役員退職金を決めた議事録|金額の根拠も一緒に残す


この記事のポイント
- ✓役員退職金議事録の書き方を
- ✓決議がないと支給できない理由から整理
- ✓株主総会と取締役会の役割分担
結論から書きます。役員退職金は、株主総会の決議がなければ支給できません。会社に長く貢献したから当然もらえる、というものではなく、決議があって初めて受け取る権利が生まれます。そして、その決議の内容を残す唯一の書類が議事録です。
役員退職金議事録を探してこのページに来た方は、おそらく支給の直前か直後にいます。創業者が引退する、親から子へ代表を交代する、役員のひとりが退任する。どの場面でも、金額が大きいぶん、あとから問題になったときの影響も大きくなります。
この記事で扱うのは3つです。決議と議事録が必要な理由。金額の根拠をどう残すか。そして、経費になる時期と受け取る側の税金。議事録の文例も載せますが、大事なのは文例そのものより、金額の決め方を同じ紙に残しておくことです。ここを飛ばすと、せっかく作った議事録が役に立ちません。
決議がないと、受け取る権利が生まれない
役員退職金は、会社法上は報酬等に含まれます。会社法第361条第1項が、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益について、定款に定めていないときは株主総会の決議によって定める、としているからです。退職金も職務執行の対価として支払われるものなので、この枠に入ります。
つまり、株主総会の決議がないまま支給すると、根拠のない送金になります。実際に、決議がないまま支払われた退職金について、会社から返還を求められるという整理がされることがあります。受け取った側から見れば、いったん受け取ったお金を返すことになるわけで、これは避けたい事態です。
中小企業では、社長が引退するときに「長年の功績に報いて」という空気で金額が決まり、決議の手続きが後回しになることがあります。ところが、代表が交代したあとに前代表と現経営陣の関係が悪化する、相続が起きて相続人が金額の根拠を問う、といった局面で、決議の有無が争点になります。
議事録を作る義務も、会社法第318条第1項が定めています。株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならない、という条文です。報酬の決議と同じく、退職金の決議にも議事録が要ります。
退職金の決議で特徴的なのは、金額が大きいことと、支給が一度きりであることです。毎月の報酬なら、間違っていても翌月から直せます。退職金は直せません。だからこそ、決議の内容と金額の根拠を、その場で紙に残しておく価値があります。
議事録には、金額の根拠も一緒に書く
多くのひな形は、金額と支給時期だけを書く形になっています。それでも会社法上の要件は満たせますが、税務の観点では物足りません。
役員退職金は、不相当に高額な部分が経費になりません。判断の材料は法令で示されています。
二 内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与(法第三十四条第一項又は第三項の規定の適用があるものを除く。以下この号において同じ。)の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額 出典: laws.e-gov.go.jp
見られるのは3つです。その役員が会社の業務に従事した期間。退職の事情。同じ業種で事業規模が似た会社の支給状況。
このうち、議事録に書けるのは前の2つです。在任期間は何年何か月か。どういう事情で退任するのか。定年による勇退か、健康上の理由か、経営体制の刷新か。これらを議事録の本文に書いておけば、あとから金額の妥当性を説明するときの土台になります。
3つ目の同業他社の支給状況は、会社の側では調べにくい情報です。そのため実務では、在任期間と退任時の報酬額から金額を組み立てる方法が広く使われています。最終の月額報酬に在任年数を掛け、さらに一定の倍率を掛けるという計算方法で、功績倍率法と呼ばれています。
この方法は法令に書かれたものではなく、過去の裁判例の中で妥当性の判断材料として扱われてきた考え方です。倍率をいくつにすれば安全という基準が法令にあるわけではありません。議事録にこの計算式を書いておくことには意味がありますが、計算式を書いたから認められる、というものでもありません。金額の妥当性は事情によって変わるため、支給の前に税務署か税理士に自社の数字を見せて確認してください。
そのまま使える文例
臨時株主総会議事録
