消費税の事業廃止届出書|出さないと申告の義務が残る


この記事のポイント
- ✓消費税廃業届と呼ばれる事業廃止届出書について
- ✓速やかにという期限の意味
- ✓インボイス登録との関係
消費税廃業届という名前で探している人が実際に探しているのは、「事業廃止届出書」という国税庁の書類だ。法人成りや廃業のときに税務署へ出す紙の1枚で、対象になるのは消費税の課税事業者だけ。免税事業者は出す必要がない。ここで押さえておきたいのは、この書類は出し忘れても叱られるわけではないのに、出さないと課税事業者としての扱いや、過去に出した各種の届出の効力が残り続けるという点だ。しかもインボイス制度が始まってから、登録の扱いと絡んで判断が一段ややこしくなった。以下では、誰が出すのか、いつまでに出すのか、出さないと何が残るのか、そしてインボイス登録をしている場合にどうなるのかを、国税庁の手続案内と消費税法の条文で確認できる範囲だけで並べていく。
誰が出す書類なのか
国税庁の手続案内では「D1-14 事業廃止届出手続」として載っている。手続対象者の欄はこうなっている。
[概要] 課税事業者が事業を廃止した場合の手続です。 [手続対象者] 事業を廃止した課税事業者 [提出時期] 事由が生じた場合、速やかに 出典: nta.go.jp
対象は課税事業者だ。課税事業者とは、消費税を納める義務がある事業者のことで、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている場合や、自分から課税事業者になることを選んだ場合、そしてインボイス発行事業者として登録している場合が当たる。基準期間というのは、個人事業者なら前々年のことを指す。
逆に、売上が小さくて免税事業者のまま事業をしていた人は、この書類の対象外になる。廃業しても消費税について税務署に出す紙はない。法人成りする人の多くはここで一度立ち止まることになるので、自分が課税事業者だったかどうかを先に確認しておきたい。直近の年に消費税の確定申告書を出したかどうか、インボイスの登録番号を持っているかどうか、この2つで大半は判別できる。
もう1つ、国税庁の廃業届の案内には、対象をさらに絞る条件が書かれている。消費税の課税事業者、または課税事業者を選択している人のうち、廃止する事業のほかに課税売上に当たる所得がない人が対象、という書き方だ。つまり、個人事業はたたむけれど、課税売上になる不動産の貸付けが個人に残る、というような場合は、事業廃止届出書を出さない。消費税の世界では事業が続いている状態になるからだ。ここは所得税の廃業届と判断の軸が違うので、分けて考える必要がある。
期限は「速やかに」で、日付が決まっていない
ほかの届出書と違って、この書類には何月何日までという期限がない。国税庁の提出時期の欄は「事由が生じた場合、速やかに」とだけ書かれている。根拠は消費税法第57条第1項第3号で、条文の本体にも同じ表現が使われている。
事業者が次の各号に掲げる場合に該当することとなつた場合には、当該各号に定める者は、その旨を記載した届出書を速やかに当該事業者の納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない。 出典: laws.e-gov.go.jp
「速やかに」という書き方には、提出が遅れたことへの罰則が用意されていない。ただし、これを「急がなくてよい」と読むのは正確ではない。日付が決まっていないということは、自分で期日を決めないと永遠に後回しになるということでもある。データとして見ると、期限のある書類より期限のない書類のほうが未提出のまま放置される傾向が強い。廃業届と同じ日に出してしまうのが、結局いちばん確実な運用になる。
ほかの書類と期限を並べると、位置づけがはっきりする。所得税の廃業届は2026年1月から、廃業した年分の確定申告期限まで。青色申告の取りやめ届出書も同じく確定申告期限まで。個人事業税の廃止の申告は廃止の日から1か月以内。給与支払事務所等の廃止届出書も1か月以内。そして消費税の事業廃止届出書だけが「速やかに」になっている。期限の短いものから片付けていって、最後にこれを一緒に出す、という順番が現実的だ。
出さないと何が残るのか
罰則がないのに、なぜ出す必要があるのか。答えは、出さないと「この人は課税事業者のまま」という状態が税務署の側に残り続けるからだ。具体的に何が起きるかを並べる。
1つ目が、消費税の申告書が届き続けることだ。課税事業者として登録されたままだと、翌年以降も申告の案内が送られてくる。届くたびに「もう廃業したのに」と確認する手間がかかり、放置すると無申告の扱いになりうる。
