個人事業の開業・廃業等届出書|法人成りのときの埋め方

丸山 桃子
丸山 桃子
個人事業の開業・廃業等届出書|法人成りのときの埋め方

この記事のポイント

  • 個人事業の開業廃業等届出書は
  • 法人成りのときに埋める欄が普通の廃業と違います
  • 法人の設立に伴う場合の4項目

会社を作ったあと、個人事業のほうをどう畳むのか。ここで出てくるのが個人事業の開業廃業等届出書です。名前のとおり1枚で開業と廃業の両方を兼ねているので、廃業のつもりで開いた人が「開業」の欄に戸惑うことになります。しかも法人成りの場合は、普通の廃業とは埋める欄が変わります。

結論を先に書くと、押さえるところは3つです。届出の区分で廃業にチェックを入れ、その事由に法人成りであることを書く。「廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合」という専用の欄に、作った会社の情報を書く。そして「その他参考事項」に給与の支払事務を引き継いだ先を書く。この3つを外さなければ、残りは事実を写すだけの作業です。

ここでは国税庁が公開している様式と書き方をそのまま確認しながら、欄を上から順に埋めていきます。提出期限の扱いが以前と変わっている点も含めて、今の記載に合わせて整理しました。

この1枚で、開業も廃業も事務所の移転も兼ねている

まず書類の性格を理解しておくと、迷いが減ります。この届出書は名前のとおり、1つの様式で複数の場面をカバーしています。国税庁の手続案内はこう書いています。

[概要]新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。 [手続対象者]新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方 [手続根拠]所得税法第229条 出典: nta.go.jp

対象になるのは、事業所得、不動産所得、山林所得を生む事業です。この3つの所得を生む事業を始めたとき、事務所を動かしたとき、やめたときに出します。逆に言えば、この3つに当てはまらない収入は対象外です。

法人成りは、このうち「事業を廃止したとき」に当たります。会社という別人格を作って、そちらに事業を移すので、個人としての事業はそこで終わる。この整理が前提になります。

出す先は納税地を所轄する税務署です。ここで1つ、覚えておくと便利な決まりがあります。

新設、増設、移転、廃止に係る事務所・事業所の所在地が納税地と異なる場合であっても、納税地を所轄する税務署長以外の税務署長への提出は不要です。

つまり、自宅が納税地で事務所が別の市にあっても、出すのは自宅の管轄税務署1か所だけです。事務所の管轄にも出す必要はありません。ここは前の節で扱った法人側の届出(支店を出すと自治体ごとに出す)とは考え方が違う部分です。

提出期限は「1か月以内」ではなくなっている

ここが、この記事でいちばん伝えたい点です。ネット上の解説記事の多くは、この届出書の期限を「廃業日から1か月以内」と書いています。ところが国税庁が公開している現在の書き方には、こう書かれています。

2 この届出書は、事業の開始、廃止等の事実があった日の属する年分の所得税の確定申告期限までに納税地を所轄する税務署長に提出してください。 出典: nta.go.jp

1か月ではなく、その年分の所得税の確定申告期限まで。国税庁が公開している記載例にも、提出時期として「開業日の属する年分の所得税の確定申告期限まで」と明記されています。

国税庁の「廃業する場合」の案内ページでも、この届出書の提出期限は「廃業した年分の所得税の確定申告期限」と整理されています。同じページに載っている一覧はこうなっています。

対象者 名称 提出期限
廃業する者 個人事業の開業・廃業等届出書 廃業した年分の所得税の確定申告期限
青色申告の承認を受けていた者 所得税の青色申告の取りやめ届出書 青色申告を取りやめようとする年の所得税の確定申告期限
消費税の課税事業者 事業廃止届出書 速やかに

ただし、ここで安心して後回しにするのは勧めません。理由は2つあります。

1つ目は、後述する給与支払事務所等の廃止の届出や、都道府県への申告は別の期限で動いているからです。この1枚だけが遅くてよいというだけで、周りの書類は待ってくれません。

