法人成りの廃業届はいつ出すか|設立日との前後関係


この記事のポイント
- ✓法人成り廃業届タイミングで迷う人向けに
- ✓設立日と廃業日の前後関係
- ✓2026年から変わった提出期限
法人成り廃業届タイミングで検索する人の多くは、会社の登記が終わったあと、机の上に個人事業の書類が残ったままになっている状態にいる。登記は司法書士に頼めば形になるが、個人事業のほうをいつ閉じるのか、誰も教えてくれない。先に閉じるのか、設立日と同じ日にするのか、しばらく両方動かしてよいのか。結論から書くと、廃業日は設立日より前にする必要はなく、実務では設立日の前日か設立日以降のどこかに置くのが一般的で、提出期限そのものは2026年1月に法律が変わって大きくゆるくなった。ここでは、その変更点と、廃業日をどこに置くかの考え方、そして出す書類と出さないほうがよい書類の線引きまでを、国の資料で確認できる範囲だけで整理する。
2026年1月から、廃業届の期限は「1か月以内」ではなくなった
まず、この記事でいちばん重要な変更点から書く。個人事業の開業や廃業を税務署に知らせる書類は「個人事業の開業・廃業等届出書」という。長く「事実があった日から1か月以内」と説明されてきた書類だが、根拠になっている所得税法第229条の条文が2026年1月1日から書き換わっている。
e-Gov法令検索で2025年12月31日時点の条文と現在の条文を並べると、違いがはっきり出る。2025年12月31日まではこうだった。
居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp
これが2026年1月1日以降は、末尾が「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに」に変わった。国税庁の手続案内ページも同じ書き方に更新されていて、提出時期の欄には「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」と書かれている。
つまり、2026年中に個人事業をたたんで法人成りした人は、2027年3月15日までに廃業届を出せば期限内ということになる。廃業日が1月であっても12月であっても、期限は同じ日に揃う。「1か月を過ぎてしまった、どうしよう」と焦っていた人は、ここで一度落ち着いてよい。
なお、期限が土曜日・日曜日・祝日に当たるときは、その翌日が期限になる。これも国税庁の案内に明記されている。確定申告の期限と同じ日付なので、廃業した年の確定申告書を作るタイミングで一緒に出す、という段取りが自然になった。実際、法人成りした人は個人分の確定申告を必ず1回やることになるので、その作業とまとめてしまうほうが忘れにくい。
期限がゆるくなったからといって、後回しにする理由にはならない点も書いておく。廃業届は、あとで説明する消費税や個人事業税の手続きの起点になる書類で、税務署が「この人の個人事業はいつ終わったか」を把握する唯一の入口でもある。出していないと、翌年以降も個人あての確定申告の案内が届き続け、そのたびに「出したかどうか」を確認する手間が生まれる。期限に余裕ができたのは事実だが、登記が済んだら早めに片付けるほうが結局は楽になる。
廃業日と設立日はどう並べるのが自然か
次に、この記事の本題である前後関係の話に入る。廃業届の用紙には「廃止の日」を書く欄がある。ここに何月何日を入れるかは、税務署が決めてくれるわけではなく、事業をやめた実態に合わせて自分で書く。よく使われる置き方は、大きく3つある。
1つ目は、設立日の前日を廃業日にする置き方。法人の登記が2026年10月1日なら、個人事業の廃止の日を2026年9月30日にする。個人と法人の期間がきれいに分かれるので、帳簿を締めるときに迷いにくい。売上も経費も、9月30日までが個人、10月1日からが法人と機械的に切れる。会計ソフトの締めや、取引先への請求書の切り替えも、この線で説明すればそのまま通る。
2つ目は、設立日と同じ日を廃業日にする置き方。会社が生まれた日に個人事業が終わる形で、感覚としてはいちばん分かりやすい。ただし、同じ日に両方の売上が立つ可能性が残るので、その日の取引をどちらに付けるかを自分で決めておく必要がある。
3つ目は、設立日より後を廃業日にする置き方。これは、取引先との契約を個人名義から法人名義に切り替えるのに時間がかかる場合に選ばれる。契約の巻き直しは相手の稟議が絡むので、こちらの都合で一斉には切り替わらない。数社ぶんの切り替えが終わるまで、個人事業を数週間から数か月だけ残す、という進め方は珍しくない。
