取締役が辞めるときに議事録が要る場面と要らない場面

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
取締役が辞めるときに議事録が要る場面と要らない場面

この記事のポイント

  • ✓取締役辞任の株主総会議事録を探している人に向けて
  • ✓辞任そのものには総会決議が不要であること
  • ✓それでも議事録が必要になる場面

「取締役辞任 株主総会議事録」で検索する人の多くは、辞任を承認する決議が要ると思っている。結論から書くと、要らない。取締役の辞任は本人の一方的な意思表示で効力が生じるので、株主総会が承認するかどうかとは関係がない。それでも議事録を作る場面は実際にある。後任を選ぶときだ。さらに、辞任を伝えたのに登記できないという状況も起こる。取締役の人数が足りなくなる場合だ。この記事では、辞任で議事録が要る場面と要らない場面を切り分けたうえで、辞任届の書き方、印鑑証明書の扱い、登記の期限と費用までを整理する。

辞任は一方的に成立する。だから承認決議は要らない

まず仕組みから確認する。会社法は、株式会社と役員および会計監査人との関係は委任に関する規定に従うと定めている。取締役は会社に雇われているのではなく、会社から経営を委任されている立場だ。

そして委任について、民法は各当事者がいつでもその解除をすることができると定めている。取締役の側からいつでも辞められるし、会社の側からもいつでも解任できる。会社からの解任は株主総会の決議によることになっているが、取締役から辞めるほうには決議の手続がない。

だから辞任には、株主総会の承認も取締役会の承認も要らない。辞任の意思表示が会社に届いた時点で、原則として効力が生じる。誰に届ければよいかというと、会社の代表者、通常は代表取締役になる。代表取締役自身が辞任する場合は、他の取締役に伝えることになる。

ここを取り違えて「辞任承認の件」という議案を総会にかけると、決議で否決されたら辞められないような見え方になってしまう。実際にはすでに辞任は成立しているので、決議の有無は効力に影響しない。

ただし、辞任のタイミングによっては損害賠償の話が出ることがある。民法は、委任の解除をした者は、相手方に不利な時期に委任を解除したときなどには相手方の損害を賠償しなければならないとし、ただしやむを得ない事由があったときはこの限りでないと定めている。実際に賠償が認められるかは事情によるので、対立がある辞任では弁護士に相談したほうがいい。

それでも議事録が必要になる場面

辞任そのものに決議が要らないのに、なぜ議事録のひな形を探すことになるのか。理由は3つある。

1つ目は後任を選ぶ場合。取締役が辞めた結果、法律や定款で定めた員数を下回るなら、新しい取締役を選ばなければならない。取締役を選ぶのは株主総会の決議なので、ここで初めて株主総会議事録が登場する。検索上位に並ぶひな形の多くが「辞任に伴う取締役選任」という形になっているのは、このためだ。

2つ目は定款を変える場合。「当会社の取締役は3名以内とする」のような員数の定めがあり、辞任によってその下限を割るなら、定款を変えて員数を減らす道もある。定款変更は株主総会の特別決議なので、こちらも議事録が要る。

3つ目は記録として残す場合。決議は要らなくても、誰がいつ辞めたかを社内の記録として議事録に残す会社はある。この場合は決議事項ではなく報告事項として書く。登記の添付書類としては辞任届のほうが使われるので、議事録に書いたからといって辞任届が不要になるわけではない。

逆に言えば、取締役が4人いて1人が辞め、定款上の員数も法律上の員数も満たしたままなら、株主総会を開く必要はない。辞任届と登記申請だけで手続は終わる。

辞任届の書き方

登記の添付書類として実際に使うのは、株主総会議事録ではなく辞任届だ。形式に決まりはないが、次の要素があれば足りる。

辞任届

このたび、一身上の都合により、
令和〇年〇月〇日をもって貴社の取締役を辞任いたします。

令和〇年〇月〇日

住所 東京都〇〇区〇〇2丁目2番2号
氏名 △△ △△  印

株式会社〇〇 御中

押さえるべき点は3つある。

辞任の日付を明記する。いつ辞めたかが登記事項になる。「令和〇年〇月〇日をもって」と書いておけば、その日が退任日になる。日付を書かないと、会社に届いた日が辞任日と扱われることになり、あとから確定しにくい。

