刺繍を副業にする|受けやすい依頼と道具のそろえ方


この記事のポイント
- ✓刺繍副業を始めたい方へ
- ✓受けやすい依頼の種類と道具のそろえ方を整理しました
- ✓手刺繍と刺繍ミシンの違い
結論から書きます。刺繍を副業にするなら、作品を作って売る道よりも、依頼を受けて刺す道のほうが先に回り始めます。理由は単純で、前者は「気に入ってもらえるかどうか」に売上が左右されるのに対して、後者は「頼まれたものを正確に仕上げる」だけで完結するからです。
刺繍副業の情報を見ていくと、作品販売の話ばかりが目立ちます。正直なところ、そこから入るのはいちばん難しい順路だと思います。この記事では、受けやすい依頼の種類、必要な道具と費用、単価の考え方、そして避けるべき落とし穴を順に整理します。
刺繍の副業市場は「作品」と「加工」の2つに分かれている
まず市場の形を押さえます。刺繍でお金を受け取る形は、大きく2つに分かれます。
1つは作品販売です。自分で図案を考えて、完成品や図案そのものを売る。ブローチ、ワッペン、額に入れた作品、刺繍キット。単価は自由に決められますが、売れる数は読めません。在庫を持つ形になるので、材料費が先に出ていきます。
もう1つは加工の受注です。お客様が持っている、あるいはお客様が指定した品物に、名前やロゴ、模様を入れる。こちらは注文が入ってから作るので在庫が発生しません。単価は低めですが、作業内容が決まっているので時間を計算できます。
この2つは、必要な能力も違います。作品販売で問われるのは、図案の魅力と写真の撮り方、そして見つけてもらう工夫です。加工の受注で問われるのは、指定どおりに正確に仕上げることと、納期を守ることです。
副業として時間が限られている人にとっては、後者のほうが相性がいいという特徴があります。3時間で終わる作業が3時間で終わるからです。作品販売は、売れるまでの時間が読めません。
需要の中身を見ると、名入れの分野が安定しています。入園や入学の時期に集中する名前入れ、部活やチームのユニフォームへのネーム入れ、企業の制服へのロゴ刺繍、贈り物への記名。どれも「機械では拾えない細かい注文」が残っている領域です。既製品の量販では対応できない、数が少ない注文が個人に回ってきます。
ハンドメイドで生活費を賄うのは、想像より大変です
先に厳しい話をしておきます。手仕事で収入を得ることについて、質問サイトにこういう声が上がっていました。
ハンドメイドで月20万円稼ごうと思ったら相当大変なのでしょうか? 利益率が高いものは何なんでしょうか? ハンドメイドで売り上げた場合も、税金を払わないといけないのでしょうか? また正社員で働いていて、ハンドメイドのものをヤフオクやメルカリで売って利益を得るのは副業になりますよね? 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
この質問には3つの論点が混ざっています。順に答えます。
まず金額です。手刺繍は、1点に時間がかかります。イニシャル1文字なら15分で終わりますが、手のひらサイズの図案を丁寧に刺すと数時間かかります。仮に1点3,000円で売れて、制作に4時間かかれば、材料費を引いた時間あたりの実入りは600円台にしかなりません。ここを機械で補うか、単価を上げるか、作業を短くするか。この3つのどれかを選ばないと、時間が足りなくなります。
次に税金です。売上があれば所得の計算対象になります。給与所得のある人が副業で得た所得については、一定額を超えると確定申告が必要です。所得は売上から経費を引いた額なので、糸、布、針、送料、梱包材、ミシンの減価償却などは経費になります。要件は国税庁の案内で確認してください。
3つ目は、勤務先との関係です。自分の持ち物を売るのと、作ったものを継続して売るのは扱いが違います。継続的に売って利益を得る形は、就業規則上の副業に当たる可能性があります。確認しておいたほうが安全です。
手刺繍と刺繍ミシン、どちらを選ぶかで副業の形が変わる
道具の話に入る前に、この選択を先に決めてください。ここで進む道が分かれます。
手刺繍の利点は、初期費用が小さいことです。針、糸、布、刺繍枠、図案を写す道具をそろえて、1万円前後から始められます。表現の幅も広く、立体的な仕上げや、糸の質感を活かした表現は手でしかできません。欠点は速度です。1点あたりの時間が長く、量を受けられません。
刺繍ミシンの利点は速度と再現性です。同じ図案を何枚でも同じ品質で出せます。名入れやロゴの仕事は、ほぼこちらの領域です。欠点は費用です。家庭用の刺繍機能付きミシンは、機種によって10万円台から30万円台が中心で、業務用になるとさらに上がります。加えて、刺繍枠、下地に使う芯地、糸、データを作る環境が必要になります。
