簿記2級を取ると年収はどう変わるか

前田 壮一
前田 壮一
簿記2級を取ると年収はどう変わるか

この記事のポイント

  • ✓簿記2級の年収は実務経験の有無で大きく変わります
  • ✓未経験の300万円台から経験3年で650万円まで届く相場
  • ✓在宅や副業で収入に変える道筋

まず、安心してください。簿記2級を取ったのに年収が上がらない、という話を聞いて不安になっている皆さんは多いと思います。結論から書きます。簿記2級は「持っているだけで年収が上がる資格」ではありません。ただし「実務経験と組み合わせたときに、年収の天井を押し上げる資格」です。この差を理解しているかどうかで、同じ資格を持つ人の年収が300万円も開きます。この記事では、経験年数別の相場、資格手当の実額、どの仕事で効いてどの仕事で効かないか、そして在宅や副業で収入に変える道筋まで、私が実際に見てきた範囲で正直に書きます。

簿記2級を取ると年収はいくらになるのか

最初に全体像を押さえます。日商簿記2級を持つ人の年収は、おおよそ300万円から650万円の帯に収まります。この幅が広すぎて「結局いくらなの」と思われるでしょうが、幅が広いこと自体が答えです。簿記2級の年収を決めているのは資格ではなく、その人が任されている業務の範囲だからです。

帯の下のほうにいるのは、資格を取ったばかりで実務経験がない人です。求人票の応募条件を満たせるようになるので、経理の入口には立てます。しかし入口で任されるのは伝票の起票、経費精算のチェック、請求書の発行といった定型業務です。この範囲の仕事は代替が効くので、年収は300万円台にとどまります。

帯の上のほうにいるのは、月次決算を単独で締められて、年次決算の主要な論点に自分で判断を下せる人です。ここまで来ると求人の応募条件が「日商簿記2級以上」から「決算実務3年以上」に変わります。資格は前提条件に格下げされ、年収を決めるのは経験の中身になります。都市部の中堅企業の経理課長クラスで600万円から700万円、上場企業の連結決算を回せる人材なら700万円を超えます。

ここで押さえておきたいのは、簿記2級が「年収の上限を引き上げる資格」ではなく「年収の下限を引き上げる資格」だという点です。持っていないと書類選考で落ちる求人が確実にあります。経理職の求人票を100件見ると、歓迎条件に日商簿記2級と書いてあるものが半分以上を占めます。つまり資格がないと、そもそも選考の母数が半分に減る。この「落ちないための資格」という性格を、多くの記事は書いてくれません。

試験の範囲や合格までの学習時間を確認したい皆さんには、商業簿記と工業簿記の出題範囲、合格率の推移、独学でどこまで行けるかをまとめた日商簿記2級のページが参考になります。まだ3級から始める段階なら、家計簿レベルの知識から仕訳の原則までを扱う日商簿記3級のほうを先に見てください。3級を飛ばして2級から受ける人もいますが、工業簿記でつまずく確率が上がります。

実務経験の有無で年収がどう変わるか

ここが本題です。簿記2級の年収を左右する最大の変数は、資格そのものではなく実務経験の年数です。経理や会計の人材紹介を手がける事業者が公開している目安を引きます。

実務経験なし:300~350万円簿記2級を取得していても、実務経験がない場合は、経験者に比べて平均年収が低い傾向にあります。 出典: jmsc.co.jp

同じ資料では、実務経験1年以上で300万円から480万円、実務経験3年以上で350万円から650万円という帯が示されています。数字の動き方に注目してください。下限は300万円から350万円へと50万円しか動いていないのに、上限は350万円から650万円へと300万円動いています。

これは何を意味するか。経験を積んでも自動的に年収が上がるわけではない、ということです。上限が伸びる人と、下限に張り付いたままの人に分かれる。分かれ目は、3年のあいだに何を任されたかです。

私はメーカーで品質管理をしていた頃、経理部の同僚を何人も見てきました。同じ時期に簿記2級を取って同じ部署に配属されたのに、3年後の評価がまったく違った2人がいます。1人は月次の締めを毎月同じ手順で正確にこなしていました。もう1人は、締めの手順そのものを疑って、前月比で異常値が出た勘定科目を自分で調べ、営業部門に原因を聞きに行っていました。後者は3年目に管理会計の担当になり、そこから年収が伸びました。前者は5年目も同じ仕事をしていました。

