株主名簿記載事項証明書とは|求められる場面と出し方


この記事のポイント
- ✓株主名簿記載事項証明書とは何かを
- ✓会社法第122条の条文に当たって整理しました
- ✓代表取締役の押印が必要な理由
株主名簿記載事項証明書という長い名前の書類は、突き詰めると「この人はうちの会社の株主で、何株を、いつから持っています」と会社が証明する1枚の紙です。役所は発行しません。会社が自分で作って、請求した株主に渡します。必要になるのは、株式を誰かに譲るとき、株式を担保に融資を受けるとき、相続の手続きを進めるとき。いずれも、自分が株主であることを外部に示さなければならない場面です。この記事では、会社法第122条の条文に当たりながら、何が書かれている紙なのか、誰が請求できるのか、会社側はどう作るのかを順番に整理します。
役所では出してもらえない書類
最初に押さえておきたいのが、この証明書の出どころです。
会社に関する公的な証明書というと、法務局が出す登記事項証明書や印鑑証明書を思い浮かべます。しかし登記簿には株主の情報が載っていません。会社の商号、本店、資本金、発行可能株式総数、役員の氏名までは公開されていますが、誰が株主かは登記されていないのです。
理由は単純で、株主は入れ替わるからです。株式を売れば持ち主が変わり、相続が起きれば相続人に移る。そのたびに登記を出していたら制度が回りません。そこで会社法は、株主の管理は会社自身が株主名簿でやりなさい、という設計にしました。
その結果、株主であることを証明できるのは会社だけになります。法務局に行っても、税務署に行っても、「誰が株主か」を証明する書類は出てきません。株主名簿記載事項証明書が会社発行の書類である理由は、ここにあります。
だから、この証明書を必要としている人が最初にやるべきことは、役所を探すことではなく、会社に請求することです。自分が経営している会社なら、自分で作って自分に交付することになります。おかしな話に聞こえますが、法的にはそういう建て付けです。
根拠は会社法第122条
条文を直接見ておきます。
前条第一号の株主は、株式会社に対し、当該株主についての株主名簿に記載され、若しくは記録された株主名簿記載事項を記載した書面の交付又は当該株主名簿記載事項を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。 前項の書面には、株式会社の代表取締役(指名委員会等設置会社にあっては、代表執行役。次項において同じ。)が署名し、又は記名押印しなければならない。 前三項の規定は、株券発行会社については、適用しない。 出典: laws.e-gov.go.jp
短い条文ですが、この中に重要な要素が4つ入っています。
1つ目が、請求できるのは「前条第一号の株主」であること。前条とは会社法第121条で、その第1号は株主の氏名または名称および住所です。つまり、株主名簿に載っている株主本人が請求できます。
2つ目が、請求できる内容は「当該株主についての」株主名簿記載事項だということ。自分の分だけです。他の株主が何株持っているかを、この条文で調べることはできません。名簿全体を見たい場合は、別の条文である会社法第125条第2項の閲覧または謄写の請求になります。
3つ目が、代表取締役の署名または記名押印が必須だということ。ここが証明書としての効力の源です。押印のない紙は、名簿の写しであって証明書ではありません。
4つ目が、株券発行会社には適用されないということ。これは後の節で詳しく書きます。
何が書かれている紙なのか
証明する内容は、会社法第121条が定める株主名簿記載事項です。具体的には次の4つです。
1つ目が、株主の氏名または名称および住所。2つ目が、その株主が持っている株式の数。種類株式を発行している会社なら、種類と種類ごとの数になります。3つ目が、その株主が株式を取得した日。4つ目が、株券発行会社の場合の株券番号です。
ここで大事なのが、条文が「株主名簿に記載され、若しくは記録された」株主名簿記載事項と書いていることです。証明できるのは、名簿に書かれていることだけです。名簿に取得日を記録していない会社は、取得日の欄が空白の証明書を出すことになります。
これが、株主名簿の項目を最初から揃えておくべき理由です。株式を譲る話がまとまって、買い手から証明書を求められた段階で名簿に穴があると、そこから過去の記録を遡って調べる作業が始まります。交渉の途中で数日から数週間が止まることになります。
証明書には、この4項目に加えて、会社の商号、証明する日付、代表取締役の氏名、そして「上記のとおり株主名簿に記載されていることを証明します」といった証明文言が入ります。証明の基準となる日をいつにするかも忘れずに書いてください。株主名簿は時点の書類なので、いつ時点の記載を証明したのかが分からない証明書は使えません。