理由は「一身上の都合」で足りる。詳しく書く必要はない。むしろ詳しく書くと、対立がある場面では材料になる。

宛先は会社。代表取締役個人ではなく会社宛にする。代表取締役が辞任する場合も宛先は会社でよい。

登記申請では、この辞任届の原本を添付する。会社に控えを残したいなら原本還付を請求する。法務局は、原本をコピーしたものに、申請書に押印した人が「原本に相違ありません。」と記載して記名したものを、必ず原本とともに提出してくださいと案内している。

辞任届をどう渡すかも決めておきたい。話し合いができている相手なら手渡しで足りるが、関係がこじれている場合は、いつ会社に届いたかが後で争点になる。辞任は意思表示が会社に届いた時点で効力が生じるので、届いた日を残せる方法で送るほうが安全だ。配達証明を付けた内容証明郵便にすれば、出した内容と届いた日の両方が記録に残る。控えも手元に残るので、あとから登記が放置されたときの資料にもなる。送り先は会社の本店で、登記事項証明書に記載されている所在場所を使う。

印鑑証明書が要る辞任届と、要らない辞任届

ここが辞任の登記でいちばん見落とされる部分になる。商業登記規則は次のように定めている。

代表取締役もしくは代表執行役または取締役もしくは執行役、登記所に印鑑を提出した者がある場合はその印鑑を提出した者に限り、登記所に印鑑を提出した者がない場合は会社の代表者に限る、の辞任による変更の登記の申請書には、その者が辞任を証する書面に押印した印鑑について市町村長の作成した証明書を添付しなければならない。

ただし、登記所に印鑑を提出した者がある場合であって、その書面に押印した印鑑と、その者が登記所に提出している印鑑とが同一であるときはこの限りでない。

読み替えると、こうなる。

・代表取締役が辞任するときは、辞任届に会社実印、つまり登記所に届け出ている印鑑を押すか、そうでなければ個人の実印を押して印鑑証明書を付ける ・平の取締役が辞任するときは、登記所に印鑑を提出していない人であれば、辞任届に実印も印鑑証明書も要らない。認印で足りる

代表取締役が辞める場面では、会社実印を押してもらうのがいちばん簡単だ。会社実印を押せば印鑑証明書が省ける。ただし、代表者が交代する場面では会社実印の引き渡しと辞任届の作成がぶつかりやすい。辞任届に押印してもらう順番を先に決めておきたい。

対立がある辞任では、この規定が実務上の壁になることがある。辞任する側が印鑑証明書を出さない、あるいは実印を押さないという状況だ。会社実印が会社側にあるなら、その印を押した辞任届を本人に作ってもらう形で解決できることが多い。ただし個別の事情で扱いが変わるので、こじれている場合は司法書士か弁護士に相談したほうが早い。

なお、この扱いは辞任の場合の規定だ。任期満了による退任では辞任届そのものが不要で、任期満了を示す定款と株主総会議事録で足りる。辞任と任期満了は登記原因が違うので、どちらなのかを先に確定させておきたい。

後任がいないと辞任が登記できない

辞任届を出したのに退任の登記ができない、という状況がある。会社法の次の規定が理由だ。

役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。 出典: laws.e-gov.go.jp

実務では権利義務取締役と呼ばれる状態だ。辞任したのに、後任が就任するまで取締役としての権利と義務が残る。責任も残る。

どういうときにこうなるか。会社法は、取締役会設置会社においては取締役は3人以上でなければならないと定めている。取締役会を置いていない会社では取締役は1人でも構わない。加えて、自社の定款に「取締役は3名以上とする」のような下限の定めがあれば、それも員数になる。

