定款の本店所在地を変えるとき|市区町村までしか書かない理由

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
定款の本店所在地を変えるとき|市区町村までしか書かない理由

この記事のポイント

  • ✓定款住所変更が必要になる場面と不要な場面を
  • ✓会社法と法務局の様式に当たって整理しました
  • ✓定款に番地まで書いてあるかどうかで手間が変わります

事務所を移した、あるいは自宅兼事務所の住所が変わった。そこで「定款住所変更の手続きが要るらしい」と調べ始めた人がまず突き当たるのが、「定款を直さなくていい場合がある」という説明です。結論から言うと、直すかどうかは引っ越し先ではなく、いま手元にある定款に何と書いてあるかで決まります。番地まで書いてある定款なら、同じ町内で隣のビルに移るだけでも変更が必要になります。市区町村までしか書いていない定款なら、その市区町村の中で移る限り、定款はそのままで構いません。この記事では、その分かれ目と、そこから先の登記・届出までを順に整理します。

定款の住所と、登記に出ている住所は別物

まず言葉を整理します。定款とは、会社の決まりごとを書いた文書のことです。会社を作るときに必ず用意し、株式会社の場合は公証人という公的な資格を持つ人の確認(認証)を受けます。一方、登記とは、会社の基本情報を法務局の帳簿に載せて誰でも見られるようにする仕組みのことです。

この2つは別々の場所にあります。定款は会社が自分で保管する文書で、会社法第31条は、定款を本店と支店に備え置かなければならないと定めています。株主と債権者は、営業時間内であればその閲覧や写しの交付を求められます。つまり定款は「社内にある正式な文書」です。

対して登記のほうは、法務局が管理する公の記録です。取引先や金融機関が会社の実在を確かめるときに見るのは、定款ではなくこちらの登記事項証明書です。

この違いが分かると、住所の書き方が両者で違う理由も見えてきます。登記には番地まで載ります。ビル名や部屋番号まで入っていることも珍しくありません。ところが定款のほうは、「東京都渋谷区」で終わっている会社がとても多い。登記と定款を見比べて「書いてあることが違う。間違いでは」と不安になる人がいますが、多くの場合これは誤記ではなく、意図してそうしてあります。

会社法第27条は、株式会社の定款に必ず記載しなければならない事項として、目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所の5つを挙げています。ここで求められているのは「本店の所在地」であって、「本店の所在場所」ではありません。番地まで書き込むことは求められていないわけです。合同会社などの持分会社についても、会社法第576条が同じく「本店の所在地」を記載事項としています。

定款に番地まで書いてあるかどうかで、手間がまるごと変わる

法律の文言が「所在地」で止まっていることから、実務では定款の本店所在地を市区町村(東京23区の場合は区、政令指定都市の場合は市)までで止める書き方が広く使われています。これを最小行政区画までの記載と呼びます。

なぜそうするのか。理由は1つで、引っ越しのたびに定款を変えずに済むからです。

定款に「東京都渋谷区」とだけ書いてあれば、渋谷区内で事務所を移す限り、定款に書いてある内容と現実の間にずれは生じません。定款を変える必要がないので、株主総会を開く必要もありません。法務局へ出すのは本店移転の登記だけで済みます。

一方、定款に「東京都渋谷区道玄坂一丁目2番3号」と番地まで書いてあると、同じ渋谷区の中で隣のビルに移るだけでも、定款の記載と現実が食い違います。この場合は定款そのものを変える手続き、つまり株主総会の決議が必要になります。書類が1種類増え、株主リストの用意も要ります。小さな会社ほど、この手間の差は無視できません。

ここで注意したいのが、番地まで書いてある定款が間違いというわけではない、という点です。番地まで定めておけば、どこに本店があるかが定款だけで分かるという利点はあります。ただ、事務所を移す予定が少しでもあるなら、割に合わないことが多い。運営者として在宅で働く人や小規模な会社を長く見てきた立場から言えば、創業から5年のうちに一度も住所が変わらない会社のほうが、むしろ少数派です。

同じ市区町村の中で移るとき

ここからは場合分けです。まず、引っ越し先が同じ市区町村の中で、かつ定款が市区町村までしか書いていない場合。これが一番簡単で、やることは次の順になります。

1つめ。新しい住所を決めた人(取締役会を置いている会社なら取締役会、置いていない会社なら取締役)が、いつからどこへ移すかを決めます。取締役会を置いていない会社では、取締役の決定書という1枚の文書を作るのが一般的です。

