家族の介護と在宅の字幕づくりは5分で区切れば戻ってこられる

長谷川 奈津
長谷川 奈津
家族の介護と在宅の字幕づくりは5分で区切れば戻ってこられる

この記事のポイント

  • 介護しながら動画の字幕づくりを在宅で続けるための段取りをまとめました
  • そして契約前に必ず確認すべき納期・修正回数・支払期日の決め方まで
  • 法務の視点から具体的に解説します

先日、在宅で動画の字幕づくりを始めたばかりという方から、こんなご相談を受けました。「親の介護があるので、納期に余裕がある案件を選んだつもりだったのに、途中で『明日までに直して』と言われて対応できず、報酬を減らされた」。

結論から言うと、これは契約の段取りで防げた話です。そして、こういうケースは本当に多い。

介護をしながら在宅で働くとき、いちばんの敵は「作業量」ではありません。「予定外の要求」です。急に短い納期を切られる、修正が何度も来る、連絡がいつ来るか読めない。この3つが、介護の予定と衝突して人を追い詰めます。

動画の字幕づくりは、介護と両立できる在宅ワークとしてかなり有力な選択肢です。理由は3つあります。作業が数秒単位で中断できること、リアルタイムの対応を求められないこと、そして特別な資格が要らないこと。ただしそれは「最初に条件を書面で決めておいた場合に限る」という条件付きです。

この記事では、字幕づくりの仕事の中身と単価相場を整理したうえで、休みながら続けるための具体的な段取りをお伝えします。あわせて、2024年11月に施行されたフリーランス保護新法で発注者に課された義務についても触れます。法律を知っておくことは、時間が限られている人にとって、いちばん効率のいい自衛策です。

動画の字幕づくりとは、具体的に何をする仕事か

まず、言葉の整理から始めます。「字幕」と「テロップ」は、現場では区別されることが多い言葉です。

字幕と、テロップと、キャプション

字幕は、話している内容をそのまま文字にしたものです。聴覚に障害がある方や、音を出せない環境で視聴する方のために付けられます。話者が言ったことを、原則として省略せずに文字化します。

テロップは、演出のために画面に入れる文字です。「ここが重要」「衝撃の展開」といった強調や、話の要点の抜き出し。話した内容と一字一句同じである必要はありません。

キャプションは、この両方を含む広い言い方として使われます。求人票では「字幕」「テロップ」「文字起こし」「キャプション入れ」といった表記が混在しているので、応募前に実際の作業内容を確認する必要があります。

介護と両立するという観点で言うと、この3つは難易度も納期の性質もかなり違います。字幕は正確性が最優先で作業量が読みやすい。テロップは演出センスが問われ、修正が発生しやすい。ここを理解して選ぶと、後の負担がまったく変わります。

実際の作業の流れ

一般的な案件の流れは次のとおりです。

まず、発注者から動画ファイルまたは共有リンクが送られてきます。次に、指定されたツールで字幕を入力します。多くの場合、専用の編集ソフトか、ブラウザで動く字幕作成ツールを使います。入力が終わったら、指定の形式で書き出して納品します。字幕ファイルの形式は、SRTやVTTといった拡張子で指定されることが一般的です。

作業時間の目安は、動画10分あたり40分から90分程度。慣れると短くなりますが、話者が複数いたり、専門用語が多かったりすると倍近くかかります。

近年は、自動文字起こしのAIが下書きを作ってくれるケースが増えました。その場合の作業は「ゼロから打つ」ではなく「AIの出力を直す」になります。所要時間は動画10分あたり20分から40分程度まで短縮されることが多く、そのぶん単価も下がる傾向があります。

必要な機材とスキル

必要なものは、パソコン、インターネット回線、ヘッドホンかイヤホン。この3つです。

スマートフォンだけで完結する案件もありますが、字幕のタイミング調整は画面が大きいほうが圧倒的に楽です。ノートパソコンがあるなら、それで十分に始められます。

スキル面では、タイピングができること、日本語の表記ルールがある程度分かることが基本です。数字の全角と半角、句読点の扱い、話し言葉のどこを整えてどこを残すか。こうした基準は発注者ごとにルールがあるので、最初に渡される表記ルール表を守れるかどうかがすべてです。

つまり、特別なクリエイティブ能力は求められていません。求められているのは「決められたルールを崩さずに、大量の文字を正確に処理する力」です。事務職の経験がある方は、この点で有利になります。書類作成のルールを体系的に確認したい場合は、ビジネス文書検定のような資格の学習範囲が、そのまま表記ルールの基礎知識になります。資格がなくても仕事はできますが、応募時に基礎があることを示す材料にはなります。

