広告動画制作の実績の見せ方|出せない仕事をどう伝えるか


この記事のポイント
- ✓広告動画制作の実績の見せ方を
- ✓守秘義務で公開できない仕事の伝え方まで含めて整理しました
- ✓発注者が実際に見ている判断基準を実務ベースで解説します
広告動画制作の実績の見せ方で最初につまずくのは、「一番いい仕事ほど人に見せられない」という矛盾です。結論から言うと、出せない仕事は作品そのものを見せるのではなく、「どんな課題に、どういう判断で、どこまで関与したか」を言語化して見せます。制作物の権利は発注者にありますが、判断の履歴は制作者のものだからです。この記事では、公開可否の仕分け手順、許諾の取り方、出せない案件を伝える具体的な書式、そして発注者が実績のどこを見ているのかを順に整理します。
広告動画の実績が「出せなくなる」構造を先に理解する
広告動画制作は、Webサイト制作やイラストと比べて実績公開のハードルが一段高い分野です。理由は3つあります。ひとつは配信媒体の性質、ひとつは契約の慣行、ひとつは素材の権利関係です。この3つを分けて理解しておかないと、「見せてはいけないもの」と「見せていいのに遠慮しているもの」を混同したまま、実績ページが空っぽになります。
配信されている広告でも制作者名は出ない
テレビCMなら制作会社のクレジットが出ることがありますが、運用型の広告動画にクレジットは出ません。Meta広告やYouTube広告の枠に流れる15秒や30秒の動画は、視聴者から見れば「その企業が作ったもの」です。制作者が誰かという情報は、配信の設計上どこにも表示されません。つまり、公開されている広告動画であっても、それを自分が作ったと第三者が確認する手段は存在しないわけです。
ここが実績の見せ方を難しくします。公開されている動画のURLを実績として並べても、発注者からすると「本当にこの人が作ったのか」を確認できない。だからこそ、URLだけを貼る見せ方は評価につながりにくく、後述する「関与範囲の明示」がセットで必要になります。
契約書の秘密保持条項が広く書かれている
広告動画の受注では、業務委託契約書やNDAに秘密保持条項が入るのが通例です。問題は、その条項が「本業務に関して知り得た情報」という広い書き方になっていることが多い点です。この書き方だと、企画意図、配信データ、社内の意思決定の経緯だけでなく、「その企業から広告動画を受注した事実そのもの」まで秘密情報に含まれると読める場合があります。
条項の中に「取引の存在自体を第三者に開示しない」という一文が入っていれば、社名を出した実績掲載は明確にできません。一方、秘密情報の定義に「書面で秘密である旨を明示したもの」という限定がついていれば、社名を出すこと自体は禁止されていない可能性が高い。契約書の読み方ひとつで、出せる実績の量が大きく変わります。
素材の権利が制作者に残っていない
広告動画には、発注者が用意した商品写真、タレントやモデルの肖像、購入したBGM、フォント、ストックフッテージなど、制作者以外の権利が絡んだ素材が含まれます。動画そのものの著作権が発注者に譲渡されているケースが大半で、さらに出演者との契約には「使用期間」「使用媒体」が定められています。
使用期間が切れた広告動画をポートフォリオに載せ続けると、出演契約の範囲を超えた利用になる可能性があります。ここは制作者の権利意識だけでは判断できず、発注者側の契約状況を確認しないと分かりません。実績の見せ方を考えるとき、この「素材ごとに期限がある」という前提を落とすと、後から掲載停止を求められることになります。
出せる仕事と出せない仕事を仕分ける手順
感覚で判断せず、手順にして一度だけ棚卸しすると、以降の実績更新が驚くほど楽になります。制作本数が増えてから遡って整理するのは大変なので、早い段階で型を作っておくのが合理的です。
ステップ1 契約書と発注書をすべて並べる
案件ごとに、業務委託契約書、NDA、発注書、メールでの合意事項を集めます。クラウドソーシング経由の案件なら、サービスの利用規約に守秘義務の定めがあることも多いので、それも確認対象です。
チェックするのは次の4点です。秘密保持の対象範囲がどう定義されているか、取引の存在自体の開示を禁じているか、成果物の著作権が誰にあるか、そして実績公開について書かれた条項があるか。実績公開に触れた条項が存在しない契約が実は一番多く、その場合は「禁止されていないが、許諾も取れていない」というグレーな状態になります。