2つめ。実際に移転した日が来たら、その日から2週間以内に法務局へ本店移転の登記を申請します。期限の根拠は会社法にあります。

会社において第九百十一条第三項各号又は前三条各号に掲げる事項に変更が生じたときは、二週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をしなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp

3つめ。登記が終わったら、税務署や年金事務所などへの届出に進みます。ここは後ろの節でまとめます。

申請書の様式は法務局のサイトに置いてあります。株式会社なら「株式会社本店移転登記申請書(管轄登記所内移転)」、合同会社なら「合同会社本店移転登記申請書(管轄内移転)」が該当します。記載例のPDFと、書き込み用のWord・PDFがそれぞれ用意されているので、白紙から作る必要はありません。

このケースで添付するのは、取締役会議事録または取締役の決定書だけです。定款を触っていないので、株主総会議事録も株主リストも要りません。

市区町村をまたいで移るとき

引っ越し先が別の市区町村になる場合、定款に書いてある市区町村と現実が合わなくなるので、定款を変える手続きが必ず入ります。ここが分かれ目です。

さらに、移転先が別の法務局の管轄になるかどうかで、登記の形が変わります。同じ法務局が管轄する区域の中での移動(たとえば東京都内で管轄が同じ区の間の移動)なら、登記の申請は1件です。管轄そのものが変わる移動なら、会社法第916条により、移転前の所在地と移転後の所在地の両方で登記をすることになります。

管轄が変わるかどうかは、自分の感覚では判断できません。同じ都道府県内でも管轄は細かく分かれており、隣の市に移っただけで管轄が変わることも、逆に遠くへ移っても同じ管轄に収まることもあります。法務局のサイトに管轄を調べるページがあるので、申請前に必ず両方の住所で確認します。

※ 実際の管轄法務局は異なる場合がありますので自分でも必ず確認してください。 ※ 本ツールに掲載されていない市区町村は、各都道府県の地方法務局(本局)が管轄している場合があります。 出典: corporate.ai-con.lawyer

管轄が変わる移転では、登記の完了までにかかる日数も長くなります。法務局は、登記手続が完了するまでの間、その会社の登記事項証明書と印鑑証明書を原則として発行しないと案内しています。さらに管轄が変わる本店移転については、通常の登記完了予定日の目安から外れるとも明記されています。移転の時期に融資の実行や入札、契約の締結を予定しているなら、証明書が一時的に取れない期間があることを前提に日程を組んでおくべきです。

定款を変える決議のしかた

定款を変えるには、株式会社なら株主総会の決議が要ります。会社法第466条が「株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる」と定めています。

そして、この決議は普通の決議より条件が重い特別決議です。会社法第309条第2項が定める要件は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を得ること。定款の変更は第6章に置かれているため、同項第11号によりこの重い要件が適用されます。

株主が代表者1人だけの会社であれば、実質的には自分1人の判断ですが、議事録という形で記録を残す必要があります。また、株主総会を実際には開かず、株主全員が書面で同意して決議があったものとみなす方法(会社法第319条第1項)を使う会社も多く、この場合も記録は残します。

合同会社をはじめとする持分会社では、株主総会という仕組みがありません。代わりに会社法第637条が「持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって、定款の変更をすることができる」と定めています。社員全員の同意書を作る、というのが実務の形です。社員が1人の合同会社なら、同意書も1人分で足ります。

決議の日付にも注意が必要です。法務局は、登記の原因となる出来事が起きる前に登記を申請することはできないと明示しています。たとえば9月1日に「10月1日本店移転」の登記を申請することはできません。決議は先にしておいてよいのですが、申請は移転の日が来てからです。

法務局に出す書類と、かかるお金

管轄をまたぐかどうかで金額が変わるので、まず税金の根拠を押さえます。登録免許税法の別表第一は、本店または主たる事務所の移転の登記について、1箇所につき3万円と定めています。

ここで言う「1箇所」は、登記を受ける登記所の数と考えると分かりやすい。同じ法務局の中での移転なら登記は1件なので3万円。管轄が変わる移転なら旧所在地と新所在地の2つで登記をするので、合計6万円になります。この金額は収入印紙で納めます。

