株主名簿の作り方|株主が自分ひとりでも要る理由


この記事のポイント
- ✓会社法の条文に当たりながら手順の形で整理しました
- ✓株主が自分ひとりの会社でも作成義務があります
- ✓保管と更新のタイミングまでを順番に解説します
株主名簿の作り方を調べている人の多くは、会社を作ってしばらく経ってから、あるいは税理士や銀行から「株主名簿はありますか」と聞かれて初めてこの書類の存在を知った人です。まず、安心してください。作業そのものは表計算ソフトで30分あれば終わります。書く項目は会社法で4つと決まっていて、そのうち多くの会社では3つしか書きません。提出先もありません。この記事では、準備するものから完成して保管するところまでを、手順の順番どおりに並べます。株主が自分ひとりの会社でも作らなければならない理由も、最初に整理しておきます。
株主が自分ひとりでも作らなければならない理由
株主が自分だけの会社、いわゆる一人会社の経営者から必ず出るのが「自分しか株主がいないのに、誰に見せるための名簿なのか」という疑問です。もっともな疑問です。
答えは3つあります。
1つ目は、会社法に人数による例外がないからです。会社法第121条は「株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない」と書いています。主語は株式会社であって、株主が複数いる株式会社ではありません。株主が1人でも、義務は同じです。
2つ目は、罰の規定が用意されているからです。会社法第976条第7号は、株主名簿に記載すべき事項を記載しなかったり、虚偽の記載をしたりしたときに100万円以下の過料に処すると定めています。同条第8号では、第125条第1項に違反して備え置かなかった場合も対象になります。過料は会社ではなく取締役個人に課されるものです。すぐに通知が来るわけではありませんが、規定がある以上は義務だと考えるのが自然です。
3つ目が、実務ではここがいちばん大きいのですが、あとから必要になる場面が必ず来るからです。融資を受けるときに金融機関から株主構成の資料を求められることがあります。補助金や助成金の申請で提出を求められることもあります。会社を誰かに譲る、あるいは事業の一部を法人ごと売却するという話になったら、買い手は真っ先に株主名簿を見ます。そして、相続が起きたときには相続人が見ます。
一人会社は、いまは株主が1人だから話が単純に見えます。しかし、その1人にいつか相続が起きれば、株式は相続人に移ります。そのときに名簿が残っていないと、何株あったのか、いつ取得したのか、いくらで出資したのかを遺された人が一から調べることになります。株主名簿は、いまの自分のために作る書類というより、将来の誰かのために残す書類です。
皆さんが30分かけて作る表が、10年後に何日分もの手間を消す。そう考えると、後回しにする理由はありません。
作業の前に準備するもの
手を動かす前に、手元に揃えておくと迷わないものが4つあります。
1つ目が、登記事項証明書です。法務局の窓口や郵送で請求すると1通600円、オンラインで請求して窓口で受け取る場合は490円、郵送してもらう場合は520円です。これは登記手数料令で決まっている金額です。ここから、発行済株式の総数と、株券を発行する旨の定めがあるかどうかを確認します。
2つ目が、定款です。株式の種類、譲渡制限の定め、株主名簿管理人を置く定めがあるかどうかを見ます。設立のときに作った原始定款と、その後に変更した株主総会議事録が揃っているかも、この機会に確かめておいてください。
3つ目が、設立時の出資の記録です。発起人が誰で、いくら払い込んで、何株を引き受けたか。設立登記を司法書士に頼んだ会社なら、そのときの書類一式に「設立時発行株式に関する発起人の同意書」や払込証明書が入っています。自分で作った会社なら、資本金を入金したときの通帳の記録が手がかりになります。
4つ目が、設立後に株式が動いた記録です。増資をしたことがあるなら募集株式の発行に関する議事録と登記、誰かに譲ったことがあるなら譲渡承認の議事録と契約書です。株式が動いていない会社なら、ここは不要です。
この4つを机に並べた時点で、作業の半分は終わっています。株主名簿づくりで時間がかかるのは表を作る作業ではなく、過去に何が起きたかを思い出す作業のほうだからです。
