合同会社の電子定款|認証が要らないのに電子にする理由


この記事のポイント
- ✓合同会社は公証人の認証が要らないのに
- ✓なぜ電子定款にする意味があるのかを整理しました
- ✓印紙税4万円が残る仕組み
合同会社は公証人の認証が要らない。そこまで調べた人が次に迷うのは、それなら電子定款にする意味はあるのかという点です。認証の手数料が消えるのだから、電子にする理由も消えるように見えます。
結論を書きます。意味はあります。むしろ、合同会社は株式会社よりも電子定款の効果が分かりやすく出ます。理由は、認証と印紙税が別の制度だからです。認証が要らなくなっても、印紙税の4万円は残ります。この記事では、その仕組みと、実際に何をどう作るのかを順に確認していきます。
認証が要らない理由は、会社の設計にある
先に、認証が要らないという部分を確かめておきます。
公証人の認証を受ける必要があるのは、株式会社、一般社団法人、一般財団法人、税理士法人や司法書士法人などの各種法人、特定目的会社、相互会社、信用金庫などです。これに対して、持分会社、つまり合名会社、合資会社、合同会社の定款については、公証人の認証を必要としません。
日本公証人連合会は、その理由をこう説明しています。持分会社の定款が認証を必要とせず株式会社の定款が認証を必要としているのは、経営と責任が分離されて不特定多数の者がかかわる設計となっている物的会社である株式会社について、設立後の紛争予防や不正防止等の必要性が特に高いためだと。
合同会社は、出資した人がそのまま経営に関わる形が基本です。株主と経営者が別人になることが前提の株式会社と違い、外から入ってくる人が少ない。だから設立の段階で第三者に確認させる必要が薄い、という整理になっています。
この結果として、合同会社の設立では認証手数料の3万円から5万円がかかりません。認証済みの謄本を取るための1枚250円もかかりません。公証役場との事前打ち合わせも、ウェブ会議の予約も不要です。株式会社と比べて、工程が1つ丸ごと消えます。
それでも印紙税は残る
ところが、印紙税は別の話です。
印紙税は、紙に書かれた文書そのものに課される税金です。誰が確認したかとは関係なく、その文書が課税の対象になる種類のものかどうかで決まります。定款は、印紙税法の第6号文書として課税の対象に挙げられています。
[定款](注)株式会社、合名会社、合資会社、合同会社または相互会社の設立のときに作成される定款の原本に限ります。 4万円 出典: nta.go.jp
注記に合同会社が明記されています。合名会社と合資会社も入っています。つまり、認証の要否とは無関係に、紙で定款の原本を作れば4万円の印紙を貼る必要があるということです。
なぜ電子だと不要になるのか。印紙税が課されるのは紙の文書に限られるからです。PDFファイルとして作られた電子データは、印紙税法が対象とする文書にあたりません。同じ内容でも、紙に印刷すれば課税され、データのままなら課税されない。ここに4万円の差が生まれています。
日本公証人連合会も、株式会社や相互会社の定款の認証について、電子定款によらない場合には収入印紙4万円を公証人保存原本に貼付するとしたうえで、会社であっても電子定款による場合は収入印紙を貼付する必要がないと案内しています。
合同会社の場合、この4万円だけが電子にすることの取り分です。株式会社だと認証手数料や謄本代の話が混ざって分かりにくくなりますが、合同会社では差が1項目に絞られます。効果が分かりやすいというのは、こういう意味です。
合同会社の設立費用は、電子か紙かで2倍近く変わる
金額を並べてみます。
合同会社の設立登記の登録免許税は、資本金の額に1,000分の7を掛けた額です。これが6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円になります。国税庁の登録免許税の税額表に記載されているとおりです。資本金が857万円あたりまでは6万円で収まる計算になります。
参考までに、株式会社の設立登記は資本金の額の1,000分の7で、15万円に満たないときは15万円です。合名会社と合資会社は、資本金に関係なく1件につき6万円です。
ここから合同会社の実費を組み立てます。電子定款で作る場合、登録免許税が6万円、認証手数料が0円、謄本代が0円、印紙代が0円です。あとは代表者印の作成費用と印鑑登録証明書代がかかります。国に払う分だけなら6万円です。
紙の定款で作る場合は、ここに印紙代の4万円が乗って10万円になります。会社を作るのにかかる公的な費用が、定款をどう作るかだけで1.6倍になるということです。資本金が少ない会社ほど、この比率は大きく見えます。
株式会社の場合、電子にしても認証手数料と登録免許税で19万円前後が残ります。4万円の重みが相対的に小さい。合同会社は分母が小さいので、4万円の存在感が大きくなります。
株式会社と、消える工程を並べて見る
電子定款の話を進める前に、合同会社で何がなくなるのかを一覧にしておきます。判断が早くなります。
