キャリアチェンジを考えるときの進め方


この記事のポイント
- ✓キャリアチェンジを考え始めた人向けに
- ✓厚生労働省の雇用動向調査で分かる実態
- ✓年代ごとの現実的な進め方
キャリアチェンジという言葉で検索する人の多くは、まだ「転職するかどうか」を決めていません。今の仕事を続けた先が見えてしまった、別の分野に興味が出てきた、このまま同じ職種で50代を迎えるのが怖い。そういう段階で、言葉だけを手がかりに情報を探しています。
この記事は、その段階の人に向けて書いています。結論を先に置くと、キャリアチェンジで成否を分けるのは「勢い」でも「若さ」でもなく、辞める前にどれだけ具体的な材料を集めたかです。求人票を眺める時間より、今の自分の経験を分解して別の分野で使える形に並べ替える時間のほうが、結果に効きます。
以下では、キャリアチェンジと転職の違いの整理から始めて、国の調査で分かる実態、年代ごとに変わる現実的な進め方、つまずきやすい型、そして辞表を出す前の12週間で何をするかまでを順に見ていきます。
キャリアチェンジと転職は、同じ言葉ではない
まず言葉を切り分けます。転職は「勤め先が変わること」を指します。キャリアチェンジは「仕事の中身が変わること」を指します。同じ経理職のまま会社だけ変えるのは転職であってキャリアチェンジではなく、社内公募で経理から人事へ異動するのは転職ではないがキャリアチェンジです。
この切り分けが大事なのは、必要な準備がまったく違うからです。職種も業界も同じままの転職なら、評価されるのは実績です。「前の会社でこれをやっていました」がそのまま通用します。一方でキャリアチェンジの場合、採用する側は実績そのものを見ていません。見ているのは「今の経験のうち、どれがうちの仕事で使えるか」という翻訳可能性です。
キャリアチェンジとは、これまでの職務経験やスキルを活かしつつ、異なる業界や職種に転身することを指します。 出典: greenjobs.ecoriku.jp
ここで注目したいのは「活かしつつ」という部分です。キャリアチェンジは、過去をゼロにして新品から始めることではありません。むしろ逆で、積み上げてきたもののうち何が持ち運べるかを見極める作業が中心になります。
変える対象は、実は2軸あります。職種を変えるのか、業界を変えるのかです。この2軸のどちらを動かすかで、難易度がはっきり変わります。
業界だけを変える場合、たとえばアパレルの経理からIT企業の経理へ移る場合は、職種の専門性がそのまま武器になります。覚え直すのは商慣習と専門用語だけなので、3カ月もあれば立ち上がります。
職種だけを変える場合、たとえば同じ会社の営業からマーケティングへ移る場合は、業界知識と社内の人脈が武器になります。何を売っているか、誰が顧客か、どこで利益が出ているかをすでに知っているので、未経験でも会話が成立します。
一番難しいのは、職種と業界を同時に変える場合です。アパレル販売員からIT企業のエンジニアへ、といった動き方がこれにあたります。持ち運べるものが「働く姿勢」や「学習の速さ」といった抽象的なものしか残らないため、採用側から見ると賭けの要素が大きくなります。
だから最初に決めるべきなのは、「何になりたいか」ではなく「2軸のうちどちらを動かすか」です。両方を同時に動かすと決めたなら、それだけ準備期間を長く取る必要がある、という計算が立ちます。この計算をせずに飛び出すと、想定より半年から1年長く苦しむことになります。
数字で見ると、キャリアチェンジはどれくらい起きているのか
体感ではなく、国の統計で確かめます。厚生労働省が毎年実施している雇用動向調査は、事業所を対象に入職と離職の動きを追っている調査で、転職市場の温度を測る基礎資料になっています。
令和6年(2024年)の調査では、1年間の入職率が14.8%、離職率が14.2%でした。年初の常用労働者数に対して、これだけの人が入ってきて、これだけの人が出ていったという割合です。前年の令和5年は入職率16.4%、離職率15.4%でしたから、どちらも1ポイント以上下がっています。
この「下がった」という事実は、意外と大事です。転職市場は右肩上がりで熱くなり続けているわけではなく、年によって上下します。世の中の空気が転職に前向きな時期もあれば、様子見に傾く時期もある。自分が動く年が、どちらの側にあるかは調べておいて損がありません。
もう1つ、キャリアチェンジを考える人が一番気にする数字があります。転職すると給料はどうなるのか、です。同じ調査に、転職した人の賃金がどう変わったかを集計した項目があります。
