副業を始めるときに入る保険の種類と、労災や賠償の備え方

長谷川 奈津
長谷川 奈津
副業を始めるときに入る保険の種類と、労災や賠償の備え方

この記事のポイント

  • ✓副業を始めるときに入る保険を
  • ✓働き方ごとに整理します
  • ✓アルバイトの副業で使える労災保険と通勤災害

副業を始めるとき、「何か保険に入っておくべきなのか」「本業の会社の保険でカバーされるのか」と迷う人は多いものです。結論から言うと、副業で入る保険は、副業の働き方が「雇われて働く形」か「業務委託やフリーランスとして請け負う形」かで、まったく変わります。雇われて働く副業なら、副業先の労災保険が自動的に使えます。一方、業務委託の副業は、何もしなければ労災保険の対象外で、仕事の事故で相手に損害を与えたときの賠償も自分で背負うことになります。

これ、知らない人が本当に多いのですが、2024年11月からは、企業から業務委託を受けるフリーランスなら、業種を問わず労災保険に任意で加入できるようになりました。この記事では、副業の働き方ごとに、入る保険・入れる保険・自分で備える保険を整理します。読み終えたときに、自分の副業でどの保険を確かめ、何に入ればよいかが分かる状態を目指します。

副業の保険は、働き方で決まる

最初に、全体の地図を示しておきます。副業に関わる保険は、国が運営する公的な保険と、保険会社などが扱う民間の保険に分かれます。公的な保険は、雇われて働いているかどうかで、加入の扱いが大きく変わります。

保険の種類 副業がアルバイトなど雇用の形 副業が業務委託・フリーランス
労災保険 副業先で自動的に対象になる 原則対象外。特別加入で任意に入れる
雇用保険 原則として主な勤め先1社だけで加入 対象外
健康保険・厚生年金 副業先でも条件を満たせば加入 副業の分では加入しない
賠償責任保険(民間) 多くは副業先の会社が対応 自分で入るかを検討する
所得補償の保険(民間) 必要に応じて検討 必要に応じて検討

ここで大事なのは、「副業」という言葉だけでは、どの保険が使えるかは決まらないという点です。同じ「週末にデザインの仕事をする」でも、デザイン会社にアルバイトとして雇われているのか、企業から業務委託で受けているのかで、使える保険がまったく違います。保険を考える前に、まず副業の契約が雇用なのか業務委託なのかを確かめましょう。契約書の題名だけでなく、時間や場所を細かく指示されるか、仕事を断る自由があるかといった実態も、判断の材料になります。

雇われて働く副業なら、副業先の労災保険が使える

副業がアルバイトやパートなど、雇われて働く形の場合、副業先で労災保険の対象になります。労災保険とは、仕事中や通勤中のけがや病気に対して、治療費や休んだ間の収入の一部などを補償する国の保険のことです。

労災保険は、会社が人を1人でも雇えば加入しなければならない保険で、保険料は全額を会社が負担します。働く人が自分で加入の手続きをする必要はありません。厚生労働省の副業・兼業のガイドラインも、事業主は、労働者が副業・兼業をしているかにかかわらず、労働者を1人でも雇用していれば労災保険の加入手続を行う必要があると書いています。

副業をする人にとって大事なのが、2020年9月の制度の見直しです。以前は、副業先でけがをして休んだ場合、休業の補償の額は、けがをした副業先の賃金だけで計算されていました。本業の給与のほうがずっと多くても、補償は副業先の少ない賃金をもとに計算されていたのです。見直しのあとは、すべての勤め先の賃金を合算して補償の額を計算するようになりました。

非災害発生事業場の賃金額も合算して労災保険給付を算定することとしたほか、複数就業者の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行うこととした。 出典: 厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン

つまり、本業と副業の両方で雇われている人が副業先でけがをした場合、休業の補償は本業と副業の賃金を合わせた額をもとに計算されます。また、どちらか1社だけの仕事の負荷では労災と認められない場合でも、2社の仕事の負荷を合わせて判断してもらえるようになりました。長時間労働による病気などで、この見直しの意味が大きくなります。

本業から副業先への移動中の事故も、通勤災害になる

雇われて働く副業で、もう1つ知っておきたいのが、勤め先の間の移動です。たとえば、平日の夕方に本業の会社を出て、そのまま副業のアルバイト先に向かう途中で事故にあった場合、これは労災保険の通勤災害として補償の対象になります。

