フリーランスの健康保険はどう選べばいいか

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
フリーランスの健康保険はどう選べばいいか

この記事のポイント

  • フリーランス健康保険の選択肢は国民健康保険
  • 独立1年目に負担が重くなる理由
  • 手続きの期限までを整理し

結論から書きます。フリーランス健康保険の選択肢は4つで、独立から2年間は「任意継続」と「国民健康保険」のどちらが安いかを計算して選ぶ、これが基本の判断です。そして職種によっては、この2つより安くなる第3の選択肢である国民健康保険組合が使えます。

多くの解説記事が「フリーランスは国民健康保険に加入します」で終わっていますが、正直なところこれは不十分です。独立1年目は前年の給与所得をもとに保険料が計算されるため、国民健康保険がもっとも高くなるケースが少なくありません。選択を間違えると、年間で数万円から十数万円の差がつきます。この記事では、4つの選択肢の判断基準、保険料の計算の仕組み、手続きの期限、そして会社員時代にあった保障のうち何が消えるのかを順に整理します。

フリーランスの健康保険は4つの選択肢がある

まず全体像を押さえます。会社を辞めて個人で働く場合、公的医療保険への加入先は次の4つから選びます。国民健康保険への加入、前職の健康保険の任意継続、業種別の国民健康保険組合への加入、そして家族の健康保険の被扶養者になること。この4つです。

どれを選んでも、受けられる医療の内容は同じです。窓口の自己負担割合は原則3割で、高額療養費制度も使えます。違うのは保険料の額と、傷病手当金などの付加的な給付の有無です。つまり選ぶ基準は「同じ医療を受けるためにいくら払うか」であり、そこに職種と前年の所得が効いてきます。

ここで押さえておきたいのが、会社員とフリーランスの保険料負担の構造的な違いです。

国民健康保険は、業務委託などの個人事業主やフリーランス、自営業などが加入する社会保障制度です。会社員であれば社会保険の保険料は会社と折半ですが、国民健康保険は原則「全額自己負担」になるため、高すぎると悩む方も多いでしょう。 しかし、経費や各種制度を上手に活用すると、実質的な負担を抑えるのに役立ちます。本記事では、国民健康保険が高すぎると感じたときにやってはいけないNG対応と、ムリなく保険料負担を軽くするコツをわかりやすく解説します。 出典: biz.moneyforward.com

会社員の健康保険料は労使で折半されています。給与明細に載っていた金額は、実際の保険料の半分です。独立するとこの折半がなくなるため、同じ所得水準でも負担は単純計算で2倍近くになります。「独立したら保険料が急に高くなった」という声の正体はこれです。制度が不利なのではなく、これまで会社が払っていた分が見えるようになっただけです。

この構造を理解すると、選択の意味が変わります。4つの選択肢は「どこに払うか」の違いではなく、「保険料の計算方法が違う4つの仕組み」です。所得に比例するもの、前職の給与で決まるもの、定額のもの、ゼロのもの。自分の所得の形に合った計算式を選ぶ作業だと考えてください。

国民健康保険の保険料はどう決まるか

国民健康保険は市区町村が運営しています。ここが重要な点で、保険料の計算式と料率は自治体ごとに違います。同じ所得でも、住んでいる市区町村によって年間で数万円の差が出ることがあります。

計算は大きく3つの部分に分かれます。1つ目は所得割で、前年の所得に料率をかけて算出します。2つ目は均等割で、加入者の人数に応じた定額です。3つ目は世帯ごとにかかる平等割で、これは採用していない自治体もあります。さらに、これらが医療分、後期高齢者支援金分、そして40歳から64歳の人にかかる介護分の3つに分かれて計算されます。

ここで注意したいのが、所得割の算定に使われるのが「前年の所得」だという点です。独立した年の所得ではありません。会社員として給与をもらっていた翌年の保険料は、その給与をもとに計算されます。独立1年目で売上が少なくても、保険料は前年の給与水準で請求されます。これが独立直後に資金が苦しくなる最大の要因です。

もうひとつ知っておくべきなのが、所得割の計算に使われる所得の定義です。給与所得者の場合は給与所得控除後の金額ですが、事業所得の場合は売上から経費を引いた事業所得が基礎になります。青色申告特別控除は、この所得の算定に反映されます。つまり帳簿をきちんと付けて青色申告をすることが、翌年の保険料を下げる効果を持ちます。

さらに、見込み納税金額のシミュレーションも可能。 ※なお、売上の3割を経費とした場合の見込み額を表示しています。経費額やその他の控除によって実際の納税額は変化します。 今回は、青色申告65万円控除が一番おすすめの結果となりました。 出典: freee.co.jp

