辞任と退任はどう違うのか|登記の書き方が変わる


この記事のポイント
- ✓取締役辞任と退任の違いを
- ✓登記簿への書かれ方から整理します
- ✓辞めたのに辞められない権利義務取締役まで
取締役をやめることになって書類を用意し始めると、最初に引っかかるのが言葉です。辞任と退任は、日常会話ではほとんど同じ意味で使われます。ところが登記の場面に入ったとたん、この2つは別物として扱われ、添付する書類も、登記簿に刻まれる文言も変わります。取締役辞任と退任の違いを、言葉の定義ではなく「何を書いて、何を出すのか」という手続きの側から整理します。結論を先に書くと、退任は会社を離れること全体を指す大きな箱で、辞任はその中の1つの原因です。
辞任と退任、言葉の関係は「一部と全体」
まず押さえておきたいのは、辞任と退任が対立する概念ではないという点です。並べて比べるものではなく、片方がもう片方を含んでいます。
退任とは、取締役という立場から外れた状態そのものを指します。理由は問いません。任期が来て自動的に終わった場合も退任ですし、本人が辞めると言って抜けた場合も退任、株主総会で引きずり下ろされた場合も退任です。会社を離れたという結果だけを見ている言葉だと考えると分かりやすくなります。
一方の辞任は、その退任が起きた原因のうちの1つです。本人の意思で、自分から役職を降りること。ここに他人の意思は入りません。逆に言えば、会社側が「辞めてくれ」と決めて外した場合は辞任ではなく解任になります。似た言葉に見えて、意思がどちら側から出ているかで名前が変わります。
ここで多くの人がつまずくのは、書類の書き分けです。辞任届を出す必要があるのは、当然ながら辞任の場合だけです。任期が切れて自然に退任した人に辞任届を書かせると、事実と違う書類を作ることになります。登記の窓口では、退任の原因ごとに求められる書類が決まっているため、「とりあえず辞任届を書いてもらおう」という発想は通用しません。
逆のパターンもあります。本人は「任期満了で円満に退きます」と言っているのに、定款を確認すると任期がまだ残っていた、というケースです。この場合は任期満了ではないので、辞任として処理することになります。言葉の選び方の問題ではなく、定款に書かれた任期と実際の日付を突き合わせて、どの原因に当てはまるかを先に確定させる作業が必要になります。
つまり、辞任と退任の違いを理解する実務上の意味は、「登記簿の原因欄に何と書くかを決めるため」にあります。ここが決まらないと、必要書類も登録免許税の計算も先に進みません。
取締役が会社を離れる5つの道と、登記簿への書かれ方
退任という箱の中には、原因がいくつか入っています。代表的なものを挙げると、次の5つです。
1つ目が任期満了です。定款で決めた任期が終わり、その後の定時株主総会が閉じた時点で自動的に役職が切れます。本人が何も言わなくても、会社が何も決めなくても、時間が来れば終わります。このとき同じ人がもう一度選ばれて続投するなら、登記簿には「重任」と書かれます。選ばれなかったなら「退任」です。
2つ目が辞任です。本人が自分の意思で降りる場合で、登記簿には「辞任」と書かれます。
3つ目が解任です。株主総会の決議で外される場合で、登記簿には「解任」と刻まれます。会社法は、役員をいつでも株主総会の決議で解任できると定めています。ただし、正当な理由なく解任された人は、それによって生じた損害の賠償を会社に請求できるとも定められています。外す側にとっては、決議さえあれば形式上は通るものの、あとから金銭の話が残る可能性があるということです。
4つ目が死亡です。登記簿には「死亡」と書かれます。遺族が手続きを進めることになるため、会社側で死亡を証明する書類を用意する流れになります。
5つ目が資格の喪失です。法律や定款で定めた取締役の資格を満たさなくなった場合が該当します。
この5つの中で、登記簿の見え方として特に誤解が多いのが「重任」です。重任は退任ではなく、任期が切れた瞬間にいったん終わり、同じ日に同じ人がまた就任した、という2つの出来事が重なった状態を表します。ずっと社長を続けているつもりでも、法律の側では2年や10年ごとに一度切れて、また始まっていることになります。この感覚のズレが、後述する登記の忘れを生みます。
登記簿に書かれる原因は、あとから訂正しようとすると更正の登記という別の手続きが必要になり、そこにも費用がかかります。国税庁の税額表では、登記の更正または抹消登記は申請1件につき2万円とされています。最初の段階で原因を取り違えないことが、結果として一番安く済みます。