厚生労働省の副業・兼業のガイドラインでは、自社と副業・兼業先の両方で雇われている場合、一方の勤め先から他方の勤め先への移動中に起きた災害は、通勤災害として労災保険の給付の対象になると説明されています。このとき、補償は移動の行き先、つまり到着する側の勤め先の労災保険で扱われます。上の例なら、副業先の労災保険で手続きをすることになります。

通勤災害として認められるには、通常の経路を通っていることが前提になります。移動の途中で寄り道をして、私的な用事で経路を外れると、その間の事故は対象外になることがあります。本業から副業先へ向かうときは、なるべく決まった経路を使うようにしておくと安心です。

ここでの注意点は、この扱いは「両方で雇われている場合」の話だということです。本業の会社から、業務委託の副業の打ち合わせ先に向かう途中の事故は、副業の側に労災保険がないため、勤め先の間の移動としては扱われません。業務委託の副業をしている人は、次に説明する特別加入を検討する必要があります。

保険の前に、勤務先の規則と労働時間を確かめる

保険の話に入る前に、会社員が副業を始めるときに確かめておきたいのが、勤務先の規則です。厚生労働省が公開しているモデル就業規則では、副業・兼業の規定は第70条にあり、勤務時間外に他の会社の業務に従事できるとしたうえで、労務の提供に支障がある場合、会社の秘密が漏れる場合、会社の名誉や信用を損なう場合、競業によって会社の利益を害する場合には、会社が禁止や制限をできるとしています。実際の規則は会社ごとに違うので、届け出が必要かどうかも含めて、自分の勤務先の就業規則を確かめましょう。

雇われて働く副業の場合は、もう1つ、労働時間の通算という考え方があります。労働時間の通算とは、本業と副業の両方で雇われている場合に、2つの勤め先の労働時間を合わせて、法律の上限や割増賃金の計算を考えることです。厚生労働省の副業・兼業のガイドラインは、この通算の考え方や、どちらの会社が割増賃金を払うかの順番を示しています。働きすぎは、それ自体が健康を損なう原因になり、労災の問題にもつながります。

業務委託の副業は、労働時間の通算の対象にはなりません。その代わり、働く時間の管理はすべて自分の責任になります。本業の後に深夜まで副業を続ける生活は、体調を崩す原因になり、結果として本業にも副業にも影響が出ます。保険で備えることと同じくらい、無理のない働き方を続けることが、いちばんの事故の予防になります。

副業の内容が勤務先の仕事と近い場合は、特に注意が必要です。本業と同じ業界の会社から業務委託を受けると、競業や秘密の漏えいを疑われることがあります。副業を始める前に勤務先に相談しておくと、後のトラブルを防げます。

副業先でけがをしたときの、労災保険の請求の流れ

雇われて働く副業で、実際にけがをしたときの流れも確かめておきましょう。いざというときに慌てないよう、大まかな順番を知っておくだけでも違います。

  1. けがをしたら、まず副業先の責任者に報告する
  2. 病院を受診するときに、仕事中のけがであることを伝える
  3. 労災保険の請求書を、副業先の証明を受けて労働基準監督署に出す
  4. 休業した場合は、休業の補償の請求書も出す
  5. 労働基準監督署が調べたうえで、給付が決まる

2で大切なのは、仕事中のけがを健康保険で受診しないことです。先に触れたとおり、健康保険は労災保険の業務災害以外の病気やけがを対象にしているので、仕事中のけがを健康保険で受診すると、後から切り替えの手続きが必要になります。受付で「仕事中のけがです」とはっきり伝えましょう。

本業と副業の両方で雇われている人の場合、休業の補償を計算するときに、副業先だけでなく本業の賃金も合算されます。そのため、請求の手続きでは、本業の会社の賃金についても書類を出すことになります。本業の会社に副業をしていることを伝えていない人は、この場面で伝える必要が出てくることがあります。副業を始めるときに、勤務先の規則に沿って届け出ておくと、こうした場面で慌てずに済みます。

労災保険の請求には期限があります。休業の補償などは、一定の期間を過ぎると請求できなくなるので、けがをしたら早めに手続きを始めてください。手続きで分からないことは、副業先の担当者か、労働基準監督署に相談しましょう。

業務委託の副業は、労災保険の特別加入を検討する

副業が業務委託やフリーランスの形の場合、その仕事は労災保険の対象外です。労災保険は、雇われて働く人を守るための保険で、自分で仕事を請け負う人は、原則として対象に入らないからです。