2つ目は、同時に判断しなければならないことが多いからです。青色申告を取りやめるかどうか、消費税の扱いをどうするか、予定納税をどうするか。廃業の直後に考えたほうが、記憶が新しい分だけ正確に判断できます。期限に余裕があることと、後回しにしてよいことは別です。

法人成りのときに埋める欄は、普通の廃業と違う

様式を上から見ていきます。法人成りで特に迷いやすい欄に印を付けながら並べます。

上段(本人の情報)

・納税地は、住所地、居所地、事業所等のうち該当するものを選びます。多くの人は住所地です ・納税地以外に住所地や事業所等がある場合は、その下の欄に書きます。無ければ空欄で構いません ・氏名、生年月日、個人番号(マイナンバー12桁)、職業、屋号を書きます ・屋号がなければ空欄です。法人成りで会社名が屋号と同じになる場合でも、ここには個人事業としての屋号を書きます

個人番号を書く関係で、紙で出すときは本人確認書類の提示または写しの添付が必要になります。控えを取っておく場合は、控えに個人番号が写らないようにしてください。複写で控えを作るなら、個人番号の部分が写らない措置を講じるよう国税庁が注意しています。

e-Taxで出す場合は、本人確認書類の提示や写しの添付は不要です。法人成りのタイミングだと会社側の手続きでも本人確認書類を使い回すことが多いので、e-Taxを選ぶと1往復減らせます。

届出の区分

ここが最初の分かれ目です。選択肢は3つあります。

・開業(事業の引継ぎを受けた場合は、受けた先の住所と氏名を書く) ・事務所・事業所の新設、増設、移転、廃止 ・廃業(事由)(事業の引継ぎや譲渡による場合は、引き継いだ先の住所と氏名を書く)

法人成りなら「廃業」を選びます。そして事由の括弧に理由を書きます。ここに書く言葉で悩む人が多いのですが、難しく考える必要はありません。「法人成りのため」「法人設立に伴う個人事業の廃止」といった書き方で伝わります。

そのうえで、事業の引継ぎの欄に注目してください。法人成りでは、個人でやっていた事業を会社が引き継ぎます。つまり引き継いだ先は自分が作った会社です。ここには会社の所在地と会社名を書きます。書式上は「住所」「氏名」となっていますが、法人が相手なら所在地と法人名で問題ありません。

所得の種類

不動産所得、山林所得、事業(農業)所得から選びます。廃業の場合はさらに「全部」か「一部」かを選びます。

法人成りで注意したいのがここです。事業だけを会社に移して、個人名義のアパートの家賃収入は個人に残すというケースがあります。この場合、廃業するのは事業所得を生む事業だけで、不動産所得は個人に残ります。「一部」を選び、括弧に廃止する事業を簡単に書きます。

事業所得を生む事業を2つ以上やっていて、その一部だけをやめる場合も同じ扱いです。全部やめるなら「全部」です。

開業・廃業等日

廃業した日を書きます。法人成りでは、会社の設立登記の日と個人事業の廃業日をどう合わせるかが論点になります。

多くの場合、設立登記の日を境に事業を会社へ移すので、廃業日は設立登記日の前日、または設立登記日そのものになります。ただし、実務では在庫や仕掛かりの引き継ぎ、取引先との契約の切り替えに時間がかかり、数日から数週間ずれることがあります。実態に合った日を書くのが原則です。

ここで書いた日は、後で出す確定申告の期間の終わりになります。売上をどちらに計上するかの境目でもあるので、帳簿を締める日と揃えてください。

廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合

法人成り専用の欄です。書くのは4つです。

・設立法人名 ・代表者名 ・法人納税地 ・設立登記の年月日

設立法人名は登記した正式な商号を書きます。株式会社の位置(前株か後株か)まで登記のとおりにしてください。法人納税地は、原則として本店の所在地です。設立登記の年月日は、法務局が設立登記の申請を受け付けた日で、登記事項証明書の設立年月日の欄に載っています。

この欄を埋めるには登記が完了している必要があります。登記申請中はまだ会社法人等番号も登記事項証明書も出ないので、この届出書は登記完了を待ってから作るほうが確実です。期限が確定申告期限までと長いのは、こうした事情にも合っています。

