法人成り1年目の役員報酬の決め方|途中で変えられない前提で決める

朝比奈 蒼
朝比奈 蒼
法人成り1年目の役員報酬の決め方|途中で変えられない前提で決める

この記事のポイント

  • ✓法人化役員報酬決め方で迷う人へ
  • ✓設立1年目は金額を決められる期限が2つあり
  • ✓一度決めたら原則1年間変えられない

法人化役員報酬決め方と検索する人が本当に知りたいのは、いくらにすれば得かという話ではない。一度決めたら1年間変えられないと聞いて、その一度の判断を外したくないと思っているのだ。結論から書くと、設立1年目の役員報酬は「期限までに決める」「決めた額を毎月同じだけ払い続ける」の2つを守ることが最優先で、金額の最適化はそのあとに来る。順番を逆にすると、せっかく計算した節税額より大きな損が出る。この記事では、期限、負担の中身、金額を決める手順、そして途中で下げたくなったときに使える道を、国税庁と日本年金機構が公開している資料に沿って順に並べていく。

役員報酬は「1年に1度しか決められない」という前提を先に飲み込む

まず言葉を揃える。役員報酬とは、社長や取締役といった役員が会社から受け取る給与のことだ。従業員の給料と呼び方は似ているが、税法上の扱いはまったく違う。従業員の給料は払った分がそのまま会社の経費になるが、役員報酬は決まった形で払ったものだけが経費として認められる。

会社が払った費用を経費として認めることを、税法では損金に算入すると言う。役員報酬のうち損金に算入できるのは、次の3つのどれかに当てはまるものだけだ。

法人が役員に対して支給する給与の額のうち次に掲げる定期同額給与、事前確定届出給与または一定の業績連動給与のいずれにも該当しないものの額は損金の額に算入されません。 出典: nta.go.jp

3つのうち業績連動給与は、有価証券報告書に指標を開示している会社などが対象で、設立したばかりの1人社長の会社には縁がない。実際に使えるのは、毎月同じ額を払う定期同額給与と、賞与にあたる事前確定届出給与の2つだけだ。

そして定期同額給与の条件は、名前のとおり「毎月同じ額」であることだ。事業年度の途中で金額を動かすと、その年度の役員報酬は定期同額給与から外れてしまう。だから実務では、1年に1度、決まった時期に金額を見直して、そのあとは1年間動かさない運用になる。

個人事業主から法人化した人がここでつまずきやすい。個人事業では、売上が伸びた月は多く手元に残し、落ちた月は我慢するという調整が自然にできた。法人ではそれができない。会社の口座と社長個人の口座が別になり、その間を流れる金額は年に1度しか決められない。この切り替えが、法人成り1年目にいちばん戸惑う部分だ。

設立1年目に金額を決める期限は2つある

期限を外すと、金額をいくらに設定しても意味がなくなる。まず期限を頭に入れる。

毎月の報酬を決める期限は、会計期間開始から3か月以内

定期同額給与の金額を決める、あるいは改定できるのは、その事業年度が始まった日の属する会計期間の開始日から3か月を経過する日までだ。国税庁はこの日を3月経過日等と呼んでいる。

設立1年目の会社は、設立登記をした日が最初の事業年度の開始日になる。つまり設立登記の日から3か月のうちに、株主総会で役員報酬の額を決議し、議事録に残す必要がある。4月1日に設立した会社なら、6月30日が締め切りになる。

この3か月を過ぎてから決めた場合、あるいは過ぎてから金額を変えた場合、その報酬は定期同額給与にならない。会社側で経費にできないのに、受け取る社長個人には所得税と住民税がかかる。会社は損金にできず、個人は課税される。この片側だけ損をする形になるのが、期限を外したときの罰だ。

賞与を出すなら、届出の期限は設立から2か月以内

役員に賞与を出したい場合は、事前に税務署へ届け出る必要がある。これが事前確定届出給与だ。いつ、いくら払うかを決めて届け出て、届け出たとおりに払えば損金になる。

新しく作った会社が、設立時に始まる役員の職務について事前確定届出給与を決めた場合、届出の期限は設立の日以後2か月を経過する日だ。毎月の報酬を決める3か月より1か月短い。設立直後で手が回らないうちに過ぎてしまう期限なので、賞与を使う予定があるなら最初に日付を書き出しておく。

