会社を作る前に使ったお金|創立費と開業費の分け方


この記事のポイント
- ✓法人設立前経費はどこまで会社の費用にできるのか
- ✓創立費と開業費を分ける基準
- ✓いつからの領収書が使えるか
法人設立前経費という言葉で検索する人の多くは、財布やカバンに溜まった領収書を前にして手が止まっている。会社ができる前に払ったお金だから、会社の費用にはできないのではないか。そう思って捨ててしまう人が毎年いる。結論から書くと、会社ができる前に使ったお金の多くは会社の費用にできる。しかも、普通の経費と違って「好きな年にまとめて落とす」という使い方ができる。この記事では、創立費と開業費という2つの名前の分け方、いつからの領収書が使えるのか、そして実際にどう処理するのかを、法令と国税庁が公開している資料に沿って順に並べていく。
設立前に使ったお金は、捨てなくていい
まず結論を先に置く。会社を作るために使ったお金と、会社を作ってから事業を始めるまでに使ったお金は、どちらも会社の費用として扱える。個人のクレジットカードで払っていても、会社の口座ができる前に払っていても構わない。
ここで大事なのは、これらが普通の経費とは違う扱いを受けるという点だ。法人税法では、支出の効果が翌期以降にも及ぶ費用を繰延資産と呼ぶ。繰延資産とは、払った年に一度に費用にせず、資産としていったん貸借対照表に載せておける費用のことだ。会社設立にかかった費用は、この繰延資産のひとつに位置づけられている。
なぜ繰延資産にする意味があるのか。設立1年目は売上が小さく、利益が出ないことが多い。利益が出ていない年に費用を全部落としても、税金は減らない。繰延資産にしておけば、利益が出た年にまとめて費用として落とせる。この柔軟さが、設立前の支出を丁寧に集める最大の理由になる。
個人事業から法人化した人は、ここでも感覚の切り替えが必要になる。個人事業では払った年に費用にするのが原則で、翌年に持ち越すという発想がない。法人では、設立にかかった費用だけは持ち越せる。領収書を捨ててしまうと、この選択肢そのものが消える。
創立費と開業費は、設立登記の日で線を引く
会社を作る前後に使ったお金は、2つの名前に分かれる。分ける基準は日付だ。設立登記が終わった日より前が創立費、そのあと事業を始めるまでが開業費になる。
創立費に入るもの
法人税法施行令は、創立費を次のように定義している。
創立費(発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税その他法人の設立のために支出する費用で、当該法人の負担に帰すべきものをいう。) 出典: laws.e-gov.go.jp
つまり、会社という器を作るために使ったお金が創立費だ。具体的には次のようなものが入る。
・定款を認証してもらうときに公証人に払った手数料 ・定款に貼った収入印紙の代金 ・設立登記のときに払った登録免許税 ・登記を司法書士に頼んだ場合の報酬 ・法人の印鑑を作った費用 ・登記事項証明書や印鑑証明書を取るための手数料 ・会社の名前や事業内容を決めるための打ち合わせでかかった費用 ・発起人に支払う報酬
最後の打ち合わせ費用は見落とされやすい。会社を作るかどうかを相談するために喫茶店で会った、専門家に相談料を払った、といった支出も、会社の設立のために使ったものなら創立費に入る。
開業費に入るもの
同じ条文は、開業費を次のように定義している。
開業費(法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいう。) 出典: laws.e-gov.go.jp
会社はできたが、まだ売上が立っていない。その間に開業の準備のために使ったお金が開業費だ。次のようなものが入る。
・名刺やパンフレットの制作費 ・ウェブサイトの制作費 ・開業の案内を出すための広告費 ・あいさつ回りにかかった交通費や手土産代 ・開業前の市場調査や打ち合わせの費用 ・事業を始めるために受けた研修の費用
条文にある「特別に支出する」という言葉が効いてくる。開業の準備のために臨時に出ていったお金が対象であり、毎月決まって出ていくものは含まれない。
どちらにも入らないもの
線の外にあるものも押さえておく。まず資本金は費用ではない。会社に払い込んだお金は会社の資産になるので、創立費にはならない。
