取締役の辞任届のひな形|いつから効き目が出るか

前田 壮一
前田 壮一
取締役の辞任届のひな形|いつから効き目が出るか

この記事のポイント

  • ✓辞任届と取締役の関係を
  • ✓効き目が出る時点から整理しました
  • ✓会社に届いた時点で辞任は成立し

取締役をやめたい。そう決めたときに最初に出てくる言葉が「辞任届」です。ところが実際に書こうとすると、どこに出すのか、いつからやめたことになるのか、会社が手続きをしてくれなかったらどうなるのか、分からないことばかりが出てきます。まず、安心してください。辞任届そのものはA4用紙1枚で足りる、とても短い文書です。難しいのは書式ではなく、出したあとに何が起きるかを知らないまま出してしまうことのほうです。

この記事では、取締役が会社をやめるときの辞任届について、ひな形と提出先、効き目が出る時点、そして出したあとに会社と自分のどちらが何をするのかを順番に整理します。専門的な言い回しはその場で普通の言葉に置き換えながら進めます。

辞任は「会社に届いた時」から効き目が出る

取締役と会社の関係は、雇用ではありません。会社法では、会社と役員の関係は「委任」に関する決まりに従うとされています。委任とは、ある人に仕事を任せる契約のことです。そして委任の契約は、任せた側も引き受けた側も、いつでもやめることができると民法に書かれています。

ここが出発点です。取締役は、会社の許可をもらってやめるのではありません。自分の意思でやめられます。株主総会の決議も、取締役会の承認も、辞任そのものには要りません。

では、いつやめたことになるのか。答えは「辞任届が会社に届いた時」です。意思表示は相手に届いた時から効き目を持つ、という決まりが民法にあります。辞任届を書いた日ではなく、ポストに投函した日でもなく、会社が受け取った日が基準になります。

役員の辞任は、辞任届が会社に届いた時点で効力が発生します。会社法第915条により、変更日から2週間以内に法務局への登記申請が義務付けられており、怠った場合は代表者個人に100万円以下の過料が科されます。 出典: biz.moneyforward.com

この「届いた時」という一点が、あとで効いてきます。たとえば辞任届を手渡ししたのに、会社が「受け取っていない」と言い出したらどうなるか。届いたことを示せるのは、受け取った側の署名か、郵便の記録です。だからこそ、辞任届は渡し方まで含めて考える必要があります。

もう一点、勘違いしやすいところがあります。辞任届を出した時点で辞任は成立しますが、会社の登記簿からあなたの名前が消えるのは別の話です。登記簿は会社が法務局に申請して初めて書き換わります。辞任したのに名前が残ったまま、という状態は普通に起きます。効き目が出る時点と、外から見える時点は、別物だと押さえておいてください。

取締役の辞任届に書くこと、書かなくていいこと

辞任届に決まった様式はありません。法律にも法務省令にも「この形式で書け」という定めはないので、必要な中身が入っていれば手書きでもパソコンでも通ります。入れるべき中身は次の5つです。

・宛先(会社名と、原則として代表取締役の氏名) ・書いた日付 ・辞任する旨と、いつ付けで辞任するか ・自分の氏名 ・住所(登記の場面で本人を特定しやすくするため)

逆に、書かなくていいものもあります。辞任の理由です。理由を詳しく書く義務はありません。「一身上の都合により」で足ります。むしろ会社との関係がこじれている場面で理由を長々と書くと、その文章が後日の交渉材料になることがあります。事情を残したいなら、辞任届とは別の書面にするほうが安全です。

具体的な形は次のようになります。

辞任届

株式会社〇〇
代表取締役 〇〇 〇〇 殿

私は、一身上の都合により、令和〇年〇月〇日をもって
貴社の取締役を辞任いたします。

令和〇年〇月〇日

住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
氏名 〇〇 〇〇  印

「〇〇をもって辞任いたします」の日付が辞任日です。ここを空欄にしたまま渡すと、会社側が都合のよい日を書き込んでしまう余地が生まれます。引き継ぎの都合で少し先の日付にしたいなら、その日付をはっきり書いておきます。