求人市場での扱いと、単価の相場

実際の募集がどうなっているかを見ておきます。

求人票に出てくる条件

動画関連の在宅募集は、この数年で急増しました。SNS向けのショート動画が増えたこと、企業がYouTubeを広報に使うようになったことが背景にあります。

SNS動画編集スタッフ募集!未経験からプロを目指せるフルリモートワークで、残業ゼロの18時退勤です。スマホやPCを使い、動画のチェックやテロップ・BGM挿入などの簡単な編集から始め、ゆくゆくは企画アイデア出しにも携わります。入社後はPC操作から丁寧な研修があり、先輩がしっかりサポートするので安心です。 出典: 求人ボックス

この募集文、よく読んでください。「18時退勤」「入社後は研修」とあります。つまりこれは雇用契約の求人です。フルリモートではありますが、勤務時間が決まっています。

介護をしながら働く場合、この違いは決定的です。雇用契約なら勤務時間の拘束があり、業務委託契約なら成果物さえ納めれば時間は自由。どちらが良い悪いではなく、今のご自身の状況で守れるほうを選ぶ必要があります。

雇用契約であっても、介護を理由とした短時間勤務や時間帯の調整が可能な職場はあります。転職を視野に入れる場合は、その柔軟性が制度として用意されているかを面談で確認してください。仕事と介護の両立支援制度については厚生労働省が情報を公開しており、勤務先に制度がある場合の利用条件も確認できます。

単価の相場

業務委託として受ける場合の相場を整理します。

作業内容 単価の目安
文字起こしのみ(AI下書きの修正) 動画1分あたり50円〜100円
字幕入れ(タイミング調整込み) 動画1分あたり100円〜300円
テロップ入れ(演出込み) 動画1本あたり3,000円〜1万円
外国語字幕の翻訳込み 動画1分あたり300円〜800円

この表を時給換算すると、字幕入れで800円から1,500円程度に落ち着くことが多くなります。作業に慣れて1本あたりの時間が短くなるほど、実質時給は上がっていきます。

注意しておきたいのは、単価が「動画の分数」で決まる契約と「1本いくら」で決まる契約があることです。1本いくらの契約で、思ったより長い動画が来ると実質時給が大きく下がります。契約時に、対象となる動画の長さの上限を必ず確認してください。これ、知らない人が本当に多いんです。

この分野の需要動向

字幕の需要は、当面減らないと見られます。理由は2つ。

1つは、音を出さずに視聴する人が増えたこと。電車内やオフィスでの視聴を想定すると、字幕がない動画は最後まで見てもらえません。企業側にとって字幕は演出ではなく必須の仕様になりました。

もう1つは、アクセシビリティへの意識が高まったことです。公的機関や大企業のサイトでは、動画に字幕を付けることが標準的な対応として求められる場面が増えています。

一方で、AIによる自動生成の精度が上がっている点は無視できません。ただし、AIは固有名詞、専門用語、話し言葉の言い直しが苦手です。人間の役割は「ゼロから作る」から「AIの誤りを見つけて直す」へ移っており、この移行はすでにかなり進んでいます。単価は下がり気味ですが、仕事そのものが消えるわけではありません。

AIをどう業務に組み込むかという視点で仕事を見たい場合は、企業側の導入支援がどんな業務なのかを解説したAIコンサル・業務活用支援のお仕事が参考になります。字幕づくりの現場でも、AIツールの使いこなしが単価を分ける要素になりつつあります。

休みながら続けるための段取り

ここが本題です。作業の話ではなく、段取りの話をします。

受注する前に、必ず決めておく3つのこと

介護をしながら受注する場合、次の3つを契約前に決めてください。口頭ではなく、メールやチャットの文面で残る形にすることが重要です。

1つ目は、納期です。「◯月◯日の何時まで」まで詰めてください。「今週中」は危険です。相手が金曜17時と考え、こちらが日曜と考えていると、確実に揉めます。

2つ目は、修正の回数です。「修正は2回まで、それ以降は追加料金」と最初に決めます。これがないと、修正が無限に続く契約になります。介護中の方にとって、終わりの見えない修正対応は精神的な負担が非常に大きい。

3つ目は、連絡が取れる時間帯です。「平日10時から16時の間に確認します。それ以外の時間の返信は翌営業日になります」と先に伝えておきます。これを言っておくかどうかで、深夜のメッセージに反応しなかったときの評価がまったく変わります。

