インフルエンサーPRの単価を上げる相談|切り出し方と根拠

長谷川 奈津
長谷川 奈津
インフルエンサーPRの単価を上げる相談|切り出し方と根拠

この記事のポイント

  • インフルエンサーPRの単価交渉を
  • 感情ではなく根拠で進めるための実務手順をまとめました
  • 法律が守ってくれる範囲

インフルエンサーPRの単価交渉で、いちばん多い失敗は「相場より安いので上げてください」と切り出してしまうことです。これ、知らない人が本当に多いんです。相場を根拠にした相談は、発注側の担当者が社内で使えません。担当者は上長に対して「相場が上がったので予算を増やしてください」とは説明できないからです。

通る相談には、共通した形があります。業務の範囲が変わったこと、成果の数値が積み上がったこと、代わりを探すコストが高いこと。この3つのどれかを事実として示し、担当者が社内の稟議にそのまま貼れる文章にして渡す。この記事では、その切り出し方と根拠の作り方を、契約の実務と法律の裏付けを含めて順に整理します。

単価の相談は「値上げのお願い」ではなく「業務範囲の再定義」

最初に、考え方を切り替えます。単価交渉を「お願い」の枠で捉えている限り、通る確率は上がりません。お願いは、相手の善意に依存するからです。善意は再現しません。

代わりに置くのが、業務範囲の再定義という枠です。いま自分が実際にやっている業務と、契約で決まっている業務がずれている。そのずれを整理して、契約を実態に合わせる。この形にすると、相談は交渉ではなく事務手続きに近づきます。事務手続きは、担当者が社内で処理しやすいのです。

交渉が通らない人は根拠ではなく感情を出している

先日、あるSNS運用の方から相談を受けました。「毎月の作業量が増えているのに報酬が変わらない。もう限界なので値上げを伝えたい」と。気持ちは分かります。ただ、この形で伝えると、受け取る側には「不満を言われた」としか残りません。

結論から言うと、伝えるべきは限界ではなく差分です。契約時に決めた業務がAとBだったのに、いまはA、B、C、Dをやっている。CとDが増えた時期はいつで、どれくらいの時間がかかっているか。この事実だけを並べる。感情を抜くほど、相談は通ります。

差分を出すには、記録が要ります。契約時の業務一覧と、いま実際にやっている業務の一覧。この2つを並べた表を作るだけで、相談の材料の大半はそろいます。表にすると、自分でも「これは元から含まれていた」「これは明らかに増えた」の線引きができます。

発注側の担当者が社内で通せる形にする

もう1つ重要なのが、担当者の立場です。担当者は、あなたの報酬を自分の裁量で決めているわけではありません。多くの場合、部門の予算枠があり、その中で配分しています。増額するなら、社内で説明が要ります。

つまり、あなたが渡すべきなのは説明の材料です。「業務範囲がこう変わったので、契約を実態に合わせたい」という文章を、担当者がそのまま上長に転送できる形で書く。ここまでやると、担当者はあなたの味方になります。逆に、感情的な文面を送ると、担当者は転送できず、自分の中で処理しようとして、結果的に握りつぶされます。

法律はあなたの味方ですが、担当者も味方にできます。味方にする方法は、担当者の仕事を減らすことです。

相談を切り出すタイミングを見極める

同じ内容でも、いつ言うかで結果が変わります。タイミングには明確な良し悪しがあります。

契約更新の前が基本

継続の契約がある場合、更新の話し合いが最も自然なタイミングです。契約書に更新の条項があれば、その手続きの一部として条件の見直しを議題に上げられます。

具体的には、更新の1か月から2か月前に切り出します。直前だと、発注側の予算はすでに固まっています。逆に早すぎると、次期の計画が立っていないため判断できません。相手の決算期や予算の編成時期が分かっているなら、その少し前に合わせます。

更新のタイミングを使う利点は、断られても関係が壊れにくいことです。更新の話し合いの中の一議題であれば、条件が合わなかったという結論も自然に収まります。

業務範囲が広がった直後

契約にない業務を頼まれたとき、その場で線を引くのが本来は正しい対応です。ただ、現実には「今回だけなら」と受けてしまうことが多い。そして、今回だけが積み重なります。

この場合、追加された業務が定着したと分かった時点、目安として同じ依頼が3回続いた時点で切り出します。「この作業は当初の範囲に入っていませんが、継続して発生しています。範囲に含める形で条件を見直したいです」という言い方です。