開業・廃業に伴う届出書の提出の有無

2行あります。

・「青色申告承認申請書」または「青色申告の取りやめ届出書」の有無 ・消費税に関する「課税事業者選択届出書」または「事業廃止届出書」の有無

廃業なら、青色申告をしていた人は取りやめ届出書を出すので「有」、消費税の課税事業者なら事業廃止届出書を出すので「有」になります。それぞれの書類の中身は次の節で扱います。

事業の概要と給与等の支払の状況

事業の概要は、できるだけ具体的に書くよう求められています。「Webサイトの制作および運用代行」「衣料品のインターネット販売」のように、業態が分かる書き方にします。

給与等の支払の状況は、届出日現在の状況を書きます。区分は専従者と使用人と計の3行で、それぞれ従事員数、給与の定め方(日給、月給などの区分)、税額の有無を書きます。税額の有無は、各人の給与額と扶養親族等の状況から見て納めるべき税額があるかどうかで判断し、その区分の全員に納付すべき税額がないと認められる場合は「無」にします。

「その他参考事項」に書く一行が、後の手間を減らす

様式の右端に「その他参考事項」という細長い欄があります。ここは空欄のまま出す人が多いのですが、法人成りでは書くべきことが1つ決まっています。国税庁の書き方に、こう明記されています。

(注) 給与等の支払事務を行う事務所等を廃止した場合には、「その他参考事項」欄に、給与等の支払事務を引き継いだ先の事務所等の所在地を記載します。

個人事業で従業員や専従者に給与を払っていたなら、その給与の支払事務は会社へ引き継がれます。その引き継ぎ先、つまり会社の所在地をここに書きます。

なぜこれが効くのか。税務署の側から見ると、個人の源泉徴収の口座が閉じて、会社の源泉徴収の口座が開くという流れになります。その2つが同じ事業の続きであることが、この一行で伝わります。書いておくと、後から照会の電話が来る確率が下がります。

同時に出す書類は最大で4枚

法人成りの廃業で出てくる書類を整理します。すべてが必要なわけではなく、自分の状況で要否が決まります。

所得税の青色申告の取りやめ届出書

青色申告の承認を受けていた人が出します。期限は、青色申告を取りやめようとする年の所得税の確定申告期限です。

ただし、出す前に一度立ち止まってください。個人に不動産所得や別の事業が残るなら、青色申告を取りやめると損をします。青色申告特別控除や赤字の繰り越しが使えなくなるからです。事業所得はなくなるが不動産所得は続く、という人は取りやめないほうが有利なケースがあります。

一般にはこう整理されますが、どちらが有利かは金額と事情で変わります。迷ったら出す前に税務署か税理士に確認してください。届出は出してしまうと元に戻すのに手間がかかります。

消費税の事業廃止届出書

消費税の課税事業者だった人、または課税事業者を選択していた人が出します。期限は「速やかに」です。ただし条件があります。国税庁の書き方はこう限定しています。

適格請求書発行事業者の方、消費税の課税事業者の方及び課税事業者を選択されている方で、廃業する事業のほかに課税売上げに当たる所得(不動産所得等)のない方は、「事業廃止届出書」も提出してください。

つまり、廃業する事業のほかに課税売上に当たる所得が残る人は出しません。事業は会社に移すが店舗用の建物を法人に貸す、といった形にすると、その賃料が課税売上になるので、個人の消費税の課税関係は続きます。この場合に事業廃止届出書を出すと、実態と合わなくなります。

もう1つ、インボイスの登録をしている人には知っておくと得な扱いがあります。同じ書き方に、適格請求書発行事業者が事業廃止届出書を提出した場合は、適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書の提出は不要と書かれています。1枚で足りるということです。

給与支払事務所等の廃止届出書

個人事業で給与の支払事務を扱っていた場合に出します。使う用紙は、会社が新しく給与支払事務所を開くときと同じ「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」で、区分として廃止を選びます。期限は、廃止の事実があった日から1か月以内です。ここは開業廃業等届出書と違って1か月なので、混同しないでください。

