飲食店の給与計算をどう選ぶか|現場で回る条件から決める

中西 直美
中西 直美
飲食店の給与計算をどう選ぶか|現場で回る条件から決める

この記事のポイント

  • 飲食店の給与計算ソフトを
  • 製品名ではなく現場で回る条件から選ぶ手順を整理しました
  • 複数店舗の掛け持ちまで

給与計算の締め日が近づくと、胃が痛くなる。飲食店を経営している方から、こういうお話をよく聞きます。大丈夫です。給与計算が毎月しんどくなるのには、はっきりした理由があります。理由が分かれば、どのソフトを選べばよいかも決まります。この記事では製品名を挙げずに、飲食店の現場で本当に回るかどうかを決める条件を、実務が進む順番に並べていきます。

飲食店の給与計算が毎月しんどくなる理由

まず、しんどいのはあなたの段取りが悪いからではありません。飲食店の給与計算は、他の業種より構造的に複雑です。

飲食店では、アルバイトやパートのシフトが日によって頻繁に変わるため、給与計算が複雑になりがちです。しかし、給与計算ソフトによって複雑な給与計算を自動で行い、経理業務を効率化できます。 出典: onamae.com

複雑になる要因は4つあります。

1つ目はシフトの変動です。同じ人でも、週によって入る日数も時間帯も変わります。固定給の会社なら毎月同じ計算で済みますが、飲食店では毎月ゼロから積み上げることになります。

2つ目は深夜労働です。閉店が22時を回る店では、深夜割増が日常的に発生します。22時から翌5時までの深夜労働には25%以上の割増賃金が必要で、時間外労働と重なる場合はさらに加算されます。この判定を手作業で正確に続けるのは、かなり難しい。

3つ目は入退社の多さです。学生アルバイトの入れ替わりが早く、短期で辞める人もいます。そのたびに社会保険や雇用保険の手続きが発生します。

4つ目は支給項目の多さです。時給、深夜手当、交通費、まかないの扱い、店舗ごとの手当。項目が増えるほど、計算式も増えます。

この4つが毎月重なるので、しんどくなるのは当たり前です。ソフトを選ぶときは、この4つのどれを自動化したいのかをはっきりさせるところから始めてください。

給与計算ソフトが引き受けてくれる範囲を知っておく

条件を並べる前に、給与計算ソフトが何をしてくれるのかを整理しておきます。ここを誤解したまま選ぶと、あとで「思っていたのと違う」となります。

給与計算ソフトとは、給与計算を自動化し業務効率化を行える便利なソフトです。従業員数が多く給与計算が複雑な飲食店には、給与計算ソフトの導入がおすすめです。複雑な設定が不要なものなら、すぐに給与計算を一括自動化することができます。 出典: onamae.com

ソフトが引き受けてくれるのは、決められたルールに沿って計算を繰り返す部分です。時給に時間を掛ける、割増を上乗せする、社会保険料と税を差し引く、明細を作る。この繰り返しの部分は、機械のほうが速くて正確です。

一方で、ソフトが決めてくれないこともあります。手当をいくらにするか、まかないをどう扱うか、締め日をいつにするか。これらはお店のルールであって、経営判断です。ソフトはそのルールを登録する場所を用意してくれるだけです。

つまり、導入前にお店のルールを言葉にしておく作業が必ず必要になります。この作業を「面倒だから後で」と先送りすると、導入そのものが止まります。逆に、ここさえ整理できていれば、どのソフトを選んでも一定の効果は出ます。

条件1:勤怠のデータをそのまま取り込めるか

いちばん最初に確認する条件です。ここでつまずくと、他がどれだけ優れていても効果が出ません。

給与計算の作業時間の大半は、実は計算そのものではありません。勤怠のデータを集めて、給与ソフトに入る形に整える作業です。タイムカードを見ながら手入力しているなら、この作業だけで毎月5時間を超えることもあります。

