所得税の青色申告の取りやめ届出書|法人成りで出す書類

前田 壮一
前田 壮一
所得税の青色申告の取りやめ届出書|法人成りで出す書類

この記事のポイント

  • 青色申告取りやめ届出書を法人成りのときに出すべきか迷う人向けに
  • 再び青色に戻るまでの1年の制限までを
  • 国税庁とe-Gov法令検索の記載で確認しながら整理します

青色申告取りやめ届出書という紙の名前を初めて見た人は、まず安心してほしい。これは罰を受けるための書類でも、何かを諦めるための書類でもなく、「来年からは青色申告をやめます」と税務署に知らせるだけの1枚だ。法人成りをする人がこの紙を調べ始めるのは、会社の登記が終わって、個人事業のほうの片付けを始めた段階が多い。廃業届と一緒に出すように案内されて、内容をよく分からないまま出してしまいそうになる。ここで整理しておきたいのは、この届出書は法人成りの場面では出さなくてよいことがあり、しかも出すと1年間は青色に戻れなくなるという点だ。以下では、正式名称、期限、書き方、出す人と出さない人の線引き、そして出したあとに何が使えなくなるかを、国税庁の手続案内と条文で確認できる範囲だけで並べていく。

この届出書が何を伝える紙なのか

正式な名前は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」という。国税庁の手続案内では「A1-9 所得税の青色申告の取りやめ手続」として載っていて、概要の欄にはこう書かれている。

[概要] 青色申告の承認を受けていた方が、青色申告書による申告を取りやめようとする場合の手続です。 出典: nta.go.jp

青色申告というのは、一定の水準で帳簿を付けることと引き換えに、税金の計算で有利な扱いを受けられる仕組みのことだ。使うには事前に「所得税の青色申告承認申請書」を出して承認を受ける必要があり、一度承認されると、やめると言うまで毎年続く。つまり青色申告は「今年は青、来年は白」と年ごとに選び直すものではなく、入口で申請し、出口で取りやめを届け出る、という出入りのある状態だと考えるとよい。取りやめ届出書は、その出口にあたる。

提出先は納税地を所轄する税務署長で、手数料はかからない。用紙は国税庁のサイトからダウンロードでき、e-Taxソフトで作って電子で出すこともできる。紙で書いて郵送しても、窓口に持っていってもよい。税務署が閉まっている土曜日・日曜日・祝日でも、時間外収受箱に投函すれば受け付けてもらえる。ここまでは、ほかの届出書とだいたい同じだ。

根拠になっている条文は所得税法第151条で、この条文には、取りやめ届出書を出したときの効果もはっきり書いてある。届出書の提出があったときは、その年分以後の各年分の所得税については承認が効力を失う、という内容だ。つまり出した瞬間に過去がさかのぼって白色になるわけではなく、「やめると書いた年の分から先」が白色申告に切り替わる。この「いつから効くのか」を取り違えると、去年の申告まで心配することになるので、最初に押さえておきたい。

もう1つ、名前が似ていて混同しやすい書類がある。「青色申告の承認の取消し」だ。こちらは帳簿の備付けや保存が決められたとおりに行われていないなどの理由で、税務署長の側から承認を取り消す処分で、本人の意思とは関係なく行われる。取りやめ届出書は自分から出すもの、取消しは税務署から通知が来るもの、という違いがある。どちらも青色でなくなるという結果は同じだが、経緯がまったく違う。

2026年1月から、提出期限の書き方が変わった

期限の話に移る。長いあいだ、この届出書の期限は「やめようとする年の翌年3月15日まで」と説明されてきた。ところが、根拠条文である所得税法第151条の文言が2026年1月1日から書き換わっている。e-Gov法令検索で2025年時点の条文と現在の条文を並べると、違いが1か所だけはっきり出る。

2025年12月31日まで、条文の該当部分は「その年分以後の各年分の所得税につき青色申告書の提出をやめようとするときは、その年の翌年三月十五日までに」という書き方だった。

これが2026年1月1日以降は、「その年の翌年三月十五日までに」の部分が「その年分の所得税に係る確定申告期限までに」に置き換わった。国税庁の手続案内も同じ書き方に更新されていて、提出時期の欄には「青色申告を取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限までに提出してください」と書かれている。