3つのどれを選んでも法律上の問題はない。ただ、実務では1つ目、つまり設立日の前日を廃業日にする置き方が最も扱いやすい。理由は単純で、期間が重ならないからだ。期間が重なると、同じ月の売上を個人と法人のどちらに入れるかを取引ごとに判断することになり、あとから帳簿を見返す人(税理士でも自分でも)が必ず一度は止まる。
逆に、設立日より前に長く空白を作るのは避けたい。たとえば6月末で廃業して10月に会社を作ると、7月から9月までの3か月は個人でも法人でもない期間になる。その間に売った分をどこに入れるかで悩むことになるので、事業を続けているなら廃業日は会社ができる直前まで引っ張るのが素直だ。
なお、会社の設立日は自分で選べる。法務局に設立登記を申請した日が設立日になるので、申請日を月初に合わせれば、個人の締めが前月末できれいに終わる。1日ずらすだけで帳簿の見通しが変わるので、登記を頼む段階で「月初に申請したい」と伝えておく価値はある。
法人成りのときに出す書類を、時系列で並べ直す
廃業届だけを見ていると全体像が見えないので、法人成りの前後に出す書類を時間順に並べる。期限は書類ごとにばらばらで、そこが混乱のもとになっている。
会社ができたあと、法人側で最初に来るのが法人設立届出書だ。国税庁の案内では、提出時期は「法人設立の日(設立登記の日)以後2月以内」とされ、定款の写しを添えて納税地の所轄税務署長に出す。根拠は法人税法第148条。設立から2か月という数え方なので、廃業届のように確定申告期限まで待てるわけではない。ここは早めに動く必要がある。
社会保険はもっと早い。日本年金機構の案内によれば、健康保険・厚生年金保険の新規適用届の提出時期は「事実発生から5日以内」で、法人事業所は常時従業員を使用する場合に加入が義務づけられる。ここでいう従業員には事業主だけの場合も含まれるので、一人会社でも対象になる。5日はあっという間なので、登記が終わる前から書類を準備しておきたい。
個人側で1か月以内のものが1つだけ残っている。給与を払っていた人が出す「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」だ。国税庁の案内には「開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内に提出してください」と明記されていて、こちらは2026年の改正でも変わっていない。個人事業のときに従業員や専従者に給与を払っていたなら、個人側の給与支払事務所を廃止する届出が要る。根拠は所得税法第230条。
個人事業税の申告も期限が短い。地方税法第72条の55では、年の中途で事業を廃止した場合、廃止の日から1か月以内(死亡による廃止のときは4か月以内)に、事務所または事業所の所在地の道府県知事に申告しなければならないと定めている。税務署ではなく都道府県が窓口という点と、確定申告とは別に必要という点の2つで、見落とされやすい手続きになっている。
消費税の課税事業者だった人は「事業廃止届出書」も出す。国税庁の手続案内では提出時期が「事由が生じた場合、速やかに」となっていて、日数の指定はない。根拠は消費税法第57条第1項第3号。
青色申告をしていた人は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」がある。提出時期は「青色申告を取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限までに」で、これも2026年から条文が確定申告期限基準に揃えられた。根拠は所得税法第151条。
並べ直すと、急ぐ順は社会保険の5日、給与支払事務所と個人事業税の1か月、法人設立届出書の2か月、そのあとに確定申告期限までの廃業届と青色申告の取りやめ届出書、という順になる。廃業届が実はいちばん余裕があるという事実は、知っておくと段取りが組みやすい。
廃業届を出さないほうがよいケースがある
ここは注意が必要なところで、法人成り即廃業届、と機械的に決めてはいけない。個人事業をすべてやめるなら廃業届を出すが、一部の所得が個人に残るなら話が変わる。
典型は不動産所得だ。持っている物件を法人に移さず、個人のまま賃貸を続けるケースはよくある。この場合、事業そのものが個人に残っているので、廃業届を出すのはおかしい。青色申告の取りやめ届出書も同じで、出してしまうと青色申告特別控除や損失の繰越しといった扱いが個人の側で使えなくなる。
次のような指摘が、この点を端的にまとめている。