法務局へ提出する登記申請書です。登録免許税として3万円分の収入印紙を貼付が必要となります。収入印紙は法務局やお近くの郵便局でお求め頂けます。 出典: corporate.ai-con.lawyer

添付する書類は、定款を変えたかどうかで変わります。定款を変えた場合、つまり市区町村をまたいだ場合は、次のものが要ります。

株主総会議事録。定款の本店所在地をどう書き換えたかを記載します。

株主リスト。これは2016年(平成28年)10月1日以降、株主総会の決議を要する登記に添付が必要になった書類です。法務省は、議決権数の上位10名の株主と、議決権割合が3分の2に達するまでの株主の、いずれか少ないほうの株主について、氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数割合の5点を代表者が証明すると案内しています。株主が1人の会社なら1行で終わります。

取締役会議事録または取締役の決定書。定款で市区町村までしか決めていない以上、番地までは別途決める必要があるためです。

代理人に頼む場合は委任状。司法書士に依頼するときはここに押印します。

定款を変えていない場合、つまり同じ市区町村内での移転なら、株主総会議事録も株主リストも不要で、取締役会議事録か取締役の決定書だけで足ります。

登記が終わったあとに出す届出

登記が完了しても、それで終わりではありません。むしろ、ここから先を忘れて後から慌てる会社のほうが多いというのが実感です。

税務署には、法人の異動届出書を出します。国税庁が案内している手続で、納税地の異動、事業年度の変更、商号の変更などがあったときに提出するものです。本店の住所が変わったときもこれに当たります。納税地が変わって管轄の税務署そのものが変わる場合もあるため、提出先を先に確かめておきます。

都道府県税事務所と市区町村役場にも、同じく異動の届出が要ります。こちらは自治体ごとに様式と提出先が違うので、移転前と移転後の両方の自治体のサイトを見て確認します。移転前の自治体にも届け出が必要になるケースがあるのを見落としがちです。

社会保険に入っている会社なら、年金事務所に事業所の所在地変更の届出を出します。従業員を雇っていれば労働基準監督署とハローワークにも届出が必要です。

このほか、銀行口座の住所、取引先への連絡、許認可を取っている事業なら許認可の担当官庁への届出、事務所の賃貸借契約、法人のクレジットカード、印刷物の住所表記と、実務上の手直しが続きます。登記が終わってから動き出すと、この列が長く感じられます。登記申請と並行して、届出先の一覧を先に作っておくと楽になります。

申請でつまずきやすいところ

法務局が公開している注意事項のうち、実際に引っかかりやすいものを挙げます。

登記の期限を過ぎた場合。申請が受け付けられなくなるわけではありませんが、無視してよい話でもありません。

登記すべき期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して、裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp

過料は会社ではなく代表者個人に科されるもので、金額は遅れの長さなどによって決まります。2週間という期限は守るのが前提です。

書類を訂正するとき。修正液や塗りつぶしは使えません。法務局は、訂正したい文字を二重線で消して近くに正しい文字を書き、押印する方法を案内しています。押印の近くに「何字削除何字加入」と書き添えても構いません。申請書を直すときは申請書に押した印鑑を、添付書面を直すときはその書面に押した印鑑を使います。

議事録の原本を手元に残したいとき。添付書面は原本を出すのが原則ですが、議事録のように会社が保管しておくべきものは、原本の還付を求められます。方法は、原本をコピーし、そのコピーに申請書に押印した人が「原本に相違ありません。」と記載して記名したうえで、原本と一緒に提出する、というものです。コピーが複数枚になる場合はまとめて綴じます。

申請書に電話番号を書くこと。不備があったときに法務局から連絡が来ます。携帯電話の番号で構いません。逆に、登記完了予定日まで連絡が来なければ、不備なく手続きが進んだということです。

定款そのものを作り直すのか、議事録を足すのか

定款を変えた後、手元の定款用紙をどうするかで迷う人がいます。結論を言えば、公証人のところへ持ち込んで作り直す必要はありません。株式会社で公証人の認証が要るのは、会社を作るときに最初に作った定款(原始定款)だけです。会社が成立した後の定款変更に、認証は要りません。

実務で行われているのは、次のどちらかです。1つは、原始定款と、その後の変更を決議した株主総会議事録を一式で保管しておく方法。もう1つは、変更を反映させた最新版の定款を1つの文書として作り直し、末尾に「この定款はいついつの株主総会の決議により変更されたものである」といった趣旨の記載を添える方法です。後者は現行定款と呼ばれ、金融機関や許認可の窓口から提出を求められたときに渡すのはこちらになります。

