開業届と廃業届の関係|同じ用紙で出す仕組み


この記事のポイント
- ✓開業届廃業届は別々の書類ではなく
- ✓同じ1枚の用紙で出す仕組みです
- ✓国税庁の現在の案内にもとづき
「開業届廃業届」で検索する人の多くは、2種類の書類を探している。結論から言うと、探す必要はない。開業届と廃業届は同じ1枚の用紙であり、用紙の中のチェック欄で「開業」か「廃業」かを選ぶだけだからだ。しかもこの用紙の提出期限は、多くの解説記事が書いている「1か月以内」ではなくなっている。この記事では国税庁が現在案内している内容にもとづいて、用紙の正体、期限、書き方、出し方、そして一緒に出すことになる書類までを一本につなげて整理する。
開業届と廃業届は、もともと同じ1枚の用紙
正式な名前は「個人事業の開業・廃業等届出書」という。名前の中に開業と廃業が並んで入っていることからも分かるとおり、1枚で両方を兼ねている。国税庁の手続案内でも、この手続は「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」というひとつの項目にまとめられていて、開業用と廃業用のページが分かれているわけではない。
新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。 出典: nta.go.jp
つまりこの用紙が受け持つ場面は5つある。事業を始めたとき、事務所を新しく作ったとき、増やしたとき、移したとき、やめたときだ。この5つを1枚で処理する設計になっているので、「廃業届」という名前の独立した用紙を探しても見つからない。書類の名前で検索してPDFが出てこないと不安になるが、それは存在しないものを探しているだけである。
対象になるのは、事業所得、不動産所得、山林所得を生む事業を始めた人だ。在宅でデザインやライティングを請け負う働き方も、継続して対価を受け取っているなら事業所得として扱われるのが一般的だが、収入の規模や継続性によって雑所得と判定される場合もある。どちらになるかは個別の事情で変わるので、迷うなら税務署か税理士に確認してから出すのが確実だ。
用紙はA4で1枚。国税庁のサイトからPDFをダウンロードして、画面上で入力して印刷できる。ダウンロードせずにブラウザ上で入力すると内容が保存されないことがあるので、いったん手元に落としてから開くほうが安全だ。記載要領も別PDFで用意されていて、欄ごとの説明が付いている。
提出期限は「開始から1か月以内」ではなくなっている
ここが今のところ、ほとんどの解説記事と国税庁の案内がずれている部分だ。長いあいだ「事業の開始等の事実があった日から1か月以内」と案内されてきたため、その一文がそのままコピーされ続けている。正直なところ、これはどうかと思う。現在の国税庁の案内はこう書かれている。
事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください。 なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。 出典: nta.go.jp
廃業のときも同じ考え方で、「廃業した年分の所得税の確定申告期限」が期限として示されている。2026年の途中で廃業したなら、2027年3月の確定申告期限までに出せばよい、という読み方になる。1か月という短い期間に追われる必要は、少なくとも期限の面ではなくなっている。
ただし、期限に余裕があることと、出すのを先延ばしにしてよいことは別だ。早く出したほうがいい理由は期限とは別のところにある。青色申告で申告したい人は、青色申告承認申請書という別の申請を出す必要があり、そちらには「その年の3月15日まで、1月16日以降に開業したなら開業の日から2か月以内」という短い期限が付いている。開業届を書くタイミングで一緒に片付けてしまわないと、こちらの期限を落とす。
また、屋号名義の銀行口座を作るとき、補助金や融資を申し込むときに、事業を始めた事実を示す材料として提出済みの届出が求められることがある。この用途では「期限に間に合ったか」ではなく「もう出してあるか」が問われるので、必要になってから慌てることになりやすい。期限が延びたぶん、自分の予定で前倒しして出すという判断が要る。
用紙のどこに何を書くか
用紙は上から順に、提出先の税務署名、提出日、納税地、氏名、生年月日、マイナンバー、職業、屋号という並びで進む。納税地は原則として住んでいる場所だが、事業所の住所を納税地にしている人はそちらを書く。職業欄は「Webデザイン業」「編集業」のように、何で収入を得ているかが分かる書き方でよい。屋号がなければ空欄で構わない。
その下に「届出の区分」という欄があり、ここで開業か廃業かを選ぶ。開業と廃業のほかに、事務所の新設・増設・移転・廃止の選択肢が並んでいる。廃業を選んだときは、廃業の理由を書く欄が現れる。会社を作ってそちらに事業を引き継ぐ、いわゆる法人成りの場合は、この欄に法人の名称、代表者の名前、法人の納税地を書く。
続いて所得の種類(事業所得か不動産所得か山林所得か)、開業または廃業の日、事業の概要、給与等の支払の状況が並ぶ。給与の欄は、家族に給与を払う青色事業専従者や、従業員がいる場合にだけ埋める。ひとりで受注している人は空欄でよい。