そして事前確定届出給与でいちばん怖いのは、届け出た額と実際に払った額が違うと、その賞与が全額損金にならないことだ。業績が思ったより悪かったから減らす、という調整はできない。

ただし、届け出た金額と実際の支払い金額が1円でも違うと、全額が経費として認められなくなります。「業績が悪かったので届けた100万円を80万円にした」という場合、この80万円は全額、経費になりません。 出典: ideasoken.or.jp

1年目は売上の見通しが立ちにくい。無理に賞与を組み込むより、毎月の定期同額給与だけで始めて、2年目以降に売上の形が見えてから賞与を検討するほうが事故が少ない。

金額を決める前に、3つの負担の形を押さえる

いくらにするかを考えるときに動く数字は3つある。会社にかかる法人税、社長個人にかかる所得税と住民税、そして労使の両方にかかる社会保険料だ。この3つは同じ方向に動かない。だから「報酬を上げれば得」「下げれば得」のどちらも成り立たない。

会社側は、役員報酬を払うと利益が減って法人税が減る

役員報酬は損金になるので、払った分だけ会社の利益が減り、法人税も減る。中小企業の法人税率は所得の大きさで2段階に分かれている。

法人税の税率は、次表の法人の区分に応じ、それぞれ次表のとおりとされています。 出典: nta.go.jp

資本金1億円以下の普通法人なら、所得のうち年800万円以下の部分が15%、それを超える部分が23.2%だ。設立1年目で所得が800万円を超える会社はそう多くないので、多くの人は15%の世界で考えることになる。

ここで注意したいのは、法人税以外にも法人住民税と法人事業税がかかることだ。赤字でも法人住民税の均等割はかかるので、報酬を上げて会社を赤字にすれば負担がゼロになる、という話にはならない。

個人側は、給与所得控除がある分だけ有利になる

役員報酬は給与所得として扱われる。給与所得には給与所得控除があり、受け取った額から一定額を引いた残りに所得税がかかる。個人事業主のときには使えなかった控除なので、法人化して報酬を受け取る形に変えると、同じ手元の金額でも課税される所得が小さくなる。

令和8年分と令和9年分の給与所得控除額は、収入金額に応じて次のようになっている。

役員報酬の年額 給与所得控除額
220万円まで 74万円
220万円超 360万円まで 収入金額×30%+8万円
360万円超 660万円まで 収入金額×20%+44万円
660万円超 850万円まで 収入金額×10%+110万円
850万円超 195万円(上限)

年額240万円(月20万円)なら控除額は80万円、年額360万円(月30万円)なら116万円になる。この控除は領収書もいらず、何もしなくても引ける。法人化の効果として確実に効く部分がここだ。

ただし850万円を超えると控除額が195万円で止まる。報酬を上げ続けても控除は増えないのに、所得税の税率は段階的に上がる。ここから先は個人側の負担が重くなる領域に入る。

社会保険料は労使で2倍かかる

3つの負担のうち、法人化して初めて出てくるのが社会保険料だ。そして金額の判断でいちばん効くのもここだ。

役員報酬を決めると、その額に応じた標準報酬月額が決まり、健康保険料と厚生年金保険料がかかる。厚生年金保険の料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担する。健康保険の料率は都道府県ごとに違い、東京支部の令和8年3月分からの料率は介護保険に該当しない場合で9.85%、40歳から64歳までの介護保険第2号被保険者に該当する場合は11.47%だ。これに子ども・子育て支援金率0.23%が加わり、さらに全額が会社負担になる子ども・子育て拠出金率0.36%がかかる。

1人社長の会社では、会社負担分も本人負担分も、結局は同じ財布から出ていく。だから実感としては料率を足した分がまるごと負担になる。厚生年金18.3%と健康保険9.85%と支援金0.23%と拠出金0.36%を足すと、報酬額の28.74%前後が社会保険料として出ていく計算になる。

標準報酬月額には上限と下限がある。厚生年金保険の標準報酬月額は最も高い32等級で65万円に止まり、報酬をそれ以上に上げても厚生年金保険料は増えない。一方、健康保険の等級は厚生年金より上まで続くので、報酬を上げ続けると健康保険料だけが増えていく構造になる。

