個人事業主でも社会保険に加入できるか

中西 直美
中西 直美
個人事業主でも社会保険に加入できるか

この記事のポイント

  • ✓個人事業主が社会保険に加入できるかを
  • ✓事業主本人と従業員に分けて整理します
  • ✓強制適用事業所の5人基準と除外業種

個人事業主は社会保険に加入できるのか。この質問には、まず言葉を2つに分けないと答えられません。「事業主本人が入れるか」と「雇っている従業員を入れられるか」は、まったく違う話だからです。

結論を先に書きます。事業主本人は、個人事業のままでは健康保険と厚生年金保険の被保険者になれません。従業員のほうは、条件を満たせば加入させる義務が生じますし、条件を満たさなくても手続きをすれば加入させられます。つまり「事業所としては社会保険に入れるが、事業主本人だけは入れない」という、少し変わった構造になっています。

この記事では、なぜそうなるのかという仕組みから始めて、従業員の加入義務が発生する基準、任意で加入する手続き、事業主本人が厚生年金に入る唯一の方法、そして本人が使える他の選択肢までを順に整理します。制度の根拠は公的機関の記載に当たって書きます。

まず押さえる。社会保険という言葉が指す範囲

言葉の整理から始めます。社会保険という言葉は、文脈によって指す範囲が変わります。

広い意味では、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険の5つをまとめて社会保険と呼びます。狭い意味では、健康保険と厚生年金保険の2つだけを指します。会社の担当者が「社会保険に入る」と言うときは、たいてい狭い意味です。この記事でも、断りがない限り健康保険と厚生年金保険の2つを指すものとして書きます。

個人事業主が現在入っているのは、国民健康保険と国民年金です。これらも公的な制度ですが、健康保険や厚生年金保険とは別の制度です。違いは3つあります。

1つ目は、保険料の負担です。健康保険と厚生年金保険の保険料は、会社と本人が半分ずつ負担します。国民健康保険と国民年金は全額が本人負担です。2つ目は、給付の厚さです。厚生年金は国民年金に上乗せされる形なので、受け取る年金額が大きくなります。健康保険には傷病手当金と出産手当金があり、病気やけがで働けない期間の収入を補います。市区町村が運営する国民健康保険には、この傷病手当金が原則ありません。3つ目は、扶養の扱いです。健康保険では、収入が一定以下の配偶者や子を扶養に入れると保険料が増えません。国民健康保険には扶養という考え方がなく、世帯の人数で保険料が上がります。

この3つの差が、個人事業主が「社会保険に入れないか」と考える動機になっています。制度として不利なのは事実です。だからこそ、どこまでが可能でどこからが不可能なのかを正確に知っておく価値があります。

事業主本人が加入できない理由は、被保険者の定義にある

なぜ事業主本人は入れないのか。制度の作りを見ると理由が分かります。

健康保険と厚生年金保険は、事業所という単位で適用されます。そして加入するのは、その事業所に「使用される」人です。公的な説明はこうなっています。

厚生年金保険に加入している会社、工場、商店、船舶などの適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方は、国籍や性別、年金の受給の有無にかかわらず、厚生年金保険の被保険者となります。 出典: nenkin.go.jp

要点は「使用される」という部分です。個人事業主は、誰かに使用されている立場ではありません。自分で事業を営み、自分に給与を払っているわけでもない。事業の利益がそのまま自分の所得になる構造なので、使用する側と使用される側の関係が成立しません。だから被保険者の定義から外れます。

これは制度の不備ではなく、設計上の線引きです。健康保険と厚生年金保険は、雇われて働く人の生活を守る仕組みとして作られています。保険料を会社と折半する仕組みも、使用者がいることを前提にしています。事業主本人は、その前提の外側にいます。

同じ理由で、事業主の配偶者や家族が事業を手伝っている場合も扱いが分かれます。専従者として給与を受け取り、労務の対価として支払われる使用関係が認められる形になっていれば、従業員として加入できる余地があります。一方で、事業の共同経営者に近い立場であれば、加入は難しくなります。判断は個別の実態によるので、事前に年金事務所へ確認するのが確実です。

そして、この線引きにはもう一つの側面があります。事業主本人が入れないかわりに、従業員を入れる責任は事業主が負うという点です。次に、その基準を見ます。

従業員を雇うと、加入義務が発生する基準がある

人を雇っている個人事業主には、社会保険の手続きが義務になる場合があります。基準は人数と業種の2つです。

厚生年金保険の適用事業所となるのは、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)です。また、従業員が常時5人以上いる個人の事業所についても、農林漁業、サービス業などの場合を除いて厚生年金保険の適用事業所となります。被保険者となるべき従業員を使用している場合は、必ず加入手続きをしなければいけません。 出典: nenkin.go.jp

