英語・多言語翻訳の最初の打ち合わせで聞くこと|後戻りを防ぐ

長谷川 奈津
長谷川 奈津
英語・多言語翻訳の最初の打ち合わせで聞くこと|後戻りを防ぐ

この記事のポイント

  • 英語・多言語翻訳の初回の打ち合わせで何を聞けば後戻りを防げるのかを
  • 確認項目の一覧と聞き方の順番として整理します
  • 受注側の実務手順で解説します

英語・多言語翻訳の初回の打ち合わせは、作業の質より先に、作業の輪郭を決める場です。ここで聞き漏らした項目は、訳し始めてから発覚し、たいていは「後戻り」という形で時間を奪います。訳文を全部書き直す、用語を全件差し替える、体裁を作り直す。どれも、最初の一時間で防げたはずのものです。

この記事では、初回の打ち合わせで必ず聞く項目、聞き方の順番、その場で決まらなかったことの扱い、そして打ち合わせ後に送る記録の書き方までを整理します。法律の話も出てきますが、条文の紹介ではなく、つまり何をすればよいかまで噛み砕きます。

後戻りは、決めていない項目から発生する

翻訳の案件で後戻りが起きるとき、原因はほぼ決まっています。決めていなかった項目が、作業の途中で相手の中だけで確定していた、という状況です。相手にとっては最初から決まっていたことでも、こちらに伝わっていなければ存在しないのと同じです。

これ、知らない人が本当に多いのですが、伝わっていない条件を守れなかった責任は、条件を伝えなかった側だけにあるわけではありません。確認する機会があったのに確認しなかった側にも、実務上の負担は回ってきます。だからこそ、初回の打ち合わせで聞き切ることに意味があります。

後戻りの典型的な形

現場で繰り返し起きる後戻りには、いくつかの型があります。訳し終わってから「この用語は社内で別の訳語に決まっている」と言われる型。納品してから「これは英国向けなので綴りを直してほしい」と言われる型。完成後に「実は原稿が更新されていた」と言われる型。多言語案件で「この言語は先に納品してほしかった」と言われる型。

どれも、聞いておけば防げたものです。そして、どれも作業がほぼ終わった段階で発覚するため、修復にかかる時間は最初から作る場合と変わりません。

打ち合わせは、確認の場であって受注の場ではない

初回の打ち合わせを「仕事を取る場」と捉えると、相手の要望に合わせる方向に会話が傾きます。実際には、条件を確認して、受けられるかどうかを判断する場です。この認識を持っているだけで、聞きにくい質問も自然に出せるようになります。

翻訳会社の案内を見ると、対応できる言語の広さが前面に出ています。

翻訳センターは英語や中国語などニーズの高い言語をはじめ、世界各国の80言語以上の多言語翻訳に対応しています。また、外国語から日本語(和訳)、外国語から外国語の翻訳にも幅広く対応しています。 出典: honyakuctr.com

つまり、発注側は「どの言語に対応できるか」を最初の判断材料にしています。個人で受ける場合、対応できる範囲は限られますから、範囲を正直に示したうえで、その範囲での条件を詰めるほうが話が早くなります。対応できない言語まで引き受けると、検証できない訳文を納品することになり、後戻りどころではない事態を招きます。翻訳という仕事の全体像は英語・多言語翻訳のお仕事に整理があり、自分の対応範囲を説明するときの下地になります。

打ち合わせの前に準備すること

準備の質が、打ち合わせで聞ける内容を決めます。

資料を先に受け取る

打ち合わせの前に、対象となる資料を送ってもらいます。実物を見ずに話を聞くと、質問が抽象的になり、相手も具体的に答えられません。資料があれば「この表の中の文字も対象ですか」「この注釈はどう扱いますか」といった具体的な質問ができます。

資料が機密で事前に送れない場合は、その旨を確認し、打ち合わせの場で画面を見せてもらう段取りにします。何も見ないまま条件を詰めることだけは避けます。

質問表を用意する

聞く項目を一覧にして、手元に置きます。会話の流れで聞くと、必ず漏れます。一覧があれば、話が脱線しても戻れますし、聞き終わった項目に印を付けていけば、残りが見えます。

