兼業でイラストレーターを続ける|契約と確定申告の進め方


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この記事のポイント
- ✓兼業イラストレーターとして働くときに必ずぶつかる契約と税の実務をまとめました
- ✓著作権の譲渡と二次利用の違い
- ✓発注書で確認する7項目
兼業イラストレーターが詰むところは、絵ではありません。契約と税です。
会社員として働きながらイラストの仕事を受ける方の相談を見ていると、絵の技術で困っている人はほとんどいません。困っているのは、「納品したのに報酬が振り込まれない」「グッズに使われていたが追加の報酬がなかった」「確定申告が必要なのか分からない」といった、絵とは別の部分です。
正直なところ、ここを避けて通れると思っているうちは、兼業は長く続きません。逆に言えば、契約と税の型を一度つくってしまえば、あとは描くことに集中できます。
この記事では、兼業でイラストの仕事を受けるときに必ず確認すべき契約の項目と、確定申告の実務を順番に書きます。数字と条文で押さえられる部分は、全部数字と条文で書きます。
兼業イラストレーターという働き方が成立している構造
まず市場の構造から見ておきます。ここを理解しておくと、契約で何が争点になるのかが分かるようになります。
10年前まで、イラストの仕事は出版社や広告代理店からの発注が中心で、窓口が限られていました。窓口が限られていると、会社員として働きながら受注する余地はほとんどありません。担当者との打ち合わせが平日の昼間に入るからです。
この構造が変わりました。SNSで作品を見た企業が直接連絡してくる、クラウド上のマーケットで単価を提示して受ける、素材サイトに登録して継続的に収入を得る。窓口が一気に増え、しかもそのほとんどがオンラインで完結するようになりました。
近年ではSNSやクラウドソーシング、オンラインマーケットなど、Web上におけるイラストのやりとりが発展したことで、作品を発信する場が増え、「兼業イラストレーター」という働き方が現実的な選択肢になりました。 出典: creators-academy.co.jp
実際に兼業で活動している方の本業は、絵と関係のない職種が多数を占めます。
実際、兼業イラストレーターの中には、事務職・販売職・エンジニアなど、まったく異なる業種で働きながらイラストの副収入を得ているという方もいます。 出典: creators-academy.co.jp
ここで重要なのは、窓口が増えた分だけ、契約が雑になったという副作用です。出版社との取引には慣例があり、担当者が契約の型を持っていました。SNS経由で連絡してくる中小企業や個人事業主は、その型を持っていません。だから条件が曖昧なまま始まり、後でもめます。
もうひとつ、単価の構造も押さえておいてください。
また、初心者〜中級者の兼業イラストレーターの場合、案件単価は比較的低めで、依頼数も少なめの傾向があります。 出典: creators-academy.co.jp
入口の単価は低い。これは事実です。だからこそ、1件あたりの手取りを削る要素を減らすことが効いてきます。契約の不備で報酬を取りこぼすこと、税の手続きを間違えて払い過ぎること。この2つは、単価を上げるより先に手を打てる部分です。
単価の相場感を持ちたい方は、統計にもとづく職種別のデータを見ておくと判断の基準ができます。イラスト単独の統計は取りにくいのですが、文章と挿絵をまとめて請ける形が多い方なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場の水準が近い参考値になります。イラストと並行してSNSの運用まで請ける形は単価が上がりやすい領域なので、どんな業務が求められるかはAI・マーケティング・セキュリティのお仕事で確認できます。絵だけを納品するより、告知の設計まで引き受けたほうが評価されやすいという構造は、ここ数年で明確になりました。
兼業でいちばん多いトラブルは著作権の扱い
相談の内容を並べると、いちばん多いのは未払いではなく著作権の扱いです。
前提から整理します。著作権法17条により、著作権は作品を創作した人に自動的に発生します。登録の手続きは必要ありません。つまり、あなたが描いたイラストの著作権は、最初はあなたが持っています。
ここまではほとんどの方が知っています。問題は次からです。
納品しても、著作権は自動的に移りません。 納品は作品の引き渡しであって、権利の移転ではありません。著作権を移すには、譲渡の合意が必要です。
そして、実務でいちばん多いのがこのパターンです。発注書には「イラスト制作費 5万円」とだけ書かれている。著作権の扱いは何も書かれていない。この状態で納品し、後日そのイラストがグッズやパッケージに使われていた。追加の報酬はなかった。