令和6年の1年間に転職した人のうち、前職と比べて賃金が「増加」した人は40.5%、「減少」した人は29.4%、「変わらない」が28.4%でした。さらに細かく見ると、1割以上増えた人が29.4%、1割以上減った人が21.7%です。
つまり、転職すれば上がるという話でもなければ、転職すれば下がるという話でもありません。増えた人が減った人を11.1ポイント上回っている、というのが実態です。前年と比べると増加の割合は3.3ポイント上がり、減少の割合は3.0ポイント下がっているので、傾向としては改善しています。
ただし、ここで注意が要ります。この数字は転職した人全体の集計であって、キャリアチェンジをした人だけの集計ではありません。同職種・同業界での転職は経験がそのまま値段になるので、賃金が上がりやすい層です。未経験の分野に移る人は、この平均より厳しい側に寄ると考えたほうが現実に近いでしょう。
だから準備すべきは、「年収が一時的に下がっても生活が回るか」の確認です。手取りが月5万円下がったとして、何カ月持ちこたえられるか。この計算を先にしておくと、面接で条件を聞かれたときに慌てなくなります。金額の話は感情ではなく計算の問題なので、紙に書き出せば答えは出ます。
人が仕事を辞める理由は、給料だけではない
同じ雇用動向調査には、転職した人が前の職場を辞めた理由の集計もあります。これがキャリアチェンジを考えるうえで、かなり役に立ちます。自分がいま感じている不満が、どのくらい一般的なものかが分かるからです。
令和6年の集計で、男性の理由としては「給料等収入が少なかった」が10.1%、「職場の人間関係が好ましくなかった」が9.0%、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が8.6%、「会社の将来が不安だった」が7.4%と並んでいます。女性では「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が12.8%、「職場の人間関係が好ましくなかった」が11.7%、「給料等収入が少なかった」が8.3%の順です。
注目すべきは、「仕事の内容に興味を持てなかった」が男性4.4%、女性3.6%、「能力・個性・資格を生かせなかった」が男性3.8%、女性3.7%にとどまっている点です。つまり、実際に辞めた人の理由の大半は労働条件や人間関係であって、仕事の中身への不満はそれほど多くありません。
ここから読み取れることが2つあります。
1つは、いま自分が「この仕事が向いていない気がする」と感じているなら、それは統計的には少数派の悩みだということです。少数派なので、周囲に相談しても「みんなそんなもんだよ」と流されやすい。流されて数年経つ、というパターンがよく起きます。
もう1つは、仕事の中身への不満で動く人は、職種を変える方向に進みやすいということです。条件への不満で動く人は同じ職種のまま条件の良い会社へ移れば解決しますが、中身への不満はそれでは解決しません。同じ仕事を別の会社でやるだけなので、半年後に同じ感覚が戻ってきます。
自分の不満がどちらなのかを見極めるのに、簡単な方法があります。「今の仕事内容のまま、給料が1.5倍になったら続けるか」と自分に聞くことです。続けると答えるなら条件の問題なので、キャリアチェンジまで踏み込む必要はありません。それでも辞めたいと答えるなら、中身の問題です。
なお、男性の理由で前年から上昇幅が大きかったのは「会社の将来が不安だった」の2.2ポイントでした。業界そのものの先行きに不安を感じて動く人が増えている、という形です。この動機は職種の変更ではなく業界の変更につながるので、前の章で整理した2軸のうち「業界だけを動かす」に該当します。
キャリアチェンジで得るものと、確実に失うもの
メリットとデメリットを並べておきます。ただし一般論ではなく、実際に効いてくる順番で書きます。
得られるものの1つ目は、成長分野に乗り換えられることです。産業には伸びている分野と縮んでいる分野があり、同じ努力をしても後者では成果が出にくくなります。個人の能力の問題ではなく、市場の問題です。伸びている分野に移ると、平均的な働きでも評価が上がることがあります。
2つ目は、経験の組み合わせが希少になることです。単体では珍しくない経験でも、2つ重なると人数が一気に減ります。アパレルの現場を知っていてデータ分析もできる人、医療事務の実務を知っていてシステム導入も分かる人。こうした掛け算が効く場面は確実にあります。実際、求人側が本当に困っているのは、専門家がいないことではなく、専門家と現場の間を訳せる人がいないことです。
