年収を上げるための働き方の見直し方


この記事のポイント
- ✓賃金構造基本統計調査と雇用動向調査の数字から分解します
- ✓役職・産業・企業規模・職種・地域という5つの変数
- ✓転職で実際に上がる割合
年収を上げる方法を調べる人の多くは、すでに努力はしています。残業も引き受けているし、評価も悪くない。それでも数字が動かない。この記事では、精神論ではなく、公的な賃金統計を使って「年収が何で決まっているか」を5つの変数に分解します。どの変数なら自分に動かせるのかがわかれば、次にやることが決まります。
まず、いまの年収がどの位置にあるかを確認する
出発点は現在地の確認です。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の賃金(所定内給与額)は男女計で月額330.4千円でした。対前年増減率は3.8%です。男性は363.1千円、女性は275.3千円で、男女間賃金格差は男性を100としたとき75.8となっています。
この330.4千円という数字は、残業代と賞与を除いた、毎月決まって支払われる額です。求人票の年収額や源泉徴収票の支払金額とは範囲が違うので、比較するときは注意してください。自分の給与明細の「基本給+固定的な手当」の合計が、この統計と同じ土俵の数字になります。
年齢階級別に見ると、男女計で20歳から24歳が232.5千円、30歳から34歳が299.5千円、40歳から44歳が351.4千円、50歳から54歳が380.4千円、55歳から59歳が392.0千円です。男性は55歳から59歳の444.1千円がピークで、女性は45歳から49歳の298.0千円がピークとなっています。
自分の年齢と比べて、いまどこにいるか。この確認を飛ばして方法論だけを集めると、動かすべき変数を間違えます。
昇給だけで動く幅には、はっきりした上限がある
多くの人が最初に期待するのは、いまの会社での昇給です。ところが、ここで動く幅は思っているより小さいことが知られています。
人事評価の仕組みを開発した経験を持つ書き手は、こう書いています。
たとえ最高評価をもらっても、年収が 3〜4%程度しか上がらないというのはよくある話です。(これは私が実際に人事評価システムを開発した経験から来ています) 出典: note.com
仮に年収400万円で毎年3%上がり続けたとして、5年後は約464万円です。悪い数字ではありませんが、評価を最高に保ち続ける前提での話になります。そして多くの会社では、最高評価の枠自体が人数で制限されています。
ここから導かれる結論は単純です。昇給は否定すべきものではありませんが、それ「だけ」で大きく動かそうとすると、時間がかかりすぎます。年収を動かしたいなら、昇給とは別の変数に手をつける必要があります。
同じ調査で、勤続年数階級別の賃金も出ています。男女計で勤続0年が266.5千円、5年から9年が303.7千円、10年から14年が327.2千円、20年から24年が393.0千円、30年以上が433.9千円です。勤続を重ねれば上がりますが、266.5千円から433.9千円まで動かすのに30年かかる計算になります。時間を味方につける方法は、確実ではあっても遅い。
年収を決めている5つの変数
統計を細かく見ていくと、年収の差を作っている要素はいくつかに整理できます。ここでは5つに分けます。自分が動かせるのはどれかを考えながら読んでください。
変数1:役職
差が最も大きいのがここです。一般労働者のうち雇用期間の定めのない者を役職別に見ると、男女計で部長級627.2千円、課長級512.0千円、係長級385.9千円、非役職者302.8千円となっています。非役職者を100としたとき、部長級は207.1です。つまり2倍を超えます。
役職に就いている人の平均年齢は、部長級が53.0歳、課長級が49.3歳、係長級が45.6歳です。勤続年数も部長級22.2年、課長級20.7年と長い。この経路は、時間と社内での実績の両方を必要とします。裏を返せば、すでに長く勤めている会社があるなら、この変数は自分に一番近いところにあるということです。
変数2:産業
働いている業界そのものが、賃金の水準を決めています。産業別に見ると、男女計で最も高いのが「電気・ガス・熱供給・水道業」の437.5千円、次いで「金融業,保険業」の410.6千円、「学術研究,専門・技術サービス業」の401.8千円、「情報通信業」の391.0千円と続きます。最も低いのは「宿泊業,飲食サービス業」の269.5千円です。
