法人成りしたときの廃業届|理由の欄にどう書くか


この記事のポイント
- ✓法人成りで廃業届を出すとき
- ✓廃業の事由の欄に何と書くかで止まる人が多くいます
- ✓そもそも出すべきかの判断
会社の設立登記が終わった。次は個人事業のほうを畳む番で、廃業届の用紙を開いたら「廃業(事由)」という括弧が出てきて手が止まる。何と書けばいいのか、決まった言い回しがあるのか。
結論を書きます。この欄に決まった文言はありません。「法人成りのため」で通ります。事実が伝わればよい欄なので、凝った書き方を探す必要はありません。
ただし、この欄だけを埋めて終わりにすると、法人成り専用の欄を1つ飛ばすことになります。様式の下のほうに「廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合」という独立した欄があり、そこに会社の情報を書きます。事由の括弧と、この専用欄。2か所に会社のことを書く必要があるのが法人成りの特徴です。
ここでは国税庁が公開している様式と書き方に沿って、事由の書き方から、出すかどうかの判断、個人側と法人側で対になる届出までを整理します。
「廃業の事由」の欄に書く言葉
届出の区分の欄には3つの選択肢が並んでいます。開業、事務所・事業所の新設や増設や移転や廃止、そして廃業です。法人成りなら廃業を選び、その後ろの括弧に事由を書きます。
書き方の例を挙げます。どれでも通ります。
・法人成りのため ・法人設立に伴う個人事業の廃止 ・個人事業を法人へ引き継いだため ・株式会社◯◯を設立し、事業を移行したため
注意したいのは、書かないほうがよい表現です。「経営不振のため」「体調不良のため」といった、事実と違う理由を書く必要はありません。法人成りは事業をやめるのではなく、事業の器を個人から会社に移す手続きなので、そのとおりに書きます。
事由の欄と並んで、廃業を選んだ場合には「事業の引継ぎ(譲渡)による場合は、引き継いだ(譲渡した)先の住所・氏名」を書く欄があります。法人成りでは、個人でやっていた事業を自分が作った会社が引き継ぎます。したがって、引き継いだ先は会社です。ここには会社の所在地と商号を書きます。書式の見出しは「住所」「氏名」となっていますが、相手が法人なら所在地と法人名で問題ありません。
逆に、事業を第三者に売って、その代金で別のことを始めるような場合は、引き継いだ先はその第三者です。同じ欄でも、書く相手が違います。自分の会社なのか他人なのかで、後の税務の扱いも変わってきます。
専用の欄には、会社の情報を4つ書く
様式には、法人成りのためだけに用意された欄があります。「廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合」という見出しの欄で、書く項目は4つです。
・設立法人名 ・代表者名 ・法人納税地 ・設立登記の年月日
設立法人名は、登記したとおりの商号を書きます。株式会社が前に付くのか後ろに付くのかまで、登記のとおりにしてください。代表者名は代表取締役の氏名です。法人納税地は、原則として本店の所在地になります。
設立登記の年月日は、法務局が設立登記の申請を受け付けた日です。法務局の案内では、会社は設立の登記をすることによって成立し、会社の設立年月日は登記所が設立登記申請を受け付けた日になると説明されています。書類を作った日でも、法務局での手続きが完了した日でもありません。登記事項証明書の設立年月日の欄に載っている日付を写してください。
この欄を埋めるには、登記が終わっている必要があります。申請中は登記事項証明書が出ないので、廃業届は登記の完了を待ってから作るほうが確実です。幸い、廃業届の期限は長く取られています。
[提出時期]事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。 [手続根拠]所得税法第229条 出典: nta.go.jp
廃業日から1か月以内ではありません。その年分の所得税の確定申告期限までです。登記の完了を待っても間に合います。
その前に確認したい。そもそも廃業届を出すべきか
書き方より先に決めるべきことがあります。法人成りをしたからといって、全員が廃業届を出すわけではありません。
判断の基準は1つです。個人として、事業所得、不動産所得、山林所得を生む事業が残るかどうか。残らないなら出します。残るなら、その残る分の扱いを考えてから決めます。