どちらの形を取るにせよ、変更の根拠となった議事録は捨てないことです。後から「この条文はいつ、どういう決議で変わったのか」を説明できなければ、現行定款として作り直した文書の正しさを示せません。

なお、定款の本店所在地の書き方を番地までから市区町村までへ直す、という変更自体も定款変更です。次の引っ越しを楽にする目的で、住所の変更と同じ株主総会でまとめて書き方も直しておく、というやり方は合理的です。同じ決議でまとめてしまえば、株主リストも議事録も1回分で済みます。

定款の条文は、実際にどう書き換えるのか

条文の形を見ておくと、議事録に何を書けばよいかがはっきりします。

番地まで書いてある定款では、たとえば次のような条文になっています。「第3条 当会社は、本店を東京都渋谷区道玄坂一丁目2番3号に置く。」

これを市区町村までの記載に変えるなら、「第3条 当会社は、本店を東京都渋谷区に置く。」とし、必要に応じて第2項として「当会社は、取締役の過半数の決定により、支店その他の事務所を設置することができる。」といった規定を置きます。取締役会を置いている会社なら「取締役会の決議により」と書き換えます。

移転先が別の市区町村になる場合は、そのまま新しい市区町村名に書き換えます。「第3条 当会社は、本店を神奈川県横浜市に置く。」という形です。

議事録には、変更前の条文と変更後の条文を並べて書くのが実務の作法です。どちらか一方しか書いていないと、何がどう変わったのかが後から追えません。会社の履歴を説明する場面は、融資の申し込みや許認可の申請で実際に発生します。

合同会社の場合も条文の形は同じで、決議のしかただけが総社員の同意に変わります。社員が1人の合同会社なら、同意書に「当会社の定款第3条を次のとおり変更することに同意する」と記し、変更前と変更後の条文を並べて記名押印します。

条文番号のずれにも気を付けます。条を追加したり削除したりすると、それ以降の条番号が全部ずれ、他の条文から「第10条に定める」といった形で参照している箇所が食い違います。住所の変更だけなら条の入れ替えは起きませんが、他の変更とまとめて決議するときは、条文全体を通して読み直しておくと安全です。

移転先の住所を決める前に確かめておくこと

住所を決めてから登記の段で引っ掛かる、という順序の事故があります。先に確かめておきたいのは次の3点です。

1つめは、その住所で法人登記をしてよいかどうかです。賃貸の物件では、契約書で居住専用と定められていて法人登記を認めていない場合があります。バーチャルオフィスやレンタルオフィスでも、プランによって登記の可否が分かれます。契約前に書面で確認しておかないと、移転してから本店を置けないことが分かる、という事態になります。

2つめは、同じ住所に同じ商号の会社が既にないかどうかです。商号と本店がどちらも同一の会社は登記できません。法務局は同一商号・同一本店の調査を行う方法を案内するページを用意しています。レンタルオフィスのように、1つの住所に何十社も登記されている物件では、これが現実的な問題になります。ありふれた商号を使っている会社ほど、事前の調査が効きます。

3つめは、許認可の要件です。人材派遣、旅行業、宅地建物取引業、建設業など、事務所の面積や独立性が許可の条件になっている業種では、移転先がその条件を満たしているかを先に確かめます。登記を済ませてから要件を満たしていないと分かると、許可の取り直しという重い手戻りになります。

もう1つ、頭の隅に置いておきたい話があります。法務局は、最後の登記から12年を経過している株式会社について、みなし解散の登記の対象になると案内しています。役員の任期が来ても変更登記をしていない、本店を移したのに登記していない、といった状態を長く放置すると、会社が解散したものとして扱われる可能性があるということです。登記を後回しにする習慣そのものに費用がかかります。

登記が終わったあとに取る書類と、その値段

移転の登記が終わると、あちこちに「新しい住所が載った登記事項証明書を出してください」と言われます。取引先の審査、銀行口座の住所変更、許認可の届出、賃貸借契約の更新。1通で足りることはまずないので、必要な枚数を先に見積もって一度に取ると手間が減ります。