上位と下位の差は168.1千円あります。月額でこれだけ違うということは、同じ努力をしても、産業が違えば結果が大きく変わるということです。個人の頑張りで埋められる差ではありません。
変数3:企業規模
同じ産業でも、会社の規模で水準が変わります。男女計で大企業364.5千円、中企業323.1千円、小企業299.3千円です。この差は年齢が上がるほど開きます。55歳から59歳では、大企業452.6千円に対して小企業332.8千円と、120千円近い差がついています。
若いうちは規模による差が小さく、年齢とともに広がる。この構造を知っていると、30代での会社選びの意味が変わって見えます。
変数4:学歴と職種の希少性
学歴別では、男女計で高校288.9千円、専門学校306.9千円、高専・短大307.2千円、大学385.8千円、大学院497.0千円となっています。学歴は後から変えにくい変数ですが、ここで本当に効いているのは学歴そのものより、配属される職種の違いです。
だから、実質的に動かせるのは職種の希少性のほうです。同じ会社の中でも、代わりのきかない仕事を担当している人と、誰でもできる仕事を担当している人では、交渉力が違います。職種ごとの相場を知りたい場合は、開発系の水準がソフトウェア作成者の年収・単価相場に、文章を扱う仕事の水準が著述家,記者,編集者の年収・単価相場にまとまっています。
変数5:地域
都道府県別の賃金を見ると、全国計の330.4千円を上回ったのは東京都、神奈川県、愛知県、大阪府の4都府県だけでした。最も高いのは東京都の403.7千円です。地域による差は確かに存在します。
ただし、この変数は生活費とセットで考える必要があります。賃金が高い地域は住居費も高い。移住だけで手取りの余裕が増えるとは限りません。在宅で完結する仕事であれば、居住地を変えずに高い単価の仕事を受けるという選択肢もあります。
転職で年収は本当に上がるのか
5つの変数のうち、産業と企業規模を動かす最も直接的な方法が転職です。では実際に、転職した人の年収はどう動いているのか。
厚生労働省の令和6年雇用動向調査によると、その年の転職入職者の賃金変動は、前職に比べて「増加」が40.5%、「減少」が29.4%、「変わらない」が28.4%でした。1割以上の増加は29.4%、1割以上の減少は21.7%です。増加が減少を11.1ポイント上回っており、前年と比べて増加の割合は3.3ポイント上昇、1割以上の増加は3.8ポイント上昇しています。
この数字の読み方を間違えないでください。40.5%が上がっている一方で、29.4%は下がっています。転職すれば上がる、という単純な話ではありません。上がる側に入るためには、動かす変数を意識して選ぶ必要があります。
前職を辞めた理由も参考になります。同調査では、男性は「その他の個人的理由」と「その他の理由」を除くと「定年・契約期間の満了」が14.1%で最も多く、次いで「給料等収入が少なかった」が10.1%でした。女性は「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」が12.8%、「職場の人間関係が好ましくなかった」が11.7%となっています。
つまり、収入だけが転職の動機ではありません。労働条件や人間関係で動く人も多い。年収を上げることだけを目的に転職先を選ぶと、別の理由で長続きしないことがあります。
年代によって、動かすべき変数は変わる
同じ5つの変数でも、年代によって動かしやすさが違います。優先順位を間違えると、効かないところに時間を使うことになります。
20代は、産業と企業規模を動かすのに最も適した時期です。経験の蓄積が浅い分、業界を変えることの負担が小さく、未経験可の求人の対象にもなります。賃金の水準そのものが高い産業へ移っておくと、その後の年齢に応じた上昇もその水準の上で進みます。統計上も20歳から24歳の賃金は男女計で232.5千円と差が小さく、この段階での移動はコストが低い。
30代は、職種の希少性を上げる時期です。この年代で賃金が一段伸びるのは、一人で仕事を完結できるようになるからです。男女計で30歳から34歳の299.5千円が、40歳から44歳では351.4千円になります。この上昇を最大化するには、担当範囲を広げることと、代わりのきかない領域を一つ持つことが効きます。
