取材・インタビュー記事の単価を上げる相談|切り出し方と根拠


この記事のポイント
- ✓取材・インタビュー記事の単価交渉を
- ✓切り出すタイミングと根拠の作り方から整理しました
- ✓そのまま使える相談の文面
取材・インタビュー記事の単価交渉で悩む人からの相談は、ここ数年で明らかに増えています。内容はほぼ共通していて、「工程が多いのに、普通の記事作成と同じ扱いをされている」というものです。結論から言うと、この状況は交渉の技術ではなく、根拠の出し方で変わります。この記事では、相談をどのタイミングで、どの材料を揃えて切り出せばよいのかを、法務の観点も含めて順番に整理します。
先に一番大事なところを書きます。単価の相談は「値上げのお願い」ではなく「条件のすり合わせ」です。お願いの形にすると相手の温情に委ねることになり、断られたときに次の手がなくなります。条件のすり合わせにすれば、材料を出し合って落としどころを探る話になり、断られても別の条件で調整できます。これ、知らない人が本当に多いんです。
単価の相談は交渉ではなく条件のすり合わせ
取材記事の単価が上がらない最大の原因は、依頼元と書き手のあいだで、作業範囲の認識がずれたまま進んでいることにあります。ずれたまま値段の話だけをすると、必ず平行線になります。
取材記事が文字単価で測れない理由
記事作成の外注は、長らく文字単価という物差しで語られてきました。取材記事にこの物差しを当てると、実態と合わなくなります。理由は工程の数です。
取材記事には、企画のすり合わせ、質問表の作成、日程調整、事前の下調べ、取材当日の拘束、移動、文字起こし、構成の設計、執筆、取材相手の確認対応、依頼元の修正対応、公開後の確認という工程があります。このうち文字数に比例するのは執筆だけです。残りは記事の長さに関係なく発生します。
つまり、短い記事でも工程はほとんど減りません。文字単価で見積もると、短い企画ほど採算が悪化する構造になります。取材記事の見積もりを1本いくらで組む慣習があるのは、この構造があるからです。単価の相談をするときは、まずこの前提を共有するところから始めます。相手が制作の実務を知らない場合、工程表を見せるだけで話が通ることも多い。
相談の前に自分の基準を決めておく
交渉の場で困るのは、「いくらなら受けられるのか」を自分で決めていないケースです。相手に提示された金額に対して、高いか安いかの感覚しか持たずに臨むと、押し返す言葉が出てきません。
基準を作る手順は単純です。過去の案件で、企画のすり合わせから公開後の確認までにかかった時間を工程ごとに記録します。取材が1時間でも、下調べに3時間、文字起こしの整理に2時間かかっているなら、その合計が実際の稼働です。この稼働に対して、自分が確保したい時間あたりの水準を掛ければ、受けられる下限が出ます。
下限が出たら、そこから2段構えで考えます。この金額以下では受けない線と、条件次第で調整できる線です。工程を削れるなら下げられる、削れないなら下げられない。この区別を持っていれば、相談の場で慌てません。金額を下げる代わりに文字起こしを依頼元に用意してもらう、取材をオンラインに切り替える、といった調整も提案できます。
相手の言い値をそのまま受けた場合に起きること
初期のころ、提示された条件をそのまま受けて、あとで苦しくなった案件がありました。取材が地方で、往復に半日かかる企画だったのに、交通費の扱いを確認しないまま進めてしまったのです。結果として実費は自己負担になり、原稿料だけが残りました。悔しいのは、確認していれば通っていた可能性が高いことです。依頼元の担当者も、後で「言ってくれれば経費で処理できた」と話していました。
条件は、聞かなければ相手からは出てきません。担当者は自分の社内ルールで動いているので、書き手が何を負担しているかを知りません。相談を切り出すことは、対立ではなく情報の共有です。
発注側から見た費用の組み立て方を知る
交渉の材料を作るには、依頼元がどうやって予算を組んでいるかを知る必要があります。相手の構造が分かると、押せる場所と押せない場所が見えます。
依頼元の予算は年度単位で固まっている
企業の記事制作費は、多くの場合、年度の予算として先に確保されています。担当者が自由に増減できる範囲は限られており、年度の途中で単価を上げる判断は、担当者だけでは決められません。上長の承認や、場合によっては部門をまたいだ調整が必要になります。