日付そのものは、多くの人にとって変わらない。所得税の確定申告期限は原則として翌年3月15日だからだ。では何が変わったのかというと、期限の決め方が「特定の日付」から「確定申告期限」という基準に変わった。確定申告期限が延長される年には、この届出書の期限も一緒に動く。過去には災害や感染症の影響で申告期限が後ろにずれた年があり、そのたびに個別の書類の期限をどう扱うかが問題になっていた。基準をそろえておけば、そうした年でも迷わずに済む。

同じ改正は、個人事業の開業・廃業等届出書の根拠である所得税法第229条にも入っている。こちらは「事実があった日から1か月以内」から「その事実があった日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに」に変わった。廃業届と青色の取りやめ届出書、2枚の期限がどちらも確定申告期限に統一されたことになる。法人成りをした年の確定申告を作るタイミングで、必要な書類をまとめて出す。この段取りが、2026年からは制度の側からも自然になった。

期限に余裕ができたことと、後回しにしてよいことは別だという点だけ付け加えておく。取りやめ届出書を出さないまま放置すると、青色申告の承認は形の上では続いていることになり、帳簿を付ける義務も残っている状態になる。片付けるつもりなら、確定申告の準備と一緒に片付けてしまうほうが、結果として手間が少ない。

法人成りのときは、そもそも出さなくてよいことがある

ここが、この記事でいちばん伝えたい部分だ。法人成りで個人事業を完全にやめる場合、青色申告の取りやめ届出書は、法律上は出さなくても承認が消える。

所得税法第151条には、届出書の話とは別に、こういう定めがある。

第百四十三条の承認を受けている居住者が同条に規定する業務の全部を譲渡し、又は廃止した場合には、その譲渡し、又は廃止した日の属する年の翌年分以後の各年分の所得税については、その承認は、その効力を失うものとする。 出典: laws.e-gov.go.jp

事業の全部を譲り渡すか、全部をやめた場合には、その年の翌年分から青色申告の承認が自動的に効力を失う、と書かれている。法人成りというのは、個人でやっていた事業を会社に移すことだから、多くの場合ここに当てはまる。つまり、廃業届を出して個人の事業を全部たたむのであれば、取りやめ届出書を出さなくても翌年から白色に戻る、というより、そもそも個人としての事業がないので青も白もない状態になる。

国税庁の廃業届の案内ページにある書き方も、この点を踏まえたものになっている。備考の欄は「事業を廃止する方で青色申告の取りやめをされる方は」という条件付きの表現で、廃業する人は全員出してください、とは書かれていない。取りやめをする意思がある人は出す、という読み方になる。

それなら、なぜ多くの解説記事が「廃業届と一緒に取りやめ届出書を出しましょう」と書くのか。理由は2つある。1つは、税務署の側で「この人はもう青色申告をしない」と分かりやすくするため。もう1つは、個人の事業を全部やめたのかどうかが外から判断しにくいケースがあるためだ。たとえば法人成りしたあとも個人名義の不動産を貸していれば、それは不動産所得を生む業務が残っている状態で、全部を廃止したことにはならない。この線引きを自分で判断せずに済ませるために、実務では「迷ったら出す」という案内になりやすい。

ただし後述するとおり、出すと1年間は青色に戻れないという制限が付く。迷ったら出す、という判断が裏目に出る場面もある。事業が全部終わるのか、一部が個人に残るのかを、出す前に必ず確認しておきたい。

出すべき人と、出してはいけない人

判断の軸は1つだけで、法人成りしたあとに個人としての事業所得・不動産所得・山林所得が残るかどうかだ。

残らない人、つまり個人でやっていた仕事を全部会社に移し、個人としては会社から役員報酬を受け取るだけになる人。この場合、青色申告の承認は翌年分から自動的に効力を失う。取りやめ届出書を出しても出さなくても、結果は同じになる。税務署に意思をはっきり伝えておきたいなら出してよいし、あとで個人事業を再開する可能性が少しでもあるなら、出さずに廃業届だけにしておくという選択もある。