次に、毎月継続して出ていく費用は開業費に入らない。事務所の家賃、水道光熱費、通信費、従業員の給料といったものは、開業前にかかっていても通常の経費として処理する。
敷金と礼金も注意がいる。敷金は退去のときに返ってくるお金なので、費用ではなく資産として計上する。礼金は返ってこないが、20万円以上なら繰延資産として一定期間で償却する扱いになるのが一般的だ。
10万円以上の備品も別扱いになる。パソコンや机が10万円を超えると、開業費ではなく固定資産になり、耐用年数に応じて減価償却する。
このあたりは金額や契約の内容で結論が変わる部分なので、判断に迷ったら税務署か税理士に確認してほしい。
会社を作るときに必ず出ていくお金
創立費の中でも金額が大きく、誰でも必ず払うことになるものを並べる。設立の形によって金額が変わるので、表にする。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 資本金の額×0.7%(15万円に満たないときは15万円) | 資本金の額×0.7%(6万円に満たないときは6万円) |
| 定款の認証手数料 | 資本金100万円未満は3万円、100万円以上300万円未満は4万円、それ以外は5万円 | 認証は不要 |
| 定款に貼る収入印紙 | 紙で作った原本は4万円 | 紙で作った原本は4万円 |
登録免許税は国税庁の税額表に定められている。株式会社の設立登記は資本金の額の1,000分の7で、計算した額が15万円に満たないときは15万円になる。資本金を2,143万円くらいまでに収めるなら、登録免許税は15万円で頭打ちだと考えてよい。合同会社は同じ率でも下限が6万円なので、設立費用はぐっと軽くなる。
定款の認証手数料は公証人手数料令で決まっている。株式会社で資本金が100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円だ。さらに、発起人が全員自然人で3人以下、発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける、取締役会を置かない、の3つをすべて満たす資本金100万円未満の会社なら1万5千円に下がる。1人で小さく始める会社は、この軽い枠に入ることが多い。
定款に貼る収入印紙は、印紙税額の一覧表で第6号文書として4万円と定められている。ただし印紙税は紙の文書にかかる税なので、定款を電子データで作って認証を受ければこの4万円は出ていかない。電子定款に対応した専門家に頼むか、自分で電子署名の環境を用意するかで、支払う手数料と印紙代のどちらが安いかが変わる。
これらはすべて創立費だ。株式会社を紙の定款で作ると、登録免許税15万円と認証手数料5万円と印紙4万円で24万円が動く。この金額を1年目に全部費用にするか、利益が出た年まで待つかを選べるのが、次に説明する任意償却の話になる。
株式会社と合同会社で、設立前に出ていく金額はどれだけ違うか
設立の形を選べる段階なら、創立費の総額がどれくらい変わるかを見ておく価値がある。1人で始める小さな会社を想定して、電子定款を使う前提で並べてみる。
株式会社の場合、登録免許税が15万円、定款の認証手数料が資本金100万円未満で条件を満たすなら1万5千円、印紙は電子定款なので0円になる。合計で16万5千円だ。条件を満たさず認証手数料が5万円になるなら、合計は20万円になる。
合同会社の場合、定款の認証そのものが不要なので手数料はかからない。登録免許税は下限の6万円で済む。電子定款なら印紙も0円なので、合計6万円だ。株式会社との差は10万円を超える。
ここに、司法書士や行政書士に依頼した場合の報酬、印鑑の作成費、登記事項証明書の取得費が加わる。依頼する範囲によって数万円から十数万円の幅が出るので、見積もりを2つ3つ取って比べるのが早い。いずれも創立費として処理できる支出だ。
金額だけを見れば合同会社が有利に見えるが、設立費用は一度きりの話だ。取引先が株式会社であることを求めるか、将来に株式を使った資金調達を考えているかといった事業側の条件のほうが、判断には効いてくる。10万円の差で会社の形を決めるのは、順番としては逆になる。
好きな年にまとめて落とせる、という仕組み
創立費と開業費のいちばん大きな特徴が、償却のタイミングを自分で決められることだ。
