個人クリニックで派遣として働く|直接雇われる場合との差と、合う場面

長谷川 奈津
長谷川 奈津
個人クリニックで派遣として働く|直接雇われる場合との差と、合う場面

この記事のポイント

  • ✓個人クリニックで派遣として働けるのかを
  • ✓看護業務の派遣が原則禁止されている理由
  • ✓紹介予定派遣や産休代替といった例外

個人クリニックで派遣として働けるのか。先に結論をお伝えします。「看護師や准看護師として外来の看護に派遣で入ることは、原則できません。例外は紹介予定派遣と、産休や育休の代わりの派遣。受付や医療事務なら、派遣の求人は普通にあります」。

これ、知らない人が本当に多いんです。求人サイトで「クリニック 派遣」と検索すると、看護師の求人がいくつも出てくるので、当然できるものだと思ってしまう。けれど中身を開くと、就業場所が介護施設だったり、健診の会場だったり、紹介予定派遣だったりします。

この記事では、個人クリニックの看護業務に派遣が原則使えない理由、例外として入れる形、派遣が多い職種とそこで起きていること、直接雇われる場合との差、そして派遣が合う場面と合わない場面を、順に整理していきます。

個人クリニックの看護業務は、派遣が原則できない

まず前提です。労働者派遣法では、医師や看護師などが医療機関で行う「医療関連業務」への派遣を、原則として禁止しています。

「クリニックは病院じゃないから関係ないのでは」と思う方がいますが、ここは誤解しやすいところです。禁止の対象になる「病院等」には、診療所、つまり個人クリニックも含まれています。厚生労働省が都道府県に出した通知には、禁止の理由がこう書かれています。

病院等(※1)において医師、看護師等が行う医療関連業務については、病院等が派遣労働者となる医療資格者を特定できないことによってチーム医療に支障が生じるとの指摘等を考慮し、原則禁止とされているところである 出典: 厚生労働省 労働者派遣法施行令の一部を改正する政令の公布について(令和3年3月2日)

同じ通知の注記で、「病院等」には医療法に定める病院のほか、診療所、助産所、介護老人保健施設、介護医療院、医療を受ける人の居宅が挙げられています。一方で、特別養護老人ホームや障害者支援施設の中に設けられた診療所は、この「病院等」から外されています。

「特定できない」とはどういうことか

ポイントは「特定できない」という言葉です。

通常の派遣では、派遣先が事前に面接をしたり、履歴書を受け取って人を選んだりすることが禁止されています。派遣先は「こういう業務ができる人を1名」と注文するだけで、誰が来るかは派遣会社が決めます。

つまり、クリニック側は、どんな経験を持った看護師が来るのか分からないまま、患者さんへの注射や点滴を任せることになる。院長と看護師が互いの力量を分かったうえで役割を分担するのが医療の現場なので、それでは困るというのが禁止の理由です。

個人クリニックは、この事情がとくに強く出る職場です。看護スタッフが1人か2人しかいない職場で、その日の看護を担う人が誰なのか分からない。これでは、院長も患者さんも安心できません。

違反したときの重さ

禁止業務に派遣労働者を就かせた場合、派遣会社が処分の対象になるだけではありません。受け入れたクリニック側も「労働契約申込みみなし制度」の対象になります。

つまり、違法な派遣を受け入れたクリニックは、その派遣労働者に対して「直接雇用を申し込んだもの」とみなされる。クリニック側にとってもリスクが大きいので、きちんとした院長ほど、看護師の一般派遣には手を出しません。

※ご自身が就いている派遣が禁止業務にあたるのではないかと疑問に思ったら、派遣会社の担当者に確認したうえで、各都道府県の労働局の需給調整事業の窓口に相談してください。個別の契約の有効性や、みなし制度による直接雇用を求めたい場合は、弁護士への相談をお勧めします。

例外として派遣で入れる3つの形

原則禁止には例外があります。個人クリニックの看護師として現実に関係するのは、主に3つです。

紹介予定派遣

紹介予定派遣は、派遣として一定期間働いたあと、本人とクリニックの双方が合意すれば直接雇用に切り替わることを前提にした派遣です。派遣として働ける期間は6か月以内と決められています。

この形なら、医療関連業務でも派遣が認められています。通常の派遣では禁止されている事前面接や履歴書の提出も、紹介予定派遣では認められます。クリニックが「誰が来るか」を選べるので、先ほどの問題が起きにくいからです。