著作権が譲渡されていないなら、発注者がイラストを使える範囲は、契約で想定されていた用途に限られるという整理になります。ただし「想定されていた用途」が書面に書かれていないと、争いになったときに立証が難しい。ここが現実の壁です。
もうひとつ知っておくべき条文があります。著作権法61条2項です。著作権を譲渡する契約で、翻訳や翻案などの権利について特に定めがない場合、それらの権利は譲渡した人に留保されたものと推定されます。つまり、「著作権を譲渡する」とだけ書かれた契約では、イラストを改変して別のものにつくり変える権利は移っていないと推定されるということです。
それから、著作者人格権は譲渡できません。 著作権法59条により、公表権、氏名表示権、同一性保持権といった人格的な権利は、著作者本人に残ります。契約書に「著作者人格権を放棄する」と書かれることがありますが、性質上譲渡できない権利なので、この条項の効力には議論があります。※このタイプの条項を含む契約書に署名を求められているときは、弁護士に確認してください。
実務でどうするか。発注書か契約書に「使用範囲」を1行書いてもらうことです。「自社のWebサイトおよびSNSでの告知に使用」といった具体的な記載があれば、それを超える使い方をされたときに追加の報酬を求める根拠になります。1行でいいんです。これを求めるだけで、後のトラブルの大半が消えます。
発注書で必ず確認する7項目
具体的なチェックリストにします。イラストの仕事を受ける前に、この7項目が文字として残っているかを確認してください。
1、作業の範囲。 ラフは何案出すのか。線画と着彩の両方か。データ形式は何か。背景は含まれるのか。ここが曖昧だと「当然含まれると思っていた」という話になります。
2、修正の回数。 何回まで無料で対応するのか。「ラフ段階で2回、清書後に1回」といった形で決めます。ここを決めていない案件が、いちばん時間を食います。
3、報酬額と支払期日。 いくらで、いつ振り込まれるのか。源泉徴収の有無も確認します。額面5万円でも源泉徴収されれば振込額は変わります。
4、使用範囲。 前の節で書いたところです。媒体、期間、地域を具体的に書いてもらいます。
5、著作権の扱い。 譲渡するのか、利用を許諾するだけなのか。譲渡する場合は、その分を報酬に反映させます。
6、クレジットの表示。 名前を出してもらえるのか。兼業の方の場合、本業の関係で名前を出したくないケースもあるので、ここは逆方向の確認も必要です。
7、キャンセル時の扱い。 途中で中止になったとき、どこまでの報酬が支払われるのか。ラフ提出後に中止なら何割、といった形で決めます。
見積書や請求書の書き方に不安がある方もいます。書式そのものに法的な決まりはありませんが、金額の内訳、源泉徴収の扱い、支払期日の書き方が整っているかどうかで、相手の経理での処理の速さが変わります。文書の型を体系的に身につけたいならビジネス文書検定の出題範囲が、そのまま実務のチェックリストとして使えます。
この7項目を毎回確認するのは面倒に感じるかもしれません。ですが、1度テンプレートをつくれば、あとはコピーして送るだけです。私が実務で失敗したのは、ここを口約束で済ませたときでした。相手が親切な担当者だったので油断したのですが、その担当者が異動した後、後任の方は前提を何も知らないまま「これも使っていいんですよね」と言ってきました。悪意はまったくないんです。ただ記録がなかった。それだけのことで、こちらは説明の時間を何時間も使いました。
発注書と契約書の必須項目をもっと体系的に確認したい方は、フリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストにチェックリストの形でまとまっています。取引の相手が一定規模以上の会社の場合、法律で書面の交付が義務づけられている項目があるので、そこも合わせて確認しておくと交渉しやすくなります。
二次利用と譲渡の違いは、金額に直結する
ここは単価を決める話なので、数字の感覚を持っておいてください。
利用許諾は、特定の用途に使う権利を貸す形です。著作権はあなたに残ります。用途が広がるたびに、追加の報酬を求められます。
著作権譲渡は、権利そのものを渡す形です。以後、発注者は自由に使えます。あなたはそのイラストを自分のポートフォリオに載せることすら、条件によっては制限される可能性があります。
この2つの価格差は、実務では小さくありません。同じイラストでも、譲渡の場合は利用許諾の2倍から3倍の金額を設定するのが一般的な考え方です。用途が無限に広がる権利を渡すのだから、当然そうなります。
ところが、発注側は「著作権も込みで」と当たり前のように言ってきます。悪気があるわけではなく、社内で権利を管理する都合があるからです。ここで「譲渡なら金額が変わります」と言えるかどうかで、年間の収入がまるで変わります。
言い方の型を1つ示します。「著作権の譲渡をご希望の場合、二次利用の可能性を含めた金額として、利用許諾の場合の2倍程度でお見積りしております。ご予算に合わせて、使用範囲を限定した許諾の形もご提案できます」。