ここで大事なのが、業務を止めないことです。相談と同時に手を止めると、圧力をかけていると受け取られます。業務は続けたまま、条件だけを議題にする。この姿勢が、話し合いを穏やかに保ちます。

成果の数値がそろった時点

数値を根拠にする場合は、単月ではなく複数月の推移がそろってから出します。1回良い結果が出ただけでは、偶然と区別がつきません。3か月から6か月の推移があると、傾向として説明できます。

出す数値は、定義を固定したものにします。到達した人数、反応した人数、保存された数、プロフィールへの遷移数を、公開から7日後の値でそろえる。時点をそろえていない数値は、比較として成立しません。

避けたほうがいいタイミング

逆に、避けるべき場面があります。1つは、直前にトラブルがあったときです。納期の遅れ、修正の往復が多かった案件の直後。ここで条件の話を出すと、印象が悪くなります。

2つ目は、発注側が繁忙期のときです。ブランドの繁忙期は、商品の発売、セール、決算の時期に集中します。この時期に条件の話を持ち込むと、後回しにされたまま流れます。

3つ目は、相手の担当者が変わった直後です。新しい担当者は、前任の決めた条件の経緯を知りません。まず関係を作り、業務の流れが安定してから切り出します。

根拠の作り方:4つの軸

根拠は、次の4つの軸で作ります。すべてを使う必要はなく、案件の性質に合うものを2つか3つ選びます。

軸1:業務範囲の変化を書き出す

最も通りやすい根拠です。契約時の業務一覧と、現在の業務一覧を並べます。増えた項目に、いつから発生したかを添えます。

この軸の強みは、争いにくいことです。数値の解釈は人によって割れますが、「この作業をやっているかどうか」は事実として確認できます。発注側も否定しにくい。

書き出すときは、作業の名前を具体的にします。「SNS運用」ではなく「投稿の企画立案」「撮影の手配」「コメントへの返答」「月次の数値報告」のように分けます。分けるほど、増えた分が見えやすくなります。

軸2:成果の推移を時点つきで示す

数値を根拠にする軸です。ただし、数値の使い方には注意が要ります。「数値が伸びたから報酬を上げてほしい」という論法は、実は弱い。数値が下がったら下げるのか、という反論を招くからです。

強い使い方は、「この水準を維持するために必要な業務が増えている」という文脈で数値を出すことです。反応を維持するために企画の練り直しに時間をかけている、投稿前の検証を増やしている、といった業務の話に接続します。数値は単独では根拠になりませんが、業務量の説明とセットにすると効きます。

軸3:かかっている工数を可視化する

自分がその案件に何時間使っているかを、工程ごとに記録します。企画、撮影、編集、原稿の確認、報告。それぞれの時間を1か月分だけでも計測すると、実態が見えます。

工数の記録は、交渉の材料になる前に、自分の判断材料になります。記録してみると、実は制作そのものより、確認の往復や差し戻しに時間が溶けていることが多い。だとすれば、相談すべきは金額ではなく、確認の回数の制限かもしれません。ここに気づけるのが、記録の最大の価値です。

工数を提示するときは、時間そのものより「どこに時間がかかっているか」を伝えます。「差し戻しの対応に月の作業時間の相当部分が使われている」と示せば、発注側にも改善の動機が生まれます。改善で解決するなら、それも1つの答えです。

軸4:相場ではなく代替のコストで語る

冒頭で書いた通り、相場を持ち出す交渉は通りにくい。相場は担当者の稟議に使えないからです。代わりに使うのが、代替のコストという視点です。

いま自分が持っている前提の知識を、別の人に引き継ぐと何が起きるか。商品の背景、使ってはいけない表現、ブランドのトーン、過去に反応した企画と反応しなかった企画。これらの共有には時間がかかります。切り替えのコストが高いことは、担当者自身がよく分かっています。

この軸を使うときは、脅しにならない書き方が必須です。「代わりがいないでしょう」ではなく、「これまで蓄積した前提を活かして継続するほうが、双方にとって効率がいいと考えています」という表現にします。事実は同じでも、受け取られ方がまったく違います。