例えば、不必要に廃業届を提出して青色申告を取りやめてしまった場合、青色申告のメリットである特別控除(最大65万円)や赤字の繰り越しができなくなることもありますので、個人事業主としての事業所得や不動産所得が引き続き発生する可能性がある場合は、税理士に相談の上、届出書の提出が必要かどうか検討するようにしましょう。 出典: superavit.tax
同じ考え方は、法人成りしたあとも個人で細々と続ける仕事がある場合にも当てはまる。たとえば、法人では受けない小さな仕事を個人で続ける、講演料や原稿料が個人あてに入り続ける、といった状態だ。事業として続いているなら、廃業届は出さない。
判断の軸はシンプルで、「個人として、不動産所得・事業所得・山林所得を生む事業が残っているかどうか」の1点になる。残っているなら出さない。完全に法人へ移すなら出す。迷う場合は、出さずに税務署か税理士に確認するほうが安全だ。出していない書類はあとから出せるが、出してしまった書類を取り消すのは面倒になる。
なお、青色申告については、届出を出さなくても効力が消える場合がある。所得税法第151条第2項は、青色申告の承認を受けている人がその業務の全部を譲渡または廃止した場合、その譲渡・廃止した日の属する年の翌年分以後は承認が効力を失うと定めている。つまり、完全に廃業したなら法律上は自動的に外れる。それでも国税庁が廃業届の備考欄で取りやめ届出書の提出を案内しているのは、税務署の側で状況を把握するためで、実務としては出しておくのが無難という位置づけになる。
許認可があるときは、廃業日を自分の都合だけで決められない
もう1つ、日付の置き方に制約が入るケースがある。許認可が必要な業種だ。建設業、古物商、飲食業、宅地建物取引業などは、個人で取った許可を法人がそのまま引き継げるわけではない。法人として新しく許可を取り直す必要があり、その許可が下りる前に個人の許可を失効させると、無許可の期間ができてしまう。
建設業では、この空白が罰則に直結する。次のような指摘がある。
無許可状態で500万円以上の工事を受けてしまうと、3年以下の懲役や300万円以下の罰金の対象になります(建築業法第47条)。 出典: koyano-cpa.gr.jp
許可が要る業種で法人成りするなら、順番は決まっている。まず法人で許可を取り、許可が下りてから個人の事業を閉じる。逆順にすると、その間に受けられない仕事が出る。許可の審査には数週間から数か月かかることもあるので、登記より前に行政書士や所管の窓口へ相談しておくのが現実的だ。
許認可が絡まない業種、たとえばデザイン、ライティング、動画編集、エンジニアリングといった仕事なら、この制約はない。その場合は前の章で書いたとおり、設立日の前日を廃業日にするのが扱いやすい。自分の業種に許可が要るかどうかが分からないなら、まずそこを確かめるところから始める。
廃業した年の確定申告は、個人と法人の2回分になる
法人成りした年は、申告が2回ある。個人としての確定申告と、法人としての決算申告だ。ここを1回で済むと思っていると、翌年の春に慌てることになる。
個人の確定申告では、その年の1月1日から廃業日までの所得をまとめる。売上も経費も、廃業日で線を引く。廃業日以降に入金があっても、その売上が廃業日より前に確定していたなら個人の売上として計上するのが原則になる。発生した時点で区切る、と覚えておけばよい。
廃業したあとに出てくる費用についても、救済する規定がある。所得税法第63条は、事業を廃止したあとに、廃止しなかったとしたら必要経費に入るはずだった費用や損失が生じた場合、その金額を廃止した日の属する年分(その年に総収入金額がなければ、総収入金額があった最近の年分)またはその前年分の必要経費に算入すると定めている。廃業後に届いた請求書や、あとから確定した個人事業税は、この規定で処理する。
個人事業税については、もう少し具体的な説明がある。
廃業した年の個人事業税は、通常の年の確定申告とは異なるため注意が必要です。個人事業税は、事業所得の290万円を超えた部分に掛かります。通常、X年の所得に掛かる個人事業税は、X+1年分の経費に計上します。 出典: koyano-cpa.gr.jp
通常なら翌年の経費になるところを、廃業した年は翌年の事業がないので、廃業年またはその前年の経費に入れる。この処理は金額や事情で扱いが変わることがあるので、実際に申告書を作る前に税務署か税理士に確認してほしい。
法人側は、設立日から最初の事業年度末までを1期目として決算を組む。1期目は月数が12か月に満たないことが多く、減価償却費や各種の控除が月割りになる。個人時代の資産を法人に引き継ぐ場合も、売買にするか賃貸にするかで処理が変わる。ここは個別性が高い領域なので、断定は避けて専門家に確認するのが正しい。