2つ目が、中間申告の通知だ。直前の課税期間の消費税の年税額(地方消費税額を含まない)が48万円を超えている事業者には、中間申告書を提出する義務がある。廃業した年の前年にそれなりの売上があった人は、この条件に引っかかる。廃業を伝えていなければ、事業をやめたあとの年に中間申告の納付書が届くことになる。
3つ目が、過去に出した各種の選択届出書が生き続けることだ。課税事業者選択届出書を出して自分から課税事業者になっていた人、簡易課税制度選択届出書を出していた人、課税期間の特例を選んでいた人。これらの届出は、やめると言わない限り効力が続く。いったん個人事業をたたんで、数年後に同じ名前で個人事業を再開したときに、忘れていた届出が効いていた、という事態が起こりうる。
4つ目が、インボイスの登録が残ることだ。これは次の節で詳しく見る。
インボイス登録をしている人はどうなるか
インボイス制度が始まってから、この論点が増えた。適格請求書発行事業者として登録している人は、基準期間の課税売上高にかかわらず納税義務が免除されない。つまり売上が小さくても課税事業者になる。だから、インボイス登録をしている個人事業者が法人成りするときは、ほぼ全員がこの事業廃止届出書の対象になる。
国税庁が公開している「インボイス発行事業者の登録を取り消す場合などに提出すべき書類」という資料に、ケース別の整理が載っている。
〇 なお、個人事業者が死亡や事業廃止した場合、法人が清算結了や合併消滅した場合には、「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」の提出は不要です。 出典: nta.go.jp
ここが分かれ目になる。廃業と関係なくインボイスの登録だけをやめたい場合は「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を出す。一方、事業そのものを廃止する場合は、この取消しの届出書は不要で、代わりに事業廃止届出書を出す。同じ資料の表では、事業者の死亡以外の理由により事業を廃止した場合に提出すべき書類として、事業廃止届出書が挙げられ、あわせて所得税関係の書類として個人事業の開業・廃業等届出書と、所得税の青色申告の取りやめ届出書が並べられている。
登録をやめる場合のタイミングにも、細かい決まりがある。取消しの届出書を出したときの失効日は、提出日の翌課税期間の初日になる。ただし、翌課税期間の初日から起算して15日前の日を過ぎて提出した場合には、失効の日が翌々課税期間の初日にずれる。個人事業者の課税期間は暦年なので、12月中旬を過ぎてから出すと、翌年いっぱいは登録が残る計算になる。
もう1つ、同じ資料の注記に重要な線引きがある。事業の一部を廃業するだけで、インボイス発行事業者の登録は取り消さない場合は、事業廃止届出書の提出は不要とされている。事業の一部を法人に移して、残りを個人で続けるようなケースがここに当たる。全部をやめるのか、一部を残すのかで、出す書類が変わる。
5枚出さなくてよい仕組みがある
消費税には「やめます」と伝える届出書がいくつもあり、全部を出そうとすると枚数が増える。ところが、1枚で済ませられる仕組みが用意されている。
国税庁の資料の注記には、事業廃止により次の5つの届出書のいずれかに事業を廃止した旨を記載して提出した場合には、他の不適用届出書等および事業廃止届出書の提出は不要と書かれている。対象になるのは、消費税課税事業者選択不適用届出書、消費税課税期間特例選択不適用届出書、消費税簡易課税制度選択不適用届出書、任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書、消費税申告期限延長不適用届出書の5つだ。
条文の側にも同じ構造がある。第57条第1項第3号の括弧書きには、既に事業を廃止した旨を記載した届出書を提出している場合を除く、という除外が入っている。つまり、どれか1枚に「事業を廃止した」と書いて出せば、それで用が足りる設計になっている。
実務でどうするかというと、簡易課税を選んでいた人なら簡易課税制度選択不適用届出書に廃止の旨を書いて出す、選択届出書を何も出していない人なら事業廃止届出書を出す、という整理になる。迷ったら事業廃止届出書を1枚出しておけば、条文上は他の届出をカバーできる。枚数を減らすためだけに判断を複雑にするより、シンプルに1枚出すほうが間違いが少ない。
廃業しても課税期間は12月31日まで続く
ここが所得税との大きな違いで、見落とすと申告の期限を間違える。個人事業者の消費税の課税期間は、廃業しても1月1日から12月31日のままだ。国税庁のタックスアンサーにはっきり書かれている。