辞任はいつ効力が出るのか。届を出した日か、受け取られた日か
辞任届に日付を書くとき、手が止まる人が多い箇所です。作成した日を書くのか、会社に渡した日を書くのか、それとも会社が受け取ったことを認めた日なのか。
考え方の出発点は、会社と取締役の関係が委任であるという点にあります。会社法は、株式会社と役員との関係は委任に関する規定に従うと定めています。委任というのは、誰かに仕事を頼んで引き受けてもらう関係のことです。そして民法は、委任は各当事者がいつでも解除できると定めています。
つまり、辞任には会社の許可も承認も要りません。本人が辞めると伝えれば、その意思が会社に届いた時点で効力が出ます。株主総会で「辞任を承認する決議」をすることがありますが、あれは手続き上の確認であって、それがないと辞められないわけではありません。
ただし、民法には続きがあります。相手方に不利な時期に委任を解除した場合、解除した側は相手方の損害を賠償しなければならないという定めです。やむを得ない事由があったときは除かれます。重要な取引の直前に代表者が突然抜けて会社に具体的な損害が出た、というような場面では、この条文が持ち出される余地があります。実際に賠償が認められるかどうかは事情次第であり、ここは一律に決まる話ではありません。時期をずらせるなら、ずらしたほうが穏やかに終わります。
書き方としては、辞任届に「令和8年◯月◯日付で取締役を辞任いたします」と日付を明記し、会社に到達した日が分かるようにしておくのが実務的です。郵送で送るなら、配達の記録が残る方法にしておくと、後から日付でもめずに済みます。登記の期限はこの日から数え始めるため、日付が曖昧なままだと期限そのものが曖昧になります。
なお、辞任は口頭でも成立します。それでも書面を作るのは、登記の申請で辞任の事実を証明する必要があるからです。
辞任は口頭による意思表示でも成立しますが、変更登記手続きを行う際には、辞任の事実を証明する書類として辞任届が必要です。そのため、実際に辞任をする際は辞任届を作成・提出するのが一般的です。 出典: freee.co.jp
辞めたのに辞められない「権利義務取締役」という状態
辞任届を出して、会社も受け取った。それで終わりだと思っていたのに、登記簿からいつまでも名前が消えない。このパターンが、小さな会社では本当によく起きます。
原因は、取締役の人数にあります。会社法は、役員が欠けた場合、または法律や定款で定めた役員の人数が欠けた場合には、任期満了または辞任で退任した役員は、新しい役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を持つと定めています。これが権利義務取締役と呼ばれる状態です。
分かりやすく言うと、後任が決まるまで席を空けさせてもらえない、ということです。たとえば定款に「取締役は3名以上」と書いてある会社で、3人しかいない状態から1人が辞任すると、人数が足りなくなります。このとき辞任した人は、新しい取締役が選ばれるまで取締役としての責任を負い続けます。登記簿からも消えません。
怖いのは、責任だけが残る点です。会社が税金を滞納しても、取引先に迷惑をかけても、登記簿の上ではまだ取締役です。辞めたつもりでいるのに、外から見れば経営陣の一員のままという状態が続きます。
この状態から抜けるには、会社に後任を選んでもらうのが正攻法です。会社が動かない場合には、裁判所に対して一時的に役員の職務を行うべき者を選んでもらう申立てという道も、会社法に用意されています。ただし裁判所を使う以上、時間も手間もかかります。
したがって、辞任を考え始めた段階でやるべきことは2つです。1つは、定款を開いて取締役の最低人数を確認すること。もう1つは、自分が抜けたあとの人数がその最低人数を下回らないかを数えることです。下回るなら、辞任届を出す前に後任の目処を立てておく。この順番を守るだけで、宙ぶらりんの期間をほぼゼロにできます。
登記の期限は2週間。遅れると代表者個人に過料が来る
役員の構成が変わったら、登記を直す必要があります。この期限が短い。
会社法は、登記すべき事項に変更が生じたときは、2週間以内に、本店の所在地において変更の登記をしなければならないと定めています。この2週間は、辞任なら辞任の効力が生じた日から、任期満了なら定時株主総会が終わった日から数えます。
守らなかった場合にどうなるのかは、法務局が申請書様式のページではっきり書いています。