質問表は毎回同じものを使います。案件ごとに作り直すと、前回入れていた項目が抜けます。

自分の対応範囲を整理する

どの言語のどの方向まで対応できるか、体裁の調整をどこまで引き受けるか、対応できない分野は何か。これを事前に言葉にしておきます。打ち合わせの場で聞かれてから考えると、曖昧な返事になり、あとから「できると言っていた」という話になります。

初回の打ち合わせで必ず聞く項目

ここからが本題です。順番も含めて示します。目的から入り、条件に降りていく順序が、相手にとっても答えやすい流れです。

何のための翻訳か、誰が読むか

最初に聞くのは目的です。海外の取引先に説明するためなのか、Webサイトに掲載して集客するためなのか、社内で内容を把握するためなのか。目的が違えば、求められる訳文の性質が変わります。

読み手も具体的に聞きます。専門家が読むのか、一般の消費者が読むのか。この情報がないと、専門用語をそのまま使うべきか、噛み砕くべきかの判断ができません。目的と読み手は、あとから変わると訳文の方向性ごと変わるため、最初に確定させる必要があります。

対象言語と地域

言語だけでなく、方向と地域まで確定させます。日本語から英語か、英語から日本語か。中国語なら簡体字か繁体字か。英語なら米国向けか英国向けか。スペイン語ならスペイン向けか中南米向けか。

地域は特に見落とされます。綴り、日付の書き方、通貨の表記、単位が変わるため、あとから直すと全文の見直しになります。相手が地域を意識していない場合は、こちらから「どの地域の読者を想定されていますか」と聞き、決まっていなければ提案します。

原稿の確定状況

「この原稿は最終版ですか」と、そのまま聞きます。最終版でない場合は、いつ確定するのか、確定までに変更されうる箇所はどこかを確認します。

差し替えが起きた場合の扱いも、この場で決めます。「確定後にご提供いただいた変更については、別途お見積もりします」という前提を共有しておくと、相手も原稿の確定を急いでくれます。

分量と、訳す範囲

資料全体を訳すのか、一部だけなのかを確定させます。一部の場合は、どこからどこまでかを資料上で指し示してもらいます。口頭で「本文だけ」と言われても、目次、見出し、注釈、図の中の文字、付録が本文に含まれるかどうかは人によって解釈が違います。

含まないものを列挙して確認するのが確実です。「図の中の文字と参考文献の一覧は対象外という理解でよろしいですか」と聞けば、認識のずれがその場で分かります。

納品の形式と体裁

どの形式で納品するか、元の資料の体裁をどこまで再現するかを確認します。訳文の文字量は原文と変わるため、体裁は必ず崩れます。その調整を誰が行うのかを、この場で決めます。

体裁の調整を引き受ける場合は、翻訳とは別の作業として扱う旨を伝えます。ここを曖昧にすると、納品直前に想定外の作業が発生します。

納期と、その後ろにある予定

納期を聞くだけでなく、その日付が何から逆算されているのかを聞きます。掲載日、印刷の入稿日、会議の日程。後ろの予定を知っていると、遅れそうになったときに何を優先すべきかが分かります。

多言語案件では、すべてを同時に納品する必要があるのかも確認します。公開の順番が決まっているなら、それに合わせて作業の順序を組めます。

用語集、参考資料、過去の訳文

社名、製品名、サービス名の訳し方が社内で決まっているかを聞きます。用語集がなくても、既存の英語版サイト、パンフレット、過去の訳文があれば参考になります。

資料がない場合は、訳語をこちらで決めることになる旨を伝え、初稿で用語の一覧を添えて確認してもらう段取りにします。この合意がないまま進めると、納品後に用語を全件差し替える後戻りが起きます。

検収する人と、その基準

誰が訳文を確認するのかを聞きます。発注の担当者本人か、海外の現地法人か、外部の確認者か。確認する人が変われば、指摘の内容も変わります。海外の現地法人が確認する案件では、日本側で決めた用語が現地で覆ることがあり、その調整に時間がかかります。