公証人の認証が要りません。したがって、公証役場を探す作業も、指定公証人かどうかの確認も、管轄の確認も不要です。定款案を事前に見てもらう往復も、実質的支配者となるべき者の申告も、ウェブ会議の予約も、当日の本人確認も発生しません。実質的支配者の申告制度の対象は株式会社、一般社団法人、一般財団法人であって、合同会社は入っていません。
金額の面では、認証手数料の3万円から5万円、謄本代の1枚250円、同一の情報の提供の700円が、まとめて消えます。
では電子定款で何が残るのかというと、PDFを作ることと、電子署名を付けることだけです。株式会社の電子定款で手間の大半を占めていたのは公証役場とのやりとりなので、そこが無い合同会社は、作業量が本当に小さくなります。
設立後にも差があります。株式会社は、会社法第440条第1項により、定時株主総会の終結後遅滞なく貸借対照表を公告しなければなりません。持分会社にはこの義務がありません。また、株式会社の取締役の任期は原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までで、公開会社でない株式会社なら定款で最長10年まで伸ばせます(会社法第332条)。任期が来れば役員変更の登記が必要で、その登録免許税は1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社なら1万円です。合同会社の業務執行社員には任期の定めがないので、この定期的な登記が発生しません。
設立の安さだけでなく、維持の手間も小さいのが合同会社です。そのぶん、株式を発行して外部から資金を集める仕組みは持てません。どちらを選ぶかは、資金調達の予定があるかどうかで決めることになります。
商号と目的は、作り始める前に確かめる
定款の条文を書き始める前に、2つ確認しておくと手戻りが減ります。
1つ目が商号です。同一の所在地に同一の商号がすでに登記されていると、その商号では登記できません。登記・供託オンライン申請システムには商号調査の機能が用意されていて、すでに登記されている他の会社や法人の有無を確認できます。似た名前の会社が近所にある場合は、この段階で見ておいてください。あわせて、商標として他社が登録している名称を使うと、後から使用の差し止めを求められる可能性があります。商号の登記が通ることと、商標として安全であることは別の話です。
2つ目が目的です。許認可が必要な事業を行う場合、その許認可の要件として定款の目的に特定の文言が入っていることを求められることがあります。建設業、古物商、旅行業、人材派遣、介護、酒類の販売などが代表例です。設立後に目的を足すには、総社員の同意で定款を変更したうえで登記の変更が必要になり、登録免許税が1件につき3万円かかります。将来やる予定のある事業は、設立時に入れておいたほうが安く済みます。
目的の書き方に迷ったら、同業の会社の登記事項証明書を取って、どういう文言が並んでいるかを見るのが早い方法です。登記事項証明書は誰でも取得できます。窓口での交付が1通600円、オンラインで請求して送付を求めない場合は490円です。
定款に必ず書く6つのこと
中身の話に移ります。合同会社の定款に必ず書く事項は、会社法第576条第1項で6つ決まっています。
1つ目が目的です。何をする会社なのかを並べます。2つ目が商号、つまり会社の名前です。3つ目が本店の所在地。4つ目が社員の氏名または名称および住所です。ここでいう社員は従業員のことではなく、出資して会社を所有している人を指します。株式会社の株主にあたる立場です。
5つ目が、社員が無限責任社員または有限責任社員のいずれであるかの別です。合同会社の場合は、同条第4項により、社員の全部を有限責任社員とする旨を記載しなければなりません。有限責任というのは、出資した金額を限度として責任を負うという意味です。この記載が合同会社を合同会社にしている部分なので、落とすことはできません。
6つ目が、社員の出資の目的およびその価額または評価の標準です。有限責任社員の出資は金銭等に限られます。誰がいくら出したのかを書くということです。
株式会社の定款に必ず書く事項が5つ(目的、商号、本店の所在地、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額、発起人の氏名または名称および住所)であるのに対し、合同会社では責任の種別と出資の内容が明示的に求められている点が違います。
このほかに、会社法の規定により定款の定めがなければ効力が生じない事項や、法律に違反しない範囲の任意の事項を書けます。業務執行社員を誰にするか、代表社員を定めるか、事業年度をいつにするか、利益をどう分配するかといった項目がここに入ります。損益分配の割合について定款の定めが無いときは、各社員の出資の価額に応じて定めることになるので、出資比率と違う配分にしたいなら定款に書いておく必要があります。
電子定款の作り方
合同会社の定款も、電子で作れます。会社法第575条第1項は、持分会社を設立するには社員になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名または記名押印しなければならないと定めています。そして同条第2項が、この定款は電磁的記録をもって作成することができるとしたうえで、記録された情報については法務省令で定める署名または記名押印に代わる措置をとらなければならないとしています。