ただし、労災保険には、雇われていない人でも一定の条件を満たせば任意で加入できる「特別加入」という制度があります。これまでは、建設業の一人親方や、ITフリーランス、自転車での配達員など、一部の業種や職種に限られていました。それが、2024年11月1日から大きく広がりました。

これまで、一部のフリーランスの方々(一部の業種・職種)については特別加入することができましたが、令和6年11月1日から、企業等から業務委託を受けているフリーランスの方(特定フリーランス事業)について業種・職種を問わず特別加入することができるようになりました。 出典: 厚生労働省 令和6年11月1日から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となりました

対象になるのは、企業などから業務委託を受けて仕事をしているフリーランスです。翻訳、講師、デザイン、プログラムの作成、調査やコンサルティング、営業の代行などが例として挙げられています。企業から業務委託を受けて仕事をしている人が、同じ種類の仕事を消費者から頼まれて行う場合も、補償の対象に含まれます。

一方、対象にならないのは、消費者だけから仕事を受けている人です。たとえば、個人のお客様だけを相手に家庭教師をしている場合や、自分で作った作品をネットで売っている場合は、この特定フリーランス事業の特別加入の対象にはなりません。

項目 特定フリーランス事業の特別加入
対象 企業などから業務委託を受けて仕事をするフリーランス(業種・職種は問わない)
対象外 消費者だけから仕事を受けている人
加入の窓口 特定フリーランス事業の特別加入団体を通じて申し込む
補償の中身 仕事中・通勤中のけがや病気、障害、死亡などへの給付
保険料率 給付基礎日額をもとに計算(料率は1,000分の3)

加入は、労働基準監督署に直接ではなく、特別加入団体を通じて申し込みます。特別加入団体とは、特別加入の手続きを代わりに行う団体のことで、厚生労働省のページに一覧が掲載されています。団体によっては会費などがかかるので、申し込む前に確かめましょう。

特別加入の保険料と、補償の中身

特別加入の保険料は、給付基礎日額という額をもとに計算します。給付基礎日額とは、休んだときの補償の額などを決める基準になる「1日あたりの収入の額」のことで、加入するときに自分で選びます。厚生労働省の資料では、3,500円から25,000円までの16段階から選ぶとされています。

特定フリーランス事業の保険料率は1,000分の3です。厚生労働省の資料には、給付基礎日額10,000円を選んだ場合の年間保険料の例として、10,000円×365日×1,000分の3で10,950円という計算が示されています。

補償の中身は、雇われて働く人の労災保険とほぼ同じです。仕事中や通勤中のけがや病気の治療費のほか、休業した場合は、休業4日目以降、休業1日につき給付基礎日額の60%などが支給されます。治ったあとに障害が残った場合や、亡くなった場合の遺族への給付もあります。

給付基礎日額を高く選ぶほど、保険料は上がりますが、休んだときの補償も厚くなります。自分の副業の収入に見合った額を選ぶのが基本ですが、副業の収入が本業より少ない人は、副業を休んだときにどれだけ困るかを考えて決めましょう。

注意したいのは、特別加入をしていても、補償されるのは特別加入した仕事の範囲だけという点です。申し込むときに届け出た仕事の内容と、実際に事故が起きたときの仕事が違うと、補償の対象外になることがあります。仕事の内容が変わったときは、特別加入団体に相談してください。

また、厚生労働省のリーフレットには、業務委託という形式で契約していても、実態として労働者と認められる場合は、特別加入をしなくても労災保険が適用されると注意書きがあります。業務委託の契約でも、毎日決まった時間に決まった場所で、細かい指示を受けて働いているなら、一度その実態を見直してみる価値があります。

特別加入を申し込むまでの流れと、迷いやすい点

特定フリーランス事業の特別加入を申し込むまでの流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 自分の副業が、企業などから業務委託を受けている仕事かを確かめる
  2. 厚生労働省のページで、特定フリーランス事業の特別加入団体の一覧を見る
  3. 団体ごとの会費や手続きの方法、対象にしている地域を比べて、申し込む団体を決める
  4. 団体に加入を申し込み、仕事の内容と給付基礎日額を届け出る
  5. 団体を通じて労働基準監督署の承認を受け、保険料を納める