月20万円と月30万円で、実際の数字を並べてみる

料率の話だけでは判断できないので、金額を入れて見てみる。東京支部で40歳未満、標準報酬月額が報酬額と同じになる前提で並べる。

項目 月額20万円の場合 月額30万円の場合
健康保険料(全額) 19,700円 29,550円
健康保険料(本人負担) 9,850円 14,775円
子ども・子育て支援金(本人負担) 230円 345円
厚生年金保険料(全額) 36,600円 54,900円
厚生年金保険料(本人負担) 18,300円 27,450円
子ども・子育て拠出金(会社が全額負担) 720円 1,080円
会社負担の合計 29,100円 43,650円
本人負担の合計 28,380円 42,570円
労使合計(1か月) 57,480円 86,220円
労使合計(年額) 689,760円 1,034,640円

月10万円報酬を増やすと、社会保険料の年間負担は34万円ほど増える。増やした報酬の年額120万円に対して、およそ29%だ。一方で、会社側は120万円が損金になるので法人税が15%の範囲なら18万円減る。差し引きすると、社会保険料の増加が法人税の減少を上回る。

これが「報酬を上げれば節税になる」という説明が成り立たない理由だ。所得税の税率が低い範囲では、報酬を上げることで減る法人税より、増える社会保険料のほうが大きくなる。

ただし社会保険料は捨てているお金ではない。厚生年金の保険料は将来の年金額に反映されるし、健康保険には傷病手当金のような給付がある。国民健康保険と国民年金だけだった個人事業主のときと比べると、保障は明確に厚くなる。数字の上で不利に見える部分を、保障として受け取るかどうかの判断が入る。

1年目の金額を決める4つの手順

期限と負担の形が分かったら、実際の決め方に入る。順番はこうだ。

手順1 1年間の売上と経費の見込みを、粗くていいので出す

役員報酬を決めるには、会社にいくら入ってくるかの見込みが必要になる。設立1年目は実績がないので、直前まで個人事業でやっていた売上をそのまま持ってくるのがいちばん現実的だ。契約が続いている案件、継続の見込みが立っている取引を足し上げて、年間の売上見込みを作る。

経費は、家賃、通信費、外注費、ソフトウェアの利用料といった固定で出るものを先に並べ、そこに変動する分を足す。ここで注意したいのは、社会保険料の会社負担分も経費として計上されることだ。役員報酬を決めると経費が増えるので、見込みを立てるときは報酬と社会保険料をセットで動かす必要がある。

手順2 会社に残す金額を先に決める

売上から経費を引いた残りを、会社と個人でどう分けるかを考える。ここでよくある失敗は、個人の生活費から逆算して報酬を決めてしまい、会社に現金が残らない形にすることだ。

会社に現金を残す理由は3つある。1つは、売上が入るタイミングと支払いのタイミングがずれるので、手元に現金がないと回らないこと。2つめは、設備投資や採用が必要になったときに、借入に頼らず動けること。3つめは、融資を受けるときに決算書の利益が見られることだ。赤字の決算書で融資を申し込むと、説明する手間が増える。

1年目は、少なくとも固定費の3か月分が会社の口座に残る形を目標にすると、運転資金で困りにくくなる。

手順3 個人の生活に必要な金額を出す

次に、社長個人の手取りとしていくら必要かを出す。生活費、住宅費、教育費、個人で入っている保険料を足し、そこから手取りの必要額を決める。役員報酬からは社会保険料と所得税と住民税が引かれるので、手取りは額面の75%から80%程度になることが多い。必要な手取りを0.78あたりで割り戻すと、必要な額面の目安が出る。

ここで削りすぎないことが大事だ。報酬を低くしすぎると、会社に現金は残るが個人の生活が苦しくなる。そして役員報酬が低いと、社長個人としての住宅ローンやクレジットカードの審査で不利になる。会社にお金があっても、個人の与信は個人の収入で判断される。

手順4 会社側と個人側の負担を並べて、上げ下げしてみる

手順2と手順3で出した金額がぶつかることは多い。会社に残したい額と個人が必要な額を足すと、見込んだ利益を超えてしまう。そこから調整に入る。

調整するときは、報酬を月5万円刻みで動かして、会社側の法人税と個人側の所得税と社会保険料を並べた表を作るのが早い。3つの合計がいちばん小さくなる点を探すのではなく、「会社に必要な現金が残り、個人の生活が回る範囲で、負担の合計がなるべく小さい点」を選ぶ。最適化ではなく、成立する範囲のなかから選ぶという考え方だ。