なお、発注側がどういう選択肢を持っているかを知っておくことも大切です。制作の外注先には、代理店という選択肢もあります。

大手代理店出身の経験者を中心に運営する代理店です。データに基づいた効果的なクリエイティブの提供を得意とし、デジタルマーケティング全般をサポートしています。さまざまなメディア・ツールの中から顧客企業にとって最適な組み合わせを提案、運用。小規模代理店ならではの一歩踏み込んだ取り組みで、他社からのリプレイス後の改善実績95%、平均CPA改善率73%を誇ります。Google、Facebook、LINEなど各種媒体とパートナー契約・代理店契約を締結しており、各広告媒体のアルゴリズムを理解しているため、サービスの特性に合わせた広告プランニング・運用を実行が受けられます。 出典: ad-repo.com

代理店に頼めば、媒体の知識も運用のノウハウもまとめて手に入ります。個人の発信者が持っている強みは、そこではありません。フォロワーとの距離の近さと、その層に届く言葉です。

フォロワー数が1,000人から1万人未満。視聴者に親近感を感じさせることに長けている人や、ニッチなファン層を抱えている人が少なくありません。フォロワーの身近な存在として、発信内容が信頼性の高いものになることが期待できます。 出典: ad-repo.com

つまり、代替のコストを語るときの中身は「作業を代わりにやる人がいない」ではなく「この層に届く言葉を持っている人が他にいない」です。前者は反論されますが、後者は反論しにくい。

切り出し方:文面をどう組み立てるか

根拠がそろったら、実際に伝えます。文面の順序に型があります。

最初に伝えるのは感謝ではなく事実

冒頭を「いつもお世話になっております。おかげさまで」で始めたくなりますが、本題に入るまでが長いと、読む側は身構えます。

推奨する構成は、次の順です。第1段落で相談の趣旨を1文で書く。第2段落で事実、つまり業務範囲の変化や工数の実態を並べる。第3段落で具体的な提案を書く。第4段落で、いつまでに返答がほしいかを書く。

趣旨を最初に書くのは、担当者が上長に転送しやすくするためです。冒頭に趣旨があれば、転送された上長も1行目で内容が分かります。

提示は幅ではなく1つの案にする

条件を提示するとき、幅を持たせて出す人がいます。しかし幅を出すと、必ず下限で決まります。しかも、その下限からさらに削られる余地を作ってしまいます。

提示は1つの案にします。そのうえで、その案の根拠を添えます。案が1つだと、相手は受けるか受けないかの判断になり、話が早く終わります。

同時に、条件以外の選択肢も用意しておくと交渉が柔らかくなります。金額を動かさない代わりに、業務範囲を減らす。修正の回数に上限を設ける。納期を延ばす。これらは発注側の予算を動かさずに、こちらの負担を下げる方法です。単価交渉の一般的な組み立て方はフリーランスの単価交渉術|値上げを成功させる方法【2026年版】に、業種を問わない形で整理されています。

断られたときの次の一手を用意しておく

断られる可能性は常にあります。そのときに何を言うかを、送る前に決めておきます。

現実的な次の一手は3つです。1つ目は、時期をずらす提案。「今期は難しいとのことなので、次の期の予算編成の際に改めて議題にさせてください」と置いておく。これで話が完全には終わりません。

2つ目は、業務範囲を縮める提案。条件が変えられないなら、こちらの作業量を契約時の範囲に戻す。これは筋の通った要求です。

3つ目は、成果に連動する形の提案。基本の条件は据え置き、一定の水準を超えた場合に追加を検討する形にする。担当者が社内で通しやすい形の1つです。

メールの文面をどう書くか

実際の文面は、飾らずに書きます。以下は骨組みの例です。

「〇〇様、いつもお世話になっております。□□です。次回の契約更新にあたり、業務範囲と条件の見直しについてご相談させてください。契約時にお受けしていた業務は投稿の制作と公開でしたが、現在は企画の立案、コメント欄への対応、月次の数値報告も継続して発生しています。これらは当初の範囲外ですが、運用上必要と判断して対応してきました。次期の契約では、これらを範囲に含めたうえで条件を見直したいと考えています。具体的な内容は別紙にまとめました。ご確認のうえ、〇月〇日ごろまでにご意向をお聞かせいただけますと助かります」

この程度で十分です。長く書くほど、要求が弱く見えます。文書の作法に不安があるなら、ビジネス文書検定の出題範囲が、依頼文や通知文に必要な要素の整理として役に立ちます。