確認すべきは、使っている勤怠管理の仕組みと連携できるかどうかです。同じ会社が出している勤怠管理サービスと給与計算ソフトを組み合わせると、データが自動で流れる構成にできます。別々の会社の製品を組み合わせる場合は、CSVの書き出しと読み込みでつなぐことになります。

CSVでつなぐ場合、項目の並びを設定で変えられるかが重要です。並びを変えられないと、毎月同じ加工作業が残ります。せっかくソフトを入れても、加工の手間が残るなら効果は半減します。

紙のタイムカードから始める場合も、いきなり全部を変えなくて構いません。まず給与計算だけを電子化して、翌年に勤怠を電子化する。この順番でも効果は出ます。ただし、将来つなぐことを前提に、連携できる組み合わせを選んでおいてください。

条件2:深夜と時間外の割増を自動で計算できるか

飲食店では、ここが自動化の効果がいちばん大きい部分です。

法定時間外労働は25%以上、深夜労働は25%以上、月60時間を超える時間外労働は50%以上の割増が必要です。中小企業への月60時間超の割増率引き上げは2023年4月から適用されており、飲食店も対象です。

難しいのは、これらが重なるときです。深夜帯に時間外労働が発生すれば、割増は合算されます。日をまたぐ勤務がある店では、どこまでが1日の労働時間かの判定も必要になります。この判定を人が毎月やると、必ずどこかで間違えます。

確認すべきは、深夜時間帯の設定を店の実態に合わせて登録でき、割増の計算が自動で走るかどうかです。あわせて、日をまたぐ勤務を1つの勤務として扱えるかも見てください。日付で機械的に区切るタイプだと、深夜割増の集計が正しく出ません。

もうひとつ、最低賃金の確認機能があると安心です。地域別の最低賃金は毎年見直されます。改定のたびに全員の時給を確認する作業が発生しますが、下回っている人を自動で検出してくれる機能があれば、見落としを防げます。最低賃金の改定状況は厚生労働省の公式サイトで確認できます。

条件3:入退社と社会保険の手続きにつながるか

飲食店の給与担当者が、毎月いちばん時間を取られている作業のひとつです。

学生アルバイトが入る、辞める。この頻度が高い業態では、手続きの回数も多くなります。雇用保険の資格取得と喪失、社会保険の加入判定、住民税の異動届。ひとつずつ紙で処理していると、いくら時間があっても足りません。

確認すべきは、従業員の情報を登録すると、そこから必要な届出書類が作れるかどうかです。電子申請に対応している製品なら、作成から提出までを画面の中で完結できます。ここが自動化されると、手続きにかかる時間がまとめて減ります。

社会保険の加入判定も見ておいてください。週の所定労働時間や賃金の要件で加入義務が変わるため、実績が正確に出ていないと判断できません。要件を満たす人を自動で検出してくれる機能があると、加入漏れを防げます。制度の詳細は日本年金機構の案内で確認できます。

扶養の範囲内で働きたいアルバイトへの対応も、飲食店では頻繁に出る話です。年間の累計が本人にも見える仕組みがあると、年末の駆け込み調整を避けられます。この機能がないと、店側が個別に計算して伝えることになります。

条件4:複数店舗の掛け持ちを1人分にまとめられるか

2店舗目を出したところから、給与計算の難易度が上がります。

同じスタッフがA店とB店の両方に入る。この場合、労働時間は合算して判定する必要があります。店舗ごとに別々に計算していると、時間外労働の判定が正しく出ません。

確認すべきは、1人の従業員が複数の店舗に所属できるか、そして労働時間が合算されるかです。あわせて、人件費を店舗ごとに配分できるかも見ておいてください。応援に入った時間を応援先の店舗の人件費として集計できると、店舗別の採算が正確に出ます。

給与の支払いは1人にまとめて行い、費用の計上は店舗ごとに分ける。この形ができると、経理の処理も楽になります。会計ソフトへの仕訳の書き出しに、店舗の区分を持たせられるかを確認してください。