正直に書くと、これは資格の話ではありません。ただ、簿記2級の知識があると「異常値かどうか」を自分で判断できるようになる。判断できるから調べに行ける。資格が効いているのは、この一歩目の勇気の部分です。

経験を作る順番として現実的なのは、まず規模の小さい会社に入って業務の全体を見ることです。従業員100人以下の会社では、経理担当者が1人か2人しかいないので、入金確認から決算、税理士との窓口までを全部やることになります。しんどいですが、3年で決算を3回経験できます。大企業の経理部に入って売掛金の担当だけを3年やるより、転職市場での評価は上がります。

会計の専門職がどの程度の年収帯にいるのかを俯瞰しておくと、自分の立ち位置が測れます。国の統計をもとにした公認会計士,税理士の年収・単価相場のデータを見ると、会計の上位資格まで行った場合の到達点がわかります。簿記2級からその帯を目指すのか、経理実務で堅く積むのかは、ここを見てから決めるべき分岐です。

資格手当はいくら付くのか

年収の話をするとき、多くの皆さんが期待するのが資格手当です。ここは期待値を正しく持っていただきたい部分です。

日商簿記2級の資格手当の相場は、月額2,000円から5,000円です。年額にすると2万4,000円から6万円。これが現実の数字です。手当だけで年収が50万円上がることはありません。

手当の額は業種で大きく変わります。会計事務所や税理士法人は、資格そのものが商品なので手当を出します。月5,000円というのはこの業界の相場です。一方、一般企業の事務職では手当が付かない会社が半分以上あります。付いても月2,000円です。建設業や製造業では、簿記より施工管理技士や技能士のほうが手当が高く設定されています。

ここで使えるコツを1つ書きます。資格手当は「制度として存在するか」を、入社前ではなく入社後に確認したほうが通ります。就業規則の賃金規程に資格手当の一覧が載っているので、そこに日商簿記の記載があるかを見てください。記載があるのに申請していない人が、実は珍しくありません。総務に「賃金規程の資格手当の項目について、簿記2級は申請対象になりますか」と聞くだけです。私が見てきた範囲では、自己申告制の会社で申請漏れが起きています。

手当がない会社でも、資格を年収に変える経路はあります。1つは昇格要件です。経理課の主任以上に「日商簿記2級以上」を要件として置いている会社があり、この場合は手当ではなく役職手当として反映されます。もう1つは異動です。営業事務から経理へ、総務から管理会計へという社内異動の応募要件に資格が使われます。異動で等級が上がれば、月2,000円の手当より大きい額が動きます。

転職での交渉のしかたも書いておきます。面接で「簿記2級を持っています」と言うだけでは、年収の提示は変わりません。変わるのは「簿記2級の知識で、前職のこの業務をこう改善した」を数字で言えたときです。たとえば、月次の締めにかかっていた日数を8営業日から5営業日に短縮した、といった話です。資格は改善の裏付けとして使うものだと考えてください。

簿記2級が効く仕事と効かない仕事

資格を活かせる仕事の話に進みます。簿記2級が効く仕事は、思われているよりずっと広い一方で、効かない仕事もはっきりしています。

効く仕事の1つ目は、当然ながら経理と会計です。仕訳、月次決算、年次決算、固定資産管理。2級の範囲がそのまま業務になります。求人の応募条件に直接書かれているので、資格の投資回収がもっとも速い領域です。

2つ目は会計事務所と税理士法人の補助スタッフです。ここは未経験でも簿記2級があれば採用されます。中小企業の記帳代行と申告書の下書きを、複数社分同時に回す仕事です。短期間で多数の会社の決算を見られるので、経験の密度が高い。ただし繁忙期の2月から3月は残業が増えます。

3つ目は財務と経営企画です。予算編成、資金繰り、投資判断の資料作成。簿記の知識が前提になるポジションで、経理から一段上がる先としてよく使われます。

4つ目は営業職です。意外に思われるでしょうが、法人営業で相手の決算書を読めるかどうかは大きな差になります。取引先の与信判断、値上げ交渉の落としどころ、相手の決算期に合わせた提案時期。これらは貸借対照表と損益計算書が読めないと組み立てられません。簿記2級を営業で活かす人は、資格を名乗らずに使っています。