株券発行会社では出せない
会社法第122条第4項は、第1項から第3項までの規定は株券発行会社については適用しない、としています。
理由は分かりやすくて、株券がある会社では株券そのものが株主であることの証しになるからです。紙の株券を持っている人が株主なので、会社がわざわざ証明書を出す必要がありません。
いまの株式会社は、株券を発行しないのが原則です。2006年に施行された会社法で原則と例外が入れ替わったため、それ以降に設立された会社のほとんどは株券不発行会社です。自社がどちらなのかは、登記事項証明書に「株券を発行する旨の定め」の記載があるかどうかで判別できます。
この構造を裏返すと、株券不発行会社にとって株主名簿記載事項証明書がどれだけ重いかが見えてきます。株券がないので、自分が株主であることを外部に示す手段が他にありません。銀行に見せる、買い手に見せる、裁判所に出す。すべてこの1枚に依存します。
古い会社で、定款に株券を発行する旨の定めが残っているのに現物を1枚も刷っていない、という状態は実際にあります。非公開会社では株主から請求があるまで株券を発行しないでよいとされているため、定めだけが残るのです。この状態だと、株券もない、証明書も出せない、という宙ぶらりんになります。定款を変えて株券不発行会社に移行しておくと、以後の手続きが格段に楽になります。移行は登記事項の変更なので、株主総会の特別決議と変更登記が必要です。
どんな場面で求められるのか
実務でこの証明書が登場する場面を、頻度の高い順に並べます。
いちばん多いのが、株式の譲渡です。株券不発行会社で株式を買う側は、売り手が本当に株主なのかを確認する手段がありません。登記簿には載っていないからです。そこで、契約の前後に証明書の提出を求めます。売買代金が大きくなるほど、この確認は厳格になります。
次が、株式を担保に入れる場面です。金融機関が非上場株式を担保に取るときは、質権の設定と合わせて証明書を求めます。
3つ目が、相続の手続きです。被相続人が持っていた株式が遺産に含まれる場合、相続人は何株あったのかを確認する必要があります。相続税の申告でも、非上場株式の評価をするために株数と取得の経緯が要ります。相続人が会社に証明書の発行を求める形になりますが、相続人が株主名簿に記載される前の段階では、誰が請求できるのかで実務の扱いが分かれます。会社側は、戸籍などで相続関係を確認したうえで対応するのが一般的です。
4つ目が、補助金や助成金の申請です。中小企業向けの制度では、大企業に支配されていないことが要件になっていることがあり、株主構成を示す資料として求められます。
5つ目が、訴訟や株主としての権利行使の場面です。会社が株主総会の招集通知を送ってこない、名簿の閲覧を拒否された、といったときに、自分が株主であることを示す資料として使われます。
共通しているのは、いずれも「相手に信じてもらう必要がある場面」だということです。社内で株主構成を確認するだけなら名簿を見れば済みます。証明書が要るのは、外部に対して示すときだけです。
誰が請求でき、会社は断れるのか
請求できるのは、株主名簿に記載されている株主本人です。会社法第122条第1項が「前条第一号の株主は」と限定しています。
代理人による請求も可能ですが、会社側は委任状と本人確認の資料を求めるのが通例です。証明書には住所と株式数という重要な情報が載るので、なりすましによる取得を防ぐ必要があります。
会社は、この請求を原則として断れません。条文が株主の権利として定めているからです。正当な理由なく交付を拒むと、会社法第976条第4号の対象になり得ます。同号は、この法律の規定に違反して、正当な理由がないのに書類の閲覧や謄写、書面の交付を拒んだときを100万円以下の過料の対象としています。
ただし、請求者が本当にその株主なのか確認がとれない場合や、そもそも名簿に載っていない人からの請求である場合は、話が別です。名義書換をしていない譲受人は、会社法第130条第1項により会社に対して株主であることを対抗できないので、会社から見ればまだ株主ではありません。この場合、会社は請求に応じられません。株式を買った人が「自分は株主だ」と主張しても、名簿の書き換えが先です。
実務では、会社側に発行の窓口が決まっていないことが問題になります。株主が数人しかいない会社では、請求されたこと自体が初めてで、誰が作ればいいのか社内で決まっていない。そこで数日が溶けます。発行手順だけでも先に決めておくと、いざというときに動けます。
会社側の発行手順
会社が証明書を出す流れを、5つの段階に分けます。
第1段階が、請求の受付です。誰から、どの株式について、いつ時点の証明を求めているのかを確認します。書面で請求してもらうと記録が残るので、簡単な請求書のひな形を用意しておくと運用が楽になります。