つまり、紹介予定派遣は「お試し期間つきの採用」と考えると分かりやすいです。働く側にとっても、院長の人柄や職場の空気を実際に確かめてから、雇われるかどうかを決められます。

産休・育休・介護休業の代わり

常勤の看護師が産前産後休業、育児休業、介護休業に入るとき、その代わりとして派遣で入る形も認められています。休業している人が戻るまでの期間限定の働き方です。

個人クリニックでは、看護スタッフが1人休むだけで診療が回らなくなります。求人を出しても休業期間だけの直接雇用はなかなか集まらないので、この代替派遣を使うクリニックがあります。

へき地のクリニック

令和3年4月から、離島や過疎地域などのへき地にある医療機関では、看護師などの派遣が認められるようになりました。対象になる市町村は厚生労働省令で決まっているので、地方のクリニックの求人で「派遣」とあった場合は、この例外にあたることがあります。

紹介予定派遣で起きた、ある行き違い

ここで、匿名にした事例を1つ紹介させてください。

ある方が、個人の内科クリニックに紹介予定派遣で入りました。採血も点滴も問題なくこなし、患者さんからの評判も悪くなかった。ところが5か月目に、派遣会社から「直接雇用は見送りになりました」とだけ連絡があったそうです。

本人は理由が分からず、「自分の何がいけなかったのか」と長く悩んでいました。

これ、知らない人が本当に多いんです。紹介予定派遣で直接雇用に至らなかった場合、派遣労働者が求めれば、派遣会社はクリニック側に理由を確認し、それを本人に明示しなければなりません。つまり、「理由を教えてください」と言ってよいのです。

この方の場合、理由を確認してもらったところ、「院長の家族が事務長として入ることになり、人件費の見直しで看護の採用枠そのものを減らした」というものでした。本人の働きぶりとは関係のない理由だったのです。理由が分かるだけで、次の職場探しに向かう気持ちがずいぶん違ったと聞いています。

「クリニック 看護師 派遣」で出てくる求人の正体

では、求人サイトで看護師の派遣求人がたくさん出てくるのはなぜなのか。中身を開いてみると、就業場所はだいたい次のどれかです。

巡回健診や予防接種の会場

企業や学校、公民館などに出向いて行う健康診断や、予防接種の会場での採血や問診の仕事です。就業場所が医療機関の建物の中ではないため、派遣が認められています。

健診の時期が集中する春から秋にかけて求人が増え、1日単位や数日単位の仕事が多いのが特徴です。クリニックの名前が求人に出ていても、そのクリニックが請け負った健診の会場で働く、という形がよくあります。

介護施設やデイサービス

特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、デイサービスなどの社会福祉施設での看護の仕事は、派遣が認められています。先ほど触れたとおり、特別養護老人ホームの中に設けられた診療所も「病院等」から外されています。

一方で、介護老人保健施設と介護医療院は「病院等」に含まれるので、ここへの看護師の派遣は原則禁止です。同じ介護の職場でも扱いが違うので、施設の種類はよく確認してください。

保育園や企業の健康管理室

保育園の看護師や、企業の中にある健康管理室の看護師も、医療機関ではない場所での仕事なので派遣の求人があります。ただし、企業の中でも診療所として届け出ている医務室は「病院等」にあたるので、ここは注意が必要です。

訪問入浴

利用者の自宅に浴槽を持ち込んで入浴を手伝う訪問入浴では、看護師が入浴前の体調確認を担当します。医療を受ける人の居宅は原則として「病院等」に含まれますが、訪問入浴介護は除かれているので、派遣が認められています。

1日だけの派遣の決まり

健診会場などの単発の仕事では、もう1つ知っておきたい決まりがあります。日雇派遣、つまり雇用期間が30日以内の派遣は、原則として禁止されています。

例外になるのは、60歳以上の人、昼間の学生、本業の収入が一定以上ある人の副業、世帯の主な生計を別の人が担っている人などです。単発の健診の派遣に登録しようとして、年収の証明を求められることがあるのはこのためです。

つまり、「クリニック 派遣」で出てくる看護師の求人の多くは、個人クリニックの外来そのものではなく、クリニックの外で行う仕事だということです。求人の見出しだけで判断せず、就業場所の欄を必ず開いてください。

