作曲・効果音制作の修正を何回まで受けるか|先に決めておく


この記事のポイント
- ✓作曲・効果音制作の修正対応をどこまで受けるか
- ✓回数と範囲を受注前に決めるための実務手順をまとめました
- ✓修正と作り直しの線引き
作曲・効果音制作の仕事で最も揉めやすいのが修正対応です。納品した音源に対して「もう少し明るく」「なんか違う」という言葉が返ってきて、直しても直しても終わらない。この状態に一度入ると、作業時間だけが積み上がり、案件全体の採算が崩れます。結論から書くと、修正が終わらない案件のほとんどは、受注する前に「何回まで」「どこまでを修正と呼ぶか」を文字にしていないことが原因です。この記事では、作曲・効果音制作における修正対応の回数と範囲を、契約前にどう決め、どう書き、どう運用するかを手順として整理します。
修正回数を決めないまま受けると何が起きるか
音の制作は、グラフィックやテキストの仕事と比べて、成果物への評価が言語化されにくい領域です。依頼者は完成した音を聴いて初めて「思っていたものと違う」と気づきます。この構造がある以上、修正は必ず発生する前提で設計しなければなりません。問題は修正が起きること自体ではなく、修正の終わりが定義されていないことです。
「イメージと違う」は何度でも言える
修正の依頼理由として最も多いのが「イメージと違う」という表現です。この言葉には具体的な変更指示が含まれていません。テンポなのか、音色なのか、帯域なのか、尺なのか、どこを変えれば近づくのかが示されないまま、制作側が推測して作り直すことになります。推測で作り直せば、当たることもあれば外れることもあります。外れれば再び「違う」が返ってきます。回数の上限がなければ、この往復は理論上いつまでも続きます。
さらに、依頼者の側に悪意があるケースは実際にはほとんどありません。多くは、自分が求めている音を説明する語彙を持っていないだけです。だからこそ、制作側が言語化の枠組みを用意し、その枠組みの中で何回やり取りするかを先に決める必要があります。枠組みのない善意のやり取りが、結果として双方を消耗させます。
音は言葉にしにくいという構造的な問題
「明るい」「重い」「かわいい」といった形容詞は、人によって指す音響的特徴が異なります。ある人にとっての「明るい」は高域の量感を指し、別の人にとっては長調のコード進行を指します。効果音であれば、「もっと硬い音」がアタックの立ち上がりを指すのか、リリースの短さを指すのか、金属的な倍音構成を指すのかで、作業内容がまったく変わります。
この曖昧さを埋める方法は二つあります。ひとつは参考音源を必ず提出してもらうこと、もうひとつは制作側が候補を複数提示して選ばせることです。どちらも修正の回数を減らす効果がありますが、ゼロにはできません。ゼロにできない以上、上限の設定が必要になります。
修正が終わらない案件に共通する三つの兆候
受注後に修正が長引く案件には、早い段階で共通の兆候が現れます。第一に、依頼時点で用途や尺が確定していないこと。第二に、フィードバックの窓口が複数いて、指示の内容が互いに矛盾していること。第三に、参考音源の提示を求めても出てこないことです。
これらの兆候は、打ち合わせの段階でほぼ確認できます。逆に言えば、確認した時点で修正回数の設定を厳しめにする、あるいは要件定義の工程を別途見積もりに立てる、といった対応が取れます。兆候を見てから条件を変えるのではなく、兆候が出たら条件を変えると決めておくことが実務上の防御になります。
修正の範囲と回数を定義する言葉づくり
回数だけを決めても、範囲が曖昧なままでは意味がありません。3回までと書いてあっても、1回の修正で20項目のリストが来たら実質的な作業量は変わらないからです。回数と範囲はセットで定義します。
「修正」と「作り直し」を分ける
まず、既存の音源を土台にした調整と、方向性そのものを変える再制作を、別の作業として定義します。前者を修正、後者を作り直しと呼び分けるのが一般的です。
修正に含めるのは、音量バランスの調整、テンポの微調整、特定パートの差し替え、尺の伸縮、フェードやタイミングの変更といった、既存の構造を保ったままの変更です。作り直しに該当するのは、キーやコード進行の変更、楽器編成の全面変更、ジャンルそのものの変更、効果音であれば素材選定からのやり直しにあたるものです。
この線引きを提案書に書いておくと、依頼者が「これは修正の範囲か」を自分で判断できるようになります。判断できれば、追加費用が発生する変更を依頼するかどうかを、依頼者側が事前に検討します。トラブルの多くは、追加費用の発生を納品後に知らされることで起きます。