個人事業者の課税期間は、1月1日から12月31日までの期間です。年の中途で新たに事業を開始した場合や事業を廃止した場合においても、課税期間の開始の日は1月1日、終了の日は12月31日となります。 出典: nta.go.jp
3月末で廃業しても、課税期間は12月31日まで続く。そして確定申告の期限は、個人事業者の12月31日の属する課税期間については翌年3月31日までとされている。所得税の確定申告期限が3月15日なので、半月ほど後ろにずれる。
廃業した年の消費税の申告は、1月1日から廃業の日までの取引が中心になるが、廃業後に発生した取引があればそれも同じ課税期間に含まれる。売掛金の回収や、機材を売却した代金の入金などが該当しうる。事業をやめた時点で帳簿を閉じてしまうと、年末までの動きを拾い損ねる。会計ソフトのデータは、翌年の申告が終わるまで動かせる状態にしておきたい。
なお、課税期間を3か月ごとや1か月ごとに短縮する特例を選んでいた場合は、この期間の区切り方が変わる。特例を選んでいた人は、廃業時に課税期間特例選択不適用届出書の扱いも合わせて確認しておく。
法人成りで資産を引き継ぐときの注意
法人成りでは、個人で使っていた機材や在庫を会社に引き継ぐことが多い。パソコン、カメラ、撮影機材、在庫の商品など。このとき、引き継ぎの方法によって消費税の扱いが変わる。
売買の形をとれば、個人から法人への資産の譲渡になる。個人が課税事業者であれば、その譲渡は課税売上として最後の消費税の申告に乗ってくる。現物出資の形をとる場合も、同様に資産の譲渡として扱われるのが一般的だ。在庫や機材の金額が大きいほど、廃業年の消費税の負担が思ったより増えることがある。
売上がほとんどない月に廃業して、その月に機材を会社に移した結果、最後の申告で納税額が出た。こういう順序の問題は実際に起きる。引き継ぐ資産の金額が大きいなら、廃業のタイミングを決める前に、概算で消費税の影響を見ておいたほうがよい。
ただし、どの形をとるのが有利かは、金額、資産の種類、法人側が課税事業者になるかどうかによって変わる。一般にはこう扱われるという範囲を超えるので、金額が大きい場合は税務署か税理士に確認してほしい。ここを自己判断で処理すると、あとから修正が必要になったときの手間が大きい。
法人側で新しく出す消費税の書類
個人側を閉じる話と並行して、法人側でも消費税の判断が発生する。新しく設立した法人は、基準期間がないので原則として納税義務が免除される。ただし例外がある。
3 法人の基準期間がない事業年度 (1) その事業年度の基準期間がない法人のうち、その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であるとき 出典: nta.go.jp
資本金が1,000万円以上だと、設立1期目から課税事業者になる。特定新規設立法人に当たる場合も同様だ。資本金をいくらにするかは、登記の前に決める話なので、設立を急ぐ前に確認しておきたい。
もう1つが、インボイスの扱いだ。個人のときに登録番号を持っていた人でも、会社は別の事業者なので、登録番号を引き継ぐことはできない。取引先にインボイスを求められる仕事を続けるなら、法人として新たに適格請求書発行事業者の登録申請をすることになる。登録が済むまでの期間は、取引先が仕入税額控除を受けられない状態になるので、切り替えの時期を取引先に伝えておくほうがトラブルが少ない。
適格請求書発行事業者になると、基準期間の課税売上高にかかわらず納税義務が免除されない。設立1期目から消費税の申告が発生する、という前提で資金繰りを組んでおく必要がある。
課税事業者を自分から選んでいた人は、しばりが外れる
自分から課税事業者になることを選んでいた人、つまり課税事業者選択届出書を出していた人には、もう1つ知っておくと得な決まりがある。
この選択には、いったん選んだら簡単にはやめられないというしばりが付いている。消費税法第9条第6項によれば、選択届出書を出した事業者は、課税事業者となった課税期間の翌課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、やめる旨の届出書を出せない。世間で「2年しばり」と呼ばれているのがこれだ。開業の年に多額の設備投資をして還付を受けるために課税事業者を選び、その後2年間は免税に戻れない、という形で使われる。
ところが条文には、このしばりに例外が置かれている。
前項の場合において、第四項の規定による届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、同項に規定する翌課税期間の初日から二年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、同項の規定の適用を受けることをやめようとする旨を記載した届出書を提出することができない。 出典: laws.e-gov.go.jp