保険料には年間の上限額も設定されています。医療分、支援金分、介護分のそれぞれに限度額があり、合計すると年間で100万円前後という水準です。所得が一定以上になると、それ以上増えても保険料は上限で止まります。高所得のフリーランスにとっては、この上限の存在が実務上重要になります。

そして減免の制度があります。前年より所得が大幅に減った場合、災害や病気で支払いが困難な場合、自治体の判断で保険料が減額または免除されることがあります。これは申請が必要で、黙っていても適用されません。払えないと感じたときに最初にやるべきことは、滞納ではなく窓口への相談です。

任意継続を選ぶべきケースはどこか

任意継続とは、会社を辞めたあとも前職の健康保険に最長2年間、個人として加入し続ける制度です。これを知らずに国民健康保険へ切り替えてしまう人が一定数います。

利用の条件は2つです。退職日までに継続して2か月以上その健康保険の被保険者だったこと。そして、退職日の翌日から20日以内に申請すること。この20日という期限が厳しく、過ぎると原則として利用できません。独立の準備で忙しい時期に重なるため、退職日が決まった段階でカレンダーに書き込んでおくべきです。

保険料は、退職時の標準報酬月額をもとに計算されます。在職中は労使で折半していた分を全額自分で払うことになるため、給与明細に載っていた額の約2倍になります。ただし重要なのは、任意継続の保険料には上限が設けられている点です。給与水準が高かった人の場合、この上限が効いて、所得に比例する国民健康保険より安くなることがあります。

判断の手順は次のとおりです。まず在職中の給与明細で健康保険料の控除額を確認し、それを2倍にして12か月分を出します。次に住んでいる市区町村の窓口か公式サイトで、前年の所得をもとにした国民健康保険料の試算をしてもらいます。この2つを並べて安い方を選ぶ。単純ですが、この計算をせずに決めている人が驚くほど多い。

扶養している家族がいる場合、任意継続が有利になる可能性が高くなります。会社の健康保険では被扶養者の保険料はかかりませんが、国民健康保険では家族の人数分の均等割がかかります。配偶者と子どもがいる世帯では、この差が年間で大きな額になります。

もう1つ、任意継続の期間は最長2年です。2年を過ぎると自動的に資格を失い、国民健康保険などに切り替える必要があります。そして2年目の保険料は、1年目と同じ標準報酬月額で計算されます。一方、国民健康保険の保険料は独立2年目には独立1年目の事業所得で計算されるため、売上が会社員時代より低ければ下がります。つまり1年目は任意継続、2年目から国民健康保険という組み合わせが最適になるケースがよくあります。

国民健康保険組合という第3の道

ここが見落とされやすい選択肢です。業種ごとに組織された国民健康保険組合があり、条件を満たせば市区町村の国民健康保険より安くなることがあります。

代表的なのが、文芸美術関係の仕事をする人が加入できる組合です。デザイナー、イラストレーター、文筆業、写真、音楽などの創作を仕事にしている人が、加盟している団体を通じて加入します。ほかにも医師、薬剤師、建設関係、理美容などの業種別組合が存在します。

最大の特徴は、保険料が所得に比例しないことです。組合ごとに設定された定額で、月額2万円前後という水準が一般的です。所得が上がっても保険料は変わらないため、売上が伸びている人には大きな差になります。逆に、所得が低い時期には市区町村の国民健康保険のほうが安くなります。

加入のハードルは2つあります。1つは、その組合が定める職種に実際に従事していることを示す必要がある点。確定申告書の控えや作品、業務の契約書などで証明します。もう1つは、多くの場合、組合に加盟している団体の会員になる必要があり、その団体の年会費がかかる点です。保険料と年会費の合計で比較しないと判断を誤ります。

私が独立して数年たったころ、この制度を知らずに市区町村の国民健康保険を払い続けていたことがあります。所得が伸びた年に保険料の通知を見て初めて調べ、そこで組合の存在を知りました。正直なところ、これはもっと早く調べるべきでした。年に一度届く保険料の通知は、金額を確認して払うだけの書類ではなく、選択肢を見直すきっかけとして使うべき書類です。

自分の職種が該当するかどうかは、組合の公式サイトに職種の一覧が掲載されているので確認できます。ライティングや編集を主な仕事にしている人は対象になる可能性があります。そもそも自分の仕事がどの職種分類に当たるのか整理したい場合は、公的統計にもとづく職種の区分と単価水準をまとめた著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると、自分の仕事の位置づけが整理できます。