たとえば取締役会設置会社で取締役が3人しかおらず、そのうち1人が辞任すると2人になる。法律の下限を割るので、後任が就任するまで辞めた人は権利義務取締役として残る。この状態では退任の登記ができない。

解決の道は3つある。

・後任の取締役を選任する。株主総会を開いて新しい取締役を選ぶ。ここで株主総会議事録が要る ・定款を変えて員数を減らす。取締役会を廃止する定款変更まで行えば、取締役1人でも足りるようになる。こちらも株主総会の特別決議なので議事録が要る ・一時役員の職務を行うべき者の選任を裁判所に申し立てる。会社法は、役員が欠けた場合などにおいて、裁判所は必要があると認めるときは利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者を選任することができると定めている。誰も引き受け手がいない場面の最後の手段になる

辞任を考えている人にとって、ここはかなり重い話になる。辞めたつもりでいたのに、何年も経ってから会社の債務について責任を問われる例がある。辞任届を出すときは、自分が抜けたあとの人数が法律と定款の下限を満たすかを先に確認しておきたい。

辞任と解任と任期満了は、まったく別の手続

登記原因を取り違えると書類が全部そろわないので、3つの違いを整理しておく。

辞任は本人から辞める場合だ。決議は不要で、添付書類は辞任届になる。退任日は辞任の効力が生じた日。

解任は会社から辞めさせる場合だ。会社法は、役員および会計監査人はいつでも株主総会の決議によって解任することができると定めている。つまり解任には株主総会の決議が要る。決議要件は選任と同じで、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数、定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。この場合は株主総会議事録が添付書類になり、株主リストも要る。

解任にはもう1つ注意点がある。会社法は、解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し解任によって生じた損害の賠償を請求することができると定めている。任期の途中で理由なく切れば、残りの任期分の報酬相当額を請求される可能性がある。任期を10年にしている会社では、この金額が大きくなりやすい。

任期満了は期間が来て自動的に退任する場合だ。書類としては、任期を定めた定款と、任期が満了したことが分かる株主総会議事録で示す。辞任届は要らない。同じ人が続けるなら、そのまま再任の手続になる。

辞めてもらう話し合いの場面では、辞任として処理するか解任として処理するかで、必要な書類も後々のリスクもまったく変わる。どちらで進めるかを先に決めてから書類を作り始めたい。

後任を選ぶ株主総会の議事録ひな形

後任が必要なケースの議事録を示す。辞任の報告と、後任の選任を1つの総会で行う形だ。

臨時株主総会議事録

1 日時   令和〇年〇月〇日 午前10時00分から午前10時30分まで
2 場所   当会社本店会議室
         (東京都〇〇区〇〇1丁目1番1号)
3 出席者
   発行済株式の総数                  1,000株
   議決権を行使することができる株主の数      3名
   総株主の議決権の数                 1,000個
   出席株主の数(委任状による者を含む)      3名
   出席株主の議決権の数               1,000個
4 出席役員 取締役 〇〇 〇〇
           取締役 △△ △△
5 議長    取締役 〇〇 〇〇

議長は、上記のとおり定足数を満たしている旨を述べ、
本総会の開会を宣し、議事に入った。

【報告事項】
議長は、取締役 □□ □□ から令和〇年〇月〇日付けで
辞任届が提出され、同日をもって取締役を退任した旨を
報告した。

【決議事項】
第1号議案 取締役1名選任の件

議長は、前記の退任により取締役が定款所定の員数を
欠くこととなるため、後任の取締役1名を選任したい旨を
述べ、その可否を議場に諮ったところ、出席株主の議決権
の全員一致をもって次のとおり承認可決した。

   取締役 ◇◇ ◇◇(新任)