これで「じゃあ許諾で」となる案件が相当あります。発注側も、実際にはグッズ展開の予定がないケースが多いからです。聞かないまま譲渡してしまうのが、いちばん損をします。
期間を区切るという手もあります。「納品から2年間、自社媒体での使用を許諾する」という形にして、期間満了後に更新の交渉をする。継続的な収入になるので、兼業で数を多く受けられない方には合っています。
フリーランス保護新法で変わったこと
2024年11月1日に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、いわゆるフリーランス保護新法は、兼業イラストレーターにも直接効いてくる法律です。
押さえるべき点を挙げます。
取引条件の明示義務。 発注者は、業務委託をした場合、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で明示しなければなりません。つまり、メールやチャットでも構いませんが、条件を文字で示す義務が発注者側にあるということです。「口頭で聞いただけ」という状態は、発注者が義務を果たしていない状態だと理解してください。
報酬の支払期日。 発注者は、物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に、報酬を支払う期日を定めなければなりません。納品から2か月以上先に支払期日を設定することは認められません。
禁止行為。 一定期間以上の継続的な業務委託について、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入や利用の強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更やり直しが禁止されています。「イメージと違うから払わない」は、このうち受領拒否や不当なやり直しに当たりうる行為です。
募集情報の的確表示。 募集の内容に虚偽の表示をしたり、誤解を生じさせる表示をしてはいけないという義務も定められています。
これが何を変えたか。「条件を文字でください」と言うことが、遠慮ではなく法律の前提になったということです。以前は「細かいことを言う人だと思われないか」という心配がありました。今は、明示するのは発注者の義務です。求めることに何の負い目もありません。
制度の詳しい内容は公正取引委員会と厚生労働省の公式ページに掲載されています。相談窓口も設けられています。
それでも支払われないときの話も書いておきます。少額の未払いで弁護士に依頼すると費用が報酬額を上回ることがあるので、まず内容証明郵便、次に支払督促という順番が現実的です。費用と手順の目安は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に整理されています。回収できる見込みと費用を先に比べてから動くべき領域です。
確定申告。20万円の線と源泉徴収10.21%
税の話に移ります。ここは仕組みが決まっているので、順番に確認すれば難しくありません。
確定申告が必要かどうか。 給与を1か所から受けている会社員の場合、給与以外の所得が年20万円以下であれば、所得税の確定申告は不要とされています。ここでいう所得は、売上から経費を引いた後の金額です。売上が25万円で経費が6万円なら、所得は19万円なので不要という計算になります。
ただし住民税の申告は20万円以下でも必要です。 ここを取り違える方が非常に多い。所得税と住民税は別の制度なので、所得税の申告が不要でも市区町村への申告は残ります。
源泉徴収を確認してください。 イラストやデザインの報酬は、所得税法204条により源泉徴収の対象です。1回の支払金額が100万円以下の部分は10.21%、100万円を超える部分は20.42%が差し引かれます。
これが重要なのは、源泉徴収された分は前払いの税金なので、申告すれば戻ってくる可能性が高いからです。
計算してみます。年間の売上が30万円で、すべて源泉徴収されていたとすると、引かれた額は3万630円です。経費が10万円あれば所得は20万円。本業の給与と合算して計算した結果、この20万円に対する税額が源泉徴収額より少なければ、その差額が還付されます。
つまり、申告が不要なケースでも、申告したほうが得になることが多いということです。「20万円以下だから何もしない」という判断は、払い過ぎたまま放置することになりがちです。計算してから決めてください。
申告の手順は国税庁の公式サイトに掲載されています。e-Taxを使えば自宅から提出でき、必要な書類もその場で作成できます。
支払調書が届かないという相談もよくあります。発注者に支払調書の交付義務はないので、届かないことは珍しくありません。自分の記録で申告できるので、入金額と源泉徴収額を1件ずつ記録しておいてください。 銀行の入金履歴と発注書を突き合わせれば足ります。