手順1 自社が株券発行会社かどうかを確かめる
最初にやることは、自分の会社が株券を発行する会社かどうかの確認です。ここで分岐が発生するので、先に片付けます。
登記事項証明書を開いて、「株券を発行する旨の定め」という欄があるかどうかを見てください。この記載があれば株券発行会社、なければ株券不発行会社です。
2006年に会社法が施行される前は、株券を発行するのが原則でした。それ以降は逆転していて、発行しないのが原則になっています。ですから、2006年より後に作られた会社のほとんどは株券不発行会社です。設立のときに特に何も指定していなければ、不発行になっています。
なぜこれを最初に確かめるかというと、株主名簿に書く4つ目の項目が株券番号だからです。株券発行会社でなければ、この欄は書きようがありません。実際に書くのは残りの3項目だけになります。
株券発行会社だった場合は、金庫や貸金庫に現物の株券が残っているはずです。1枚ずつ番号を確認して、誰に何番の株券が渡っているかを記録する必要があります。古い会社ではここで一日仕事になることがあります。もし株券を発行する定めがあるのに実際には1枚も発行していないという状態なら、定款を変えて株券不発行会社に移行しておくほうが、以後の管理は圧倒的に楽になります。その変更は登記事項でもあるので、司法書士に相談してください。
手順2 書く項目を4つに絞る
条文を直接見ておきます。
株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。 一 株主の氏名又は名称及び住所 二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数) 三 第一号の株主が株式を取得した日 四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号 出典: laws.e-gov.go.jp
この4つ以外は、法律上は書かなくて構いません。ここが大事なところで、他社の名簿を見ると議決権数や出資額、持株比率の列が入っていることがありますが、あれは便利だから足しているだけで義務ではありません。
書き方の注意を、項目ごとに挙げます。
氏名または名称と住所は、住民票や登記簿の表記に合わせます。「1丁目2番3号」をハイフンで省略して書きたくなりますが、正式な表記にしておくほうが、あとで本人確認の資料と突き合わせるときに楽です。法人が株主なら、商号と本店所在地を登記簿どおりに書きます。
株式の数は、その株主が持っている株数です。持株比率ではありません。種類株式を発行している会社は、普通株式とA種優先株式のように種類ごとに分けて書きます。1種類しか発行していない会社なら「普通株式」と書いておけば十分です。
取得した日は、いちばん間違いが多い欄です。設立時から持っている株主の場合は、会社の成立日を書きます。会社の成立日は設立登記を申請した日で、登記事項証明書の「会社成立の年月日」の欄に書いてあります。名簿を作った日ではありません。あとから譲渡で取得した株主なら、その譲渡の効力が生じた日になります。
株券番号は、手順1で確かめたとおり、株券不発行会社なら空欄です。備考欄に「株券不発行」と書いておくと、あとで見た人が迷いません。
手順3 表の列を決める
表計算ソフトを開いて、列を並べます。おすすめの並びは次のとおりです。
| 番号 | 株主の氏名または名称 | 住所 | 株式の種類 | 株式数 | 取得日 | 取得事由 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 前田商事株式会社 | 東京都港区○○1丁目2番3号 | 普通株式 | 200株 | 令和5年6月1日 | 設立時出資 | 株券不発行 |
| 2 | 山田太郎 | 神奈川県藤沢市○○4丁目5番6号 | 普通株式 | 50株 | 令和7年3月15日 | 譲渡(第1号株主より) | 株券不発行 |
法定の4項目に加えて、取得事由の列を1つだけ足すのを強く勧めます。設立時出資なのか、増資による引受けなのか、誰から譲り受けたのか、相続なのか。この一言があるかないかで、数年後に名簿を読む人の理解速度がまったく変わります。法律上は不要な列ですが、実務上の価値がいちばん高い列です。