40代は、役職という変数が現実味を帯びる時期です。係長級の平均年齢が45.6歳、課長級が49.3歳であることを考えると、40代前半は手前の段階にあたります。ここで管理側に回るかどうかの選択が、その後の賃金に大きく影響します。管理職にならない道を選ぶなら、その分だけ専門性で代替する必要があります。
50代は、変数を動かすより、60歳以降の落差に備える時期です。男女計で55歳から59歳の392.0千円が、60歳から64歳では317.7千円に下がります。この落差を埋める手段を、50代のうちに用意しておくかどうかで、その後の10年が変わります。
残業代で作った年収は、構造としてもろい
年収の話をするとき、残業代を含めた金額で考えている人が少なくありません。この考え方には弱点があります。
第1に、残業時間は自分で決められません。会社の受注量や人員配置で変わり、減れば年収も減ります。自分の技能が上がったわけでもないのに収入が動く構造は、安定とは言えません。
第2に、残業を前提にした生活設計は、転職の選択肢を狭めます。残業込みの年収を基準に求人を探すと、労働時間の短い会社が候補から外れます。結果として、時間あたりの報酬が低い会社に留まり続けることになります。
第3に、健康と時間を差し出しています。長時間労働で作った年収は、学習や副業に使えたはずの時間を使い切っています。次の変数を動かすための原資を、そこで失っている。
判断の基準を、年収額から時間あたりの金額に変えてみてください。年収を年間の総労働時間で割った数字が、自分の実際の単価です。この数字で比べると、年収が同じでも中身がまったく違う2つの会社が見分けられます。年収を上げる方法を考えるときも、最初に上げるべきなのはこの時間あたりの金額のほうです。
年収を一時的に下げてでも、移るべきケースがある
年収を上げる方法という視点だけで判断すると、短期的に下がる選択肢が最初から除外されます。しかし、長期で見れば下げたほうが結果が大きくなる場面があります。
典型は、賃金水準の低い産業から高い産業へ移るときです。未経験で移る場合、最初の提示額は前職を下回ることがあります。それでも、産業ごとの賃金の伸び方が違うため、数年後には逆転することがある。最も高い産業と最も低い産業の差が168.1千円あるという事実は、この逆転が起こり得ることを示しています。
もう一つは、担当できる工程を広げるための移動です。指示されたとおりに作る仕事から、何を作るかを決める仕事へ移るとき、最初は評価が下がることがあります。ただし、決める側の仕事は単価の上限が高い。長期で見れば、この移動のほうが伸びます。
判断の目安は、下がる期間の見通しが立つかどうかです。1年から2年で戻る見込みがあり、その間の生活費が確保できるなら、検討する価値があります。何年で戻るかの見通しが立たない場合は、条件を詰め直したほうが安全です。
ここで重要なのは、下げる判断を家族と共有しておくことです。生活水準が一時的に変わることを事前に合意していないと、途中で引き返すことになり、かけた時間が無駄になります。
社内で上げるなら、手順がある
転職せずに上げる道も残っています。ただし、待っているだけでは動きません。手順があります。
第1に、いまの自分の仕事を、担当業務ではなく成果で説明できるようにします。「〇〇を担当している」ではなく、「〇〇を担当し、処理件数を年間で何件から何件にした」「対応時間を何時間短縮した」という形です。評価の場面で使えるのは後者だけです。
第2に、記録を残します。改善したこと、任された範囲が広がったこと、他部署から依頼された仕事。これらは日々の業務の中で流れていってしまうので、その都度メモに残しておく。評価面談の直前に思い出そうとしても出てきません。
第3に、上げたい金額と根拠を、自分の中で先に決めます。「もう少し上げてほしい」は交渉になりません。市場の相場と自分の実績を並べて、いくらが妥当かを示す。相場の根拠としては、同じ職種の求人票に書かれている金額が使えます。
第4に、伝える相手とタイミングを選びます。評価や昇給の決定は、多くの会社で年度の特定の時期に集中します。決まってしまった後に言っても、次の年度まで動きません。自分の会社の決定プロセスがいつ動くかを把握しておくことが前提になります。