開催日時 令和◯年◯月◯日 午前10時00分 開催場所 当会社本店会議室 出席状況 発行済株式の総数 200株 議決権を行使することができる株主の数 3名 議決権を行使することができる株主の議決権の数 200個 出席株主数 3名 出席株主の議決権の数 200個 出席役員 取締役 ◯◯◯◯(議長兼議事録作成者) 取締役 △△△△ 監査役 □□□□
議長は定刻に開会を宣言し、上記のとおり本総会は適法に成立した旨を述べ、議案の審議に入った。
第1号議案 退任取締役に対する退職慰労金贈呈の件
議長は、本日をもって取締役を退任する▽▽▽▽氏について、次のとおり説明した。
在任期間 平成◯年◯月◯日から令和◯年◯月◯日まで(◯年◯か月) 退任の事情 健康上の理由による辞任 退任時の役職 代表取締役 退任直前の報酬月額 80万円
議長は、上記の在任期間および在任中の職務の内容、当会社の業績への貢献の程度を踏まえ、同氏に対し退職慰労金として金3,600万円を贈呈したい旨を提案し、その算定の考え方として、退任直前の報酬月額に在任年数および役職に応じた倍率を乗じて算出した旨を説明した。
なお、支給の時期および方法については、当会社の資金繰りの状況を考慮し、取締役会に一任することとしたい旨を併せて提案した。
議長がその可否を議場に諮ったところ、出席株主の議決権の全部の賛成をもって、原案のとおり承認可決された。
以上をもって本総会の議案の審議を終了したので、議長は午前10時30分閉会を宣言した。
上記の決議を明確にするため、この議事録を作成する。
令和◯年◯月◯日 株式会社◯◯◯◯ 臨時株主総会 議長 代表取締役 ◯◯◯◯ 印
この文例で押さえているのは4つです。在任期間を具体的な日付で書いていること。退任の事情を書いていること。退任直前の報酬月額を書いていること。金額の算定の考え方に触れていること。
とくに退任直前の報酬月額は、書き落とされやすい項目です。金額の妥当性を後から説明するとき、この数字が起点になります。議事録に無いと、給与台帳を掘り返すことになります。
支給の時期と方法を取締役会に一任する形にしたのは、資金の都合で分割払いになる可能性があるからです。一任せずに株主総会で支給日まで決めてしまうと、資金が用意できなかったときに、もう一度株主総会を開くことになります。
株主総会と取締役会で、どう分担するか
退職金の決議は、株主総会だけで完結させる形と、株主総会で総額を決めて具体的な内容を取締役会に委ねる形があります。
株主総会だけで完結させる場合は、金額、支給時期、支給方法をすべて議事録に書きます。役員が少なく、資金にも余裕がある会社なら、この形がいちばん簡単です。議事録は1枚で済みます。
取締役会に委ねる場合は、議事録が2枚になります。株主総会では金額または上限を決め、支給の時期と方法を取締役会に一任する。取締役会でその具体的な内容を決める。この形を選ぶなら、取締役会議事録を必ず作ってください。一任したまま取締役会の記録が無いと、いつ、どういう方法で払うと決めたのかを示す書類が存在しないことになります。
取締役会議事録には形式の要求があります。会社法第369条第3項は、取締役会の議事録が書面で作られているときは、出席した取締役と監査役が署名または記名押印しなければならない、と定めています。株主総会議事録にはこの義務がないので、取締役会議事録のほうが手間がかかります。
保管期間も定められています。株主総会議事録は会社法第318条第2項により株主総会の日から10年間、取締役会議事録は会社法第371条第1項により取締役会の日から10年間、本店に備え置く必要があります。退職金の議事録は、支給から何年も経ってから必要になることがあるので、保管を軽く扱わないでください。
なお、全員が同意すれば集まらずに決議を成立させる道もあります。会社法第319条は、取締役または株主が提案をして、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意の意思表示をしたときは、その提案を可決する決議があったものとみなすとしています。この形を使った場合、議事録に書く項目が変わるので、通常の様式と混ぜないでください。
経費になる時期は、決議の日で決まる
退職金をいつ経費にできるかは、税務上はっきりした整理があります。
国税庁は、法人が役員に支給する退職金で適正な額のものは経費になるとしたうえで、その時期について、原則として株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度になるとしています。ただし、実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その支払った事業年度に経費とすることも認められています。