どちらを選ぶかは、受けたい仕事から逆算します。名入れやロゴの依頼を安定して受けたいならミシンが必要です。作品や小物を自分の表現として売りたいなら手刺繍で十分です。
ここで注意したいのが、いきなりミシンを買う判断です。15万円のミシンを回収するには、名入れ1点500円の仕事なら300点が必要になります。先に手刺繍で受注の感覚をつかんで、注文が続くと分かってから機械に投資する。この順番のほうが安全です。
もう1つの選択肢として、刺繍のデータを作る仕事があります。図案を刺繍機が読める形式に変換する作業で、専用のソフトが必要ですが、刺繍そのものをしない分、体の負担も場所も要りません。刺繍ミシンを持っている人向けにデータだけを販売する形もあります。技術寄りの働き方に関心があるなら、この方向も検討する価値があります。
受けやすい依頼を、受けやすい順に並べる
実際に注文が入りやすい順に挙げます。
1つ目は、名前入れです。入園や入学の時期に集中します。体操服、上履き袋、給食袋、ハンカチ。1点あたりの単価は案件により300円から1,000円程度が中心で、決して高くありません。ただし、同じ作業を繰り返すので慣れると速くなり、時期が読めるので予定を立てやすい。
2つ目は、既製品への追加刺繍です。お客様が買った服やバッグに、ワンポイントを入れる。デニムのリペアを兼ねた刺繍、目立つ穴を隠す刺繍は需要があります。単価は内容によりますが、1点1,500円から5,000円程度の範囲が中心です。
3つ目は、団体のネーム入れです。部活、サークル、チームのユニフォームに名前や番号を入れる。1件で10点から30点まとまるので、効率がよい。ただし納期が厳しく、間違えられないという緊張があります。
4つ目は、企業の制服やキャップへのロゴ刺繍です。継続取引になりやすく、副業として最も安定します。ただしミシンと、ロゴのデータ化が必要です。個人で受けるなら、小さな事業者を相手にするところから始めるのが現実的です。
5つ目は、記念品の制作です。出産祝いの名入れ、結婚のギフト、ペットの写真をもとにした図案。単価は高めに設定できますが、思い入れが強い依頼なので、仕上がりへの要求も高くなります。
6つ目は、教える仕事です。刺繍の教室やオンラインのレッスン。材料費がかからず、単価も自分で決められます。ただし、教えるためには自分の手順を言葉にする力が必要です。説明の型を整えるという意味では、文書の書き方を体系的に確認できるビジネス文書検定の出題範囲が、意外と役に立ちます。
7つ目は、図案やキットの販売です。作る手間が1回で済み、同じものを何度も売れます。ただし売れるまでの時間が読めないので、最初の収入源には向きません。
道具のそろえ方。最初に買うものと、後でいいもの
手刺繍で始める場合の、最低限をまとめます。
最初に買うのは、刺繍糸、刺繍針、刺繍枠、図案を写す道具、糸切りはさみ、そして布です。糸は本数の多いセットを買うより、使う色を数色そろえるほうが無駄がありません。針は太さの違うものが数本入ったセットで足ります。枠は直径10センチ前後のものが1つあれば、ほとんどの作業に対応できます。
図案を写す道具は、水で消えるペンか、専用の転写紙を選びます。ここを省いて目分量で刺すと、仕上がりの歪みが出ます。安い道具ですが、品質に直結します。
後でいいものは、複数サイズの枠、刺繍台、専用の収納、大量の糸です。特に糸は、増やしたくなる気持ちが強い領域ですが、色数を増やしても仕上がりの質は上がりません。
一方、早めにそろえたほうがいいものが2つあります。1つは照明です。手元を明るくすると、目の疲れが大幅に減り、作業時間を伸ばせます。もう1つは拡大鏡です。細かい作業を続けるなら、これは体を守る道具です。作業環境を整えることが生産性に直結するという点は、在宅の仕事に共通しています。集中の維持については在宅ワークの集中力アップ|ポモドーロ以外に効く7つのテクニックにある考え方が、手を動かす作業にもそのまま当てはまります。
布と芯地の選び方も書いておきます。刺繍を入れる布が薄い場合、裏に芯地を貼らないと引っ張られて歪みます。お客様の持ち込み品に刺す場合は、生地の種類を確認してから受けてください。伸びる生地や、目の粗い生地は難易度が上がります。受けられない素材をあらかじめ決めておくと、トラブルを避けられます。
単価の決め方。時間で割って初めて実態が分かる
ここが最も重要な節です。刺繍の副業で挫折する原因は、技術ではなく単価の設計にあります。
単価を決める順序は3段階です。まず、1点にかかる総時間を測ります。刺す時間だけでなく、やり取りの時間、図案を作る時間、梱包と発送の時間、写真を撮る時間を含めます。次に、目標とする時間あたりの金額を決めます。最後に、材料費と手数料を足します。