決まったら株主総会の議事録に金額と支給日を書いて残す。1人社長の会社でも議事録は必要だ。税務調査で最初に確認されるのがこの書類になる。

役員報酬をゼロにする選択は、成り立つのか

設立1年目に売上の見通しが立たないので、役員報酬をゼロにしておきたいという相談は多い。結論を書くと、ゼロにすることはできる。ただし、その先に起きることを知ってから決めたほうがいい。

まず、社会保険の扱いが変わる。役員報酬が支払われていなければ、報酬を受ける使用関係がないので健康保険と厚生年金保険の被保険者にならない。社長個人は国民健康保険と国民年金に入り続けることになる。会社負担の保険料はかからないので、会社から出ていくお金は減る。

次に、個人の生活費をどうするかの問題が出る。報酬がゼロなら、生活費は個人の貯蓄から出すことになる。ここで会社のお金を使ってしまうと、会社が社長に貸し付けたか、給与を払ったかのどちらかとして処理することになる。給与とみなされれば、定期同額給与でも事前確定届出給与でもないので会社の経費にならず、個人には課税される。会社は損金にできず、個人は課税されるという最も不利な形だ。

そして、個人としての与信が落ちる。住宅ローンやクレジットカードの審査は、個人の収入で判断される。役員報酬がゼロなら、収入がゼロの人として扱われる。会社に利益が出ていても、個人の審査には反映されにくい。

ゼロが成り立つのは、他に収入があるか、生活費を賄える貯蓄があり、かつ数年のうちに住宅ローンなどを組む予定がない場合だ。条件が揃っていないなら、低い額でも設定しておくほうが選択肢が残る。標準報酬月額の下限があるので、報酬を極端に低くしても社会保険料は一定額かかるが、加入していること自体が持つ意味は大きい。

途中で下げたくなったときに使える道と、使えない道

1年目でいちばん起きやすいのが、決めた報酬を払い続けられなくなる事態だ。売上の見込みが外れて、会社の口座から毎月の報酬が出せなくなる。

まず、使えない道をはっきりさせる。国税庁は、報酬を減額してよい理由として業績悪化改定事由を挙げているが、その範囲を限定している。

法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません。 出典: nta.go.jp

一時的に資金繰りが厳しい、思ったより売れなかった、という理由では減額できない。減額が認められるのは、経営状況が著しく悪化して、取引先や銀行、株主といった第三者との関係で報酬を下げざるを得ない場面だ。役員の地位や職務内容が大きく変わったときの臨時改定事由も別枠であるが、これも1人社長の会社では当てはまる場面が限られる。

では実際に払えなくなったらどうするか。取れる形は3つある。

1つは、報酬の額は変えず、支給を未払いのまま計上しておく方法だ。役員報酬を払う義務は残り、会社の帳簿には未払金として残る。定期同額給与の条件は「支給額が同額であること」なので、支給日に払えなくても金額が確定していれば形は保てる。ただし未払いのまま放置すると、源泉徴収の扱いや社会保険の手続きで複雑になるので、会計処理を任せている相手に必ず相談する。

2つめは、社長が個人のお金を会社に貸し付ける方法だ。役員借入金として処理し、会社が資金に余裕が出たときに返してもらう。報酬として受け取った金額を会社に戻す形になるので、税金と社会保険料の負担は変わらないが、会社の資金繰りは回る。

3つめは、事業年度を短くして、新しい事業年度の開始から3か月以内に改定する方法だ。定款を変更して決算月を前倒しすれば、次の事業年度が早く始まるので、そこで報酬を決め直せる。登記は不要だが、決算と申告の手間が1回増える。

どれを選ぶかは会社の状況で変わる。金額や事情によって結論が変わるので、実際に動く前に税務署か税理士に確認するのが安全だ。

1年目にやりがちな5つの失敗

実務でよく見る失敗を並べる。どれも、期限か形式のどちらかを外したものだ。

失敗1は、議事録を作らないことだ。金額は決めて払っているのに、決めた証拠が残っていない。税務調査でまず聞かれるのがここなので、支給を始める前に作る。

失敗2は、毎月の振込額がずれることだ。振込手数料を差し引いて送ってしまう、月末が休日で日付が動いたついでに端数を丸めてしまう。金額が同額でなくなると定期同額給与から外れる。振込は自動化して、金額を触らない仕組みにする。

