貸し借りしているわけではなく、返済の義務も生まれません。あくまで帳簿の上の呼び名です。

事業主貸は資産の科目に入る

複式簿記(取引を「借方」と「貸方」の2つの面から記録する方法)では、事業主貸は資産の側(借方)に記帳します。事業用の現金や預金が減った分を、事業主貸という資産に振り替えたと考えるためです。損益計算書には出てこないので、利益の計算には影響しません。所得を小さくもせず、大きくもしない科目だという点が、経費の科目との一番の違いです。

どんな人が使う科目か

事業主貸を使うのは、事業所得や不動産所得のある個人事業主で、複式簿記で帳簿をつけている人です。会社(法人)では使いません。法人の場合、社長が会社のお金を個人のために使えば「役員貸付金」などの別の科目になります。会社員が副業で雑所得を得ているだけの人は、複式簿記の帳簿をつけないことが多いため、事業主貸という科目に触れる場面はあまりありません。

事業主貸と事業主借の違い

事業主貸とよく並べて説明されるのが事業主借(じぎょうぬしかり)です。向きが逆の科目で、個人のお金を事業のために使ったときに記帳します。国税庁の同じ資料では、事業主借は「家計用の現金を事業用に充てるような場合に使用する勘定科目」と説明されています。

科目 お金の流れ 帳簿での位置 主な例
事業主貸 事業のお金を個人のために使った 借方(資産の側) 生活費の引き出し、所得税・住民税の納付、国民年金保険料、家賃の私用部分
事業主借 個人のお金を事業のために使った 貸方(負債・資本の側) 私用の財布で事務用品を購入、個人のカードで事業の通信費を払った、事業用口座の預金利息

迷ったときは、「どちらの財布からお金が出て、何のために使ったか」を考えます。事業の財布から出て私用に使えば事業主貸、私用の財布から出て事業に使えば事業主借です。

個人の財布に入っている現金で事業関連の費用を支払ったときは、借方に「必要経費の勘定科目」、貸方に「事業主借」という仕訳をします。 出典: freee.co.jp

事業主借で記帳した支払いは、内容が事業のためのものであれば経費になります。たとえば個人のクレジットカードで仕事用のソフトウェアの利用料を払った場合、借方は「通信費」や「支払手数料」などの経費の科目、貸方が事業主借です。経費になるかどうかは「何に使ったか」で決まり、「どの口座から払ったか」では決まりません。この点を取り違えると、私用の口座から払った経費を記帳し忘れる、という形の損が起こります。

事業用口座の預金利息は事業主借

見落としやすいのが、事業用口座に入る預金利息です。預金の利息は事業所得ではなく利子所得として扱われ、受け取る時点で税金が差し引かれています。そのため売上にはせず、事業主借で記帳するのが一般的です。金額は小さくても、口座の残高を帳簿と合わせるために記帳は必要です。

事業主貸で記帳する支出の具体例

事業主貸で記帳するのは、事業用の口座や現金、事業用のクレジットカードから出ていった支出のうち、経費にならないものです。代表的なものを種類ごとに見ていきます。

生活費の引き出しと私用の買い物

事業用の口座から生活費を引き出したとき、事業用のカードで食料品や日用品を買ったとき、現金売上をそのまま生活費に使ったときは、いずれも事業主貸です。個人事業主には「給料」という形で自分にお金を払う仕組みがないため、生活費として受け取るお金は、すべて事業主貸として記帳します。国税庁の記載例でも、生活費として家族に現金を渡した取引が事業主貸で記帳されています。

所得税と住民税

所得税と住民税は、事業の利益にかかる税金ですが経費にはなりません。国税庁のタックスアンサー「必要経費の知識」には、必要経費にならないものとして「所得税や住民税は必要経費になりません」と明記されています。事業用の口座から納めたときは事業主貸で記帳します。予定納税(前年の所得税が一定額以上の人が、7月と11月に前もって納める所得税)の分も同じ扱いです。

一方、個人事業税は全額が経費になります。同じ「税金」でも扱いが違うので、納付書の名前を確かめてから科目を選びます。固定資産税は、業務に使っている部分だけが経費になります。