ここで多くの人が外すのが、やり取りの時間です。名前のつづりの確認、色の相談、仕上がりの写真の送付。1件あたり15分から30分は消えます。1点500円の仕事に30分のやり取りが付くと、作業時間を足した実質は最低賃金を下回ることがあります。
対策は2つです。1つは、選択肢を減らすこと。書体は3種類、色は10色、サイズは2種類、と決めてしまう。選択肢が少ないほど、やり取りが短くなり、お客様も決めやすくなります。もう1つは、まとめて受けること。1点だけの注文より、3点以上の注文を優先する形にすれば、やり取りの時間を分散できます。
販売の場を通す場合は、手数料も計算に入れます。作品を扱う販売サイトの手数料は、サービスによりますが売上の10%前後が一般的です。決済の手数料と送料も引かれます。年間の売上が増えるほど、この差は無視できなくなります。実績を作る段階では販売の場の集客力を借りる価値がありますが、続く取引については手数料0%で直接つながれる場を併用したほうが、同じ作業量でも手元に残る額が厚くなります。
なお、収入の水準を判断する材料として、他の在宅職種の相場を横に置いてみるのも有効です。文章の仕事の水準は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認できます。手刺繍の時間あたりの実入りと比べてみると、刺繍を「稼ぐ手段」として見るか「続けたい仕事」として見るかの判断がつきます。
注文の受け口をどこに作るか
技術があっても、頼む場所がなければ注文は来ません。受け口の選び方を整理します。
作品を扱う販売サイトは、集客を借りられるのが利点です。刺繍を探している人が最初に見る場所なので、出品しておけば見つけてもらえる可能性があります。欠点は、同じジャンルの出品数が多いことと、手数料が引かれることです。作品の写真が並ぶ形式なので、写真の質で決まる傾向があります。
フリーマーケット型のサービスは、回転が速い反面、値下げの交渉が入りやすい。名入れのようなオーダーの受け方には向きません。
自分で注文を受ける形にすると、手数料がかからず、条件も自由に決められます。ただし、見つけてもらう工夫を自分で用意する必要があります。地域名と作業内容を組み合わせた検索で見つかるようにしておくと、近隣からの依頼が入るようになります。ここは1か月では効きません。半年から1年かけて問い合わせが入るようになる、という時間感覚で始めたほうがいい。
対面の場も、意外に効きます。手芸の店、地域のイベント、園や学校のつながり。名入れの需要は地域で完結するので、近所で知られているほうが有利です。1回で完結する注文より、毎年頼まれる関係を作れます。
実際のところ、受け口は1つに絞る必要がありません。作品は販売サイト、オーダーは自分の受け口、地域の名入れは対面。こう分けておくと、季節による偏りを吸収できます。
写真の撮り方だけで、問い合わせの数が変わります
刺繍の副業で、技術と同じくらい成果を左右するのが写真です。ここは費用がかからず、効果が出るのが早い領域です。
押さえる点は4つです。1つ目は光。晴れた日の窓際で、直射日光を避けて撮る。これだけで糸の質感が出ます。室内の照明の下で撮ると、色が正しく出ません。
2つ目は背景。無地の布か紙を敷いて、余計なものを写さない。生活感のあるものが写り込むと、商品として見てもらえなくなります。
3つ目は大きさが分かる写真を入れること。刺繍は写真だけでは寸法が伝わりません。手に持った写真や、身につけた写真を1枚入れるだけで、問い合わせの内容が具体的になります。
4つ目は寄った写真です。糸の重なりが見える距離で撮った1枚を必ず入れてください。手仕事の価値は、この距離でしか伝わりません。機械では出せない部分を見せる写真が、単価を支えます。
反対に、加工を強くかけた写真は避けてください。実物と色が違うと、届いたときに残念に思われます。色の相違は、手仕事で最も多いクレームの原因です。
技法は絞ったほうが、仕事になります
最後に、練習の進め方についてのコツを1つ。
刺繍には多くの技法がありますが、副業として受ける仕事で使うものは限られています。名入れならバックステッチとサテンステッチ、それにチェーンステッチがあれば足ります。ワンポイントの図案なら、これにフレンチノットとロング・アンド・ショートステッチを足す程度です。
つまり、5つか6つの技法を安定して綺麗に出せれば、受けられる仕事はほとんど網羅できます。新しい技法を増やすことより、いま使う技法の精度を上げるほうが、仕事としての価値が上がります。