家族の扶養に入れるかどうかの判定

4つ目の選択肢が、家族の健康保険の被扶養者になることです。配偶者や親が会社員や公務員として健康保険に加入している場合、条件を満たせば保険料の負担なしで加入できます。

条件は収入の額です。原則として年間収入が130万円未満で、かつ被保険者の年間収入の半分未満であることが求められます。60歳以上または障害のある人の場合は180万円未満です。ここで重要なのが、この収入の判定基準が税金の計算とは違う点です。

税金の世界では、売上から経費を引き、さらに青色申告特別控除などを引いた所得で判定します。一方、健康保険の被扶養者の判定では、売上から「その事業を行うために直接必要な経費」だけを引いた額で見るのが一般的です。減価償却費や青色申告特別控除は差し引かれないことが多い。つまり税務上は所得が低くても、健康保険の判定では収入が高いと見なされる場合があります。

さらに、判定の細部は健康保険の運営者ごとに異なります。協会けんぽと各健康保険組合で、認められる経費の範囲が違うことがあります。だからこの選択肢を検討するなら、家族が加入している健康保険の窓口に直接確認するしかありません。ネット上の一般的な解説を根拠に判断すると、後から資格を遡って取り消され、その期間の医療費を請求されることがあります。

実務的な使い方としては、独立直後で売上が立っていない時期の一時的な選択肢として有効です。売上が伸びて基準を超えたら、その時点で外れて国民健康保険や組合に切り替える。この切り替えの届け出を忘れると、後から精算が発生します。売上が基準に近づいてきた段階で、いつ外れるかの計画を立てておいてください。

会社員時代にあってフリーランスには無い保障

保険料の話だけで判断すると危険なので、給付の違いも書きます。国民健康保険で受けられないものが2つあります。

1つ目は傷病手当金です。会社員の健康保険では、病気やけがで働けなくなったとき、標準報酬日額の3分の2程度が最長1年6か月支給されます。国民健康保険にはこの制度が原則ありません。つまり、働けなくなった月の収入がそのままゼロになります。これはフリーランスにとって最大のリスクです。

2つ目は出産手当金です。産前産後の休業期間に支給されるもので、これも国民健康保険にはありません。ただし出産育児一時金は国民健康保険にもあるため、出産費用に対する給付自体は受けられます。混同しやすい点です。

一方で、受けられるものもきちんと押さえてください。高額療養費制度は国民健康保険でも使えます。1か月の医療費の自己負担が一定額を超えた場合、超えた分が払い戻されます。上限額は所得に応じて区分されており、事前に限度額適用認定証を取得しておけば、窓口での支払い自体を上限額までに抑えられます。入院が決まったら真っ先に申請すべき手続きです。

この2つの穴をどう埋めるかが、フリーランスの保険設計の中心になります。選択肢は3つあり、就業不能保険や所得補償保険に入る、貯蓄で備える、そして収入の柱を複数持つことです。保険で埋める場合の商品の選び方は、年代別に必要な保障を整理した生命保険おすすめ比較【2026年版】|年代別の選び方が判断の起点になります。子育て期に必要な保障額の考え方は30代の生命保険おすすめ|子育て世代の保障設計にまとまっています。

私の見方を書くと、保険商品で全部を埋めようとするのは効率が悪い。月々の保険料は固定費になり、売上が落ちた月にも払い続ける必要があります。まず生活費の半年分を現金で確保し、そのうえで足りない部分を保険で補うという順番が現実的です。

保険料は経費にならない。ただし控除になる

ここは誤解が多い論点です。国民健康保険料は事業の経費にはなりません。事業に必要な支出ではなく、個人の社会保険料だからです。仕訳で言えば、事業用の口座から払った場合は事業主貸として処理します。

では確定申告でどう扱うのか。社会保険料控除として、所得控除の欄に記載します。経費と控除は、どちらも税額を下げる効果がありますが、仕組みが違います。経費は事業所得の計算段階で差し引かれ、控除は所得が確定したあとに差し引かれます。この違いは、翌年の国民健康保険料の計算にも影響します。

具体的に言うと、国民健康保険料の所得割は事業所得をもとに計算されるため、経費が増えれば翌年の保険料も下がります。一方、社会保険料控除は所得税と住民税を下げますが、国民健康保険料の算定にはほとんど影響しません。この非対称性は、節税を考えるときに知っておく価値があります。

社会保険料控除は、家族の分も合算できます。同一世帯で自分が実際に払った国民年金保険料や国民健康保険料は、まとめて自分の控除にできます。世帯のなかで所得が高い人が払って控除を受けるほうが、世帯全体の税額は下がります。ここは意識的に設計すべき部分です。