一回の修正でまとめて受ける、という単位の決め方
回数を数える単位も定義が必要です。実務で扱いやすいのは、「フィードバックを一度にまとめて受け取り、それに対する更新版の提出をもって1回とする」という定義です。この定義にすると、依頼者は指示を集約してから送るようになり、細切れの連絡が減ります。
逆に「メールの往復1回を1回と数える」という定義にすると、依頼者は指示を出すたびに残り回数を消費するため、質問すらしづらくなります。関係を悪くする定義は避けたほうがよいです。質問や確認は回数に含めない、変更指示に基づく再提出だけを回数に含める、と明記しておくと運用が安定します。
無償の範囲と追加見積もりの境界
上限を超えた後の扱いも先に決めます。よくあるのは、上限までは制作費に含め、それ以降は1回ごとに追加費用を見積もる方式です。追加費用の算定根拠は、作業時間ベースにするか、作業内容ベースにするかを選びます。
作業時間ベースは説明しやすい反面、依頼者から見ると総額が読めません。作業内容ベースは、たとえば「パート差し替え1件」「尺の変更1件」のように項目ごとに定義するので、依頼者が事前に総額を計算できます。継続取引を狙うなら後者のほうが受け入れられやすい傾向があります。
制作の発注側を対象にした解説でも、修正への対応方針が発注先選定の判断材料として挙げられています。
効果音制作が可能な音楽制作会社は、修正対応できる会社を選びましょう。楽曲提供後、ある程度の期間を設けて修正対応を行っている制作会社があります。 出典: biz.ne.jp
つまり、修正対応の条件を明示することは、制作側を守るためだけの防御策ではありません。発注する側にとっては、条件が明示されている相手のほうが選びやすいという意味を持ちます。回数の上限を書くことは、値切りの材料ではなく、信頼の材料になります。
受注前に確認しておく項目
修正回数の設定は、案件の性質によって変えるべきものです。同じ回数をすべての案件に当てはめると、要件が固まっている案件では余分な余裕を持ち、要件が曖昧な案件では足りなくなります。次の項目を打ち合わせで確認し、確認結果に応じて回数と範囲を決めます。
用途と尺、納品形式
用途によって、修正の起きやすさが変わります。ゲームの効果音であれば、実装後にゲーム内で鳴らして初めて音量や長さの過不足が判明します。動画のBGMであれば、映像に乗せてから尺の調整が入ります。展示や店舗で流す音であれば、実際の空間で鳴らしたときの印象が問題になります。
つまり、「実際に使う環境で鳴らしてから修正が入る」タイプの案件は、修正が最低でも一巡することを前提に回数を設定します。逆に、単体で完結する用途であれば、初稿の精度を上げることで回数を抑えられます。
納品形式も確認します。ステレオミックスのみか、パラデータ(各パートを個別に書き出したファイル)も含むか、ループ用の頭と尻を揃えた形式が必要か。納品形式が後から追加されると、それは修正ではなく追加作業です。この点も先に定義しておきます。
参考音源の集め方
参考音源は、修正回数を減らすうえで最も効果が大きい材料です。ただし「参考になりそうな曲を送ってください」と伝えるだけでは、良い参考音源は集まりません。依頼者が思いつく範囲の有名曲が数曲届くだけで終わりがちです。
集め方には工夫があります。ひとつは、好きな音源だけでなく「これは違う」と感じる音源も出してもらうことです。避けたい方向が分かると、探索範囲が一気に狭まります。もうひとつは、参考音源のどの部分が良いのかを指定してもらうことです。曲全体ではなく、「イントロのリズム」「サビの音の広がり」「30秒あたりの金属的な音」のように部分を指定してもらえば、抽出すべき要素が明確になります。
決裁者は誰か
打ち合わせの相手が最終決裁者とは限りません。担当者の上に監督や責任者がいて、その人がまだ音を聴いていない場合、担当者との合意が固まっても後から覆ります。これは制作側にはコントロールできない要因ですが、把握しておけば設計は変えられます。
決裁者が別にいる場合は、初稿の段階で決裁者に聴いてもらう工程を組み込みます。ラフの段階で方向性の承認を取る、初稿提出時に決裁者を含めた確認を依頼する、といった形です。承認のタイミングを前倒しするほど、後半の修正は減ります。