ステップ2 公開状態を3つに分類する
集めた案件を、次の3つに振り分けます。この分類は一度作っておくと、提案のたびに使い回せます。
| 分類 | 状態 | 見せ方 |
|---|---|---|
| A 全面公開可 | 社名も動画も出せる | 動画を埋め込み、役割と課題を添える |
| B 条件付き公開 | 社名は出せない、動画は限定共有可 | 業種と規模だけ書き、面談時にのみ再生 |
| C 非公開 | 存在自体を言えない | 別の形式で能力を示す |
Bの「限定共有」は見落とされがちですが、実務では最も使える枠です。Web上に常時公開はできなくても、選考の場でその場だけ再生するのは許諾が取りやすい。パスワード付きの限定ページや、面談時に画面共有で見せる形なら、拡散リスクが低いので発注者側も判断しやすくなります。
ステップ3 許諾を取りに行く言い方を決める
Cに分類した案件でも、聞いてみたら許諾が出ることがあります。聞かずに諦めている案件が実績の中に埋もれているのは、単純にもったいない。
依頼のメールは短くて構いません。何を、どこに、どういう形で載せたいのかを具体的に書き、判断しやすくするのがコツです。
「〇〇株式会社 △△様 いつもお世話になっております。□□です。先日納品した商品紹介の動画について、制作実績としてポートフォリオへの掲載許可をいただけないかご相談です。掲載を希望する内容は、御社名、業種、動画の尺、担当した工程(構成・編集・書き出し)の4点です。配信データや企画意図には触れません。動画そのものの掲載が難しい場合は、社名を伏せて『食品メーカーの商品紹介動画』という表記に変えることも可能です。ご判断いただければ幸いです。」
ポイントは、断りやすい選択肢を先に用意しておくことです。「載せていいですか」だけだと社内確認の手間が発生してNoになりやすい。「社名なしなら可」という中間案を提示すると、担当者が自分の裁量で判断できるので通りやすくなります。
ステップ4 更新のタイミングを決めておく
許諾は永久ではありません。出演者の契約期間、キャンペーンの終了、担当者の異動などで状況は変わります。年に1度は実績ページを見直し、掲載中の案件について公開状態が変わっていないかを確認する運用にしておくと安全です。
出せない仕事を伝える5つの方法
ここからが本題です。Cに分類された案件、つまり社名も動画も出せない仕事を、どうやって発注者に伝えるか。答えは「作品の代わりに判断を見せる」ことに集約されます。
方法1 課題と判断のセットで書く
広告動画の発注者が知りたいのは、綺麗な映像が作れるかではありません。自社の商品を売るための動画を作れるかどうかです。だから、作品を見せられないなら、課題設定と判断の中身を書けばいい。
書き方の型はこうです。「業種」「動画の用途」「与えられた制約」「取った判断」「その理由」の5項目。たとえば「化粧品ブランドの新商品告知動画。既存の商品写真しか素材がなく、撮影予算はゼロ。静止画のパンとズームだけで構成するとありがちになるため、成分の質感を伝えるカットだけモーショングラフィックスで作り、冒頭2秒に置いた。理由は、スキップ可能な広告枠で最初に商品カテゴリを認識させる必要があったため」。
これなら守秘義務に触れる情報を出さずに、判断力を示せます。発注者は「この人は制約の中で考えられる」と読み取る。動画の完成品を見るより、こちらのほうが伝わることすらあります。
方法2 再現カットを自主制作で作る
出せない案件で使った技術を、別の題材で作り直す方法です。架空の商品や、権利がフリーな素材を使って、同じ構成、同じ編集技法の動画を短く作ります。
注意点は、実案件をそのまま複製しないことです。構成もコピーすると、実質的に成果物の流用になります。作るべきなのは「技法の証明」であって「案件の再現」ではありません。カット割りのテンポ、テロップの入れ方、色の作り方といった技術的な要素だけを引き継ぎ、題材はまったく別のものにします。
自主制作は実績として弱いと言われがちですが、広告動画に限れば話は別です。ある編集者向けの解説記事では、ポートフォリオの定義がこう説明されています。