どの支出が経費になり、どの支出が控除になるのかの線引きは、仕訳の実務そのものです。保険料の種類ごとの扱いと、確定申告での記載場所は個人事業主の保険料は経費にできる?仕訳と確定申告の方法に具体例つきで整理されています。自分で帳簿を付けるなら、この区分だけは最初に理解しておいたほうがよい。毎年迷うところです。

税と社会保険の全体像を体系的に押さえたい人には、家計とライフプランの観点から制度を横断して学べるFP技能士3級が入口として現実的です。フリーランスとして自分の申告を自分でやるなら、帳簿の付け方を扱う仕事の内容を見ておくのも役に立ちます。記帳や決算の実務がどう進むかは経理・財務・帳簿・税務のお仕事で確認できます。

独立のタイミングで実際にやる手続きの順番

制度を理解したうえで、実務の順番を書きます。期限があるものから並べます。

退職日が決まったら、まず任意継続を使うかどうかを仮決めします。使う可能性があるなら、退職前に健康保険料の控除額を給与明細で確認し、年額を計算しておきます。並行して市区町村の窓口へ行き、前年の所得で国民健康保険料の試算を出してもらいます。窓口では源泉徴収票があると計算が早い。

退職日の翌日から14日以内が、国民健康保険への加入届の期限です。任意継続の申請期限は20日以内。両方の期限が近いため、退職日の前に比較を終わらせておく必要があります。どちらの期限も過ぎると選択肢が狭まります。なお、国民健康保険の加入が遅れても、資格は退職日の翌日に遡って発生するため、その間の保険料は請求されます。届け出が遅れると得をするわけではありません。

国民年金への切り替えも同時に発生します。厚生年金の被保険者資格を失うため、国民年金の第1号被保険者になる届け出が必要です。制度の詳細と手続き先は日本年金機構の案内で確認できます。保険料の納付が難しい場合の免除や猶予の制度もここに書かれています。

国民健康保険組合を検討するなら、加盟団体の入会手続きに時間がかかることを見込んでください。審査や書類の準備で数週間かかる場合があります。独立してから調べ始めると、その間は市区町村の国民健康保険に入ることになり、切り替えの手間が二重になります。

最後に、開業届と青色申告承認申請書です。青色申告の承認は、原則として開業から2か月以内の申請が必要です。この期限を過ぎると、その年は白色申告になり、青色申告特別控除が使えません。控除が使えないと事業所得が大きくなり、翌年の国民健康保険料まで上がります。保険料の話と税の話はつながっています。申請書類の様式と提出先は国税庁で確認してください。

保険料の負担を軽くするために実際に効く手段

保険料を下げる方法として世の中に出回っている話のうち、実際に効くものと効かないものを分けて書きます。

効くものの1つ目は、経費を漏らさず計上することです。所得割は事業所得をもとに計算されるため、経費が増えれば翌年の保険料が下がります。仕事に使っている通信費、家賃や電気代のうち業務に使う割合、機材の購入費、書籍や講座の費用。按分の根拠を説明できる形で記録しておけば計上できます。逆に、根拠のない按分や私的な支出の混入は、税務調査で否認されるだけでなく、後から追徴される形で負担が増えます。

2つ目は、青色申告を選ぶことです。複式簿記で記帳し、期限内に電子申告をすれば青色申告特別控除が使えます。この控除は事業所得の計算に反映されるため、所得税と住民税だけでなく翌年の国民健康保険料にも効きます。白色申告のままにしている人は、ここで毎年損をしています。開業から2か月以内という申請期限があるため、独立の初期に手を打つ必要があります。

3つ目は、小規模企業共済や個人型の確定拠出年金です。これらの掛金は全額が所得控除になります。ただし社会保険料控除と同じく、国民健康保険料の算定には反映されません。所得税と住民税は下がりますが、保険料は下がらない。この違いを知らずに「保険料対策」として始めると、期待した効果が出ません。老後資金の積み立てとしての価値は別にあるので、目的を分けて考えてください。

4つ目は、住む場所です。保険料の料率は自治体ごとに違うため、引っ越しで金額が変わります。ただし保険料だけを理由に引っ越すのは現実的ではありません。他の理由で引っ越し先を検討しているなら、候補地の保険料率を比べる価値があるという程度の話です。

逆に効かないもの、やってはいけないものを挙げます。売上を申告しないことは脱税で、発覚したときの負担は比べものになりません。所得を低く見せるために架空の経費を計上するのも同じです。そして最も多い失敗が、払えないまま放置することです。滞納すると延滞金がつき、保険証が短期のものに切り替わり、最終的には差し押さえに至ります。減免や分割の相談は窓口で受け付けているので、払えない見込みが立った時点で行ってください。相談した人と滞納した人では、その後の負担が大きく変わります。