押印については、取締役の辞任届では必ずしも実印でなくてかまいません。ただし例外が1つあります。法務局に会社の届出印を出している取締役が辞任する場合です。この場合は、法務局に届け出た印か、市区町村に登録した実印のどちらかを押すことになります。実印を押したときは印鑑証明書を添える必要があり、届出印を押したときは印鑑証明書は不要です。法務局の申請書の記載例に、この取り扱いがはっきり書かれています。代表取締役が辞任する場合の印鑑については、別の扱いになるので後段で触れます。

「退任届」という言葉を見かけることもありますが、これは別物です。任期が切れて自然に役目が終わるのが退任、自分の意思でやめるのが辞任です。任期満了なら辞任届は要りません。今が任期の途中かどうかを、会社の登記簿か定款で確かめてから書き始めてください。

誰に渡せば「会社に届いた」ことになるのか

辞任届の相手は、個人ではなく会社です。ただし会社は人ではないので、実際には会社を代表する人に渡すことになります。基本は代表取締役です。代表取締役が複数いる会社なら、そのうちの誰か1人に届けば会社に届いたことになります。

問題になりやすいのは、次の3つの場面です。

1つ目は、自分が唯一の代表取締役で、その自分が取締役をやめる場合です。自分から自分に出す形になるので違和感がありますが、書面としては同じものを作り、会社の書類として保管します。この場合、辞任の登記を申請するのは後任の代表取締役になるため、後任が決まるまで手続きが進まないことがあります。

2つ目は、代表取締役と連絡が取れない場合です。会社の本店として登記されている住所に、配達の記録が残る方法で送ります。内容証明郵便に配達証明を付けるのが確実です。内容証明郵便とは、いつ誰にどんな文面を送ったかを郵便局が証明してくれる仕組みのことです。受け取りを拒まれたり、保管期間が過ぎて戻ってきたりしても、正当な理由なく受け取りを妨げた場合には届いたものとして扱われる余地があります。ただしこの判断は個別の事情に左右されるので、送る前に弁護士か司法書士に相談したほうが確実です。

3つ目は、手渡しする場合です。手渡し自体は問題ありませんが、渡したことの証拠が残りません。同じ内容の辞任届を2通用意して、1通を会社に渡し、もう1通に受領印か受領サインをもらって自分が持ち帰る形にします。メールに添付する方法も実務では使われますが、法務局に出す添付書類としては紙の原本が要るので、結局は紙でも渡すことになります。

渡す前にもう1つ確かめておきたいのが、会社の定款です。定款とは、会社の決まりごとを書いた基本の文書のことです。ここに「辞任は取締役会に届け出る」といった手順が書かれていることがあります。法律上はそこまで必要なくても、社内の決まりに沿っておいたほうが、あとで揉めずに済みます。

出したあとに会社がやること:2週間という期限

辞任届が会社に届いたら、次は会社の番です。会社法では、登記されている事項が変わったときは2週間以内に法務局へ変更の登記を申請しなければならないと決まっています。取締役の氏名は登記されている事項なので、辞任もこの期限に入ります。

期限を過ぎたらどうなるか。法務局は次のように案内しています。

登記すべき期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して、裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp

ここで注意したいのは、過料を払うのは会社ではなく代表者個人だという点です。辞任したあなたではなく、そのとき登記を怠っていた代表者に来ます。逆に言えば、あなたが代表取締役として在任中に他の取締役の辞任登記を放置していたなら、そのリスクはあなたに向きます。

登記にかかるお金も押さえておきましょう。役員の変更登記にかかる登録免許税は、資本金の額が1億円を超える会社なら3万円、1億円以下の会社なら1万円です。中小企業のほとんどは1万円のほうに当たります。司法書士に頼む場合はこれに報酬が乗り、相場はおおむね2万円から5万円程度です。自分で申請すれば登録免許税だけで済みます。