この4つを踏んでも動かない会社であれば、それは自分の努力の問題ではなく、会社の賃金制度の問題です。そのときは、変数を変えることを検討する段階に入ります。
交渉の場で避けたほうがよい言い方もあります。生活費が足りない、同僚と比べて低い、という理由は、相手に判断材料を与えません。会社が動かせるのは、その金額を払う根拠があるかどうかだけです。だから話すべきなのは、自分が生み出している価値と、市場でその仕事にいくら支払われているかの2点になります。
もう一つ、交渉の結果がどうであれ、関係を壊さないことが重要です。断られた場合に必要なのは、何が足りないのかを具体的に聞き出すことです。「あと何ができるようになれば、この金額になりますか」と聞けば、次の1年でやるべきことが相手の言葉で手に入ります。答えが返ってこない会社は、その時点で判断材料がそろったことになります。
応募書類の書き方で、提示される金額が変わる
転職を選ぶ場合、応募書類の出来は提示額に直結します。同じ経歴でも、書き方で相手の評価が変わるからです。
原則は、役職名ではなく担当した作業と成果で書くことです。採用する側が知りたいのは肩書きではなく、明日から何を任せられるかです。扱った金額の規模、管理した人数、期間、処理した件数。この4つのうち書けるものを入れると、経験の大きさが伝わります。守秘義務に触れる固有名詞は避け、規模だけを書けば問題ありません。
書類の構成に自信がない場合は、職務経歴書の書き方完全ガイド|転職成功率を上げるコツ【2026年版】で型を確認してから書き始めると、手戻りが減ります。また、自分の年代や職種に合う求人がどこに集まっているかを把握したい場合は、転職サイトおすすめ比較【2026年版】|年代・職種別の選び方が参考になります。
もう一つ、応募先ごとに書き分けることが重要です。同じ書類を使い回すと、どの求人の要件にも半分しか合わない書類になります。求人票に書かれた業務内容の言葉を、自分の経験の記述に反映させる。この作業の有無が、書類選考の通過率を変えます。
技能を足して、職種の希少性を上げる
職種の希少性を上げる方法は、大きく2つあります。既存の技能を深めるか、隣接する技能を足して掛け算にするかです。
50代までの多くの人にとって、現実的なのは後者です。いまの仕事に隣接する領域を一つ足すと、両方がわかる人という希少性が生まれます。営業と数字の分析、事務とシステムの理解、制作と広告運用。組み合わせの数だけ、代わりのきかない立ち位置が作れます。
学ぶ内容を選ぶときは、需要のある領域から選んでください。相談型の仕事がどんな内容かはAIコンサル・業務活用支援のお仕事に、広告運用やセキュリティに関わる領域はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事に、開発の領域はアプリケーション開発のお仕事にまとまっています。
技能を証明する手段として資格を使う場合、費用は公的な給付で下げられることがあります。雇用保険の教育訓練給付金では、一般教育訓練給付金が教育訓練経費の20%(上限10万円)、特定一般教育訓練給付金が40%(上限20万円、要件を満たせば50%)、専門実践教育訓練給付金が50%(年間上限40万円)から、要件を満たせば最大80%(年間上限64万円)まで支給されます。支給要件は雇用保険の被保険者であった期間が原則3年以上(初回は1年以上、専門実践は2年以上)です。制度の内容は厚生労働省の案内で確認し、自分が対象かどうかはハローワークの窓口で照会してください。
社外文書の型を体系立てて押さえたいならビジネス文書検定のような検定が実務の下支えになります。資格そのものが評価されるというより、学習の過程で身につく型が、日々のやり取りの精度を上げてくれます。
収入の柱を1本から2本にする
年収を上げる方法として見落とされやすいのが、収入源を増やす道です。勤務先の給与という1本の柱に、業務委託の収入を足す形です。
この方法の利点は、勤務先の賃金制度に依存しないことです。昇給率が低い会社にいても、外で受けた仕事の報酬は自分の交渉次第で決まります。また、市場で自分の技能がいくらで評価されるかを知ることができ、社内交渉や転職の判断材料にもなります。
始めるときの注意点は3つあります。第1に、勤務先の就業規則で副業が認められているかを確認すること。第2に、確定申告が必要になる場合があること。給与以外の所得が一定額を超えると申告が必要です。第3に、本業に支障が出ない範囲に留めること。