経費と、事業所得か雑所得かの分かれ目
経費の考え方を整理します。原則は、収入を得るために直接必要だった支出です。
イラストの仕事で計上しやすいものを挙げます。液晶タブレットやペンタブレット、パソコン、グラフィックソフトの月額利用料、フォントやブラシなどの素材、資料として買った書籍や画集、参考のために買った同ジャンルの商品、取材や打ち合わせの交通費、クラウドストレージの利用料。
自宅で作業している場合の家賃と光熱費は、家事按分という考え方で一部を経費にできます。作業に使っている部屋の面積の割合や、作業時間の割合で計算します。按分の根拠を説明できる形にしておくことが大事で、全額を計上するのは認められません。
パソコンや液タブの扱いは金額で変わります。取得価額が10万円未満なら全額をその年の経費にできます。10万円以上30万円未満なら、青色申告をしている場合に少額減価償却資産の特例が使えます。30万円以上は減価償却で複数年に分けます。
次に、事業所得と雑所得の区別です。ここは税額に大きく影響します。
事業所得として申告できると、青色申告の承認を受けたうえで青色申告特別控除が使えます。電子帳簿保存またはe-Taxによる申告なら65万円、それ以外は55万円、簡易な記帳なら10万円の控除です。さらに、赤字を給与所得と損益通算できます。
雑所得だと、これらが使えません。
判断の基準について、国税庁は所得税基本通達で整理を示しています。社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するという枠組みで、記帳と帳簿書類の保存がある場合は原則として事業所得として取り扱うという運用が示されています。逆に、記帳も保存もない少額の収入は雑所得と扱われやすいということです。
つまり実務上の結論は単純です。帳簿をつけて保存する。 これが事業所得として扱われるための土台になります。会計サービスを使えば、入出金を取り込むだけで記帳が済みます。freeeやマネーフォワードは兼業規模なら低い費用から使えます。手書きで頑張る理由はどこにもありません。
本業を持ちながら専門職として独立の準備をする方の考え方は、職種が違っても共通する部分が多いです。会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】には、本業との兼ね合いの整理の仕方が書かれていて、兼業の設計として参考になります。
会社に知られたくない場合の住民税と、就業規則
兼業で気になるのが、本業の会社に知られるかどうかという点です。
仕組みから説明します。住民税は通常、給与から差し引かれる特別徴収で納めます。副業の所得が住民税の計算に入ると、会社に届く通知の金額が変わり、担当者が気づく可能性があります。
対策があります。確定申告書には住民税の徴収方法を選ぶ欄があり、給与以外の所得分については自分で納付する普通徴収を選べます。これを選ぶと、その分の納付書が自宅に届きます。
ただし条件があります。副業が給与として支払われる場合は、この選択ができません。 給与所得は特別徴収が原則です。イラストの報酬は通常、報酬として支払われるので普通徴収を選べる余地があります。アルバイトのように給与で受け取る形だと選べません。
それから、就業規則の確認は先にしてください。副業が禁止なのか、許可制なのか、届出制なのか。厚生労働省が公開しているモデル就業規則では、副業は届出を前提に原則認める形になっています。数年前の記憶で判断せず、今の条文を読むべきです。
隠すことをすすめているわけではありません。むしろ、届出が必要な会社で黙って進めるほうがリスクが高い。後から発覚したときに、規則の有効性がどうであれ信頼の面で不利になります。※懲戒をほのめかされている、すでに指摘を受けているといった段階なら、弁護士か労働局の窓口に相談してください。
インボイス制度と消費税の判断
兼業の規模では、判断の結論はだいたい決まっています。
課税売上高が1,000万円以下なら、消費税の納税義務は免除されます。 これが免税事業者です。兼業でイラストを描いている方のほとんどは、この範囲に収まります。
インボイス制度で問題になるのは、発注者が仕入税額控除をするために適格請求書を求めてくる場合です。登録していないと、発注者側の税負担が増えるため、取引を避けられたり単価の調整を求められたりすることがあります。
判断の材料を挙げます。
登録するメリットは、適格請求書を出せることで取引先を選ばれにくくなる点です。企業との取引が多い方は、ここが効きます。
登録するデメリットは、消費税の申告と納税の手間が発生する点です。売上に含まれる消費税を納めることになるので、手取りが減ります。
負担を軽くする措置として、免税事業者から課税事業者になった方が使える2割特例があります。売上に係る消費税額の2割を納付すればよいという計算方法で、適用できる期間が限られています。適用の可否と期間は国税庁の公式ページで確認してください。
