障害者支援施設の人間関係|狭い職場での距離の取り方


この記事のポイント
- ✓障害者支援施設の人間関係が煮詰まりやすい理由を
- ✓入所施設ならではの勤務体制から整理します
- ✓支援方針の違いで起きる摩擦への距離の取り方
障害者支援施設の人間関係に悩んでいる。そういう相談を受けると、話の中に同じ言葉が何度も出てきます。「逃げ場がない」です。
同じ建物で、同じ職員と、何年も顔を合わせる。夜勤では2人きりで朝まで過ごす。利用者の暮らしを24時間つなぐために、嫌でも毎日引き継ぎで言葉を交わさなければならない。これ、外から見ている人には想像しにくいんですが、障害者支援施設は、職場の中でも特に人間関係が濃くなりやすい構造を持っています。
結論から言うと、狭い職場で人間関係を保つこつは、「仲良くなること」ではなく「支援の手順を共通の言葉にして、人ではなく手順について話すこと」です。つまり、相手の人柄に踏み込まずに済む仕組みを、自分の側に持っておくということです。そのうえで、どこからが我慢すべきでない問題なのか、その線引きも知っておく必要があります。
この記事では、障害者支援施設の人間関係が煮詰まりやすい理由から始めて、摩擦が起きやすい場面、距離の取り方、ハラスメントとの境目、不適切な支援を見たときの対応、そして職場を選び直すときの見方までを順番に整理します。
なぜ障害者支援施設の人間関係は煮詰まりやすいのか
最初に、なぜこの職場で人間関係が濃くなりやすいのかを整理しておきます。原因が構造にあると分かるだけで、「自分の性格が悪いから合わないんだ」という思い込みから少し離れられます。
1つ目の理由は、職場が閉じた空間になりやすいことです。障害者支援施設は、夜間と休日の暮らしを支える施設入所支援と、昼間の生活介護などを同じ施設で提供します。利用者にとっては住まいそのものなので、外部の人が日常的に出入りする場所ではありません。職員も、勤務時間の大半を建物の中で過ごします。新しい風が入りにくく、いったんできあがった関係や空気が長く続きやすいんです。
2つ目の理由は、勤務が24時間の交代でつながっていることです。早番、日勤、遅番、夜勤と、1人の利用者に1日で何人もの職員が関わります。前の勤務の人の対応が次の勤務の人の仕事に直接影響するので、「あの人が申し送りをしてくれなかったから、夕方が大変だった」という不満が生まれやすい。つまり、仕事の不満が、特定の人への不満に変わりやすい構造です。
3つ目の理由は、夜勤の人数が少ないことです。国の基準(指定障害者支援施設等の人員、設備及び運営に関する基準)では、施設入所支援の夜間の生活支援員は、利用者60人以下なら1人以上とされています。実際にはもっと多く配置している施設もありますが、それでも夜は少人数です。相性の合わない人と朝まで2人で過ごす夜勤は、それだけで気持ちが重くなります。
4つ目の理由は、正解が1つではない仕事だということです。障害のある人への関わり方には、「この声かけが絶対に正しい」という答えがありません。長く勤めている職員には「この人にはこう接するのがいちばん」という経験の積み重ねがあり、新しく入った職員には研修で学んだ考え方があります。どちらにも理由があるからこそ、意見がぶつかったときに、支援の方法の違いが、人と人との対立にすり替わりやすいんです。
そして5つ目の理由は、勤続年数の長い職員が多いことです。障害者支援施設の運営主体は、ほとんどが社会福祉法人や自治体に関係する組織で、長く勤める職員も少なくありません。職員同士の関係に何年もの歴史があり、新しく入った人がその中に入っていくのは、どうしても時間がかかります。
これ、知らない人が本当に多いんです。人間関係の悩みの多くは、個人の相性だけでなく、こうした構造から生まれています。構造から生まれる摩擦は、構造を理解したうえで対処すれば、ずいぶん軽くできます。
人間関係の摩擦が起きやすい4つの場面
構造を押さえたうえで、摩擦が実際に起きやすい場面を具体的に見ていきます。自分がどの場面でつらいのかが分かると、対処の仕方も選びやすくなります。