登記すべき期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して、裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp
ここで2点、誤解しやすい箇所を補足します。
1点目は、遅れても登記そのものは受け付けてもらえるという点です。期限を過ぎたから永久に直せない、ということはありません。気づいた時点で申請すれば通ります。
2点目は、過料を払うのが会社ではなく代表者個人だという点です。経費で落とす性質のものではありません。金額は100万円以下という上限が示されているだけで、実際にいくらになるかは裁判所が決めます。遅れた期間の長さが効いてくると言われています。
費用の面も見ておきます。国税庁の税額表によると、取締役または代表取締役もしくは監査役等に関する事項の変更の登記は、申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円とされています。詳細は国税庁の登録免許税の税額表で確認できます。個人で立ち上げた会社の多くは資本金1億円以下に収まるため、実際には1万円で済むケースがほとんどです。
司法書士に頼む場合は、これに報酬が乗ります。相場は事務所によって幅がありますが、役員変更の登記であれば2万円から3万円程度を見込んでいる事務所が多く、登録免許税と合わせても数万円の範囲に収まります。自分でやれば報酬分は浮きますが、書類の不備で法務局に何度も足を運ぶ時間と比べて、どちらが得かは仕事の繁忙度によります。
添付書類は「辞任」と「任期満了」でここが変わる
登記の申請書そのものは、法務局のサイトから様式をダウンロードできます。株式会社の役員変更については、住所移転、氏名変更、役員全員の重任、辞任による新任といったケースごとに別々の様式と記載例が用意されています。自分のケースに一番近い番号の記載例を先に開いてから書き始めると、迷いが減ります。
書類の中身は、退任の原因によって変わります。
任期満了で全員が同じ顔ぶれのまま続投する場合、つまり重任のときは、株主総会の議事録と株主リストが中心になります。同じ人が続けるだけなので、本人確認の書類は原則として不要です。法務省は、本人確認証明書が必要になるのは取締役等の就任による変更登記のときであり、再任は除くと明記しています。
辞任して新しい人が入る場合は、これが変わります。まず辞めた人の辞任届。次に、新しく入る人の就任承諾書。そして新任者の本人確認証明書です。
本人確認証明書として何が使えるのかは、法務省が例を挙げています。住民票記載事項証明書、戸籍の附票、運転免許証のコピー、マイナンバーカードの表面のコピーなどです。コピーを使う場合は、本人が原本と相違がない旨を記載して記名する必要があります。個人番号の通知カードは使えません。
代表取締役が替わる場合は、さらに1段階厳しくなります。新しい代表取締役を選んだ場面に応じて、株主総会の議事録に押した印鑑、取締役の互選を証する書面に押した印鑑、または取締役会の議事録に押した印鑑について、市区町村長が作った印鑑証明書を添えることが求められます。
代表取締役が辞める側になる場合も注意が必要です。登記所に印鑑を届け出ている代表取締役の辞任届については、そこに押した印鑑の印鑑証明書を添える扱いになっています。ただし、辞任届に押した印鑑が登記所に提出している印鑑と同じであれば、印鑑証明書は要りません。会社の実印を押せるなら押しておくと、書類が1枚減ります。
まとめると、確認する順番はこうなります。誰が抜けるのか、その原因は何か、抜けたあと人数は足りるのか、新しく入る人はいるのか、代表取締役に変動はあるのか。この5つを紙に書き出してから様式を選ぶと、二度手間になりません。細かい判断が絡む場合は、法務局の商業・法人登記の申請書様式のページにある記載例を先に読んでから、管轄の登記所に事前予約を取って相談するのが確実です。
辞任届に書く項目と、迷いやすい表現
辞任届に決まった様式はありません。ただし登記の添付書類として使う以上、登記官が読んで事実関係を追えるものでなければ意味がありません。入れておきたい項目は次の6つです。
宛先、表題、辞任する意思、辞任の日付、届を書いた日付、辞任する本人の住所と氏名です。宛先は会社です。代表取締役が辞任する場合、自分宛てに出す形になって違和感を覚えますが、会社という組織に対して意思を伝えるという構造なのでこれで問題ありません。