迷いやすいのが、1つ目の確認です。たとえば、企業からの依頼でウェブサイトを作りながら、個人のお客様からも同じ種類の依頼を受けている人は、企業からの業務委託があるので対象になり、個人のお客様からの仕事のけがも補償の対象に含まれます。一方、個人のお客様からの依頼だけで仕事をしている人は、対象になりません。

もう1つ迷いやすいのが、会社員として本業がある人の副業の扱いです。特別加入は、本業の会社の労災保険とは別に、副業の業務委託の仕事について加入するものです。本業の仕事中のけがは本業の会社の労災保険で、副業の業務委託の仕事中のけがは特別加入で補償される、という分担になります。自分のケースで加入できるかどうかは、申し込む前に特別加入団体か労働基準監督署に確かめてください。

特別加入は任意の制度なので、入らなくても罰則はありません。ただ、在宅でパソコンに向かう仕事でも、取材や打ち合わせで外に出る、機材を運ぶといった場面で事故は起こりえます。年間の保険料と、けがで休んだときの収入の落ち込みを比べて、加入を判断しましょう。

社会保険と雇用保険は、副業でどう変わるか

労災保険のほかに、副業で気になるのが社会保険(健康保険と厚生年金)と雇用保険です。ここは簡単に整理しておきます。

社会保険は、副業がアルバイトなど雇われて働く形で、副業先でも加入の条件を満たす場合に、副業先でも加入します。パートやアルバイトの加入の条件は、週の所定労働時間が20時間以上、2か月を超えて雇用される見込みがある、学生でない、といったもので、会社ごとに判断します。以前あった月額8.8万円以上という賃金の条件は、2026年10月に撤廃されました。2社で加入する場合は、2社の給与を合算して保険料を決め、本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を10日以内に出します。副業が業務委託の場合は、副業の分で社会保険に入ることはありません。

雇用保険は、原則として主な勤め先1社だけで加入します。厚生労働省の副業・兼業のガイドラインでは、複数の会社に雇われている人が、それぞれで加入の条件を満たす場合、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてだけ被保険者になると説明されています。例外として、65歳以上の人は、2社の労働時間を合計して週20時間以上になる場合に、本人がハローワークに申し出て加入できる雇用保険マルチジョブホルダー制度があります。

健康保険について、副業をする人が知っておきたいのが、病気やけがで働けないときの備えです。会社の健康保険には傷病手当金があります。傷病手当金とは、仕事以外の理由の病気やけがで働けない間に健康保険から出るお金のことです。全国健康保険協会の案内では、連続する3日間の待期のあと、4日目以降の働けなかった日について支給され、支給期間は支給を始めた日から通算して1年6か月とされています。

一方、国民健康保険では、傷病手当金は法律上「行うことができる」給付とされていて、多くの市区町村では用意されていません。副業から独立して国民健康保険に切り替える予定の人は、働けなくなったときの収入の備えが会社員のときより薄くなることを、知っておきましょう。

仕事の事故に備える賠償責任保険

公的な保険が守ってくれるのは、主に自分自身のけがや病気です。一方、副業の仕事で相手に損害を与えてしまったときの賠償は、公的な保険では補償されません。ここを補うのが、民間の賠償責任保険です。

雇われて働く副業なら、仕事中の事故で相手に損害を与えた場合、一般に雇っている会社が対応します。一方、業務委託の副業では、自分が事業者として責任を負うことになります。副業の種類ごとに、起こりうる事故の例を挙げておきます。

副業の種類 起こりうる事故の例
プログラム開発・システム保守 不具合で取引先のシステムが止まり、損害が出た
デザイン・文章の作成 納品物が他人の著作権を侵害していると指摘された
データ入力・事務の代行 預かった個人情報が外部に漏れた
撮影・イベント 機材を倒して会場の設備や参加者にけがをさせた
家事代行・清掃 依頼主の家具や家電を壊した

こうした事故への備えとして、個人事業主やフリーランス向けの賠償責任保険があります。保険会社が直接販売しているもののほか、業界団体や事業者向けのサービスの会員向けに用意されている保険もあります。補償の範囲は保険ごとに大きく違い、情報漏えいや著作権の侵害が対象になるかどうか、預かった物の損害が対象になるかどうかなどで差があります。自分の副業で起こりやすい事故が補償の対象に入っているかを、契約の前に必ず確かめてください。