1つ目は、引き継ぎの場面です。朝の引き継ぎで、夜勤者から「昨夜は大変だった」とだけ言われて、何がどう大変だったのか分からない。夕方の引き継ぎで、日勤者が急いで帰ってしまい、入浴を誰が済ませたのか分からない。こうした小さな食い違いが積み重なると、「あの人はいつもいい加減だ」という評価に変わっていきます。引き継ぎは、その人の仕事ぶりが最も見えやすい時間なので、評価の対立が生まれやすいんです。
2つ目は、支援方針の違いが表に出る場面です。たとえば、食事の時間に立ち歩く利用者に対して、「座るまで声をかけ続ける」職員と「食べ終わるまで見守る」職員がいる。どちらのやり方にも理由があります。でも、同じ利用者に違う対応をすると、利用者が混乱し、落ち着かなくなることがあります。そして、「あの人のやり方のせいで、この人が不安定になった」と、職員同士の責任の押しつけ合いが始まります。
3つ目は、夜勤のペアの場面です。夜勤中は、休憩の順番、見回りの分担、トイレ誘導の担当など、2人で決めることがたくさんあります。片方が休憩を長く取る、片方が大変な利用者の対応をいつも押しつけられる、といった不公平感は、夜の閉じた時間の中で大きくふくらみます。
4つ目は、職種の違いが表に出る場面です。生活介護を行う施設には看護職員が1人以上置かれ、施設によっては栄養士や理学療法士などもいます。看護職員は健康管理の視点から「この人の水分をもっと増やしてほしい」と言い、生活支援員は日中活動や本人の気持ちの視点から「無理に飲ませると嫌がって活動に参加できなくなる」と感じる。どちらも利用者のためを思っての意見なのに、立場の違いが対立に見えてしまうことがあります。
こうして見ると、4つの場面すべてに共通していることがあります。それは、摩擦のきっかけが「人柄」ではなく「支援の進め方」にあるということです。だからこそ、次の節で説明する距離の取り方が効いてきます。
距離の取り方1:「人」ではなく「支援の手順」について話す
1つ目の距離の取り方は、相手の人柄や態度ではなく、支援の手順について話すことです。
障害者支援施設には、職員同士が共有できる「共通の言葉」がもともと用意されています。それが、個別支援計画です。国の基準では、施設は利用者の意向や適性、障害の特性などを踏まえた計画を作り、それにもとづいて支援を行い、その効果を継続的に評価することが、一般原則として定められています。つまり、どう関わるかは、本来は職員それぞれの好みではなく、計画にもとづいて決まるものなんです。
たとえば、先輩のやり方に疑問を感じたとき、「先輩のやり方は間違っていると思います」と言えば、人と人との対立になります。でも、「〇〇さんの個別支援計画では、食事中は見守る方針になっていたと思うんですが、今の対応と合わせたほうがいいでしょうか」と聞けば、話題は計画と手順になります。相手も、自分が責められていると感じにくくなります。
計画の中に書かれていない場面で意見が分かれたときは、「どちらのやり方がいいか、次の会議で決めてもらいませんか」と提案するのが効果的です。個人同士で決着をつけるのではなく、職員全体で決める場に持ち込む。これで、どちらかが負ける構図を避けられます。
引き継ぎの摩擦も、同じ考え方で減らせます。「何がどう大変だったのか」を口頭で聞き出そうとすると、相手の疲れや機嫌に左右されます。そこで、引き継ぎの内容を記録の形で残すことを、自分から習慣にしてしまうんです。時間、場所、利用者がしたこと、職員がしたこと、そのあとどうなったか。この5つを短く書いておけば、次の職員はそれを読むだけで状況が分かります。
国の基準でも、サービスの提供の記録や個別支援計画は、提供した日から5年間保存しなければならないとされています。記録は、職員同士の言った言わないの争いを防ぐ道具でもあるということです。
私が以前、ある施設の方から相談を受けたときのことです。「夜勤明けの先輩が、いつも引き継ぎのときに不機嫌で、何を聞いても『記録を見て』としか言わない」という悩みでした。話を聞いていくと、その施設では記録の書き方が職員ごとにばらばらで、「記録を見て」と言われても何も分からない状態だったんです。そこで、その方は自分の勤務のときだけでも、5つの項目で記録を書くようにしました。数か月たつと、同じ書き方をする職員が少しずつ増え、先輩の「記録を見て」が、本当に記録を見れば分かる状態に変わっていったそうです。人を変えようとせず、手順を変えた例です。
距離の取り方2:夜勤のペアとの関係は「業務の約束」で守る