派遣が普通に使われる職種と、個人クリニックで起きていること

看護師の派遣が原則できない一方で、個人クリニックでも派遣が普通に使われている職種があります。医療事務と受付です。

医療事務は医療関連業務にあたらないので、派遣の制限はありません。医療事務の派遣を手がける会社のページには、派遣の中身がこう説明されています。

人材派遣が単なるマンパワーの提供ではなく、医療事務として活躍することを想定しており、医療事務の知識や経験を持ったスタッフによる配属時のフォローや、定期的な訪問をとおしてスタッフの育成・管理、貴院の課題についてご相談いただけます。 出典: medi.nichiigakkan.co.jp

つまり、医療事務の派遣では、派遣会社の側に医療事務に詳しい担当者がいて、配属後も訪問してフォローする仕組みを持っているところがある、ということです。個人クリニックに教える人がいなくても、派遣会社の側で支えてくれる。これが、少人数のクリニックで医療事務の派遣が使われる理由の1つです。

受付が1人か2人しかいない職場

個人クリニックの受付は、1人か2人で回していることが多いです。そこに派遣で入ると、初日から受付の半分を担うことになります。

受付の仕事は、保険証やマイナ保険証の確認、問診票の受け渡し、電子カルテへの受付入力、会計、次回予約、電話対応と、途切れなく続きます。午前診の開始直後と、終わり間際に患者さんが集中するので、この時間帯に1人で回せるかどうかが勝負になります。

月初のレセプト業務

医療事務の派遣で、個人クリニックならではの山場が月初です。前月分の診療報酬を請求するレセプトの提出は、毎月10日が期限です。

大きな病院なら請求の担当部署がありますが、個人クリニックでは受付の人が診療の合間にレセプトの点検をします。派遣の契約で「レセプト業務を含む」とあるかどうかで、月初の忙しさがまったく違ってきます。契約書の業務内容の欄は、必ず確認してください。

看護助手やクラーク

看護助手や医療クラーク(医師の事務作業を補助する職種)も、医療関連業務には含まれないので派遣で働けます。ただし個人クリニックでは、これらの職種を置いているところ自体が少なく、派遣の求人も病院に比べると多くありません。

医療事務として個人クリニックで働くことを考えている方は、資格の中身を知っておくと、派遣会社の登録面談で話が早くなります。医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)には、試験の形式や出題範囲がまとまっています。受付の手順や診療報酬の計算など、クリニックの受付で毎日使う知識と重なる部分が多い資格です。

直接雇われる場合との差

では、派遣で働く場合と、クリニックに直接雇われる場合で、何が違うのか。ここを整理しておきます。

雇い主と、指示を出す人が別になる

派遣で働く場合、雇用契約を結ぶ相手は派遣会社です。給与を払うのも、社会保険に加入させるのも、有給休暇を与えるのも派遣会社です。

一方で、日々の仕事の指示を出すのは、派遣先のクリニックです。つまり、「雇っている人」と「指示を出す人」が別々になる。これが派遣の一番の特徴です。

直接雇用なら、院長が雇い主であり、指示を出す人でもあります。困ったことがあれば、院長に直接言うしかありません。派遣なら、院長に言いにくいことを派遣会社の担当者を通して伝えられます。少人数で逃げ場のない個人クリニックでは、この「間に入ってくれる人がいる」ことが大きな意味を持ちます。

仕事の範囲が契約で決まる

派遣では、就業条件明示書という書類に、業務の内容が書かれます。派遣先のクリニックは、原則としてその範囲の中でしか仕事を頼めません。

個人クリニックでは、忙しくなると「ついでに掃除も」「ついでに薬品の発注も」と、仕事がどんどん広がりがちです。直接雇用のパートならある程度は受け入れるものですが、派遣の場合は、契約にない仕事を頼まれたら派遣会社に相談できます。

これは身を守る仕組みでもあります。たとえば医療事務として派遣されている人が、看護師の代わりに医療行為に近いことを頼まれたら、それははっきり断るべきものです。

賃金の決まり方

派遣で働く人の待遇は、派遣先で同じ仕事をしている人と比べて不合理な差がないようにする「派遣先均等・均衡方式」か、派遣会社が労働者側と協定を結んで一般的な賃金水準以上を保障する「労使協定方式」のどちらかで決まります。多くの派遣会社は後者を使っています。

直接雇用のパートと比べると、派遣は時給が高めに設定されることが多いです。ただし、賞与や退職金、昇給の仕組みは派遣会社によって違うので、時給だけで比べないことが大切です。