電磁的記録というのは、人の目では直接読めない方式で作られた記録のことで、PDFファイルがこれにあたります。署名に代わる措置というのが電子署名です。
作業の順番は次のようになります。定款の本文を作る、PDFに変換する、社員全員が電子署名を付ける、設立登記に添付する。株式会社と違って、公証役場に送る工程がありません。
電子署名に使う電子証明書は、個人であればマイナンバーカードに入っている署名用電子証明書が現実的な選択肢です。カードを読み取るためのICカードリーダーが必要になります。PDFに署名を付ける方法としては、Adobe Acrobatと、法務省が提供するPDF署名プラグインを組み合わせるやり方が案内されています。プラグイン自体は無料ですが、Adobe Acrobatは別途有料で用意する必要があります。
法務省の登記・供託オンライン申請システムで使う申請用総合ソフトの推奨環境は、ご利用環境の案内にあるとおりWindows 11です。Macは推奨環境に挙げられていません。普段の仕事をMacで回している人は、ここで進め方を決め直す必要があります。
PDFにするときの作り方も押さえておきます。パスワードで保護をかけたり編集を制限する設定を入れたりすると、署名や検証で問題が起きることがあるので、保護は付けずに出力してください。紙の定款で必要だったA4への印刷、袋とじ、各ページの契印といった作業は、電子ではまるごと不要になります。ページ数が多い定款ほど、この差は大きく出ます。
作成日付は書いておくのが通例です。後で触れるとおり、出資の払い込みはこの日付より後でなければならないので、日付を先に決めて、そこから払い込みと登記の日程を組み立ててください。定款に使う言語は日本語です。英語などを併記しても、正式な定款は日本語の部分で、外国語の部分は翻訳として扱われます。
署名で注意したいのは、社員全員の署名が要るという点です。社員が3人いれば3人分の電子署名が必要になります。全員がマイナンバーカードと読み取り環境を持っているとは限らないので、人数が増えるほど自力での実行は難しくなります。誰か1人でも環境を用意できないなら、代行サービスを検討したほうが早く終わります。
登記にどう添付するか
作った電子定款は、設立登記の申請に添付します。方法は2つあります。
1つ目が、オンラインで申請する方法です。登記・供託オンライン申請システムから、署名済みのPDFを添付ファイルとして送ります。添付する電磁的記録には作成者の電子署名と電子証明書が付与されている必要があります。
2つ目が、書面で申請しつつ定款だけをデータで出す方法です。商業登記規則第35条の3は、法務大臣の指定する方式に従って電磁的記録を記録した電磁的記録媒体を申請書とともに提出する方法を認めています。つまり、署名済みのPDFをCD-Rなどに書き込んで、紙の申請書と一緒に法務局へ持ち込む形が取れます。同条第3項により、この媒体には申請人の氏名(法人なら商号または名称)を記載するか、記載した書面を貼り付けることになっています。
オンライン申請に不慣れで、でも印紙代の4万円は節約したいという場合、2つ目の方法が現実的な着地点になります。定款の電子化とオンライン申請は、必ずセットでなければいけないわけではありません。
なお、登録免許税を電子納付にするなど一定の条件を満たすオンライン申請では処理が早くなる仕組みが用意されていますが、24時間以内に登記を完了させる運用は株式会社の設立を対象としたものです。合同会社は対象外なので、そこは期待せずに日程を組んでください。
払い込みの順番を間違えない
合同会社で意外と見落とされるのが、出資の払い込みのタイミングです。
会社法第578条は、合同会社の社員になろうとする者は、定款の作成後、合同会社の設立の登記をする時までに、その出資に係る金銭の全額を払い込み、または出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならないと定めています。
つまり、払い込みは定款を作った日より後で、登記を申請する日までに済ませる必要があります。定款の作成日より前に入金してしまうと、払い込みがあったことを証明する資料として扱えません。先に口座に入金して、あとから定款の日付を後ろにずらそうとすると、辻褄が合わなくなります。
順番としては、定款のPDFを作って日付を入れる、電子署名を付ける、出資金を払い込む、払込みを証する書面を作る、登記を申請する。この並びを守ってください。
払い込み先の口座について、よく聞かれる点を補っておきます。会社はまだ存在していないので、会社名義の口座は作れません。社員になろうとする人の個人口座に払い込む形になります。1人で作る会社の場合、自分の口座から自分の口座へ移す動きになりますが、それでもかまいません。大切なのは、通帳に入金の記録が残ることです。同じ口座内で残高が動かないまま「ここに資本金があります」と示しても、払込みがあったことを証する書面としては扱われません。