2つ目の距離の取り方は、夜勤のペアとの関係を、気持ちではなく業務の約束で守ることです。
夜勤で2人きりになる相手とは、仲良くなれればそれに越したことはありません。でも、相性が合わない相手と、無理に打ち解けようとする必要はないんです。夜勤で大切なのは、朝まで利用者の安全を守ることで、そのためには相手と仲が良いことより、役割がはっきりしていることのほうがずっと役に立ちます。
具体的には、夜勤が始まったときに、次のことを短く確認しておくことをおすすめします。休憩と仮眠の順番と時間、見回りの時間と分担、夜間に介助が必要な利用者の担当、体調の変化があったときに誰に連絡するか。これを「今日はこういう分担でいいですか」と最初に確かめておくだけで、夜の途中で「なんで私ばかり」と感じる場面はかなり減ります。
休憩の取り方は、特にもめやすいところです。労働基準法では、労働時間が8時間を超える場合、少なくとも1時間の休憩を与えなければならないとされています。休憩は、仕事から完全に離れられる時間でなければなりません。つまり、ペアの相手が休憩している間も、自分が1人で見守りを続けるのは当然としても、休憩中の人を当たり前のように呼び出す運用が続いているなら、それは個人の問題ではなく、施設の勤務体制の問題です。
もし夜勤のペアとの不公平感が続くなら、1人で我慢するのではなく、上司に「夜勤の分担をはっきり決めてほしい」と伝えてください。そのときも、「〇〇さんがずるい」ではなく、「夜勤の分担が決まっていないので、毎回その場で決めていて負担に差が出ています」と、仕組みの話として伝えるのがこつです。国の基準では、施設は利用者に適切なサービスを提供できるよう、職員の勤務の体制を定めておかなければならないとされています。分担の明確化は、施設が本来やるべきことなんです。
※夜勤の休憩が実際には取れず、呼ばれて対応した時間の賃金も支払われていない場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーや、労働基準監督署に相談できます。
距離の取り方3:職場の外に、話せる場所を持つ
3つ目の距離の取り方は、職場の外に、仕事の話ができる場所を持つことです。
狭い職場の人間関係がつらくなるのは、職場の中の評価が、自分のすべてのように感じてしまうからです。先輩に認められないと、自分には福祉の仕事の才能がないように思えてくる。でも、それはたまたま今いる職場の、たまたま今の人間関係の中での話です。外に目を向けると、同じ仕事をしていても、まったく違う評価や考え方があることに気づけます。
障害者支援施設を運営する社会福祉法人には、入所施設のほかに、グループホームや通所の事業所、相談支援の事業所などを持っているところが多くあります。京都府の社会福祉法人の事業所の案内には、相談支援の役割について次のように書かれています。
日々の生活で不自由を感じておられる在宅で障害のある方々への相談支援を行い、また、内外の施設等職員に対し研修支援を実施します。問題に対し利用される方々と一緒に考え、地域の資源と協働しながら解決していく充実したサポートを目指します。 出典: minamiyamashiro.com
「内外の施設等職員に対し研修支援を実施します」とあるように、法人の中や地域には、職員が学び合う場が用意されていることがあります。法人内の合同研修、地域の事業所が集まる研修会、都道府県などが実施する強度行動障害支援者養成研修。こうした場に参加すると、他の施設の職員と話す機会ができます。「うちの施設ではこうしている」という話を聞くだけで、今の職場の人間関係を少し外から眺められるようになります。
職場の外の人と話すときに気をつけてほしいのは、利用者や職員の個人が特定される話をしないことです。国の基準では、施設の職員は、正当な理由なく業務上知り得た利用者やその家族の秘密を漏らしてはならないとされていて、施設は職員が辞めたあとも秘密が漏れないよう必要な措置をとることが求められています。※悩みを話すときは、名前や施設が分からないように、状況だけを話すようにしてください。
家族や友人など、福祉の仕事とは関係のない人に話を聞いてもらうのも、立派な「外の場所」です。仕事の中身が分からない人に説明しようとすると、自分の悩みが整理されていくことがあります。