見落としやすいのが、用紙の中ほどにある「開業・廃業に伴う届出書の提出の有無」という小さなチェック欄だ。ここには青色申告承認申請書と、消費税に関する届出を出すかどうかを書く。この欄にチェックを入れただけでは、その申請を出したことにはならない。あくまで別の用紙を提出する必要がある。ここを勘違いして青色申告の申請を出し忘れる例は珍しくない。
マイナンバーを書いた書面を窓口や郵送で提出するときは、そのつど本人確認書類の提示か写しの添付が必要になる。マイナンバーカードがあれば1枚で足りるが、通知カードしかない場合は身元確認のための書類をもう1点用意することになる。
出し方は3通り。e-Tax、窓口、郵送
提出方法は、e-Taxで送る、税務署の窓口に持っていく、郵送で送る、の3つだ。国税庁が第一に案内しているのはe-Taxで、パソコンからe-Taxソフトで届出書を作って送信する形になる。初めて使うときは利用者識別番号の取得が先に必要だ。e-Taxで出す場合、本人確認書類の提示や写しの添付は不要になる。これは地味だが手間としては大きい差だ。
窓口に持っていく場合、税務署の開庁時間は8時30分から17時まで。土日祝などの閉庁日は受付をしていないが、時間外収受箱に投函することで提出できる。郵送でも問題なく受け付けられる。
提出先は、納税地を所轄する税務署長だ。ここで誤解が多いのは、事務所を移転したり廃止したりする場合の扱いである。移転先や廃止した事業所の住所が納税地と違っていても、納税地を所轄する税務署以外に出す必要はない。国税庁の案内にも、納税地を所轄する税務署長以外への提出は不要だと明記されている。2枚書いて2か所に送る、という手間は発生しない。
なお、事務所を移転する場合で、移転前の事業所の所在地を納税地にしていたときだけは、移転前の住所を所轄する税務署長が提出先になる。細かいが、引っ越しを伴う人は確認しておきたい点だ。
令和7年1月から、控えに受付印は押されない
実務でいちばん影響が大きい変更がこれだ。2025年1月から、税務署は申告書や届出書の控えに収受日付印を押さなくなった。窓口に控えを持っていっても、日付印は押されない。
令和7年1月から、申告書等の控えに収受日付印の押なつを行いません。 書面申告等における申告書等の提出(送付)の際は、申告書等の正本(提出用)のみを提出(送付)していただきますようお願いいたします。 出典: nta.go.jp
控えの作成と保管、提出年月日の記録は、提出する側が自分で行うことになった。当分の間の対応として、窓口では見直しの内容を説明するリーフレットに収受した日付と税務署名を書いたものを、希望する人に渡している。郵送で切手を貼った返信用封筒を同封した場合も、同じように日付と税務署名を書いたリーフレットが返ってくる。
では、提出した事実をあとから証明したいときはどうするか。確認の手段は用意されている。e-Taxで送信していれば、受信通知に提出者の氏名、受付番号、受付日時が残り、そこから電子申請等証明書の交付を請求できる。書面で出した場合でも、所得税の確定申告書や収支内訳書などはマイナンバーカードを使って申告書等情報取得サービスからPDFで無料取得できる。ほかに保有個人情報の開示請求(手数料300円、オンライン申請なら200円)、税務署窓口での閲覧サービス、納税証明書の交付請求(税目ごと1年度1枚400円、オンラインなら370円)という選択肢がある。
国税当局は金融機関や補助金を担当する行政機関に対して、2025年1月以降は受付印のある控えを求めないよう周知していると説明している。とはいえ現場では以前の運用が残っている場合もあるので、屋号口座や融資の申込で控えを求められそうな人ほど、最初からe-Taxで出して受信通知を残しておくほうが後が楽になる。
開業のときに、同じ時期に検討する書類
開業届を出す場面では、ほかにもいくつかの用紙が同じタイミングで登場する。全部が必須ではないが、期限が短いものから押さえたい。
いちばん重要なのが所得税の青色申告承認申請書だ。期限は青色申告をしようとする年の3月15日まで。その年の1月16日以降に開業した場合は、開業の日から2か月以内に出す。青色申告を選ぶと、正規の簿記で記帳して貸借対照表と損益計算書を期限内に提出することで最高55万円の控除が使える。さらに電子帳簿保存かe-Taxによる電子申告をしていれば最高65万円になる。簡易な記帳にとどまる場合は最高10万円だ。赤字が出たときに翌年以後3年間にわたって繰り越せる点も、事業の初期では効いてくる。
棚卸資産の評価方法の届出書と減価償却資産の償却方法の届出書は、最初の確定申告書の提出期限までが期限になっている。届け出なければ法定の方法が適用されるので、必ず出すものではない。従業員や家族に給与を払う予定があり、給与の支給人員が常時10人未満なら、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を出すことで、毎月の納付を年2回にまとめられる。こちらの提出時期は随時だ。