なお、被選任者は席上その就任を承諾した。

以上をもって本総会の全議案の審議を終了したので、
議長は午前10時30分閉会を宣した。

上記の決議を明確にするため、この議事録を作成する。

令和〇年〇月〇日
株式会社〇〇 臨時株主総会

議長 兼 議事録の作成に係る職務を行った取締役
                            〇〇 〇〇  印

辞任を報告事項として書き、決議事項は後任の選任だけにしてある。辞任を決議事項にしないのは、決議が要らないからだ。

議事録の記載項目そのものは、会社法施行規則が定めている内容に従う。株主総会が開催された日時および場所、議事の経過の要領およびその結果、出席した取締役等の氏名、議長の氏名、そして議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名。最後の2つは抜けやすいので、ひな形のように明示しておくと安全だ。

登記に必要な書類を並べる

辞任と後任選任をまとめて登記する場合、用意するものは次のようになる。

・変更登記申請書 ・辞任した取締役の辞任届。代表取締役の辞任なら会社実印を押すか、個人の実印と印鑑証明書 ・後任を選んだ株主総会議事録 ・後任の就任承諾書 ・後任の印鑑証明書または本人確認証明書 ・株主リスト ・収入印紙貼付台紙

後任の就任承諾書に印鑑証明書が要るかどうかは、取締役会の有無で変わる。商業登記規則は、取締役の就任、再任を除く、による変更登記で就任承諾書に押印した印鑑の市町村長作成の証明書を求めており、取締役会設置会社ではこれを代表取締役または代表執行役と読み替えると定めている。つまり取締役会を置いていない会社では取締役全員、置いている会社では代表取締役だけが対象になる。

印鑑証明書を添付しない人については、就任承諾書に記載した氏名および住所と同一の氏名および住所が記載された、市町村長その他の公務員が職務上作成した証明書が必要になる。住民票の写しなどがこれに当たり、本人が原本と相違ない旨を記した謄本でもよい。

株主リストは、後任の取締役を株主総会で選んでいる以上、必ず要る。法務省は、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合に株主リストの添付が必要になると案内している。書く範囲は、議決権数の上位10名の株主か、議決権割合が3分の2に達するまでの株主か、いずれか少ない方だ。総会を欠席した株主も含める点は間違えやすい。

辞任だけで後任を選ばない場合、株主総会の決議がないので株主リストは要らない。辞任届と申請書だけで足りる。

期限と費用、そして放置したときに起きること

登記の期限は決まっている。法務局は、株式会社の役員変更登記の場合、登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内にしなければならないと案内している。辞任の場合、事由が発生した日は辞任の効力が生じた日になる。

登記すべき期間内に登記を怠り、その後に登記申請をする場合であっても、そのことだけをもって申請が却下されることはありませんが、会社・法人の代表者に対して、裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。 出典: houmukyoku.moj.go.jp

過料は会社ではなく代表者個人に科される。辞めた人ではなく、登記をしなかった会社の代表者が対象になる。

さらに法務局は、最後の登記から12年を経過している株式会社はみなし解散の登記の対象になると案内している。役員の変更があったのに登記していない会社は、この12年に引っかかりやすい。

登録免許税は、登録免許税法の別表により、取締役や代表取締役に関する事項の変更登記が1件につき3万円、資本金の額が1億円以下の会社については1万円とされている。辞任と後任選任を同じ申請で行っても、役員変更として1件の扱いだ。

収入印紙で納めるときの注意もある。法務局は、登録免許税を収入印紙で納付する場合には収入印紙を貼付台紙等に貼付してくださいとしたうえで、その際に印紙を汚したり印紙に割印をした場合、その印紙は使用できなくなるとしている。契約書の感覚で割印を押すと、その印紙が無駄になる。

辞任した本人にとっていちばん怖いのは、登記が放置されることだ。登記簿に自分の名前が残ったままだと、対外的には取締役として扱われうる。会社が登記をしてくれない場合、辞任した本人が単独で登記を申請することは原則としてできないため、会社に対して登記を求める手続が必要になる。このあたりは事案ごとに取れる手が違うので、放置されているなら早い段階で司法書士か弁護士に相談したほうがいい。