5つ目は事務職全般です。中小企業の総務事務では、経理を兼務するケースが多い。求人票に「経理事務」と書かれていなくても、実態として仕訳を切ります。

6つ目は在宅の記帳代行と経理代行です。ここは後の節で詳しく書きます。

一方、効かない仕事もあります。販売職、接客業、製造の現場作業では、簿記2級は評価されません。また、経理職であっても大企業の単一機能の担当に入ってしまうと、資格を持っていることが年収に反映されにくくなります。売掛金の入金確認だけを3年やっても、2級の知識の8割は使わないままです。

もう1つ正直に書くべきことがあります。簿記2級を取っても就職できない人には共通点があります。資格を取った理由を「手に職をつけたかったから」としか言えない人です。採用する側は、資格の有無ではなく「この人が来たら何が楽になるか」を見ています。前職が接客業でも「レジ締めの差異の原因を追う仕組みを作った」といった話ができれば通ります。資格の勉強と並行して、いまの職場で数字に関わる仕事を1つ拾っておくことをおすすめします。

年収600万円や1,000万円に届くのはどんな人か

検索でよく見かける「簿記2級で年収600万円」「年収1,000万円」という話を、現実の水準に落とします。

年収600万円は、簿記2級の実務経験を積んだ人が到達しうる範囲です。ただし条件が3つあります。1つ目は、月次と年次の決算を単独で回せること。2つ目は、税務の一次対応ができること。法人税と消費税の申告書を、税理士に丸投げせず論点を整理して渡せるレベルです。3つ目は、上場企業か上場準備企業にいること。非上場の中小企業では、経理担当者の給与テーブルの上限が500万円前後で止まる会社が多いからです。この3つが揃うと600万円が見えます。逆に言うと、中小企業に勤めたまま資格を積み増しても600万円には届きにくい。転職が必要になります。

年収1,000万円は、簿記2級だけでは届きません。ここは正直に書きます。1,000万円に届く経路は3つしかありません。1つは公認会計士か税理士の資格を取って独立するか、大手の監査法人や税理士法人に入ること。2つ目は、上場企業の経理部長やCFOまで上がること。3つ目は、経理の知識を土台にコンサルティングや事業側に移ること。いずれも簿記2級は出発点であって到達点ではありません。

高卒で簿記2級を取った場合はどうか。学歴による差は、初任給と大企業の応募要件の部分に出ます。ただし経理職は実務経験が学歴を上書きする度合いが大きい職種です。高卒で20歳から経理を始めた人が、28歳で決算実務8年になります。大卒で22歳から始めた人が同じ経験年数に達するのは30歳です。この2年の差は市場で効きます。学歴で不利だと感じている皆さんは、就職の早さを武器として数えてください。

40代で簿記2級を取る場合の話も書きます。私自身が43歳でメーカーを辞めているので、この年代の不安はわかります。40代の未経験から経理職の正社員に入るのは、率直に言って簡単ではありません。ただし経路はあります。会計事務所の補助スタッフ、中小企業の1人経理、そして記帳代行の業務委託です。この3つは40代の採用実績があります。年齢を理由に諦める前に、この3つの入口を当たってみてください。

転職で資格をどう見せるかは、書類の作り方で差が出ます。資格の記載位置、職務経歴の書き出し、応募先ごとの並べ替えまで踏み込んだ職務経歴書の書き方完全ガイド|転職成功率を上げるコツ【2026年版】を先に読んでおくと、書類選考の通過率が変わります。

在宅と副業で簿記2級を収入に変える道筋

ここは市場の変化が大きい領域なので、詳しく書きます。簿記2級は在宅ワークとの相性が、他の事務系資格よりはっきり良い資格です。

理由は簡単です。会計ソフトがクラウドに移ったからです。以前は会社のパソコンにインストールされた会計ソフトを触るしかなかったので、経理は出社が前提でした。いまは中小企業の多くがクラウド会計を使っていて、権限を渡せば自宅から仕訳を入れられます。この構造変化が、在宅の記帳代行という仕事を成立させました。

在宅で受けられる仕事は、大きく4つに分かれます。

1つ目は記帳代行です。領収書と通帳の明細を受け取って仕訳を入れる仕事で、月20万円規模の小さな会社なら月額1万円から3万円、取引の多い会社で月額3万円から8万円が相場です。1社あたりの作業時間は慣れれば月5時間から10時間程度になります。