基準も確認します。「誤訳と訳抜けがないこと、共有された用語に沿っていること」を基準として提案し、同意を得ます。基準を言葉にしないまま進めると、感想が検収の可否になります。

修正の範囲と回数

修正指示を何回まで対応するか、どこまでが対応範囲かを決めます。誤訳、訳抜け、用語の不統一の修正は範囲内、原文にない情報の追加や文体の全面変更は別途、という線引きが実務的です。

回数の話をすると相手が身構えることがありますが、これは相手のためでもあります。回数が決まっていれば、指摘をまとめて出そうという意識が働き、やり取りの往復が減ります。

支払いの条件

支払期日、請求書の送付先、締め日、支払方法を確認します。事業者同士の取引で支払条件を確認するのは、当然の手続きです。ここを遠慮して聞かないと、納品後に一か月以上待つことになる場合があります。

秘密保持の取り決め

未公開の情報、個人情報、契約書などを扱う場合は、秘密保持について確認します。発注側にひな型があればそれを使い、なければこちらから提案します。あわせて、作業データの保管期間と、作業終了後の扱いも決めておきます。

聞き方の技術

同じ項目でも、聞き方によって答えの精度が変わります。

相手が答えられない質問をしない

「どのような文体をご希望ですか」と聞かれても、翻訳に慣れていない担当者は答えられません。代わりに、選択肢を示します。「説明書のように事実を淡々と書く形と、案内文のように読み手に語りかける形がありますが、どちらに近いですか」と聞けば、答えられます。

翻訳の専門的な判断を相手に丸投げしないことが、実は最も効率的です。判断材料をこちらが作り、相手は選ぶだけにします。

決まっていないことを、決まっていないと確認する

その場で答えが出ない項目は、無理に決めさせません。「今は決まっていない」ということ自体を確認し、いつまでに決まるかを聞きます。曖昧なまま流すと、こちらは決まっていると思い、相手は決めていないと思う、という食い違いが残ります。

決まっていない項目については、こちらの前提を置いて進める旨を伝えます。「地域の指定がない場合は米国向けの表記で進めます」と伝えておけば、あとから変更が入っても、それが追加の作業であることが明確になります。

期限を決めて持ち帰る

社内で確認が必要な項目は、いつまでに回答をもらえるかを確認します。回答の期限は納期に直結するため、「〇月〇日までにご回答いただければ、〇月〇日の納品が可能です」という形で結びつけて伝えます。この形にすると、相手も回答を急ぐ理由が分かります。

見積もりを出す時期を伝える

打ち合わせの終わりに、金額と納期をいつ提示するかを伝えます。その場で概算を求められることもありますが、資料を確認してから出すほうが精度が上がります。「本日中に資料を拝見し、明日中にお見積書をお送りします」と期限を切って伝えれば、相手も待つ理由が分かります。

その場で概算を出す場合は、幅を持たせた範囲を示し、正式な金額は資料確認後である旨を必ず添えます。打ち合わせで口にした数字は、相手の記憶に強く残ります。あとから上げる交渉は難しいため、確定を急がないことです。

打ち合わせの時間を区切る

初回の打ち合わせは、時間を決めて臨みます。時間の制約がないと雑談に流れ、確認事項が最後まで届きません。開始時に「本日は1時間で、確認事項を一通り伺えればと思います」と伝えるだけで、会話の密度が変わります。

時間内に終わらなかった項目は、記録の中で保留として明示し、回答の期限を添えて送ります。その場で全部を決めることが目的ではなく、決まっていない項目を可視化することが目的です。

打ち合わせの形式ごとに変わること

初回のやり取りは、必ずしも会議の形を取るとは限りません。形式によって、注意すべき点が変わります。

オンラインの打ち合わせ

画面を共有しながら資料を見られるため、範囲の確認がしやすい形式です。「この部分は対象ですか」と指し示しながら聞けるので、認識のずれが起きにくくなります。

一方で、話が流れやすいという弱点があります。会話の中で決まったことが記録に残らないため、終了後の記録がより重要になります。可能であれば、打ち合わせ中に共有の画面へ決定事項を書き込んでいくと、その場で認識を合わせられます。