準備にかかる日数の目安も挙げておきます。マイナンバーカードを持っていない場合、申請から受け取りまでに数週間かかります。ここが最も長い工程なので、会社を作ると決めた日に真っ先に申請してください。すでに持っていて署名用電子証明書のパスワードを忘れている場合も、市区町村の窓口での再設定に時間が要ります。カードリーダーの購入と接続確認に半日、署名ソフトの用意と設定に半日から1日、定款の本文を書くのに1日から2日。カードがある人で1週間前後、無い人で1か月前後を見ておくと、日程の読みを外しません。
払込みを証する書面は、通帳の該当ページの写しなどを添えて作ります。口座に一定の残高があるだけで入金の記録が無いものは、払込みがあったことを証する書面として扱われません。残高ではなく、入金や振込入金といった動きが見えることが条件です。インターネットバンキングの画面をPDFにする場合は、払込先の金融機関名、口座名義人名、振込日、振込金額が読み取れる必要があります。
資本金は1,000万円未満で決めるのが基本
払い込む金額そのものにも、電子か紙かと同じくらい効いてくる線引きがあります。
消費税法第12条の2第1項は、基準期間がない法人のうち、事業年度が始まる日の資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であるものについて、納税義務を免除する規定を適用しないと定めています。基準期間とは、消費税を納めるかどうかを判定するために使う2年前の期間のことです。できたばかりの会社にはその2年前が存在しないので、代わりに資本金の額で判定する仕組みになっています。
裏返すと、資本金を1,000万円未満にしておけば、1期目と2期目は原則として消費税を納める義務が生じません。合同会社の設立で資本金を6万円の枠に収めるかどうかを考えるとき、登録免許税の6万円より先に、この1,000万円の線を越えないことを確認してください。857万円までなら登録免許税も6万円で済むので、両方を満たす範囲はかなり広く取れます。
ただし例外があります。売上の大きい会社や個人に支配されて作られた会社は、資本金が1,000万円未満でも免除の対象から外れることがあります(消費税法第12条の3)。また、取引先から適格請求書の発行を求められて自ら課税事業者になる登録をした場合は、免除の話は関係なくなります。取引先が法人中心なら、免除を選べる立場でも登録したほうが仕事を取りやすい場面があります。どちらが有利かは取引先の構成と売上の規模で変わるので、税務署か税理士に確認してください。
登記に出す資本金の額は、払い込んだ金額と一致していなければなりません。見栄えのために多めに書くことはできません。登記した資本金を後から増やす場合は、増加した額の1,000分の7、最低3万円の登録免許税がかかります。
設立にかかった費用は、帳簿で創立費にまとめる
払い込みが終わったら、それまでに使ったお金を帳簿に入れていきます。ここを知らずに全部を雑費で処理してしまう人が多いので、先に確かめておきます。
法人税法施行令第14条第1項は、繰延資産、つまり支出した年だけでなく後の年にも効果が及ぶ費用として扱うものを列挙しています。その第1号が創立費です。
一 創立費(発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税その他法人の設立のために支出する費用で、当該法人の負担に帰すべきものをいう。) 二 開業費(法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。) 出典: laws.e-gov.go.jp
合同会社なら、登録免許税の6万円、代表者印の作成費用、印鑑登録証明書代、カードリーダーの購入費、設立代行に払った手数料などが創立費に入ります。設立の登記が終わってから実際に売上が立つまでの間に使った分、たとえば名刺やウェブサイトの制作費、開業のあいさつにかかった費用は開業費です。境目は設立登記の日です。
仕訳の形は単純です。設立前に代表者が自分のお金で6万円を立て替えたなら、借方に創立費6万円、貸方に役員借入金6万円と入れます。会社の口座ができたあとに返すときは、借方に役員借入金6万円、貸方に普通預金6万円です。会社の口座から直接払った場合は、借方に創立費、貸方に普通預金です。
大事なのは、いつ費用にするかを自分で選べる点です。同施行令第64条第1項第1号は、創立費から社債等発行費までの繰延資産の償却限度額を、その繰延資産の額から既に損金にした額を差し引いた金額としています。上限が残高そのものなので、1円も落とさない年があってもよく、初年度に全額を落としてもかまいません。
これが効くのは、初年度が赤字になりがちな会社です。赤字の年に無理に費用を立てても税金は減りません。創立費を帳簿に残しておき、黒字になった年にまとめて落とせば、その年の税額を下げられます。逆に初年度から利益が出る見込みなら、初年度に全額を落として早めに効かせたほうが資金が楽になります。