2つ目は請求書発行と入金管理の代行です。毎月決まった日に請求書を出し、入金を突き合わせ、未入金を報告する。定型なので受けやすく、月額1万円から3万円の帯です。

3つ目は決算前の整理です。年に1回、会計事務所に渡す前のデータを整える仕事で、単発で3万円から10万円。繁忙期に集中するので、本業と並行しやすい。

4つ目は経理業務の設計支援です。クラウド会計の導入、勘定科目の設計、経費精算のルール作り。ここは単価が上がり、1案件で10万円から30万円になります。簿記2級の知識に加えてソフトの操作経験が要りますが、参入している人が少ない領域です。

副業として始める場合のコツを書きます。最初から複数社を受けないことです。1社を3か月きっちり回して、自分の作業時間を実測してください。私が見てきた失敗のほとんどは、作業時間を見積もれないまま3社受けて、決算期に全部が重なって破綻するパターンです。月額料金を決める前に、1社あたりの実働時間を知る必要があります。

業務委託で仕事を受けるときは、報酬から中間手数料が引かれるかどうかで手取りが変わります。この点は後の節でもう一度触れます。

在宅の仕事を探す際は、どんな職種がどんな条件で募集されているかを先に俯瞰しておくと選びやすくなります。たとえば、業務の棚卸しから自動化の提案までを扱うAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、経理の定型業務を仕組みに置き換える方向の仕事で、簿記の知識がそのまま武器になります。文章を書く仕事と組み合わせて収入を作る人もいるので、著述家,記者,編集者の年収・単価相場で書く仕事の単価帯も確認しておくと、時間配分の判断がつきます。

業種別に見る簿記2級の評価の差

同じ資格なのに、どの業種に持ち込むかで評価が変わります。転職先を選ぶ段階でここを知らないと、資格が死にます。

会計事務所と税理士法人は、簿記2級をもっとも高く評価します。未経験でも採用の対象になり、入社後の学習コストが低いので歓迎されます。ただし初任給は決して高くありません。年収300万円前後から始まり、担当社数が増えるにつれて上がる仕組みです。3年で400万円台、5年で500万円台が一般的な軌道です。この業界の特徴は、年収より経験の密度で得をすることです。1人で20社から30社の決算を見るので、経験年数の割に扱った業種の幅が広くなります。後から一般企業の経理に移るときに、この幅が効きます。

一般企業の経理部は、業種によって評価が分かれます。製造業は原価計算があるので工業簿記の知識が直接使われ、評価が高い。2級の範囲に工業簿記が入っているのは製造業にとって都合がよく、原価差異の分析まで任される会社があります。小売とサービス業は取引の種類が単純なので、2級の知識の半分しか使いません。評価は相対的に低くなります。不動産業と建設業は独自の会計処理があるので、簿記の一般知識に加えて業界固有のルールを学ぶ時間が必要です。入ってから1年は苦労しますが、覚えた後は代替されにくい人材になります。

金融業界は少し特殊です。銀行や信用金庫では、簿記の知識は融資審査の側で使われます。取引先の決算書を読んで返済能力を判断する仕事なので、貸借対照表と損益計算書とキャッシュフロー計算書の関係が体に入っている人が強い。ここは2級の知識が「経理をやるため」ではなく「他社の経理を読むため」に使われる珍しい領域です。

IT企業とスタートアップでは、経理の人数が少ないので業務範囲が広くなります。クラウド会計、経費精算ツール、請求書発行システムを自分で設定して運用する仕事が付いてきます。簿記の知識にツールの操作が乗るので、経理と情報システムの中間のような立ち位置になります。この経験は市場で希少なので、転職時の年収の伸びが大きい。ただし社内に教えてくれる人がいないので、自走できる人向けです。

公的機関と学校法人は、会計基準そのものが企業会計と違います。簿記2級の知識は基礎として役立ちますが、そのまま使えるわけではありません。安定性を優先するなら選択肢に入りますが、年収の伸びは緩やかです。

自分の資格がどの業種で強く評価されるかは、求人票の「歓迎条件」ではなく「必須条件」に簿記が書かれているかで判断できます。必須になっている業種が、その資格を本当に必要としている業種です。

簿記2級と組み合わせると年収が伸びる知識

簿記2級を単体で持っている人は多いので、組み合わせで差をつける考え方を書きます。

1つ目の組み合わせは、簿記と表計算ソフトの実務力です。陳腐な話に聞こえるでしょうが、現場で本当に効きます。月次の資料を作るときに、ピボットテーブルと関数で集計を自動化できる人は、同じ作業を半分の時間で終えます。浮いた時間で分析ができるので、評価される仕事に回れる。経理職の求人で「Excel中級以上」と書かれている会社は、この差を知っています。