判断の基準は「同じものを10回作って、10回同じ仕上がりになるか」です。1回だけうまくできた作品は、仕事にはなりません。依頼は繰り返しなので、再現できることが品質です。
私も学び始めた時期に、難しそうな技法から手をつけて、基本のステッチが揺れたままになっていた経験があります。遠回りでした。地味なステッチを揃えて刺せるようになってからのほうが、仕上がり全体が整いました。
実際に刺繍で事業を回している人の話
刺繍を扱う分野で、副業から本業へ移った例があります。
当時の本業は事務職で、電話対応やパソコン作業を、もくもくと決められた就業時間にやる感じでした。それから趣味をかねた副業として、小さいネットショップをいくつかやっていました。ハンドメイドの販売とかですね。 出典: baseu.jp
この方の場合、刺繍作品そのものを売るのではなく、刺繍リボンという材料を扱う専門店という形に落ち着いています。ここに、副業を続けるうえでのヒントがあります。
作る人の数が多い市場では、作品を売る競争は激しい。一方で、作る人に向けて材料や道具、図案を供給する側は、競争相手が少ない。自分が作り手として悩んだ経験が、そのまま商品の選定に活きます。
刺繍を続けていると、「この色の糸が手に入りにくい」「この道具が国内にない」といった不満が溜まります。その不満は、同じことをしている人が全員感じている不満です。作品の販売が伸びないと感じたら、供給側に回る道を検討する余地があります。
注意点。ここを外すと後で困ります
具体的に挙げます。
まず著作権と商標です。キャラクター、企業のロゴ、有名なデザインを刺繍して販売することは、権利の侵害になります。個人で楽しむ範囲と、販売する行為は扱いが違います。依頼としてロゴ刺繍を受ける場合は、その権利を持つ本人からの依頼であることを確認してください。「知り合いの会社のロゴだから」という説明だけで受けると、後で困ります。
次に、刺繍ミシンに内蔵されている模様のデータです。機種によって、商用利用の扱いが異なります。購入時の説明書やライセンスの条項を確認してください。内蔵データをそのまま使って販売してよいかどうかは、思い込みで判断しないほうがいい。
3つ目は、持ち込み品への刺繍です。お客様の品物に刺して失敗した場合、品物そのものの賠償が必要になることがあります。高価な品物は受けない、事前に生地の状態を写真で確認する、失敗時の扱いを先に取り決める、という3つで対応します。これを文字で残しておくだけで、トラブルの大半は防げます。
4つ目は、洗濯とお手入れの説明です。刺繍を入れた品物は、洗い方によって糸が縮んだり、色が移ったりします。納品のときに、洗濯機で洗ってよいか、裏返して洗うべきか、アイロンを直接当てないほうがよいかを、ひとこと添えてください。これを省くと、使う側の扱いが原因で起きた変化まで、作った側の責任として受け取られます。紙1枚を添える手間で、後の連絡が減ります。
5つ目は、納期です。手仕事は、体調と家庭の事情で止まります。余裕のない納期で受けると、無理が効きません。実際にかかる時間の1.5倍を見て日程を伝えてください。早く上がれば喜ばれます。
6つ目は、目と肩です。細かい作業を長時間続けると、確実に消耗します。50分刺して10分休む、という区切りを最初から入れてください。私も細かい作業を詰めて進めた時期に、翌日まで目のかすみが残って作業が止まった経験があります。生産量を上げるコツは、長く続けることではなく、毎日同じだけ続けられる形を作ることです。
収入源を1つにしない、という考え方
刺繍を副業として長く続けるなら、収入の柱を2本以上持っておくほうが安定します。
理由は季節性です。名入れの需要は入園と入学の時期に集中し、ギフトは年末に増えます。閑散期がはっきりある分野なので、1本だけに頼ると月ごとの収入が大きく揺れます。
組み合わせとして相性がいいのは、体を使わない在宅の仕事です。自宅で完結する仕事につながる資格をまとめた在宅ワークに強い資格10選|自宅で稼げるスキルを身につけるは、刺繍の閑散期に回せる仕事を探す材料になります。自宅で作業する時間を増やすなら、回線の選び方をまとめた在宅ワークに最適なネット回線|光回線vsホームルーターの選び方も、写真の送信や動画での案内をする段階で関わってきます。
作品の紹介や図案の説明を発信する形を取るなら、業務の流れを整理する視点も使えます。作業の手順を仕組みとして整える発想は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事で扱われている業務改善の考え方と重なります。個人の手仕事でも、注文の受け方と記録の残し方を型にすると、受けられる件数が変わります。