電話での打ち合わせ

資料を見ながら話せないため、範囲の確認が最も難しい形式です。電話で条件を詰めるのは避け、資料を見ながら確認する場を別に設けるか、記録を送って文章で詰め直します。

急ぎの案件で電話しか手段がない場合は、聞いた内容をその場でメモし、終了直後に記録を送ります。時間が空くほど、記憶は都合よく変わります。

メールだけでやり取りする場合

会議の形を取らず、メールのやり取りだけで条件を詰める案件も多くあります。この形式は、記録が自然に残るという利点があります。

注意すべきは、質問を小出しにしないことです。一問ずつ送ると、往復の回数だけが増え、相手も疲れます。確認事項をまとめて一通で送り、番号を振って答えやすくします。回答が一部だけ返ってきた場合は、返ってこなかった項目を再度まとめて送ります。

相手が複数人で参加する場合

発注の担当者、実務の担当者、確認する担当者が別々に参加する案件では、誰が何を決める立場なのかを把握します。会話の中で最も詳しく答える人が、決定権を持っているとは限りません。

記録を送るときは、参加者全員を宛先に入れます。一人にだけ送ると、他の参加者が知らない条件が生まれます。

二回目以降の案件で確認すること

同じ相手からの二回目以降は、初回ほど確認事項は多くありません。ただし、確認を省いてよいわけではなく、変わりうる項目だけを見ます。

前回と変わっている可能性が高いのは、担当者、原稿の確定状況、納期の逆算元、確認する人です。特に担当者が変わっている場合、前回決めた条件が引き継がれていないことがあります。「前回と同じ条件で進めてよろしいですか」と一文確認するだけで、認識のずれを防げます。

用語集は、案件ごとに更新します。前回の案件で決めた訳語を一覧として残しておき、今回の案件でもそれを使うかを確認します。この積み重ねがあると、二回目以降の作業は大きく楽になり、相手にとっても継続して依頼する理由になります。

打ち合わせの場で受けない判断をする場面

初回の打ち合わせは、断る判断をする場でもあります。次のような場面では、その場で受けると答えないほうが安全です。

条件を聞いても具体的な答えが返ってこず、「お任せします」が繰り返される場合。原稿を見せてもらえないまま金額と納期だけを決めようとする場合。修正回数や検収の基準を決めることに難色を示される場合。支払条件の話を避けられる場合。

これらは、悪意の有無にかかわらず、作業の終わりが定義できない状態です。断る場合も、その場で結論を出す必要はありません。「持ち帰って確認し、〇日までにご連絡します」と伝えて時間を作れば、冷静に判断できます。

打ち合わせのあとに送る記録

打ち合わせは、記録を送るまでが一続きです。

その日のうちに送る

記憶が新しいうちに、決まったことを文章にして送ります。時間が空くほど、双方の記憶がずれていきます。当日中、遅くとも翌営業日には送ります。

決まったこと、保留、こちらの前提を分ける

記録は3つに分けて書きます。決まったこと、保留になっていること、こちらが前提として置くこと。この構造にすると、相手が確認すべき箇所が明確になります。

〇〇様

本日はお時間をいただきありがとうございました。
お打ち合わせの内容を下記のとおり整理いたしました。

【決定事項】
・対象:別紙資料の本文および見出し(図中の文字、参考文献は対象外)
・言語:日本語から英語(米国向け)、日本語から簡体字中国語
・納品形式:編集可能な形式でのテキスト納品(体裁の調整は貴社にて実施)
・修正:2回まで対応(誤訳・訳抜け・用語の不統一)