添付する書類も、法務局の記載例で確かめられます。辞任だけなら辞任届。後任を選ぶなら、株主総会の議事録、株主の一覧を示す書面、就任を承諾した書面、就任する人の本人確認書類などが加わります。登記の申請そのものは会社が行うので、辞任する側が申請書を書くわけではありません。ただし、辞任届という添付書類を出すのは辞任する本人なので、書き方を間違えると会社の申請が止まります。

なお、登記が終わったかどうかは、会社の登記事項証明書を取れば確かめられます。窓口や郵送で請求すると1通600円、オンラインで請求して窓口で受け取ると490円、郵送してもらうと520円です。この金額は登記手数料令という政令で決まっていて、誰でも他社の分を取れます。辞任から1か月ほど経っても名前が消えていなければ、会社が申請していないということです。

辞めたのに抜けられない「権利義務取締役」

辞任届を出したのに責任から抜けられない。この落とし穴が、取締役の辞任でいちばん相談の多いところです。

会社法には、取締役がいなくなってしまう場合や、法律や定款で決めた人数を下回ってしまう場合には、任期満了か辞任でやめた役員は、新しい役員が就任するまで役員としての権利と義務を持ち続ける、という決まりがあります。実務ではこれを権利義務取締役と呼びます。

株式会社には取締役が最低1人必要です。取締役会を置いている会社なら3人以上が必要です。定款で「取締役は3名以上」と決めている会社もあります。この人数を割り込む辞め方をすると、辞任届が会社に届いていても、取締役としての立場が残り続けます。

この状態になると、次の3つが起きます。

1つ目は、辞任の登記ができません。登記簿にはあなたの名前が残ったままです。法務局は後任が決まるまで辞任の登記を受け付けません。

2つ目は、取締役としての責任も残ります。会社が誰かに損害を与えた場合や、税金や社会保険の滞納が起きた場合に、取締役としての立場で責任を問われる余地があります。報酬はもう受け取っていないのに責任だけ残る、という一番つらい形です。

3つ目は、自分では解消できません。後任を選ぶのは株主総会であって、辞めた本人ではないからです。

抜け道がないわけではありません。会社法には、必要があると認めるときは、利害関係のある人の申し立てによって、裁判所が一時的に役員の職務を行う人を選ぶことができる、と書かれています。会社が後任を選ばずに放置している場合は、この申し立てを裁判所に出すのが正攻法です。選ばれた人が就任すれば、権利義務の状態は終わり、辞任の登記ができるようになります。ただし申し立てには手数料と予納金がかかり、選ばれた人への報酬も裁判所が決めます。実際にいくらかかるかは事案によって変わるので、申し立てる前に弁護士に見積もりを取ってください。

そもそも権利義務取締役にならないようにするのが一番です。やめる意思を伝える時点で、後任を先に決めてもらうよう会社に頼む。後任の選任と自分の辞任を同じ株主総会で片付ける。この段取りを踏めば、辞任届が届いた日にきれいに抜けられます。

一度出した辞任届は撤回できるのか

「勢いで出してしまったので取り消したい」という相談も少なくありません。結論から言うと、原則として撤回はできません。

理由は、辞任が会社に届いた時点で効き目を持つからです。届いてしまえば、辞任という結果はもう発生しています。あとから「なかったことにしたい」と言っても、それは撤回ではなく新しい申し入れです。会社が同意して、改めて取締役に選び直す手続きを取れば結果的に戻れますが、それは株主総会で選任し直すという別の手続きになります。登記も、辞任と就任の両方が記録されます。

まだ会社に届いていない段階なら話は別です。郵送したけれどまだ配達されていない、社内便で回っている途中、といった状態なら、届く前に撤回の意思を伝えれば辞任は成立しません。ただし「届いていない」ことを証明するのは難しいので、当てにしない前提で動いてください。