この3つを決めておけば、介護の状況が急に変わっても、契約違反にはなりません。逆に、決めずに始めると、相手の期待値がどこまでも上がっていきます。

一日の組み立て方

字幕づくりの利点は、作業を秒単位で止められることです。文章を書く仕事と違って、思考の流れを維持する必要がありません。

具体的には、次のように組み立てます。

朝の時間帯に、動画を通しで1回視聴します。これは作業ではなく把握です。全体の長さ、話者の数、専門用語の有無を確認して、必要な作業時間を見積もります。ここで「これは今週中には終わらない」と判断できたら、その時点で発注者に相談できます。

日中の細切れ時間には、字幕の入力を進めます。5分空いたら5分、15分空いたら15分。区切りは動画の再生位置で管理できるので、どこまでやったかを覚えておく必要がありません。この「記憶に頼らなくていい」という性質が、介護中には効きます。

夜の落ち着いた時間には、タイミング調整と読み直しを行います。ここは集中が要るので、まとまった時間が取れた日に回します。

中断に強い作業分割の考え方

作業を3層に分けておくと、その日にできることが自然に決まります。

第1層は、頭を使わない作業です。動画の視聴、AI下書きの明らかな誤字修正、ファイルの整理。疲れている日でもできます。

第2層は、普通の集中が要る作業です。字幕の入力、表記ルールの適用。

第3層は、しっかり集中したい作業です。タイミングの微調整、最終チェック、納品前の全体確認。

その日の状況で、どの層に手を付けるかを決めます。この方式なら、「今日は何もできなかった」という日がほとんどなくなります。第1層は10分あればできるからです。

作業時間の確保そのものに悩んでいる場合は、細切れ時間の使い方を整理した在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックが参考になります。25分の区切りすら取れない状況向けの選択肢も紹介されているので、実際の生活に合わせて調整しやすくなります。

介護の状況が変わったときの伝え方

これは実務として非常に大事な部分です。

介護は、突発的に状況が変わります。急な入院、通院の増加、夜間の対応。そのとき、納期を守れないと分かった時点で、すぐに連絡してください。

伝え方には型があります。「家庭の事情で作業が遅れます」だけでは相手は判断できません。次の3点を伝えます。

現在の進捗(何割まで終わっているか)。新しい納期の見込み(いつまでなら確実か)。相手が取れる選択肢(納期を延ばすか、途中まで納品して残りを他に回すか)。

この3点を出すと、相手は対応を決められます。実際、この形で連絡した方は、次の案件も継続して受注できているケースが多い。逆に、連絡せずに納期を過ぎてから謝るパターンは、その後の関係が続きません。

なお、介護の詳しい事情まで説明する義務はありません。「家族の介護があり、状況が変わりました」で十分です。診断名や症状を伝える必要はなく、むしろ伝えないほうが適切です。

介護の体制そのものを見直す余地

在宅ワークの段取りの話とは少しずれますが、触れておきます。

作業時間が確保できないとき、仕事の側だけを調整しても限界があります。利用しているサービスの内容や時間帯を見直すことで、まとまった時間が生まれる場合があります。何が利用できるかは要介護度や世帯の状況、お住まいの自治体によって大きく異なるため、自己判断せず、ケアマネジャーや地域包括支援センターにご相談ください。

実際に、勤務先との調整で働き方を変えられたという事例もあります。

もうそれしか選択肢はないと思っていましたが、上司から「辞めるのを決める前に、少し働き方を一緒に考えてみようよ」と言われ、ありがたいことに退職ではなく、一時休職か状況が落ち着いてきたら時短の在宅ワークではどうか?という提案をもらいました。 出典: pasona-jobhub.co.jp

辞める前に相談する。これは在宅の業務委託でも同じです。「できません」と契約を切る前に、条件の変更を提案してみる価値があります。

契約で必ず確認すべきこと

ここからは法務の話です。時間が限られている方ほど、この部分を押さえておいてください。

フリーランス保護新法で発注者に課された義務

2024年11月に、いわゆるフリーランス保護新法が施行されました。正式には、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律といいます。つまり、組織に属さずに個人で仕事を受ける人を守るための法律です。

この法律で、発注者にはいくつかの義務が課されました。実務上、特に重要なのは次の3つです。

1つ目は、取引条件の明示義務です。業務の内容、報酬額、支払期日などを、書面または電子メールなどで明示しなければなりません。つまり、「口約束だけで作業を始めさせる」ことは認められません。