読むべき点が3つあります。

1つ目は「常時5人以上」の数え方です。ここで数えるのは事業主本人ではなく、使用される従業員です。事業主が1人で働いている個人事業は、当然この基準に届きません。また「常時」なので、繁忙期だけ5人になる状態は含まれません。逆に、短時間勤務の人でも常用的な使用関係があれば数に入ります。判断に迷う規模なら、年金事務所に実態を伝えて確認してください。

2つ目は、除外される業種があることです。農林漁業、サービス業の一部(飲食店、クリーニング業、ビル清掃業など)、法務や宗教の一部の業種は、5人以上いても強制的な適用の対象になりません。これは制度の古い区分が残っているためで、同じ規模でも業種によって扱いが変わります。自分の事業がどの区分に当たるかは、日本年金機構が示す業種の一覧で確認する必要があります。

3つ目は、士業の扱いが変わったことです。令和4年10月から、法律や会計に関する業務を行う士業の個人事業所のうち、常時5人以上の従業員を雇用している事業所は強制適用の対象に加わりました。弁護士、税理士、社会保険労務士などが該当します。以前は除外されていた区分なので、古い情報を見て判断すると間違えます。

加入義務があるのに手続きをしていない状態は、後から指摘されます。その場合、過去にさかのぼって保険料を納めることになり、負担が一度に発生します。従業員が5人に近づいてきたら、先に確認しておいてください。労務まわりの手続きを外に出す選択肢もあり、どんな業務が在宅で請け負われているかは採用・労務・人事代行のお仕事を見ると、切り出し方の輪郭が分かります。

5人未満でも加入できる。任意適用事業所という仕組み

従業員が5人未満でも、除外業種であっても、手続きを踏めば社会保険の適用事業所になれます。これを任意適用事業所と呼びます。

上記(1)の適用事業所以外の事業所であっても、従業員の半数以上が厚生年金保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けることにより適用事業所となることができます。 出典: nenkin.go.jp

手順は3段階です。まず、従業員の半数以上から同意を得ます。次に、事業主が申請書と同意書を年金事務所へ提出します。そして認可を受けると、適用事業所になります。

注意点を4つ書きます。

1つ目は、ここでも事業主本人は被保険者にならないことです。任意適用の手続きをしても、加入するのは従業員だけです。事業主本人の保険は国民健康保険と国民年金のままです。この誤解が最も多いので、繰り返しておきます。

2つ目は、同意した人だけが入る仕組みではないことです。半数以上の同意で事業所全体が適用事業所になり、要件を満たす従業員は同意していなくても被保険者になります。つまり反対した人も加入します。事前の説明を丁寧にしないと、手取りが減ることへの不満が出ます。

3つ目は、事業主の保険料負担が増えることです。従業員の保険料の半分を事業主が負担します。人件費が1割前後増える計算になるので、資金繰りに影響します。

4つ目は、簡単には抜けられないことです。一度適用事業所になると、脱退にも従業員の4分の3以上の同意と認可が必要になります。人を採用するための条件として整備する価値は十分ありますが、試しに入ってみるという性質のものではありません。

採用の観点では、効果があります。社会保険が付かない募集と付く募集では、応募者の数が変わります。特に主たる生計を担う人を採用したい場合、社会保険の有無は決定的な条件になります。人件費の増加と採用のしやすさを並べて判断してください。

パートやアルバイトを、どこから加入させるのか

適用事業所になったあと、次に迷うのが短時間で働く人の扱いです。全員を加入させるわけではなく、線引きがあります。

基本の線は4分の3です。1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数の両方が、同じ事業所で同じ業務に就いている通常の労働者の4分の3以上であれば、被保険者になります。週40時間が通常なら、週30時間以上が目安です。この基準は平成28年10月から明確化され、それ以前の運用より判断しやすくなりました。

ここで注意したいのは、契約書の記載ではなく実態で判断されるという点です。契約上は週20時間でも、実際には毎月30時間を超えて働いている状態が続いていれば、加入の対象と判断されることがあります。逆に、契約は週30時間でも実働がそれを下回る月が続いているなら、実態を確認されます。勤怠の記録を残しておくことが、この判断の根拠になります。