失敗3は、報酬をゼロにしたまま社長が会社のお金を使うことだ。報酬を設定していないのに生活費を会社から出していると、その支出は役員への給与とみなされる可能性がある。しかも定期同額給与でも事前確定届出給与でもないので、会社の経費にならないまま個人に課税される。報酬をゼロにするなら、生活費は完全に個人の貯蓄から出す。

失敗4は、社会保険の手続きを忘れることだ。役員報酬を払うなら、社長1人の会社でも健康保険と厚生年金保険への加入が必要になる。年金事務所への届出は設立後の早い段階で行う。

失敗5は、源泉徴収を忘れることだ。役員報酬からは所得税を差し引いて、会社が税務署に納める。原則は支払った月の翌月10日までだが、給与の支給人員が常時10人未満なら年2回にまとめられる特例がある。

ただし、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、源泉徴収した所得税および復興特別所得税を、半年分まとめて納めることができる特例があります。 出典: nta.go.jp

この特例を使うと、1月から6月までの分が7月10日、7月から12月までの分が翌年1月20日の納付期限になる。1人社長の会社なら申請しておいたほうが、毎月の作業が減る。

報酬を決めたあとに動く手続きと、毎月やることになる作業

金額が決まったら、書類の提出が続く。設立1年目に期限があるものを日付順に並べる。

設立登記の日から2か月以内に、法人設立届出書を納税地の税務署へ出す。添付するのは定款の写しだ。設立時に開始する役員の職務について賞与を決めるなら、事前確定届出給与に関する届出も設立の日以後2か月を経過する日までに出す。

給与支払事務所等の開設届出書は、開設の事実があった日から1か月以内が期限だ。役員報酬を払う会社は、社長1人でも給与の支払者になるのでこの届出が必要になる。源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書は提出時期が決まっていないが、提出した日の翌月に支払う給与から適用されるので、早く出すほど効く。

社会保険は、健康保険と厚生年金保険の新規適用届と、被保険者資格取得届を年金事務所に出す。役員報酬の額をもとに標準報酬月額が決まり、翌月から保険料の納付が始まる。

毎月やることになる作業は3つだ。決めた日に決めた額を振り込むこと、差し引いた所得税を納めること、社会保険料を納めることだ。納期の特例を使えば所得税は年2回になるが、社会保険料は毎月出ていく。口座に残す金額を決めるときは、報酬の額面ではなく、報酬と社会保険料の会社負担分と源泉税を足した額で考える。月30万円の報酬なら、実際に会社から出ていくのは報酬30万円と会社負担の社会保険料43,650円を足した金額になる。

20年この市場を見てきた運営者の観察

在宅ワークと業務委託の市場を長く運営してきた立場から見ると、法人化した人が1年目に役員報酬で苦しむ場面には共通点がある。売上が伸びる前提で報酬を決めていることだ。

個人事業のときは、売上が落ちれば自分の取り分を落とすという調整が無意識にできていた。法人になるとその弁が閉じる。決めた金額は、売上が落ちても毎月同じだけ出ていく。運営者として見てきた限りでは、1年目に報酬を控えめに置いた人のほうが、あとから動きが取りやすい。金額を上げるのは翌年の期限で普通にできるが、下げるほうは理由が限られるからだ。

もう1つ気づくのは、報酬の金額を細かく詰めるより、売上の入り方を安定させるほうが手取りへの影響が大きいということだ。発注者と直接つながる形の仕事は、間に入る業者へのマージンが乗らないぶん、同じ予算でも受け手に残る金額が厚くなる。手数料0%の直接取引が効いてくるのはここで、依頼する側は同じ予算でより多く頼めて、受ける側は同じ仕事で手取りが増える。この構造を先に整えてから報酬を決めた人は、1年目の途中で見込みが崩れにくい。

長く続いている人ほど、単発の案件を追うのではなく、この人に任せると楽だと思われる関係づくりに時間を使っている。継続する取引が2つ3つあれば、年間の売上見込みが立つ。見込みが立てば、役員報酬を決める作業はそれほど難しくない。報酬の金額で悩んでいる状態は、多くの場合、売上の見通しが立っていないことの裏返しだ。