ポートフォリオというのは自己紹介動画や中途半端な練習動画、人の作品を完コピした動画のことではありません。自分で考え完成させた作品の集まりです。自主制作や実際に仕事としてやった制作実績の集合体です。 出典: note.com
自分で課題を設定して完成させたなら、それは自主制作でも実績です。逆に、実案件であっても指示通りに手を動かしただけの作業は、実績として語れる中身が薄くなります。
方法3 業種と役割だけの一覧表にする
社名を出さずに、実績の「量」と「幅」を示す方法です。表にすると一目で把握できるので、提案書の1ページ目に置くと効きます。
| 業種 | 用途 | 尺 | 担当工程 |
|---|---|---|---|
| 食品メーカー | 商品紹介 | 30秒 | 構成・編集・MA |
| 人材サービス | 採用 | 90秒 | 構成・撮影ディレクション・編集 |
| 小売チェーン | 店頭サイネージ | 15秒 | 編集のみ |
| SaaS | 導入事例 | 3分 | 企画・編集・字幕 |
この表の価値は、担当工程を正直に書いている点にあります。「編集のみ」と書くのは弱く見えて損だと感じるかもしれませんが、逆です。全部盛りで書かれた実績表より、工程が分かれている表のほうが信用されます。発注者は自分の案件でどこを任せられるかを見ているので、正確な情報のほうが役に立ちます。
方法4 発注者からの評価コメントをもらう
作品を出せなくても、取引相手の言葉は出せることがあります。「修正のやりとりが少なく助かった」「配信後の差し替えに翌日で対応してもらえた」といった短いコメントを、社名を伏せた形で掲載する。担当者名も「食品メーカー 宣伝担当者様」程度にしておけば、許諾のハードルはかなり下がります。
コメントをもらうタイミングは、納品直後の請求書を送るときが一番自然です。時間が経つと記憶が薄れ、依頼そのものが面倒になります。納品の連絡に一文添えて「もし差し支えなければ、今回のご感想を2行ほどいただけないでしょうか」と書くだけで、返ってくる確率が変わります。
方法5 制作プロセスの資料を見せる
完成した動画は出せなくても、そこに至る過程の資料は作り直せます。企画構成書のフォーマット、絵コンテの書き方、修正管理のシート、素材の命名規則。これらを実案件の中身を抜いた「ひな型」として公開すると、仕事の進め方が伝わります。
広告動画の発注者が制作者に対して最も不安に思うのは、技術ではなく進行管理です。連絡が返ってくるか、修正の回数がどこまでか、納期が守られるか。プロセスの資料は、その不安に直接答える材料になります。技術の証明はサンプル動画に任せ、信頼の証明はプロセス資料に任せる、という役割分担ができます。
発注者が実績のどこを見ているか
見せ方を設計する前に、見る側の視点を押さえておきます。制作者が力を入れたい部分と、発注者が知りたい部分は、しばしばずれています。
完成度より「なぜそうしたか」
映像の完成度は、ある水準を超えると発注者には差が分かりません。カラーグレーディングの精度やトランジションの滑らかさは、同業者には伝わっても、宣伝担当者には伝わらない。一方で、「なぜ冒頭にこのカットを置いたのか」は誰にでも伝わります。
だから実績には必ず説明文を添えます。1本につき3行で十分です。何のための動画か、どんな制約があったか、どこで工夫したか。動画だけを並べたポートフォリオと、説明つきのポートフォリオでは、問い合わせの質がまったく変わります。
自社の業種に近い事例があるか
発注者は自分の業界の事例を探します。食品メーカーの担当者は食品の事例を、BtoBのSaaS企業はBtoBの事例を見たがる。だから実績は業種別に並べ替えられる形にしておくと親切です。
業種が一致する実績がない場合は、「近い構造の案件」に読み替えて提示します。たとえば商品点数が多い小売の事例は、SKUの多いECの案件に応用できます。この読み替えを制作者側から提案できると、実績が少なくても検討の土俵に乗ります。
費用の話は実績の見せ方で決まる
費用の議論は、実績の見せ方と直結しています。工程が明示されていない実績表を出すと、発注者は「全部やってもらえる前提」で予算を組み、後から追加費用の話が出て揉めます。逆に、工程が分かれた実績表を出しておけば、「今回は編集だけお願いしたい」「撮影から入ってほしい」という具体的な相談が最初から来ます。