音の仕事に限らず、要件を先に固める重要性は制作系の職種に共通しています。作曲や編曲、効果音やジングルの仕事の全体像や、どういった依頼が発生するかについては作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事で整理されているので、案件の種類ごとに要件の固まりやすさを把握しておくと打ち合わせの精度が上がります。
提案書と見積書への書き方
口頭の合意は残りません。修正条件は必ず書面に落とします。提案書、見積書、発注書のいずれかに記載し、依頼者が読んで理解できる形にします。
修正回数の記載例
見積書の備考欄に書く場合、次のような書き方が実務で使われています。
修正対応について
・初稿提出後、修正は2回まで制作費に含みます。
・1回の修正は、いただいたご指示をまとめて反映し、更新版を提出するまでを指します。
・ご質問やご確認のやり取りは修正回数に含みません。
・キー、コード進行、楽器編成、ジャンルの変更は再制作となり、別途お見積りいたします。
ここで重要なのは、含まれるものと含まれないものを両方書くことです。含まれるものだけを書くと、書かれていない作業を含むと解釈される余地が残ります。
追加修正の扱いを一行で示す
上限を超えた場合の扱いも同じ場所に書きます。「上限を超える修正は1回ごとに追加費用を申し受けます」という一文があるだけで、依頼者は残り回数を意識するようになります。金額まで書けるなら書いたほうがよいですが、作業内容によって幅がある場合は「内容を確認のうえお見積りいたします」で構いません。
書面に残す行為そのものが、実務では抑止力として働きます。書式や文面の整え方に不安がある場合、ビジネス文書の基本的な作法を体系的に押さえておくと役に立ちます。文書の構成や敬語の扱いを扱うビジネス文書検定のような資格の学習範囲は、見積書や提案書の書き方の土台としてそのまま使えます。
期限を切る
回数と並んで重要なのが期限です。修正の権利に期限がないと、納品から数か月後に「やっぱり直したい」という連絡が来ます。その時点でプロジェクトファイルの環境が変わっていたり、使っていたプラグインのバージョンが上がっていたりして、再現に余計な手間がかかります。
そこで、「納品後14日以内にご連絡いただいた修正を対象とします」といった期限を設定します。期限を過ぎた依頼は新規案件として扱う、と明記しておけば、制作側の管理コストが読めるようになります。プロジェクトファイルの保管期間についても同時に定めておくと、問い合わせへの回答が明確になります。
修正フローの実務的な回し方
条件を決めても、運用が雑だと回数は膨らみます。ここからは、決めた条件を守り切るための進め方を整理します。
初稿の出し方
初稿をいきなり完成度の高いミックスで出すのは、一見親切に見えて逆効果になる場合があります。完成品に近い状態で方向性の違いを指摘されると、作り直しの範囲が大きくなるからです。
有効なのは、方向性の確認を先に済ませる二段構えです。第一段階として、短いラフ(イントロだけ、あるいは主要なモチーフだけを鳴らした簡易な音源)を複数案提示します。効果音であれば、候補を数種類並べて聴き比べてもらいます。この段階で方向性を確定させ、承認を得てから作り込みに入ります。
ラフの提示は修正回数に含めない、と定義しておくのが一般的です。ラフは方向性の確認であって、成果物の修正ではないからです。この工程を挟むと、初稿以降の修正が構造的な変更ではなく細部の調整に収まりやすくなります。
フィードバックを構造化して受け取る
「なんか違う」を防ぐには、受け取る側が書式を用意します。フィードバックシートを作り、次の項目を埋めてもらう形式が実務で機能します。
該当箇所のタイムコード(何分何秒の部分か)、対象(メロディ、リズム、音色、音量、尺のどれか)、現状の印象、望む方向、参考にできる音源があればその指定。この五項目が埋まれば、推測での作り直しはほぼ発生しません。
シートを渡すこと自体に抵抗を感じる場合もありますが、依頼者にとっても「どう伝えればいいか分からない」という負担を減らす効果があります。書式を渡すことは、制作側の都合ではなく、依頼者への支援として説明できます。
変更履歴とバージョン管理
修正のたびにファイル名を更新し、どの版に対するどの指示だったかを記録します。ファイル名には日付と版数を入れ、上書き保存はしません。「v1」「v2」ではなく「20260901_v2」のように日付を含めると、時系列が一目で分かります。