逆に、足さないほうがいい列もあります。持株比率です。比率は株式数から計算できるので二重管理になりますし、誰かの株数が変わったときに直し忘れると、名簿の中で矛盾が起きます。比率が必要になったら、そのときに別表で計算してください。
表の下には、発行済株式の総数と株主の合計人数を書いておきます。
表紙にあたる部分には、会社の商号と「令和8年9月18日現在」のような基準となる日付を入れます。株主名簿は時点の書類なので、いつ時点のものかが分からない名簿は使えません。
手順4 数字を登記簿と突き合わせる
表ができたら、必ずやる検算があります。名簿に書いた株式数の合計と、登記事項証明書に載っている発行済株式の総数が一致するかどうかです。
一致しない場合、どこかに記録の漏れがあります。よくある原因は3つです。
1つ目が、増資をしたのに名簿を更新していないこと。募集株式の発行をすると発行済株式総数が増えるので、登記簿のほうだけが増えた状態になります。
2つ目が、株式の分割や併合をしたのに反映していないこと。1株を10株に分割したなら、全株主の株数を10倍にする必要があります。
3つ目が、自己株式です。会社が自社の株を買い取ると、その株式は会社が持つことになります。発行済株式総数は減らないので、名簿には自己株式として1行を立てるのが通例です。
一致しないまま進めないでください。数字が合わない名簿は、提出した先で必ず指摘されます。原因が分からないときは、登記事項証明書の履歴事項全部証明書を取って、発行済株式総数がいつ変わったかを遡ると手がかりが出てきます。履歴事項全部証明書には過去の変更が線で消された形で残っているので、いつ何があったかが読み取れます。
手順5 保管の形を決める
完成した名簿は、会社法第125条第1項により本店に備え置くことになります。株主名簿管理人を置いている場合はその営業所ですが、中小企業で置いているところはまずありません。
紙で持つか、データで持つかは自由です。会社法第121条は「記載し、又は記録しなければならない」という書き方で、電磁的記録を認めています。第125条第2項も、書面で作成しているときは書面の閲覧または謄写、電磁的記録で作成しているときはその内容を表示したものの閲覧または謄写、と両方を想定しています。
現実的なのは、表計算ソフトのファイルを正本として持ち、印刷した紙を1部だけ本店のファイルに綴じておくやり方です。データだけだと、パソコンが壊れたときやアカウントが使えなくなったときに何も残りません。紙だけだと更新が面倒になって止まります。
ファイル名には日付を入れてください。「株主名簿_20260918.xlsx」のように、更新するたびに新しいファイルとして保存し、古い版も消さずに残します。株主構成は履歴そのものに意味があるので、上書き保存を繰り返すと、いつ誰から誰に何株移ったのかが追えなくなります。株式をめぐる話は、何年も経ってから持ち上がるのが普通です。
保管場所も決めておきます。株主名簿には全株主の住所が載っているので、個人情報の塊です。クラウドに置くなら閲覧できる人を役員と担当者に絞り、誰がアクセスしたかが分かる設定にしておいてください。
押印については、株主名簿そのものには法律上の要求がありません。代表取締役の記名押印が必要なのは、会社法第122条第2項に基づいて株主に交付する株主名簿記載事項証明書のほうです。ただし、対外的に提出する場面を考えると、作成日と会社名、代表者名を入れて会社印を押しておくほうが受け取る側の心証は良くなります。
一人会社でつまずきやすい点
株主が自分だけの会社に特有の落とし穴を、3つ挙げておきます。
1つ目が、会社の口座と個人の財布の区別です。株主名簿は「会社の株を誰が持っているか」を書く書類であって、「会社にいくら貸しているか」を書く書類ではありません。設立後に個人のお金を会社に入れた分は、資本金ではなく役員借入金です。これを出資と混同して株数を増やして書いてしまうと、登記簿の発行済株式総数と合わなくなります。株数が増えるのは、正式に募集株式の発行をして増資の登記をしたときだけです。