4分の3に届かない人については、一定の規模の事業所で追加の基準が設けられています。週の所定労働時間が20時間以上、賃金が月額で一定額以上、学生でないこと、といった条件をすべて満たす人が対象です。この適用拡大は、厚生年金保険の被保険者数が一定数を超える事業所から順に広げられてきました。個人事業所でこの規模に達することは多くありませんが、事業が伸びれば関係してきます。制度の対象は段階的に広がっているので、最新の基準は年金事務所で確認してください。

そして、加入させると手取りが減るという説明が必要になります。従業員から見れば、給与から保険料が引かれて振り込まれる額が下がります。その代わりに将来の年金が増え、傷病手当金の対象になり、扶養している家族の保険料が不要になる。この説明をせずに手続きだけ進めると、不満が残ります。数字で示すのが一番早く、標準報酬月額の表を見せながら「引かれる額はこれ、増える年金はこれ」と並べてください。

手続きの実際。何をいつまでに出すか

加入すると決めたら、次は事務です。ここを知らないと、期限を過ぎてから慌てることになります。

最初に出すのが新規適用届です。事業所が適用事業所になったことを届け出る書類で、事実が発生した日から5日以内に年金事務所へ提出します。個人事業所の場合は、事業主の世帯全員の住民票が添付書類として求められます。任意適用の場合は、これに加えて任意適用申請書と、従業員の半数以上の同意書が必要になります。

同時に出すのが被保険者資格取得届です。加入する従業員1人につき1枚で、報酬月額を記載します。扶養する家族がいる従業員については、被扶養者異動届も合わせて出します。配偶者が国民年金の第3号被保険者になる手続きも、この届出で一緒に処理されます。

保険料は、標準報酬月額という区切りの表に当てはめて決まります。基本給だけでなく、通勤手当、住宅手当、役職手当、残業代といった、労務の対価として支払われるものを合計した額で判定します。年に1回、4月から6月の報酬をもとに見直す算定基礎届という手続きがあり、大きく報酬が変わったときは月額変更届を出します。この2つが、労務の年間業務のなかで最も件数の多い定期作業です。

納付は、毎月の給与から従業員負担分を控除し、事業主負担分と合わせて翌月末までに納めます。口座振替にしておくのが確実です。納付が遅れると延滞金がつきます。

正直なところ、この一連の事務を本業の合間に自分でやると、月に数時間は取られます。従業員が数人のうちは自分で回せますが、5人を超えたあたりから、外に出すか専門家に任せるかを考えたほうがよい規模になります。会計や労務の事務がどの程度の相場で受託されているかは会計事務従事者の年収・単価相場で水準を確認できますし、帳簿や税務まわりの業務をどう切り出せるかは経理・財務・帳簿・税務のお仕事に整理があります。自分の時間単価と外注費を並べて、どちらが安いかで決めてください。

事業主本人が厚生年金に入る唯一の道は法人化

ここまで読んで「では本人はどうやっても入れないのか」と思った人へ、道は1つあります。法人化です。

先ほどの引用にあった「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」という部分が答えです。法人は、従業員が1人もいなくても適用事業所になります。そして法人の代表者は、法人から役員報酬を受け取る立場になるため、法人に使用される者として被保険者になれます。個人事業主のときは成立しなかった使用関係が、法人という別人格を挟むことで成立します。

得られるものを並べます。厚生年金に入るので、将来受け取る年金が国民年金だけの場合より増えます。健康保険に入るので、傷病手当金と出産手当金の対象になります。扶養の仕組みが使えるので、配偶者や子を扶養に入れても保険料は増えません。配偶者を扶養に入れると、その配偶者は国民年金の第3号被保険者となり、自分で保険料を払わずに年金の加入期間が積み上がります。この効果は大きい。

支払うものも並べます。保険料は会社負担と本人負担の合計で、役員報酬の3割近くになります。折半といっても、一人法人では会社の原資も自分が稼いだものなので、実質的には全額を自分で払っている形です。さらに、法人の設立費用、毎年の法人住民税の均等割、決算と申告の手間、税理士へ支払う費用がかかります。

判断の目安を書きます。所得がおおむね800万円から900万円を超えてくると、税負担の面で法人化が有利になる局面が出てきます。ただしこれは事業の内容、経費の構造、家族への給与の払い方で大きく変わるため、目安の数字を鵜呑みにしないでください。社会保険だけを目的に法人化すると、保険料の負担で手取りが減ることがあります。税金と社会保険料を合わせた総額で比べるのが正しい見方です。