履歴を残す理由は二つあります。ひとつは、「前の版のほうが良かった」と言われたときに戻せること。もうひとつは、修正回数を数える根拠になることです。回数について認識のずれが起きたとき、提出履歴が残っていれば事実で説明できます。口頭の記憶だけで議論すると、双方が異なる数を主張して感情的な対立になります。
修正が長引いたときの立て直し
条件を決めていても、想定を超える事態は起こります。ここでの対応の質が、その後の関係を決めます。
いったん止めて整理する
回数の上限に近づいているのに方向性が定まらない場合、作業を続けるより一度止めて整理するほうが早く終わります。整理の内容は、これまでの指示を時系列で並べ、矛盾している指示がないかを確認することです。
矛盾が見つかることは珍しくありません。「もっと静かに」と「もっと迫力を」が同じプロジェクトで出ていたり、複数の担当者が逆方向の指示を出していたりします。矛盾を可視化して依頼者に提示し、どちらを優先するかを決めてもらいます。これは責任追及ではなく、判断材料の提示として行います。
追加見積もりを出すタイミングと伝え方
上限を超えることが見えた時点で、超える前に伝えます。超えてから請求すると、依頼者は不意打ちと受け取ります。
伝え方は事務的で構いません。「今回のご指示で規定の回数に達します。次回以降は追加でのお見積りとなりますので、必要な変更をまとめてお知らせください」という形です。責める語調にせず、事実と手続きだけを伝えます。むしろ、まとめて出してもらうよう促すことで、依頼者側の追加費用も抑えられます。
契約と法律の後ろ盾
書面での合意があれば、後から条件を一方的に変更されるリスクは下がります。フリーランスと発注事業者の取引については、取引条件の明示や報酬支払期日に関するルールが法令で整備されており、条件を書面や電磁的方法で明示することが発注側に求められています。制度の詳細や相談窓口については公正取引委員会や厚生労働省の情報を確認できます。
もっとも、実務で頼りになるのは法令の存在そのものより、自分が出した見積書と提出履歴です。争いになる前に手元の記録で説明できる状態を作っておくことが、最も現実的な備えになります。
修正の設計でよくある失敗と改善のコツ
ここまでの内容を踏まえ、実際に起きやすい失敗と、その回避方法を整理します。
回数を厳しくしすぎて関係を壊す
上限を1回に設定すると、依頼者は緊張して発注しづらくなります。制作物への感想すら言いにくい空気ができると、結果として満足度の低い納品物が残ります。継続取引につながりません。
現実的なのは、一般的な案件で2回から3回を目安とし、要件が固まっていない案件では要件定義の工程を別に立てる形です。回数を絞るのではなく、回数が必要になる原因を工程で潰すほうが、双方にとって結果が良くなります。
好意で受けた無償修正が基準になる
一度サービスで受けた無償修正は、次回以降の基準として記憶されます。二回目に断ると「前は対応してくれたのに」という反応が返ります。無償で受ける場合は、それが例外であることを明示します。「今回は範囲内として対応しますが、通常は追加のお見積りとなります」という一文を添えるだけで、基準の上書きを防げます。
修正の指示元を一本化していない
複数人から直接指示が届く体制は、確実に修正回数を膨らませます。窓口を一人に固定し、その人が社内の意見を集約してから送る運用にしてもらいます。この依頼は制作開始前に行います。開始後に体制の変更を求めると、抵抗が生まれます。
修正の完了を宣言していない
修正が済んだ後、「これで完了とさせていただきます」という確認を取らないまま次の作業に移ると、案件が閉じません。完了の確認を取り、以降の変更は新規扱いになる旨を伝えます。区切りを明示する習慣は、複数案件を並行して進めるときの管理負荷を大きく下げます。
使うツールを揃えておく
音源の共有には、ブラウザで再生できてコメントをタイムコード付きで残せるサービスを使うと、フィードバックの構造化が自然に進みます。ファイル転送だけのサービスを使うと、感想はメール本文に書かれ、どこを指しているかが曖昧になります。ツールの選択がフィードバックの質を決める部分は小さくありません。
書面のやり取りについては、見積書と発注書のテンプレートを用意しておき、案件ごとに数字と条件だけを差し替える運用にします。毎回ゼロから書くと、修正条件の記載を書き忘れる事故が起きます。
媒体ごとに変わる修正の起きやすさ
同じ作曲や効果音制作でも、納品先の媒体によって修正が発生する回数と理由は変わります。媒体の特性を踏まえて回数を設定すると、条件が現実に合います。
ゲーム向けの効果音