合同会社の業務執行社員は、正当な事由がないと辞任できない

ここまで株式会社の取締役を前提に書いてきた。合同会社は仕組みが違い、しかも辞めにくい方向に違う。株式会社から合同会社に移った人がいちばん驚く部分なので、分けて整理しておく。

業務を執行する社員を定款で定めている場合、会社法は次のように定めている。

業務を執行する社員を定款で定めた場合には、その業務を執行する社員は、正当な事由がなければ、辞任することができない。 出典: laws.e-gov.go.jp

株式会社の取締役はいつでも辞任できるのに、合同会社で定款に名前が書かれている業務執行社員は、正当な事由がないと辞任できない。ただしこの規定は定款で別の定めをすることを妨げないとされているので、定款に「業務執行社員はいつでも辞任することができる」と書いてあればその定めが優先する。自社の定款を先に開いて、そこに何と書いてあるかを確かめるのが出発点になる。

解任の側も対称になっている。定款で定めた業務執行社員は、正当な事由がある場合に限り、他の社員の一致によって解任できる。株式会社のように株主総会の決議でいつでも解任、という形にはならない。

さらに、業務の執行から降りるのと、社員そのものをやめるのは別の話だ。社員をやめるほうは退社と呼ばれ、条件が決まっている。存続期間を定款で定めなかった場合、各社員は事業年度の終了の時に退社できるが、6か月前までに会社へ予告しなければならない。この定めも定款で変えられる。なお、やむを得ない事由があるときは、予告の期間にかかわらずいつでも退社できるとされている。

このほかに、本人の意思とは関係なく退社になる場合もある。定款で定めた事由の発生、総社員の同意、死亡、合併による消滅、破産手続開始の決定、解散、後見開始の審判、除名。このうち破産手続開始の決定から後見開始の審判までについては、これらの事由では退社しない旨を定款で定めておくこともできる。

退社すると、持分の払戻しを受けられる。出資の種類を問わず払戻しを請求でき、金銭で払い戻すこともできる。計算は退社の時における会社の財産の状況に従う。ここが株式会社と決定的に違う点だ。取締役が辞任しても会社から金銭は出ていかないが、合同会社の社員が退社すると会社の財産が外に出る。残る側にとっては資金繰りの問題になるので、辞める話が出た時点で金額の目安を先に立てておきたい。

登記の扱いも押さえておく。業務を執行する社員の氏名、代表社員の氏名および住所は、いずれも合同会社の登記事項だ。そして業務執行社員を定款で定めているなら、その人を外すには定款変更、つまり原則として総社員の同意も必要になる。登記だけで済む話ではない。登録免許税は、資本金の額が1億円以下の会社の社員に関する事項の変更であれば1件につき1万円、期限は変更が生じた日から2週間以内で、ここは株式会社と同じだ。

辞任した日から先、会社側に残る手続を日付で追う

登記が終われば手続は完了、と考えていると抜けが出る。辞任日を4月10日として、そこから先を並べてみる。

4月10日。役員報酬の支給を止める。月の途中で辞任した場合、その月の報酬をどう扱うかは事前に決めておく。定期同額給与の扱いに影響することがあるので、金額を動かすなら顧問の税理士に先に確認したい。

4月10日から5日以内。役員報酬がなくなり、健康保険と厚生年金の被保険者の要件を外れるなら、被保険者資格喪失届を年金事務所へ出す。届出の期限は事実が発生した日から5日以内と短い。保険証の回収も合わせて必要になる。会社に残って従業員になる場合や、他の役職で報酬が続く場合は喪失にならないので、実態で判断する。

4月10日から2週間以内。登記を申請する。登録免許税は資本金1億円以下の会社で1万円だ。

登記完了後すぐ。新しい登記事項証明書を取る。代表取締役が交代したのなら、会社の印鑑を届け出し直す。銀行口座の代表者、許認可の変更届、取引先との契約書の名義も順に直していく。

辞任した月の翌月10日まで。退職慰労金を払って源泉徴収したなら、その所得税と復興特別所得税を納める。納期の特例の承認を受けている会社は、まとめて納める期限になる。