権限の設計も見落とせません。店長が自店のスタッフの勤怠だけを見られて、給与額は見えない。こういう設定ができるかどうかで、店長にどこまで任せられるかが変わります。

条件5:まかないや現物支給、控除を扱えるか

飲食店ならではの条件です。

まかないを提供している店では、その扱いを決めておく必要があります。従業員に食事を提供した場合、一定の要件を満たすときは課税されない扱いになりますが、要件を外れると現物給与として課税対象になります。要件は国税庁の公式サイトで確認できます。

給与ソフトに求めるのは、判断を代わりにしてくれることではありません。課税と非課税の項目を分けて登録でき、それぞれの集計が正しく出ることです。まかない代の自己負担分を控除項目として設定できるかも確認してください。

制服代、寮費、社員食堂の利用分など、控除する項目がある店もあります。控除項目を自由に追加でき、人ごとに金額を変えられる設計になっているかを見ておいてください。控除には労使協定が必要な場合があるので、運用の前に法的な整理も済ませておくと安心です。

交通費の扱いも確認項目です。日額で支給する店、定期代を月ごとに支給する店で処理が変わります。非課税限度額の判定を自動でしてくれるかどうかで、手作業の量が変わります。

条件6:年末調整と法定調書まで一本で行けるか

毎月の計算が楽になっても、年末に別のソフトへ移し替えるなら、その手間が残ります。

確認すべきは、年末調整の機能が同じソフトの中にあるかどうかです。従業員が申告書をスマートフォンから入力でき、その内容がそのまま計算に反映される製品が増えています。紙の申告書を集めて手入力する作業がなくなると、年末の負担がまとめて減ります。

源泉徴収票の発行、給与支払報告書の提出、法定調書合計表の作成まで対応しているかも見てください。電子提出に対応していれば、市区町村ごとに紙を送る作業がなくなります。

退職者への対応も確認項目です。年の途中で辞めた人にも源泉徴収票を交付する必要があります。退職手続きの中で自動的に発行される流れになっていると、漏れが防げます。飲食店は退職者の数が多いので、ここが効いてきます。

条件7:給与明細をスマートフォンで配れるか

地味に見えますが、現場の負担を大きく減らす条件です。

紙の明細を封入して手渡しする作業は、人数が増えるほど時間がかかります。シフトの都合で会えない人には、次の出勤日まで渡せません。

電子交付にすると、この作業がなくなります。従業員は自分のスマートフォンで明細を確認でき、過去の分もさかのぼって見られます。退職後も一定期間は見られる設定にしておくと、問い合わせの対応も減ります。

ただし、給与明細を電子で交付するには、従業員本人の承諾が必要です。加えて、電子で受け取れない人には紙で交付する必要があります。全員を電子に切り替えられるとは限らないので、紙と電子を併用できるかも確認しておいてください。

承諾の取得や社内周知の文書は、あとから「聞いていない」と言われないように、記録が残る形で進めるのが安心です。文書の整え方そのものを底上げしたいなら、ビジネス文書検定のような体系で、伝わる書き方を学び直す選択肢もあります。

記録の保存と、あとから説明できる状態にしておくこと

見落とされやすいところですが、給与に関する記録は残せばよいというものではありません。あとから提示できる形で保存されている必要があります。

労働基準法の改正により、賃金台帳や出勤簿などの記録の保存期間は5年とされ、当分の間の経過措置として3年の運用が続いています。飲食店は従業員の入れ替わりが多いので、辞めた人の記録も含めて保存する必要があります。

クラウド型のサービスを使う場合、契約期間中はサービス側にデータが保持されますが、解約後の扱いはサービスごとに違います。解約時にデータを書き出せるか、書き出した形式があとから読める形かを、契約前に確認してください。ここを確認せずに乗り換えると、過去の記録が失われます。