繰延資産の償却限度額は法人税法施行令第64条に定められている。創立費と開業費については、償却できる限度額がその繰延資産の額そのもの、つまり全額とされている。限度額が全額ということは、その年に0円だけ償却してもよいし、全額を一度に償却してもよいということだ。これを任意償却と呼ぶ。
具体的に何ができるのか。設立1年目は売上が立たず、赤字だったとする。ここで創立費24万円を償却しても、もともと利益がないので税金は変わらない。そこで1年目は償却せず、資産として残しておく。2年目に利益が出たら、そのときに24万円を償却して費用にする。利益が出ている年に費用を当てるほうが、減る税金は大きい。
しかも償却する時期に期限がない。5年たってから償却しても構わない。会計のルールでは5年以内に均等に償却する方法も示されているが、税務上は全額を限度として自由に決められる。中小企業では、税務上の扱いに合わせて任意償却を選ぶことが多い。
注意したいのは、繰越欠損金との関係だ。青色申告の承認を受けた会社なら、赤字を翌年以降に持ち越して利益と相殺できる。持ち越せる期間には限りがあるので、繰延資産を寝かせすぎると使い道を失うことがある。この判断は事業計画と絡むので、決算のたびに税理士と相談しながら決めるのが現実的だ。
いつからの領収書が使えるのか
よく聞かれるのが期間の問題だ。何年前の領収書まで使えるのかという疑問がある。
法令には「設立前の何年まで」という明確な期限が書かれていない。基準は日付ではなく、その支出が会社の設立のために使われたと説明できるかどうかだ。だから、会社を作ろうと具体的に動き始めてからの支出が対象になる。
実務の感覚では、設立の準備を始めた時点から設立登記の日までの期間が目安になる。会社を作ると決めて、商号を考え、事業計画を作り、専門家に相談し、定款を作る。この一連の動きが始まった時点が起点だ。何年も前の漠然とした支出を持ち込むと、設立との関係を説明できなくなる。
説明できる形にするには、記録を残しておくのが早い。いつ、誰と、何のために会ったのかを1行メモで残す。領収書の裏に「会社設立の相談」と書いておくだけで、あとから見て用途が分かる。設立から何年も経ってから聞かれても、メモがあれば答えられる。
個人事業から法人化した人には、もう1つ論点がある。個人事業の経費として既に計上した支出は、法人の創立費に重ねて入れられない。個人の確定申告で落としたものは、そこで完結している。個人と法人のどちらで落とすかは選べるが、両方はできない。
領収書の宛名と精算のやり方
会社ができる前の支出なので、領収書の宛名は個人名になっている。これで問題ないのかという心配は多いが、宛名が個人名でも創立費として処理できる。会社がまだ存在していない時点の支出なのだから、会社名の領収書が出るはずがない。
大事なのは、あとから会社が個人にお金を返す流れを作ることだ。手順はこうなる。
まず、設立前に立て替えた支出を一覧にする。日付、金額、支払先、内容を並べた表を作り、領収書を日付順にまとめる。表計算ソフトで作れば十分だ。
次に、会社の口座ができたら、この一覧の合計額を社長個人の口座へ振り込む。これで立て替えの精算が完了する。会計上は、創立費を計上して、相手方を役員借入金や未払金にしておき、振り込んだときに消し込む形になる。
会社にまだ現金がなくて返せない場合は、役員借入金のまま残しておく。会社が社長からお金を借りている状態なので、資金に余裕が出てから返せばよい。ただし帳簿に載せていなければ返せないので、金額の一覧と仕訳だけは設立直後に作っておく。
領収書が出ていない支出もある。電車やバスの交通費、祝儀や香典のような領収書が出ない支払いだ。これらは出金伝票を作って記録する。日付、金額、相手、目的を書いておけば、記録として成立する。
なお、設立前の支出は消費税の扱いにも注意がいる。個人事業のときに適格請求書発行事業者の登録番号を持っていても、法人は別の事業者なので登録番号を引き継げない。法人として登録するには改めて申請が必要で、登録前に受け取った請求書では仕入税額控除の要件を満たさない場合がある。設立1年目に消費税をどう扱うかは、免税事業者になるかどうかとも絡むので、開業の早い段階で確認しておく。
仕訳の形を見ておく
実際の帳簿でどう動くのかを見ておくと、イメージがつかみやすい。専門的な話になるが、形は単純だ。
設立前に社長が24万円を立て替えたなら、会社ができた時点で創立費24万円を計上し、相手方を役員借入金にする。会社の口座から社長へ24万円を振り込んだら、役員借入金が消えて預金が減る。