文面の型としては、次のような1行で足ります。「このたび一身上の都合により、令和8年◯月◯日をもって貴社取締役を辞任いたしたく、お届けいたします」。理由を細かく書く必要はありません。一身上の都合で十分です。体調や人間関係の事情を書き込むと、後から社内で回覧されたときに余計な波風を立てるだけです。
迷いやすいのが日付の表現です。「令和8年◯月◯日をもって辞任する」と書けば、その日の終わりに辞める意味になります。「令和8年◯月◯日付で辞任する」と書けば、その日から辞める意味に読まれます。1日ずれるだけで登記の原因日付が変わるため、会社側と事前に日付をすり合わせてから清書してください。
押印については、代表取締役として登記所に印鑑を届け出ている人が辞める場合、辞任届に押した印鑑が登記所に提出している印鑑と同じであれば印鑑証明書は要りません。会社の実印が手元にあるうちに押しておくと、後から個人の印鑑証明書を取りに行く手間が消えます。逆に、実印を返してから辞任届を書くと、個人の実印で押して印鑑証明書を添えることになります。順番の問題です。
取締役であって代表取締役ではない人の辞任届には、こうした印鑑の縛りはありません。認印でも通ります。
会社に受け取ってもらえない、あるいは連絡が取れないという場面もあります。その場合は、配達の記録が残る方法で本店に送っておきます。辞任は会社の承諾を必要としないため、意思が到達したことを示せれば効力の面では足ります。
監査役や合同会社では、期間と手続きが変わる
ここまでは取締役を前提に書いてきました。役職が変わると、任期も手続きも変わります。
監査役の任期は、会社法で、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと定められています。取締役の2年より長い期間です。公開会社でない株式会社であれば、定款によって10年まで伸ばせる点は取締役と同じです。
ここで気をつけたいのは、取締役と監査役で任期の切れる年がずれるという点です。取締役を2年、監査役を4年のままにしていると、2年ごとに取締役だけの登記、4年ごとに両方の登記という周期になります。周期が2つあると片方を忘れやすいため、非公開の小さな会社では、定款で任期をそろえてしまうほうが管理は楽になります。
監査役については、もう1つ落とし穴があります。定款を変更して監査役を置く旨の定めをなくした場合や、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する定めをなくした場合には、その定款変更の効力が生じた時点で監査役の任期が満了すると会社法が定めています。定款をいじったつもりが、役員の任期まで動いていたという事態が起こります。定款変更と役員の任期は、必ずセットで確認してください。
合同会社は、そもそも考え方が違います。合同会社の業務を執行する社員には、株式会社の取締役のような法定の任期がありません。したがって、任期満了という概念での退任も、定期的な重任の登記も発生しません。変更の登記が必要になるのは、社員が加入したり退社したり、代表社員が替わったりしたときだけです。
その代わり、合同会社は出資と地位が結びついているため、辞める手続きが株式会社より込み入ります。株式会社の取締役なら辞任届1枚で意思表示が完結しますが、合同会社の社員が抜ける場合は、持分の扱いや定款の記載をどうするかという話が同時に動きます。合同会社で人を入れる、あるいは抜けるという場面では、辞任届の形式より先に定款の条項を読むところから始めてください。
特例有限会社についても触れておきます。かつての有限会社がそのまま残っている形態で、取締役と監査役に任期の定めがありません。定時株主総会ごとの重任登記が要らないため、長年登記に触れていない会社が多く残っています。ただし役員が実際に交代したときは、株式会社と同じように2週間以内の登記が必要です。
退職金や報酬の扱いは、辞め方そのものより実態で決まる
辞任か任期満了かで、役員退職慰労金の扱いが変わるのかという質問はよく出ます。
前提として、役員に退職金を出すかどうか、いくら出すかは、法律が自動的に決めてくれるものではありません。定款に定めがあるか、株主総会で決議するかによって決まります。辞任したから出ない、任期満了だから出る、という単純な対応関係ではありません。