20年この市場を見てきて分かった、保険で失敗する人の共通点

在宅ワークとフリーランスの市場を20年運営してきた立場から、制度の解説には出てこない話を書きます。

保険で困る人に共通しているのは、金額の比較をしていないことではありません。年に一度届く通知を、確認せずに払っていることです。国民健康保険料の通知は毎年6月ごろに届きます。この書類には前年の所得区分と計算の内訳が書かれており、自分の所得の推移と保険料の関係が一目で分かります。この通知を見て「今年はこの選択肢のほうが安いのでは」と考える人は、それだけで年間数万円の差を取りに行けています。

もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、収入の落ち込みに強い人は保険の設計が上手いのではなく、依頼元を複数持っています。傷病手当金がないという制度上の穴は、保険商品で完全には埋まりません。1社からの依頼だけで生活している状態で体調を崩すと、収入がゼロになります。複数の依頼元と継続的な関係があれば、1つが止まっても全部は止まりません。制度の穴を埋める最も現実的な方法は、働き方の分散です。

そして手取りの話をします。同じ仕事でも、仲介が何層も入る形では受け手に残る額が減ります。健康保険料も年金も税も、残った額から払うものです。手数料0%の取引が効くのは、単価が跳ね上がるからではありません。同じ仕事量でも残る額が厚くなるので、固定費としての社会保険料を吸収しやすくなるという意味で効きます。独立してから保険料の重さに驚く人は多いのですが、負担を軽くする方向だけでなく、負担を吸収できる収入の形を作る方向も同時に考えたほうが早い。

もう1点、年齢による変化を書いておきます。40歳になると介護保険分が保険料に上乗せされ、同じ所得でも負担が増えます。誕生月から自動的に加算されるため、40歳を迎える年は前年と同じ所得でも通知の金額が上がります。これを「計算間違いではないか」と問い合わせる人が毎年います。また75歳になると後期高齢者医療制度へ移るため、国民健康保険の資格は自動的に切り替わります。制度は年齢で階段状に変わるので、自分と家族の年齢の節目を把握しておくと通知を見て慌てずに済みます。

最後に判断の指針をまとめます。扶養している家族がいて前職の給与が高かった人は任意継続から。単身で前職の給与が高くなかった人は国民健康保険から。所得が伸びていて職種が該当する人は国民健康保険組合を調べる。独立直後で売上がまだ立っていない人は家族の扶養を確認する。この4つの起点さえ押さえておけば、あとは金額を並べるだけで決まります。計算に必要な書類は源泉徴収票と給与明細と確定申告書の控えの3つで、いずれも手元にあるものです。今週のうちに並べてみてください。

よくある質問

Q. 独立1年目の国民健康保険料はなぜ高いのですか?

所得割の計算に使われるのが前年の所得だからです。独立1年目は会社員として給与をもらっていた年の所得で計算されるため、売上が少なくても保険料は高くなります。前年より所得が大幅に減った場合は減免の対象になることがありますが、申請しないと適用されません。払えないと感じたら滞納せず市区町村の窓口に相談してください。

Q. 任意継続と国民健康保険はどちらが安いですか?

在職中の給与明細の健康保険料控除額を2倍にして12か月分を出し、市区町村で前年所得にもとづく試算をしてもらって比較します。任意継続の保険料には上限があるため給与が高かった人は有利になりやすく、扶養家族がいる場合も国民健康保険では人数分の均等割がかかるため任意継続が安くなることが多いです。申請期限は退職日の翌日から20日以内です。

Q. 国民健康保険料は経費にできますか?

経費にはできません。事業の支出ではなく個人の社会保険料なので、確定申告では社会保険料控除として所得控除の欄に記載します。同一世帯の家族の分を自分が払った場合は合算して控除でき、世帯で所得が高い人が払うほうが税額は下がります。経費は翌年の保険料算定にも影響しますが、社会保険料控除はほとんど影響しません。

Q. フリーランスには傷病手当金がないと聞きましたが、どう備えればいいですか?

国民健康保険には傷病手当金と出産手当金が原則ありません。備え方は3つあり、就業不能保険や所得補償保険に入る、生活費の半年分を現金で確保する、依頼元を複数持って収入を分散することです。保険料は固定費になるため、まず現金を確保し、足りない部分を保険で補う順番が現実的です。高額療養費制度は国民健康保険でも使えます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月12日最終更新:2026年9月24日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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