決算のときに償却するなら、創立費償却という費用の科目を立てて、創立費という資産を減らす。償却しない年は、この仕訳を作らない。それだけで資産として残る。
開業費も同じ形だ。科目名が開業費と開業費償却に変わるだけで、動き方は変わらない。会計ソフトを使っているなら、創立費と開業費の科目は最初から用意されているので、迷うことは少ない。
設立前に契約したものは、名義の付け替えを忘れない
設立前に契約して、設立後も使い続けるものがある。事務所の賃貸借契約、レンタルサーバー、ドメイン、会計ソフトや制作ツールの月額契約、携帯電話の回線といったものだ。これらは個人名義で契約したまま会社で使うことになりやすい。
扱いを整理すると2つに分かれる。契約時に一度だけ出ていったお金と、毎月出ていくお金だ。
一度だけのお金は、内容によって行き先が変わる。ドメインの取得費用や、開業の案内のために作ったウェブサイトの制作費は開業費に入る。一方、事務所の敷金は返ってくるお金なので資産として計上し、礼金は金額によって繰延資産になる。仲介手数料は支払った時点の費用として扱うのが一般的だ。同じ賃貸契約から出た支出でも、行き先が3つに分かれることになる。
毎月出ていくお金は、開業費にならない。条文が「特別に支出する費用」と限っているからだ。サーバー代もソフトの利用料も家賃も、毎月決まって出ていくものは通常の経費として、発生した月に費用にする。設立前の分を会社で負担するかどうかは、契約の名義と実態で判断する。
名義については、設立後に会社名義へ切り替えられるものは切り替えておく。個人名義のまま会社が払い続けていると、その支出が会社のものか個人のものかの説明が必要になる。切り替えられない契約もあるので、その場合は会社が使っている実態を示す記録を残す。どの契約を誰の名義にしているかの一覧を1枚作っておくと、決算のたびに迷わなくなる。
設立日をいつにするかで、変わることがある
設立登記の日は、創立費と開業費を分ける線であると同時に、いくつかの期限の起点にもなる。設立日を選べる立場にあるなら、次の3つを踏まえて決めたほうがいい。
1つめは、事業年度の区切りだ。設立日が最初の事業年度の開始日になるので、決算月をどこに置くかと合わせて考えることになる。売上が集中する月の直後に決算を置くと、納税の資金を用意しやすい。
2つめは、社会保険料の発生だ。健康保険と厚生年金保険の保険料は月単位でかかる。月の途中で設立しても、その月から対象になる。数日の違いで1か月分の保険料が動くので、月初に設立するか月末にするかで負担が変わる。
3つめは、消費税の免税期間だ。資本金が1,000万円未満の新しい会社は、原則として設立から2期の間は消費税の納税義務が免除される。ただし1期目の期間が短いと、その分だけ免税で過ごせる期間も短くなる。最初の事業年度をなるべく長く取る設計にすると、免税の恩恵を受けられる期間が伸びる。条件には例外もあるので、実際の判断は税務署か税理士に確認してほしい。
開業費に入るか迷ったときの3つの問い
実務では、判断に迷う支出が必ず出てくる。そのときは次の3つを順に確かめると、答えが出やすい。
1つめ。その支出は設立登記より前か、あとか。前なら創立費の候補、あとなら開業費の候補になる。日付で最初のふるいをかける。
2つめ。毎月出ていくものか、一度きりか。毎月出ていくものなら、創立費にも開業費にも入らない。通常の経費として、発生した月に費用にする。
3つめ。その支出は事業を始めるために必要だったと、第三者に説明できるか。説明できないなら、社長個人の支出になる。家族との食事、趣味の道具、事業と関係のない書籍といったものがここで落ちる。
この3つを通ったものが、繰延資産として計上できる支出になる。迷ったときに毎回ゼロから考えるのではなく、同じ順番で確かめる習慣にしておくと、判断にかかる時間が減る。領収書を1枚ずつ考えていると、それだけで毎月数時間が消える。
個人事業のときの支出と、どこで線を引くか
個人事業から法人化した人には、もう1つ整理しておくことがある。同じ時期に出ていった支出を、個人の確定申告で落とすのか、法人の創立費にするのかという問題だ。
原則は単純で、二重には落とせない。個人事業の経費として申告した支出は、そこで完結している。同じ領収書を法人の創立費に入れると、同じ費用を2回落としたことになる。