利用者の家族との関係にも、距離の取り方がある
障害者支援施設の人間関係は、職員同士だけではありません。利用者のご家族との関係も、この職場ならではの悩みになりやすいところです。
入所施設の利用者は、長い人では何十年も同じ施設で暮らしています。ご家族は、その間ずっと施設に大切な人を託してきました。親御さんが高齢になり、きょうだいが面会や手続きを引き継いでいることもあります。思いが強く、歴史が長いぶん、「前の担当の人はこうしてくれた」「もっとこうしてほしい」と、職員に厳しい言葉が向くこともあるんです。
ここでも、距離の取り方の基本は同じです。個人として受け止めず、施設としての対応に乗せることです。
1つ目は、1人で約束をしないことです。面会の場で「次からは毎日散歩に連れて行ってほしい」と頼まれたとき、その場で「分かりました」と答えてしまうと、それが自分個人の約束になります。実行できなかったときに、責められるのはあなたです。「ご要望として持ち帰り、担当の職員と相談してお返事します」と答え、サービス管理責任者や上司につなぐのが、施設としての対応です。
2つ目は、要望や苦情を記録に残すことです。国の基準では、施設は利用者や家族からの苦情に対応するための窓口を設けるなどの措置をとり、苦情を受け付けた場合はその内容を記録しなければならないとされています。つまり、ご家族からの厳しい言葉は、あなた個人が抱えるものではなく、施設の苦情解決の仕組みで受け止めるべきものなんです。
3つ目は、個別支援計画の場を使うことです。支援の方法についての要望は、計画を作ったり見直したりする場で、本人やご家族の意向として話し合うのが本来の流れです。面会のたびに担当の職員が個別に要望を聞く形が続くと、職員ごとに対応がばらつき、職員同士の摩擦の原因にもなります。
ご家族との関係がこじれたとき、担当の職員が1人で謝り続ける必要はありません。「施設として対応します」という姿勢を、上司と一緒に示してもらってください。
新しく入った人が、最初の数か月で気をつけたいこと
最後に、これから障害者支援施設で働く人や、入ったばかりの人に向けて、人間関係で消耗しないための最初の過ごし方をお伝えします。長く勤める職員の多い職場では、最初の数か月の過ごし方が、その後の関係にかなり影響します。
まず、最初から自分のやり方を主張しすぎないことです。研修や前の職場で学んだ考え方が正しいと思っても、その施設で長く積み重ねてきた関わり方には、記録に書かれていない理由があることが多いんです。最初の数か月は「なぜこのやり方なんですか」と、理由を聞く側に回ってみてください。理由が分かれば納得できることもありますし、分かったうえで意見を言えば、相手も聞く耳を持ってくれます。
次に、聞く相手を決めておくことです。職員によって言うことが違い、誰の言うとおりにすればいいか分からない。新人がつまずきやすいのがここです。教育の担当者が決まっていればその人に、決まっていなければ上司に「迷ったときは誰に確認すればいいですか」と最初に聞いておきましょう。聞く相手が1人に決まっているだけで、板挟みはかなり減ります。
そして、分からないことを分からないと言うことです。利用者の安全にかかわる介助で、分からないまま自己流で進めるのがいちばん危険です。「この方の移乗の方法をもう一度教えてください」と聞くのは、恥ずかしいことではありません。むしろ、確認する新人は信頼されます。
私自身、新しい環境に入ったばかりのころ、周りの人に聞くのが申し訳なくて、分からないことを抱えたまま進めてしまったことがあります。結局、あとで大きなやり直しが必要になり、かえって周りに迷惑をかけました。聞くことは、相手の時間を奪うことではなく、あとで生まれる摩擦を先に減らすことなんだと、そのとき学びました。
ハラスメントと「厳しい指導」の境目を知っておく
ここまでの距離の取り方は、あくまで「普通の摩擦」への対処です。人間関係の悩みの中には、我慢したり工夫したりすべきでない問題も含まれています。その境目を知っておくことは、自分を守るために欠かせません。