配信までを含めた予算配分について、制作会社の解説にはこういう指摘があります。
また、配信予算と媒体の組み合わせも重要です。例えば総予算500万円のうち、動画制作に400万円かけて配信に100万円しか残らない、というケースはROIが悪くなりがちです。制作費と同程度から2倍程度の配信予算の確保が一般的です。認知拡大を狙うほど配信側に寄せるイメージで、全体予算を配分しましょう。 出典: cine-mato.com
制作者側がこの構造を理解していると、実績の見せ方も変わります。「配信予算を圧迫しない範囲で作れる」ことを示す実績、つまり短期間で複数パターンを出せる体制を示せると、運用型広告の発注者には刺さります。豪華な1本より、差し替えやすい数本のほうが求められる場面は多い。
実績の見せ方でよくある失敗
現場で繰り返し起きている失敗を、原因ごとに整理します。
失敗1 無断で掲載してトラブルになる
最も多く、最も重い失敗です。「配信されているから公開情報だ」と判断して社名つきで掲載し、発注者から削除を求められるケース。悪意がなくても、契約違反は契約違反です。取引が止まるだけでなく、業界内で話が伝わることもあります。
防ぐ方法はひとつしかありません。掲載前に確認する。確認が取れないなら載せない。この単純なルールを例外なく運用します。判断に迷う案件は、迷った時点でCに分類しておくのが安全です。
失敗2 担当工程を曖昧に書く
チームで作った動画を、あたかも一人で作ったかのように見せる書き方です。「制作」とだけ書いて、実際は編集の一部だけを担当していた、という状態。発注者が打ち合わせで具体的に聞くと、すぐに分かります。
分かった瞬間、それまでの実績すべての信憑性が落ちます。1本の誇張が全体を毀損する構造なので、割に合いません。担当工程は「企画」「構成」「撮影」「編集」「モーショングラフィックス」「MA」「字幕」「書き出し・入稿」くらいの粒度で、実際にやったものだけを書きます。
失敗3 作品を並べるだけで終わる
動画のサムネイルが格子状に並んでいるだけのポートフォリオです。見た目は整いますが、発注者は何も判断できません。前述のとおり、1本ごとに課題と判断を添えるだけで情報量が変わります。
作品数を絞る勇気も必要です。20本を雑に並べるより、6本を丁寧に説明したほうが受注につながります。並べる順番も、得意分野から始めて、幅を示す事例で締めるのが定石です。
失敗4 見るのに手間がかかる
ダウンロードが必要な形式、再生に時間がかかる大容量ファイル、パスワードが分かりにくい限定ページ。発注者は複数の候補を並行して見ているので、手間がかかった時点で後回しにされます。
再生開始まで3秒以内、スマートフォンでも再生できる、リンクを開いた瞬間に何の動画か分かる。この3つを満たすかどうかを、自分以外の端末で必ず確認します。制作者の環境では快適でも、相手の環境では重いということが普通に起きます。
失敗5 更新が止まっている
最終更新が2年前の実績ページは、現役かどうかを疑われます。案件が出せないなら、自主制作でも技術メモでもいいので、動いている形跡を残す。広告動画の分野は媒体の仕様変更が速いので、更新の止まった実績は「今の仕様を知らない人」に見えるリスクがあります。
実績の置き場所をどう選ぶか
見せ方が決まったら、置き場所を決めます。選び方の基準は、更新のしやすさ、権利の管理しやすさ、そして相手にとっての見やすさです。
自前のサイトを持つか、サービスを使うか
自前のサイトは自由度が高く、非公開ページの設計もできます。一方で、作る手間と維持の手間がかかります。ポートフォリオサービスは初期の手間が小さく、同業者の見せ方を参考にできますが、限定公開の細かい制御ができないことがあります。
判断基準はシンプルです。Bに分類した「条件付き公開」の案件が多いなら、限定公開を細かく制御できる自前サイトが向きます。Aの全面公開可が中心なら、サービスを使ったほうが早い。実績の中身によって最適解が変わるので、先に仕分けを済ませてから決めます。
クラウドソーシング上のポートフォリオ機能を併用している制作者も多く、実際に広告動画のジャンルで作品を公開している例が確認できます。
続きを見る Meta広告動画制作例を載せました 出典: lancers.jp