翌年1月末まで。退職金を払った場合の支払調書や源泉徴収票を提出する。住民税を特別徴収していたなら、給与支払報告に係る給与所得者異動届出書を市区町村へ出す。こちらは辞任した月の翌月10日までが期限とされていることが多い。

辞任という出来事は1日で終わるが、こうして並べると1か月から10か月にわたって手続が続く。カレンダーに書き出しておくのが確実だ。期限や様式は制度の見直しで変わることがあるので、実際に出す前に年金事務所や市区町村の案内で今の記載を確かめてほしい。

退職慰労金を渡すなら、株主総会の決議が要る

長く務めた取締役が辞めるとき、退職慰労金を渡す会社がある。ここは辞任そのものとは別に、決議が必要になる場面だ。

会社法は、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益について、定款に定めていないときは株主総会の決議によって定めると規定している。退職慰労金も職務執行の対価として扱われるため、実務では株主総会の決議を経て支給する形が取られている。辞任そのものには決議が要らないが、慰労金を渡すなら決議が要る、という組み合わせになる。

決議の仕方には幅がある。金額まで総会で決める形もあるが、総額の上限や算定の基準だけを総会で決めて、具体的な金額、支給の時期、支給の方法を取締役会に一任する形も広く使われている。一任するなら、議事録にどこまで一任したのかをはっきり書き残しておく。あとから「決議の範囲を超えていないか」を問われる場面で、この記載が根拠になる。

税務上は、退職慰労金は原則として退職所得になる。退職所得は給与と計算方法が違い、勤続年数に応じた控除がある。源泉徴収する額は、本人から退職所得の受給に関する申告書を受け取っているかどうかで変わる。受け取っていない場合は一律の税率で計算することになり、本人が確定申告で精算する形になる。

帳簿の立て方はこうなる。借方に役員退職慰労金として支給額を計上し、貸方に源泉徴収した分の預り金と、実際に振り込んだ普通預金を並べる。役員退職慰労金は消費税の対象外の取引だ。支給した事業年度の損金にできるかどうかは、決議した時期と実際に支払った時期の関係で扱いが分かれる。

そして上限の問題がある。法人税法は、役員に支給する給与の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は損金に算入しないと定めている。退職慰労金も、同業同規模の会社と比べて過大とされれば、その部分は経費として認められない。最終報酬月額、勤続年数、功績に応じた倍率を掛けて算定する方法が実務で使われているが、いくらなら安全という線は会社の事情で変わる。金額を決める前に税務署か税理士に確認してほしい。

20年この市場を見てきた立場からの観察

在宅ワークとフリーランスの市場を長く運営してきた立場から見ると、役員の辞任でもめる会社には共通点がある。辞める話が出るずっと前から、書類の整備が止まっている。

定款がどこにあるか分からない。前回の役員変更がいつだったか誰も覚えていない。登記事項証明書を最後に取ったのが何年も前。この状態で辞任の話が持ち上がると、まず現状を調べるところから始まるので、2週間の登記期限があっという間に過ぎる。

逆に、手続が滞りなく進む会社は例外なく、定款と登記事項証明書の最新版を手元に置いている。年に1度、決算のタイミングでまとめて確認する習慣がある。書類を整える作業そのものは半日で終わるのに、やっていないと辞任のたびに数日を失う。

もう1つ、書類まわりを外に出す判断も現実的になった。事務代行や書類作成を業務委託で受ける人は増えており、月に数時間だけ頼む形も普通になっている。ここで効くのが取引の構造だ。仲介手数料が乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼側はより多くを頼めるし、受ける側の手取りは厚くなる。安く買い叩くという話ではなく、支払った金額のうち実際に働いた人に届く割合が変わる。手数料0%の取引が続きやすいのはこの点で、継続して同じ人に頼めるようになると、数年に1度しか出番のない書類ほど品質が安定する。