この事情を踏まえると、相談を持ちかけるタイミングが重要になります。年度の途中で急に切り出すより、次年度の企画を立てる時期に合わせたほうが通りやすい。担当者にとっても、予算を組むときに反映できるほうが動きやすいのです。「次年度のご予算を組まれる時期かと思いますので、条件のご相談をさせてください」という切り出し方は、担当者を困らせません。
発注先の種類によって費用の構造が違う
依頼元が取材記事を外注する先には、いくつかの選択肢があります。それぞれ費用の構造が違い、そのことは公開されている情報からも読み取れます。
取材・インタビュー記事を外注する際は、費用面での検討が欠かせません。クラウドソーシングを利用すれば1万円前後、専門の記事作成会社に依頼すれば2万円から5万円程度、マーケティング支援会社となると5万円以上の費用がかかります。 出典: conmark.jp
ここで注目したいのは、同じ「取材記事1本」でも、どこに頼むかで費用の桁が変わるという事実です。制作会社やマーケティング支援会社に発注した場合、その費用のなかには企画設計、ディレクション、進行管理、品質管理といった業務が含まれています。実際に取材して書く人に渡る分は、その一部です。
書き手が単価の相談をするとき、この構造を理解しているかどうかで説得力が変わります。「もっとください」ではなく、「企画設計とディレクションまでこちらで担っているので、その範囲を前提にした条件でお願いしたい」と言えるかどうか。担っている業務の範囲を示すことが、そのまま根拠になります。
自分がどの層の仕事をしているかを確認する
取材記事の書き手は、統計上は著述家や記者、編集者の区分に含まれます。著述家,記者,編集者の年収・単価相場には、この職種の全体像がまとまっています。自分の仕事が、単に原稿を書く役割なのか、企画から進行まで抱える役割なのかを見極めておくと、相談で示すべき範囲が定まります。
役割の広さは、そのまま条件の根拠になります。取材の設計、当日の進行、写真の指示、取材相手との調整まで担っているなら、それは執筆の仕事ではなく制作の仕事です。この違いを言葉にできる人は、条件の相談でも押し負けません。
相談を切り出すタイミングを間違えない
同じ内容の相談でも、タイミングによって結果が変わります。ここは技術というより段取りの問題です。
新規の依頼を受けるときが最も自由度が高い
条件の相談が最も通りやすいのは、新規の依頼を受けるときです。まだ何も始まっていないので、双方が自由に条件を出せます。ここで妥協すると、その条件が以後の基準になります。
新規の相談で必ず確認すべき項目は、記事1本あたりの報酬、取材の回数と想定時間、修正の回数、交通費と実費の扱い、文字起こしの担当、写真撮影の有無、公開後の実績利用の可否です。この7点を最初に整理しておけば、後から揉めることはほとんどありません。
見積もりを出すときは、総額だけでなく内訳を添えます。取材、執筆、修正対応、進行管理といった項目に分けて示すと、依頼元は社内で説明しやすくなります。内訳があると、予算が足りない場合に「この項目を御社で持っていただければ調整できます」という交渉もできます。総額だけを出すと、断るか受けるかの二択になってしまいます。
継続案件では実績が溜まってからにする
すでに動いている案件で条件を変えたい場合は、実績を材料にします。何本か納品し、進行が安定してからのほうが、話が通りやすい。担当者から見ても、実績のある相手の条件を調整するほうが、社内で説明しやすいのです。
継続案件で切り出すきっかけとして自然なのは、作業範囲が広がったときです。当初は執筆だけだったのに、企画の相談にも乗るようになった、取材相手の調整もするようになった、といった変化があれば、それが相談の入り口になります。「当初のご依頼から範囲が広がっておりますので、一度条件を整理させてください」という言い方であれば、角が立ちません。
継続的な値上げの考え方については、フリーランスの単価交渉術|値上げを成功させる方法【2026年版】に、業種を問わず使える段取りがまとまっています。取材記事に固有の事情を差し引いても、交渉の基本構造は共通しています。
切り出してはいけないタイミング
逆に、避けるべきタイミングもあります。1つ目は、進行中の案件の途中です。取材が終わって執筆に入っている段階で条件の話を持ち出すと、相手には人質を取られたように見えます。信頼を失う典型です。
2つ目は、トラブルの直後です。修正が多く発生した、締切に遅れた、といった直後に条件の話をすると、値上げの根拠が弱いだけでなく、状況を読めない相手だと判断されます。