国民年金保険料と国民健康保険料

国民年金保険料と国民健康保険料は、事業主本人の保険料であって事業の費用ではないため、経費にはなりません。事業用の口座から払ったときは事業主貸です。ただし、これらは確定申告で所得控除(所得から差し引ける控除)の1つである社会保険料控除の対象になります。経費にはならないものの、税金の計算で差し引けるので、払った金額は年間で集計しておきます。

国民年金保険料は、令和8年度で1か月あたり17,920円です(日本年金機構)。1年間納めると20万円を超えるので、記帳の漏れがあると控除の額にも響きます。

生命保険料と小規模企業共済の掛金

事業主本人や家族の生命保険料も経費にはならず、事業主貸で記帳します。確定申告では生命保険料控除の対象です。小規模企業共済(個人事業主のための退職金の積み立て制度)の掛金と、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金も経費ではなく、小規模企業共済等掛金控除という所得控除の対象になります。国税庁のタックスアンサーでは、控除できる金額は「その年に支払った掛金の全額」とされています。

罰金や交通違反の反則金

業務中の移動で交通違反をした場合でも、罰金や科料、過料は経費になりません。国税庁の「必要経費の知識」にも、必要経費にならないものとして挙げられています。事業用のお金から払ったときは事業主貸です。

生計を一にする家族への家賃や給料

同じ家計で暮らす配偶者や親族に払う家賃や給料は、原則として経費になりません。たとえば親が持っている建物を事務所として借り、家賃を払っていても、生計を一にしていれば経費にはならず、受け取った親の所得にもなりません。ただし、その建物の固定資産税などを事業主が負担していれば、その費用は経費にできます。家族への給料は、青色申告で「青色事業専従者給与に関する届出書」を出している場合に限り、届け出た範囲で経費にできます。

経費になる支出とならない支出の境目

事業主貸と経費の科目を分けるには、そもそも何が経費になるかを知っておく必要があります。所得税法では、事業所得の計算で必要経費になるのは、売上を得るために直接かかった費用と、その年の販売費や一般管理費などの業務上の費用だとされています。反対に、所得税法45条は、家事上の経費(生活のための支出)とこれに関連する経費で政令で定めるものは、必要経費に算入しないと定めています。

家事上の費用は必要経費となりませんが、個人の業務においては一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用(家事関連費といいます。)となるものがあります。 出典: 国税庁 No.2210 必要経費の知識

判断の基準を表にすると次のとおりです。

支出 経費になるか 帳簿の科目の例
仕事用のパソコン(10万円未満) なる 消耗品費
仕事用のパソコン(10万円以上) 分けて経費にする(減価償却) 工具器具備品
取引先との打ち合わせの飲食代 業務に必要なら、なる 会議費・接待交際費
自宅の家賃 業務で使う部分だけ 地代家賃と事業主貸に分ける
個人事業税 なる 租税公課
所得税・住民税 ならない 事業主貸
国民年金・国民健康保険料 ならない(所得控除の対象) 事業主貸
生活費・私用の買い物 ならない 事業主貸
罰金・反則金 ならない 事業主貸

パソコンなど長く使う資産は、買った年に全額を経費にするのではなく、使える年数にわたって分けて経費にします。これを減価償却といいます。国税庁のタックスアンサー「減価償却のあらまし」では、取得価額が10万円未満のものは使い始めた年に全額を経費にすると説明されています。青色申告の人には、一定の要件のもとで少額の資産をまとめて経費にできる特例もあり、令和8年4月1日以後に取得したものは対象が取得価額40万円未満に広がっています。金額の区切りが変わっているので、使う前に国税庁の最新の記載を確かめてください。

経費になるかを判断する3つの問い

迷ったときは、次の3つを順に問いかけると判断しやすくなります。

  1. その支出がなかったら、売上を得る仕事に支障が出たか
  2. 支出の目的を、取引先や日付、用途で説明できるか
  3. 同じ支出が、仕事をしていなくても生活のために発生していたか

1と2に「はい」と答えられ、3が「いいえ」なら経費の可能性が高く、3が「はい」なら事業主貸か家事按分の対象です。もっとも、最終的な判断は金額や事情で変わるため、迷う支出が大きいときは税務署の相談窓口や税理士に確かめるのが確実です。

家事按分と事業主貸の関係

自宅を仕事場にしている人がいちばん迷うのが、家賃や電気代、インターネットの料金のように、仕事と生活の両方に使っている支出です。こうした支出は家事関連費と呼ばれ、業務に使った割合の分だけを経費にし、残りを事業主貸にします。これが家事按分(かじあんぶん)です。