消費税については、開業したときから課税事業者として申告したい場合に消費税課税事業者選択届出書を開業した年の12月31日までに出す。インボイスを交付したい場合は適格請求書発行事業者の登録申請書を出す。ただし、どちらかを出すと開業後2年間は課税事業者として消費税の申告が必要になる。取引先の要請で登録するかどうかは、取引の相手がどんな事業者かによって損得が変わる話なので、判断する前に数字を作って比べたほうがいい。
納め方の段取りも、開業の届出と同じ時期に決めておく
開業する場合の書類一覧には、税額を計算する書類のほかに、納め方を決める書類も並んでいる。見落とされがちだが、あとから慌てないために最初に済ませておきたい部分だ。
ひとつが振替納税で、預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書を、振替納税を利用する国税の納期限までに出しておくと、口座からの引き落としで納付できる。もうひとつがダイレクト納付で、国税ダイレクト方式電子納税依頼書兼国税ダイレクト方式電子納税届出書を、利用する日のおおむね1か月前までに出す。どちらも、納期限の当日に銀行へ行く必要をなくすための手続だ。事業の初年度は確定申告と予定納税の時期が読みにくいので、引き落としにしておくと納め忘れの事故が減る。
給与を払う予定がある人は、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書も同じ時期に検討したい。給与の支給人員が常時10人未満であることが条件で、提出時期は随時。承認を受けると、毎月納めていた源泉所得税を年2回にまとめられる。1人で受注している段階では関係がないが、外注ではなく雇用に切り替える判断をしたときに効いてくる。
記帳の仕方が分からないという理由で届出をためらう人もいるが、税務署は白色申告で新たに記帳を始める人向けに、記帳や帳簿等の保存制度の概要を説明する記帳説明会を実施している。会計ソフトの使い方を有料で習う前に、まずこちらを確かめてみるという順番もある。
廃業のときに、同じ時期に出す書類
廃業側も、1枚で終わらないことが多い。国税庁の「廃業する場合」の案内では、廃業する人が出す書類として3つが並んでいる。個人事業の開業・廃業等届出書(廃業した年分の確定申告期限まで)、所得税の青色申告の取りやめ届出書(取りやめようとする年の確定申告期限まで)、そして消費税の課税事業者が出す事業廃止届出書(速やかに)だ。
青色申告の取りやめ届出書は、青色申告の承認を受けていた人だけが対象になる。白色で申告してきた人には関係がない。事業廃止届出書のほうは、消費税の課税事業者、または課税事業者を選択している人で、廃止する事業のほかに課税売上に当たる所得(不動産所得など)がない人が対象だ。不動産の賃貸収入が残るなら、消費税の側では事業が続いているので出さない。
会社を作ってそちらに事業を移す法人成りの場合は、ここに法人側の書類が加わる。法人設立届出書は設立の日以後2か月以内。法人の青色申告の承認申請書は、設立の日以後3か月を経過した日か最初の事業年度の終了日のいずれか早い日の前日まで。役員報酬や給与を払うなら給与支払事務所等の開設届出書を、事務所を設けてから1か月以内に出す。これらはマイナポータルの法人設立ワンストップサービスを使えばオンラインでまとめて手続できる。
予定納税の通知が届いている人は、そちらの処理も忘れないようにしたい。予定納税は前年の申告納税額をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上の人に課される仕組みで、6月15日までに通知が届き、第1期は7月1日から7月31日まで、第2期は11月1日から11月30日までに納める。年の途中で廃業して所得が大きく減る見込みなら、減額申請という手続がある。放っておくと、事業をやめた年に多めの税金を先払いすることになる。
出さないとどうなるか、利点と不利な点を分けて見る
開業届を出す利点は、青色申告の入口に立てること、屋号名義の口座を作りやすくなること、補助金や融資の申込で事業の実在を示す材料になることに集約される。逆に、出したことで生じる注意点もある。失業給付を受けている最中に事業を始めた届出を出すと、給付の取り扱いに影響することがある。健康保険の被扶養者に入っている人も、収入の状況によって判断が変わる場合がある。どちらも金額や事情で結論が変わるため、該当しそうな人はハローワークや加入している健康保険組合に先に確認したほうがいい。
廃業届を出さない場合はどうか。税務署の側から見ると、事業は続いていることになる。その状態で申告をしなければ、申告が必要なのにしていない状態として扱われる余地が残る。予定納税の通知が届き続ける、消費税の課税事業者のままになる、といった実害も出る。出さなかったことに対する罰則が用意されているわけではないが、出さないことで得をする場面は基本的にない。事業をやめたなら、確定申告のタイミングで一緒に出してしまうのが現実的だ。
廃業した年の確定申告はどうなるか
廃業した年も、その年の1月1日から廃業日までに生じた所得について確定申告をする。ここで悩むのが、廃業後に入金された売掛金と、廃業後に発生した経費の扱いだ。事業をやめたあとに支払った費用でも、事業をやっていた期間に対応するものは、一定の条件のもとで必要経費として扱う取り扱いが所得税の側に用意されている。ただし何がどこまで含まれるかは個別の判断になるので、金額が大きい場合は税務署か税理士に確認してから申告したほうがいい。