受ける仕事の選び方にも原則があります。最初から高い単価を狙うより、自分の本業の延長線上にある仕事を選ぶほうが立ち上がりが速い。経理の仕事をしている人が経理関連の資料作成を受ける、広報の仕事をしている人が文章の執筆を受ける、といった形です。学習コストがほとんどかからないため、時間あたりの効率が高くなります。
続けるうえでの注意点は、量を増やしすぎないことです。本業の疲労が溜まると、両方の質が落ちます。最初は月に数時間から始め、納期を守れる範囲を確かめてから増やしてください。納期を落とすと次の依頼が来なくなるため、慎重に広げるほうが結果的に早く安定します。
短時間の働き方の相場も参考になります。同じ賃金構造基本統計調査では、短時間労働者の1時間当たり賃金は男女計で1,476円、男性1,699円、女性1,387円でした。時給で働く形と、成果物に対して報酬が支払われる形では、単価の考え方がまったく違います。成果物型の仕事は、慣れるほど同じ時間で多く処理できるようになり、実質的な時間単価が上がっていきます。
男女で異なる賃金カーブを、前提に入れる
年収を上げる方法を考えるとき、統計に現れている男女の差を無視すると計画が狂います。数字を正面から見ておきます。
令和6年賃金構造基本統計調査では、男性の賃金が363.1千円、女性が275.3千円で、男女間賃金格差は男性を100としたとき75.8でした。前年より1.0ポイント縮小しています。年齢階級別の形も違います。男性は年齢とともに上がり続けて55歳から59歳の444.1千円でピークを迎えますが、女性は45歳から49歳の298.0千円がピークで、上昇の傾きが緩やかです。
勤続年数別でも差があります。男女計で勤続30年以上が433.9千円のところ、女性だけで見ると359.6千円です。企業規模別では、女性の大企業296.6千円に対して中企業271.3千円、小企業255.5千円となっています。
この形の違いが生まれる要因は一つではありません。職種の分布、勤続年数の分布、管理職に占める割合など、複数の要素が重なっています。ここで個別の因果を断定することはできませんが、計画を立てるうえで確認できることはあります。女性の場合、勤続を重ねることによる上昇に期待する設計より、職種の希少性や産業の選択といった変数を早い段階で動かす設計のほうが、統計の形に沿っています。
また、短時間労働者の1時間当たり賃金は男女計で1,476円、男性1,699円、女性1,387円です。短時間の働き方を選ぶ場合でも、時給の交渉材料として、自分の職種の相場を把握しておくことが役立ちます。
1年でやることを、月単位に割る
変数を選んだら、実行に落とします。ここを曖昧にしたまま情報収集を続けると、1年後も同じ場所にいることになります。
最初の1か月は、現在地の確定に使います。給与明細から所定内給与額を取り出し、統計の同年代の数字と比べる。自分の職種の求人票を20件ほど集めて、提示されている金額の幅を記録する。この2つで、いまいる位置と市場の位置が見えます。
2か月目から4か月目は、選んだ変数に必要な材料をそろえる期間です。社内で役職を目指すなら実績の記録を、転職で産業を変えるなら応募書類と業界の知識を、職種の希少性を上げるなら学習の計画を。この段階では成果は出ませんが、ここを飛ばすと後がすべて崩れます。
5か月目から8か月目は、実際に動かす期間です。評価面談で交渉する、応募する、学習を進める。動かしてみると、想定と違うことが必ず出てきます。ここで得た情報をもとに、計画を修正します。
9か月目から12か月目は、結果を確認して次を決める期間です。動いたのか、動かなかったのか。動かなかった場合、原因が自分の準備不足なのか、会社や市場の構造なのかを切り分けます。構造の問題であれば、翌年は別の変数を選びます。
この1年の設計で重要なのは、変数を一つに絞ることです。役職も狙い、転職も検討し、学習も並行する、という進め方は、どれも中途半端に終わります。一つに絞って1年を使い、結果を見てから次を選ぶ。この繰り返しのほうが、3年後の位置は高くなります。
額面ではなく、手取りで測る
最後に、測り方の話をします。年収を上げる方法を考えるとき、額面の金額だけを見ていると判断を誤ります。