家事按分の按分比率30%の家賃10万円を事業用の普通預金口座から支払う場合、経費計上する30%の部分は「地代家賃30,000」、経費計上できない70%の部分は「事業主貸 70,000」で処理します。 出典: freee.co.jp

同じ家賃を私用の口座から払った場合は、経費になる3万円だけを「地代家賃/事業主借」で記帳し、私用の7万円は事業の帳簿に記帳しません。事業の口座を通っていないお金は、事業の帳簿に載せる必要がないためです。家事按分の仕訳で事業主貸が出てくるのは、事業用の口座やカードから払った場合だけだと覚えておくと混乱しません。

按分の割合の決め方

割合は、実際の使い方に合った根拠で決めます。よく使われる根拠は次のとおりです。

  • 家賃:家全体の床面積のうち、仕事専用に使っている部屋の床面積の割合
  • 電気代:仕事で使う機器の消費電力と使用時間、または仕事をしている時間の割合
  • インターネット・携帯電話:仕事で使っている時間や通信の割合
  • 自動車の費用:走行距離のうち、仕事で走った距離の割合

根拠を説明できる記録を残しておくことが大切です。間取り図に仕事部屋の面積を書き込んだもの、1週間の作業時間の記録、走行記録などを、帳簿と一緒に保存しておきます。

青色申告と白色申告で条件が違う

家事関連費を経費にできる条件は、所得税法施行令96条で定められています。白色申告の人は、その支出の主な部分が業務に必要で、必要な部分をはっきり区分できる場合に限られます。青色申告の人は、これに加えて、取引の記録などに基づいて業務に直接必要だったことが明らかにされる部分も経費にできます。業務で使う割合が小さい支出を按分するときは、青色申告のほうが認められる範囲が広いということです。ただし、どちらの場合も根拠の記録がなければ認められにくいので、割合を決めた理由は必ず書き残します。

事業主貸を使う仕訳の例

ここからは、実際の帳簿でどう記帳するかを例で示します。借方と貸方の書き方は会計ソフトの入力画面でもほぼ同じです。

取引 借方 貸方
事業用口座から生活費20万円を引き出した 事業主貸 200,000 普通預金 200,000
事業用口座から所得税8万円を納付した 事業主貸 80,000 普通預金 80,000
事業用口座から国民年金保険料17,920円を払った 事業主貸 17,920 普通預金 17,920
事業用カードで日用品3,000円を買った 事業主貸 3,000 未払金 3,000
自宅の家賃12万円を事業用口座から払った(按分25%) 地代家賃 30,000/事業主貸 90,000 普通預金 120,000
電気代1万円を事業用口座から払った(按分40%) 水道光熱費 4,000/事業主貸 6,000 普通預金 10,000
現金売上5万円をそのまま生活費に使った 事業主貸 50,000 売上高 50,000
個人事業税3万円を事業用口座から払った 租税公課 30,000 普通預金 30,000

最後の個人事業税は経費になるため、事業主貸ではなく租税公課で記帳します。税金の支払いをすべて事業主貸にしてしまうと、経費にできる個人事業税まで外れてしまい、税金を多く払うことになります。

カードの引き落とし日の記帳

事業用のクレジットカードで私用の買い物をした場合、買った日に「事業主貸/未払金」と記帳し、引き落とし日に「未払金/普通預金」と記帳します。引き落とし日にまとめて事業主貸にする方法もありますが、年をまたぐ支払いがあると年末の残高が合わなくなります。会計ソフトにカードの明細を連携している場合は、明細1行ごとに科目を選ぶ形になるので、私用の買い物の行に事業主貸を選べば済みます。

電子マネーやQRコード決済へのチャージ

事業用の口座から電子マネーやQRコード決済にチャージし、そこから仕事の支払いと私用の支払いの両方をしている場合は、記帳が複雑になります。チャージした時点では「仮払金」や「預け金」などの科目に振り替えておき、使ったときに中身ごとに経費の科目か事業主貸へ振り分けるのが分かりやすい方法です。チャージした金額をまとめて経費にしてしまうと、私用で使った分まで経費に含まれてしまいます。