3つ目は、相手が明らかに繁忙期にあるときです。年度末や大型の施策の直前など、担当者が余裕を失っている時期は、検討そのものが後回しになります。急がない相談は、相手に余裕がある時期に回します。
根拠は3種類そろえる
条件の相談で通るかどうかは、根拠の量ではなく種類で決まります。そろえるべきは3つです。
工程を可視化する
1つ目は、自分がどの工程を担っているかの可視化です。前述の工程一覧を、案件ごとの実態に合わせて書き出します。企画のすり合わせから公開後の確認まで、担当者が把握していない作業が必ずあります。
特に見落とされやすいのが、取材相手との調整です。日程の再設定、当日の場所案内、原稿確認の催促といった作業は、担当者の視界に入っていないことがあります。これらを一覧で示すだけで、「そんなに動いていただいていたんですね」という反応が返ってくることは珍しくありません。
工程表は、責める道具ではなく共有の道具として使います。「この工程をこちらで持っている前提で、条件を整理させてください」という文脈に置けば、対立になりません。
追加作業を棚卸しする
2つ目は、当初の合意になかった作業の棚卸しです。修正回数が想定を超えている、取材が1回の予定が2回になった、原稿とは別に社内向けの要約を作っている。こうした追加は、少しずつ積み上がるため、双方とも気付きにくいのが特徴です。
棚卸しをするときは、感情を混ぜずに事実だけを並べます。「何回発生したか」「どれくらいの時間がかかったか」を淡々と示す。ここで「大変でした」と書くと、相手は謝罪の話だと受け取り、条件の話になりません。
追加作業を示したうえで、選択肢を2つ出すのが効果的です。1つは条件を調整する案、もう1つは作業範囲を当初に戻す案。相手に選ばせる形にすると、話が前に進みます。
成果を材料にする
3つ目は、成果の提示です。取材記事は成果が見えにくい領域ですが、材料がないわけではありません。記事の閲覧数、取材相手からの反応、社内での活用状況などは、担当者が持っています。
こちらから聞いてみるのが早い方法です。「前回の記事の反応はいかがでしたか」と尋ねれば、担当者は状況を教えてくれます。良い反応があったなら、それは条件の相談を切り出す絶好の材料になります。悪い反応だったなら、条件の話は一旦保留し、改善の提案に切り替えます。
成果を材料にするときの注意点は、自分の手柄として語らないことです。「おかげさまで良い反応をいただけたとのことでしたので」という形にして、成果の帰属を相手側に置いたまま話を進めます。
取材の種類ごとに難度が違うことを示す
もう1つ、根拠として使えるのが取材の種類です。取材記事とひとくくりにされていますが、難度は企画によって大きく違います。この違いを説明できると、条件を分けて考えてもらえます。
導入事例の取材は、比較的パターンが決まっています。課題、選定理由、導入の経緯、効果という流れがあり、質問表も再利用できます。一方、経営者や専門家へのインタビューは、事前の下調べに時間がかかります。相手の既出のインタビューや講演記録をすべて読み、同じ話を繰り返させない質問を用意する必要があるためです。この準備量は、記事の文字数からはまったく見えません。
さらに難度が上がるのが、専門領域の技術者や研究者への取材です。用語の正確さが求められ、事実確認に時間を要します。書き手が内容を理解できていないと、原稿の修正が何往復にもなります。逆に言えば、理解できる書き手は修正が少なく、依頼元の手間を減らします。この差は条件の根拠として説明しやすい部分です。
複数人が同席する座談会形式も、難度が高い企画です。発言者の識別、話題の交錯、全員の確認取得と、単独取材にはない工程が加わります。「今回は座談会形式ですので、通常の単独取材とは工程が異なります」と最初に伝えておくだけで、条件の話が別枠になります。
単価の低い案件から抜けるための準備
条件の相談と並行して考えるべきなのが、案件そのものの入れ替えです。交渉だけで状況を変えようとすると限界があります。
依頼元を1社に依存しない
条件の相談が切り出しにくい最大の理由は、その依頼元を失うと収入が途切れるという不安です。1社への依存度が高いほど、交渉の余地は狭くなります。逆に、複数の依頼元と取引していれば、条件が合わない案件を手放す判断ができます。
依存度を下げる作業は、忙しい時期にこそ進めておく必要があります。手が空いてから探し始めると、足元を見られた条件でも受けざるを得なくなるためです。稼働に余裕があるうちに新しい取引先を1つ増やしておくと、それだけで交渉の姿勢が変わります。