法律が守ってくれる範囲を知っておく

交渉の前提として、法律がどこまで守ってくれるかを知っておくと、精神的にかなり楽になります。

取引条件を明示する義務がある

発注者が業務を委託する際、業務の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を、書面または電磁的方法で明示する義務があります。口頭だけで条件を伝えて済ませることは認められていません。

つまり、「条件が書面でもらえていない」という状態は、こちらが遠慮すべき事柄ではなく、発注側が満たすべき義務が満たされていない状態です。書面を求めることは、まったく失礼な行為ではありません。

支払いの期日にルールがある

報酬の支払いについても定めがあります。成果物を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を設定し、その期日までに支払わなければなりません。「イメージと違うから払わない」といった理由は、支払いを拒む正当な根拠にはなりません。

このルールを知っているだけで、対応が変わります。支払いが遅れたときに、感情ではなく制度の話として問い合わせられるからです。

不当に低い報酬を定めることは禁じられている

継続的な取引においては、発注者が通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬を不当に定めることは、禁止行為として明示されています。いわゆる買いたたきです。

ただし、これを盾に交渉するのは現実的ではありません。何が「著しく低い」かの判断は容易ではなく、争いになれば時間もかかります。この規定の実務的な意味は、交渉の武器というより、極端な条件を押し付けられたときに相談先があるという安心材料です。

同様に、いったん決めた報酬を一方的に減額すること、正当な理由なく受領を拒むこと、著しく不利益な条件変更を強いることも禁止されています。制度の枠組みは公正取引委員会中小企業庁が公表しており、実務的な解説も出ています。

どこに相談できるか

条件について発注側と折り合いがつかず、しかも内容が制度に触れる可能性がある場合、行政の相談窓口があります。フリーランスの取引に関する相談を受け付ける公的な窓口が設けられており、匿名での相談も可能です。

※ 具体的な契約書の解釈や、損害の請求を伴う争いになった場合は、弁護士に相談してください。行政の窓口は制度の説明と一般的な助言までが範囲で、個別の代理はできません。

制度を知っていることの効用は、交渉の場で強く出られることではありません。むしろ逆で、冷静でいられることです。最悪の場合の逃げ道が分かっていれば、目の前の交渉に過剰な緊張を持ち込まずに済みます。

相談の前に、契約書のここだけは確認する

材料がそろっても、契約書を読まずに切り出すと足元をすくわれます。確認する箇所は限られています。

業務範囲の記載が包括的になっていないか

「SNS運用に関する業務一式」のような包括的な書き方になっていると、あとから何を頼まれても範囲内と主張されます。この記載になっている場合、業務が増えたという主張が成立しにくくなります。

対処は2つです。1つは、次の更新で具体的な成果物の列挙に書き換えてもらうこと。もう1つは、いま実際にやっている業務を一覧にして、こちらから提出してしまうことです。「認識合わせのため、現在の業務を整理しました」という体裁で送ると、事実上の範囲の確定になります。

報酬の改定に関する条項があるか

契約書に、条件の見直しについての手続きが書かれている場合があります。「双方の協議により変更できる」という条項があれば、それを引用して相談を切り出せます。手続きに則った申し入れになるため、切り出しやすさがまったく違います。

条項がない場合でも、更新のタイミングで議題にすることは妨げられません。ただ、あるなら使うほうが話が早い。契約書を受け取ったら、この条項の有無だけは確認しておきます。

単価に関する秘密保持の範囲

条件について、他者に開示しない旨の条項が入っていることがあります。これがある場合、条件を第三者と比べる目的で他の受注者と情報を交換することは、契約違反になり得ます。※ 秘密保持の範囲は契約書の書き方によって解釈が分かれるため、判断に迷う場合は弁護士に相談してください。

この条項があるかどうかを知らずに、同業の知人と条件を共有してしまう例をよく見ます。悪意がなくても契約違反は契約違反です。読んでおけば避けられます。

交渉が決裂したときの判断

条件が合わないという結論になることもあります。そのときの判断基準を、事前に持っておきます。

続けるか離れるかの基準

判断の材料は3つです。1つ目は、その案件が自分の実績として機能しているか。名前を出せる案件、次の営業に使える案件であれば、条件が理想より低くても続ける価値があります。