廃業した年に就職して給与をもらった人は、勤務先が年末調整をする。それで終わるか、確定申告も必要かは、廃業までの事業所得やほかの所得の金額で変わる。金額の境目があるので、自分の数字を当てはめて判断することになる。確定申告そのものの考え方は確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツで、控除や還付の仕組みを含めて整理している。
赤字で終わった場合の扱いは、青色と白色で大きく違う。青色申告なら純損失を翌年以後3年間繰り越せるし、前年も青色申告をしていれば前年分に繰り戻して還付を受けることもできる。白色申告にはこの繰越しが原則としてない。同じ赤字でも、どちらで申告してきたかで手元に戻る金額が変わる。
帳簿の保存義務は、廃業したあとも続く。収入金額や必要経費を記載した法定帳簿は7年、それ以外の帳簿や、請求書・納品書・領収書などの書類は5年が保存期間だ。廃業したから捨ててよい、という話にはならない。
予定納税を減らす申請には、7月15日という締切がある
年の途中で事業をやめた人がいちばん損をしやすいのが、予定納税の扱いだ。予定納税は、その年の5月15日現在で確定している前年分の所得金額や税額をもとに計算した予定納税基準額が15万円以上になる人に課される。前年に稼いだ実績をもとにして今年の税金を先に納めさせる仕組みなので、今年やめたという事情は自動では反映されない。
通知は税務署から6月15日までに、書面またはe-Taxで届く。納める金額は原則として予定納税基準額の3分の1ずつで、第1期分は7月1日から7月31日まで、第2期分は11月1日から11月30日までが納期になる。納期限が土曜、日曜、祝日に当たる場合は翌日が納期限だ。
ここで使えるのが減額申請という手続だ。国税庁は減額申請ができる場合の例として、いちばん最初に廃業を挙げている。
(1) 廃業や休業、失業をした場合 (2) 業況不振などのため、本年分の所得が前年分の所得よりも明らかに少なくなると見込まれる場合 出典: nta.go.jp
問題は、申請できる期間が短いことにある。第1期分と第2期分をまとめて減らす申請は、その年の7月1日から7月15日までの15日間しか窓が開かない。第2期分だけを減らす申請は11月1日から11月15日までだ。通知が届く6月15日から数えると、資料を集めて判断できる時間は3週間ほどしかない。申請には、その年の見積額を計算した根拠を書いた書類の添付も求められる。
この窓を逃すと、事業をやめた年に、前年の実績にもとづく税金を2回先払いすることになる。納めすぎた分は翌年の確定申告で精算されて戻ってくるが、戻るのは年が明けたあとだ。手元の資金が細くなる時期と重なりやすいので、廃業を決めた時点で、その年の予定納税の通知が届いているかどうかを先に確かめておきたい。なお、通知がそもそも届いていない人は予定納税の対象外なので、この手続は関係がない。
帳簿と書類の保存期間は、青色と白色で中身が違う
事業をやめても、帳簿と書類は捨てられない。しかも保存期間は、青色申告だったか白色申告だったかで表の中身が変わる。廃業のタイミングで書類を整理する人が多いので、ここは捨てる前に確認したい。
青色申告だった人は、仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳といった帳簿が7年。損益計算書、貸借対照表、棚卸表などの決算関係書類も7年。領収証、小切手控、預金通帳、借用証などの現金預金取引等関係書類も原則7年だが、前々年分の事業所得と不動産所得の金額が300万円以下だった人は5年でよい。請求書、見積書、契約書、納品書、送り状といったその他の書類は5年だ。
白色申告だった人は、区切りが違う。収入金額や必要経費を記載した帳簿、いわゆる法定帳簿が7年。それ以外の任意の帳簿が5年。決算に関して作成した棚卸表その他の書類と、請求書、納品書、送り状、領収書などの書類が5年になる。
この表を上書きする例外がひとつある。消費税の課税事業者が仕入税額控除の要件として保存すべき請求書等と、インボイスを発行する事業者として交付した適格請求書の写しや提供した電磁的記録は、上の区分にかかわらず7年だ。インボイスの登録をしていた人は、青色か白色かに関係なく7年で考えておくほうが安全である。
保存する場所も決まっていて、住所地か事業所などの所在地に整理して置くことになっている。廃業と同時に事務所を解約する人は、置き場所を先に決めておかないと段ボールのまま行方が分からなくなる。紙で抱えたくないなら、一定の要件を満たせば電子データのまま保存してよい。請求書や領収書を電子でやりとりした分については、むしろ電子のまま保存することが求められている。
事業主が亡くなったときは、相続人が同じ用紙を出す
この用紙は、本人以外が出す場面もある。事業をしていた人が亡くなったときだ。国税庁が示す廃業する場合の書類一覧では、亡くなられた場合の提出者として相続人が並んでいて、出す用紙は同じ個人事業の開業・廃業等届出書である。