2つ目が、配偶者や親の名前を借りている場合です。設立のときに発起人が7人必要だった時代の名残や、出資額を分散させたいという理由で、実際には自分が出したお金なのに他人の名義にしている株式があることがあります。いわゆる名義株です。これは税務上も法務上もやっかいな論点を抱えていて、誰が本当の株主かをめぐって争いになりやすい。名簿を作る段階で心当たりがあるなら、そのまま書いてしまう前に税理士に相談してください。一般には実質的な出資者が株主と扱われる方向で整理されますが、事情や金額によって結論が変わるので、断定できる話ではありません。
3つ目が、「自分しかいないから議事録もいらない」と考えてしまうことです。株主が1人でも、株主総会は成立します。会社法第319条第1項の決議の省略を使えば集まる必要はありませんが、同意の書面と、決議があったものとみなされた旨の議事録は作ります。そしてその書面は、みなされた日から10年間、本店に備え置くことになっています。株主名簿と議事録はセットで残すものだと考えてください。
更新するタイミングと、そのときの手続き
作った名簿は、次の場面で必ず更新します。
株式を譲渡したとき。ここは手続きの順番が決まっています。中小企業の株式はほぼすべて譲渡制限株式なので、まず株主総会か取締役会で譲渡を承認します。会社法第134条により、承認を受けていない譲渡制限株式については、取得者が単独で名義書換を請求することはできません。承認のあと、会社法第133条第2項に従って、名簿上の株主と取得者が共同で名義書換を請求します。会社がその請求を受けて名簿を書き換える、という流れです。
なぜこの順番が大事かというと、会社法第130条第1項が、株式の譲渡は取得者の氏名と住所を株主名簿に記載しなければ会社その他の第三者に対抗できないと定めているからです。代金を払っていても、名簿が書き換わるまで会社から見れば株主ではありません。配当も議決権も前の持ち主のままです。
増資をしたとき。新しく引き受けた人を行として追加します。既存株主の株数は変わりません。増資は資本金の額の変更登記を伴うので、登記が終わったタイミングで名簿も直す、と決めておくと漏れません。
相続が起きたとき。相続は一般承継なので、会社の承認がなくても株式は相続人に移ります。ただし遺産分割が終わるまでは相続人全員の共有になり、会社法第126条第3項により、通知や催告を受ける代表者を1人決めて会社に知らせてもらう必要があります。分割が確定したら、確定した内容で名簿を書き換えます。
株主の住所が変わったとき、氏名が変わったとき。地味ですが、ここが実は効きます。会社法第126条第1項は、会社が株主にする通知は株主名簿に記載した住所に宛てて発すれば足りるとしていて、第2項で、その通知は通常到達すべきであった時に到達したものとみなされます。つまり古い住所のままだと、届かなくても手続きは進みます。不利益を受けるのは株主のほうです。
更新のルールとしては、取引が起きたその都度が理想です。それが難しい会社は、定時株主総会の準備をする時期に必ず見直す、と年1回のリズムを決めておいてください。招集通知は名簿の住所に送るので、その作業と一体になります。
過去の記録が残っていない会社が、名簿を復元する方法
設立から何年も経っていて、当時の書類がどこにあるか分からないという会社もあります。手順1から順に進めようとしても、手元に何もない状態です。この場合は、外から取れる資料を積み上げて復元していきます。
最初に取るのが、履歴事項全部証明書です。通常の登記事項証明書が現在の状態だけを示すのに対して、履歴事項全部証明書には過去の変更が線で消された形で残っています。ここから、資本金の額と発行済株式総数がいつ、いくらからいくらに変わったかを時系列で拾えます。株式が増えた時点が分かれば、そのときに増資があったことが確定します。
次が、法務局に保管されている登記の申請書類です。登記簿の附属書類として、申請書とその添付書面が一定期間保存されています。閲覧できる範囲や条件は登記所の扱いによるので、管轄の法務局に事情を伝えて確認してください。ここに募集株式の発行の議事録や、株主リストが残っていれば、当時の株主構成が分かります。