2つ目は、簿記と給与計算です。給与計算は社会保険と税金の知識が要るので、簿記とは別系統の知識になります。しかし中小企業では経理と労務を兼務する求人が多く、両方できる人の採用ニーズが高い。年収の上がり方も素直で、兼務手当や等級の上振れとして反映されます。

3つ目は、簿記とクラウド会計の導入経験です。会計ソフトの入れ替えを1回でも主導した経験は、転職市場で異様に高く評価されます。理由は、失敗したときの損害が大きい仕事なので、経験者を採りたい会社が多いのに経験者が少ないからです。いまの職場でソフトの入れ替えの話が出たら、面倒でも手を挙げてください。

4つ目は、簿記と英語です。外資系企業や海外子会社を持つ日本企業では、英文会計の知識が必要になります。簿記2級の知識があれば、英文の勘定科目を覚えるだけで読めるようになります。年収の帯が一段上がる組み合わせですが、必要な人数が限られているので、募集を待つ姿勢になります。

5つ目は、簿記と業務改善の視点です。これがもっとも汎用性が高い。経理の定型業務を見直して、手作業を減らす提案ができる人は、経理職の枠を超えて評価されます。私が見てきた範囲では、この方向に進んだ人の年収の伸びがもっとも大きかった。数字を作る人から、数字が作られる仕組みを設計する人に移るからです。

逆に、組み合わせても年収に効きにくいものも書いておきます。簿記1級です。誤解のないように書きますが、簿記1級は難しく価値のある資格です。ただし年収への効き方は、一般企業の経理では2級との差が小さい。1級が効くのは、会計士や税理士を目指す途中にいる場合と、上場企業の連結決算や会計基準の判断をする部署にいる場合です。手当の額も2級より月2,000円から3,000円高い程度です。1級に半年から1年かけるより、2級のまま実務経験を1年積んだほうが年収が上がるケースは珍しくありません。どちらを選ぶかは、自分が向かう先で決めてください。

学習にかかる費用と回収までの期間

投資の回収という観点でも整理しておきます。年収の話をするなら、かかった費用も数えるべきです。

日商簿記2級の受験料は5,500円です。独学の場合、テキストと問題集で1万円から1万5,000円。合計で2万円前後に収まります。通信講座を使うと2万円から6万円、予備校の通学講座では6万円から10万円が相場です。

学習時間は、3級を持っている人で250時間から350時間、簿記の知識がまったくない状態からなら350時間から500時間が目安です。1日2時間で半年前後になります。工業簿記が初めての人は、ここで時間を取られます。

回収の計算をします。資格手当が月3,000円付く職場なら、独学の2万円は7か月で回収できます。手当が付かない職場でも、転職で年収が20万円上がれば1か月で回収です。数字の上では、これは回収の速い投資です。

ただし正直に書くと、回収できない人もいます。取っただけで動かない人です。資格を取った後、応募もせず、社内で手も挙げず、1年経ってしまう。この場合の投資回収はゼロです。私が伝えたいのは、簿記2級の価値の大半は「取った後の3か月に何をするか」で決まるということです。合格通知が届いた週に、求人を10件見て、社内の賃金規程を確認してください。それだけで回収の確度が変わります。

学習方法のコツも1つだけ。工業簿記を後回しにしないことです。商業簿記のほうが範囲が広いので先に手をつけたくなりますが、工業簿記は出題パターンが限られていて得点しやすい。先に工業簿記で取れる点を固めておくと、合格の計算が立ちます。私が周囲で見てきた不合格の多くは、工業簿記に手をつけたのが試験の1か月前だったケースです。

年収を上げる具体的な手順

抽象論を避けて、時間軸で整理します。

最初の6か月でやることは1つです。いまの職場で数字に触る業務を取りに行くことです。経理部でなくても構いません。売上の集計、原価の計算、経費の精査、在庫の棚卸し。何でもいいので、数字の根拠を自分で作る仕事を1つ持ってください。転職の面接で語れる材料は、ここでしか生まれません。無料でできる自己投資として、これがもっとも効きます。

6か月から1年半では、決算に絡みます。経理職なら月次の締めを単独で任せてもらう。経理職でないなら、決算資料の一部を作る側に回る。この期間に「決算を回した経験」という言葉を自分の履歴に入れるのが目標です。