修正の履歴が残るかどうかも確認項目です。金額を修正したときに、元の値が消えて上書きされるだけの仕組みだと、あとから経緯を説明できません。誰がいつ何を修正したかが履歴として残る形が望ましいです。

退職した従業員から未払いを指摘されたとき、あるいは労働基準監督署の調査を受けたとき、頼りになるのは記録だけです。心配になったときに開いて確認できる状態にしておくと、それだけで気持ちが楽になります。

従業員への説明で、問い合わせをぐっと減らす

導入したあとに増えるのが、従業員からの問い合わせです。ここを先に手当てしておくと、あとが楽になります。

いちばん多いのは、明細の見方が分からないという質問です。項目名が今までと変わると、同じ金額でも「減った気がする」と受け取られます。切り替えの初回だけでも、新旧の項目の対応を示した紙を1枚添えておくと、問い合わせが減ります。

次に多いのが、明細をどこで見ればよいか分からないという質問です。電子交付に切り替える場合は、ログインの方法を写真つきの手順書にして、休憩室に貼っておくのが確実です。スマートフォンの操作に慣れていない方もいるので、口頭の説明だけで済ませないでください。

3つ目は、締め日と支給日の確認です。ソフトの導入に合わせて締め日を変える店もありますが、変更するなら周知の期間を十分に取ってください。生活の予定に直結する話なので、突然の変更は不安につながります。

説明のときに大切なのは、「何が変わらないか」も伝えることです。時給は変わらない、支給日は変わらない。変わらない部分をはっきり伝えるだけで、受け取る側の不安はかなり減ります。

導入して得られること、負担になること

よい面だけをお伝えしても、判断の材料になりません。両方を書きます。

得られるものは3つです。1つ目は計算にかかる時間の削減です。手入力と検算がなくなるので、締め日前後の作業が短くなります。2つ目は計算ミスの減少です。割増賃金や社会保険料の計算ミスは、あとから未払いとして請求される原因になります。3つ目は説明可能性です。労働基準監督署の調査や、退職者からの問い合わせに対して、記録で答えられるようになります。

一方で、負担になることも3つあります。1つ目は初期設定です。従業員の情報、支給項目、控除項目、締め日、支給日を登録する作業が発生します。人数が多い店ほど時間がかかります。2つ目は運用の変更です。これまで手作業で融通していた部分が、ルールとして固定されます。3つ目は継続費用で、多くのサービスは利用人数に応じた月額課金です。

現場でよく聞くのは、「設定は業者がやってくれると思っていた」という声です。従業員の情報や支給項目の整理は、店側にしかできません。ここに時間を確保できないまま契約すると、導入が止まってしまいます。あらかじめ、まとまった時間を確保しておいてください。

費用の考え方と、無料で始める選択肢

金額は各社の提示によりますが、費用の構造は共通しています。多くのクラウド型サービスは、利用人数に応じた月額課金と、初期設定の費用で構成されます。年末調整の機能が別料金になっている製品もあります。

比較するときは、必要な機能をすべて含めた構成で比べてください。勤怠連携、年末調整、電子申請、明細の電子交付のうち、どれが標準でどれがオプションかは製品ごとに違います。月額の数字だけを並べても、比較になりません。

無料で使える選択肢もあります。表計算ソフトの給与計算テンプレートや、少人数向けの無料プランです。従業員が数人で、全員が同じ時給、深夜勤務もないなら成立します。

ただし限界は明確です。法改正のたびに自分で計算式を直す必要があり、直し忘れると誤った金額を支払い続けることになります。表計算ソフトは、数式を組んだ人が辞めた時点で誰も直せなくなります。無料で始めるなら、データを書き出せるかを最初に確認し、移行の道を確保しておいてください。