第2段階が、本人確認です。個人なら本人確認書類、法人なら登記事項証明書と代表者の確認。代理人なら委任状です。
第3段階が、株主名簿との照合です。名簿を開いて、請求者の氏名、住所、株式数、取得日を確認します。ここで名簿と請求内容が食い違うことがあります。住所が古い、株数が違う、といった場合は、証明するのは名簿の記載なので、先に名簿を正しい状態にしてから発行します。
第4段階が、証明書の作成です。名簿の記載をそのまま転記し、証明文言と基準日、会社の商号、代表取締役の氏名を書きます。
第5段階が、署名または記名押印です。会社法第122条第2項が求めているので、ここを飛ばすと証明書になりません。代表取締役が自筆で署名するか、氏名を印字したうえで押印します。印章は法務局に届け出ている会社の実印を使うのが通例です。銀行や買い手に提出する場面では、印鑑証明書を添えるよう求められることもあります。
交付したら、控えを1部残してください。いつ誰に何を証明したかの記録が残っていないと、後から内容を争われたときに反論できません。
ひな形の形
証明書の書式は法律で決まっていません。必要な要素が入っていれば、表計算ソフトでもワープロでも構いません。実務でよく使われている形を示します。
上部に表題として「株主名簿記載事項証明書」と書きます。
次に、証明の対象となる株主の情報を表の形で並べます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 株主の氏名または名称 | 山田太郎 |
| 住所 | 東京都渋谷区○○1丁目2番3号 |
| 株式の種類 | 普通株式 |
| 株式数 | 50株 |
| 取得日 | 令和7年3月15日 |
| 備考 | 株券不発行 |
その下に証明文言を置きます。「上記のとおり、令和8年9月18日現在の当社株主名簿に記載されていることを証明します。」といった一文です。基準となる日を必ず入れてください。
最後に、証明日、会社の商号、本店所在地、代表取締役の氏名を書き、押印します。
書式を自作するのが不安な場合は、登記や会計のサービス会社がテンプレートを無料で配布しています。ただし、テンプレートに書かれている項目が自社の実態と合っているかは必ず確認してください。種類株式がある会社なのに1種類しか書けない書式を使うと、実態とずれた証明書になります。
用紙のサイズや書式の細かい決まりはありません。A4で1枚に収まる分量になるのが通常です。複数の種類株式を持っている株主の場合は、種類ごとに行を分けて、合計の株式数も書き添えておくと読み違いが起きません。
会社に社印と代表者印の2種類がある場合、どちらを押すかで迷うことがあります。証明書は会社が対外的に事実を証明する文書なので、法務局に届け出ている会社の実印、いわゆる代表者印を押すのが通例です。角印だけの証明書を金融機関に出して差し戻された例もあります。提出先が決まっているなら、先に押印の指定があるか確認しておくのが早道です。
電磁的記録での提供もできる
会社法第122条第1項は、書面の交付だけでなく「当該株主名簿記載事項を記録した電磁的記録の提供」も請求できるとしています。
この場合、第3項により、代表取締役は法務省令で定める署名または記名押印に代わる措置をとらなければなりません。実務的には電子署名を付けることになります。
現状、中小企業で電磁的記録による提供が使われる場面はほとんどありません。提出先である金融機関や買い手の側が、押印された紙を求めることが多いからです。ただし、契約手続き全体が電子化されている取引では、電子署名付きのファイルで完結するケースも出てきています。相手方がどちらを求めているかを先に確認してください。
質権者にも同じ請求権がある
株式を担保に取った人にも、似た請求権があります。
会社法第148条は、株式に質権を設定した者は、質権者の氏名または名称および住所と、質権の目的である株式を株主名簿に記載するよう請求できるとしています。この記載を受けた質権者を登録株式質権者といいます。
そして会社法第149条第1項は、登録株式質権者は、自分についての記載事項を記載した書面の交付または電磁的記録の提供を請求できるとしています。第2項で代表取締役の署名または記名押印が必要とされ、第4項で株券発行会社には適用されない点も、株主の場合と同じ構造です。
株式を担保に融資を受ける場面では、株主側の証明書と質権者側の書面の両方が動きます。名簿に質権者の欄を用意していない会社は、この段階で欄を作ることになります。株式担保の予定があるなら、名簿の設計に含めておいてください。
株主名簿・株主リストとの違い
名前の似た3つの書類を、用途で分けておきます。