辞任日を先の日付にしていた場合はどうか。たとえば3月末に辞任届を出して、辞任日を6月末と書いた場合です。この場合、辞任の意思表示はすでに届いているので、撤回はできないと考えるのが安全です。会社との話し合いで取り下げる余地はありますが、権利として撤回できるわけではありません。

実務的に言えるのは、迷っている段階では辞任届を作らない、ということに尽きます。辞任の意向を口頭で伝えることと、辞任届という書面を届けることは、まったく重さが違います。書面が届いた瞬間に、後戻りのできる範囲が一気に狭まります。条件の交渉をしたいなら、交渉が終わってから書面を出す。この順番を崩さないでください。

タイミングによっては損害賠償を求められることがある

取締役はいつでもやめられます。ただし、やめる時期が相手にとって不利な場合には、その損害を賠償しなければならないことがある、と民法に書かれています。やむを得ない事情があったときは別、という例外も同時に置かれています。

これは委任の契約全般についての決まりで、会社と取締役の関係にも当てはまります。実際に賠償が認められるのは、かなり限られた場面です。単に「後任が見つかっていないのに辞めた」というだけでは足りません。たとえば重要な契約の交渉の最中に、引き継ぎもせず連絡も取れなくなり、その結果として会社が具体的な損失を出した、といった事情が要ります。

とはいえ、争いになること自体が負担です。避けるために有効なのは次の3つです。

1つ目は、やめる意向を早めに伝えることです。書面を出す前に、口頭でも構わないので時期の相談をしておくと、不利な時期に一方的にやめたという評価になりにくくなります。

2つ目は、引き継ぎの記録を残すことです。誰に何を引き継いだか、どの資料をどこに置いたかを一覧にして渡しておきます。この一覧があると、やることをやって辞めたという事実が形になります。

3つ目は、辞めざるを得ない事情がある場合はそれを記録しておくことです。健康上の理由、家族の事情、会社との間で信頼関係が壊れた具体的な出来事。辞任届そのものには書かなくてよいので、自分の手元に時系列でメモを残します。

逆の立場も知っておいてください。会社の側から役員をやめさせる場合、株主総会の決議でいつでも解任できますが、正当な理由がない解任だったときは、解任された側が会社に損害の賠償を求められる、という決まりもあります。やめる側とやめさせる側の両方に、同じ考え方が置かれているわけです。実際の金額や成否は事情によって大きく変わるので、賠償が絡みそうな場面では早い段階で弁護士に相談してください。

会社が登記してくれないときにできること

辞任届は届いた。人数も足りている。それなのに会社が登記を申請しない。この状態は珍しくありません。手続きが面倒、費用を出したくない、あるいは関係がこじれていて意図的に放置している。理由はさまざまです。

まず押さえておきたいのは、辞任した本人が単独で辞任の登記を申請することはできない、という点です。会社の登記を申請するのは会社の代表者であり、辞めた取締役には申請する立場がありません。ここが不動産の登記と違うところで、多くの人がつまずきます。

現実的な手順は3段階です。

第1段階は、書面での催告です。辞任届が届いた日を示し、2週間以内に登記する義務があること、怠ると代表者個人に過料の可能性があることを書いて、期限を切って求めます。内容証明郵便で送れば、送った事実と文面が記録に残ります。多くの会社はこの段階で動きます。

第2段階は、司法書士か弁護士からの通知です。第三者の名前が入るだけで対応が変わることがあります。費用は数万円程度からで、事務所によって幅があります。

第3段階は、裁判です。会社に対して登記申請の手続きをするよう求める訴えを起こし、判決を得たうえで登記を実現する方法があります。時間も費用もかかるので、最後の手段です。

この間、自分を守るためにやっておくべきことが2つあります。

1つは、辞任届が届いた証拠を残すことです。配達証明の控え、受領印のある控え、メールの送受信記録。これらは、あとで「あなたはまだ取締役だった」と言われたときに、事実上の反論材料になります。