よくあるのが、事業は会社に移すが、個人名義のアパートの家賃収入は個人に残すケースです。この場合、廃業するのは事業所得を生む事業だけで、不動産所得は個人に残ります。国税庁の書き方にはこう書かれています。
3 「所得の種類」欄には、新たに開始した事業又は廃止した事業に係る所得の種類について、該当するものの□(チェック欄)にレ印を付してください。 また、事業所得を生ずべき事業を2以上(例えば、小売業と建設業など)行っている方がその事業の全部を廃止する場合は「全部」を、その事業の一部を廃止する場合は「一部」の□(チェック欄)にレ印を付してください。 なお、「一部」の□(チェック欄)にレ印を付した場合には、廃止する事業を括弧内に簡記します。 出典: nta.go.jp
所得の種類のチェックと、全部か一部かのチェック。ここを正しく選ぶことが、事由の文言より実務上は大事です。
もう1つ、事業用の建物や設備を個人に残して会社に貸す形にする人もいます。この場合、個人には不動産所得が立ち、その賃料は消費税の課税売上にもなります。青色申告を取りやめるかどうか、消費税の届出をどうするかが、ここで変わってきます。
判断に迷うなら、書類を作る前に税務署に確認してください。届出は出してから取り消すのに手間がかかります。税務署は手続きの要否について無料で答えてくれます。
廃業日と設立登記日を、どう合わせるか
廃業届に書く廃業日は、実態に合わせるのが原則です。ただ、法人成りでは設立登記の日という明確な区切りがあるので、そこを基準に考えます。
多くの場合、設立登記の日を境に事業を会社へ移します。すると廃業日は、設立登記日の前日か、設立登記日そのものになります。どちらでも問題はありませんが、売上をどちらに計上するかの境目になるので、帳簿を締める日と揃えてください。
実務では、数日から数週間ずれることもあります。在庫や仕掛かりの引き継ぎ、取引先との契約の切り替え、許認可の取り直し。これらに時間がかかると、登記は済んでいるが個人の事業がまだ残っている期間ができます。その場合は、実際に事業が個人の手を離れた日を書きます。
契約の切り替えには落とし穴があります。継続的な取引の契約書を会社名義に巻き直さないまま、請求だけ会社名義にすると、取引先の経理で止まることがあります。会社を作った時点で、主要な取引先には名義変更の案内を出しておいてください。
個人側の4枚と、法人側の書類は対になっている
法人成りでは、個人の側で閉じる手続きと、法人の側で開く手続きが並走します。並べると分かりやすくなります。
| 個人の側 | 期限 | 法人の側 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | その年分の所得税の確定申告期限まで | 法人設立届出書 | 設立の日(設立登記の日)以後2か月以内 |
| 所得税の青色申告の取りやめ届出書 | 取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限まで | 青色申告の承認申請書 | 設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のうち早い日の前日まで |
| 給与支払事務所等の廃止届出書 | 廃止の日から1か月以内 | 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設の日から1か月以内 |
| 事業廃止届出書(消費税) | 事由が生じた場合、速やかに | 必要に応じて消費税の各種届出 | 内容により異なる |
見てのとおり、個人側の期限は長く、法人側の期限は短い。法人成りの手続きで急ぐべきなのは法人側です。個人側は確定申告期限までという長い期限があるので、つい後回しにしがちですが、法人側の書類を作るついでに一緒に片付けるほうが効率的です。
法人設立届出書について、国税庁の案内では提出時期は法人設立の日(設立登記の日)以後2月以内、添付書類は定款や寄付行為や規則または規約の写し、手続根拠は法人税法第148条とされています。
法人の青色申告の承認申請書は、期限の計算がやや複雑です。国税庁の案内はこうです。
1 普通法人又は協同組合等の設立の日の属する事業年度の場合は、設立の日以後3月を経過した日と当該事業年度終了の日とのうちいずれか早い日の前日まで 出典: nta.go.jp
設立から3か月と、最初の決算日。このうち早いほうの前日が期限です。決算月を設立から3か月以内に設定した会社は、期限が短くなります。法人の青色申告は赤字の繰り越しや各種の特典に直結するので、ここを落とすと1期目から不利になります。