会社の側では、同じ用紙で開設の届出を出します。個人の廃止と会社の開設が同じ時期に並ぶので、まとめて準備すると早く終わります。

所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書

前年の所得が一定額以上だと、所得税を分割して前払いする予定納税の対象になります。年の途中で法人成りすると、個人としての所得は大きく減るのに、前年ベースで計算された予定納税の通知が届きます。

このまま払うと払いすぎになり、翌年の確定申告で還付されるまで資金が寝ます。減額の申請には期限があり、申請できる時期も決まっているので、廃業の時期が年の前半なら早めに税務署へ相談してください。

都道府県への申告は、税務署とは別の期限で動く

個人事業税は都道府県の税金なので、税務署への届出とは別に、都道府県へ申告が要ります。東京都の場合を見ます。

また、都内で行っていた事業を廃止した場合や、住所や事業所地等の変更があった場合は、廃止又は変更の日から10日以内(死亡による廃止の場合は30日以内)に「事業開始(廃止)等申告書」を所管の都税事務所等に提出する必要があります。 出典: tax.metro.tokyo.lg.jp

廃止は10日以内。税務署の「確定申告期限まで」とは比べものにならない短さです。東京都は電子申請の窓口を用意しているので、窓口に行かずに出せます。

さらに、年の途中でやめた場合にはもう1つ別の申告があります。東京都主税局は、年の中途で事業を廃止した場合は所得税の確定申告や住民税の申告とは別に、廃止の日から1か月以内(死亡による廃止の場合は4か月以内)に個人の事業税の申告をしなければならないと案内しています。根拠は地方税法第72条の55と第72条の55の2です。

個人事業税には知っておくと得な点が1つあります。事業主控除の額は年間290万円ですが、営業期間が1年未満の場合は月割になります。東京都の案内によれば、6か月なら1,450,000円、9か月なら2,175,000円です。年の途中で法人成りすると、この控除も月割で減ります。廃業のタイミングを選べるなら、この点も計算に入れておくと見通しが立ちます。

なお、期限や様式は都道府県ごとに違います。東京都以外に事務所がある人は、その都道府県の公式サイトで日数を確かめてください。

出したあとに残る作業

届出を出しても、その年の分の申告は残ります。法人成りした年は、個人としての確定申告と、会社としての決算の両方をやることになります。

個人の申告は、1月1日から廃業日までの分です。帳簿を廃業日で締めて、売上と経費を集計します。ここで迷いやすいのが、廃業後に入金された売掛金の扱いと、廃業前に発生して廃業後に払う経費の扱いです。一般には、廃業後に生じた費用でも事業に関連するものは一定の範囲で個人の必要経費にできると整理されますが、範囲は事情で変わるので、金額が大きいなら税務署か税理士に確認してください。

もう1つ、事業に使っていた資産を会社へ移す方法も決めなければなりません。売る、貸す、現物で出資する。それぞれ税金の扱いが変わり、個人側に所得が立つこともあります。届出書を書く作業より、こちらのほうが判断としては重いところです。

出す方法は3つあり、控えの残り方が変わる

提出のやり方は、税務署の窓口、郵送、e-Taxの3つです。国税庁の手続案内は、パソコンからe-Taxソフトで届出書を作成して提出するやり方を先に挙げ、書面で作成して持参または送付する方法もあると添えています。

3つの違いは、控えの残り方と本人確認の手間です。

出し方 控えの残り方 本人確認書類 使える時間
税務署の窓口 控えに受付印をもらえる 提示または写しの添付が必要 8時30分から17時まで
郵送 返信用封筒を同封すれば受付印付きの控えが戻る 写しの添付が必要 いつでも投函できる
e-Tax 受信通知が電子データで残る 不要 e-Taxの利用可能時間内

窓口が閉まっている土日祝でも、時間外収受箱に投函すれば提出できます。国税庁の案内にも、閉庁日は受付を行っていないが送付または時間外収受箱への投函で提出できると書かれています。