【ご確認いただく事項】
・社内で決まっている訳語の一覧の有無(〇月〇日までにご連絡ください)
・訳文をご確認いただく担当者

【当方の前提】
・用語の指定がない場合、初稿に用語一覧を添付し、ご確認いただいたうえで確定します
・原稿の確定後、〇営業日での納品といたします

相違がございましたらご指摘ください。
ご返信をもって上記の内容で進めさせていただきます。

返信をもって合意とする

記録の末尾に、返信をもって合意とする旨を書いておきます。これにより、条件が文章として残ります。相手からの返信が来ない場合は、着手前に一度確認します。

取引条件を文章で受け取ることの意味

業務委託の取引では、発注する側に、業務の内容、報酬の額、支払期日といった取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。つまり、メールやチャットでもよいので、条件が形に残る必要があるということです。

打ち合わせで口頭だけ合意して着手するのは、この形になっていません。前掲のような記録を送ることは、こちらから条件の明示を促す行為でもあります。相手が慣れていない場合は、こちらが型を作って送ってしまうほうが早いものです。制度の内容は公正取引委員会厚生労働省の案内で確認できます。

なお、記録を送ったあとに条件が一方的に変更された、支払いを拒まれているといった段階に入った場合は、弁護士など専門家への相談を検討してください。記録が残っていれば、相談の際の材料になります。

打ち合わせでよく出る誤解を解く

初回の打ち合わせでは、翻訳についての誤解が出てくることがあります。その場で解いておかないと、条件の前提がずれたまま進みます。

機械翻訳があるから安く早くできる、という誤解

機械翻訳にかけた文章を渡され、「確認するだけなので簡単ですよね」と言われることがあります。実際には、質の低い機械翻訳の修正は、原文と訳文を突き合わせる作業が必要で、ゼロから訳すより時間がかかることがあります。

この場合、実物を見てから判断する旨を伝えます。サンプルを見ずに条件を決めると、作業時間だけが膨らみます。

ネイティブが確認すれば品質が上がる、という誤解

訳文をその言語の母語話者が確認すれば品質が担保される、という理解も見かけます。しかし、原文の内容を理解していない人が訳文だけを読んでも、意味の取り違えは見つかりません。確認には、原文と訳文の両方を読める人が要ります。

この点を説明しておくと、検収の体制について現実的な話ができます。

多言語は同時に進むから納期も同じ、という誤解

複数の言語を同時に依頼すれば、一つの言語と同じ日数で終わると考えられていることがあります。実際には、言語ごとに作業が発生し、用語の統一という別の工程も加わります。

優先度の高い言語から順に納品する提案をすると、この誤解は自然に解けます。語学に関わる仕事の幅を示す材料としては語学レッスン(英中韓など)のお仕事のような周辺分野の情報もあり、言語ごとに必要な準備が違うことを説明する助けになります。

聞いた内容を作業の設計に落とす

打ち合わせで集めた情報は、そのまま作業の段取りに変換します。ここを結びつけないと、聞いただけで終わります。

用途と読み手を、文体の方針に変換する

読み手が専門家なら用語をそのまま使い、一般の読者なら初出で言い換えを添える。掲載先が既存のWebサイトなら、そのサイトの既存ページの文体に合わせる。打ち合わせで得た情報を、こうした具体的な方針に落とし込み、着手前に文章にしておきます。

方針を文章にしておくと、途中で迷ったときの判断基準になりますし、納品時に「こういう方針で訳しました」と説明できます。説明できる訳文は、修正のやり取りが少なくなります。

検収の体制を、日程に変換する

確認する人が誰かによって、検収にかかる日数は変わります。担当者一人が見るなら短く済みますが、海外の拠点や複数の部署が関わるなら、往復の時間を見込む必要があります。

打ち合わせで確認した体制をもとに、納品日、検収の目安、修正の対応期間を並べた日程表を作り、記録と一緒に送ります。相手にとっても、社内の予定を組む材料になります。

保留になった項目を、着手前の確認事項として残す

その場で決まらなかった項目は、一覧にして手元に残します。着手前にもう一度見て、まだ埋まっていない項目があれば催促するか、こちらの前提で進める旨を伝えます。

保留のまま作業を進め、納品の直前になって思い出すのが最も危険です。保留の一覧は、作業計画と同じ場所に置いておきます。

市場を長く見てきた立場からの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、初回の打ち合わせで確認事項を一覧で出す人は、その一回で信頼を得ています。質問の多さが煩わしがられるのではないかと心配する人は多いのですが、実際には逆で、聞かれた側は「この人は分かっている」と受け取ります。