利用履歴を月に1度書き出して照らし合わせるのが手間に感じる場合は、仕事用の支払いに使う決済サービスを1つに決め、私用には使わないと決めてしまうのが確実です。財布を分けるという考え方は、口座やカードだけでなく、こうした決済手段にも当てはまります。

毎月同じ割合の按分は自動の登録が便利

家賃や通信費のように毎回同じ割合で按分する支出は、会計ソフトの自動の仕訳ルールに登録しておくと、明細を取り込むたびに経費と事業主貸へ分けて記帳されます。手で毎回計算すると、ある時は25%、ある時は30%というように割合がぶれやすく、後で説明がつかなくなります。

事業用の口座とカードを分けると記帳が楽になる

事業主貸の記帳で迷う時間を一番短くする方法は、事業用の口座とクレジットカードを、生活用とは別に持つことです。法律で求められているわけではありませんが、分けておくと次のような違いが出ます。

  • 事業用口座の出金のうち、私用のものだけを事業主貸にすればよく、判断の回数が減る
  • 生活用の口座から払った私用の支出は、事業の帳簿に一切記帳しなくてよい
  • 年末に帳簿の預金残高と通帳の残高を照らし合わせやすい
  • 税務調査などで説明を求められたとき、事業のお金の流れを示しやすい

口座を分けても、生活費は事業用口座から生活用口座へ移すことになります。このときは「事業主貸/普通預金」と記帳します。逆に、開業したばかりで事業用口座の残高が足りず、生活用口座から事業用口座へお金を移したときは「普通預金/事業主借」です。移す頻度を月1回などに決めておくと、記帳の回数が少なく済みます。

屋号付きの口座は必須ではない

事業用口座は、屋号付きの口座でなくても個人名義の口座で構いません。大事なのは名義ではなく、その口座を事業のお金の出し入れだけに使うことです。屋号付きの口座は、取引先に振込先として示すときに分かりやすいという利点がありますが、開設に開業届の控えなどを求められることがあります。

確定申告での事業主貸の扱い

確定申告の時期になると、1年間の事業主貸の合計額が青色申告決算書の貸借対照表に記載されます。貸借対照表とは、年初と年末時点の資産・負債・元入金の残高を並べた表のことです。事業主貸は資産の部に、事業主借は負債・資本の部に、それぞれの年末の残高を書きます。年初の欄はどちらも空欄になります。

損益計算書には事業主貸は出てきません。損益計算書は売上と経費から所得を計算する表で、事業主貸は経費ではないためです。ここで大事なのは、事業主貸がどれだけ大きくても、所得や税金の額は変わらないということです。生活費を多く引き出しても税金が増えたり減ったりはしません。

翌年の初めに元入金へ振り替える

事業主貸と事業主借は、年をまたいで繰り越さず、翌年の1月1日に0にして始めます。差額は元入金(もといれきん)という科目に振り替えます。元入金とは、個人事業の元手にあたる科目で、会社でいう資本金に近いものです。

翌年の初めの元入金は、一般に次の式で計算します。

翌年1月1日の元入金 = 年末の元入金 + 年末の事業主借 - 年末の事業主貸 + 青色申告特別控除前の所得金額

事業主借は事業の元手が増えた方向、事業主貸は元手が減った方向に働き、1年間の所得はそのまま元手に加わる、という考え方です。

例で計算してみます。年末の元入金が100万円、事業主借が30万円、事業主貸が280万円、青色申告特別控除前の所得が300万円なら、翌年1月1日の元入金は100万円+30万円-280万円+300万円で150万円です。生活費を多く引き出した年は事業主貸が大きくなり、元入金が減ります。元入金がマイナスになることもありますが、帳簿の上では問題ありません。ただ、金融機関に融資を申し込むときに決算書を見せる場面では、元入金の推移が見られることがあります。会計ソフトを使っていれば、この振り替えは年度の切り替えのときに自動で行われます。

青色申告特別控除は令和9年分から変わる

複式簿記で帳簿をつけて、貸借対照表を確定申告書に添付すると、青色申告特別控除という所得からの控除を受けられます。国税庁のタックスアンサーでは、原則として最高55万円、電子帳簿保存かe-Taxによる申告を行っている場合は最高65万円とされています。事業主貸と事業主借を正しく使って貸借対照表を作れることが、この控除の前提になっています。