残る人、これがいちばん注意が必要な層だ。具体的には、次のようなケースがある。法人成りしたあとも個人名義でアパートや駐車場を貸している。会社に移さなかった細い受託の仕事を、個人でそのまま続けている。山林を持っていて、そこから所得が出る見込みがある。いずれも個人としての帳簿が続く状態で、青色申告の承認を残しておく価値がある。ここで取りやめ届出書を出してしまうと、その年分から青色の特典が全部使えなくなる。不動産所得で毎年10万円の控除を受けていた人が、手続きの流れでうっかり出してしまい、それを失うという事故が起きうる。

もう1つ、出してはいけない場面がある。法人成りではなく、単に帳簿を付けるのが大変だからという理由で白色に戻ろうとしている場合だ。青色申告特別控除には10万円の枠があり、この枠を使うだけなら簡易な記帳で足りる。現金出納帳や経費帳のような帳簿を備え付けて簡単に記帳するだけでよい、と国税庁の案内にも書かれている。白色申告でも記帳と書類の保存は義務なので、手間の差はそれほど大きくない。にもかかわらず控除だけを捨てることになる。

判断に迷ったときは、提出前に税務署の相談窓口か税理士に確認してほしい。この届出書は、出してから「やっぱり取り消したい」と言っても簡単には戻せない性質のものだ。個別の事情によって扱いが変わる部分もあるので、書類を書く前に一度ぶつけておくほうが確実になる。

用紙の書き方で迷いやすいところ

用紙は1枚もので、記入する欄はそれほど多くない。上から順に見ていく。

税務署名と提出年月日。納税地を所轄する税務署の名前を書く。どこが管轄かは、国税庁のサイトの税務署の所在地を調べるページで住所から引ける。

納税地、氏名、生年月日、個人番号、職業、屋号。納税地は原則として住所地になる。事業所の所在地を納税地にしている人は、そちらを書く。屋号がなければ空欄でよい。個人番号を紙の届出書に書いて提出するときは、本人確認書類の提示か写しの添付が必要になる。e-Taxで出す場合は、この添付は不要とされている。

取りやめようとする年。ここがいちばん間違えやすい。書くのは「青色申告をやめる最初の年」であって、最後に青色申告をした年ではない。2026年分までは青色で申告し、2027年分から白色にするなら、ここには2027年と書く。条文の「その年分以後の各年分」の「その年」が、ここに書いた年にあたる。

取りやめる理由。廃業したのか、記帳が難しいのか、法人成りしたのかを書く。決まった選択肢があるわけではないので、「法人成りにより個人事業を廃止したため」のように、事実をそのまま1行で書けばよい。ここに何を書いたかで扱いが変わることはない。

参考事項として、青色申告の承認を受けていた期間を書く欄がある。承認申請書を出した年が分からない場合は、手元の確定申告書の控えで、青色申告決算書を付けて出した最初の年を探すと当たりが付く。

記載要領も国税庁のサイトに用意されている。書き方に迷ったら、用紙と一緒にそちらも開いておくとよい。

出すと何が使えなくなるのか

取りやめ届出書を出すということは、青色申告の特典を全部手放すということだ。何を手放すのかを具体的に並べておく。

青色申告特別控除。所得金額から55万円、一定の要件を満たせば65万円、簡易な記帳の場合は10万円を差し引ける制度で、青色申告の代表的な特典にあたる。

この55万円の控除を受けるための要件は、次のようになっています。(1) 不動産所得 または 事業所得 を生ずべき事業を営んでいること。(2)これらの所得に係る取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること。 出典: nta.go.jp

さらに65万円にするには、仕訳帳と総勘定元帳を一定の要件を満たす形で電子データとして保存するか、確定申告書と貸借対照表、損益計算書などを期限までにe-Taxで送信する必要がある。白色に戻ると、この控除は全額なくなる。

青色事業専従者給与。生計を一にする配偶者や親族で、その年の12月31日時点で15歳以上、その年を通じて6か月を超える期間その事業に専ら従事している人に払った給与を、届出書に書いた範囲内で必要経費にできる仕組みだ。白色に戻ると、この扱いは使えなくなる。代わりに事業専従者控除という別の制度があり、配偶者は最高86万円、15歳以上のその他の親族は1人あたり最高50万円まで必要経費として差し引ける。ただし控除前の事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った金額が上限になるので、所得が小さい年は満額を使えないことがある。