一方で、辞め方によって空気が変わるのは確かです。任期満了は予定されていた終わり方なので、総会の議案としても通しやすい。突然の辞任は、金額の話が後回しにされたり、そもそも議題に乗らなかったりすることがあります。金額を期待しているなら、辞める前に支給の可否と算定方法を書面で詰めておくほうが確実です。
税務上の扱いについても、ひと言添えておきます。役員退職金が経費として認められるかどうかは、勤続年数や職責、同業他社の水準などを踏まえて判断されるとされており、金額や事情によって結論が変わります。また、形の上では役員を退いていても、実際に経営の重要な決定に関わり続けている場合には、退職したと認められないことがあります。ここは一律に断定できる領域ではないため、具体的な金額を動かす前に税務署か税理士に確認してください。
登記の話に戻すと、退職金をいくら出すかという論点と、登記を2週間以内に入れるかという論点は、完全に切り離して進めたほうがうまくいきます。お金の交渉が長引いているあいだに登記の期限が過ぎる、というのが最も損な流れだからです。
放置した会社に起きること。12年でみなし解散
役員変更の登記を忘れたまま何年も経つと、最後は会社そのものが消えます。
会社法には休眠会社のみなし解散という仕組みがあります。株式会社に関する登記が最後にあった日から12年を経過すると休眠会社として扱われ、法務大臣が官報で公告し、期限までに届出も登記もしなければ、解散したものとみなされるというものです。
この作業は毎年行われています。直近では令和7年10月10日に官報公告が行われ、同日付で管轄の登記所から通知書が発送されました。届出または必要な登記の期限は同年12月10日とされ、それを過ぎた会社は翌日付で解散の登記がされる流れになりました。詳しい運用は法務省の休眠会社等の整理作業のページで公開されています。
役員の任期を10年にしている会社は、ここに引っかかりやすい構造を持っています。10年ごとにしか登記が発生しないため、1回飛ばすだけで20年の空白ができ、12年の線を軽く越えてしまうからです。通知書は登記簿上の本店に届きます。自宅兼事務所から引っ越したあと本店移転の登記をしていなければ、その通知すら受け取れません。
みなし解散の登記がされても、一定の期間内であれば株主総会の決議で会社を継続させる道は残っています。ただし継続の登記にもまた費用と手間がかかりますし、その間に銀行口座や許認可がどうなるかという別の問題も出てきます。
実務的な影響はもっと手前から出ます。融資の審査や、規模の大きい取引先との新規契約では、登記事項証明書の提出を求められることが珍しくありません。そこに載っている役員が何年も前に辞めた人のままだと、管理が行き届いていない会社という印象を与えます。細かい話に見えて、取引の入口で効いてきます。
一人で法人を持つ人がつまずく点と、市場から見た実像
ここまでの手続きは、役員が何人もいる会社を前提に書かれた制度です。ところが実際に登記を忘れて困るのは、取締役が1人か2人の小さな会社が圧倒的に多いという構図があります。
理由は単純で、社内に総務がいないからです。会社員なら総務部が任期を管理して「そろそろ重任登記です」と声をかけてくれます。個人で法人を作った場合、その役割を担う人がいません。定款をどこにしまったか分からない、任期が2年なのか10年なのかも覚えていない、というところから始まります。
対策として効くのは、次の2つだけです。1つは、定款のコピーと登記事項証明書を同じ場所に保管し、次の登記の期限を書いた紙を挟んでおくこと。もう1つは、カレンダーに期限の半年前で通知を入れておくことです。会計ソフトの決算の通知とは別枠で持っておくと確実です。
在宅ワーク市場を20年見てきた運営者の立場から言うと、法人化した個人が最初に消耗するのは、案件の獲得よりもこうした事務のほうです。登記、社会保険、決算。どれも売上には直結しないのに、放置すると後から一気に効いてきます。長く続いている人ほど、この種の事務を年に1回の固定作業として日程に埋め込んでいて、思い出して慌てるということをしていません。
仕事の中身の側から見ても、法人を持つかどうかで単価が劇的に変わるわけではありません。単価を左右するのは職種と専門性です。実際の水準を確かめるなら、職種ごとの相場をまとめたソフトウェア作成者の年収・単価相場や、文章を扱う仕事の著述家,記者,編集者の年収・単価相場が参考になります。前者は開発職の年収レンジと案件単価の傾向を、後者は執筆や編集の仕事がどの程度の水準で取引されているかを整理したページです。