複数の依頼元を持つと、案件ごとの条件が比較できるようになります。同じ工程で条件が違えば、その差は交渉の材料です。「他社ではこの範囲まで含めた条件でお受けしています」と言えるかどうかは、実際に複数の取引がある人にしか使えない材料です。
受注の入口を仲介から直接に切り替える
もう1つの準備は、受注の経路を見直すことです。仲介を挟む取引では、依頼元が支払った金額の一部が中間で差し引かれます。書き手の手元に残る額は、依頼元が想定している金額とずれます。
このずれは、条件の相談を難しくします。書き手が「もう少し上げてほしい」と伝えても、依頼元からすると「すでに十分な金額を払っている」という認識になるからです。両者とも正しいことを言っているのに、噛み合わない構造ができあがります。
直接取引に切り替えると、この構造が消えます。依頼元が払う金額と書き手が受け取る金額が一致するので、話が単純になります。予算が足りないなら工程を調整する、余裕があるなら範囲を広げる、という素直な相談ができます。仲介を経由する取引を全部やめる必要はありませんが、直接の取引先を少しずつ増やしておくと、条件の話がしやすくなります。
実績を出せる状態を作っておく
条件の相談で最終的にものを言うのは、過去の仕事です。ただし、取材記事は守秘義務や公開の制約があり、実績として出せないものが多い領域でもあります。
だからこそ、公開できる実績を意識して確保しておく必要があります。案件が終わった段階で、記事URLの提示可否、取材相手の社名の掲載可否、執筆担当としての氏名表示の可否を確認する。この3点は分けて聞くと、部分的な許可でも得られます。「社名は伏せますが記事の傾向は説明したい」といった形でも構いません。
出せる実績が積み上がると、新規の依頼で最初から高い条件を提示できるようになります。既存の依頼元と粘り強く交渉するより、新規の入口で条件を作り直すほうが早い場合も多い。条件の相談は、既存の取引を守る話と、新しい取引を作る話の両輪で考えます。
そのまま使える切り出し方
ここからは、実際の文面です。長々と書く必要はありません。要点は3つで、現状の共有、変更の提案、相手が判断できる選択肢です。
新規案件で見積もりを出すとき
新規の場合は、質問と見積もりを同じメールにまとめます。
「ご依頼ありがとうございます。お見積もりにあたり、いくつか確認させてください。取材は1回のご想定でしょうか。文字起こしはこちらで行う前提でよろしいでしょうか。修正のご対応は2回までを標準としております。交通費については実費でご精算いただけますと幸いです。以上を前提とした場合のお見積もりは別紙のとおりです。ご予算に合わない場合、工程の一部を御社にお持ちいただく形での調整も可能ですので、お気軽にお知らせください」
この形の利点は、断られる余地を残していることです。金額だけを出すと、合わなければそこで終わります。調整の余地を明示しておけば、話が続きます。
継続案件で条件の改定を相談するとき
継続の場合は、実績と変化を先に置きます。
「いつもお世話になっております。これまで数本ご一緒させていただき、進行も安定してまいりましたので、一度条件の整理をお願いできればと存じます。当初は執筆のみのご依頼でしたが、現在は企画のご相談と取材先との日程調整まで担当させていただいております。この範囲を前提とした条件に見直しをご検討いただけますでしょうか。ご予算の都合がある場合は、日程調整を御社にお戻しいただく形でも構いません。ご都合のよい方向をお知らせください」
ここでも、選択肢を2つ出しています。条件を上げるか、作業を戻すか。どちらでも書き出しの採算は改善するので、どちらを選ばれても損はしません。
断られたときの二の矢
断られたときに、そこで引き下がる必要はありません。金額が動かないなら、金額以外を動かします。
動かせる条件は複数あります。修正回数の上限を明確にする、納期を延ばす、取材をオンラインに切り替える、文字起こしを依頼元側で用意してもらう、写真の手配を外す、実績としての公開を認めてもらう。どれも書き手の負担を下げるか、次の案件を取る材料になります。
「ご事情は承知しました。金額はこのままで結構ですので、修正のご対応を2回までとさせていただけますでしょうか」という返し方であれば、担当者も応じやすい。金額の変更は社内承認が要りますが、作業範囲の調整は担当者の裁量で決められることが多いためです。
相談したあとの沈黙をどう扱うか
条件の相談を送ったあと、返信がすぐに来ないことはよくあります。担当者が社内で確認を取っている場合、数日から数週間かかることも珍しくありません。この沈黙をどう扱うかで、結果が変わります。