頼む相手を、相場と資格から逆算する

自分でやるか外に出すかは、作業時間を金額に換算して考えると決めやすい。

文書作成を担う職種の水準は、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で職種単位に確認できる。議事録や社内規程の整備はこの領域と重なる仕事だ。自分の時間単価がこれを上回るなら、外に出したほうが会社としての採算は合う。

書式を扱う基礎力の目安としては、ビジネス文書検定が分かりやすい。社内文書の形式や構成を体系的に扱う検定で、事務代行を頼む相手を選ぶときの材料になる。

役員変更の手続を社内の業務フローとして組み直したいなら、AIコンサル・業務活用支援のお仕事が扱う領域に近い。数年に1度しか動かない手続ほど属人化するので、書式と手順をセットで整理してもらう価値がある。

辞任した役員の住所や印鑑証明書といった個人情報の扱いまで見直すなら、AI・マーケティング・セキュリティのお仕事の領域が参考になる。退任した人の個人情報をいつまで持つかは、決めておかないと曖昧になりやすい。

役員が抜けたあとに未収金や未払いが残っている場合は、未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に回収手段と費用の目安が整理されている。辞任と債権の整理は同時に発生しやすい。

辞任の手続で詰まりやすい点

最後に、実務で引っかかる箇所を並べておく。

辞任日と登記原因日がずれていないか。辞任届に日付を書いていれば原則としてその日が退任日になる。書いていないと会社に届いた日になり、あとから特定しにくい。

辞める人が抜けたあとの人数が足りるか。取締役会設置会社なら3人以上。定款に員数の定めがあればそれも満たす必要がある。足りないと権利義務取締役として残り、登記ができない。

代表取締役の辞任かどうか。代表取締役の辞任届には、会社実印を押すか、個人の実印と印鑑証明書が要る。平の取締役なら認印で足りる。

辞任と任期満了を混同していないか。登記原因が違う。任期満了なら辞任届は要らず、定款と株主総会議事録で示す。

後任を選ぶなら株主リストも要る。辞任だけなら不要だが、総会で選任するなら必要になる。

会社の印鑑カードと印鑑届。代表取締役が交代するなら、会社の印鑑も届け出し直す。印鑑届書には市区町村長が作成した3か月以内の印鑑証明書等を添付する必要がある。

辞任という出来事そのものは1日で終わる。長引くのは、そのあとの人数合わせと書類集めだ。辞任届を書く前に、自社の定款と登記事項証明書を開いて、抜けたあとの体制が成り立つかを確かめておく。そこさえ押さえれば、あとは決まった書類を並べるだけになる。

よくある質問

Q. 取締役の辞任に株主総会の承認は必要ですか?

必要ありません。会社と役員の関係は委任に関する規定に従い、委任は各当事者がいつでも解除できるため、辞任は本人の意思表示が会社に届いた時点で効力を生じます。株主総会議事録が必要になるのは、辞任に伴って後任の取締役を選ぶ場合や、定款で員数を変える場合です。

Q. 辞任届に実印と印鑑証明書は必要ですか?

代表取締役など登記所に印鑑を提出している人が辞任する場合は、辞任届に会社の届出印を押すか、個人の実印を押して印鑑証明書を添付します。登記所に印鑑を提出していない平の取締役であれば、辞任届は認印で足ります。商業登記規則がこの区別を定めています。

Q. 辞任したのに登記できないことがあるのはなぜですか?

会社法上または定款上の取締役の員数を割ってしまう場合、辞任した人は新たな取締役が就任するまで取締役としての権利義務を持ち続けます。取締役会設置会社では取締役が3人以上必要です。この状態を解消するには、後任を選任するか、定款を変えて員数を減らすか、裁判所に一時役員の選任を申し立てます。

Q. 辞任の登記はいつまでにすればいいですか?

法務局は、役員変更登記は登記の事由が発生した時から本店の所在地において2週間以内にしなければならないと案内しています。期間を過ぎても申請自体は受け付けられますが、代表者に対して裁判所から100万円以下の過料に処される可能性があります。登録免許税は資本金1億円以下の会社で1万円です。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月22日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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