ここで注意したいのが、国税庁が明記している次の点です。退職金の額が具体的に確定する事業年度より前の事業年度において、取締役会で内定した金額を損金経理により未払金に計上した場合であっても、未払金に計上した時点での経費にはできません。
つまり、期末が近いから取締役会で金額を内定して未払金に計上しておく、という処理は通りません。株主総会で額が具体的に確定した日が基準になります。決算期をまたぐ場面では、株主総会をいつ開くかで経費になる期が変わるということです。詳しい整理は国税庁の説明で確認できます。
この違いは、会社の税額に直接効きます。利益が大きく出た期に退職金を経費にしたいなら、その期のうちに株主総会を開いて金額を確定させる必要があります。逆に、翌期に回したいなら決議の時期をずらす、という調整もあり得ます。ただし、実態のない日付調整は認められないので、実際に決議をした日で書いてください。
退職年金の形で支給する場合は扱いが違います。国税庁は、退職年金制度を実施している場合の退職年金について、その年金を支給すべき事業年度が経費になる時期であるとしています。退職した時点で年金の総額を計算して未払金に計上しても、その時点では経費になりません。
分割で払う場合の注意
退職金は金額が大きいため、一度に払えない会社が少なくありません。分割で払うこと自体は可能ですが、いくつか気をつける点があります。
まず、分割の取り決めを議事録に残してください。何回に分けて、いつ、いくらずつ払うのかを書きます。口頭の約束のまま払い始めると、途中で資金が厳しくなったときに支払いが止まり、残額がどうなるのかが不明確になります。
次に、経費になる時期です。株主総会で額が確定した日の属する事業年度に全額を経費にするのが原則ですが、支払った事業年度に損金経理する方法も認められています。分割払いの各回をどう処理するかは、会社の状況によって扱いが変わるため、処理の方法を決める前に税務署か税理士に確認してください。
3つ目に、受け取る側の税金です。退職所得として扱われるかどうかは、支払いの実態によって判断が変わることがあります。分割の期間が長期にわたると、退職金ではなく別の性格のものと見られる可能性が出てきます。分割にするなら、期間をむやみに引き延ばさないほうが安全です。
4つ目に、株主や債権者への影響です。退職金の未払金が長く残ると、決算書の負債が膨らみます。銀行が決算書を見たときの印象に影響するので、支払いの計画は資金繰り表と合わせて立ててください。
受け取る側の税金を、先に確認しておく
退職金は、受け取る個人にとって税制上の優遇がある所得です。金額を決めるときに、手取りがどうなるかを把握しておくと判断がしやすくなります。
国税庁の整理では、退職所得の金額は、原則として収入金額から退職所得控除額を差し引き、その残額に2分の1を掛けて計算します。退職所得控除額は、勤続年数が20年以下なら40万円に年数を掛けた額、20年を超えるなら800万円に、20年を超える年数1年あたり70万円を加えた額です。勤続年数が20年以下で計算額が80万円に満たない場合は80万円になります。
たとえば勤続30年なら、控除額は800万円に70万円かける10年を加えて1,500万円です。退職金が3,600万円なら、そこから1,500万円を引いた2,100万円の半分である1,050万円が退職所得の金額になります。他の所得と分けて課税されるため、同じ金額を報酬として受け取る場合に比べて負担が軽くなります。
ただし、役員には例外があります。役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金のうち、その役員等勤続年数に対応する部分については、2分の1を掛ける計算が適用されません。特定役員退職手当等と呼ばれる扱いです。設立から数年の会社で役員に退職金を出す場合は、この点を確認してください。
支払う会社の側では、源泉徴収の手続きがあります。退職所得の受給に関する申告書を本人から受け取っているかどうかで、源泉徴収する税額の計算方法が変わります。この申告書を受け取っていないと、支給額に一律の税率を掛けた額を源泉徴収することになり、本人はあとから確定申告で精算することになります。支給の前に用意しておいてください。計算方法の詳細は国税庁の退職所得の説明にあります。
退任していないのに退職金を出す場合
役員を完全に辞めるのではなく、代表取締役から平の取締役になる、常勤から非常勤になる、といった形で役職だけを変えて退職金を支給する例があります。分掌変更と呼ばれる扱いです。
この形が認められるかどうかは、実質的に退職したのと同じ状態になっているかで判断されます。役職の名前だけを変えて、実際には同じように経営に関与し続けている場合は、退職の事実がないと見られます。