やってはいけないのは、催促を重ねることです。担当者は自分の裁量で決められないから時間がかかっているのであって、急かしても進みません。むしろ、返答を待つあいだも通常どおりに仕事を進めることが、信頼につながります。条件の話を持ち出した途端に作業の質が落ちる相手は、社内で推しにくいためです。
適切な確認の入れ方は、期限を添える形です。相談を送る段階で「次の案件のご相談をいただく前にお返事いただけますと、こちらの日程も調整しやすくなります」と書いておけば、催促ではなく段取りの話になります。2週間ほど経っても返答がない場合は、「先日の件、社内でご検討中でしょうか。急ぎませんので、方向性だけでも教えていただけますと助かります」と一度だけ確認します。
沈黙が続き、条件も変わらないまま同じ内容の依頼が来た場合は、その依頼元での条件変更は難しいと判断します。ここで感情的にならず、受けるか受けないかを淡々と決めます。関係を切る必要はありません。稼働の優先順位を下げ、条件の良い案件を優先する形に静かに移行すれば十分です。
法律が守ってくれる範囲を知っておく
条件の相談は当事者間の話し合いですが、法律が線を引いている部分もあります。ここを知っているかどうかで、心理的な余裕が変わります。
取引条件は書面で示される必要がある
2024年11月に施行されたフリーランス保護新法により、発注者はフリーランスに業務を委託する際、給付の内容、報酬額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示する義務を負います。つまり、口約束だけで作業を始めさせることは認められていません。
これ、知らない人が本当に多いのですが、条件が曖昧なまま進んでいる状態は、書き手の落ち度ではなく発注側の義務違反にあたる可能性があります。「条件を書面でいただけますか」と求めることは、わがままではなく法律に沿った依頼です。
報酬の支払期日には上限がある
報酬は、発注者が成果物を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その日までに支払う必要があります。「請求から3か月後」といった条件は、この規定に照らして問題になり得ます。
先日も、原稿を納品してから支払いまでが長く空く条件を提示されたという相談を受けました。結論として、条件の提示段階で疑問を伝えるのが正しい対応です。契約前であれば、条件の見直しを求めることは何ら問題ありません。※個別の契約内容の適法性が問題になる場合は、弁護士または所管の窓口にご相談ください。
一方的な報酬の引き下げは禁止されている
一定期間以上にわたる継続的な業務委託については、発注者が通常の対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めること、いわゆる買いたたきが禁止されています。また、あらかじめ定めた報酬を後から一方的に減額することも禁止行為とされています。
制度の詳細と適用範囲は、公正取引委員会および厚生労働省が公表している資料で確認できます。相談窓口も設けられており、当事者間で解決しない場合の受け皿があります。法律はあなたの味方です。ただし、味方になってもらうには、条件のやり取りを記録として残しておく必要があります。メールでのやり取りを残し、電話で決めたことは必ずメールで確認する。この習慣が、いざというときの証拠になります。
記録の残し方は仕事の基本でもある
条件のやり取りを記録として整えておく力は、法務上の備えであると同時に、仕事の進めやすさそのものにも直結します。議事メモの作り方、確認依頼の文面、契約書類の読み方といった実務は、ビジネス文書検定が扱う範囲とかなり重なります。取材記事の書き手にとって、原稿の外側にあるこうした技術は、条件を守るための道具になります。
単価が動く条件を市場から見る
ここからは、フリーランス市場を長く運営してきた立場からの観察です。
20年この市場を見てきた立場から言えば、条件が上がっていく人には共通点があります。単発の作業を安く速くこなす方向ではなく、「この人に任せると全体が楽になる」という関係を作る方向に時間を使っていることです。取材記事でいえば、原稿を書くだけの人と、企画から公開までの段取りを引き受けられる人では、依頼元にとっての価値がまったく違います。前者は代替可能ですが、後者は代替に手間がかかります。この差が、条件の相談が通るかどうかを分けています。