3つ目は、働き方の選択肢が増えることです。職種によっては在宅でできるものとできないものがあり、これは努力では埋まりません。在宅を前提に働きたいなら、在宅でできる職種に移るのが最短です。たとえばAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、業務の棚卸しと運用設計が中心なので、現場に常駐しなくても成立する部分が多い分野です。業務の流れを理解している人が有利になるため、事務や業務改善の経験がそのまま効きます。
一方で、確実に失うものもあります。
1つ目は、社内での積み上げです。誰に聞けば早いか、どの手順は飛ばしてよいか、といった言語化されていない知識は、会社を移った瞬間にゼロになります。これは職種を変えなくても起きますが、職種まで変えると失う量が倍になります。
2つ目は、当面の年収です。前章の数字のとおり、転職した人の29.4%は賃金が減っています。未経験分野への移動ならこの側に入る確率は上がります。下がった状態がどれくらい続くかは分野によりますが、1年から2年は見ておくのが安全です。
3つ目は、時間です。新しい分野で一人前と見なされるまでには、どんなに早くても1年はかかります。その間、同期や同年代は前の分野で昇進していきます。この比較に耐えられるかどうかは、本人の性格の問題でもあります。
得るものと失うものを並べたうえで、判断の軸を1つだけ挙げるなら「5年後にどちらを選んでいたほうが後悔が少ないか」です。3カ月後や1年後で比べると、動かないほうが必ず楽に見えます。時間軸を伸ばして比べないと、正しく比較できません。
年代で変わる、現実的な進め方
キャリアチェンジの難易度は年齢で変わります。ただし「何歳までなら可能」という線引きの話ではなく、「年代ごとに使える武器が違う」という話です。
20代は、ポテンシャルで採ってもらえる期間です。経験が浅いことが前提で採用されるので、未経験でも入口が開いています。この時期に動くなら、業界と職種を同時に変えても通ります。ただし、何度も変えると「続かない人」という評価がつくので、回数は意識したほうがよいでしょう。
30代は、ここまでの経験を翻訳して売る時期に変わります。完全な未経験枠は減りますが、代わりに「前の分野の知識を持ったまま来てくれる人」としての価値が出ます。営業からエンジニアへ移る人が重宝されるのは、技術が分かる営業、顧客の言葉が分かる開発者という希少性があるからです。この年代の具体的な道筋は営業職からITエンジニアへキャリアチェンジ|30代の転職ロードマップで、学習の順番と応募のタイミングまで整理してあります。
40代は、マネジメント経験か専門性のどちらかが必要になります。担当者としての未経験枠はかなり狭くなる一方、「この領域なら任せられる」と言える何かがあれば、年齢は障害になりません。むしろ人手が足りていない分野では歓迎されます。この年代で動くなら、求人票を見る前に自分の職務経歴を紙1枚にまとめ、そこに何が書けるかを確認するところから始めます。
50代以降は、人脈と信頼の蓄積が主な資産になります。正社員としての転職より、業務委託や顧問といった契約形態のほうが現実的な場面が増えます。この形なら、週2日だけ前の分野の知識を売りながら、残りで新しい分野を試すこともできます。
なお、30代でIT分野へ移る場合に年収を落とさずに進める方法は30代でIT業界へキャリアチェンジするための全戦略|年収を下げない転職術【2026年版】で詳しく扱っています。学習と応募を並行させる進め方が中心で、時間の使い方の参考になります。
年代の話でもう1つ付け加えると、「若いうちに動いたほうがよい」は半分しか正しくありません。若いうちのほうが入口は広い。ただし、翻訳できる経験が少ないので、入った後に評価されるまでが長くなります。経験を持って移る人のほうが、入った後の立ち上がりは速い。どちらにも有利な面があるので、年齢を理由に諦める必要はありません。
つまずき方には型がある
キャリアチェンジで失敗した話を集めると、いくつかの型に収まります。先に知っておけば、半分は避けられます。
1つ目は、逃げの動機だけで動く型です。今の職場が嫌だという気持ちだけで動くと、行き先の選び方が雑になります。「ここではないどこか」を探しているので、条件が今より良く見えれば飛びついてしまう。結果として、別の形の不満に当たって1年で再び動くことになります。逃げたい気持ちがあること自体は問題ありませんが、行き先は別の基準で選ぶ必要があります。