法人成りでは、控えが後で効いてきます。会社名義の銀行口座を作るとき、補助金や融資を申し込むとき、個人事業をいつ畳んだかを聞かれる場面があります。受付印のある控え、またはe-Taxの受信通知を1か所にまとめておくと、そのたびに税務署へ照会せずに済みます。

もう1つ、e-Taxを選ぶなら会社側の手続きと合わせて考えると効率が上がります。会社が法人設立届出書や給与支払事務所等の開設届出書を電子で出すなら、個人側の廃業もe-Taxにそろえたほうが、紙とデータが混ざらず管理が楽になります。ただし個人のe-Taxと法人のe-Taxは利用者識別番号が別なので、同じ画面で両方は出せません。個人の分は個人の番号で、会社の分は会社の番号でログインします。

廃業日を1か月ずらすだけで、都民税と事業税の計算が変わる

廃業日は実態に合わせるのが原則ですが、月の区切りで選べる余地がある場合は、その先の計算にも目を向けておくと差が出ます。個人事業税の事業主控除が月割になるからです。東京都主税局が公開している月割額は次のとおりです。

事業を行った月数 事業主控除額
3か月 725,000円
6か月 1,450,000円
9か月 2,175,000円
12か月 2,900,000円

1か月あたり242,000円ずつ増える計算です。3月末に畳むか4月末に畳むかで、控除できる額が242,000円動きます。個人事業税の税率は業種によって3%から5%なので、税額では7,000円から12,000円程度の差になります。

金額としては大きくありませんが、これと同じ考え方が所得税と住民税にも効きます。個人の所得が減れば、その年の所得税と翌年の住民税の両方が下がる。逆に会社側では、設立から決算までの期間が長くなるほど法人としての所得が積み上がります。どちらに所得を寄せるのが得かは、個人の他の所得や役員報酬の設定で変わるので、一般論では決められません。廃業の月をまだ決めていないなら、この点も含めて税務署か税理士に確認してから決めるのが安全です。

提出したあと、税務署から連絡が来ることもあります。よくあるのが、廃業日と最後の売上の計上時期がずれている場合、給与の支払事務の引き継ぎ先が書かれていない場合、青色申告の取りやめ届出書との内容が食い違っている場合です。いずれも書き足せば済む話ですが、最初から揃えて出しておけば連絡そのものが来ません。

もう1つ、控えの保管場所を決めておいてください。廃業の事実を後から示す場面は意外に多くあります。会社名義で銀行口座を作るとき、補助金や融資を申し込むとき、国民健康保険から健康保険への切り替えを説明するとき。受付印のある控え、またはe-Taxの受信通知を、会社の設立関係の書類と同じ場所にまとめておくと、そのたびに探さずに済みます。

書類の作り方そのものは難しくありません。難しいのは、どれを出してどれを出さないかの切り分けです。個人に何の所得が残るのか、消費税の課税売上が残るのか、給与の支払事務を会社が引き継ぐのか。この3点を紙に書き出してから用紙に向かうと、迷いがなくなります。

登記が終わった日から1か月の間に、やることが集中する

期限は書類ごとにばらばらです。いちばん長いものに合わせて動くと、短いものを落とします。廃業日を0日目として、実際に動く順に並べると次のようになります。

期限 やること 出し先
廃止の日から10日以内(東京都の場合) 事業開始(廃止)等申告書 都道府県税事務所
廃止の日から1か月以内 給与支払事務所等の廃止届出書 税務署
廃止の日から1か月以内 個人の事業税の申告(年の中途の廃止) 都道府県税事務所
速やかに 消費税の事業廃止届出書 税務署
廃業した年分の確定申告期限まで 個人事業の開業・廃業等届出書 税務署
廃業した年分の確定申告期限まで 所得税の青色申告の取りやめ届出書 税務署

最初の10日で都道府県、次の1か月で税務署の給与関係、残りを確定申告までに片付ける。この三段で考えると、抜けにくくなります。逆に言えば、廃業してから最初の10日がいちばん忙しい。登記事項証明書を取りに行く予定と、都道府県への申告を同じ日にまとめると、外出が1回で済みます。