もう1つ見落としやすいのが予定納税だ。前年の所得が多かった人は、当年の所得税を先に納める仕組みの対象になる。所得税法第111条は、その年6月30日の現況で申告納税見積額が予定納税基準額に満たないと見込まれる場合、その年7月15日までに減額の承認を申請できると定めている。第2期分だけなら、その年10月31日の現況で、11月15日までに申請できる。法人成りで個人の所得が大きく減る年は、この申請を出さないと、あとで戻ってくるとはいえ多めに納めることになる。手元の現金が薄くなる時期と重なるので、覚えておく価値がある。
消費税とインボイスは、廃業届とは別の書類で動く
消費税の課税事業者だった人は、廃業届とは別に「事業廃止届出書」を出す。国税庁の手続案内では、対象は「事業を廃止した課税事業者」で、提出時期は「事由が生じた場合、速やかに」とされている。日数の指定がないぶん忘れやすいので、廃業届と同じ封筒に入れてしまうのが実務的だ。
この書類には、もう1つ大きな効き目がある。インボイス制度で適格請求書発行事業者の登録をしている人が事業を廃止した場合、消費税法第57条の2第10項第2号により、事業廃止届出書を出していれば、事業を廃止した日の翌日に登録の効力が失われる。別途「登録の取消しを求める旨の届出書」を出さなくても、廃止の届出で足りるという整理になっている。
一方で、免税事業者だった人はこの書類の対象外だ。課税売上高が小さく消費税を納める義務が免除されていたなら、事業廃止届出書は出さない。自分が課税事業者だったかどうかは、消費税の確定申告をしていたか、インボイスの登録番号を持っていたかで判断できる。
個人事業者の消費税の申告期限も押さえておきたい。消費税法第19条第1項第1号では、個人事業者の課税期間は1月1日から12月31日までと定められていて、年の途中で廃業しても課税期間そのものは暦年のまま変わらない。そして租税特別措置法第86条の4により、個人事業者の消費税の確定申告期限は翌年3月31日になる。所得税の3月15日とは日付が違うので、カレンダーに別々に書いておくとよい。
書き方と出し方で迷いやすいところ
用紙そのものは1枚で、難しい記入欄はほとんどない。それでも毎回質問が出るポイントがいくつかあるので、先に潰しておく。
届出の区分を選ぶ欄では「廃業」に印を付け、事由の欄に法人成りである旨を書く。「法人成りのため」と一言添えれば十分で、長い説明は要らない。法人を設立した場合は、設立する法人の名称、代表者名、法人の納税地、設立登記の年月日を書く欄があるので、登記事項証明書を手元に置いてから書き始めると早い。
廃止の日は、前の章で決めた日付をそのまま入れる。ここで「廃止する事業の概要」を書く欄もあるが、これは確定申告書に書いている職業や事業内容と同じ表現で問題ない。デザイン業、ソフトウェア開発業、映像制作業、といった程度の粒度で足りる。
提出先は納税地を所轄する税務署長になる。国税庁の案内には、事務所や事業所を移転する場合で、移転前の所在地を納税地としていたときには移転前の所在地を所轄する税務署長に出す、という補足も付いている。自宅を納税地にしていた人は、住所地を管轄する税務署がそのまま提出先だ。
出し方は3つある。e-Taxソフトで作って電子送信する方法、用紙を印刷して窓口に持ち込む方法、郵送する方法。e-Taxで出す場合は本人確認書類の提示や写しの添付が不要になる。書面でマイナンバーを書いて出すときは、そのつど本人確認書類の提示か写しの添付が求められる。窓口の受付は8時30分から17時までだが、閉庁日でも時間外収受箱に投函すれば提出できる。
控えが必要なら、書面で出すときに同じものを2部用意して、1部に受付印をもらう。金融機関で法人口座を作るときや、補助金の申請で個人事業の廃止を示す必要があるときに、この控えが役に立つことがある。e-Taxで出した場合は、送信後に受信通知が残るので、それを保存しておけば同じ役割を果たす。
都道府県への届出は、様式の名前も期限も自治体ごとに違う。東京都の場合は「事業開始(廃止)等申告書」という名前で、東京都主税局の案内には、都内で行っていた事業を廃止した場合や住所や事業所地等の変更があった場合は、廃止または変更の日から10日以内(死亡による廃止の場合は30日以内)に所管の都税事務所等へ提出する必要がある、と書かれている。電子申請の窓口も用意されている。自分の都道府県の様式名と期限は、必ず現住所の自治体のページで確かめてほしい。