3つ目が、株主リストです。法務省の「株主リスト」が登記の添付書面となりましたのページにあるとおり、平成28年10月1日以降に株主総会の決議を要する登記をしている会社なら、そのときに株主リストを提出しているはずです。手元の控えか、司法書士に依頼していたならその事務所に残っています。議決権上位10名までの情報ですが、株主が数人の会社なら全員が載っています。
4つ目が、法人税の申告書です。申告書には同族会社の判定に関する明細書が付いていて、そこに株主の氏名、住所、持株数が記載されています。顧問税理士が過去の申告書を保管しているはずなので、遡って確認できます。実務では、これがいちばん早く全体像をつかめる資料になることが多いです。
5つ目が、資本金を払い込んだときの通帳です。誰がいくら振り込んだかが残っていれば、出資の実態を裏付ける資料になります。
これらを突き合わせて復元した名簿には、「令和8年9月18日現在」の時点表示に加えて、どの資料に基づいて作成したかを備考として残しておいてください。将来この名簿を見た人が、根拠を追えるようになります。復元の過程で株主が誰なのか判然としない株式が出てきた場合は、そのまま書かずに税理士か弁護士に相談してください。名義株や相続未処理の株式が混じっていることがあります。
株主名簿を作ると税金は変わるのか
「名簿を作ったら税金が増えるのでは」と心配する人がいますが、株主名簿を作ること自体で税金が変わることはありません。提出先のない社内の台帳であって、課税の根拠になる書類ではないからです。印紙も貼りません。
ただし、株主名簿の内容が税務の場面で使われることはあります。
1つは、配当を出すときです。株主に配当を支払うと源泉徴収が発生するので、誰にいくら払ったかの計算根拠として名簿が使われます。
もう1つは、株式そのものが動いたときです。株式を贈与したり相続したりすれば贈与税や相続税の対象になりますし、時価と大きく離れた価格で譲渡すれば、差額について課税される場面が出てきます。非上場株式の評価は算定方法が複数あって、会社の規模や株主の立場で使う方法が変わります。このあたりは一般論としてこう扱われるという説明ができるだけで、実際にどうなるかは金額と事情で変わります。株式を動かす予定があるなら、動かす前に税理士に確認してください。名簿を書き換えてから相談すると、選べたはずの選択肢がなくなっていることがあります。
名義株の整理も同じです。名義を実態に合わせて直す行為が贈与とみなされる可能性があるかどうかは、これまでの経緯と資料の残り方で判断が分かれます。自己判断で名簿だけ書き換えるのは避けてください。
外注する場合の費用
自分で作れば費用は0円です。かかるのは登記事項証明書の600円と、30分の時間だけです。
専門家に頼む場合、株主名簿の作成だけを単体で受けてくれるところは多くありません。多くは別の手続きの一部として作ることになります。株式譲渡の一式、つまり譲渡承認の議事録、譲渡契約書、名義書換請求書、株主名簿の更新までをまとめて司法書士に依頼すると、5万円から15万円程度が目安です。顧問税理士がいる会社なら、決算のタイミングで作成を手伝ってもらえることもあります。
作成を依頼するときに確認しておきたいのが、成果物の形です。印刷した紙だけを渡されると、次に株主が変わったときに自分で直せません。編集できるファイルの形で受け取り、どの列が法定の項目でどの列が任意の項目かを説明してもらってください。そこまで押さえておけば、2回目以降は自社で更新できます。継続的な顧問契約の対象にする必要はありません。
判断の基準を置くとすれば、株式が動いていない会社は自分で作る、株式が動く会社は専門家を入れる、です。設立から一度も増資も譲渡もしていない会社の名簿は、事実上1行か2行の表なので外注する意味がありません。反対に、外部の出資者が入っている、種類株式がある、過去の経緯が追えない、といった状態なら、最初の1回だけでも整理してもらう価値があります。
株主や債権者から見せてほしいと言われたとき
本店に置いた名簿は、しまい込んでおけばいいというものではありません。会社法第125条第2項は、株主と債権者は会社の営業時間内であればいつでも、名簿の閲覧や写しの交付を請求できると定めています。請求する側は理由を明らかにしなければなりませんが、逆に言えば理由さえ示せば請求できるということです。債権者も対象に入っている点は見落とされがちで、取引先や金融機関が請求してくる可能性もあります。