国税庁は、令和9年分の確定申告から控除の段階が変わると案内しています。令和8年分までは書面の申告でも55万円の控除が使えましたが、令和9年分以降は、書面で申告した場合の上限が10万円になります。65万円の控除を受けるにはe-Taxでの申告が必須になり、さらに優良な電子帳簿の保存か、デジタルシームレス保存(決済データなどの電子取引データを、国税庁の基準に合うシステムで受け取って保存する方法)の要件を満たすと、最高75万円の控除が受けられます。詳しくは国税庁の資料「優良な電子帳簿の保存又はデジタルシームレス保存により75万円の青色申告特別控除を適用しましょう!」で確かめてください。

白色申告でも事業主貸は使うのか

白色申告の人にも帳簿をつける義務があります。国税庁のタックスアンサー「白色申告者の記帳・帳簿等保存制度」によると、事業所得のある人は、売上や仕入れ、経費について、取引の年月日、相手方、金額などを帳簿に記載する必要があります。日々の合計金額をまとめて記載するような簡易な方法でもよいとされています。

白色申告では、複式簿記ではなく、収入と経費を一覧にする単式簿記で記帳することが多く、その場合は事業主貸という科目を使わずに済むこともあります。経費にならない支出を、そもそも経費の帳簿に載せなければよいからです。ただし、事業用の口座の入出金を帳簿で管理している場合は、私用の出金を「事業主貸」として記録しておかないと、通帳の残高と帳簿が合わなくなります。会計ソフトを使う場合は、白色申告でも事業主貸を使って記帳するのが一般的です。

帳簿と書類の保存期間

帳簿と書類には保存期間があります。白色申告の場合、収入金額や必要経費を記載した帳簿は7年、請求書や領収書などの書類は5年です。青色申告の場合も、帳簿と書類は原則7年、請求書や見積書、納品書などは5年とされています。家事按分の根拠の記録も、帳簿と同じ期間保存しておくと安心です。

事業主貸を間違えたときに起きること

事業主貸の使い方を間違えると、税金の額に影響が出ることがあります。間違いの向きによって結果が違うので、それぞれ見ていきます。

経費にならない支出を経費にしてしまった

生活費や所得税、国民年金保険料などを経費の科目で記帳すると、所得が実際より小さく計算され、税金の申告が少なすぎる状態になります。後で税務署から指摘されると、本来の税金に加えて、過少申告加算税(申告が少なかったことへの追加の税金)や延滞税がかかることがあります。国税庁は、令和5年分の確定申告に対する修正申告等から、売上に関する帳簿を保存していなかったり記載が不十分だったりした場合に、加算税の割合が5%または10%重くなる措置を設けています。

経費になる支出を事業主貸にしてしまった

逆に、個人事業税や、私用の口座から払った仕事用の費用を記帳し忘れると、経費が少なくなり、税金を多く払うことになります。税務署から指摘されることは基本的にないため、自分で気づかない限りそのままです。毎年同じ間違いを続けていると、数年分の損が積み重なります。

気づいたときの直し方

年内に気づいた場合は、帳簿の中で振り替えの仕訳を入れて直せます。たとえば国民年金保険料を「支払手数料」で記帳していたら、「事業主貸/支払手数料」と記帳して入れ替えます。確定申告を出した後に気づいた場合、税金が少なかったときは修正申告、多かったときは更正の請求という手続きで直します。期限や必要な書類は事情で変わるので、税務署の相談窓口で確かめてから手続きを進めてください。

記帳を続けるためのポイント

事業主貸の記帳は、1回ずつは難しくありません。難しいのは、1年間ため込んでから一気に片づけようとすることです。続けやすくするためのポイントを挙げます。

  • 記帳は1か月に1回、日を決めて行う。明細の内容を覚えているうちに科目を選べる
  • 事業用のカードで私用の買い物をしない。どうしても使ったら、その場でメモを残す
  • 家賃や通信費の按分の割合は年初に決め、1年間変えない。変えるときは理由を記録する
  • 税金と保険料の納付書は、経費になるもの(個人事業税)とならないもの(所得税・住民税・国民年金・国民健康保険)に分けて保管する
  • 社会保険料や共済の掛金は、所得控除に使うので年間の合計を確定申告の前に集計する