貸倒引当金。売掛金や貸付金が回収できなくなる見込み額として、年末の貸金の帳簿価額の合計額の5.5パーセント以下を必要経費にできる(金融業は3.3パーセント)。白色に戻ると一括評価による繰入れはできなくなる。

純損失の繰越しと繰戻し。赤字が出て損益通算でも引ききれない金額を、翌年以後3年間にわたって繰り越し、各年の所得から差し引ける。前年も青色申告をしていれば、繰り越す代わりに前年の所得に繰り戻して所得税の還付を受けることもできる。この2つは、収入の波が大きい仕事ほど効いてくる特典で、失ったときの影響が読みにくい。

なお、個人事業税の計算では青色申告特別控除の適用がなく、所得金額に足し戻して計算される。東京都主税局の個人事業税のページにその旨が明記されている。青色をやめても個人事業税の負担が変わらない部分がある、という意味では、失うのは所得税と住民税のほうだと理解しておくとよい。

一度やめると、すぐには青色に戻れない

出す前にいちばん確認しておきたいのがこの点だ。所得税法第145条は、青色申告の承認申請書が出されたときに税務署長が却下できる場合を並べている。そのなかの1つに、こう書かれている。

第百五十条第二項(青色申告の承認の取消し)の規定による通知を受け、又は第百五十一条第一項(青色申告の取りやめ)に規定する届出書の提出をした日以後一年以内にその申請書を提出したこと。 出典: laws.e-gov.go.jp

取りやめ届出書を出した日から1年以内に青色申告の承認申請書を出すと、税務署長はその申請を却下できる。「必ず却下される」ではなく「却下することができる」という書き方だが、実務では通らない前提で考えておくのが安全だ。

もともと承認申請には、青色申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に新しく事業を始めた場合は開始の日から2か月以内)という期限がある。ここに1年の制限が重なるので、タイミングによっては白色の期間が2年分に伸びることもある。たとえば2027年の2月に取りやめ届出書を出し、その年の夏に個人での受託を再開したくなった場合、2028年分から青色にしたくても、申請の期限である2028年3月15日は、取りやめから1年以内に当たってしまう。

法人成りの片付けの流れで、内容をよく読まずに出してしまうと、この制限が効いてくる。個人としての仕事を完全にやめる確信がないうちは、廃業届だけにしておくという判断もある。廃業届と取りやめ届出書は、セットで出さなければならない書類ではない。

なお、承認申請を出して、その年の12月31日(その年の11月1日以後に業務を始めた場合は翌年2月15日)までに税務署から処分の通知がなかったときは、承認されたものとみなされる。この点は国税庁の承認申請の案内に書かれている。却下される場合は通知が来るので、連絡がないまま年を越したら通ったと考えてよい。

廃業した年の確定申告で確認しておくこと

法人成りをした年は、個人としての確定申告を1回だけ出すことになる。1月1日から廃業の日までの事業所得を計算して、通常どおり翌年の申告期間に出す。ここで確認しておきたいことを並べる。

まず、その年はまだ青色申告者なので、青色申告特別控除は使える。取りやめ届出書に書いた「取りやめようとする年」が翌年になっていれば、廃業した年の申告は青色のまま進められる。帳簿と決算書を用意して、期限までに出す。e-Taxで出せば65万円の枠を狙える条件の1つを満たせる。

次に、事業を廃止した年の必要経費の特例がある。廃業後に支払うことになった費用のうち、事業をしていた期間に対応するものは、一定の範囲で廃業年の必要経費に算入できる扱いがある。取引先に支払う残りの外注費、廃業した年の分の個人事業税、事務所の原状回復費用などが典型例になる。ただし、どこまでが対象になるかは事情によって変わるので、金額が大きい場合は税務署か税理士に確認してほしい。

3つ目に、帳簿と書類の保存義務は廃業しても消えない。青色申告の帳簿書類は原則として7年間、請求書や見積書、納品書などは5年間の保存でよいものもある、と国税庁の案内にある。会社の書類と混ざると探せなくなるので、個人事業の分は箱なりフォルダなりを分けて残しておきたい。