もう1つは、会社の登記事項証明書を定期的に取って、自分の名前がいつまで残っていたかを記録しておくことです。登記が遅れたこと自体の責任は会社側にありますが、その間に会社が起こした問題に巻き込まれないためには、自分がいつ辞めたかを示せる書類が要ります。

つまずきやすい5つの点と、その避け方

ここまでの内容を踏まえて、実際に多い失敗を5つ挙げます。

1つ目は、辞任日を空欄のまま渡してしまうことです。会社側が後日に日付を入れると、引き継ぎ期間が勝手に延びたり、逆に責任の切れ目が不利な日になったりします。渡す時点で日付を確定させてください。

2つ目は、押印の種類を間違えることです。法務局に届出印を出している取締役が辞任するのに、届出印でも実印でもない認印を押してしまうと、会社の登記申請が通りません。会社から「押し直してほしい」と連絡が来て、往復で時間を失います。自分が届出印を出しているかどうかは、会社の担当者か司法書士に確認できます。

3つ目は、原本を渡さずコピーだけ渡すことです。辞任届は登記の添付書類になるので、原本が要ります。自分の控えを残したいなら、渡すのは原本、手元に置くのはコピーです。

4つ目は、辞任すれば連帯保証も消えると思い込むことです。会社の借入に個人で連帯保証をしている場合、取締役をやめても保証の契約はそのまま残ります。保証から外れるには、金融機関と個別に交渉して契約を切り替える必要があります。やめる前に、自分が何に判を押しているかを一度洗い出してください。経営者の保証については国が指針を示していて、事業を引き継ぐ場面では外せる余地が広がってきています。ただし実際に外せるかどうかは金融機関の判断なので、交渉の前に金融機関か専門家に確認するのが確実です。

5つ目は、社会保険の切り替えを忘れることです。役員として厚生年金と健康保険に入っていた場合、辞任すると被保険者の資格を失います。会社が資格喪失の届出をしないと、次の保険に入れません。手続きの窓口や必要書類は日本年金機構のサイトで確かめられます。無報酬の非常勤役員だった場合はそもそも加入していないこともあるので、自分の状況を給与明細で確認してから動いてください。

辞任したあとの働き方を、先に決めておく

辞任は終わりではなく切り替えです。実務の現場を見ていると、辞任届の書き方で悩む時間より、辞めたあとの収入をどう作るかで立ち止まる時間のほうがずっと長いことが分かります。

役員をやめたあとの選択肢は、大きく3つに分かれます。別の会社に勤める、自分で事業を続ける、業務委託として関わる。3つ目を選ぶ人が近年増えています。会社の役員という立場は外れるけれど、これまでの知識は業務委託の形で会社に提供する、というやり方です。この形なら、役員としての責任を負わずに、関わり方だけを残せます。

このとき役に立つのが、自分の経験が市場でいくらの仕事になるかを事前に知っておくことです。たとえばシステム開発の実務を見てきた方ならソフトウェア作成者の年収・単価相場で、単価の幅と仕事の内容を確かめられます。文章を書く力で仕事を作るなら著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。どちらも職種ごとの相場を並べたデータなので、やめる前に自分の値段の目安を持てます。

受ける仕事の中身を知りたいなら、職種ごとの案内を見るのが早いです。経営や業務の改善を見てきた経験はAIコンサル・業務活用支援のお仕事のような分野につながります。技術寄りの経験があるならアプリケーション開発のお仕事やAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で、いまどんな依頼が出ているかを確かめられます。

肩書きが外れると、書類の作り方も変わります。会社の名前で出していた見積書や請求書を、今度は自分の名前で作ることになります。書式の基本を整理したいならビジネス文書検定が扱う範囲が参考になりますし、技術系で客観的な裏付けが欲しい方にはCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が名刺代わりになります。