選定から運用開始までの手順

順番を守ると、失敗がぐっと減ります。

第1に、現状の棚卸しをします。従業員の区分ごとの人数、支給項目、控除項目、締め日と支給日、今の計算にかかっている時間を書き出します。この作業をしないまま資料請求すると、営業担当の説明の枠組みに乗せられてしまいます。

第2に、この記事の7つの条件のうち、自店にとって外せないものを決めます。1店舗のみなら店舗横断の機能は不要です。必須条件を絞るほど、選定は速くなります。

第3に、2社から3社に絞って無料トライアルを申し込み、先月の実際のデータで試します。確認するのは、深夜割増の金額が手計算と一致するか、勤怠データの取り込みがスムーズか、明細の表示が分かりやすいかの3点です。

第4に、並行運用をします。いきなり切り替えず、1か月は今までの方法と両方で計算して、金額が一致するかを確認します。ここで差が出たら、設定のどこかが間違っています。

第5に、従業員への説明をします。明細の受け取り方が変わるなら、事前に伝えておく必要があります。承認や申請の流れが変わる場合の社内周知の設計は、ワークフローシステム比較2026|承認業務のDX化で年間200時間を削減で承認業務を電子化する際の考え方が整理されています。

つまずきやすいところ

実際の導入でよく見る失敗を挙げます。

いちばん多いのは、支給項目を簡略化しすぎることです。実態は10項目あるのに、似ているものをまとめて5項目で登録する。この省略が、あとから金額のずれとして表面化します。最初に手間をかけて実態どおりに登録したほうが、結果的に楽です。

次に多いのが、担当者が1人しかいない状態です。設定した人が辞めると、誰も直せなくなります。最低2人が設定内容を理解している状態を作り、設定内容を文書に残してください。

3つ目は、切り替えの時期を間違えることです。年末調整の直前や、繁忙期の真っ最中に切り替えると、確認する余裕がありません。比較的落ち着いている時期を選んで、並行運用の期間を確保してください。

4つ目は、機能の多い製品を選んでしまうことです。人事評価や採用管理まで含む製品は魅力的に見えますが、使わない機能の分だけ画面が複雑になります。評価や育成の仕組みを整えるのは、給与計算が安定してからで十分です。その段階での選び方は、タレントマネジメントシステム比較2026|カオナビ vs HRBrain vs タレントパレットで領域ごとの違いを確認できます。

導入作業を外部に手伝ってもらうという選択

給与計算ソフトの導入は、最初にまとまった作業が発生します。従業員情報の移行、支給項目の設定、過去データの取り込み。これを店長や経理担当が通常業務の合間にやろうとすると、なかなか終わりません。

この部分だけを外部の専門人材にお願いする店が増えています。在宅で働くフリーランスの中には、労務や経理の実務経験を持つ人が一定数います。最初の1か月だけ手伝ってもらい、運用に乗ったら自分たちで回す。この形なら、常勤の人を雇うより現実的です。業務の切り出し方や依頼の進め方は、AIコンサル・業務活用支援のお仕事で外部人材に業務改善を任せる場合の流れを整理しています。

既存のレジや予約のシステムとデータをつなぎたい場合は、開発の知識を持つ人材の力が必要になることもあります。どんな依頼になるのかは、アプリケーション開発のお仕事で外部に開発を依頼する場合の進め方を確認できます。

現場を長く見てきた立場からの観察

フリーランスと在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、外部の人にお願いしてうまくいくかどうかは、依頼する側が業務を切り出せているかどうかでほぼ決まります。「給与計算をなんとかしてほしい」という依頼は、受ける側も何をすればよいか分からず、成果につながりません。「従業員80人分の情報を移行し、支給項目を10種類設定する」まで分解できていれば、外部の人材でも短期間で形になります。この記事で条件を7つに分けたのは、そのまま依頼書の骨組みになるからです。

もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、間に何社も入る発注は双方にとって損になります。中間マージンが乗らない直接の取引なら、同じ予算で依頼する側はより多くの作業を頼めますし、受ける側の手取りは厚くなります。手数料0%の意味は、金額の多い少ないではなく、支払った分がそのまま仕事の質に返ってくるという構造にあります。長く続く関係を築いている依頼者ほど、単発の作業を安く買うのではなく、自分の店の事情を理解してくれる相手を育てる方向に時間を使っています。給与計算のように、その店固有の事情を前提にする仕事では、この差がそのまま結果の差になります。

条件表に落とし込んで、決める

最後に、判断を1枚にまとめる方法をお伝えします。

縦軸にこの記事の7つの条件、横軸に検討中のサービスを並べた表を作ってください。各マスには、対応の可否ではなく、自店の具体的な業務が回るかどうかを書きます。条件2の割増なら、「対応」ではなく「日をまたぐ勤務でも深夜割増が正しく出た」と書く。この書き方をすると、カタログ上は同じ「対応」でも実際には差があることが見えてきます。

そのうえで、必須条件をひとつでも満たさないサービスは候補から外します。価格で迷うのは、必須条件をすべて満たすものが2つ以上残ったときだけです。必須条件が曖昧なまま価格で選ぶと、導入後に足りない機能に気づいて作り直すことになります。

給与計算ソフトは、入れれば楽になる魔法の道具ではありません。店の給与のルールを言語化して、それを毎月同じように処理するための器です。器を選ぶ前に、入れるものを決める。順番はそれだけです。大丈夫、ここまで読めたなら、もう決められます。

よくある質問

Q. 従業員が10人程度の小さな店でも給与計算ソフトは必要ですか?

全員が同じ時給で深夜勤務もなく、入退社が少ないなら、表計算ソフトでも回ります。検討すべき目安は、深夜割増が日常的に発生するようになったとき、アルバイトの入退社が頻繁になったとき、そして店舗が2つ以上になったときです。この段階から計算ミスのリスクと手作業の時間が急に増えるため、早めの検討をおすすめします。

Q. 勤怠管理は紙のタイムカードのままでも導入できますか?

できます。まず給与計算だけを電子化して、翌年に勤怠を電子化する順番でも効果は出ます。ただし将来つなぐことを前提に、勤怠管理と連携できる組み合わせを選んでおいてください。連携できない製品を選ぶと、勤怠を電子化したあとも手入力が残り、削減できるはずの時間が削減できなくなります。

Q. まかないを出していますが、給与計算ではどう扱いますか?

従業員に食事を提供した場合、一定の要件を満たすときは課税されない扱いになりますが、要件を外れると現物給与として課税対象になります。要件の詳細は国税庁の案内で確認してください。ソフト側では、課税と非課税の項目を分けて登録でき、自己負担分を控除項目として設定できることを条件にすると運用が安定します。

Q. 複数店舗を掛け持ちするアルバイトの計算はどうなりますか?

労働時間は店舗をまたいで合算して判定する必要があります。店舗ごとに別々に計算していると、時間外労働の判定が正しく出ません。1人の従業員が複数店舗に所属でき、労働時間が合算されるソフトを選んでください。あわせて、人件費を店舗ごとに配分して会計ソフトへ渡せるかも確認しておくと、経理の処理が楽になります。

Q. 導入するのに適した時期はありますか?

年末調整の直前や繁忙期の真っ最中は避けてください。確認する余裕がない時期に切り替えると、金額のずれに気づけません。比較的落ち着いている時期を選び、今までの方法と両方で計算して金額が一致するかを確かめる並行運用の期間を1か月ほど確保するのが安心です。年度の切り替わりに合わせる店も多くあります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月25日最終更新:2026年9月3日
中西 直美

この記事を書いた人

中西 直美@SOHO編集部

産業カウンセラー・キャリアコンサルタント

大手人材会社でキャリアカウンセラーとして15年間従事した後、フリーランスの産業カウンセラーとして独立。在宅ワーカーのメンタルヘルスケアを専門に活動しています。

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