領収書は設立前のものも捨てないでください。会社が存在しない時期の支出でも、会社のために使った分は創立費として会社の帳簿に入れられます。個人名義で切ってもらった領収書でも、内容が設立の準備であれば問題になりません。ただし個人の生活費との線引きが曖昧なものは対象外です。判断に迷う費目は税務署か税理士に確認してください。
間違えやすいのはこの5つ
最後に、合同会社の電子定款で実際につまずきやすい点を挙げます。
1つ目が、認証が要らないから印紙も要らないと考えてしまうことです。別の制度なので、紙で作れば4万円がかかります。
2つ目が、社員という言葉を従業員の意味で読むことです。定款に書く社員は出資して会社を持っている人で、従業員は1人も書きません。
3つ目が、出資金を先に入金してしまうことです。定款の作成日より後でなければ払込みの証明に使えません。
4つ目が、定款を直して登記を忘れることです。商号、本店、目的、代表社員、資本金の額は登記事項なので、両方やらないと登記を怠ったことになります。
5つ目が、署名を代表者1人で済ませようとすることです。設立時の定款は社員全員の署名が必要で、1人分でも欠けると受け付けられません。
作ったあとの保管は、株式会社より自己責任が重い
ここは意識しておいたほうがよい差です。
会社法第31条第1項は、株式会社について、定款を本店と支店に備え置かなければならないと義務づけています。違反すると、会社法第976条第8号により100万円以下の過料に処すべき行為として扱われます。株式会社には、定款を手元に置いておくことが法律上の義務として課されているということです。
一方で会社法は、持分会社について定款の備置きを義務づける規定を置いていません。持分会社の社員に認められているのは、計算書類の閲覧または謄写の請求です(会社法第618条第1項)。定款については、同じ形の規定がありません。
義務が無いことは、気をつけなくてよいという意味ではありません。むしろ逆です。合同会社の定款は、公証役場にも保存されていません。株式会社であれば設立から20年以内なら公証役場から謄本を取れますが、合同会社にはその受け皿が存在しません。残っているのは、設立登記の申請書類として法務局に保管されているものだけで、その保存期間は商業登記規則第34条第4項により受付の日から10年間です。
法人口座の開設、融資の申し込み、許認可の申請と更新、補助金の申請。いずれの場面でも定款の写しを求められます。合同会社は、なくしたときの回収手段が株式会社より少ない。だから、受け取った直後にクラウドと外付けの記録媒体の2か所へコピーし、紙に印刷したものを会社の実印と同じ場所に置いておいてください。
もう1つ、電子定款を選んだ場合は紙も1部用意しておくことをおすすめします。日本公証人連合会は、株式会社の電子定款について、法務局に認証済みの定款を提出して会社登記をする場合は電子文書の形で受け付けてもらえるとしたうえで、近時は銀行等の金融機関では紙ベースの定款を求める運用もなされていると注意を促しています。認証の無い合同会社でも、銀行が紙を求める事情は変わりません。署名済みのPDFを印刷したものに、社員が原本に相違ない旨を記して押印しておけば、たいていの提出先で通ります。
定款を変更したときは、変更後の全文をその時点で作り直し、日付を入れて保存してください。変更箇所だけを同意書に残して本体を更新しないでいると、何年か経ったときに現行の条文が誰にも分からなくなります。実際、定款が見つからない会社より、見つかったけれど古い版で今の実態と合っていない会社のほうが多いくらいです。
定款を変えるときも認証は不要
設立後の話も押さえておきます。
会社法第637条は、持分会社は、定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の同意によって定款の変更をすることができると定めています。株式会社が株主総会の特別決議で変更するのに対して、合同会社は社員全員の同意という形です。ここでも公証人の認証は要りません。
注意点は、社員が1人でも反対すると変更できないという点です。定款に別段の定めを置けば要件を緩められるので、社員を増やす予定があるなら、設立の段階で変更の要件をどうするか決めておく価値があります。1人で作った会社に後から出資者を迎え入れる場合、その人が加わった時点から、あらゆる定款の変更にその人の同意が要るようになります。株式会社が持株比率で意思決定の重みを変えられるのに対し、合同会社は原則として全員一致です。ここは合同会社を選ぶときに、費用の安さと引き換えに受け入れる性質だと理解しておいてください。
変更した内容が登記されている事項にあたる場合は、定款を変えるだけでは足りません。商号、本店、目的、業務執行社員、代表社員、資本金の額などは登記事項なので、変更の登記も必要になります。登記事項の変更登記の登録免許税は1件につき3万円で、本店の移転は1か所につき3万円です。定款だけ直して登記を忘れると、登記を怠ったことになるので気をつけてください。
なお、社員の全部を無限責任社員とする定款の変更をすれば合名会社になり、無限責任社員を加入させれば合資会社になります(会社法第638条第3項)。会社の種類そのものが定款の変更で切り替わる設計になっているのは、持分会社の特徴です。