消費税とインボイスは、個人と法人で別人格になる
法人成りでいちばん誤解が多いのが消費税です。個人事業主と法人は、税の上では完全に別の人格として扱われます。個人時代の消費税の状況が、そのまま会社に引き継がれるわけではありません。
個人の側では、課税事業者だった人が事業廃止届出書を出します。ただし全員ではありません。国税庁の書き方には、適格請求書発行事業者、消費税の課税事業者、課税事業者を選択している人で、廃業する事業のほかに課税売上げに当たる所得(不動産所得等)のない人が提出すると書かれています。建物を会社に貸すなら課税売上が残るので、出さないという判断になります。
インボイスの登録をしている人には、知っておくと1枚減る扱いがあります。同じ書き方に、適格請求書発行事業者が事業廃止届出書を提出した場合、適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書の提出は不要と明記されています。個人の登録を別途取り消す作業は要りません。
会社の側は、新しく登録番号を取り直すことになります。個人の登録番号を会社が引き継ぐことはできません。取引先に請求書を出す立場なら、登録が済むまでの間の請求をどう扱うかを先に決めておく必要があります。
なお、このあたりは金額と事情で結論が変わる部分が多いところです。設立から何期目まで納税義務がどうなるか、個人時代の売上がどう影響するか。一般的な整理は本や記事に書かれていますが、自分の数字で判断するなら税務署か税理士に確認してください。
社会保険は、法人になった瞬間に扱いが変わる
法人成りで見落とされやすいのが社会保険です。個人事業のときは、常時使用する従業員が5人未満なら加入は任意でした。法人はそうではありません。社長1人だけの会社でも強制適用です。
しかも期限がいちばん短い手続きです。日本年金機構が公開している手続の説明はこうです。
【手続概要】この届出は、事業所が健康保険、厚生年金保険に適用されることになった場合、事実発生から5日以内に事業主が行わなければなりません。 なお、この届出を提出される際には、必ず「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届」と同時に提出してください。 出典: nenkin.go.jp
5日です。廃業届の期限が確定申告期限までなのと比べると、桁が違います。
添付書類にも注意が要ります。同じ説明によれば、法人事業所の場合は法人の登記簿謄本を添えますが、提出日からさかのぼって90日以内に発行されたものである必要があります。設立登記が終わってから謄本を取り、それを持って年金事務所へ行く流れになります。
個人時代に国民健康保険と国民年金に入っていた人は、ここで健康保険と厚生年金保険に切り替わります。保険料の計算の仕方も、支払う人も変わります。会社が半分を負担する形になるので、役員報酬の額を決めるときは、この負担も含めて考えることになります。
資産をどう会社へ移すかで、廃業日の意味も変わる
事業に使っていた資産をどう会社へ渡すか。ここは届出書を書く作業より重い判断です。方法は主に3つあります。
1つ目が、売る方法です。個人が会社に資産を売り、会社が代金を払います。分かりやすい代わりに、個人の側に譲渡による所得が立つことがあり、会社の側には代金を払う現金が要ります。
2つ目が、貸す方法です。資産は個人に残したまま、会社に賃貸します。会社は賃料を経費にでき、個人には不動産所得が立ちます。この形を選ぶと、個人の側に所得が残り続けるので、青色申告を取りやめるかどうかの判断が変わります。
3つ目が、現物出資です。資産そのものを出資して株式を受け取る形で、設立のときにしか使えません。手続きが重く、検査役の調査が要る場合もあるので、専門家に相談してから決めるのが一般的です。
在庫と売掛金の扱いも決めます。廃業日の時点で残っていた在庫を会社に引き継ぐなら、その分は個人の売上になります。売掛金を個人に残すか会社に移すかでも、どちらの帳簿に計上するかが変わります。
いずれも税金の扱いが方法ごとに違い、金額や資産の種類によって結論が変わります。ここは一般論で決めずに、税務署か税理士に確認してください。届出書の1行を直すのは簡単ですが、資産の移し方をあとから変えるのは簡単ではありません。
屋号と口座と取引先の切り替えで、時間を取られる