2つ目は、報酬の支払期日です。成果物を受け取った日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その日までに支払う必要があります。「検収が終わってから」「クライアントから入金があってから」という理由で無期限に延ばすことは認められません。

3つ目は、一定期間以上の継続的な取引において、受注者の責任がないのに受領を拒否したり、報酬を減額したり、やり直しをさせたりする行為の禁止です。

制度の詳細や相談窓口については、公正取引委員会厚生労働省が情報を公開しています。実際にトラブルが起きた場合の相談先も案内されています。

契約書で見るべき5項目

契約書または発注書を受け取ったら、次の5項目を確認してください。

業務範囲。何をどこまでやるのか。「字幕入れ」とだけ書かれていて、実際にはBGMの挿入やサムネイル作成まで求められるケースがあります。

報酬額と算定基準。1本いくらか、1分いくらか。動画の長さの上限はあるか。

支払期日。前述の60日以内の原則を満たしているか。

修正対応の範囲。何回まで無償か。追加料金の単価はいくらか。

権利の帰属。作成した字幕データの著作権がどちらに帰属するか。

修正回数が書かれていない契約の危険性

実務で最も揉めるのが、修正回数です。

「イメージと違う」という理由で何度もやり直しを求められ、結果的に実質時給が最低賃金を大きく下回るケースがあります。修正回数が契約に書かれていないと、発注者は「納得するまで直させてよい」と解釈しがちです。

対策は簡単で、受注時にこちらから書いてしまうことです。「修正は初稿納品後2回まで無償、3回目以降は1回あたり◯◯円」と提案する。この一文があるだけで、無限修正のリスクはほぼ消えます。

介護をしながら働く場合、時間の予測可能性は報酬額と同じくらい重要です。「終わりが決まっている契約」を選んでください。

秘密保持と著作権の扱い

未公開の動画を扱うことが多いため、秘密保持契約(NDA)を求められる場面があります。

NDAで確認すべきは、対象となる情報の範囲、期間、そして違反した場合の責任です。特に、期間が「無期限」となっているものは慎重に見てください。実務上は3年から5年程度が一般的です。

著作権については、字幕データの権利が誰に帰属するかを確認します。多くの案件では、納品と同時に発注者に譲渡する形になります。これ自体は一般的な取り扱いですが、譲渡したデータをご自身の実績として公開できるかは別問題です。ポートフォリオとして見せたい場合は、「実績として公開してよいか」を事前に確認しておいてください。

外国語の翻訳を伴う字幕の場合は、さらに注意が必要です。翻訳には翻訳者の権利が生じる余地があり、契約の書き方によって扱いが変わります。高額な案件や、長期の利用が想定される案件では、契約内容について弁護士にご相談ください。

匿名化した相談事例から

実際にあった相談を、内容を変えて紹介します。

ある方は、動画1本あたりの単価で契約していました。ところが送られてきたのは、想定の3倍の長さの動画。しかも話者が5人いて、専門用語だらけでした。作業時間は見積もりの4倍以上になりました。

この方は「契約したから」と最後までやり切りましたが、次から条件を変えました。「動画15分までを1本とし、超過分は5分あたり追加料金」という形にしたのです。以降、同種のトラブルは起きていません。

もう1つ。納品後に「クライアントの検収が終わらないので支払いを待ってほしい」と言われ、3か月間支払われなかったケースがあります。これは支払期日の規定に照らして問題がある可能性が高い取り扱いです。相談先の窓口に連絡したことで、支払いが実行されました。

契約書の文言は、揉めたときにしか読まれません。でも、揉めたときには、それがすべてになります。法律はあなたの味方ですが、味方になってもらうには、条件を形に残しておく必要があります。

納品でつまずかないための、ファイルと表記のルール

字幕づくりで差し戻しが起きる原因は、日本語の巧拙ではありません。ほとんどが形式の行き違いです。ここを最初に潰しておくと、修正のやりとりが減り、介護の予定を崩さずに済みます。

字幕ファイルの形式を、受注時に確定させる

字幕の納品形式は、大きく分けて3通りあります。1つ目は、SRTやVTTのような字幕ファイル単体での納品。2つ目は、編集ソフトのプロジェクトファイルごと渡す形。3つ目は、映像に文字を焼き付けた動画ファイルでの納品です。