判断の材料として実務で挙げられるのは、経営上の主要な地位から外れているか、報酬が大きく減少しているか、といった点です。ただし、形式的な条件を満たせば必ず認められるというものではなく、実態が重視されます。
このパターンは、税務調査で最も争いになりやすい領域のひとつです。分掌変更で退職金を出すことを検討しているなら、議事録を作る前の段階で税務署か税理士に事情を説明して、扱いを確認してください。決議してから相談すると、選べる道が狭くなります。
議事録には、変更後の地位と職務の内容、報酬がどう変わるのかを具体的に書いてください。「非常勤取締役となり、経営の意思決定には関与しない」「報酬は月額80万円から月額15万円に変更する」といった形です。役職名だけを書いた議事録では、何が変わったのかが読み取れません。
退職金規程を先に作っておくという選択
退職金の金額を、そのときの雰囲気で決めるのは避けたほうがいい場面が多くあります。あらかじめ役員退職慰労金規程を作っておくと、決議のときの議論が短くなります。
規程には、支給の対象となる役員の範囲、金額の算定方法、支給の時期と方法、支給しない場合の事由などを書きます。算定方法を規程で定めておけば、誰が退任しても同じ基準で計算されるため、特定の役員だけ優遇したという見え方を避けられます。
規程そのものは、取締役会または株主総会で承認して備え置きます。規程があっても、実際の支給には株主総会の決議が必要です。規程は計算の基準であって、支給の根拠ではないという点を混同しないでください。
正直なところ、退職の話が具体化してから規程を作ると、その人のために作ったように見えてしまいます。世代交代の話が出る何年も前に、制度として整えておくのが本来の姿です。創業から年数が経った会社ほど、この準備が効いてきます。
規程を作ると、もうひとつ副次的な効果があります。将来の支払いが見える化されるので、資金の準備を計画的に進められます。退職金の原資をどう用意するかは、生命保険や共済制度を使う方法などがありますが、商品ごとに税務上の扱いが違うため、加入の前に条件を確認してください。
死亡退職の場合は、手続きの相手が変わる
役員が在任中に亡くなった場合も退職金を支給できますが、進め方が変わります。
まず、受け取る相手が本人ではなく遺族になります。誰に支払うのかを議事録で明確にしてください。役員退職慰労金規程があり、受給権者の順位が定められているなら、その順位に従います。規程が無い場合は、誰に支払うかを決議で決めることになります。
次に、税金の扱いが変わります。死亡により支給される退職手当等で、死亡後に支給が確定したものは、受け取る遺族の所得税の対象にはならず、相続税の対象として扱われます。生前に支給が確定していた場合とは扱いが違うので、支給の時期と決議の時期を確認してください。
弔慰金を別に出す場合もあります。退職金と弔慰金は性格が違うものとして扱われますが、金額によっては退職金に含めて考えるという整理がされることがあります。両方を出すなら、議事録でそれぞれを分けて記載し、金額の根拠も分けて書いてください。
役員の死亡は、会社の登記にも影響します。取締役が欠けた状態になると、登記の変更が必要になり、場合によっては後任の選任も必要です。退職金の決議と同じ株主総会で役員の選任を行うことが多いので、議案を整理してから開催してください。
こうした場面は予告なく訪れます。規程を事前に作っておくことの価値は、平時よりも、こうした非常時にはっきり出ます。
議事録と食い違いが起きやすい書類
退職金の議事録は、単独では機能しません。他の書類と揃っているかを確認してください。
登記事項証明書です。退任したのに役員変更の登記をしていない、あるいは登記上の退任日と議事録の退任日がずれている、という例があります。取締役の退任は登記事項なので、変更から2週間以内に登記申請をする必要があります。議事録の日付と登記の日付は必ず一致させてください。
総勘定元帳と預金通帳です。議事録で3,600万円と決議したのに、実際の振込合計が3,550万円になっている。端数の処理や源泉徴収の差引きで生じることが多いずれですが、支給総額と源泉徴収額と手取額の関係が説明できる形にしておいてください。
源泉徴収票です。退職所得の源泉徴収票を作成して本人に交付します。役員に対して支払う退職金については、税務署と市区町村への提出が必要になる場合があります。提出の要否は支払先の区分によって変わるので確認してください。
役員退職慰労金規程です。規程があるのに、議事録の金額が規程の計算と合っていない例があります。規程より多く払うなら、なぜ多いのかを議事録に書いてください。書かないと、規程が形だけのものだったという見え方になります。