職種のデータから見える、報酬の置き方の違い

役員報酬をどこに置くかは、会社が何を売っているかで変わる。職種ごとの収入データと仕事の中身を並べると、その差が見えてくる。

開発の仕事は、費用の中心が人の時間と機材になる。売上に対して経費の割合が小さいので、利益がそのまま残りやすい。単価の水準はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっているが、経費率が低い業種は会社に利益が出やすいぶん、役員報酬をどこに置くかで税と社会保険の合計が大きく動く。どんな案件があるかはアプリケーション開発のお仕事を見ると具体的につかめる。

書く仕事も似た構造だ。取材の移動費と資料代が中心で、設備投資がほとんどいらない。著述家,記者,編集者の年収・単価相場を見ると単価の幅は広いが、幅が広いということは年間の売上見込みが立ちにくいということでもある。1年目は報酬を控えめに置いて、実績が見えてから翌年の期限で上げるほうが安全な領域だ。

一方、コンサルティングのように人と会うことが仕事の中心にある業種は、移動費と交際費が積み上がる。経費が動くぶん、売上から経費を引いた残りが読みにくい。AIコンサル・業務活用支援のお仕事のように、クライアント先に入って進める案件が多いほど、経費の見込みを先に固めてから報酬を決める必要がある。毎月のツール利用料が前提になる領域もある。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事を見ると、業務に必要なサービスの契約が仕事の入口になっている様子が分かる。

資格を持っていることが受注の条件になる分野では、報酬の水準そのものが上がりやすい。ネットワーク構築を請け負うならCCNA(シスコ技術者認定)、書類の品質が納品物に直結する仕事ならビジネス文書検定のように、単価の下支えになる資格がある。単価が安定すれば売上の見込みが立ち、役員報酬を決める作業も楽になる。

受け取ったあとのお金の置き方も、報酬の金額と関係する。役員報酬を上げて個人で運用に回すか、会社に残して事業に使うかは別の判断だ。個人での積み立てを考えるなら【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオが参考になる。個人事業主だったときの税金の感覚を振り返りたい人は確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツを、職種ごとの収入差そのものを知りたい人はUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】を見ておくといい。

役員報酬の決め方は、期限を守り、形式を守り、そのうえで金額を選ぶという順番で考えれば難しくない。制度の数字は改正で動くので、実際に決める前に国税庁と日本年金機構の該当ページで今の内容を確認してほしい。金額や事情によって結論が変わる部分は残るので、最終的な判断は税務署か税理士に確認するのが確実だ。

よくある質問

Q. 設立1年目の役員報酬は、いつまでに決めればよいですか?

毎月の報酬は、設立登記の日から3か月を経過する日までに株主総会で決めて議事録に残します。賞与にあたる事前確定届出給与を使う場合は、設立の日以後2か月を経過する日までに税務署へ届出が必要です。期限を過ぎて決めると会社の経費にならず、受け取る側には課税されます。

Q. 決めた役員報酬を年度の途中で下げることはできますか?

一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に届かなかったという理由では下げられません。認められるのは経営状況が著しく悪化した場合などに限られます。払えないときは支給を未払いで計上する、社長が会社に貸し付ける、事業年度を短縮して新年度の開始から3か月以内に決め直すといった方法を検討します。

Q. 役員報酬を月30万円にすると社会保険料はいくらかかりますか?

東京支部で40歳未満、標準報酬月額30万円の場合、健康保険料が全額29,550円、厚生年金保険料が全額54,900円、子ども・子育て支援金が690円です。会社が全額負担する子ども・子育て拠出金1,080円を加えると、労使合計で1か月86,220円ほどになります。料率は都道府県や年度で変わります。

Q. 役員報酬を低くして会社に利益を残すほうが得ですか?

一概には言えません。報酬を下げると社会保険料は減りますが、会社の利益が増えて法人税がかかります。報酬を上げると法人税は減りますが社会保険料が増え、増加分のほうが大きくなる場面が多いです。会社に必要な運転資金と個人の生活費が両方回る範囲で決め、最終的な判断は税理士に確認してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年1月28日最終更新:2026年9月19日
朝比奈 蒼

この記事を書いた人

朝比奈 蒼@SOHO編集部

ITメディア編集者

IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。

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