4つ目に、予定納税の扱いがある。前年の申告をもとに予定納税の通知が来ている場合、廃業で今年の所得が大きく減るなら、減額の申請ができる。期限が決まっているので、通知が届いたら放置せずに確認しておきたい。

同時に出す書類と、出す順番

法人成りのときに個人側で出す書類は、取りやめ届出書だけではない。国税庁の廃業届の案内には、事業を廃止する人が併せて検討すべき書類として、青色申告の取りやめ届出書と、消費税の事業廃止届出書が挙げられている。整理すると次のようになる。

個人事業の開業・廃業等届出書。廃業した事実を伝える基本の1枚で、期限は2026年1月以降、廃業した年分の確定申告期限まで。

所得税の青色申告の取りやめ届出書。この記事で扱っている書類で、期限は取りやめようとする年分の確定申告期限まで。個人の事業が全部終わるなら、法律上は出さなくても承認は失効する。

消費税の事業廃止届出書。課税事業者だった人が対象で、期限は「事由が生じた場合、速やかに」とされている。ただし廃止する事業のほかに課税売上に当たる所得が残る人は対象外になる。

給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書。従業員や専従者に給与を払っていた個人事業主が対象で、こちらは廃止の事実があった日から1か月以内という短い期限が残っている。法人側でも同じ書類を開設として出すことになるので、廃止と開設を同じ時期に処理することになる。

個人事業税の事業開始(廃止)等申告書。都道府県に出す書類で、年の中途で事業を廃止した場合は廃止の日から1か月以内。これも短い。

出す順番に決まりはないが、期限が短いものから片付けるのが安全だ。給与支払事務所の廃止と個人事業税の申告は1か月以内、残りは確定申告期限まで、という2つのグループに分けて考えると整理しやすい。

いくら損をするのかを、数字で置いてみる

特典の名前を並べても、出すかどうかの判断には結びつきにくい。金額に置き換えてみる。以下は考え方を示すための試算で、実際の負担は他の所得や控除の状況で変わる。

所得税と住民税を合わせた負担率が20パーセント程度の人を想定する。青色申告特別控除の65万円が使えなくなると、単純計算で13万円の差が出る。

65万円 × 20パーセント = 13万円

電子帳簿やe-Taxの条件を満たしておらず10万円の控除だった人なら、差は2万円だ。同じ制度でも、使い方によって影響が6倍以上ちがう。自分がどの枠を使っていたかは、前年の確定申告書の「青色申告特別控除額」の欄を見れば分かる。

配偶者に給与を払っていた場合は、もっと大きく動くことがある。青色事業専従者給与として月8万円、年96万円を必要経費にしていたとする。白色に戻ると、使えるのは事業専従者控除で、配偶者は最高86万円だ。それだけなら差は10万円だが、上限の計算がもう1つ乗る。控除前の事業所得等を専従者の数に1を足した数で割った金額が上限になるので、控除前の所得が150万円しかない年は、150万円を2で割った75万円が天井になる。

150万円 ÷ (1人 + 1) = 75万円

この場合、96万円払っていても引けるのは75万円までで、差は21万円に広がる。所得が小さいときほど、この上限に当たりやすい。

赤字が出る可能性がある人は、繰越しの価値も見ておきたい。ある年に100万円の赤字が出て、翌年に100万円の黒字が出たとする。青色なら繰り越した赤字を翌年の所得から差し引けるので、負担率20パーセントで20万円の税負担が消える。白色ではこの繰越しができないため、赤字の年は何も返ってこず、黒字の年は満額で課税される。

3つを合わせると、規模の小さい事業でも年に10万円から30万円の幅で差が出る。逆に、個人に残す所得がほとんどない、あるいは赤字も黒字も出ない見込みなら、青色を維持しても使い切れない。金額で比べてから決めるのが、いちばん納得できる。

白色に戻っても、記帳と保存の義務は消えない

取りやめ届出書を出すと帳簿をつけなくてよくなる、と受け取っている人がいる。これは誤りだ。国税庁の案内にはこう書かれている。

青色申告者については、一定の要件を備えた帳簿書類を備え付け、記録し、保存するよう定められていますが、白色申告者に対しても、記帳制度や記録保存制度が設けられています。 出典: nta.go.jp