値段は登記手数料令で決まっています。法務局の窓口で登記事項証明書を請求すると1通600円です。これに対し、オンラインで請求して郵送してもらう場合は1通520円、オンラインで請求して法務局の窓口で受け取る場合は1通490円と、いずれも窓口請求より安くなります。枚数がまとまるほど差が効いてきます。

印鑑証明書も同じ構造です。窓口での請求は1件500円、オンライン請求で窓口受取なら1件420円、オンライン請求で郵送なら1件450円です。

取得のタイミングには注意点があります。法務局は、登記の申請をしてから手続が完了するまでの間、その会社の登記事項証明書と印鑑証明書は原則として発行されないと明記しています。移転の登記を出した直後に証明書が必要になると、待つしかありません。融資の実行日や契約の締結日が決まっているなら、証明書が必要になる場面を洗い出したうえで、申請の日取りを決めるべきです。

なお、証明書を人に渡すために取るのか、自分で内容を確かめたいだけなのかでも選択肢は変わります。内容を見るだけなら、登記情報提供サービスで画面上の情報を取る方法があり、こちらは証明書よりさらに安く済みます。ただし、これは証明文の付かない情報なので、提出先が「登記事項証明書」を求めているときには使えません。

個人で受けていた仕事を法人に移すときの順番

法人を作ったばかりの人、あるいは作ったあとに本店を移した人がつまずくのは、たいてい登記そのものではなく、その後の付け替え作業です。順番を決めておくと落ち着きます。

最初に登記を終えます。登記が済まないと、その先の届出で求められる登記事項証明書が取れません。

次に、税務署、都道府県税事務所、市区町村への届出です。ここは期限が短いものがあるので、登記完了の連絡を受けたらすぐ動きます。

その後に、銀行口座、社会保険、労働保険の住所変更へ進みます。銀行は登記事項証明書の原本提示を求めることが多く、店舗に出向く必要が出る場合もあります。

最後が取引先への連絡です。請求書の宛先、支払先の登録情報、契約書の記載住所。継続して仕事をしている相手ほど、システムに登録された住所が古いままだと入金や郵送で事故が起きます。取引先が多いなら、一斉に知らせる文面を1つ作って、同じ内容を全員に送るのが確実です。

この順番で動いているつもりでも抜けやすいのが、自分のサイトや名刺、見積書のひな形といった、自社で管理している表示です。登記や届出と違って誰も催促してこないので、古い住所が何年も残ります。移転の作業を始めるときに、住所を書いてある自社の媒体を一覧にしておくと取りこぼしが減ります。

住所と働き方が切り離されていく市場で、何を基準に決めるか

ここまでは手続きの話でした。最後に、そもそもどこを本店にするかという判断について、市場の側から補助線を引いておきます。

在宅やリモートを前提に法人を作る人が増えた結果、本店の住所は「そこで毎日働く場所」ではなくなりつつあります。自宅を本店にする、レンタルオフィスを本店にする、実家を本店にする。いずれも珍しくありません。ここで効いてくるのが、登記された住所は誰でも取得できる登記事項証明書に載る、という点です。自宅を本店にすると、自宅の番地が公開情報になります。定款の記載を市区町村までにしておいても、登記のほうには番地が載りますから、ここは定款の書き方では避けられません。

運営者として在宅で働く人の市場を20年見てきた限りでは、住所を理由に仕事の受け方を狭めている人は、思っているより多い。個人事業のままで自宅住所を明かしたくないので法人化を選ぶ人もいれば、法人化したあとにレンタルオフィスへ本店を移す人もいます。どちらも合理的な判断です。ただ、移すたびに登録免許税がかかり、管轄が変われば倍になる。移る回数を減らすほうが、結局は安く済みます。

職種によって、この判断の重さは変わります。在宅での開発や運用のように、クライアントが現地を訪ねてこない仕事なら、住所は書類上のものに徹してよい。参考までに、開発系の仕事の実態と単価の考え方はソフトウェア作成者の年収・単価相場に、案件の内容はアプリケーション開発のお仕事にまとめてあります。一方、文章や編集の仕事では、取材や打ち合わせで住所を伝える場面が残ります。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、案件の形が幅広く、対面の比重も一定あることが分かります。

近年伸びているのは、企業側の相談に乗る形の仕事です。AIコンサル・業務活用支援のお仕事やAI・マーケティング・セキュリティのお仕事のように、成果物ではなく判断を売る仕事では、法人であることが前提条件になっている募集も見られます。法人を作る動機がここにある人は、本店の住所よりも、契約の受け方を先に整えたほうが効きます。契約面の基礎としては、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが発注書に入れるべき項目を整理しています。代金が支払われなかったときの流れは未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】にあります。