| 書類 | 根拠 | 作る人 | 渡す先 | 内容の範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 株主名簿 | 会社法第121条 | 会社 | 渡さない(本店に備置き) | 全株主 |
| 株主名簿記載事項証明書 | 会社法第122条 | 会社(代表取締役が押印) | 請求した株主本人 | その株主の分だけ |
| 株主リスト | 商業登記規則第61条 | 会社(代表者が証明) | 法務局 | 議決権上位10名か2/3までの少ないほう |
株主リストについて、法務省は次のように案内しています。
株主リストの添付は,次の2つの場合に必要となります。 1 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合 2 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合 出典: moj.go.jp
株主リストは登記のために法務局へ出す書類で、議決権数と議決権数割合を書きます。株主名簿記載事項証明書は株主本人に渡す書類で、議決権は書きません。提出先も目的も別なので、片方があるからもう片方が不要、という関係にはなりません。
証明書が出てくる前後の流れ
株式譲渡の場面でこの証明書がどこに位置するのかを、手続きの流れの中で見ておきます。中小企業の株式はほぼすべて譲渡制限株式なので、それを前提にします。
第1段階が、承認の請求です。会社法第136条により、譲渡制限株式の株主は、他人に譲り渡そうとするときは、その人が株式を取得することについて承認するかどうかの決定を会社に請求できます。
第2段階が、会社の決定です。会社法第139条第1項により、承認するかどうかの決定は、株主総会、取締役会設置会社なら取締役会の決議によります。定款に別段の定めがある場合は別です。決定したら、第2項により請求した人に決定の内容を通知します。
ここに期限があります。会社法第145条第1号は、請求の日から2週間以内に通知をしなかった場合、会社は承認する旨の決定をしたものとみなされる、としています。定款でこれより短い期間を定めることはできますが、放置すれば承認したことになるという点は押さえておいてください。会社側が「返事をしないでおく」という対応をとると、望まない相手への譲渡が成立します。
第3段階が、譲渡契約です。当事者間で株式譲渡契約を結び、代金の支払いと株式の移転について取り決めます。効力発生日を明記しておくと、あとで取得日を決めるときに迷いません。
第4段階が、名義書換です。会社法第133条第2項により、原則として名簿上の株主と取得者が共同で請求します。会社がこれを受けて株主名簿を書き換えます。ここで初めて、買い手は会社に対して株主であることを主張できるようになります。
第5段階が、証明書の交付です。名簿が書き換わった後であれば、買い手は新しい株主として自分についての証明書を請求できます。融資の担保に入れる、次の取引先に示す、といった用途があるなら、このタイミングで取っておきます。
売り手側が証明書を求められるのは、第3段階の前後です。買い手は契約の前に、売り手が本当に名簿上の株主かを確認したいからです。つまり、同じ取引の中で証明書が2回登場することになります。売る前に売り手のもの、買った後に買い手のもの。これを知らずに1回で済ませようとすると、どこかで待ちが発生します。
受け取った側が確認すること
証明書を受け取る立場、つまり買い手や金融機関の側で見るべき点も整理しておきます。自分が出す側になるときのチェックリストにもなります。
1つ目が、基準となる日付です。「いつ時点の名簿の記載か」が書かれていない証明書は、いつのものか分かりません。証明日と基準日が離れている場合は、その間に動きがなかったかを確認する必要があります。
2つ目が、代表取締役の署名または記名押印です。これがなければ証明書として機能しません。押印されている印章が会社の実印かどうかを確認したい場合は、印鑑証明書を併せて求めます。
3つ目が、株式数と登記簿との整合です。証明書に書かれた株式数が、その会社の発行済株式総数を超えていないか。複数の株主の証明書を集めたときに、合計が発行済株式総数と合うか。ここが合わない場合、名簿のどこかに漏れがあります。
4つ目が、取得日の妥当性です。取得日が会社の成立日より前になっている、増資の登記より前に増資分の株式を持っていることになっている、といった矛盾がないかを見ます。
5つ目が、株券発行会社でないことの確認です。株券発行会社ではこの証明書は出せないので、証明書が出てきた時点で株券不発行会社のはずですが、登記事項証明書で裏を取っておくと確実です。
この5点を見るだけで、名簿の整備状況がかなりの精度で分かります。逆に言えば、出す側はこの5点を意識して作れば、相手から差し戻されることがなくなります。