判断の基準になるのは、その支出が何のために使われたかだ。個人事業の売上を作るために使ったものなら個人の経費、会社を作るために使ったものなら法人の創立費になる。会社設立の相談料、定款の作成費、登記の費用は、どう見ても会社を作るためのものなので法人側だ。逆に、個人事業として受けた仕事のために買った資料は個人側になる。
どちらとも言える支出は、どちらかに決めて記録を残す。たとえば法人化を検討しながら個人事業の仕事も続けていた時期の交通費は、訪問の目的で分かれる。会社設立の相談に行った日の交通費は法人側、取引先との打ち合わせは個人側だ。日付と目的を1行残しておけば、あとから見て振り分けられる。
法人化した年は、個人事業の廃業の届出と最後の確定申告も必要になる。個人事業の廃業届、青色申告の取りやめ届、そして消費税の課税事業者だった場合の手続きが続く。法人側の届出に追われていると忘れやすいので、個人側のやることも同じ紙に書き出しておく。
よく起きる5つの失敗
実務で見かける失敗を並べる。
失敗1は、領収書を捨てることだ。会社ができる前だから関係ないと判断して処分してしまう。これがいちばんもったいない。会社を作ろうと思った時点から、関係しそうな領収書は封筒にまとめて入れておくだけでいい。
失敗2は、創立費と開業費を分けずに全部まとめてしまうことだ。設立登記の日で線が引かれているので、登記の日を境に2つに分ける。分けておかないと、あとで税務調査のときに説明しにくい。
失敗3は、継続して出ていく費用まで開業費に入れてしまうことだ。家賃や通信費は開業前にかかっていても通常の経費になる。開業費に入れると、償却のタイミングを自由に決められる費用の中に、本来は当期の費用にすべきものが混ざる。
失敗4は、精算せずに放置することだ。立て替えた支出を帳簿に載せないまま時間が経つと、社長個人が負担したまま終わってしまう。会社の費用にもならず、個人の負担も戻らない。設立直後に一覧を作る習慣を持つ。
失敗5は、10万円以上の備品を開業費に入れてしまうことだ。パソコンや撮影機材のように単価の大きいものは固定資産になる。特に撮影や制作を仕事にする人は、開業前にカメラやパソコンを買い揃えることが多く、この線引きで迷いやすい。
20年この市場を見てきた運営者の観察
在宅ワークと業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、法人化するときに設立前の支出をきちんと集められた人と、そうでない人の差は、金額そのものより準備の進め方に出ている。
集められた人は、会社を作ると決めた時点で領収書の置き場所を1つ決めている。封筒でも箱でもいい。決まった場所があるから捨てない。逆に、あとで整理しようと思った人は、ほぼ整理しない。運営者として見てきた限りでは、設立前後の数か月は事業の立ち上げで頭がいっぱいになるので、その場で1か所に入れる以上の仕組みは回らない。
もう1つ気づくのは、法人化のタイミングで仕事の取り方を変えた人が、1年目の資金繰りで楽をしているということだ。間に業者が入る取引は、同じ仕事をしても手元に残る金額が薄くなる。発注者と直接つながる形なら、手数料0%のぶんだけ受け手の手取りが厚くなり、依頼する側も同じ予算でより多く頼める。設立前の費用をどれだけ丁寧に拾っても、金額としては数十万円の話だ。取引の形を変えるほうが、手取りへの影響ははるかに大きい。
長く続いている人ほど、単発の仕事を追いかけるのではなく、この人に任せると楽だと思われる関係づくりに時間を使っている。設立1年目にその関係が2つ3つあると、売上の見込みが立ち、創立費をいつ償却するかという判断も落ち着いてできるようになる。
職種のデータから見える、設立前にかかるお金の違い
会社を作る前にいくらかかるかは、何を売る会社かで大きく変わる。職種ごとの仕事の中身と収入データを並べると、その差が見えてくる。
開発の仕事は、設立前の支出が比較的軽い。必要なのはパソコンと開発環境で、店舗も在庫もいらない。単価の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっているが、設備投資が少ないぶん、創立費の大半が登録免許税と認証手数料という固定の費用で占められる。どんな案件があるかはアプリケーション開発のお仕事を見ると分かりやすい。ただしパソコンが10万円を超えるなら固定資産になるので、開業費に入れないよう気をつける。