ここでよくある誤解が、自動車保険や火災保険に付いている「個人賠償責任保険」で仕事の事故もカバーできると考えることです。個人賠償責任保険は、日常生活の中での事故を対象にしたもので、仕事の中での事故は対象外とされていることが一般的です。副業の仕事で使えるかどうかは、契約している保険の約款で確かめましょう。

賠償の問題は、保険だけでなく契約でも備えられます。業務委託の契約書に、賠償の上限(たとえば受け取る報酬の額まで)を書いておくと、万一のときの負担を限定できます。発注書や契約書に入れておくべき項目は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストでまとめています。

収入が途絶えたときに備える保険

副業の保険として、もう1つ考えておきたいのが、病気やけがで働けなくなったときの収入の備えです。民間の保険には、所得補償保険や就業不能保険と呼ばれるものがあり、働けない期間に一定の額を受け取れる仕組みになっています。

会社員が本業を続けながら副業をしている段階では、本業の健康保険の傷病手当金があるため、すぐに民間の保険が必要になるとは限りません。必要性が高まるのは、副業の収入が家計の大きな部分を占めるようになったときや、副業から独立して会社の健康保険を離れるときです。

民間の保険を選ぶときは、次の点を確かめましょう。

  1. 支払いの対象になる「働けない状態」の定義(入院だけか、自宅での療養も含むか)
  2. 支払いが始まるまでの待ち期間
  3. 支払われる期間の長さ
  4. 精神的な病気が対象に含まれるか
  5. 保険料と、受け取れる額の釣り合い

保険と並んで考えておきたいのが、手元の蓄えです。副業の収入が不安定なうちは、毎月の副業の収入の一部を別の口座に分けておき、働けない期間や仕事が途切れた時期の生活費にあてられるようにしておくと、保険に頼りすぎずに済みます。特に業務委託の副業は、取引先の都合で仕事が急に止まることもあります。病気やけがだけでなく、仕事そのものが途切れる場面も想定して、何か月分の生活費を蓄えておくかを決めておきましょう。蓄えがあれば、民間の保険は本当に足りない部分だけに絞れるので、保険料の負担も軽くなります。

保険は、入れば入るほど安心というものではありません。公的な保険で受けられる補償を先に確かめ、足りない部分だけを民間の保険で補うのが、保険料の無駄を抑える基本です。

なお、仕事のために入る保険の保険料は、一般に事業の経費として扱われることがありますが、生命保険や医療保険のように自分自身を対象にした保険の保険料は、経費ではなく生命保険料控除などの対象になるのが一般的です。扱いは保険の種類や契約の内容によって変わるので、確定申告のときに迷ったら税務署や税理士に確かめてください。

働き方別に見る、保険の備え方の例

ここまでの内容を、よくある副業の形に当てはめて整理しておきます。どれも一般的な例で、実際の扱いは契約の中身によって変わります。

1つ目は、会社員が週末に飲食店でアルバイトをする場合です。この副業は雇われて働く形なので、アルバイト先の労災保険の対象になります。本業の会社から直接アルバイト先に向かう途中の事故も、通勤災害の対象です。アルバイト先で週20時間以上働く場合は社会保険の加入も関わってきますが、週末だけの勤務なら多くの場合は条件に届きません。仕事中の事故で客や店の物に損害を与えた場合は、一般に店が対応するので、自分で賠償責任保険に入る必要性は高くありません。

2つ目は、会社員が企業から業務委託でウェブサイトの制作やプログラムの作成を受ける場合です。この副業は労災保険の対象外なので、特定フリーランス事業の特別加入を検討します。在宅の作業が中心でも、打ち合わせへの移動などの場面があるなら、加入の意味はあります。また、不具合で取引先に損害を与えたり、納品物の権利の問題を指摘されたりする可能性があるので、賠償責任保険と、契約書での賠償の上限の取り決めを検討しましょう。

3つ目は、個人のお客様だけを相手に、家庭教師や家事代行の仕事を請け負う場合です。この場合は、企業からの業務委託がないので、特定フリーランス事業の特別加入の対象にはなりません。けがへの備えは、本業がある人なら本業の健康保険、本業がない人なら民間の傷害保険などで考えることになります。お客様の家で物を壊すといった事故に備えて、賠償責任保険への加入を検討しておくと安心です。

このように、同じ「副業」でも、雇用か業務委託か、相手が企業か個人かで、備えるべき保険は変わります。自分の副業がどれに近いかを考えて、足りない部分から備えていきましょう。