もう1つ、運営者として見てきた限りでは、間に何社も入る取引ほど、条件の相談が届きません。書き手が根拠を丁寧に整えても、その資料は中間の担当者で止まり、実際に予算を持っている人には届かない。返ってくるのは「予算が決まっているので」という一言だけです。手数料0%の直接取引が効くのは、金額そのものより、この情報の通り方にあります。依頼元と書き手が直接話せる形であれば、工程表も追加作業の棚卸しも、判断する人にそのまま届きます。同じ予算で依頼元はより多く頼め、書き手の手取りは厚くなる。この構造は、続けるほど差になって表れます。
取材記事の仕事の内容や進め方は、取材・インタビュー記事のお仕事にまとまっています。自分が担っている範囲を確認し、依頼元に示す資料を作るときの土台として使えます。範囲を言語化できていない状態で条件の話をしても、相手には伝わりません。
扱う題材を広げることも、条件を動かす方法の1つです。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事で扱われているような専門性の高い分野は、取材の難度が上がるぶん、条件も別の水準で語られます。専門用語を理解し、事実確認を自力でできる書き手は、その分野では代替が効きません。
海外の依頼元と直接取引する選択肢もあります。円安時代に海外案件で稼ぐ|ドル建て報酬のフリーランス案件の探し方が扱っているように、通貨が変わると同じ作業でも条件の見え方が変わります。ただし、契約の準拠法や支払い方法の確認は国内案件より慎重に行う必要があります。※海外との契約は紛争時の対応が複雑になりますので、金額が大きい場合は事前に専門家へ相談してください。
また、定年後のフリーランス独立|退職金を活かした起業プランと注意点が扱っているように、業界経験を持った人が取材の仕事に入ってくる流れも続いています。長く業界を見てきた人は、取材相手の話の背景を理解する速度が速く、そのこと自体が条件の根拠になります。専門性は、資格や肩書きだけでなく、経験の蓄積からも生まれます。
条件の相談は、揉め事ではありません。作業の実態を共有し、双方が続けられる形を探す作業です。切り出すことを恐れて黙っている状態のほうが、結果として関係を短くします。材料をそろえ、タイミングを選び、選択肢を添えて相談する。この3つを守れば、断られたとしても関係は壊れません。
よくある質問
Q. 単価の相談はメールと口頭のどちらがよいですか?
メールが基本です。担当者は社内で上長に説明する必要があるため、そのまま転送できる文面があるほうが動きやすくなります。打ち合わせの場で口頭で伝える場合も、その日のうちに内容をメールで送り、記録として残します。口約束のままにすると、後から条件が食い違ったときに証拠が残りません。
Q. 相談を断られたら、その依頼元との取引は続けるべきですか?
金額以外の条件が調整できるなら続ける価値があります。修正回数の上限、納期の延長、取材のオンライン化、文字起こしの分担といった調整で、実質的な負担は下げられます。どの条件も動かず、稼働に見合わない状態が続くようであれば、契約期間の区切りで整理することを検討します。
Q. 契約書がないまま仕事を進めている場合、どうすればよいですか?
2024年11月施行のフリーランス保護新法により、発注者には取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務があります。まずは業務内容、報酬額、支払期日を記載した書面の交付を依頼してください。応じてもらえない場合は、所管する公正取引委員会や厚生労働省の相談窓口を利用できます。
Q. 交通費や実費はどのタイミングで確認すべきですか?
見積もりを出す前です。取材場所が遠方の場合、移動時間と交通費の扱いで採算が大きく変わります。実費精算なのか報酬に含むのかを事前に確認し、書面に残します。宿泊を伴う取材では、宿泊費と現地での拘束時間の扱いも合わせて確認しておくと、後から揉めません。
Q. 取材記事の見積もりは1本いくらと文字単価のどちらで出すべきですか?
1本いくらの形が実態に合っています。取材記事は企画のすり合わせから公開後の確認まで工程が多く、その大半は文字数に比例しないためです。見積もりを出すときは総額だけでなく、取材、執筆、修正対応、進行管理といった内訳を添えると、依頼元が社内で説明しやすくなります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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