この3つは作業量がまったく違います。焼き付けまで含む場合、書き出しの時間だけで動画1本あたり数十分かかることがあります。パソコンが古い場合、この書き出し時間が想定外の負担になります。「字幕を作る」という言葉だけで受けると、ここで齟齬が出ます。

あわせて確認しておきたいのが、文字コードです。日本語の字幕ファイルは、文字コードの指定を外すと再生側で文字化けします。指定がなければUTF-8で作り、納品時に「UTF-8で書き出しています」と一言添えてください。これだけで、先方が読み込めなかったときの原因の切り分けが一瞬で終わります。

1行の文字数と表示時間には、業界の型がある

読みやすい字幕には、経験則として定着した基準があります。1行は全角13文字から16文字程度、1画面は2行まで。表示時間は最短でも1秒前後を確保し、長い台詞は分割する。読む速度は1秒あたり全角4文字程度が上限、という感覚です。

発注者から表記ルール表が渡されない案件もあります。その場合は、こちらから「1行あたりの文字数、最大行数、句読点を入れるかどうか。この3点だけ先に決めさせてください」と聞いてください。ここが決まっていれば、あとで全編を直す事態はほぼ起きません。

固有名詞リストを、案件ごとに1枚作る

差し戻しの原因で圧倒的に多いのが、固有名詞の誤りです。人名、会社名、商品名、社内用語。AIの下書きは、ここを平然と間違えます。

対策は単純で、案件ごとにテキストファイルを1つ作り、出てきた固有名詞と正しい表記を書き足していくことです。同じ動画シリーズの次の回が来たとき、この1枚があるだけで確認の手間が消えます。作業を中断しがちな環境ほど、記憶ではなくファイルに残す運用が効きます。

納品前のチェックは、3項目に絞る

疲れているときに長いチェックリストは使えません。見るのは、タイミングのずれ、表記ルールからの逸脱、そして抜け。この3つだけです。

特に抜けは致命的です。動画の最後の数十秒に字幕が入っていない、という事故が実際に起きます。書き出したファイルを最初から通しで再生する時間が取れない日は、末尾と、話者が切り替わる箇所だけでも確認してください。

見積もりと税務を、あらかじめ型にしておく

受注前に、所要時間を式で出す

感覚で受けると必ずずれます。目安の式はこうです。動画の分数に、作業の種類ごとの係数を掛ける。AI下書きの修正なら2から4、ゼロから字幕を入れるなら4から9、テロップの演出込みならさらに上。ここに、話者が3人以上なら1.3倍、専門用語が多ければ1.2倍といった補正を掛けます。

出てきた時間を、今週確実に取れる作業時間と突き合わせる。取れないなら受けない、あるいは納期を延ばしてもらう。この判断を受注前にやっておくと、途中で謝る回数が減ります。

報酬の扱いを、最初に整理しておく

業務委託で受け取る報酬は、給与ではありません。会社員として給与を受け取りながら副業で受ける場合、給与以外の所得が一定額を超えると確定申告が必要になります。専業で受けている場合は、所得の区分と経費の考え方が変わります。

経費として扱える可能性があるのは、通信費、編集ソフトの利用料、ヘッドホン、パソコンの一部などです。生活と兼用のものは、業務に使った割合で按分するのが基本になります。判断の出発点は国税庁の案内ですが、個別の可否は最寄りの税務署に確認してください。領収書は初日から残しておいてください。後から思い出そうとしても、必ず漏れます。

介護に関わる制度は、勤務先と自治体の両方に確認する

会社に雇用されている方が家族の介護に直面した場合、勤務先を通じて利用できる仕組みがあります。制度の枠組みについては厚生労働省が情報を公開していますが、実際に何をどこまで使えるかは、勤務先の規程とご自身の状況によって変わります。

業務委託で在宅の仕事を受けている場合、これらの仕組みは前提が異なります。介護の体制そのものについては、ケアマネジャーや地域包括支援センターが窓口です。使える制度をご自身で判断せず、必ず窓口で確認してください。

収入が途切れる時期を、想定に入れておく

字幕づくりの案件は、発注者側の企画の切れ目で止まります。動画シリーズが完結すれば、そこで発注も終わる。これは作業の品質と関係なく起きます。

だからこそ、1社に集中しない設計が要ります。継続案件を1本持ちつつ、単発を受けられる先をもう1つか2つ確保しておく。介護中は営業に回す時間が取りにくいので、余裕のある時期に接点を作っておくのが現実的です。