運営者として見てきた限りでは、仲介を挟まない直接の取引では、この最初の会話がそのまま関係の質を決めます。間に会社が入る場合、条件は会社側で整理されて降りてきますが、直接のやり取りでは自分で組み立てることになります。手間はかかるものの、中間マージンが乗らないため、同じ予算でも依頼者はより多く頼め、受け手には手数料0%という条件が手取りの厚さとして残ります。最初の一時間の使い方が、その後の関係の長さに直結します。

確認の型を持つことが、後戻りを減らす

初回の打ち合わせで聞くべきことは、案件が変わってもほとんど同じです。だからこそ、毎回考えるのではなく、型として持っておくのが合理的です。質問表を作り、記録のひな型を作り、案件ごとに中身だけを差し替える。この形にすると、準備の時間が短くなり、聞き漏らしも減ります。

文書のやり取りの基本を体系的に押さえたい場合はビジネス文書検定のような基準が参考になります。ただし、実務で効くのは形式の正しさより、決まったことと決まっていないことを分けて書く習慣です。

長い目で働き方を組み立てるという点では、定年後のフリーランス独立|退職金を活かした起業プランと注意点で扱われているような、時期ごとに受注の仕方を変える視点も参考になります。翻訳は続けられる期間の長い仕事ですが、扱える分量や集中できる時間は変わっていきます。最初の打ち合わせで条件を詰める力は、量で稼ぐ働き方から条件で稼ぐ働き方へ移るときに、そのまま武器になります。

聞くべきことを聞くのは、疑うことではありません。同じ絵を見ながら仕事をするための手続きです。手続きを踏んだ仕事は、後戻りが減り、結果として双方の時間を守ります。法律も、その手続きを踏んでいる人を守るようにできています。

よくある質問

Q. 初回の打ち合わせで質問が多すぎると、印象が悪くなりませんか?

逆の結果になることがほとんどです。確認事項を一覧で示せる相手は、仕事の進め方を理解していると受け取られます。むしろ何も聞かずに引き受けたあとで前提の食い違いが発覚するほうが、信頼を損ないます。質問は口頭で並べるより、事前に一覧として用意しておくと短時間で終わります。

Q. 原稿がまだ確定していない段階で打ち合わせをしてもよいですか?

問題ありません。ただし、確定していないという事実を確認し、いつ確定するのか、変更されうる箇所はどこかまで聞いておきます。あわせて、確定後の差し替えを別途の依頼として扱う旨を先に共有します。この合意がないまま進めると、差し替えのたびに無償で作業が増えます。

Q. 打ち合わせの記録は、どこまで細かく書くべきですか?

決まったこと、保留になっていること、こちらが置く前提の3つに分けて書けば十分です。会話をすべて再現する必要はありません。相手が確認すべき箇所が分かる構造にすることが目的で、末尾に返信をもって合意とする旨を添えておくと、条件が文章として残ります。

Q. 検収する人が海外にいる場合、何に注意すべきですか?

確認する人が誰かを最初に把握し、日本側で決めた訳語が現地で覆る可能性を前提に日程を組みます。現地からの指摘は往復に時間がかかるため、修正のやり取りに要する期間を通常より長めに見ます。用語は初稿の段階で一覧にして、現地の確認を先に通すと後戻りが減ります。

Q. 口頭で合意しただけで着手しても問題ないですか?

避けるべきです。業務委託の取引では、業務の内容、報酬の額、支払期日といった条件を書面または電磁的方法で明示することが発注側に求められています。メールでも構わないので、条件が形に残る状態にしてから着手します。相手が慣れていない場合は、こちらから記録を送って確認を求める形が確実です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月20日最終更新:2026年9月11日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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