定款の変更で印紙税がかかるかという点については、印紙税法の第6号文書の対象が設立のときに作成される定款の原本に限られているので、設立後の変更定款は対象になりません。ただし個別の判断は文書の内容や作り方によって変わるので、迷う場合は税務署か税理士に確認してください。
自分でやるか、代行に頼むか
判断の材料を整理します。
自分でやる価値が高いのは、Windowsのパソコンがあり、マイナンバーカードの署名用電子証明書を使ったことがあり、社員が1人か2人で、設立後も電子契約や電子申請を使う予定がある人です。この条件なら、追加で買うのはカードリーダー程度で、環境は設立後も生き続けます。
見直したほうがよいのは、Macしか持っていない人、マイナンバーカードを持っていない人、社員が3人以上いる人、設立を急いでいる人です。Windows環境の用意、カードの発行待ち、Adobe Acrobatの年額費用、全員分の署名の調整を足すと、浮いた4万円は簡単に消えます。
その中間として、電子定款に対応した設立サービスを使う方法があります。サービス側が電子署名を担うため、依頼する側は機材もソフトも持たずに4万円の節約だけを受け取れます。手数料が無料のものから数万円のものまであるので、総額で比べてください。
紙で作って4万円を払うという判断も、合理的な場合があります。環境構築とソフト契約と手順の学習に使う時間を、事業の準備に回すという選び方です。時間に値段を付けたとき、どちらが自分にとって高いのかという問題になります。
設立の速さより、その後の手取りが効いてくる
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見ると、合同会社を選ぶ人は費用の感覚が鋭い傾向があります。株式会社より9万円安く作れることを調べたうえで選んでいる。その感覚は正しいのですが、設立の費用に集中しすぎると、もっと大きな金額を見落とします。
運営者として見てきた限りでは、設立時に節約できる4万円や9万円より、その後の毎月の取引で消えていく金額のほうがはるかに大きいです。仲介が層になっている仕組みでは、依頼者が払った金額と受け手に届く金額の間に差が生まれます。中間マージンが乗らない直接取引であれば、同じ予算で依頼者はより多く頼めますし、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%の仕組みが効くのは、単価を吊り上げるからではなく、この目減りをなくすからです。1年続く取引であれば、差は設立費用の何倍にもなります。
法人として動けるようになると、受けられる仕事の種類も変わります。企業の生成AI導入を支援するAIコンサル・業務活用支援のお仕事や、守備範囲の広いAI・マーケティング・セキュリティのお仕事は、発注側の稟議を通す必要があるため、法人としての体裁が整っているほど話が早く進みます。工程に長く関わるアプリケーション開発のお仕事も、契約の締結が遅れるほど関与できる範囲が狭くなります。電子契約に対応できるかどうかが、着手までの日数に直接効いてきます。
資本金をいくらにするかは登録免許税にも関わるので、事業計画とあわせて決めることになります。判断の材料として、ソフトウェア作成者の年収・単価相場や著述家,記者,編集者の年収・単価相場のような職種別のデータを見ておくと、同じ制作の仕事でも領域によって単価の分布が違うことが分かります。法人化すると固定費が増えるので、どの分布で戦うかを先に決めておくと資金計画がぶれません。
書類の質そのものも、取引の速さを左右します。契約書や請求書の体裁が整っていれば経理部門での確認が早く、支払いも滞りにくくなります。文書の基本を押さえるならビジネス文書検定が参考になりますし、ネットワークまわりの提案を扱うならCCNA(シスコ技術者認定)が技術的な裏づけになります。取引が大きくなるほど支払いが止まったときの影響も大きくなるので、回収の段取りを先に知っておくことにも意味があります。未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】とフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが土台になります。会計まわりまで仕事の幅を広げたい人には会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】も参考になります。
合同会社の電子定款は、認証という一番面倒な工程が無い状態で電子署名を一度経験できる、ちょうどよい入口です。ここで電子証明書を使っておくと、そのあとの電子申請や電子契約が地続きになります。4万円は入口の数字にすぎません。
よくある質問
Q. 合同会社は認証が要らないのに、電子定款にする意味はありますか?
あります。認証と印紙税は別の制度だからです。印紙税は紙の文書そのものに課される税金で、国税庁の一覧表には第6号文書として合同会社の設立時の定款原本も対象に挙げられ、税額は4万円とされています。紙で作れば4万円がかかり、PDFで作ればかかりません。認証手数料が最初からゼロの合同会社では、この4万円だけが差として残ります。