判断の材料を自分で作れるようにしておくと、専門家への相談も早く終わります。お金の制度を体系で学ぶならFP技能士3級の学習範囲が、社会保険と年金と税の全体像をつかむのに向いています。さらに労務の側から深く知りたいなら社会保険労務士の試験範囲が該当します。経理の実務を自分で回すつもりなら、日商簿記3級まで押さえておくと決算の会話が通じるようになります。

法人化しない場合に、本人が使える選択肢

法人化はしない。それでも本人の保障を厚くしたい。この場合に使える手を、効果が大きい順に並べます。

1つ目は、国民健康保険組合です。これは市区町村の国民健康保険とは別の制度で、同じ業種の人たちが集まって運営しています。建設、医師、歯科医師、薬剤師、食品、文筆や美術の分野など、業種ごとに組合があります。保険料が所得に比例せず定額である組合が多く、所得が高い人ほど市区町村の国民健康保険より安くなります。組合によっては傷病手当金に相当する給付を持っているところもあります。加入には、その業種に従事していることと、組合が定める地域に事業所があることが条件になります。自分の業種に対応する組合があるかどうかは、一度調べる価値があります。

2つ目は、退職直後であれば健康保険の任意継続です。会社を辞めて独立する場合、それまで入っていた健康保険を最長2年間そのまま続けられます。保険料は会社負担分がなくなるので全額自己負担になりますが、上限が設けられているため、前年の収入が高かった人は市区町村の国民健康保険より安くなることがあります。手続きの期限は退職日の翌日から20日以内と短い。ここを逃すと選べなくなるので、独立の予定が決まったら先に試算してください。

3つ目は、国民年金の上乗せ制度です。付加年金は月額400円を上乗せして払うと、受け取る年金が「200円×納付月数」で増えます。2年で元が取れる設計で、費用対効果は極めて高い。国民年金基金は付加年金と併用できませんが、掛金の全額が社会保険料控除の対象になります。iDeCoも掛金が全額所得控除になり、国民年金基金と合わせて月68,000円までという枠の中で選べます。

4つ目は、小規模企業共済です。年金ではなく退職金の積立ですが、掛金が全額所得控除になるため、実質的な利回りが高くなります。月1,000円から70,000円の範囲で自分で決められ、増減も可能です。

5つ目は、労災保険の特別加入です。個人事業主は原則として労災の対象外ですが、一人親方や特定の業種、さらに業務委託で働く人へ対象が広げられてきました。保険料が安いわりに、業務中のけがという頻度の高いリスクに対応できます。自分の業種が対象かどうかは厚生労働省の案内で確認できます。

この5つは、どれも社会保険そのものではありません。ですが、厚生年金と健康保険が持っている機能を部分的に代替します。保険料の控除で税負担が減る分も含めて、年単位で効果を計算してみてください。保険料や掛金が確定申告のどの欄に入るかは個人事業主の保険料は経費にできる?仕訳と確定申告の方法に整理があります。

配偶者の扶養に入るという選択と、その境目

もう1つ、実務でよく相談される論点を書きます。配偶者が会社員である場合、その健康保険の扶養に入れるかどうかです。

結論から書くと、入れる場合があります。ただし判断の基準が会社員の場合と違うので注意が必要です。健康保険の扶養は、年間収入が130万円未満であることが基準になります。会社員のアルバイトなら、この130万円は給与の額面です。個人事業主の場合は、収入から必要経費を引いた金額で判断されますが、ここで引ける経費の範囲が健康保険組合によって違います。

税金の計算で認められている経費がすべて認められるとは限りません。売上原価は引けるが、家賃や通信費の按分は引けないという運用をしている組合もあります。「確定申告書の所得金額が130万円未満だから扶養に入れる」と考えて手続きに行き、断られる例があります。事前に、配偶者の勤務先を通じて健康保険組合に判断基準を確認してください。

扶養に入れた場合の効果は大きい。健康保険料の負担がゼロになり、国民年金も第3号被保険者として保険料を払わずに加入期間が積み上がります。年間で見れば数十万円の差になります。

一方で、扶養に入り続けるために事業を小さく抑える判断は、慎重にしてください。130万円の壁を意識して売上を調整すると、事業として成長する機会を自分で閉じることになります。扶養を外れた直後は手取りが減りますが、売上を180万円、200万円と伸ばせば追い越します。扶養に入るのは、立ち上げの1年から2年の期間限定の措置と考えるほうが、長い目では有利です。

そして、扶養の判定は毎年行われます。事業が軌道に乗った年に基準を超えれば、さかのぼって扶養から外され、その期間の医療費の返還を求められることがあります。売上が伸びてきたら、自分から申し出るのが正しい対応です。