なお、都道府県の日数は東京都の例です。ほかの都道府県は日数が違うことがあるので、自分の事務所がある都道府県の個人事業税のページで先に確かめてください。

出したあとに指摘されやすい5つ

税務署や都道府県から後で連絡が来るのは、だいたい決まった場所です。先に潰しておくと、やり取りが発生しません。

1つ目は、廃業日より後の日付で個人名義の請求書が出ている場合です。事業はいつ終わったのかを聞かれます。請求書の日付を廃業日までに収めるか、収まらない分を会社名義に切り替えるかを、廃業日を決めるときに一緒に決めておきます。

2つ目は、所得の種類で「全部」を選んでいるのに、確定申告に不動産所得が残っている場合です。事業だけを会社へ移して家賃収入は個人に残すなら「一部」です。

3つ目は、青色申告の取りやめ届出書を出したのに、翌年も青色申告の様式で申告している場合です。取りやめた年の翌年からは白色の様式になります。個人に不動産所得を残すつもりなら、そもそも取りやめないという判断もあります。

4つ目は、「その他参考事項」に引き継ぎ先を書かないまま、会社側で給与支払事務所等の開設届出書を出している場合です。2つの届出がつながっていないと、個人の源泉徴収の口座が閉じないまま残り、翌年も納付書が届きます。

5つ目は、消費税の事業廃止届出書を出したのに、個人名義の建物を会社へ貸している場合です。賃料は課税売上に当たるので、個人の消費税の課税関係は続きます。この形にするなら出しません。

どれも書き足せば済む話ですが、最初からそろえて出せば連絡そのものが来ません。判断に迷う項目があるなら、空欄にして窓口で聞くほうが、推測で埋めて後から直すより早く終わります。

法人にするかどうかを、額面ではなく手取りで考える

ここからは、在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた運営者の視点で、届出の手前にある判断について書きます。

法人成りの相談でいちばん多いのが、「売上が1,000万円を超えたから会社にしたほうがいい」という思い込みです。運営者として見てきた限りでは、この基準だけで判断した人ほど、作った後で固定費の重さに驚いています。会社は赤字でも均等割を納め、帳簿の作り方も個人のときより厳しくなります。一方で、売上が同じでも取引の形が変わった人、つまり単発の受注から年間契約や複数人での受注に移った人は、法人にしてから明らかに動きやすくなっています。分かれ目は金額ではなく、取引の形のほうにあります。

もう1つ、長く続いている人に共通しているのが、報酬の額面ではなく手取りの厚みで仕事を選んでいる点です。仲介が何割か抜く仕組みを通していると、同じ仕事量でも手元に残る額が変わります。中間マージンが乗らない直接取引なら、発注する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は手数料0%で手取りが厚くなる。この構造が分かっている人ほど、法人化の損得も額面ではなく手取りベースで計算しています。届出書を書く前に、自分の年間の手取りが法人化でどう動くかを一度表にしてみると、判断がはっきりします。

判断材料として、自分の単価が市場のどのあたりにいるかを知っておくと役に立ちます。開発系の仕事ならソフトウェア作成者の年収・単価相場に全国平均と都道府県別の水準が並んでいます。文章や編集の仕事が主なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場のほうです。どちらも地域差が見えるので、法人化後に人を雇う場合の人件費の目安にもなります。

法人成りのあとで仕事の幅を広げたいなら、企業側の予算が付きやすい領域を見ておくと早い。AIコンサル・業務活用支援のお仕事は生成AIの導入設計から社内研修までを引き受ける仕事で、法人格があると受けやすい案件が多い分野です。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事も、技術と事業の両方が分かる人が少ないため単価が落ちにくい傾向があります。受託開発を軸にするならアプリケーション開発のお仕事が近い領域です。

会社になると、書類のやり取りの量そのものが増えます。見積書、注文請書、業務完了報告書、請求書。個人のときは口頭で済んでいたものが、すべて紙かデータで残る形になります。書類仕事の型を身につけておきたいならビジネス文書検定が実務に直結しますし、技術側の基礎を客観的に示したいならCCNA(シスコ技術者認定)のような資格を取引先への説明材料に使う人もいます。