2つ目は、時間あたりの負担です。工数を記録していれば計算できます。この案件に使っている時間を、別の仕事に振り向けたときにどうなるか。数字ではなく時間で比較すると、判断がはっきりします。

3つ目は、精神的な負担です。差し戻しが多い、連絡が不規則、担当者の判断が二転三転する。こうした案件は、時間以上のものを奪います。条件が変わらないなら離れる、という判断は正当です。

離れると決めたときの終わり方

離れると決めても、終わり方は丁寧にします。業界は狭く、担当者は転職します。数年後に別の会社で再会することは珍しくありません。

実務としては、契約書の解約条項に従って通知します。多くの場合、1か月前までの書面による通知が定められています。通知したうえで、引き継ぎの資料を作ります。過去の投稿の一覧、数値の推移、使ってよい表現の一覧、反応の良かった企画の傾向。これらをまとめて渡すと、担当者は助かります。

この対応をした人は、後で戻ってきます。実際、条件が合わずに離れた相手から、予算がついた段階で再度声がかかる例をよく見ます。

単価が上がりにくい構造から抜ける

個々の交渉の技術とは別に、構造の問題があります。

中間に何社入っているか

インフルエンサーPRの案件は、ブランド、広告代理店、キャスティング会社、そして発信者、という形で複数の会社を経由することがあります。経由するたびに手数料が乗り、最終的に発信者に届く条件が決まります。

この構造の中では、個別の交渉で動かせる幅が限られます。担当者が善意でも、上流から降りてくる予算枠を超えられないからです。交渉が通らないとき、それは担当者の評価が低いからではなく、構造上の上限に当たっている可能性があります。

だから、確認しておくべきなのは「この案件の予算はどこから出ているか」です。直接ブランドから受けているのか、間に会社が入っているのか。聞きにくい質問ですが、契約書の当事者を見れば分かります。

直接の取引にするとどう変わるか

中間に会社が入らない直接の取引では、同じ予算でも配分が変わります。手数料の分がそのまま両者に戻るからです。発注側は同じ予算でより多く依頼でき、受け手は同じ働き方で手元に残るものが厚くなります。

直接の取引に移す場合、注意点があります。既存の案件を経由している会社を飛ばして直接契約を結ぶことは、契約上禁じられている場合があります。契約書に直接取引を制限する条項がないかを必ず確認してください。※ この判断を誤ると損害賠償の話になりかねないので、条項の解釈に迷う場合は弁護士に相談してください。

新規の案件を直接の関係で取っていくのは、制限に触れません。仕事の探し方として、業務委託の案件が直接集まる場を並行して使うのが現実的です。動画やSNSを軸にした業務の全体像は動画マーケ・インフルエンサーPRのお仕事にまとまっており、どこまでを引き受けられるかを整理する材料になります。

隣接する領域を持つと交渉の根拠が増える

条件の話を有利に進めるうえで、業務の幅は直接的な材料になります。

投稿を作るだけの人と、企画から数値の分析まで引き受けられる人では、代替の難しさが違います。マーケティング周辺の職種にどういう業務があるかはAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で整理されており、自分がどこまで引き受けられるかの線を引く参考になります。

また、案件の性質によっては、海外の発注者と組む選択肢もあります。為替の状況によっては、国内より条件の良い案件が成立することがあります。海外案件を取りに行く場合の実務は円安時代に海外案件で稼ぐ|ドル建て報酬のフリーランス案件の探し方に、契約と受け取りの流れを含めてまとめられています。

働き方の設計という点では、年齢や生活の段階によって取れるリスクが変わります。生活費の何か月分を手元に置けているかによって、条件が合わないときに離れる判断のしやすさが変わるからです。逆に言えば、手元の余裕を作ることは、そのまま交渉力になります。条件の相談をする前に、自分がどこまで待てるかを把握しておくと、話し合いの途中で焦らずに済みます。

20年この市場を見てきた立場からの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を長く運営してきた立場から言えば、条件を上げられている人は、交渉が上手いわけではありません。日頃から記録を残していて、相談の場で出せる材料を持っているだけです。

記録がある人は、相談を短く終えられます。事実を並べて、提案を1つ出して、返答を待つ。それで済みます。記録がない人は、記憶と印象で話すことになり、話が長くなり、感情が混ざります。交渉の技術より、日々の記録のほうが効きます。