会社員の給与からは、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税が引かれます。健康保険料と厚生年金保険料は標準報酬月額という区分で計算され、報酬が一定の水準を超えて区分が上がると保険料も上がります。所得税も課税される所得が増えれば税率の区分が変わることがあり、住民税は前年の所得をもとに翌年課税されます。
したがって、額面が10%増えても、手取りが10%増えるとは限りません。実際にいくら増えるかは、扶養の状況や住んでいる自治体によって変わるため、一般論では出せません。給与明細の控除欄を前月や前年と比べることで、自分の場合の増え方が確認できます。個別の計算は勤務先の担当部署や税務署に確認してください。
ただし、保険料が増えること自体は損とは限りません。厚生年金の標準報酬月額が上がれば、将来の年金額の計算にも反映されます。目先の手取りと長期の受け取りの両方で見るのが、本来の評価の仕方です。
運営者の視点から見た、収入が伸びる人の共通点
フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、収入が伸びる人には共通した行動があります。作業の単価を上げようとするのではなく、引き受ける工程を前に広げていくことです。
たとえば、言われたとおりに作るだけの人は、いつまでも作業の単価で評価されます。一方、何を作るべきかを一緒に決める段階から関わる人は、成果に対して報酬が決まります。この2つは、同じ技能を持っていても収入が大きく違います。前に広げるために必要なのは技術の高さではなく、相手の事情を先に聞く習慣です。
もう一つ、運営者として見てきた限りで確かなことがあります。同じ予算でも、中間に手数料が乗らない直接の取引では、依頼する側はより多くを頼め、受ける側の手元に残る額は厚くなります。手数料0%が効くのは1件あたりの金額ではなく、この差が年単位で積み上がることにあります。額面の交渉に費やす労力と、手取りの構造を変える判断とでは、後者のほうが効き目が長く続きます。
年収を上げる方法は、結局のところ「どの変数を動かすか」の選択です。役職、産業、企業規模、職種の希少性、地域。この5つのうち、いま自分に動かせるものが一つはあるはずです。全部を同時に動かそうとすると失敗します。一つ選んで、そこに1年を使う。その繰り返しが、統計の中の自分の位置を変えていきます。
よくある質問
Q. 昇給だけで年収を大きく上げることはできますか?
時間はかかります。厚生労働省の令和6年賃金構造基本統計調査では、勤続年数階級別の賃金は男女計で勤続0年が266.5千円、30年以上が433.9千円です。この差を埋めるのに30年かかる計算になります。昇給を否定する必要はありませんが、それだけに頼ると動く速度が遅くなるため、役職や産業といった別の変数も併せて検討してください。
Q. 転職すれば年収は上がりますか?
上がる人のほうが多いものの、確実ではありません。令和6年雇用動向調査では、転職入職者のうち前職より賃金が「増加」した割合は40.5%、「減少」は29.4%、「変わらない」は28.4%でした。1割以上の増加は29.4%です。上がる側に入るには、産業や企業規模といった水準そのものを決める要素を意識して選ぶ必要があります。
Q. 年収に一番大きく影響する要素は何ですか?
統計上、差が最も大きいのは役職です。一般労働者のうち雇用期間の定めのない者を役職別に見ると、男女計で部長級627.2千円、課長級512.0千円、係長級385.9千円、非役職者302.8千円で、非役職者を100としたとき部長級は207.1となります。次いで産業による差が大きく、最上位と最下位の間に168.1千円の開きがあります。
Q. 副業で収入を増やす場合、何に注意すればよいですか?
3つあります。勤務先の就業規則で副業が認められているかを確認すること、給与以外の所得が一定額を超える場合は確定申告が必要になること、そして本業に支障が出ない範囲に留めることです。申告の要否は所得の種類や金額によって変わるため、判断に迷う場合は税務署に確認してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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