閑散期の使い方も決めておいてください。注文が少ない時期に手を止めると、次の繁忙期に速度が戻りません。図案の在庫を増やす、写真を撮り直す、価格表を見直す。作業の手を動かし続ける形にしておくと、勘が落ちません。
そして、閑散期こそ単価を上げる交渉の時期です。繁忙期は目の前の注文で手一杯になり、条件を見直す余裕がありません。年に1回、静かな時期に自分の価格表を書き直す習慣をつけておくと、値上げのタイミングを逃しません。
20年この市場を見てきた立場からの観察
在宅とフリーランスの市場を長く運営してきた立場から言うと、手仕事の副業が続く人には、はっきりした共通点があります。作品の完成度ではありません。「同じ人からもう一度頼まれている」ことです。
運営者として見てきた限りでは、単発の注文を集め続ける形は、時間の大半が集客に消えます。一方で、同じお客様から年に数回頼まれる関係を数件持っている人は、集客の時間をほぼ使っていません。名入れのように毎年必要になるものは、この関係を作りやすい分野です。
そのために効くのは、納品のときの一言です。仕上がりの写真を添える、洗濯のときの注意を書き添える、次に頼めるものを1つだけ挙げる。技術ではなく段取りの話です。
もう1つ、手取りの話をしておきます。仲介の手数料が乗らない直接の取引では、依頼する側は同じ予算でより多く頼めますし、受ける側は手元に残る額が厚くなります。これは片方が得をする関係ではありません。長く続けている人ほど、単価を上げる交渉より、手数料の乗らない関係を少しずつ増やすことに時間を使っているように見えます。
在宅ワークの募集から読み取れる、刺繍の位置づけ
在宅の仕事の募集を職種で眺めると、刺繍そのものの求人はほとんど出てきません。手仕事の分野は、求人という形ではなく、個人からの依頼という形で流れているからです。
つまり、刺繍を副業にするなら、応募して選ばれるルートではなく、自分で受け口を作るルートになります。ここが、データ入力やライティングと決定的に違う点です。受け口を作るには時間がかかりますが、一度できあがると競争相手が入ってきにくい。
だから、最初の数か月は収入ではなく「受け口の整備」に時間を使うほうが合理的です。何を受けるか、何を受けないか、価格はいくらか、納期はどれくらいか。これを決めて公開しておくこと。問い合わせの時点で条件が分かっていれば、やり取りが短くなり、単価の交渉も起きにくくなります。
最後に、優先順位を1つだけ挙げます。作品の完成度を上げることより、受ける条件を決めることを先にしてください。条件が決まっていない人は、安い依頼に時間を取られて、腕を上げる時間を失います。順番を逆にするだけで、半年後の状況が変わります。
よくある質問
Q. 刺繍の副業は、いくらから始められますか?
手刺繍なら、糸、針、刺繍枠、図案を写す道具、はさみ、布をそろえて1万円前後から始められます。刺繍ミシンを使う場合は、家庭用の刺繍機能付きミシンが機種によって10万円台から30万円台が中心で、これに芯地や糸などの消耗品が加わります。まず手刺繍で受注の感覚をつかみ、注文が続くと分かってから機械に投資する順番が安全です。
Q. 未経験でも受けやすい依頼はどれですか?
名前入れです。体操服や通園グッズへの記名は、入園や入学の時期に需要が集まり、作業内容も決まっています。単価は1点300円から1,000円程度が中心で高くはありませんが、繰り返すうちに速くなり、時期が読めるので予定を立てやすい。既製品へのワンポイント追加や、デニムの補修を兼ねた刺繍も入口として現実的です。
Q. キャラクターや企業のロゴを刺繍して販売してもよいですか?
販売はできません。キャラクターや企業のロゴには権利があり、無断で刺繍して売る行為は権利の侵害になります。ロゴ刺繍の依頼を受ける場合は、その権利を持つ本人からの依頼かを確認してください。また刺繍ミシンに内蔵されている模様データも、商用利用の可否が機種によって異なるため、購入時の条項を確認する必要があります。
Q. 時間あたりの収入が低くなってしまうのを、どう防げばよいですか?
やり取りの時間を削ることが最も効きます。書体、色、サイズの選択肢をあらかじめ絞って公開しておくと、相談の往復が短くなり、お客様も決めやすくなります。1点だけの注文より複数点の注文を優先する形にするのも有効です。単価を決めるときは、刺す時間だけでなく、相談、梱包、発送、撮影を含めた総時間で割って計算してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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