1年半から3年では、市場価値を測ります。転職する気がなくても、年に1回は求人を見て自分の経験がいくらで評価されるかを確認してください。給与が市場水準から離れていることに気づかないまま5年経つのが、もっとも損の大きいパターンです。転職サイトは対象年代や職種で得意分野が違うので、年代別と職種別の選び方を整理した転職サイトおすすめ比較【2026年版】|年代・職種別の選び方で当たりをつけてから登録すると、無駄な面談が減ります。

3年以降は方向を選びます。上場企業の経理に移って組織の中で上がるか、税理士や会計士の上位資格を取るか、業務委託で複数社を受ける働き方に移るか。3つとも正解です。ただし、決めずに現状維持を選ぶと年収は止まります。

成功しやすい人の共通点を1つだけ挙げます。数字の異常に気づいたときに、放置せず理由を突き止める人です。これは性格ではなく習慣なので、後から身につきます。前月比で15%以上動いた勘定科目を毎月1つ選んで理由を調べる。それだけで1年後には、社内で「数字のことはあの人に聞け」と言われる位置に立てます。

市場を長く見てきた立場からの観察

最後に、フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から見えていることを書きます。

簿記2級を持つ人の年収が伸びるかどうかは、資格の使い方より「関係の作り方」で決まっています。運営者として見てきた限りでは、長く続いて単価が上がっていく経理系の受託者は、依頼された仕訳を正確に返す人ではありません。「先月と比べてこの科目が動いているので、理由を確認したほうがいいと思います」と一言添える人です。依頼側にとっては、自分で気づけなかったことを教えてくれる相手になる。そうなると値段の話が出なくなります。

もう1つ、20年この市場を見てきて確信していることがあります。同じ予算でも、中間マージンが乗るかどうかで双方の満足度が変わるということです。依頼者が月5万円を用意したとき、仲介手数料が20%乗る経路では受け手に届くのは4万円です。手数料が乗らない直接取引なら5万円がそのまま届く。金額の差は1万円ですが、効いているのは金額ではありません。受け手は同じ手取りを得るための作業量が減るので、1社あたりに使える時間が増える。依頼者は同じ予算でより丁寧な仕事を受け取れる。この「双方が得をする」構造が、継続の年数を伸ばしています。手数料0%の意味は、安く買えることではなく、手取りが厚いことです。

そして、経理という職種の将来について。自動化で経理の仕事が消えるという話は10年前から言われていますが、実際に消えたのは入力作業だけです。増えているのは、数字を見て意思決定に翻訳する仕事と、会計の仕組みそのものを設計する仕事です。この2つは簿記2級の知識が前提になります。

資格を取った皆さんに伝えたいのは、簿記2級は「安心を買う資格」ではなく「次の一歩を選べるようにする資格」だということです。私は43歳で会社を辞めましたが、辞める判断ができたのは、辞めた後に何ができるかを具体的に数えられたからです。簿記2級を持っているなら、数えられる選択肢は確実に増えています。焦らず、順番に取りに行ってください。

よくある質問

Q. 簿記2級を取っただけで年収は上がりますか?

資格手当の月額2,000円から5,000円は付く可能性がありますが、それ以上の変化は実務経験と組み合わせたときに出ます。未経験で300万円から350万円、実務経験3年以上で350万円から650万円という帯が目安です。資格は年収の下限を引き上げ、選考に残れる求人の数を増やす役割だと考えてください。

Q. 実務経験がなくても経理職に転職できますか?

できます。会計事務所や税理士法人の補助スタッフ、従業員100人以下の会社の1人経理、記帳代行の業務委託の3つが未経験の入口です。特に小規模な会社は入金確認から決算までを一通り任されるので、3年で決算を3回経験できます。転職市場での評価は大企業の単一業務より上がります。

Q. 在宅で簿記2級を活かせる仕事は何がありますか?

記帳代行が月額1万円から8万円、請求書発行と入金管理の代行が月額1万円から3万円、決算前のデータ整理が単発3万円から10万円、クラウド会計の導入支援が1案件10万円から30万円が相場です。最初は1社だけ受けて、自分の実働時間を3か月測ってから件数を増やしてください。

Q. 簿記2級で年収1,000万円は目指せますか?

簿記2級だけでは届きません。経路は、公認会計士か税理士を取って独立または大手法人に入る、上場企業の経理部長やCFOまで上がる、経理の知識を土台にコンサルティングや事業側に移る、の3つです。いずれも簿記2級は出発点で、到達点ではないと理解しておくほうが計画を立てやすくなります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月17日最終更新:2026年9月24日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド

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SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方