書類とは別に、日常の実務を切り替える作業が残ります。ここが実際にはいちばん時間を食います。
屋号の名義で作っていた銀行口座は、会社名義の口座には自動的には変わりません。会社の口座を新しく開設し、入出金を順に移していきます。法人口座の開設には登記事項証明書や印鑑証明書が要り、審査に時間がかかる金融機関もあります。設立登記が終わったらすぐ動いてください。
取引先への案内も要ります。請求書の発行元が個人から会社に変わるので、相手の経理システムに新しい取引先として登録してもらう必要があります。継続的な契約は、会社名義で巻き直すか、契約上の地位を移す合意を書面で残します。ここを口頭で済ませると、支払い先が変わった理由を後から説明できなくなります。
クレジットカード、ソフトウェアの契約、事務所の賃貸借契約、携帯電話。名義変更が必要なものを一覧にして、順に潰していくのが確実です。契約によっては、名義変更ではなく解約と新規契約になるものもあります。
許認可を持っている業種は、ここが最も重くなります。建設業、宅地建物取引業、古物商、人材派遣。個人で取った許可は会社には引き継がれないのが原則で、会社として取り直すことになります。取り直しの期間に営業ができない空白が生じないよう、設立の前に所管の窓口へ相談しておいてください。
都道府県と市町村の手続きは、税務署とは別に動く
税務署に廃業届を出しても、都道府県には届きません。個人事業税は都道府県の税金なので、別に申告が要ります。
東京都の場合、東京都主税局の個人事業税の案内では、都内で行っていた事業を廃止したときは廃止の日から10日以内に事業開始(廃止)等申告書を所管の都税事務所等へ提出する必要があるとされています。税務署の「確定申告期限まで」と比べると、極端に短い期限です。
さらに、年の途中でやめた場合はもう1つあります。東京都主税局の案内によれば、年の中途で事業を廃止した場合は、所得税の確定申告や住民税の申告とは別に、廃止の日から1か月以内(死亡による廃止の場合は4か月以内)に個人の事業税の申告をしなければなりません。根拠は地方税法第72条の55と第72条の55の2です。
個人事業税には、法人成りの時期に関係する点があります。事業主控除の額は年間290万円ですが、営業期間が1年未満の場合は月割になります。東京都主税局が公開している月割額を見ると、6か月で1,450,000円、9か月で2,175,000円です。年の途中で法人成りすると、この控除も月割で減ります。
会社の側では、法人設立・設置届出書を都道府県と市町村に出します。地方税の電子申告システムであるeLTAXから電子的に送れます。こちらは自治体ごとに様式や期日が違うので、本店の所在地の自治体のサイトで確認してください。
期限や手続きは都道府県ごとに異なります。東京都以外に事業所がある人は、その都道府県の公式サイトで日数を確かめてください。
法人成りした年は、申告が2つ走る
届出を出しても、その年の申告は残ります。法人成りした年は、個人としての確定申告と、会社としての決算の両方をやることになります。
個人の申告は、1月1日から廃業日までの分です。帳簿を廃業日で締めて、売上と経費を集計します。青色申告を続けていた年なら、その年分は青色申告の特典を使えます。取りやめ届出書を出す年であっても、取りやめの効力が及ぶ年分を間違えないでください。
会社の決算は、設立日から最初の決算日までの分です。1期目は12か月に満たないことがほとんどで、その短い期間で申告書を作ります。個人の帳簿と会社の帳簿が同じ年に並ぶので、どちらに入れるべき取引かを迷う場面が必ず出ます。
迷いやすいのが3つあります。1つ目が、廃業日の直前に発生して廃業日の後に入金された売上。2つ目が、廃業日の前に使って請求が後から来た経費。3つ目が、年をまたぐ経費の前払い分です。
一般には、廃業後に生じた費用でも事業に関連するものは一定の範囲で個人の必要経費にできると整理されますが、範囲は事情で変わります。金額が大きいなら、申告書を作る前に税務署か税理士に確認してください。
事務の負担を減らすなら、廃業日を月末か、請求のサイクルの区切りに合わせるのが実務では楽です。月の途中で切ると、1か月分の取引を日割りで分ける作業が発生します。
届出を出す順番についても、迷う人が多いところです。結論としては、会社側の手続きを先に片付けて、個人側は登記事項証明書が手元に揃ってから作るのが早い。設立法人名、代表者名、法人納税地、設立登記の年月日。この4つはすべて登記事項証明書に載っているので、証明書を1通取っておけば、個人側の廃業届はその場で書き終わります。