副業を始める前の保険のチェックリスト

最後に、副業を始める前に確かめておきたいことを、チェックリストの形でまとめておきます。副業を始めたあとも、契約の形が変わったとき、取引先が増えたとき、働く時間が延びたときには、もう一度この表に戻って確かめ直してください。副業は始めた時点の形のまま続くとは限らず、保険の扱いもそのたびに変わります。

確かめること 雇用の副業 業務委託の副業
契約が雇用か業務委託か 雇用契約書・労働条件通知書を見る 業務委託契約書を見る。実態が雇用に近くないか
労災保険 副業先で対象になる 企業から受ける仕事なら特別加入を検討
勤め先の間の移動 通勤災害の対象 対象外。特別加入していれば通勤中も補償
社会保険 副業先で条件を満たすか。満たすなら10日以内に届出 副業の分では加入しない
雇用保険 原則は主な勤め先1社だけ 対象外
賠償の備え 副業先の会社の対応を確かめる 賠償責任保険と、契約での賠償の上限を検討
働けないときの収入 本業の傷病手当金を確かめる 独立を考えるなら民間の保険も検討

※ここで紹介した内容は一般的な扱いです。労災の認定や保険の補償の判断は、個別の事情で変わります。自分のケースで判断がつかないときは、労働基準監督署、年金事務所、保険会社の窓口などで相談してください。

副業の働き方を見てきた立場から

在宅ワークや業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、副業を始める人の多くは、仕事の内容や報酬には時間をかけて調べる一方で、保険やけがへの備えは後回しにしがちです。何も起きなければ気にならない部分ですが、事故が起きたときに初めて「業務委託だから労災が使えない」「個人賠償責任保険は仕事の事故には使えない」と知るケースは少なくありません。

業務委託で直接仕事を受ける働き方は、仲介の手数料が乗らない分、同じ予算でも受け手の手取りが厚くなるという良さがあります。手数料0%で発注者と直接やり取りできる形なら、契約の段階で作業の範囲や賠償の上限を話し合いやすく、自分を守る条件を整えやすくなります。その一方で、労災の特別加入や賠償責任保険など、会社員なら会社が用意してくれていた備えを、自分で選ぶ必要があります。報酬の一部を、こうした備えの費用と考えておくと、長く安心して働けます。

報酬の未払いのような取引のトラブルに備えたい人には、未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】で、支払督促の手続きや弁護士に依頼するときの費用の目安を紹介しています。また、業務委託で受けやすい副業の1つであるアプリやシステムの開発の仕事は、アプリケーション開発のお仕事で仕事の中身と求められるスキルを、ソフトウェア作成者の年収・単価相場で収入の水準を確かめられます。副業の働き方を選ぶときに、保険の備えとあわせて参考にしてください。

よくある質問

Q. 業務委託の副業で、仕事中にけがをしたら労災保険は使えますか?

業務委託やフリーランスの仕事は、原則として労災保険の対象外です。ただし、2024年11月1日から、企業などから業務委託を受けているフリーランスは、業種や職種を問わず労災保険に特別加入できるようになりました。加入は特別加入団体を通じて申し込みます。消費者だけから仕事を受けている人は、この特定フリーランス事業の特別加入の対象にはなりません。

Q. 本業の会社から副業のアルバイト先に向かう途中の事故は補償されますか?

本業と副業の両方で雇われている場合、一方の勤め先から他方の勤め先への移動中の事故は、労災保険の通勤災害として補償の対象になります。手続きは、移動の行き先にあたる副業先の労災保険で行います。ただし、通常の経路を外れて私的な用事をしている間の事故は対象外になることがあります。

Q. 労災保険の特別加入の保険料はいくらですか?

保険料は、加入時に3,500円から25,000円までの16段階から選ぶ給付基礎日額をもとに計算します。特定フリーランス事業の保険料率は1,000分の3で、厚生労働省の資料では給付基礎日額10,000円の場合の年間保険料が10,950円と示されています。このほか、特別加入団体によっては会費がかかることがあります。

Q. 個人賠償責任保険で副業の仕事の事故もカバーできますか?

個人賠償責任保険は日常生活の中での事故を対象にしたもので、仕事の中での事故は対象外とされていることが一般的です。業務委託の副業で相手に損害を与える可能性がある場合は、個人事業主やフリーランス向けの賠償責任保険を検討してください。補償の範囲は保険ごとに違うため、契約前に約款で確かめることが大切です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年9月25日最終更新:2026年10月5日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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