2つ目は、資格を取れば道が開くと考える型です。資格は入口の証明にはなりますが、それ単体で仕事が来ることはほとんどありません。実務経験を求める求人に資格だけで応募しても、書類で止まります。資格が効くのは、実務の入口に立つための最低条件になっている分野と、名刺代わりに信頼を得たい分野です。たとえばCCNA(シスコ技術者認定)はネットワーク分野の基礎を体系的に証明できる資格で、未経験からインフラ系に入るときの足がかりになります。ただし取得しただけで終わらせず、手を動かした記録を並行して作ることが前提です。
3つ目は、憧れだけで職種を選ぶ型です。外から見て華やかな仕事ほど、実際の業務の大半は地味な作業で構成されています。デザインの仕事の多くは修正対応であり、動画編集の多くはカットの繰り返しです。憧れを持つのは自由ですが、その職種の人が1日の大半を何に使っているかを調べないまま移ると、半年で幻滅します。
4つ目は、準備期間を取らずに辞める型です。辞めてから考えようとすると、収入が止まった状態で判断することになります。焦った状態での判断は、ほぼ確実に条件を落とします。次が決まっていなくても構いませんが、方向だけは決めてから辞めるべきです。
5つ目は、前の職場のやり方を持ち込む型です。新しい分野に入ってすぐ「前はこうだった」と言い始めると、周囲が構えます。前の経験は資産ですが、出すタイミングがあります。最初の3カ月は覚える側に徹し、信用ができてから提案する。この順番を守れるかどうかで、その後の扱いがかなり変わります。
失敗の型を眺めると共通点が見えます。どれも、情報が足りないまま決めていることです。動機、行き先、必要なもの、日々の業務内容。このうち1つでも空欄のまま進むと、そこが後で問題になります。
動き出す前の12週間で何をするか
準備の中身を、期間で区切って並べます。働きながら進める前提で、無理のない配分にしています。
最初の4週間は、棚卸しに使います。これまでの仕事を、業務単位まで細かく分解して書き出します。「営業」ではなく「新規開拓の架電」「提案資料の作成」「見積の作成」「納品後のフォロー」というレベルです。次に、それぞれについて「他の分野でも使えるか」を判断していきます。提案資料の作成は他の分野でも使えますが、自社製品の仕様知識は持ち運べません。この仕分けで残ったものが、履歴書に書ける武器になります。
同時に、希望する分野の求人票を30件ほど集めて、求められている要件を数えます。どの条件が何件に出てくるかを数えるだけで、優先順位が見えます。全部の求人に書いてある条件は必須で、たまにしか出てこない条件は後回しでよい、という判断ができます。
次の4週間は、埋める作業に使います。数えた結果で足りないものが分かっているので、そこだけを学びます。全体を網羅しようとすると終わらないので、求人票に頻出する上位3つに絞ります。
この期間に使えるのが、雇用保険の教育訓練給付金です。厚生労働大臣が指定した講座を修了すると、支払った受講料の一部がハローワークから戻ってくる制度です。給付の種類は3つあり、給付率が違います。
ハローワークインターネットサービスには、次のように説明されています。
教育訓練給付金とは、働く方々の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的として、厚生労働大臣が指定する教育訓練を修了した際に、受講費用の一部が支給されるものです。 出典: hellowork.mhlw.go.jp
一般教育訓練は受講費用の20%で上限10万円、特定一般教育訓練は40%で上限20万円、専門実践教育訓練は50%で年間上限40万円です。専門実践のほうは、修了して資格を取り就職した場合は70%(年間上限56万円)、さらに訓練修了後の賃金が受講開始前より5%以上上がった場合は80%(年間上限64万円)まで上がります。
受けられる条件は、雇用保険に加入していた期間です。専門実践と特定一般は原則3年以上、一般教育訓練も原則3年以上で、初めて教育訓練給付を受ける人は短い期間でも対象になる場合があります。詳しい条件や自分が対象になるかは、ハローワークで支給要件照会という手続きができます。電話では受け付けていないので、窓口か郵送、電子申請で確認してください。制度の細部は改正で変わるため、申し込む前に必ず最新の案内を見ておくことをおすすめします。
最後の4週間は、外に出す作業に使います。職務経歴書を書き、応募を始めます。ここで大事なのは、完璧になってから出そうとしないことです。書類を出して落ちると、何が足りないかが分かります。学習だけを続けても、その情報は手に入りません。
書類の完成度が不安なら、伝わる文章の基本を固めておくのも手です。ビジネス文書検定は、報告書や依頼文といった実務の文書を正しく書けるかを測る試験で、職務経歴書の読みやすさにも直結します。文章の型が身についていると、面接前の書類選考で落ちる確率が下がります。