受ける仕事の幅を広げたい場合は、伸びている領域を先に見ておくほうが効率的です。生成AIの導入を支援する仕事の内容と求められる力をまとめたAIコンサル・業務活用支援のお仕事や、マーケティングとセキュリティを含めた周辺領域を扱うAI・マーケティング・セキュリティのお仕事は、どんな依頼が実際に出ているのかを掴むのに向いています。開発寄りの受注を増やしたいなら、アプリケーション開発のお仕事が案件の種類と進め方を説明しています。
書類仕事そのものに苦手意識があるなら、基礎を資格の形で整理してしまうのも手です。社内文書や社外文書の型を体系的に学べるビジネス文書検定は、議事録や通知文の書き方に迷わなくなるという点で、登記まわりの書類作成とも地続きです。技術職であれば、ネットワークの基礎を証明できるCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が、受注時の説明材料になります。
もう1つ、運営者として見てきた限りで確かなことを書いておきます。手数料が引かれない直接取引の価値は、金額の大小そのものより手取りの厚さに出ます。同じ予算を出す依頼者から見れば、仲介の取り分が乗らないぶん依頼できる量が増え、受ける側は同じ仕事で残る額が増える。手数料0%という条件が効いてくるのは、単発の案件ではなく、同じ相手と何年も続ける関係のときです。法人を作って長く続けるつもりなら、登記のような地味な管理と、こうした取引条件の積み重ねが、そのまま事業の体力になります。
契約や債権の側にも目配りが要ります。報酬が支払われないまま放置されたときの回収手段を整理した未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】は、支払督促の流れと費用の目安をまとめたものです。発注書や契約書に何を書いておくべきかは、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが具体的なチェック項目で示しています。数字を扱う専門職の働き方に関心があるなら、会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】も参考になります。
取締役辞任と退任の違いは、突き詰めれば登記簿の原因欄に何と書くかという一点に集約されます。そこさえ確定すれば、必要書類も、期限も、費用も、自動的に決まります。言葉の定義で悩む時間より、定款を開いて任期と人数を数える時間のほうが、結果として早く終わります。
よくある質問
Q. 辞任届に会社の承認は必要ですか?
不要です。会社と取締役の関係は委任にあたり、民法では各当事者がいつでも解除できると定められています。辞任の意思が会社に届いた時点で効力が生じます。株主総会で辞任を承認する決議を行うことはありますが、それは手続き上の確認であり、承認がないと辞められないわけではありません。ただし登記の申請には辞任の事実を示す辞任届が必要です。
Q. 役員変更の登記にかかる費用はいくらですか?
国税庁の税額表では、取締役や代表取締役、監査役等に関する事項の変更の登記は申請1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社は1万円とされています。個人が設立した会社の多くは1万円で収まります。司法書士に依頼する場合は、これに2万円から3万円程度の報酬が加わるのが一つの目安です。
Q. 辞任届を出したのに登記簿から名前が消えません。なぜですか?
取締役の人数が法律や定款で定めた最低数を下回っている可能性が高いです。この場合、辞任した人は新しい役員が就任するまで取締役としての権利義務を持ち続けると会社法で定められており、登記簿からも消えません。辞任の前に定款で最低人数を確認し、後任の目処を立てておくと、この状態を避けられます。
Q. 任期満了で同じ人が続投するときも登記は必要ですか?
必要です。任期が切れた時点でいったん退任し、同じ日に再び就任した扱いになるため、登記簿には重任として記録されます。変更が生じてから2週間以内に登記しないと、代表者個人が裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。株主総会の議事録と株主リストを用意して申請します。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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