書類の作法そのものを鍛えたい人には、ビジネス文書検定のような、文書の型を体系的に学べる資格が実務に直結します。議事録も決定書も、形式が整っているだけで差し戻しが減ります。技術職で法人化を考えている人なら、CCNA(シスコ技術者認定)のように発注側が評価軸として見ている資格を押さえておくと、住所や法人格とは別の軸で選ばれやすくなります。会計まわりを自分で回すつもりなら、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に専門家側から見た業務の切り分け方が書かれており、どこまで自分でやってどこから頼むかの目安になります。

中間に人が入らない直接の取引では、同じ予算でも依頼する側はより多く頼め、受ける側は手取りが厚くなります。運営者として見てきた限り、長く続く人ほど、単発の作業を安く早く受けることよりも、この人に任せれば楽だと思われる関係を作ることに時間を使っています。本店をどこに置くかは、その関係を作るための土台の1つでしかありません。定款に書く住所を市区町村までにとどめておくのは、その土台をいじる回数を減らして、本業に時間を戻すための小さな工夫です。

最後に確認です。税金や登記の個別の取り扱いは、会社の規模や事情によって変わります。判断に迷う点が出たら、管轄の法務局の相談窓口、税務署、または司法書士や税理士に確認してください。この記事は、確認すべき論点を先に把握しておくためのものです。

よくある質問

Q. 同じ市区町村の中で事務所を移した場合、定款は変えなくてよいですか?

定款に市区町村までしか書いていなければ、変える必要はありません。取締役会または取締役の決定で新しい所在場所を決め、移転の日から2週間以内に本店移転の登記を申請します。定款に番地まで書いてある場合は、同じ市区町村内でも定款の変更が必要になり、株主総会の決議と株主リストが要ります。

Q. 本店移転の登記にいくらかかりますか?

登録免許税法では本店の移転の登記は1箇所につき3万円と定められています。同じ法務局の管轄内での移転なら3万円、管轄が変わる移転は旧所在地と新所在地の両方で登記をするため合計6万円です。収入印紙で納めます。司法書士に依頼する場合は、これに報酬が加わります。

Q. 登記の期限を過ぎてしまいました。どうなりますか?

期限を過ぎたことだけを理由に申請が却下されることはありません。ただし法務局は、代表者に対して裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があると案内しています。気づいた時点ですぐに申請してください。期限は変更が生じた日から2週間です。

Q. 定款を変えたら、公証役場で認証を受け直す必要はありますか?

必要ありません。公証人の認証が要るのは、株式会社を作るときの最初の定款だけです。会社が成立した後の定款変更は、株主総会の決議で効力が生じます。変更後の内容をまとめた現行定款を作る場合も、原始定款と変更を決議した議事録を保管しておくことが前提になります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年5月21日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

@SOHOで仕事を探してみませんか?

手数料0%・登録無料のクラウドソーシング。フリーランスの方も企業の方も、今すぐ始められます。

関連記事

カテゴリから探す

クラウドソーシング入門

クラウドソーシング入門

クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド

職種別ガイド

職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク

副業・在宅ワーク

副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス

フリーランス

フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

お金・税金

お金・税金

確定申告・節税・経費・ローンなどお金の知識

スキルアップ

スキルアップ

プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング

比較・ランキング

サービス比較・おすすめランキング

AI活用

AI活用

職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド

最新トレンド

市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド

発注者向けガイド

クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア

転職・キャリア

転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師の転職・求人

看護師の転職・求人

看護師の転職・派遣・単発バイト・副業など働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

薬剤師の転職・求人

薬剤師の転職・求人

薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人

介護職の転職・求人

介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人

保育士の転職・求人

保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人

医療職の転職・求人

医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険

保険

生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人

採用・求人

無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース

オフィス・ワークスペース

バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

シニア・50代

シニア・50代

シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ

セキュリティ

サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック

金融・フィンテック

暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス

経営・ビジネス

経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材

ガジェット・機材

フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方

子育て×働き方

子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金

補助金・助成金

個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド

アウトソーシング・外注ガイド

SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方