これらを退職金の支給が終わった時点で1度だけ突き合わせておけば、後から慌てることがなくなります。作業としては半日もかかりません。
使用人兼務役員だった人の退職金
取締役でありながら、部長や工場長としての職務も持っていた人が退任する場合、退職金の考え方がひと手間複雑になります。
この人に支払うお金は、役員としての在任期間に対応する部分と、従業員としての勤務期間に対応する部分に分かれます。役員部分は株主総会の決議が必要で、従業員部分は会社の退職金規程で決まります。決議の対象になるのは役員部分だけです。
実務では、従業員から役員に上がったタイミングで従業員としての退職金を精算する会社と、精算せずに退任時にまとめて支払う会社の両方があります。どちらの方式を取っているかで、退任時の計算が変わります。
議事録には、役員としての在任期間を明記してください。従業員だった期間を含めて「在任30年」と書くと、役員退職金の金額の根拠として在任期間を示すときに、実際より長い期間を前提にしているように読めます。従業員期間と役員期間は分けて書くのが安全です。
受け取る側の税金でも、勤続年数の数え方が関係します。退職所得控除額は勤続年数で決まり、役員等としての勤続年数が5年以下の場合は2分の1を掛ける計算が適用されない扱いがあります。従業員期間と役員期間をどう扱うかで税額が変わるので、支給の前に計算を確認してください。
決議から支給までを日付順に並べる
退職金の手続きは、決議の日を起点にして期限が並びます。順に書き出します。
決議の日。株主総会で金額を確定させます。経費になる時期は、原則としてこの日の属する事業年度です。
支給の前。退職所得の受給に関する申告書を本人から受け取ります。提出の期限は退職手当等の支払を受ける時までで、支給日を過ぎてから集めるのでは間に合いません。この書類が1枚無いだけで、天引きする税額の計算方法が変わります。
3 退職手当等の支払を受ける居住者がその支払を受ける時までに退職所得の受給に関する申告書を提出していないときは、第百九十九条の規定により徴収すべき所得税の額は、その支払う退職手当等の金額に百分の二十の税率を乗じて計算した金額に相当する税額とする。 出典: laws.e-gov.go.jp
退職所得控除も2分の1の計算も使わず、支給額の全部に20パーセント、復興特別所得税を加えて20.42パーセントをかけた額を天引きすることになります。3,600万円なら730万円を超える天引きです。本人はあとから確定申告で精算できますが、その年の手元の資金がまるごと変わります。書類1枚の有無で済む話ではありません。
支給日。決議した金額から天引き分を引いた額を振り込みます。
退職の日から2週間以内。取締役の退任は登記事項なので、役員変更の登記を申請します。
退職の日から1か月以内。退職所得の源泉徴収票を2通作り、1通を税務署長に提出し、1通を本人に交付します。給与の源泉徴収票が翌年1月末なのと違って、こちらは1か月です。給与の感覚のまま年末まで置いておくと、期限を大きく過ぎます。
天引きした日の属する月の翌月10日。天引きした所得税を国に納めます。給与から天引きした分と同じ納期です。
この6つを決議の日にカレンダーへ入れてしまえば漏れません。落としやすいのは源泉徴収票の1か月と、登記の2週間です。どちらも退職金そのものとは別の担当者が扱うことが多く、引き継ぎの隙間に落ちます。
帳簿にはどう書くか
金額が大きいので、仕訳を先に組み立てておくと支給日に慌てません。
決議と同じ事業年度に支給する場合は単純です。退職金を3,600万円、天引きする所得税と住民税を合わせて仮に250万円とすると、借方に役員退職金3,600万円、貸方に預り金250万円と普通預金3,350万円という形になります。天引きの額は勤続年数と申告書の有無で変わるので、実際の数字は計算してから当てはめてください。
決議はしたが支給が翌期になる場合は、2段に分けます。決議の日の属する事業年度に、借方の役員退職金3,600万円と貸方の未払金3,600万円を立てます。実際に支給したときに未払金を消して、そこで天引きと振込を書きます。天引きの処理は支給のときに行うもので、未払金を立てた時点ではありません。
分割で払う場合も、決議の日に全額を未払金で立てておくと、残りがいくらあるかが帳簿から読めます。払うたびに未払金を減らしていく形です。この未払金は決算書の負債として残るので、銀行に決算書を出す前に、支払いの計画を口で説明できる状態にしておいてください。