「事業を廃止した場合を除き」と書かれている。つまり、本当に事業をやめるのであれば、2年を待たずにやめる旨の届出を出せる。同じ条文の次の項にある調整対象固定資産を取得した場合の3年しばりにも、同じ除外が入っている。法人成りで個人事業を本当にたたむなら、これらのしばりは効かない。
同じ第9条第5項には、選択届出書を出した事業者は、適用をやめようとするとき、または事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書を出さなければならないと定められている。選択をしていた人は、この届出が必要になる立場にあることを忘れないでおきたい。前の節で書いたとおり、この不適用届出書に事業を廃止した旨を書いて出せば、事業廃止届出書のほうは省略できる。
廃業後に入ってくるお金と、回収できなかったお金
事業をやめた日で取引が全部終わるわけではない。廃業後に売掛金が入金されたり、逆に回収できないまま終わったりする。消費税の世界では、これらをどう扱うのかを整理しておく。
まず、売掛金の入金そのものは、消費税の計算に新しく乗るものではない。消費税は原則として、資産の譲渡やサービスの提供があった時点で売上を認識する。納品が廃業前に済んでいれば、その売上は廃業前の取引として、もう計上されている。入金の日付は関係しない。
次に、回収できなかった場合だ。売掛金が回収不能になったときは、貸倒れとして消費税額から控除できる仕組みがある。廃業したあとに取引先が倒れて回収不能になった、というケースもここに入りうる。ただし、貸倒れとして扱えるかどうかには要件があり、単に払ってもらえないというだけでは認められない。金額が大きいなら、税務署か税理士に確認してほしい。
3つ目に、帳簿と書類の保存義務は廃業しても消えない。消費税の計算の根拠になる帳簿や請求書は、決められた期間の保存が必要だ。インボイス制度が始まってからは、受け取ったインボイスの保存が仕入税額控除の要件になっているので、廃業した年の分もそろえて残しておく。会社の書類と混ぜると探せなくなるので、個人事業の分は分けて保管しておきたい。
4つ目に、法人成りのあとも個人の口座に入金が続くことがある点も書いておく。廃業前の売上の入金が、会社ができたあとに個人の口座に着地する。これは会社の売上ではないので、会社の帳簿に入れてはいけない。振込先を切り替えるタイミングと、売上を認識するタイミングを分けて管理する必要がある。ここが混ざると、個人と法人のどちらの数字も合わなくなる。
廃業した年の中間申告は、減額申請ではなく仮決算で調整する
所得税には、廃業して所得が減ったときに予定納税を減らしてもらう減額申請という手続きがある。消費税にも似た仕組みがあるのかというと、答えは「同じ形のものはないが、別の手がある」になる。
まず前提として、中間申告の回数は直前の課税期間の確定消費税額で決まる。国税庁のタックスアンサーによれば、48万円以下なら原則として中間申告は不要(任意の中間申告制度はある)、48万円超から400万円以下なら年1回、400万円超から4,800万円以下なら年3回、4,800万円超なら年11回になる。提出と納付の期限は、各中間申告の対象となる期間の末日の翌日から2か月以内だ。
廃業した場合の扱いは、同じページの参考として明記されている。
消費税の課税事業者に該当する個人事業者が事業を廃止した場合、その廃止の日の属する課税期間に係る消費税の申告(中間申告を含みます。)が必要です。 この場合において中間申告書の提出期限前であれば、直前の課税期間の確定消費税額に基づいて算出した消費税額等によらず、仮決算に基づいて中間申告税額を算出して申告・納付することができます(所得税の「予定納税額の減額申請手続」のような手続はありません。)。 出典: nta.go.jp
読み方を整理する。廃業しても、その年の中間申告は必要になる。ただし、前年の実績で計算した金額を納めるのではなく、その期間の実際の数字で仮決算を組んで、それに基づいた金額で申告できる。廃業して売上が止まっているなら、仮決算のほうが金額は小さくなる。
ここで注意したいのが、期限を過ぎると仮決算が使えなくなる点だ。中間申告書を期限までに出さなかった場合、直前の課税期間の実績で計算した金額の中間申告書が提出されたものとみなされ、その税額が確定してしまう。あとから仮決算による中間申告書を出すことはできない。所得税の減額申請と違って「申請して認めてもらう」形ではなく、期限内に自分で計算した申告書を出す形なので、期限の管理がそのまま金額に直結する。