あわせて必要になるのが、いわゆる準確定申告だ。年の途中で事業主が亡くなった場合、相続人が1月1日から死亡した日までに確定した所得金額と税額を計算して、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をしなければならない。通常の確定申告のように翌年3月まで待つ話ではない点が、いちばん見落とされる。
事業をそのまま引き継ぐ相続人がいる場合は、引き継ぐ側が開業の届出を出す。青色申告についても、亡くなった人が青色申告の承認を受けていた事業を相続で承継したときは、申請の期限が別に定められている。死亡の日が1月1日から8月31日までなら死亡の日から4か月以内、9月1日から10月31日までならその年の12月31日まで、11月1日から12月31日までなら翌年の2月15日までだ。通常の「3月15日まで」や「開業の日から2か月以内」とは別の物差しが使われる。
家族が受注の実務を見ていない場合、まず取引先の把握と未回収の売掛金の確認から始めることになる。屋号でやりとりしている相手、請求のサイクル、使っているクラウドのアカウントがどこにあるかを1枚の紙にまとめておくだけで、残された側の負担はまったく変わる。在宅で1人で受注している働き方は、仕事の全体像が本人の頭の中にしか無い状態になりやすい。
いったん廃業して、また始めるとき
事業を再開するときは、同じ用紙を今度は「開業」として出し直す。廃業と開業を同じ用紙が受け持っている以上、手続としては自然な流れになる。
注意したいのは青色申告のほうだ。青色申告の承認は、取りやめ届出書を出した時点で切れている。再開するなら青色申告承認申請書をもう一度出すことになるが、国税庁は承認の審査基準として、取りやめ届出書を提出した日以後1年以内に申請書を提出していないかを審査すると説明している。やめてすぐに出し直せば通る、という前提で予定を組まないほうがいい。
もうひとつ知っておきたいのは、所得税の届出に「休業」という区分がないことだ。しばらく受注を止めるだけなら、廃業届を急いで出さずに、収入がない年も確定申告を続けるという選び方もある。どちらが自分に合うかは、赤字を繰り越したいか、消費税の課税事業者かどうか、家族の扶養に入るかどうかといった条件で変わる。
在宅で働く人にとって、この1枚が決めていること
届出そのものは1枚の紙だが、この紙を出すかどうかは「これを仕事として続けるのか」という自分の線引きと重なっている。運営者として20年この市場を見てきた限りでは、届出を出したタイミングで受注の仕方が変わる人が多い。単発の作業を数でこなす動き方から、請求書を自分で出し、見積もりを自分で組み、継続の話を自分から持ちかける動き方に変わっていく。紙が働き方を変えるわけではないが、紙を出す前後で、自分の扱いを変える人はたしかに多い。
もうひとつ、長く続く人に共通しているのは、単価の高い1件を取りにいくより、「この人に任せると楽だ」と思われる関係を作ることに時間を使っている点だ。ここには手取りの構造も効いてくる。仲介の手数料が乗らない直接取引なら、依頼する側は同じ予算でより多く頼めるし、受ける側は同じ仕事で手取りが厚くなる。手数料0%という条件が意味を持つのは、金額そのものよりも、この「双方が得をする」構造が続けられることのほうだ。
自分の仕事がいまどの相場に乗っているかを確かめたいなら、職種別の単価データが手がかりになる。開発系ならソフトウェア作成者の年収・単価相場、書く仕事なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、職種ごとの収入の分布がまとまっている。相場を知らないまま値付けをすると、届出を出して事業として構えたのに、報酬だけが副業時代のままという状態になりやすい。
これから広げる方向を探しているなら、需要の動きが早い領域を見ておくと判断しやすい。生成AIの導入支援を扱うAIコンサル・業務活用支援のお仕事や、AI活用とマーケティング、セキュリティをまたぐAI・マーケティング・セキュリティのお仕事は、実務経験がそのまま単価に反映されやすい分野だ。受託開発を軸にするならアプリケーション開発のお仕事で、案件の形と求められる技術の範囲を確かめておくといい。
資格は必須ではないが、初対面の相手に力量を説明する手間を減らす効果はある。見積書や報告書のやりとりが増える人にはビジネス文書検定、インフラ寄りの案件を増やしたい人にはCCNA(シスコ技術者認定)が、話の前提をそろえる材料になる。事業として続けるなら、入ってきたお金をどう置くかも同時に考えることになる。長期の資産形成の考え方は【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオに、積立の試算とあわせてまとめてある。
開業届と廃業届が1枚の用紙だという事実は、制度の側が「始めることとやめることは地続きだ」と見なしている証拠でもある。始めるときに廃業欄が見えていることを、不吉と受け取る必要はない。やめる手続がはっきりしているからこそ、始める判断は軽くできる。
よくある質問
Q. 開業届と廃業届は別々の書類ですか?