実務的な判断はこうです。取引先から登録を求められていないなら、登録しないで様子を見る。求められたら、その取引の年間の金額と、登録による負担を比べる。個人の相手やSNS経由の小さな仕事が中心なら、登録の必要はほぼありません。
※取引先の大半が企業で、年間の売上が1,000万円に近づいているなら、税理士に一度相談してください。登録のタイミングで税額が変わる領域です。
市場を運営してきた立場からの観察
ここからは、フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場での観察を書きます。
20年この市場を見てきた立場から言えば、兼業で長く続いている方に共通しているのは、絵の上手さではなく、やりとりの手間が少ないことです。ラフの提出が早い。修正の意図を確認して返す。納期の前に一言進捗を送る。この3つができている方に、依頼が集まり続けています。
発注する側の事情を考えると理由は明確です。発注者の担当者は、イラストの発注だけを仕事にしているわけではありません。他の業務の合間に進めています。だから「確認の手間が少ない人」が選ばれます。絵のクオリティが同水準の相手が複数いるとき、最後に決まるのはここです。
もうひとつ、募集の要項に「稼働時間の指定あり」と書かれた案件と「納期のみ指定」と書かれた案件では、応募する方の層がはっきり分かれます。後者には、本業を持つ方、育児中の方、通院がある方が集まります。市場の側はすでに「時間を売らない働き方」の受け皿をつくっているということです。兼業で案件を探すなら、報酬額より先にこの稼働条件の書き方を見るべきです。ここでふるいをかけるだけで、両立できる候補だけが残ります。
手取りについても書いておきます。仕事の仲介には中間マージンが乗るのが一般的で、報酬から一定割合が引かれる仕組みが広く使われています。兼業イラストレーターの入口の単価は低めなので、この差が効きます。手数料0%で直接やりとりする形は、同じ予算でも依頼する側はより多く頼めて、受ける側は手取りが厚くなります。運営者として見てきた限りでは、これは「高く売れる」という話ではなく「同じ作業量でも残る額が違う」という質の話です。描ける時間が限られている兼業の方ほど、1件あたりに残る額が効いてきます。
そして最後に、契約と税に話を戻します。この2つを整えることは、単価を上げることと同じ効果があります。著作権を無条件で渡さずに済めば追加の報酬が取れる。源泉徴収された分を申告して還付を受ければ手元が増える。経費を漏らさず計上すれば税額が下がる。どれも絵の技術とは関係なく、手続きで得られる差です。
描く時間を増やしたいからこそ、先に型をつくってください。発注書のチェックリストを1枚、見積りの文面を1つ、記帳の仕組みを1つ。この3つを用意するのに必要なのは、1日です。その1日が、次の何年かの手取りを変えます。
よくある質問
Q. 兼業でイラストを描いていますが、確定申告は必要ですか?
給与を1か所から受けていて、イラストの所得が年20万円以下なら所得税の確定申告は不要とされています。所得は売上から経費を引いた額です。ただし住民税の申告は20万円以下でも必要です。またイラストの報酬は10.21%が源泉徴収されることが多く、申告すると還付になるケースが多いので計算してから判断してください。
Q. 納品したイラストの著作権は自動的に相手に移りますか?
移りません。著作権法17条により著作権は創作した人に発生し、納品は作品の引き渡しであって権利の移転ではありません。譲渡するには合意が必要です。発注書に使用範囲を1行書いてもらうだけで、想定外の使い方をされたときに追加報酬を求める根拠になります。著作者人格権は譲渡できません。
Q. 著作権譲渡と利用許諾で金額はどれくらい変えるべきですか?
譲渡は権利そのものを渡す形なので、用途が無限に広がります。実務では利用許諾の2倍から3倍の金額を設定する考え方が一般的です。発注側に譲渡の必要が実はないケースも多いので、「譲渡なら金額が変わります。範囲を限定した許諾もご提案できます」と伝えるだけで許諾に落ち着く案件が相当あります。
Q. 報酬が支払われないとき、どうすればいいですか?
フリーランス保護新法では、発注者は受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に報酬を支払う期日を定める義務があり、不当な受領拒否やり直しも禁止されています。まず内容証明郵便、次に支払督促という順番が現実的です。少額では弁護士費用が報酬額を超えることがあるので費用を先に比べてください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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