職場のパワーハラスメントについて、労働施策総合推進法の第30条の2では、職場で行われる、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによって、労働者の就業環境が害されること、という考え方が示されていて、事業主に防止のための措置が義務づけられています。つまり、判断のポイントは3つです。立場の強い人からの言動か。仕事に必要な範囲を超えているか。働く環境が損なわれているか。
たとえば、利用者の安全にかかわるミスについて、先輩が「この介助の方法は危ないので、次からはこうしてください」と伝えるのは、仕事に必要な指導です。口調が強かったとしても、それだけでハラスメントになるわけではありません。一方で、利用者や他の職員の前で何度も大声で怒鳴る、ミスとは関係のない人格を否定する言葉を浴びせる、特定の人だけを会話や情報から外す、1人では対応できない量の仕事を押しつけ続ける、といった言動は、仕事に必要な範囲を超えている可能性が高いと言えます。
障害者支援施設については、国の基準にも同じ趣旨の決まりがあります。施設は、職場で行われる性的な言動や、優越的な関係を背景とした言動で業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによって、職員の就業環境が害されることを防ぐため、方針を明確にするなどの必要な措置を講じなければならないとされています。つまり、ハラスメントへの対応は、あなた個人が我慢で解決する問題ではなく、施設が責任を持って対応すべき問題だということです。
ハラスメントかもしれないと感じたら、まず記録を残してください。いつ、どこで、誰に、何を言われたか、そのとき周りに誰がいたか。できるだけその日のうちに、事実だけを書き留めます。そのうえで、施設の相談窓口、法人の本部、苦情解決の第三者委員など、直属の上司以外の相談先を探してください。※施設の中で相談しても改善されない場合は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーで相談できます。
法律はあなたの味方です。ただ、使うためには、自分が受けているのがどういう問題なのかを、言葉にできる状態にしておく必要があります。
距離を取ってはいけない場面:不適切な支援を見たとき
もう1つ、人間関係の悩みの中で、距離を取ることが正解ではない場面があります。職員が利用者に不適切な関わりをしているのを見てしまったときです。
狭い職場では、「言えば職場にいられなくなる」「長年勤めている人を告発するようで怖い」という気持ちから、見なかったことにしてしまう人がいます。人間関係を保つための距離の取り方としては自然な反応かもしれません。でも、この場面だけは、黙っていることが利用者を危険にさらすことになります。
障害者虐待防止法の第16条では、障害者福祉施設の職員による虐待を受けたと思われる障害者を見つけた人は、速やかに市町村に通報しなければならないと定められています。そして同じ条文で、施設の職員は、通報したことを理由に解雇などの不利益な扱いを受けないとされています。
施設の側にも、虐待防止の委員会を定期的に開くこと、職員への研修を行うこと、担当者を置くことが、国の基準で義務づけられています。まずは施設の虐待防止の担当者に相談するのが1つの方法です。施設の中で相談しにくい、相談しても改善されないという場合は、施設のある市町村の障害福祉の窓口に連絡してください。
「強い口調で急かしている」「必要以上に体を押さえている」など、虐待かどうか自分では判断できない場面もあると思います。その場合も、1人で判断する必要はありません。見たことを事実で記録し、担当者や窓口に「これは相談すべきことでしょうか」と聞けばいいんです。判断するのは、あなた1人ではありません。
人間関係を理由に職場を選び直すとき
距離の取り方を試しても、どうしても今の職場の人間関係がつらい。そういうときは、職場を選び直すことも、十分に理由のある選択です。
まず考えたいのは、同じ法人の中での異動です。障害者支援施設を運営する法人には、入所施設のほかに、いくつもの事業所を持っているところがあります。先ほどの京都府の法人の案内でも、入所施設について次のように紹介されています。
24時間を通じた居住支援サービスを行っています。高齢者対応型、準高齢者・若年重度者対応型、社会就労センター、自閉症対応型、地域移行型、グループホームなどがあります。 出典: minamiyamashiro.com