会社の側が断れるのは、次の4つの場合だけです。
一 当該請求を行う株主又は債権者(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。 二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。 三 請求者が株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求を行ったとき。 四 請求者が、過去二年以内において、株主名簿の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。 出典: laws.e-gov.go.jp
並んでいるのは、権利の行使とは関係のない目的、業務の妨害、名簿の情報を売る目的、そして過去に実際に売ったことがある、という4つです。「見せたくない」「面倒だ」は理由になりません。請求が来たときに名簿が存在しないという状態がいちばん困るので、ここでも先に作っておく意味があります。
実務では、請求を受けたら日付、請求者、示された理由、見せた範囲を記録に残しておいてください。断る場合も、どの号に当たると判断したかを書いて残します。判断に迷う請求が来たときは、その場で答えずに弁護士に確認してから回答するほうが安全です。
株主から証明書を求めてこられたとき
株主が銀行や税務の手続きで「自分がこの会社の株主であること」を示す書類を必要とする場面があります。そのときに出すのが、株主名簿記載事項証明書です。会社法第122条第1項は、株主は自分についての記載事項を書いた書面の交付を会社に請求できると定めています。同条第2項で、その書面には代表取締役が署名するか記名押印しなければならないとされています。名簿そのものには押印の決まりがないのに、この証明書には決まりがあるのはこのためです。
同条第4項に、この規定は株券発行会社には適用しないとあります。株券を発行している会社では、株主であることは株券そのもので示すからです。
書く内容は、その株主の分だけを抜き出したものになります。会社の商号、証明する時点の日付、株主の氏名と住所、株式の種類と数、取得した日。これを1枚にまとめて、代表取締役名で押印します。他の株主の情報は載せません。名簿を丸ごと写して渡すと、全員の住所を第三者に渡すことになってしまいます。
合同会社にはこの書類がない
会社を作るときに株式会社と合同会社で迷った人のために、この書類がどう変わるかを書いておきます。
合同会社には株主がいません。出資した人は社員と呼ばれ、株式ではなく持分を持ちます。ですから株主名簿という書類そのものが存在しません。会社法第121条は株式会社についての規定なので、合同会社には適用されません。
その代わり、合同会社では社員の氏名と住所、出資の目的と価額が定款の記載事項になっています。誰がいくら出したかは定款を見れば分かる形です。社員が入れ替わったときは定款を変更することになり、しかも業務執行社員や代表社員が変わる場合は登記も必要です。株式会社が名簿を書き換えるだけで済む場面で、合同会社は定款の変更という一段重い手続きを踏むことになります。
出資者が自分ひとりで当面増える予定がないなら、この違いが問題になることはほとんどありません。外部から出資を受ける予定がある、将来誰かに持分を譲る可能性がある、という会社では、株式会社のほうが持ち分の動かし方は軽くなります。
勘違いしやすい5つ
最後に、作業中に出やすい思い違いをまとめておきます。
1つ目は、どこかに提出する書類だと思ってしまうこと。株主名簿に提出先はありません。法務局にも税務署にも出しません。本店に置いておくための書類です。登記の添付書面になるのは株主名簿ではなく株主リストのほうで、これは別の書式です。
2つ目は、取得した日に名簿を作った日を書いてしまうこと。設立時から持っている株主なら、会社の成立日です。登記事項証明書の会社成立の年月日を見て、そのまま写してください。
3つ目は、株数のかわりに出資額を書いてしまうこと。資本金100万円を1株1万円で100株発行したなら、名簿に書くのは100株です。100万円ではありません。1株の金額は会社ごとに違うので、金額から株数は推測できません。