ゲームの効果音は、実装して初めて評価が確定します。単体で聴くと良く聞こえる音でも、他の音と同時に鳴ったときに埋もれたり、逆に目立ちすぎたりします。ループ再生される音であれば、繰り返したときの継ぎ目や耳障りさが問題になります。
そのため、実装後の調整が入ることを前提に工程を組みます。初稿で候補を複数出し、実装して確認してもらったうえで選定と微調整に進む流れにすると、修正の回数として数えるべき往復が減ります。音量やピッチの微調整は納品後の実装段階で発生しやすいので、「実装確認に伴う音量とピッチの調整は初回の1回に含む」といった形で範囲に組み込んでおく方法もあります。
動画やCM向けのBGM
映像に合わせる音は、映像側の編集が確定していないと尺が動きます。カット割りが変わればアクセントの位置も変わり、実質的に作り直しに近い作業になります。この場合、映像の確定バージョンが提出されるまで本制作に入らない、という工程の区切りが有効です。
映像が未確定のまま進める必要がある案件では、尺の変更を修正回数に含めず別項目として扱うのが実務的です。制作側の責任ではない変更を修正回数で消費させると、依頼者の都合で回数が尽きることになり、条件が機能しなくなります。
配信や店舗などの環境音
空間で鳴らす音は、再生環境の影響が大きい領域です。スピーカーの特性、天井の高さ、周囲の騒音レベルによって聞こえ方が変わります。制作環境で確認した音が現地で同じように聞こえるとは限りません。
この種の案件では、現地確認後の調整を工程として最初から見込みます。「現地確認後の帯域とレベルの調整を1回含む」と明記しておけば、当然発生する調整が余分な修正としてカウントされずに済みます。予測できる調整を条件に織り込むことが、無用な摩擦を防ぎます。
発注する側の視点も知っておく
制作側だけの都合で条件を決めると、依頼が来なくなります。発注者がどう考えているかを理解したうえで条件を設計すると、受け入れられやすくなります。
発注者が修正条件を見る理由
発注者が制作先を選ぶとき、修正対応の可否は主要な判断軸のひとつです。社内で企画を通す立場からすると、一度で決まらなかった場合にどうなるかが読めない相手には依頼しづらいからです。
自社のPR動画に使用する効果音をオリジナルの楽曲にするために、音楽制作会社に依頼するケースが増えています。音楽制作会社を選ぶ際は、効果音制作が得意で、修正対応できる会社がおすすめです。自社で効果音のイメージを確認し、イメージどおりに制作できる会社を選択しましょう。 出典: biz.ne.jp
ここから読み取れるのは、発注者は「修正が無制限であること」を求めているのではなく、「修正の見通しが立つこと」を求めているという点です。回数の上限を示すことは、見通しを与える行為にあたります。
条件を示すことが選ばれる理由になる
条件を書かない制作者は、発注者から見ると条件が不明な相手です。不明であることは、安心材料にはなりません。「2回まで含み、それ以降は追加見積もり」と明示している制作者のほうが、社内稟議を通しやすくなります。
つまり、修正条件の明示は営業上の弱点ではなく、提案の一部です。条件が読めるという価値を、提案書の中で積極的に示す姿勢が有効です。
継続取引につながる形にする
初回の案件で条件を守り切ると、二回目以降の見積もりは通りやすくなります。発注者は、前回の進行が読めた相手を選ぶからです。逆に、初回で無制限に対応してしまうと、次回も同じ条件を期待されます。期待に応え続けられなければ、その時点で関係が悪化します。
長く続けるための条件設定は、厳しくすることでも甘くすることでもなく、毎回同じ基準で運用することです。基準が一定であること自体が、取引相手にとっての信頼になります。
市場を長く見てきた立場からの観察
在宅・業務委託の市場を20年運営してきた立場から見ると、音の制作に限らず、長く仕事が続く人ほど、成果物の質と同じくらい「進め方の設計」に時間を使っています。修正回数を先に決めるという行為は、一見すると制作の本質から外れた事務作業に見えます。しかし実際には、これを決めているかどうかで、同じスキルを持つ人の稼働効率が大きく変わります。決めていない人は、作業時間の相当部分を予定外の修正に吸われ、次の案件を取る余力を失います。
もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、仲介手数料が乗らない直接取引の場では、条件の交渉が成立しやすい傾向があります。プラットフォームの手数料が差し引かれる取引だと、依頼者が払う金額と制作者が受け取る金額に差が生まれ、その差を埋めるために制作者が条件面で譲る場面が出てきます。手数料0%の直接取引では、依頼者は同じ予算でより多くを頼め、制作者は手取りが厚くなります。この余裕が、修正条件を無理なく提示できる土台になります。額面が同じでも、手取りが厚い関係のほうが、条件交渉は健全に進みます。
技術職の報酬水準がどのように形成されているかを知っておくと、条件交渉の際に自分の作業時間をどう位置づけるかの目安が持てます。制作系の職種の水準感はソフトウェア作成者の年収・単価相場や著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種別に整理されており、時間あたりの価値を考える材料になります。
海外の依頼者を相手にする場合、修正条件の明示はさらに重要になります。言語も商習慣も異なる相手とのやり取りでは、口頭の了解が成立しにくいからです。海外案件の受注の進め方についてはUpworkの使い方ガイド|日本人フリーランスが海外案件を取る方法で契約前の確認事項が扱われており、条件の書き方を組み立てる際の参考になります。また、音の制作以外に活動領域を広げる場合、隣接分野の案件がどう発注されているかを知っておくと、条件設計の引き出しが増えます。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のような分野では、成果物の評価軸が数値で示されるため、修正の定義も明確になりやすい傾向があります。
修正対応の設計は、一度作れば案件ごとに使い回せます。見積書のテンプレートに条項を入れ、フィードバックシートを用意し、提出履歴の残し方を決める。この三点を整えるだけで、修正が原因で赤字になる案件はほぼ消えます。作業時間を守ることは、作品の質を守ることでもあります。次に音を作る前に、条件を先に書いてから受けることをおすすめします。
よくある質問
Q. 作曲や効果音制作の修正回数は何回に設定するのが妥当ですか?
一般的な案件では2回から3回を目安に設定し、要件が固まっていない案件では要件定義の工程を別に立てる形が現実的です。1回に絞ると依頼者が意見を出しづらくなり、結果として満足度の低い納品物が残ります。回数を厳しくするより、ラフの提示や参考音源の収集といった工程で、修正が必要になる原因そのものを減らすほうが双方にとって効果があります。
Q. 修正と作り直しの線引きはどこに置けばよいですか?
既存の音源の構造を保ったままの変更を修正、方向性そのものを変える再制作を作り直しとして分けます。音量バランス、テンポの微調整、パートの差し替え、尺の伸縮は修正に含めます。キーやコード進行の変更、楽器編成の全面変更、ジャンル変更、効果音の素材選定からのやり直しは作り直しに該当し、別途見積もりの対象とします。この定義を提案書に書いておきます。
Q. 「イメージと違う」とだけ言われた場合はどう対応しますか?
推測で作り直す前に、フィードバックの書式を渡して具体化してもらいます。該当箇所のタイムコード、対象がメロディか音色か音量か尺か、現状の印象、望む方向、参考にできる音源の五項目を埋めてもらう形です。書式を渡すことは制作側の都合ではなく、伝え方が分からない依頼者への支援になります。この段階を挟むだけで、外れた作り直しは大きく減ります。
Q. 上限を超える修正を求められたらどう伝えればよいですか?
上限を超えることが見えた時点で、超える前に事務的に伝えます。「今回のご指示で規定の回数に達します。次回以降は追加でのお見積りとなりますので、必要な変更をまとめてお知らせください」という形です。超えてから請求すると不意打ちと受け取られます。まとめて出してもらうよう促すことで、依頼者側の追加費用も抑えられ、関係を悪くせずに区切りを付けられます。
Q. 修正の期限は設定したほうがよいですか?
設定を推奨します。期限がないと納品から数か月後に修正依頼が届き、プロジェクトファイルの環境やプラグインのバージョンが変わっていて再現に余計な手間がかかります。納品後14日以内など具体的な期間を定め、期限を過ぎた依頼は新規案件として扱うと明記します。あわせてプロジェクトファイルの保管期間も定めておくと、問い合わせへの回答が明確になります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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