出したあとに税務署から連絡が来ることもあります。よくあるのが、専用の欄が空欄になっている場合、給与の支払事務の引き継ぎ先が書かれていない場合、青色申告の取りやめ届出書の内容と食い違っている場合です。どれも書き足せば済みますが、最初から揃えておけば連絡そのものが来ません。
控えの保管も忘れないでください。廃業の事実を後から示す場面は意外に多くあります。会社名義で銀行口座を作るとき、補助金や融資を申し込むとき、国民健康保険から健康保険への切り替えの経緯を説明するとき。個人側の控えと会社側の設立関係の書類を同じ場所にまとめておけば、そのたびに探さずに済みます。
最後に、相談先の使い分けも整理しておきます。手続きの要否や様式の書き方は税務署が無料で答えてくれます。登記の手続きは法務局の登記相談、社会保険は年金事務所、労働保険は労働基準監督署です。有利不利の判断が絡む部分だけ税理士に相談する形にすると、費用を抑えながら確実に進められます。
設立登記の日から順に並べると、迷う場面が減る
期限が書類ごとにばらばらなので、日付順に組み替えておくと手が止まりません。設立登記の日を0日目として並べます。
0日目から5日目までが、いちばん厳しい区間です。健康保険と厚生年金保険の新規適用届が、事実の発生から5日以内です。登記が完了してから謄本を取り、それを持って年金事務所に行くまでを5日で終える必要があります。登記の完了予定日を法務局で聞いておき、その日に謄本を取れるよう予定を空けておくのが現実的です。
0日目から10日目までに、個人の側で都道府県の手続きを片付けます。東京都の場合は事業を廃止した日から10日以内なので、廃業日を設立登記日の前日に置いたなら、この期限も登記の直後に来ます。
0日目から1か月までに、給与の支払いに関する2枚を出します。個人の側の給与支払事務所等の廃止届出書と、会社の側の開設届出書です。どちらも1か月以内で、提出先の税務署は同じです。従業員や家族に給与を払っていなかった人は、この2枚は不要です。
0日目から2か月までに、法人設立届出書を出します。定款の写しを添えるので、設立のときに作った定款の控えを1部余分に用意しておくと手戻りがありません。都道府県と市町村への法人設立・設置届出書も、この時期にまとめて出します。
0日目から3か月のあたりに、法人の青色申告の承認申請書の期限が来ます。設立から3か月を経過した日と最初の決算日のうち早い日の前日なので、決算月を設立の翌月や翌々月に設定した会社は、期限が3か月より手前に来ます。決算月を決めた時点で、この期限を手帳に書いておいてください。
個人の廃業届と青色申告の取りやめ届出書は、その年分の確定申告期限までです。順番としては最後ですが、法人側の書類を作るときに登記事項証明書を手にしているので、そのついでに書いてしまうのが早い。あとから書くと、設立登記の年月日をもう一度調べ直すことになります。
個人の最後の帳簿を、どう締めるか
廃業日で帳簿を締めるとき、手が止まりやすい仕訳を具体的な金額で並べます。実際の金額は自分の帳簿のものに置き換えてください。
在庫を会社に引き継ぐ場合です。廃業日に在庫が20万円分残っていて、それを会社に20万円で売ったなら、個人の側では売上が20万円立ちます。会社の側は仕入れが20万円です。
借方 売掛金 200,000 / 貸方 売上高 200,000
代金を実際にやり取りせず、帳簿の上だけで処理すると、個人には会社への貸しが残ります。この残りをどう解消するかを決めておかないと、何年も回収されない売掛金が個人の帳簿に居座ります。
減価償却の途中にある資産を個人に残す場合です。年間12万円の償却費が出る資産を、9月30日を廃業日として締めるなら、その年の個人の必要経費に入れるのは1月から9月までの9か月分です。
12万円 × 9か月 ÷ 12か月 = 9万円
会社に売って移した場合は、売った日で個人の側の償却を止め、会社の側で新たに資産として計上します。会社が引き継ぐのは、個人の帳簿に残っていた金額ではなく、売った金額が基礎になります。
家事と事業で共用していた費用の按分も、廃業日で止めます。自宅の一部を事務所にしていて家賃の30%を経費にしていたなら、1月から廃業日までの家賃に30%をかけた額が、その年の経費です。廃業日の翌日からは、会社が会社の名義で契約するか、個人から会社に貸す形に切り替えます。