契約の形が変わることで気をつける点もあります。役員だったときは会社の中の人でしたが、業務委託になると外の人です。発注者との力関係が変わるので、条件は書面で残しておく必要があります。取引条件の決まりについてはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストに、発注書に何を書いてもらうべきかがまとまっています。報酬が支払われないときの動き方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】が具体的です。会計や監査の経験をお持ちの方なら会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に、資格を活かした関わり方の例が出ています。

運営者の目から見た、辞任のあとに効く準備

在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた立場から言えば、役員をやめた人のその後は、辞め方そのものよりも「やめる前に外との接点をどれだけ持っていたか」で決まります。会社の中だけで完結していた人は、肩書きが外れた瞬間に連絡先が一気に減ります。逆に、社外の取引先や同業の知り合いと個人の関係を持っていた人は、辞任の翌月から仕事の相談が来ます。

もう1つ、長く続く人に共通しているのは、単発の作業を安く受けるのではなく、依頼する側が「この人に任せると楽だ」と感じる関係を作ることに時間を使っている点です。役員を経験した人は、この点で有利です。全体を見て段取りを組む力は、作業の速さより高く評価されます。辞任の手続きを進めながら、自分が何を引き受けられるかを言葉にしておくと、切り替えが早くなります。

お金の面でも、見落とされやすい差があります。仕事を仲介する会社を経由すると、報酬から中間の取り分が引かれます。直接やり取りできる関係を持っていれば、同じ予算で依頼する側はより多くを頼めますし、受ける側の手取りも厚くなります。金額の大小ではなく、同じ仕事でも手元に残る額が変わるという構造の話です。役員としての人脈がある方は、この構造を使いやすい位置にいます。

最後に、実務として確かめておきたいことを並べておきます。登記簿から自分の名前が消えたか。連帯保証や個人の担保が残っていないか。社会保険と税の切り替えが終わったか。会社の口座や契約の名義に自分が残っていないか。この4つは、辞任届を出した時点では何も片付いていません。辞任届はスタートの合図であって、ゴールのテープではない。そう考えて動くと、あとから慌てずに済みます。

会社法の条文そのものを確かめたいときは、e-Gov法令検索で会社法の全文が読めます。登記の申請書の記載例や様式は法務局のサイトから無料でダウンロードできるので、会社の担当者に渡す資料としても使えます。

よくある質問

Q. 取締役の辞任届に会社の承認は必要ですか?

必要ありません。会社と取締役の関係は委任にあたり、引き受けた側はいつでもやめられます。株主総会の決議も取締役会の承認も、辞任そのものには不要です。辞任届が会社に届いた時点で辞任は成立します。ただし後任がいないと登記ができず、役員としての立場が残る場合があります。

Q. 辞任届を出してから登記が終わるまでどれくらいかかりますか?

会社は変更から2週間以内に法務局へ申請する義務があります。申請してから登記が完了するまでは、法務局の混み具合にもよりますが1週間前後が目安です。辞任から1か月ほど経っても登記事項証明書に名前が残っている場合は、会社が申請していない可能性が高いので、書面で催告してください。

Q. 辞任届に押す印鑑は実印でないとだめですか?

一般の取締役なら実印でなくても登記は通ります。ただし法務局に届出印を出している取締役が辞任する場合は、届出印か市区町村に登録した実印のどちらかを押します。実印を押したときは印鑑証明書を添えます。代表取締役の辞任は扱いが別なので、事前に会社か司法書士に確認してください。

Q. 役員変更の登記にはいくらかかりますか?

登録免許税は、資本金の額が1億円を超える会社で3万円、1億円以下の会社で1万円です。中小企業の多くは1万円に当たります。司法書士に依頼する場合は、これに報酬が2万円から5万円程度加わります。自分で申請すれば登録免許税だけで済み、申請書の様式は法務局のサイトから無料で入手できます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月12日最終更新:2026年9月19日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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