仮決算で出す場合は、その期間中の資産の譲渡等の対価の額と課税仕入れ等の税額の明細などを記載した書類を添付する必要がある。帳簿を締める作業が発生するので、廃業した時点で会計データを整えておくと、この作業が軽くなる。なお、仮決算で計算した税額がマイナスになった場合でも、還付は受けられない。
出し忘れに気づいたときにどうするか
何年か前に廃業していたのに、事業廃止届出書を出していなかったと気づくことがある。この場合でも、取れる手はある。
まず、気づいた時点で事業廃止届出書を出す。期限がない書類なので、遅れて出したことへの罰則はない。廃止の年月日は、実際に事業をやめた日を書く。書類の上でさかのぼって処理してもらえるかどうかは税務署の判断になるので、提出のときに事情を説明しておく。
次に、その間に届いていた申告書の案内や納付書を確認する。届いていたのに出していなかった年があるなら、そのままにせず税務署に相談する。売上がないので納める税額は出ないはずだが、申告そのものが必要だったかどうかは事情による。放置して延滞金が付くより、早く相談するほうが軽く済む。
3つ目に、過去に出した選択届出書が残っていないかを確認する。課税事業者選択届出書、簡易課税制度選択届出書、課税期間特例選択届出書。これらが生きたままだと、同じ名前で個人事業を再開したときに、思わぬ形で効いてくる。心当たりがあるなら、税務署で自分の届出の状況を確認しておく。
用紙の書き方と出し方
事業廃止届出書は1枚ものだ。書く内容はそれほど多くない。
届出者の納税地、氏名、個人番号。納税地は原則として住所地になる。紙で個人番号を書いて出すときは、本人確認書類の提示か写しの添付が必要になる。
事業廃止年月日。所得税の廃業届に書いた日と同じ日をそろえて書く。別々の日付になっていると、あとで照合を求められることがある。
納税義務者となった日。課税事業者になった年月日を書く欄がある。分からない場合は、消費税の確定申告を初めて出した年から逆算するか、税務署に問い合わせて確認する。
参考事項として、法人成りの場合は設立した法人の名称や法人番号を書く欄が用意されていることがある。個人から法人への引き継ぎであることが分かると、税務署側の確認が早い。
出し方はe-Taxソフトで作って送信するか、紙に書いて持参または郵送する。手数料はかからない。記載要領も国税庁のサイトに公開されているので、用紙と一緒に開いておくと迷わない。税務署が閉まっている日でも、時間外収受箱への投函で提出できる。
資産を会社へ移した月の帳簿と、最後の申告に乗る金額
数字を入れて見てみる。帳簿価額が300,000円のパソコンと撮影機材を、時価200,000円で会社に売ったとする。個人が課税事業者なら、この譲渡は課税売上になる。税率10%なら消費税は20,000円だ。個人側の仕訳は次の形になる。
・借方は、現金220,000円と固定資産売却損100,000円 ・貸方は、工具器具備品300,000円と仮受消費税等20,000円
会社側は逆になる。借方に工具器具備品200,000円と仮払消費税等20,000円、貸方に現金220,000円だ。
在庫も同じ扱いになる。棚卸資産を500,000円で譲渡すれば課税売上が500,000円増え、消費税は50,000円だ。機材と在庫を合わせて700,000円分を会社に移すと、最後の申告に70,000円が乗る計算になる。売上が止まっている月に資産を移した場合、この70,000円を打ち消す課税仕入れが同じ期間にないので、ほぼそのまま納付額として残る。
ここで感覚がずれやすいのが、固定資産売却損の100,000円だ。この損失は所得税の計算では経費になるが、消費税の計算には関係しない。消費税は売った金額そのものに乗るので、帳簿価額より安く売っても納める額は減らない。安く売れば所得税は軽くなるが消費税は軽くならない、という別々の動き方をする。
なお、時価をいくらと見るか、現物出資の形にした場合の扱い、法人側が免税事業者のときに仮払消費税等をどう処理するかは、金額と状況で変わる。帳簿の形まで自己判断で決めず、税務署か税理士に確認してほしい。
独自データから見た、廃業前後の仕事の切り替え方
在宅ワーク求人サイトを20年運営してきた立場から見ると、法人成りの前後で売上が落ち込む人と落ち込まない人の差は、書類の処理速度ではなく、請求の切り替えを取引先にいつ伝えたかで決まっている。消費税の登録番号が変わるというのは、相手の経理にとっては入力し直しが必要な変更だ。伝えるのが遅いほど、相手側の支払いが翌月に回る。