そして最後に、事業主貸と事業主借の残高を元入金に振り替えて、帳簿を閉じます。会計ソフトを使っているなら、廃業日を事業年度の終わりに指定すれば自動で処理されます。ここを手作業でやると計算が合わなくなりやすいので、ソフトの機能に任せてください。
締めた帳簿と、その裏付けになる領収書や請求書は、廃業したあとも保存する義務が残ります。会社の書類と混ざると探せなくなるので、個人時代の分は箱を分けて、廃業日と保存年数を箱に書いておくのが確実です。
合同会社にした場合、どこが変わるか
法人成りの先を株式会社ではなく合同会社にした人も、個人の側の手続きは同じです。廃業届の事由の欄には「法人成りのため」と書き、専用の欄には設立した合同会社の名称と代表社員の氏名、納税地、設立登記の年月日を書きます。株式会社と書式が分かれているわけではありません。
違うのは会社の側です。設立の登録免許税が、株式会社より安く済みます。定款に公証人の認証が要らないので、その費用も発生しません。一方で、出資者が増えたり入れ替わったりするときは定款の変更が必要になり、株式会社が名簿を書き換えるだけで終わる場面で手続きが一段重くなります。
社会保険は変わりません。合同会社も法人なので、代表社員1人だけの会社でも強制適用です。5日以内という期限も同じです。法人住民税の均等割も、赤字の年でも納めることになります。
取引先の反応という点では、まだ差が残る場面があります。会社の形を指定してくる発注元がまれにあるので、特定の相手との取引が主な理由で法人にするなら、その相手に確認してから形を決めるほうが安全です。
勘違いしやすい5つ
最後に、相談の場でよく出る思い違いを挙げます。
1つ目は、廃業届を出せば個人の申告も終わりだと考えてしまうこと。届出は事業を閉じた事実を伝える書類で、申告とは別です。1月1日から廃業日までの所得について、翌年の確定申告期限までに申告します。
2つ目は、個人のインボイスの登録番号を会社で使えると考えてしまうこと。登録番号は人格ごとに付くので、会社は新しく取り直します。個人の番号を書いた請求書を会社名義で出すと、受け取った側の控除に影響します。
3つ目は、廃業日を自由に決められると考えてしまうこと。実態に合わせるのが原則で、許認可が絡む業種では勝手に決められません。建設業の許可を持っている人は、廃業日の扱いが許可の取り直しに直結するので、所管の窓口に先に確認してください。
4つ目は、青色申告の取りやめ届出書をいつでも出せると考えてしまうこと。事業所得を生む事業が個人に残らないなら出しますが、建物を会社に貸して不動産所得が残るなら、取りやめずに続けるほうが有利な場合があります。出す前に、残る所得があるかどうかを先に確定させてください。
5つ目は、会社を作れば税金が必ず軽くなると考えてしまうこと。赤字でも法人住民税の均等割はかかり、帳簿と申告の手間も増えます。有利になるかどうかは、所得の額、役員報酬の設定、家族への給与の有無で変わります。金額で判断する段階に来たら、数字を持って税務署か税理士に確認してください。
会社にする判断を、額面ではなく手取りで見直す
ここからは、在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた運営者の視点で、届出の手前にある判断について書きます。
法人成りの相談でいちばん多いのが、「売上が1,000万円を超えたから会社にすべきだ」という思い込みです。運営者として見てきた限りでは、この基準だけで決めた人ほど、作ったあとに固定費の重さで戸惑っています。会社は赤字でも均等割を納め、帳簿の作り方も個人のときより厳しくなります。
一方で、売上の額が同じでも、取引の形が変わった人は法人にしてから明らかに動きやすくなっています。単発の受注から年間契約に移った人、1人で受けていた仕事を複数人で受けるようになった人。分かれ目は金額ではなく、取引の形のほうにあります。
もう1つ、長く続いている人に共通しているのが、報酬の額面ではなく手取りの厚みで仕事を選んでいる点です。仲介が何割か抜く仕組みを通していると、同じ仕事量でも手元に残る額が変わります。中間マージンが乗らない直接取引なら、発注する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は手数料0%で手取りが厚くなる。この構造が分かっている人ほど、法人化の損得も額面ではなく手取りで計算しています。