こうした場での公開は集客の導線として機能しますが、そのプラットフォーム内で完結する範囲でしか使えません。提案書に貼るためのURLは、プラットフォームに依存しない場所に持っておくほうが自由が利きます。
提案書に埋め込む形も用意する
ポートフォリオサイトとは別に、案件ごとにカスタマイズできる提案資料を用意しておくと強いです。相手の業種に近い実績だけを抜き出し、その案件の課題に対する初期案を1枚添える。この形は返信率が明確に上がります。
汎用のポートフォリオは「見つけてもらう」ため、案件別の提案資料は「決めてもらう」ため。役割が違うので、両方持っておきます。
見せ方を整える順番
順番を間違えると時間を無駄にします。おすすめの順番は、公開可否の仕分け、説明文の追加、置き場所の整備、デザインの調整、という流れです。デザインから入る制作者が多いのですが、中身が整理されていないページをいくら綺麗にしても、発注者の判断材料は増えません。
実績づくりと案件選びをつなげて考える
実績の見せ方を整えるだけでは、出せる実績そのものは増えません。受注の段階から「出せる案件」を意図的に混ぜる設計が必要です。
契約前に実績公開の可否を確認する
見積もりや条件の擦り合わせの段階で、「制作実績としての掲載可否」を確認事項に入れておきます。受注後に頼むと交渉になりますが、契約前なら条件の一部として自然に扱えます。掲載不可の案件を受けないという意味ではなく、可否を把握したうえで受けるという話です。
掲載可の案件と掲載不可の案件のバランスを、自分の中で決めておくと運用しやすくなります。すべて掲載不可の案件で埋まると、次の営業材料がなくなります。
隣接分野の知識が実績の説得力を上げる
広告動画の制作者は、映像技術だけでなく配信側の知識があると評価が変わります。運用型広告の仕組み、クリエイティブのテスト設計、計測の考え方。このあたりを理解している制作者は、実績の説明文の質が明確に違います。
マーケティング領域の周辺知識をどう業務に結びつけるかは、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事のページで、案件で求められる役割の広がりとして整理されています。動画を作るだけの依頼から、配信改善まで含む依頼へと守備範囲を広げたい場合、こうした職種の輪郭を把握しておくと提案の幅が出ます。
また、生成AIを使った制作フローの相談を受ける機会も増えています。ツールの導入や業務への組み込みを支援する仕事の内容は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事にまとまっており、映像制作者が制作以外で価値を出す道筋を考えるうえで参考になります。
相場観は自分の分野の外にも持っておく
自分の職種の相場だけを見ていると、判断の基準が業界の慣行に引っ張られます。統計に基づく職種別の年収データは視野を広げる材料になり、たとえば著述家,記者,編集者の年収・単価相場では、企画や構成といった上流工程を担う職種の水準が確認できます。広告動画で構成から入る仕事は、この領域と地続きです。
技術寄りの工程を強化したい場合は、ソフトウェア作成者の年収・単価相場も参考になります。動画の自動生成や配信の自動化に手を伸ばす制作者が増えており、隣接職種の水準を知っておくと、自分のスキル投資の方向を決めやすくなります。
海外案件では実績の見せ方がさらに重要になる
言語の壁がある取引では、実績が判断材料のほぼすべてになります。日本語での説明が読まれない前提で、映像そのものと数字で伝える設計が必要です。海外のクライアントとやりとりする際の実務は、Upworkの使い方ガイド|日本人フリーランスが海外案件を取る方法で、プロフィールの作り方から提案の進め方まで具体的に説明されています。広告動画は言語依存が低い成果物なので、実績の見せ方さえ整えば国境を越えやすい分野です。
市場を長く見てきた立場からの観察
フリーランスと在宅ワークの市場を20年見てきた運営者の立場から言えば、実績を出せないことを理由に仕事が途切れる人は、実はそれほど多くありません。途切れるのは、実績を出せないまま「何も伝えていない」人です。