転職理由と志望動機は、同じ話の表と裏
面接で必ず聞かれる2つが、転職理由と志望動機です。キャリアチェンジの場合、ここで評価の大半が決まります。
まず転職理由です。ここで不満を並べると、採用側は「うちでも同じことを言って辞めるのでは」と考えます。かといって嘘をつくと、深掘りされたときに崩れます。
使える形は、事実として起きたことを述べて、そこから自分がどう考えたかにつなぐ形です。たとえば「担当していた領域が縮小し、新しい取り組みの機会が減った。このまま同じ業務を続けるより、伸びている分野で経験を積み直したいと考えた」という形です。会社を責めていないし、嘘もついていません。
次に志望動機です。キャリアチェンジの志望動機で一番弱いのは「興味があるから」です。興味は誰にでもあるので、差がつきません。強いのは、前の分野での具体的な経験を出発点にしている動機です。
「前職で自社の販売データを見ていたが、集計に時間がかかり意思決定が遅れる場面が多かった。仕組みで解決したいと考えて学び始めた」という形なら、興味の出どころが説明できています。採用側は、この人がすぐ飽きないかを知りたいので、動機に個別の出来事が含まれているほど安心します。
もう1つ、未経験分野への応募では「すでに手を動かした証拠」が強力に効きます。学んだ内容ではなく、作ったもの、書いたもの、動かしたものです。分量は小さくて構いません。自分で決めて最後まで作り切った記録があると、説明の説得力が変わります。
たとえばアプリケーション開発のお仕事のような分野では、規模の小さい制作物でも、要件を決めて形にした経験があるかどうかが見られます。完成度より、途中で投げていないことのほうが評価されます。
年収の話も、避けずに準備しておきます。未経験分野に移る以上、前職と同額を求めるのは難しい場面があります。ただし「いくらでもよい」と答えるのは危険です。生活に必要な金額と、何年で元の水準に戻したいかを自分の中で決めておき、聞かれたらその範囲で答えます。実際の相場を知らないまま交渉すると損をするので、職種ごとの水準は事前に調べておきましょう。ソフトウェア作成者の年収・単価相場では、開発職の年収帯と業務委託での単価の目安をまとめてあります。
会社を辞める前に、小さく試すという順番
ここまでの話を踏まえたうえで、キャリアチェンジで最も失敗が少ない進め方を挙げるなら、辞める前に小さく試すことです。
理由は単純で、向いているかどうかは、やってみないと分からないからです。調べて分かるのは業務の概要までで、毎日それをやり続けられるかは別の話です。1件でも実際の仕事として引き受けてみると、その判断材料が一気に手に入ります。
試す方法は、大きく3つあります。社内で試す、副業で試す、無償で試すです。
社内で試すのが一番リスクが低い方法です。異動の希望を出す、他部署の業務を手伝う、社内公募に応募する。給料が止まらないまま職種を変えられるので、条件が合うならこれが最善です。ただし会社の都合に左右されるため、希望が通るまで年単位で待つことになる場合があります。
副業で試す方法は、時間さえ確保できれば自分で始められます。業務委託の案件を1件受けて、納品まで通してみる。ここで分かるのは、作業の中身だけではありません。見積のやりとり、期限の管理、修正対応の重さ。仕事として成立させるために必要なことの全体像が見えます。書く仕事から始めるなら、まず単価の相場を知っておくと判断しやすくなります。著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、文章系の職種の収入水準を整理してあります。
無償で試す方法は、知人の仕事を手伝う、自分で何かを作って公開する、といった形です。報酬が発生しないぶん責任は軽いものの、続けられるかどうかの判定には十分使えます。
副業として受ける場合の注意点を2つ挙げておきます。1つは就業規則の確認です。副業を禁止または許可制にしている会社はまだ多く、黙って始めると懲戒の対象になることがあります。会社の規定を先に読んでください。もう1つは確定申告です。給与以外の所得が年20万円を超える場合など、申告が必要になる条件があります。金額や働き方によって扱いが変わるので、自分の場合にあてはまるかどうかは税務署や国税庁の案内で確認するのが確実です。