判断材料として、自分の単価が市場のどのあたりにいるかを知っておくと役に立ちます。開発系の仕事ならソフトウェア作成者の年収・単価相場に全国平均と都道府県別の水準が並んでいます。文章や編集の仕事が主なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場のほうです。どちらも地域差が見えるので、法人化後に人を雇う場合の人件費の目安にもなります。
法人成りのあとに仕事の幅を広げたいなら、企業側の予算が付きやすい領域を見ておくと早いです。AIコンサル・業務活用支援のお仕事は生成AIの導入設計から社内研修までを引き受ける仕事で、法人格があると受けやすい案件が多い分野です。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事も、技術と事業の両方が分かる人が少ないため単価が落ちにくい傾向があります。受託開発を軸にするならアプリケーション開発のお仕事が近い領域です。
会社になると、書類のやり取りの量そのものが増えます。見積書、注文請書、業務完了報告書、請求書。個人のときは口頭で済んでいたものが、すべて紙かデータで残る形になります。書類仕事の型を身につけたいならビジネス文書検定が実務に直結しますし、技術側の基礎を客観的に示したいならCCNA(シスコ技術者認定)のような資格を取引先への説明材料に使う人もいます。
個人時代の税金の考え方を整理しておくことも、法人化の判断には欠かせません。何が経費になり何が控除になるのかを一度洗い直すなら確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツが土台になります。役員報酬をいくらに決めるかを考える前に、会社に残すお金の置き場所を検討するなら【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオのような長期の視点も要りますし、職種ごとの収入の幅を確かめたいならUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】のようなデータも参考になります。
事由の欄に書く一行は、登記事項証明書が手元にあれば数分で決まります。時間がかかるのは、青色申告を取りやめるかどうか、資産をどう会社へ移すか、廃業日をいつにするかという判断のほうです。この3つを先に決めてから用紙を開くと、書き直しがなくなります。
なお、この記事の内容は公開時点の公式の記載に基づいています。税務の個別の判断は金額や事情で結論が変わるため、迷う部分は税務署か税理士に確認してください。
よくある質問
Q. 廃業の事由の欄には何と書けばよいですか?
決まった文言はありません。「法人成りのため」「法人設立に伴う個人事業の廃止」といった書き方で通ります。事実が伝わればよい欄なので、凝った表現を探す必要はありません。あわせて、廃業の欄にある事業の引継ぎ先として、自分が作った会社の所在地と商号を書きます。
Q. 事由を書けば、会社のことはそれで足りますか?
足りません。様式には「廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合」という専用の欄が別にあり、設立法人名、代表者名、法人納税地、設立登記の年月日の4つを書きます。設立登記の年月日は、法務局が設立登記の申請を受け付けた日で、登記事項証明書の設立年月日の欄に載っています。
Q. 法人成りなら必ず廃業届を出しますか?
個人として事業所得、不動産所得、山林所得を生む事業が残らないなら出します。事業は会社に移すが個人名義のアパートの家賃収入は残す、といった場合は所得の種類の欄で「一部」を選び、括弧に廃止する事業を書きます。判断に迷うなら、書類を作る前に税務署に確認してください。
Q. 個人側と法人側で、どちらを先に片付けるべきですか?
法人側です。法人設立届出書は設立登記の日以後2か月以内、給与支払事務所等の開設届出書は開設から1か月以内、青色申告の承認申請書は設立から3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のうち早い日の前日までです。個人側の廃業届はその年分の確定申告期限までと長いので、法人側の書類を作るついでに一緒に出すのが効率的です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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