書く仕事も似ている。取材の移動費と資料代が中心で、開業費に入るのは名刺とウェブサイトの制作費くらいだ。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると単価の幅は広いが、初期費用が軽いぶん、設立の形を合同会社にするか株式会社にするかで負担の差がそのまま出る。
一方、コンサルティングのように人と会うことが仕事の中心にある業種は、開業前のあいさつ回りや資料作成にお金がかかる。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように、クライアント先に入って進める案件が多いほど、名刺や会社案内といった見せる道具にかける費用が増える。ツールの利用料が前提になる領域もある。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事を見ると、業務に必要なサービスの契約が仕事の入口になっていることが分かる。契約が開業前に始まるなら、毎月の利用料は開業費ではなく通常の経費になる。
資格を取るための費用も整理しておきたい。設立前に受けた研修や試験の費用は、事業を始めるために必要だったと説明できれば開業費に入る余地がある。ネットワーク構築を請け負う会社にとってのCCNA(シスコ技術者認定)や、書類の品質が納品物に直結する仕事でのビジネス文書検定は、事業との関係を説明しやすい例だ。逆に、事業と関係のない資格は個人の負担になる。
お金の置き方そのものを考え直したい人もいるだろう。会社に残すか、役員報酬で受け取って個人で運用するかは別の判断になる。個人での積み立てを考えるなら【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオが参考になる。個人事業主だったときの経費の感覚を振り返るなら確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツを、職種ごとの収入差を知りたいならUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】を見ておくといい。
設立前の支出をどう扱うかは、領収書を残すところから始まる。登録免許税や手数料の金額は改正で動くので、実際に設立する前に国税庁とe-Gov法令検索で今の内容を確認してほしい。金額や事情によって結論が変わる部分は残るので、最終的な判断は税務署か税理士に確認するのが確実だ。
よくある質問
Q. 会社設立前の領収書は、いつからのものが使えますか?
法令に「設立前の何年まで」という期限はありません。基準は、その支出が会社の設立のために使われたと説明できるかどうかです。会社を作ると決めて商号を考え、専門家に相談し、定款を作るといった動きが始まった時点が実務上の起点になります。領収書の裏に用途をメモしておくと説明しやすくなります。
Q. 創立費と開業費は何で分けるのですか?
設立登記が終わった日で線を引きます。それより前に会社を作るために使ったお金が創立費で、登記のあと事業を始めるまでに開業の準備のために特別に使ったお金が開業費です。家賃や通信費のように毎月継続して出ていく費用は、開業前にかかっていても通常の経費として処理します。
Q. 創立費はその年に全額を費用にしなければいけませんか?
いいえ。創立費と開業費は繰延資産として扱われ、償却できる限度額がその全額とされているため、その年に0円だけ償却しても全額を償却しても構いません。設立1年目が赤字なら償却せずに残し、利益が出た年にまとめて費用にするという使い方ができます。
Q. 領収書の宛名が個人名でも会社の費用にできますか?
できます。会社がまだ存在していない時点の支出なので、宛名が個人名になるのは当然です。大事なのは、立て替えた支出を日付・金額・支払先・内容で一覧にし、帳簿に創立費として計上して、会社の口座から個人へ精算する流れを作ることです。返せる資金がないうちは役員借入金として残しておきます。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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