運営者として見てきた限りでは、EC運営の代行やSNS運用のように月額で続く仕事ほど、この切り替えの影響が大きい。単発の納品なら1回分がずれるだけだが、月額の仕事は請求のサイクルそのものが止まる。廃業日を決めたら、その週のうちに取引先へ連絡する。これだけで資金繰りの谷がかなり浅くなる。
仕事の選び方も、法人成りのあとで変わってくる。相談から入る仕事は、法人名義のほうが話が進みやすい傾向が見られる。たとえばAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、業務の棚卸しから導入の設計まで含む長期の関わりになりやすく、請求も継続になる。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事も、社内の体制づくりまで踏み込む案件が多く、契約相手が法人であることを求められやすい。開発を軸にするならアプリケーション開発のお仕事に受託の形と規模の幅がまとまっている。
単価の見通しを立てておくと、課税事業者のままでいるかどうかの判断もしやすい。ソフトウェア作成者の年収・単価相場には開発職の収入の分布が、著述家,記者,編集者の年収・単価相場には書く仕事の水準がまとめてある。課税売上高が1,000万円に届くかどうかは、法人側で免税期間を使えるかどうかに直結する。
法人になったばかりの時期は、取引先が判断材料を探している。ビジネス文書検定のように書類のやり取りの型を示せるものや、CCNA(シスコ技術者認定)のような技術の裏付けは、会社名がまだ知られていない時期に効く。お金の置き場所も変わるので、【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオで長期の積み上げ方を確認しておくと、役員報酬をいくらにするかを決めやすい。廃業年の個人の申告に不安があるなら、確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツに控除と還付の論点がまとまっている。デザイン系の仕事を法人で続けるなら、UI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】で職種ごとの収入差を見ておくと単価を決める材料になる。
最後に、20年この市場を見てきた立場からの観察を1つ。中間に手数料が乗らない直接の取引は、同じ予算でも依頼する側はより多く頼めて、受ける側は手取りが厚くなる。法人成りをすると、この差がそのまま会社の利益率に効く。長く続く人ほど、単発の作業を集めるのではなく、この人に任せておけば楽だという関係を作ることに時間を使っている。消費税の事業廃止届出書は期限のない書類だが、出す日を自分で決めて片付けてしまえば、あとは関係づくりに時間を回せる。期限がないものほど、先に決めてしまうほうがよい。
よくある質問
Q. 免税事業者でも消費税の事業廃止届出書は出しますか?
出しません。国税庁の手続案内では対象者が「事業を廃止した課税事業者」とされています。基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、課税事業者を選択しておらず、インボイスの登録もしていないなら、消費税について税務署に出す書類はありません。直近に消費税の確定申告をしたかどうかで判別できます。
Q. 提出期限はいつまでですか?
消費税法第57条第1項第3号で「速やかに」と定められているだけで、何月何日までという期限はありません。遅れたことへの罰則もありませんが、出さないと課税事業者の扱いが残り、申告書や中間申告の通知が届き続けます。所得税の廃業届と同じ日に出してしまうのが確実です。
Q. インボイス登録を取り消す届出書も別に出しますか?
事業そのものを廃止する場合は不要です。国税庁の資料では、個人事業者が事業廃止した場合には「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」の提出は不要とされています。事業廃止届出書を出してください。廃業と関係なく登録だけをやめる場合に、取消しの届出書を使います。
Q. 3月に廃業しました。消費税の申告はいつまでですか?
翌年3月31日までです。個人事業者の課税期間は、年の中途で廃業しても1月1日から12月31日までのままなので、その課税期間の申告を翌年に出します。所得税の確定申告期限は3月15日なので、日付が半月ほどずれる点に注意してください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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