同じ1枚の用紙です。正式な名前は「個人事業の開業・廃業等届出書」で、用紙の中の「届出の区分」欄で開業か廃業かを選びます。事務所の新設、増設、移転、廃止も同じ用紙で届け出ます。廃業届という名前の独立した様式は存在しないので、探しても見つかりません。
Q. 提出期限はいつまでですか?
国税庁の現在の案内では、事業の開始などの事実があった日が属する年分の確定申告期限までとされています。廃業の場合も廃業した年分の所得税の確定申告期限までです。期限が土日祝に当たる場合は翌日が期限になります。ただし青色申告の申請は別の短い期限があるので、そちらに合わせて早めに出すのが安全です。
Q. 控えに税務署の受付印はもらえますか?
2025年1月から、申告書や届出書の控えに収受日付印は押されなくなりました。提出は正本だけで、控えの作成と提出日の記録は自分で行います。窓口や返信用封筒を同封した郵送では、当分の間、日付と税務署名を書いたリーフレットが希望者に渡されます。証拠を確実に残したいならe-Taxで送り、受信通知を保存しておく方法が確実です。
Q. 廃業届を出さないとどうなりますか?
出さなくても罰則は用意されていませんが、税務署の記録上は事業が続いている状態になります。予定納税の通知が届き続けたり、消費税の課税事業者のままになったりする実害が出ます。申告が必要なのにしていない状態として扱われる余地も残るため、事業をやめたなら確定申告のタイミングで一緒に提出するのが現実的です。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
関連記事
カテゴリから探す

クラウドソーシング入門
クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド
職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク
副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス
フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

スキルアップ
プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング
サービス比較・おすすめランキング

AI活用
職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド
市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド
クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア
転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師の転職・求人
看護師の転職・派遣・単発バイト・副業など働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

薬剤師の転職・求人
薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人
介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人
保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人
医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険
生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人
無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース
バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

法律・士業
契約トラブル・士業独立開業・フリーランス新法

シニア・50代
シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ
サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック
暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス
経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材
フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方
子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金
個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド
SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方