在宅ワーク市場を長く見てきた立場からの考察

ここからは、フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場からの観察を書きます。

運営者として見てきた限りでは、字幕づくりのような定型作業から始めた人のうち、長く安定している方には共通点があります。それは、作業の速さではなく「やりとりの手間が少ない」ことです。

発注する側から見ると、同じ品質なら、確認の往復が少ない人に頼みたくなります。表記ルールを最初から守る。納期の前に一度進捗を報告する。できないときは早めに言う。この3つができる人は、単価交渉をしなくても仕事が途切れません。

そして、時間制約がある人ほど、この「頼みやすさ」が武器になります。作業量では、時間の潤沢な人に勝てません。しかし、扱いやすさと信頼で選ばれる余地は十分にあります。実際、介護や育児で稼働時間が限られている方が、長く継続的に指名され続けている例を何度も見てきました。

もう1つ、収入の構造について触れておきます。在宅ワークの手取りは、単価だけでは決まりません。仲介の仕組みによって、同じ発注額でも受け手に届く金額が変わります。仲介手数料が20%かかる経路なら、動画1分100円の案件は実質80円です。マージンが乗らない直接取引の形なら、依頼する側は同じ予算でより多く頼めますし、受ける側は手数料0%の分だけ手元に残ります。

20年この市場を見てきた立場から言えば、時間が少ない人ほど、この差が生活に効いてきます。稼働できる時間が半分なら、同じ時間から得られる手取りを厚くする以外に打つ手がないからです。契約の条件を詰めるのと同じ感覚で、受け取り方の構造も見ておいてください。

在宅ワーク全体の選択肢を把握しておきたい場合は、スキル別に仕事を整理した在宅でできる仕事おすすめ【2026年版】|スキル別ランキングが全体像の把握に役立ちます。字幕づくりから隣接分野に広げるときの地図になります。

家庭の予定と在宅ワークの時間配分を具体的にイメージしたい場合は、在宅ワーク主婦の1日のタイムスケジュール公開が参考になります。介護と家事では性質が違いますが、予定が読めない中断が入る点は共通しているので、時間割の作り方は転用できます。

文章を扱う仕事に広げていく場合は、報酬レンジを先に知っておくと判断が速くなります。著述家,記者,編集者の年収・単価相場にはこの分野の相場がまとまっており、字幕づくりの単価と比較する材料になります。

最後に1つだけ。介護をしながら働くとき、いちばん削られるのは体力ではなく判断力です。疲れているときに条件の悪い契約を受けてしまい、後で苦しくなる。この順番でつまずく方を、何人も見てきました。

だからこそ、条件は元気なうちに決めておいてください。修正2回まで、連絡は平日日中、納期は日時まで明記。この3つをテンプレートとして用意しておけば、疲れている日でも同じ判断ができます。段取りは、未来の自分を守るための仕組みです。

よくある質問

Q. 介護しながら動画の字幕づくりを在宅で始める場合、必要な機材は何ですか?

パソコン、インターネット回線、ヘッドホンかイヤホンの3つがあれば始められます。スマートフォンだけで完結する案件もありますが、字幕のタイミング調整は画面が大きいほうが作業しやすいため、ノートパソコンがあると効率が上がります。専用ソフトは発注者が指定する場合が多く、無料で使えるツールで対応できる案件も少なくありません。

Q. 単価はどのくらいが相場ですか?

字幕入れなら動画1分あたり100円から300円程度、AI下書きの修正が中心の文字起こしなら1分あたり50円から100円程度が目安です。時給換算では800円から1,500円程度に落ち着くことが多くなります。1本いくらの契約では、対象動画の長さの上限を必ず確認してください。想定より長い動画が来ると実質時給が大きく下がります。

Q. 介護の事情で納期に間に合わなくなったら、どう伝えればよいですか?

遅れると分かった時点ですぐ連絡し、現在の進捗、新しい納期の見込み、相手が取れる選択肢の3点を伝えてください。この形で連絡すると発注者が対応を判断でき、関係が続きやすくなります。介護の詳しい事情や診断名まで説明する義務はなく、「家族の介護があり状況が変わりました」で十分です。

Q. 修正を何度も求められて終わらない場合、どうすればよいですか?

受注時に「修正は初稿納品後2回まで無償、3回目以降は追加料金」と条件を提示し、メールなど文面が残る形で合意しておくのが最も確実です。フリーランス保護新法では、受注者に責任がないのにやり直しをさせる行為が一定の取引で禁止されています。詳しい制度内容や相談窓口は公正取引委員会の情報で確認できます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月22日最終更新:2026年9月11日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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