費用と手間、そしてメリットとデメリットを並べる
廃業届まわりの手続きにかかる費用は、実はほとんどない。個人事業の開業・廃業等届出書、青色申告の取りやめ届出書、事業廃止届出書、給与支払事務所等の廃止届出書は、いずれも用紙が国税庁のサイトで配られていて、提出も無料だ。e-Taxを使えば郵送代もかからない。個人事業税の申告も同様に手数料はない。
費用がかかるのは法人側で、株式会社の設立登記なら登録免許税や定款の認証費用がまとまって出ていく。専門家に依頼すればその報酬も乗る。ただ、それは法人成りそのものの費用であって、廃業届の費用ではない。「廃業に費用がかかるのでは」と身構える必要はない。
手続きを済ませるメリットは3つある。1つ目は、税務署や都道府県から個人あての通知が止まること。出していないと翌年以降も申告の案内が届き、そのたびに確認する手間が生まれる。2つ目は、消費税の申告義務が正しく切れること。事業廃止届出書を出していないと、課税事業者としての扱いが残り続ける可能性がある。3つ目は、インボイスの登録が整理されること。使わない登録番号が公表サイトに残っていると、取引先が混乱する。
デメリットらしいデメリットは1つで、前の章に書いたとおり、個人に所得が残るのに出してしまった場合に青色申告の利点を失うことだ。裏を返せば、残るかどうかを確かめてから出せば、デメリットはほぼない。
おすすめの進め方としては、登記が終わった時点でチェックリストを作り、社会保険の5日、給与支払事務所と個人事業税の1か月、法人設立届出書の2か月を先に片付け、残りを確定申告の準備と一緒にやる形がいちばん落ち着く。期限が短いものから潰していく、それだけで抜けはほとんど防げる。
手続きより難しいのは、法人名義に切り替えたあとの受注の作り方
ここからは、在宅ワークと業務委託の市場を長く見てきた運営者の立場から書く。法人成りの相談で圧倒的に多いのは書類の話だが、実際につまずくのは書類ではない。会社にしたあと、仕事の取り方が個人のときと変わることに気づかないまま数か月が過ぎる、という形で現れる。
運営者として見てきた限りでは、法人成りがうまくいく人には共通点がある。登記より先に、法人名義で請求してよいと言ってくれる取引先を1社から2社は確保している。個人から法人に切り替えるとき、相手側では新規取引先の登録という手続きが走る。反社チェック、与信、稟議、請求書のフォーマット確認。相手にとっては新しい会社と取引を始めるのと同じ重さになる。ここを軽く見て、登記してから取引先に伝えると、切り替えが終わるまで入金が止まる期間ができる。
もう1つ、長く続いている人ほど、単発の作業ではなく「この人に任せると楽だ」という関係づくりに時間を使っている。法人成りはその関係を強くする材料になる。請求書の宛名が会社になるだけで、相手の社内で予算を通しやすくなることが実際にある。逆に言えば、関係ができていない相手に対しては、法人にしたからといって何も変わらない。
中間の手数料が乗らない直接の取引では、同じ予算でも依頼する側はより多く頼めて、受ける側は手取りが厚くなる。この構造は、金額の大小の話ではなく、手元に残る質の話だ。手数料0%で直接つながる形がなぜ効くのかというと、削られた分だけ次の仕事に投資できるからで、法人成りした直後の資金が薄い時期ほど効いてくる。
独自データから見る、法人成り後に伸びる仕事の選び方
在宅ワークの求人と年収のデータを横に並べると、法人成りした人が次に取りにいく仕事の傾向が見えてくる。ポイントは、単価が高い仕事ほど、個人より法人のほうが受けやすい構造になっていることだ。発注側が法人格を求めるのは、契約の継続性と責任の所在をはっきりさせたいからで、金額が大きくなるほどその要求は強くなる。
具体的にどの分野かというと、まず企業の中でAIをどう使うかを設計する仕事が挙がる。業務の棚卸しから始まり、導入の手順や社内ルールまで踏み込むため、契約が年単位になりやすい。AIコンサル・業務活用支援のお仕事では、この分野で求められる役割と、何から手をつけるかがまとめられている。法人成り直後で実績の見せ方に悩んでいるなら、ここを読んでから提案書を組み立てると方向が定まる。
もう少し幅を広げるなら、マーケティングとセキュリティを含む領域も見ておきたい。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事は、この3つが実務でどう重なるかを整理していて、単発の作業ではなく継続の契約に育てる筋道が分かる。開発寄りの人ならアプリケーション開発のお仕事のほうが近く、受託開発を法人で受けるときの座組みの考え方が参考になる。