会計ソフトには、無料で試せる期間やプランを用意しているものがあります。口座やカードの明細を取り込み、事業主貸と経費の振り分けを自動の規則で処理できるので、記帳にかかる時間を短くできます。料金や無料の範囲は各社の公式の案内で確かめてください。節税の考え方を広く知りたい人は、フリーランス 節税の教科書!手残りを最大化する控除と経費の全知識で、所得控除と経費の使い分けを整理しています。

業務委託で働くフリーランスの記帳から見えること

在宅ワークと業務委託の仲介を長く続けてきた運営者として見てきた限りでは、記帳でつまずく人の多くは、事業主貸の意味が分からないのではなく、「仕事のお金」と「生活のお金」の境目を決めないまま1年を過ごしてしまっています。事業用の口座を作り、生活費を移す日を決め、按分の割合を年初に決める。この3つを最初に決めた人ほど、確定申告の時期に慌てずに済んでいます。

また、仲介の手数料がかからない直接取引では、受け取った報酬がそのまま事業用の口座に入るため、売上と入金額が一致し、記帳がそれだけ簡単になります。仲介の手数料が差し引かれる取引では、手数料を経費として記帳する手間が加わります。手取りの厚さは金額の問題だけでなく、帳簿の分かりやすさにもつながっています。

職種によって、事業主貸と経費の境目で迷う支出は違います。たとえば、事業計画づくりや起業支援を請け負う人は、取引先との打ち合わせの飲食代や移動費の扱いで迷いやすく、どこまでが業務かを記録で示す必要があります。こうした仕事の内容は経営・事業計画・起業支援のお仕事で紹介しています。アプリ開発の仕事を受ける人は、パソコンや検証用の端末、クラウドの利用料が大きな経費になり、私用と兼ねている端末の按分が論点になります。仕事の種類と求められる技術はアプリケーション開発のお仕事にまとめています。

マーケティングやセキュリティの分野の案件では、有料の分析ツールや学習用の書籍、検定の受験料など、仕事と自己研鑽の境目にある支出が多くなります。業務に直接必要な支出かどうかを、案件との関係で説明できるようにしておくことが大切です。分野ごとの仕事の内容はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で確かめられます。

デザインの仕事では、制作ソフトの利用料や素材の購入費が毎月のようにかかり、自宅の作業部屋の按分も関わってきます。報酬の水準を知っておくと、経費の割合が適正かを判断しやすくなります。単価の相場はデザイナーの年収・単価相場で、調査やリサーチを請け負う人の水準は研究者の年収・単価相場で確認できます。記帳の考え方を一度身につけておけば、職種が変わっても同じ手順で帳簿をつけられます。

よくある質問

Q. 事業主貸で記帳した金額は経費になりますか?

なりません。事業主貸は、事業用のお金を生活費や所得税、国民年金保険料など、事業と関係のない支出に使ったことを記録する科目です。損益計算書には載らず、所得の計算にも影響しません。経費にしたい支出は、消耗品費や地代家賃など経費の科目で記帳します。

Q. 国民年金保険料を事業用口座から払ったときはどう記帳しますか?

借方に事業主貸、貸方に普通預金で記帳します。国民年金保険料は事業主本人の保険料なので経費にはなりませんが、確定申告で社会保険料控除として所得から差し引けます。年間に払った金額を集計し、確定申告書の社会保険料控除の欄に記入してください。

Q. 事業主貸が多くなりすぎると問題がありますか?

事業主貸がいくら大きくても、所得や税金の額は変わりません。翌年の初めに元入金へ振り替えられ、元入金が減るだけです。元入金がマイナスになっても帳簿の上では問題ありませんが、融資の申し込みで決算書を見せる場面では元入金の推移を見られることがあります。

Q. 家事按分の割合はどうやって決めればよいですか?

家賃なら仕事に使う部屋の床面積、電気代や通信費なら仕事で使う時間など、実際の使い方に合った根拠で決めます。間取り図や作業時間の記録を帳簿と一緒に保存しておくと、説明を求められたときに示せます。割合に迷うときは税務署の相談窓口で確かめると確実です。

この記事について

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監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを運営。生成AIで作成した下書きを、一次情報と照らし合わせて確認したうえで公開しています。

公開:2026年9月26日最終更新:2026年10月28日
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