分野の選び方について1つ付け加えると、既存の経験と接する面が広い分野から試すのが効率的です。まったく縁のない分野より、今の仕事で関わったことのある分野のほうが、入口で評価される材料が多くなります。マーケティングやセキュリティのように事業側の理解が求められる領域は、営業や企画の経験が翻訳しやすく、未経験からでも会話が成立しやすい分野です。逆に、業務の前提知識がまったくない分野をいきなり選ぶと、仕事の良し悪しを自分で判断できないまま進むことになり、修正のやりとりで消耗します。
市場を20年見てきた立場からの考察
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、キャリアチェンジがうまくいく人には、共通する振る舞いがあります。
それは、最初の仕事を「仕事の中身」ではなく「相手との関係」として扱っていることです。初めて受けた案件で、納品物の出来だけを気にする人は多い。しかし長く続いている人は、納期の連絡、修正の受け取り方、次に何が必要かの先回りにも同じくらい注意を払っています。結果として、同じ依頼者から2件目、3件目が来る。新しい分野で最初の実績が積み上がるまでの期間は、この差でまるごと変わります。
運営者として見てきた限りでは、未経験から入った人が挫折する一番多いタイミングは、技術でつまずいたときではありません。1件目が終わって、2件目が来ないまま2カ月が過ぎたときです。技術の問題だと思って学習に戻る人が多いのですが、実際に足りていないのは関係の作り方であることのほうが多い。ここを勘違いすると、学び続けているのに仕事が増えない状態が長引きます。
もう1つ、この市場を長く見てきて確信していることがあります。同じ予算でも、間に入る事業者が多いほど、発注者は頼める量が減り、受け手の手取りは薄くなります。仲介手数料が引かれない直接取引では、発注者は同じ予算でより多くを頼め、受け手は同じ作業で手取りが厚くなる。手数料0%という条件が効いてくるのは、金額の大きい案件よりも、むしろ未経験から始めて単価がまだ低い時期です。受け取る額が小さいほど、差し引かれる割合の重さが効いてくるからです。
キャリアチェンジを考えている人に最後に伝えたいのは、判断を一度に下そうとしないことです。辞めるかどうかを今日決める必要はありません。決めるべきなのは、次の1週間で何を調べるか、次の1カ月で何を1つ試すかです。その積み重ねで材料がそろえば、決断は自然に降りてきます。逆に材料がないまま決めようとすると、どこまでいっても不安が消えません。
棚卸しをして、求人票を数えて、足りないものを1つ埋めて、小さく1件試す。順番はそれだけです。やることが決まっている状態は、悩んでいる状態よりずっと楽になります。
よくある質問
Q. キャリアチェンジは何歳までなら現実的ですか?
年齢による明確な上限はありませんが、評価される材料が年代で変わります。20代はポテンシャル、30代は前の分野の経験の翻訳、40代は専門性かマネジメント経験、50代以降は人脈と信頼が主な武器になります。40代以降は正社員としての未経験枠が狭まるため、業務委託や顧問といった契約形態も含めて選択肢を広げると進めやすくなります。
Q. キャリアチェンジすると年収は下がりますか?
厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、転職した人のうち賃金が増加した人が40.5%、減少した人が29.4%でした。ただしこれは同職種の転職も含む全体の数字で、未経験分野に移る場合は下がる側に寄りやすくなります。手取りが下がっても生活が回るかを事前に計算し、元の水準に戻す期間の目安を決めておくと判断しやすくなります。
Q. 資格を取ればキャリアチェンジは有利になりますか?
資格だけで仕事が来ることはほとんどありません。実務経験を求める求人に資格だけで応募しても、書類選考で止まります。効果があるのは、資格が実務の最低条件になっている分野と、初対面の相手に基礎を証明したい場面です。資格の学習と並行して、自分で最後まで作り切った成果物を1つ用意しておくと、書類の説得力が大きく変わります。
Q. 会社を辞めてから準備するのと、働きながら準備するのはどちらがよいですか?
働きながら準備するほうが安全です。収入が止まった状態では焦りから条件を落とした選択をしやすく、結果として再び転職することになりがちです。方向が決まっていない段階で辞めるのは避け、棚卸しと求人票の分析、足りない要件の学習、小さく1件試すところまでは在職中に済ませるのが現実的な進め方です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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