記帳が必要なのは、不動産所得、事業所得、山林所得のある人だ。書く内容は、売上などの収入金額と、仕入れや経費に関する事項。取引の年月日、相手の名称、金額、日々の売上と仕入れと経費の金額を帳簿に記載する。ただし1件ずつ書く必要はなく、日々の合計金額をまとめて書く簡易な方法でよいとされている。

保存する年数も決まっている。同じ案内によれば、収入金額や必要経費を記載した帳簿は7年、それ以外の帳簿は5年、決算に関して作成した棚卸表その他の書類は5年、請求書や納品書や送り状や領収書などの書類は5年だ。確定申告書に添付する書類も、青色申告決算書から収支内訳書に変わるだけで、なくなるわけではない。

楽になるのは、複式簿記でつける必要がなくなる点と、貸借対照表を作らなくてよくなる点に限られる。会計ソフトを使っていれば複式簿記の手間はほとんど自動で処理されるので、実際に軽くなる負担は小さい。「帳簿が面倒だから白色に戻る」という理由で出すのは、失う金額に対して得るものが釣り合わない。

なお、売上に関する帳簿を保存していなかった場合や記載が不十分だった場合には、税務調査でそれが分かったときに加算税の割合が重くなる扱いがある。白色だから帳簿は適当でよい、という話にはならない。

勘違いしやすい5つ

出す前に押さえておきたい思い違いを挙げる。

1つ目は、廃業届とセットで出す書類だと思ってしまうこと。個人の事業が全部終わるなら、承認はもともと失効するので、この届出書は要らない。セットで案内されることが多いのは、廃業の理由が事業の全部終了とは限らないからだ。

2つ目は、出せばその年から白色になると思ってしまうこと。書くのは「取りやめようとする年」で、通常は翌年分を指す。今年の申告は青色のまま進む。今年から白色にしたいと考えて出すと、思っていた年とずれる。

3つ目は、また必要になったらすぐ戻せると思ってしまうこと。届出書を出した日から1年以内の承認申請は却下されうる。承認申請にはもともと3月15日という期限があるので、2つが重なると白色の期間が2年分に伸びることがある。

4つ目は、不動産所得は関係ないと思ってしまうこと。事業を会社に移して建物だけ個人に残すなら、不動産所得が個人に残る。この場合、青色を維持していれば10万円の控除や繰越しが使える。取りやめてしまうと、残した所得の側で損をする。

5つ目は、法人の青色申告と続きだと思ってしまうこと。個人の青色申告の承認と、会社の青色申告の承認は別だ。個人で取りやめても会社の承認には影響せず、会社は設立から3か月を経過した日と最初の決算日のうち早い日の前日までに、自分で承認申請書を出す必要がある。ここを個人の手続きと混ぜると、会社の1期目で赤字の繰越しが使えなくなる。

独自データから見た、白色に戻る判断の重み

在宅ワーク求人サイトを20年運営してきた立場から見ると、青色を取りやめるかどうかで迷う人の多くは、書類の手間ではなく、その先の働き方が決まっていないことに迷っている。会社を作ったあとも個人で受ける仕事を残すのか、全部会社に寄せるのか。ここが決まっていないから、書類の判断も決まらない。

運営者として見てきた限りでは、法人成りのあとに個人側を完全に閉じた人と、一部を残した人とで、その後の伸び方に共通の傾向がある。閉じた人は、法人としての取引口座を1つずつ作り直す作業に時間を使い、最初の数か月は売上が落ちる。残した人は、切り替えの案内を出すあいだも個人の口座で受け続けられるので落ち込みが小さい。ただし残した側は、帳簿が2本になるので事務が重くなる。どちらが正しいというより、事務を引き受けられるかどうかで決まる話だ。

仕事の中身によっても答えは変わる。単価の高い領域に移れるなら、法人に寄せて取引先を絞るほうが楽になる。たとえばAIコンサル・業務活用支援のお仕事は、業務の棚卸しから導入の設計まで含む相談型の仕事で、1件あたりの期間が長く、法人名義のほうが話が進みやすい。同じくAI・マーケティング・セキュリティのお仕事は、社内のルールづくりや運用まで踏み込む案件が多く、契約の相手が法人であることを求められやすい。開発を主軸にするならアプリケーション開発のお仕事に、受託の形と規模の幅がまとまっている。