預り金は、毎月の給与から天引きしている分と混ぜないほうが管理しやすくなります。退職金の天引き分は金額が大きく、納める月も1回だけです。補助科目を分けておけば、納付書を書くときに金額を拾い間違えません。
もうひとつ、退職金の支給に伴って払うお金を役員退職金の科目に混ぜないでください。弔慰金、記念品、餞別のような支出は性格が違います。科目を分けておかないと、議事録で決議した金額と帳簿の金額が合わなくなり、決議の範囲を超えて払ったように見えます。
書類を整える時間を、どこから捻出するか
運営者として20年この市場を見てきた限りでは、会社の節目に必要になる書類ほど、準備が後手に回ります。日常業務の中に登場しないので、手順を知っている人が社内にいないからです。役員の退任は、数年から十数年に一度しか起きません。
この種の作業は、起きてから調べるのではなく、起きることが見えた時点で型を作っておくのが確実です。退任の1年前に規程と議事録の様式を用意しておけば、当日は日付と金額を入れるだけになります。
長く続いている人ほど、単発の作業を数多くこなすことより、依頼側が毎回同じ相手に頼みたくなる状態をつくることに時間を使っています。会社の書類を整える仕事はその典型で、会社の沿革や役員の顔ぶれを知っている相手に頼むほど、説明の手間が消えて双方の時間が浮きます。中間の手数料が乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼側はより多くを頼めて、受け手の手取りは厚くなります。手数料0%という条件が効いてくるのは、単発の金額よりも、こうした続く関係の中です。
文章や書式を整える仕事の報酬水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場が目安になります。書類の型を体系的に押さえたいならビジネス文書検定の出題範囲が学習の地図として使えます。経理や決算の周辺で働く道の形は会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】に整理されています。
会社の節目では、資金の出入りが大きく動きます。取引先からの入金が滞ったときの進め方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】に手順がまとまっています。取引条件そのものを守る話はフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストが参考になります。社内の手続きを整理して仕組みに落とす仕事に関心があるならAIコンサル・業務活用支援のお仕事に案件の形が並びます。情報の扱いや安全面まで含めて支える方向はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が近く、技術者としての水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場で確認できます。
よくある質問
Q. 役員退職金は株主総会の決議がないと支給できませんか?
できません。役員退職金は会社法上の報酬等に含まれ、定款に定めがない場合は株主総会の決議で定めることになっています。決議がないまま支給すると根拠のない送金になり、会社から返還を求められる整理がされることがあります。決議をしたら議事録を作る義務も生じます。
Q. 議事録には金額のほかに何を書くべきですか?
在任期間、退任の事情、退任直前の報酬月額、金額の算定の考え方を書いてください。経費になるかどうかの判断では、業務に従事した期間、退職の事情、同業で規模の似た会社の支給状況が見られます。このうち議事録で示せるのは前の2つなので、あとから説明する材料としてその場で残しておく価値があります。
Q. 退職金はいつの事業年度の経費になりますか?
原則として、株主総会の決議などで金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。実際に支払った事業年度に損金経理をした場合は、その事業年度に経費とすることも認められています。取締役会で内定した金額を先に未払金へ計上しても、その時点では経費にできません。
Q. 代表を退いて非常勤になる場合でも退職金を出せますか?
役職だけを変えて退職金を支給する形は、実質的に退職したのと同じ状態になっているかで判断されます。経営上の主要な地位から外れているか、報酬が大きく減っているかといった点が材料になりますが、形式を整えれば必ず認められるものではありません。税務調査で争いになりやすい領域なので、決議の前に税務署か税理士に確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方