長く続いている制作者は、出せない案件でも必ず何かを言語化しています。業種、制約、判断、進め方。この4つを説明できる制作者には、発注者が「この人なら任せられる」と判断する材料が揃います。逆に、公開できる作品をたくさん持っていても、なぜそう作ったのかを説明できない人は、単価の勝負に巻き込まれやすい。作品の見栄えは比較されますが、判断の質は比較しにくいからです。
もうひとつ、手取りの構造についての観察があります。仲介手数料が乗る取引では、発注者が出した予算のうち一定割合が制作者に届く前に引かれます。手数料0%の直接取引では、同じ予算でも発注者はより多くの本数を頼めますし、制作者の手取りは厚くなります。運営者として見てきた限りでは、この差が効いてくるのは長く続く関係のほうです。単発では小さな差でも、継続的に発注が来る関係では積み上がります。そして継続の入口になるのが、最初に見せた実績の説明の丁寧さです。作品の点数ではなく、説明の解像度が次の仕事を呼ぶ、という順番になっています。
実績の見せ方を整えるチェックリスト
最後に、手を動かす順番を整理します。上から順にひとつずつ潰していけば、実績ページは形になります。
第1に、手元の全案件について契約書を確認し、A(全面公開可)、B(条件付き)、C(非公開)に分類する。第2に、Cの中から許諾を取りに行けそうな案件を選び、社名なしの代替案を添えて打診する。第3に、Aの案件それぞれに、課題と制約と判断を書いた説明文を3行ずつ添える。第4に、Bの案件を業種と役割だけの一覧表にまとめる。第5に、Cの技術を使った再現カットを自主制作で作る。第6に、担当工程の表記を実態に合わせて正確に直す。第7に、スマートフォンでの表示速度と再生を実機で確認する。
この7つを終えたら、実績は「量」ではなく「読める情報」として機能し始めます。広告動画の実績の見せ方で本当に問われているのは、何本作ったかではなく、その仕事を自分の言葉で説明できるかどうかです。出せない仕事が多い制作者ほど、この説明の力が武器になります。
よくある質問
Q. 配信中の広告動画をポートフォリオに載せてもよいですか?
配信されていることと、実績として掲載してよいことは別です。契約書の秘密保持条項に「取引の存在自体の開示禁止」が含まれていないか、出演者の使用許諾期間が続いているかを確認してください。判断がつかない場合は発注者に確認し、確認が取れないなら載せない運用が安全です。社名を伏せた業種表記なら許諾が出ることもあります。
Q. 実績がほとんどない状態で広告動画の案件に応募できますか?
応募できます。募集要項に参考動画が掲載されている場合、その構成を踏まえた短い自主制作を作って添えると、技術と理解度の両方を示せます。実案件を複製するのではなく、題材を変えて技法だけを引き継ぐのがポイントです。落選しても作品はポートフォリオとして残るため、応募自体が実績づくりになります。
Q. 担当した工程が編集だけの場合、実績として弱くなりませんか?
弱くなりません。むしろ工程を正確に書いた実績表のほうが信用されます。発注者は自分の案件でどこを任せられるかを見ているため、正確な情報のほうが役に立つからです。「制作」とだけ書いて後から実態が分かると、他の実績まで疑われます。企画、構成、撮影、編集、MA、字幕といった粒度で正直に書いてください。
Q. 実績ページには何本くらい載せるのが適切ですか?
数より説明の密度です。作品を雑に20本並べるより、6本前後を選び、それぞれに課題と制約と判断を3行添えるほうが問い合わせにつながります。並べる順番は得意分野から始め、幅を示す事例で締める形が定石です。業種別に並べ替えられるようにしておくと、発注者が自社に近い事例を見つけやすくなります。
Q. 発注者から実績公開の許可をもらうには、どう伝えればよいですか?
何を、どこに、どういう形で載せたいのかを具体的に書き、断りやすい代替案を同時に示すのが有効です。社名、業種、尺、担当工程の4点に限って掲載したい旨を伝え、社名が難しければ業種表記に変える案を添えます。依頼するタイミングは納品直後が最も自然で、時間が経つほど社内確認の手間を理由に断られやすくなります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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