単価の相場を把握しておくことも大事だ。法人になると、社会保険料の会社負担分が新しく乗るため、個人時代と同じ単価では手元に残る額が減る。ソフトウェア作成者の年収・単価相場では、この職種の収入の分布が確認できるので、自分の見積もりが市場のどのあたりにあるかを測れる。書く仕事が主軸なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場のほうが近い。どちらも、法人成り後に価格を見直す材料になる。
資格については、法人成りそのものに必要なものはない。ただ、提案書や見積書、契約書のやり取りが一気に増えるので、文書の型を押さえておくと交渉の速度が上がる。ビジネス文書検定は、社外に出す文書の基本形を体系的に確認できる内容になっている。インフラ寄りの案件を法人で受けるならCCNA(シスコ技術者認定)のような技術の裏付けが、与信の代わりとして効く場面もある。
お金の管理の考え方も、法人成りを機に変えておきたい。個人のときは売上がそのまま生活費だったが、法人にすると役員報酬という形で毎月一定額を決めることになる。残った分を会社に置くか、どう運用するかという判断が新しく生まれる。【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオは、長期で積み上げる場合の考え方を数字で追っていて、役員報酬の設計を考えるときの下敷きになる。
廃業した年の確定申告そのものに不安があるなら、個人の申告で何が控除でき、どこで還付が生まれるかを先に押さえておくとよい。確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツには、個人事業として最後の1回を出すときに確認しておきたい論点がまとまっている。デザイン系の仕事を法人で続けるなら、UI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】で職種ごとの収入の差を見ておくと、単価交渉の材料が増える。
最後に、データを見ていて繰り返し確認できることを1つ書いておく。法人成りしたあとに収入が伸びる人は、書類を早く片付けた人ではなく、切り替えの期間に取引先とのやり取りを増やした人だ。廃業届の期限が2026年から確定申告期限まで延びたのは、その意味でも追い風になる。書類に使っていた気力を、契約の巻き直しと次の提案に回せるからだ。期限が短い社会保険と給与支払事務所の届出だけ先に済ませ、残りは春にまとめる。その段取りが組めれば、法人成りの最初の数か月を、手続きではなく仕事に使える。
よくある質問
Q. 廃業届は設立日より前に出す必要がありますか?
その必要はありません。書類を出す順番と、書類に書く廃止の日は別の話です。廃止の日を設立日の前日にしておけば、個人と法人の期間が重ならず帳簿を締めやすくなります。提出そのものは2026年1月から、廃業した年分の確定申告期限までに出せばよい扱いに変わりました。
Q. 廃業届を1か月以内に出し忘れました。罰則はありますか?
2026年1月1日以降は、そもそも期限が1か月以内ではなくなっています。所得税法第229条の条文が「その事実があった日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに」と改められたため、その年分の確定申告期限までに出せば期限内です。まだ出していないなら、確定申告の準備と合わせて提出してください。
Q. 法人成りしても個人で不動産の家賃収入が残ります。廃業届は出しますか?
出しません。個人に事業所得や不動産所得が残るなら、事業そのものが続いている状態です。青色申告の取りやめ届出書も出すべきではなく、出すと特別控除や損失の繰越しが使えなくなります。判断に迷う場合は提出前に税務署か税理士へ確認してください。
Q. 廃業のときに出す書類で、いちばん期限が短いものはどれですか?
健康保険・厚生年金保険の新規適用届で、日本年金機構の案内では事実発生から5日以内とされています。次に短いのが、給与を払っていた人の給与支払事務所等の廃止届出書と、個人事業税の廃止の申告で、どちらも1か月以内です。法人設立届出書は設立登記の日以後2か月以内になります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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