4つ目は、持株比率を書いておけば十分だと思ってしまうこと。会社法が求めているのは株式の数です。比率だけの表は、法律が求める記載を満たしていません。
5つ目は、代表者が変わったら名簿も直すと思ってしまうこと。名簿に書くのは株主であって役員ではありません。代表取締役が交代しても、株主が変わっていなければ名簿は1文字も変わりません。逆に、株主が変わったのに役員が同じだから何もしなくていい、と考えるのも誤りです。この2つは別の話として切り分けてください。
運営者の視点から見た、書類を自分で作るということ
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、独立して会社を作った人が最初に直面するのは、売上の作り方ではなく、こうした事務の壁です。やり方が分かれば30分で終わるのに、調べるところで半日が溶ける。株主名簿の作り方が検索され続けているのは、その構造が変わっていないからです。
同時に、この壁を越えられる人の価値も上がっています。制度や条文を読んで、手順の形に落とし込んで、他の人が同じことをできるようにする。この仕事は士業の独占業務ではなく、正確に書ける人であれば担えます。士業事務所や会計事務所は実務を抱えたまま、顧客向けの説明資料やマニュアルづくりに手が回っていないことが多く、そこに継続的な需要があります。制度を扱う文章の書き手がどの水準で取引されているかは、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種別のデータとして見られます。
定型の書類を正確に組み立てる力そのものを鍛えたい人には、ビジネス文書検定の出題範囲が実務に近い形で整理されています。株主名簿のような書式のある文書を扱う場面で、そのまま使える内容です。
運営者として見てきた限りでは、長く仕事が続く人ほど、この手の記録を自分の手元に残しています。誰かに管理してもらうのではなく、自分で作って自分で持っている。手間はかかりますが、そのぶん条件の交渉も自分の側で握れます。中間に人が入らない直接の取引が効いてくるのも同じ理屈で、間で抜かれる分がなければ、依頼する側は同じ予算でより多くを頼めますし、受ける側の手取りは厚くなる。手数料0%という条件の価値は、金額よりもこの「自分で持てる」という質のほうにあります。
株主名簿の作り方は、突き詰めれば表を1つ作って本店に置くだけです。株主が自分ひとりでも作る。それだけ決めてしまえば、今日の午後には終わります。
よくある質問
Q. 株主名簿はいつまでに作らなければなりませんか?
会社法第121条に期限の定めはありませんが、株式会社は成立した時点で株主が存在するため、設立後すぐに作るのが本来の形です。設立から時間が経っている会社でも、気づいた時点で作れば問題ありません。作成日と「いつ時点の株主構成か」を明記し、本店に備え置いてください。
Q. 株主名簿に押印や署名は必要ですか?
法律上の要求はありません。代表取締役の署名または記名押印が必要とされているのは、会社法第122条第2項に基づいて株主に交付する株主名簿記載事項証明書のほうです。ただし金融機関や取引先に提出する場面を考えると、作成日と会社名、代表者名を記載して会社印を押しておくほうが実務では扱いやすくなります。
Q. 株主名簿の株式数が登記簿の発行済株式総数と合いません。どうすればよいですか?
増資、株式の分割や併合、自己株式の取得のいずれかが名簿に反映されていない可能性が高いです。履歴事項全部証明書を取ると、発行済株式総数がいつ変わったかを過去に遡って確認できます。原因が特定できない場合は、そのまま提出せず司法書士か税理士に経緯を整理してもらってください。
Q. 株主名簿を作ると税金の負担は増えますか?
株主名簿を作ること自体で税金が変わることはありません。提出先のない社内の台帳であり、印紙も不要です。ただし配当の源泉徴収や、株式の贈与、相続、譲渡があった場合の課税判断では名簿の内容が使われます。株式を動かす予定があるなら、動かす前に税理士に確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
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