発行しようとして詰まったときの対処
実際に作ろうとして止まるパターンが3つあります。
1つ目が、株主名簿がそもそも存在しないケースです。証明できるのは名簿の記載なので、名簿がなければ証明書は作れません。この場合は、先に名簿を復元します。登記事項証明書の履歴事項全部証明書で発行済株式総数の推移を追い、法人税の申告書に添付されている同族会社等の判定に関する明細書で株主の氏名と持株数を確認し、過去に提出した株主リストがあれば突き合わせる。この3つで、たいていの会社は復元できます。
2つ目が、名簿の記載と実態がずれているケースです。株式を譲った事実はあるのに名義書換をしていない、増資したのに名簿を更新していない、といった状態です。証明書は名簿の記載をそのまま証明するものなので、ずれたまま発行すると、実態と違う証明書を出すことになります。先に名簿を正しくしてください。譲渡制限株式の譲渡なら、承認の決議から順に整理し直すことになります。
3つ目が、株主が誰なのか判然としないケースです。名義株が混じっている、相続が終わっていない、といった状態です。ここは自己判断で名簿を書き換えないでください。名義を実態に合わせる行為が課税上どう扱われるかは、経緯と資料の残り方で結論が変わります。税理士や弁護士に経緯を整理してもらってから動くべき場面です。
なお、証明書の発行に手数料を取ってよいかという論点があります。会社法第122条は費用負担について何も定めていないので、無償で交付するのが原則的な理解です。会社法第31条第2項のように、定款の謄本の交付について会社の定めた費用を請求できると明記している条文とは書きぶりが違います。株主が数人の会社で手数料を取る実益はほとんどないので、無償で出すと決めておくのが無難です。
名簿を復元するときにかかる時間と費用を数える
株主名簿が見つからない会社が、証明書を出せる状態まで戻すのに何がかかるのかを、金額と日数で並べてみます。株主が3人、設立から15年、その間に増資を1回している会社を想定します。
まず、履歴事項全部証明書を1通取ります。登記事項証明書の手数料は、令和7年4月1日以降、書面請求が1通600円、オンラインで請求して郵送を選ぶと520円、オンラインで請求して窓口で受け取ると490円です。ここから発行済株式総数の推移と増資の日付を拾います。窓口に行けばその日に受け取れます。
次に、法人税の申告書の控えを過去にさかのぼって開きます。同族会社等の判定に関する明細書に、株主の氏名と持株数が書かれています。顧問の税理士に依頼すれば手元の控えから抜き出してもらえるので、費用はかかりません。5年分をそろえるのに数日みておきます。
過去に登記を出している会社なら、そのときに添付した株主リストの控えも使えます。議決権数まで書かれているので、名簿の数字を裏から確かめられます。
この3つを突き合わせて名簿を組み直し、抜けている取得日を契約書や振込の記録から補います。ここが読めない作業で、資料が残っている会社なら1日、手元に何もない会社なら数週間かかります。
金額としては証明書代の600円程度で済みます。かかるのはお金ではなく日数です。そして、証明書を求められてから始めるとその日数がそのまま取引の待ち時間になります。名簿の整備は、金額の面では安く、時間の面では高い作業だということです。
名簿を毎年更新する段取り
名簿を整えたら、あとは年に1度の作業として回します。3月決算で6月に定時株主総会を開く会社の1年を、日付順に置きます。
4月から5月、決算の作業と並行して、この1年に株式の動きがあったかを確認します。譲渡、相続、増資、自己株式の取得のいずれかがあれば、名簿に反映されているかを見ます。
6月の定時株主総会の前、招集通知を出す相手の一覧は名簿から作ります。ここで住所の変更や相続の未処理が残っていると通知が届きません。名簿の点検はこの時点で終わらせておきます。
6月の総会の後、登記を伴う決議があれば株主リストを作ります。名簿が正しければ、議決権数を計算して転記するだけです。
法人税の申告書を出す時期には、同族会社等の判定に関する明細書に名簿と同じ数字が入ることになります。ここで数字が合わなければ、どちらかが間違っています。年に1度、名簿と申告書を突き合わせる機会があると考えてください。
年度の途中で株式の動きが起きたときは、そのときに名簿を直します。動いた日に直すのがいちばん楽で、あとから思い出して直すのがいちばん難しい作業です。
勘違いしやすい5つ
ひとつ目は、法務局で株主を証明する書類が出ると考えることです。登記簿に株主は載っていません。証明できるのは会社だけです。
ふたつ目は、この証明書で他の株主の持株数まで分かると考えることです。会社法第122条で請求できるのは自分についての記載だけです。名簿全体を見たい場合は会社法第125条第2項の閲覧または謄写の請求という別の手続きになります。