単価の見通しを立てておくことも、判断の材料になる。ソフトウェア作成者の年収・単価相場には開発職の収入の分布が、著述家,記者,編集者の年収・単価相場には書く仕事の水準がまとめてある。個人に残す仕事の売上がどのくらいになりそうかを、こうした相場と照らして見積もっておけば、青色を残す価値があるかどうかを金額で比べられる。年間の所得が100万円に届かないなら、控除枠を使い切れないので残す意味は薄い。逆に不動産所得が安定してあるなら、残す一択になる。

取引先に対する説明の材料を増やしておくのも効く。法人になったばかりの会社は実績が見えないので、相手は判断材料を探している。ビジネス文書検定のように書類のやり取りの型を示せるものや、CCNA(シスコ技術者認定)のような技術の裏付けは、名刺の会社名がまだ知られていない時期には効く。

お金の置き場所も、法人成りを機に変わる。個人のときは売上がそのまま生活費だったが、会社にすると毎月の役員報酬を決め、残りを会社に置くことになる。【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオは、長期で積み上げるときの考え方を数字で追っていて、報酬の額を決めるときの下敷きになる。廃業した年の個人の申告そのものに不安があるなら、確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツで、何が控除でき、どこで還付が生まれるかを先に確認しておくとよい。デザイン系の仕事を法人で続けるなら、UI/UXデザイナーの平均年収は?職種別の収入格差を公開【2026年版】で職種ごとの収入差を見ておくと、単価を決めるときの材料が増える。

最後に、20年この市場を見てきた立場から1つだけ書いておく。中間に手数料が乗らない直接の取引は、同じ予算でも依頼する側はより多く頼めて、受ける側は手取りが厚くなる。法人成りをすると、この構造がそのまま会社の利益率に効いてくる。長く続く人ほど、単発の作業を追いかけるのではなく、この人に任せておけば楽だという関係を作ることに時間を使っている。青色申告の取りやめ届出書を出すかどうかは、その関係をどこに置くか、個人に残すのか会社に寄せるのかという問いと同じ場所にある。書類の期限は2026年から確定申告期限までに緩んだ。その分の時間を、取引先との巻き直しに使うほうが、結局は先の売上につながる。

よくある質問

Q. 法人成りしたら青色申告の取りやめ届出書は必ず出しますか?

必ずではありません。所得税法第151条には、事業の全部を譲渡または廃止した場合は、その日の属する年の翌年分以後について青色申告の承認が効力を失うと定められています。個人の事業を全部たたむなら出さなくても承認は消えます。ただし個人に不動産所得などが残る場合は、出すと特典を失うので出さないでください。

Q. 取りやめ届出書の提出期限はいつですか?

青色申告を取りやめようとする年分の所得税の確定申告期限までです。2025年までは「その年の翌年3月15日まで」という書き方でしたが、2026年1月1日から所得税法第151条の文言が確定申告期限を基準にする形に変わりました。期限が土曜日・日曜日・祝日に当たるときは、その翌日が期限になります。

Q. 一度取りやめたあと、また青色申告に戻せますか?

戻せますが、すぐにはできません。所得税法第145条により、取りやめ届出書を提出した日以後1年以内に青色申告の承認申請書を出すと、税務署長はその申請を却下できると定められています。承認申請そのものにも、青色にしたい年の3月15日までという期限があるため、白色の期間が2年分に伸びることがあります。

Q. 用紙の「取りやめようとする年」には何年を書きますか?

青色申告をやめる最初の年を書きます。2026年分までは青色で申告し、2027年分から白色にするなら2027年です。最後に青色申告をした年を書くのではない点に注意してください。提出にかかる手数料はなく、e-Tax、郵送、窓口のいずれでも提出できます。

この記事について

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編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年6月13日最終更新:2026年9月19日
前田 壮一

この記事を書いた人

前田 壮一@SOHO編集部

元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身

大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。

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