もう1つ、運営者として見てきた限りでは、中間に人が入らない直接の取引を続けている人ほど、同じ仕事量で手元に残るものが厚くなっています。手数料0%の取引は、金額の大小の話というより、双方が無理をせずに関係を続けられるかどうかの話です。手数料の分だけ発注側が依頼量を絞り、受け手が本数でカバーしようとして疲弊する。この循環に入ると、そもそも条件の相談をする余裕すらなくなります。

独自データから見た、条件が動く場面

在宅ワークと業務委託の案件が集まる場を運営していると、条件の見直しがどのタイミングで実際に起きているかが見えてきます。傾向として、条件が動くのは業務の内容が変わったときであって、期間が長くなったときではありません。

長く続けているだけでは、条件は変わりにくい。むしろ、長く続くほど現状が前提として固定されます。動くのは、依頼される業務の種類が増えたとき、あるいは受け手側から新しい業務を提案したときです。つまり、条件を動かしたいなら、まず業務の内容を動かす必要があります。

もう1つの傾向として、条件の相談が通っている関係では、相談が唐突ではありません。日常のやり取りの中で、業務の増加や工数の実態が随時共有されています。突然の相談は、内容が正しくても身構えられます。月次の報告に「今月はこの作業が増えました」と一行添えておくだけで、後の相談が地続きになります。

3つ目の傾向は、条件が動いた関係では、受け手が数値の意味を説明できていることです。数値そのものは発注側も見られます。説明を持っているのは作った本人だけで、そこが業務としての価値になります。「反応が伸びた」ではなく「冒頭の入り方を変えたので離脱が減った」と言える状態を作る。これは訓練で身につきます。

業務の幅を広げる方向を考えるなら、技術寄りの職種がどういう働き方をしているかを知っておくのも1つの手です。ソフトウェア作成者の年収・単価相場では、公的な統計をもとに技術職の収入の構造が整理されています。直接インフルエンサーPRに使う知識ではありませんが、業務の設計や条件の考え方を、別の職種と比べて相対化する材料になります。

最後に、実務でいちばん効く行動を1つ挙げます。契約時の業務一覧を、必ずファイルで保存しておくことです。半年後、1年後に相談するとき、この1枚があるかないかで話の組み立てやすさがまったく違います。契約書をもらったら、業務の範囲の部分だけを抜き出して、別のメモにしておく。地味ですが、これが最も確実な準備です。法律はあなたの味方ですが、記録はもっと直接的な味方になります。

よくある質問

Q. 単価の相談はいつ切り出すのが適切ですか?

契約更新の1か月から2か月前が基本です。直前だと発注側の予算がすでに固まっており、早すぎると次期の計画が立っていないため判断できません。継続契約でない場合は、契約外の業務が3回程度続いて定着したと判断できた時点で切り出します。繁忙期や、トラブルの直後は避けます。

Q. 相場を根拠にして交渉してもいいですか?

通りにくい根拠です。担当者は「相場が上がったので予算を増やしてください」と社内で説明できないためです。代わりに、契約時の業務一覧と現在の業務一覧を並べた差分、工数の実態、成果を維持するために増えている作業を根拠にします。事実で示すほど通りやすくなります。

Q. 条件を提示するときは幅を持たせるべきですか?

1つの案に絞って出します。幅を持たせると必ず下限で決まり、そこからさらに削られる余地を作ってしまいます。案を1つにすると、相手は受けるか受けないかの判断になり、話が早く終わります。あわせて、業務範囲を減らす、修正回数に上限を設けるなど、条件以外の選択肢も用意しておきます。

Q. 支払いが遅れているときはどう対応すればいいですか?

成果物を受け取った日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を設定し、その期日までに支払う義務が発注側にあります。まず契約書の支払期日を確認し、期日を過ぎているなら制度の話として事実ベースで問い合わせます。行政の相談窓口もあり、争いになる場合は弁護士に相談してください。

Q. 交渉が通らなかったら契約を続けるべきですか?

実績として名前を出せるか、時間あたりの負担が許容できるか、精神的な負担が大きすぎないか、の3点で判断します。離れると決めた場合も、契約書の解約条項に従って通知し、過去の数値や企画の傾向をまとめた引き継ぎ資料を渡します。丁寧に終えた相手からは、後に再度声がかかることがあります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月18日最終更新:2026年9月17日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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