みっつ目は、押印のない名簿の写しを証明書として提出しようとすることです。代表取締役の署名か記名押印がなければ、証明書としては扱われません。
よっつ目は、株式を買った時点で自分の証明書を請求できると考えることです。名義書換が終わるまで、会社から見て株主は売り手のままです。順番は名義書換が先、証明書が後になります。
いつつ目は、基準となる日を書かずに発行することです。株主名簿は時点の書類なので、いつ時点の記載を証明したのかが書かれていなければ、受け取った側は使えません。
運営者の視点から見た、証明書という1枚の重み
在宅ワークと業務委託の市場を20年運営してきた立場から言うと、株主名簿記載事項証明書は「持っていないことに気づくのが、いちばん困るタイミングになる」書類の典型です。普段は誰も求めません。求められるのは、株式を譲る、担保に入れる、相続が起きる、といった動きが始まったときです。動きが始まっているということは、相手がいて、期限があるということでもあります。
正直なところ、この書類そのものは表を1つ作って押印するだけの作業です。難しいのは書類ではなく、その前提にある株主名簿が整っているかどうか。名簿さえ正しければ、証明書は10分で出せます。名簿に穴があると、数週間かかることがある。差が出るのは準備の有無だけです。
制度の言葉を読んで、実務で使える形に翻訳する仕事には一定の需要があります。士業事務所や管理部門は目の前の案件を抱えたまま、社内の手順書や顧客向けの説明資料に手が回っていないことが多い。条文を読める書き手が作った資料と、そうでない資料とでは、あとから発生する問い合わせの量が明確に違います。こうした文章を扱う職種がどの水準で取引されているかは、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種別に確認できます。
書式のある文書を正確に組み立てる力そのものを鍛えたいなら、ビジネス文書検定の出題範囲は実務との距離が近く、証明書のような定型文書を作る場面でそのまま効いてきます。
運営者として見てきた限りでは、事業を長く続けている人ほど、こういう書類を求められてから慌てません。求められる前に作ってあるからです。そして、中間に人が入らない直接の取引を重ねてきた人ほど、その傾向が強い。仲介が入る取引では書式も条件も相手方のものに乗りますが、直接の取引では自分で管理するしかないので、記録を手元に持つ習慣がつきます。手間は増えますが、そのぶん手取りは厚くなり、条件の交渉も自分の側で握れる。手数料0%という条件が効いてくるのは、金額そのものより、この「自分の記録を自分で持てる」という質の部分です。
株主名簿記載事項証明書とは、株主名簿という台帳の一部を切り出して、会社が責任を持って証明した1枚です。土台になる名簿を整えておけば、必要になった日にすぐ出せます。
よくある質問
Q. 株主名簿記載事項証明書はどこで発行してもらえますか?
株式を発行している会社が自ら発行します。法務局や税務署では取得できません。登記簿には株主の情報が載っていないため、株主であることを証明できるのは会社だけです。株主は会社法第122条第1項に基づき、会社に対して自分についての記載事項を記載した書面の交付を請求できます。
Q. 証明書に代表取締役の押印は必要ですか?
必要です。会社法第122条第2項により、書面には代表取締役が署名するか記名押印しなければならないと定められています。押印のない紙は株主名簿の写しにすぎず、証明書としての効力を持ちません。提出先によっては、会社の印鑑証明書を添付するよう求められることもあります。
Q. 株券を発行している会社でも証明書は出せますか?
出せません。会社法第122条第4項により、同条の規定は株券発行会社には適用されないとされています。株券のある会社では株券そのものが株主であることの証しになるためです。定款に株券を発行する旨の定めがあるのに現物を発行していない会社は、定款を変更して株券不発行会社に移行しておくと手続きが円滑になります。
Q. 会社は証明書の発行を断ることができますか?
株主名簿に記載されている株主からの請求は、原則として断れません。正当な理由なく交付を拒むと会社法第976条第4号により100万円以下の過料の対象になり得ます。ただし、名義書換をしていない譲受人は会社法第130条第1項により株主として対抗できないため、会社は請求に応じられません。その場合は先に名義書換を行う必要があります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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