Q. 合同会社の設立費用は電子定款にするといくらになりますか?
国に払う分だけなら6万円です。設立登記の登録免許税が資本金の額の1,000分の7で、6万円に満たないときは6万円になります。認証手数料と謄本代はかかりません。紙の定款だと印紙代4万円が加わって10万円になります。このほか代表者印の作成費用と印鑑登録証明書代がかかります。
Q. 合同会社の電子定款はどうやって登記に添付しますか?
オンライン申請なら署名済みのPDFを添付ファイルとして送ります。書面で申請する場合も、商業登記規則第35条の3により、電磁的記録を記録した媒体を申請書とともに提出する方法が認められています。CD-Rなどに書き込んで法務局へ持ち込む形です。媒体には申請人の氏名や商号を記載するか、記載した書面を貼り付けます。
Q. 合同会社の定款は社員全員が電子署名する必要がありますか?
必要です。会社法第575条第1項は、持分会社を設立するには社員になろうとする者全員が定款に署名または記名押印しなければならないと定めていて、電磁的記録で作る場合はこれに代わる措置として電子署名が要ります。社員が3人いれば3人分の電子署名が必要です。全員が環境を用意できない場合は、代行サービスを使うほうが早く終わります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
関連記事
カテゴリから探す

クラウドソーシング入門
クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド
職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク
副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス
フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

お金・税金
確定申告・節税・経費・ローンなどお金の知識

スキルアップ
プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング
サービス比較・おすすめランキング

AI活用
職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド
市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド
クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア
転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師の転職・求人
看護師の転職・派遣・単発バイト・副業など働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

薬剤師の転職・求人
薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人
介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人
保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人
医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険
生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人
無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース
バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

シニア・50代
シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ
サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック
暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス
経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材
フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方
子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金
個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド
SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方