このように、1つの法人の中に、利用者の特性や目的の違う施設がいくつもある場合、異動によって職員の顔ぶれも仕事の中身も大きく変わります。退職して別の法人に移るより負担が少なく、これまでの勤続を生かせることもあります。異動の希望を出せる時期や方法は、就業規則や人事の担当者に確かめてみてください。
別の法人に移る場合は、見学のときに人間関係の手がかりを探しましょう。見るべきは、職員同士の声のかけ方です。忙しい時間でも「これお願いできますか」「ありがとうございます」と声をかけ合っているか。引き継ぎがどんな形で行われているか。面接では、「新しく入った人には、決まった相談相手がつきますか」「職員同士で支援の方法について話し合う場はありますか」と聞いてみると、職場の風通しが見えてきます。
給与や待遇も含めて比べるときは、介護の仕事全体の水準を先に知っておくと判断がぶれにくくなります。介護職員の年収・単価相場では、介護の仕事の年収の相場や働き方による違いがまとめられていて、今の職場と次の候補を同じ物差しで見られます。
この市場を長く見てきた立場から言えば、福祉の仕事を長く続けている人ほど、人間関係で消耗しない工夫を自分なりに持っています。仕事の話と人柄の話を分ける。職場の外に話せる相手を持つ。つらい場所からは早めに離れて、自分に合う職場を選び直す。人間関係に強い人というより、人間関係に振り回されない仕組みを持っている人が残っている、というのが実感です。
1人で整理しきれないときは、第三者に話を聞いてもらうのも1つの方法です。職場・転職・キャリア相談のお仕事では、キャリアの相談にどんな種類があり、どんな人が相談を受けているのかが紹介されています。また、福祉の現場で人の悩みに向き合ってきた経験を生かしたい人は、キャリアコンサルタントの資格の内容を確かめておくと、将来の選択肢が広がります。
狭い職場の人間関係は、あなたの努力だけでは変えられない部分があります。変えられるのは、自分の話し方と、頼る先と、働く場所です。その3つを持っていれば、どんな職場でも、必要以上に消耗せずに済むはずです。
よくある質問
Q. 障害者支援施設の人間関係が他の介護施設より難しいと言われるのはなぜですか?
入所施設は利用者の住まいでもあるため、職員が同じ建物で長い時間を過ごし、外部の人の出入りも少ない閉じた職場になりやすいからです。24時間の交代で仕事がつながり、夜勤は少人数で過ごすため、仕事の不満が特定の人への不満に変わりやすい構造があります。性格より構造の問題であることが多いです。
Q. 先輩と支援のやり方が合わないときは、どうすればよいですか?
先輩のやり方を否定するのではなく、個別支援計画を共通の言葉にして、手順について相談するのが効果的です。計画に書かれていない場面で意見が分かれたときは、個人同士で決めずに、会議など職員全体で決める場に持ち込むよう提案すると、どちらかが負ける構図を避けられます。
Q. 厳しい指導とパワハラの違いは何ですか?
パワハラは、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、働く環境が害されるものとされています。安全にかかわるミスへの具体的な指導は必要な範囲にあたりますが、人前で繰り返し怒鳴る、人格を否定する、特定の人を仲間外れにするといった言動は、その範囲を超えている可能性が高いです。
Q. 同僚の不適切な対応を見たとき、人間関係が気まずくなるのが怖いです?
その気持ちは自然なものですが、障害者虐待防止法では、施設職員による虐待を受けたと思われる障害者を見つけた人に、市町村への通報が義務づけられ、通報した職員は不利益な扱いを受けないとされています。判断に迷うときは、事実を記録して施設の虐待防止の担当者や市町村の窓口に相談してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
長谷川 奈津@SOHO編集部
行政書士・元企業法務
企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。
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