判断の順番と、運営者として見てきたこと

最後に、どの順番で考えればよいかを整理します。

第1に、自分が知りたいのは本人の話か従業員の話かを分けます。従業員の話なら、人数と業種を確認して強制適用に当たるかを判定し、当たらなければ任意適用を検討します。本人の話なら、個人事業のままでは加入できないという前提に立ちます。

第2に、本人の保障を厚くしたいなら、法人化の損益と、法人化しない場合の5つの選択肢を並べます。所得が低いうちは後者が有利で、所得が伸びるほど前者に寄ります。切り替えの目安は事業の形で変わるので、数字を作って税理士に当ててください。

第3に、独立のタイミングを控えている人は、退職前に任意継続の試算をします。20日という期限があるため、後から気づいても選べません。

第4に、年に1度は見直します。所得は年によって動きますし、家族構成も変わります。国民健康保険料は前年の所得で決まるため、売上が伸びた翌年に保険料が跳ね上がって驚く人が毎年います。確定申告を終えた時点で翌年の保険料をおおまかに見積もり、資金を分けて置いておくと慌てません。国民健康保険組合への加入や法人化を検討する時期も、この見直しのなかで判断します。

在宅ワークとフリーランスの市場を20年見てきた立場から、もう1つ書き添えます。保険や年金の制度を調べる人は多いのですが、同じ時間を収入の構造に使うほうが効く場面が多い、というのが実感です。制度の選択で動かせる金額は年に数万円から数十万円ですが、取引の構造を変えると動く金額はそれより大きくなります。

たとえば、仲介の手数料です。同じ仕事を受けていても、仲介が2割かかる経路で年間300万円を受けると60万円が引かれます。手数料0%で直接取引できる経路なら、その60万円が手元に残ります。国民年金基金や小規模企業共済に回せる額が、これだけで変わります。発注する側から見ても、同じ予算でより多く頼めるので双方が得をする構造です。

そして、取引先の数です。1社に依存している人は、その会社の都合で収入が半分になります。3社以上と継続的に取引している人は、1社が離れても立て直せます。保険は収入が途切れたときの穴を埋めますが、穴が開きにくい構造を作るほうが先です。制度の整備と並行して、収入側の設計も見直してください。

個人事業主が社会保険に加入できるかという問いへの答えを、もう一度まとめます。本人は入れません。従業員は、常時5人以上かつ除外業種でなければ入れる義務があり、それ以外でも任意適用の手続きで入れられます。本人が厚生年金に入りたいなら法人化が唯一の道で、それを選ばないなら国民健康保険組合、任意継続、付加年金や国民年金基金、小規模企業共済、労災の特別加入を組み合わせて代替します。この地図さえ持っていれば、あとは自分の数字を当てはめるだけです。

よくある質問

Q. 個人事業主本人は健康保険と厚生年金に加入できますか?

できません。健康保険と厚生年金保険の被保険者になるのは、適用事業所に常用的に使用される人です。個人事業主は誰かに使用される立場ではないため、被保険者の定義から外れます。従業員を雇って事業所が適用事業所になった場合でも、加入するのは従業員だけで、事業主本人は国民健康保険と国民年金のままです。

Q. 従業員を何人雇うと社会保険の加入義務が生じますか?

従業員が常時5人以上いる個人の事業所は、農林漁業やサービス業などの除外業種を除いて強制適用事業所になります。数えるのは事業主本人ではなく従業員です。また令和4年10月から、法律や会計に関する業務を行う士業の個人事業所も、常時5人以上を雇用していれば強制適用の対象に加わりました。

Q. 従業員が5人未満でも社会保険に加入させられますか?

できます。任意適用事業所という仕組みがあり、従業員の半数以上の同意を得て事業主が申請し、厚生労働大臣の認可を受ければ適用事業所になります。ただし事業主本人は加入できず、反対した従業員も要件を満たせば被保険者になります。脱退には4分の3以上の同意が必要なので、人件費の増加を計算してから判断してください。

Q. 法人化すれば社会保険に入れますか?

入れます。法人は従業員が1人もいなくても適用事業所になり、代表者は法人から役員報酬を受け取る立場として被保険者になります。厚生年金、傷病手当金、扶養の仕組みが使えるようになる一方で、保険料は報酬の3割近くになり、設立費用や法人住民税の均等割も発生します。税金と社会保険料の合計で比べて判断してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年8月31日最終更新:2026年10月1日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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