個人時代の税金の考え方を整理しておくことも、法人化の判断には欠かせません。何が経費になり、何が控除になるのかを一度洗い直すなら確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツが土台になります。役員報酬をいくらに決めるかを考える前に、会社に残すお金の置き場所を検討するなら【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオのような長期の視点も要ります。職種ごとの収入の幅を確かめておきたいならUI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】のようなデータも参考になります。

届出書そのものは、登記事項証明書を手元に置けば30分で書けます。時間がかかるのは、青色申告を取りやめるかどうか、資産をどう会社へ移すか、廃業日をいつにするかという判断のほうです。書き始める前にこの3つを決めておくと、後から出し直すことがなくなります。

よくある質問

Q. 個人事業の開業廃業等届出書の提出期限はいつまでですか?

国税庁が公開している現在の書き方では、事業の開始や廃止等の事実があった日の属する年分の所得税の確定申告期限までとされています。以前よく言われていた「1か月以内」ではありません。ただし給与支払事務所等の廃止届出書は1か月以内、都道府県への申告は東京都で10日以内と別の期限なので、まとめて早めに片付けるのが安全です。

Q. 法人成りのとき、届出書のどこに会社のことを書きますか?

「廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合」という専用の欄に、設立法人名、代表者名、法人納税地、設立登記の年月日の4つを書きます。あわせて届出の区分の廃業の欄で、事業を引き継いだ先として会社の所在地と法人名を書きます。設立登記が終わって登記事項証明書が出てから作るほうが確実です。

Q. 青色申告の取りやめ届出書も必ず出す必要がありますか?

個人に事業所得も不動産所得も残らないなら出します。ただし、事業は会社に移すがアパートの家賃収入は個人に残す、といった場合は取りやめないほうが有利になることがあります。取りやめると青色申告特別控除や赤字の繰り越しが使えなくなるためです。金額と事情で変わるので、出す前に税務署か税理士に確認してください。

Q. 「その他参考事項」の欄には何を書けばよいですか?

給与の支払事務を扱う事務所を廃止した場合は、給与の支払事務を引き継いだ先の事務所等の所在地を書くよう国税庁が案内しています。法人成りなら、引き継ぎ先は自分が作った会社なので、その所在地を書きます。個人の源泉徴収と会社の源泉徴収がつながっていることが伝わり、後からの問い合わせが減ります。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月9日最終更新:2026年9月19日
丸山 桃子

この記事を書いた人

丸山 桃子@SOHO編集部

アパレルEC運営支援・SNSコンサル

アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。

@SOHOで仕事を探してみませんか?

手数料0%・登録無料のクラウドソーシング。フリーランスの方も企業の方も、今すぐ始められます。

関連記事

カテゴリから探す

クラウドソーシング入門

クラウドソーシング入門

クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド

職種別ガイド

職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク

副業・在宅ワーク

副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス

フリーランス

フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

スキルアップ

スキルアップ

プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング

比較・ランキング

サービス比較・おすすめランキング

AI活用

AI活用

職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド

最新トレンド

市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド

発注者向けガイド

クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア

転職・キャリア

転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師の転職・求人

看護師の転職・求人

看護師の転職・派遣・単発バイト・副業など働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

薬剤師の転職・求人

薬剤師の転職・求人

薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人

介護職の転職・求人

介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人

保育士の転職・求人

保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人

医療職の転職・求人

医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険

保険

生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人

採用・求人

無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース

オフィス・ワークスペース

バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

法律・士業

法律・士業

契約トラブル・士業独立開業・フリーランス新法

シニア・50代

シニア・50代

シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ

セキュリティ

サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック

金融・フィンテック

暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス

経営・ビジネス

経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材

ガジェット・機材

フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方

子育て×働き方

子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金

補助金・助成金

個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド

アウトソーシング・外注ガイド

SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方