期間の制限

派遣には、同じ派遣先の同じ組織単位で働けるのは原則3年までという期間の制限があります。個人クリニックは受付や事務が1つの組織単位になることが多いので、3年を超えて同じクリニックで働き続けたい場合は、直接雇用への切り替えを考えることになります。

派遣会社に無期雇用されている人や、60歳以上の人など、この制限の対象外になるケースもあります。自分がどちらにあたるかは、派遣会社に確認してください。

個人クリニックの1日と、派遣スタッフの立ち位置

ここで、個人クリニックの1日の中で、派遣スタッフがどんな位置にいるのかを見ておきます。

朝の準備から午前診まで

受付の派遣スタッフは、午前診が始まる15分から30分前に入ります。レジの釣り銭の確認、予約表の確認、電子カルテの立ち上げ、待合室の清掃や換気が朝の仕事です。

午前診が始まると、最初の1時間に患者さんが集中します。慢性の病気で薬をもらいに来る方、健診の方、発熱している方。発熱している方は待合室を分けて案内するなど、受付の段階で動線を考える必要があります。

昼休み

個人クリニックの昼休みは2時間ほどあるのが一般的です。派遣スタッフも、この時間は休憩になります。ただし、午前診の会計が延びたり、電話が鳴ったりして、実際に休める時間が短くなることもあります。休憩が十分に取れていない日が続くなら、派遣会社に相談しましょう。

午後診と閉院後

午後診は、仕事帰りや学校帰りの患者さんで夕方に混み合います。閉院時間の直前に駆け込む方もいるので、終業が延びやすいのはこちらです。閉院後は、会計の締め、日報の作成、翌日の予約の確認をして終わります。

派遣スタッフが感じやすい孤独

個人クリニックの派遣で、よく聞く悩みが「職場に溶け込めない」というものです。

常勤のスタッフは何年も一緒に働いていて、院長との独特のやり取りや、暗黙のルールが出来上がっています。そこに期間の決まった派遣スタッフが入ると、どうしても「外の人」という扱いを受けやすい。

こうした悩みは、派遣会社の担当者に早めに共有してください。定期的に訪問する仕組みを持つ派遣会社なら、担当者が職場の様子を見て、クリニック側に働きかけてくれることがあります。1人で抱え込まないことが大切です。

派遣が合う場面、直接雇用が合う場面

ここまでの話をもとに、個人クリニックで派遣を選ぶのが合う場面と、直接雇用のほうが合う場面を整理します。

派遣が合う場面

1つ目は、ブランクがあって、いきなり直接雇用に踏み切るのが不安なときです。とくに医療事務では、派遣会社の研修やフォローを受けながら職場に戻れます。

2つ目は、院長との相性を確かめてから長く働く職場を決めたいときです。看護師なら紹介予定派遣、医療事務なら通常の派遣で、実際に働いてみてから判断できます。個人クリニックは院長の考え方で職場の空気がほぼ決まるので、この「確かめる期間」の価値は大きいです。

3つ目は、期間を区切って働きたいときです。産休代替の派遣なら、半年から1年ほどの期間限定で働けます。引っ越しの予定がある方や、次の資格の勉強と両立したい方に向いています。

4つ目は、職場のトラブルに1人で向き合いたくないときです。院長に直接言いにくいことを、派遣会社の担当者を通して伝えられます。

直接雇用が合う場面

1つ目は、同じクリニックで長く働きたいときです。派遣には期間の制限があるので、何年も同じ職場で働くなら、最初から直接雇用を選ぶほうが自然です。

2つ目は、看護師として外来の看護をしたいときです。紹介予定派遣や産休代替の求人は数が限られるので、選択肢を広げるなら直接雇用のパートや常勤を探すほうが現実的です。

3つ目は、職場の中で役割を広げていきたいときです。直接雇用なら、経験を積むうちに物品管理や新人の指導を任されるなど、担う範囲が広がっていきます。派遣は契約で業務が決まるので、ここは広がりにくいです。

看護師の方が選べるほかの形

看護師の方で「派遣のように短期間で、職場を変えながら働きたい」という場合は、クリニックの直接雇用の非常勤や、単発のアルバイトを探す方法もあります。これは派遣ではなく、クリニックとの直接の雇用契約なので、医療関連業務の派遣禁止には触れません。

看護師の働き方ごとの報酬の水準を知りたいときは、看護師の年収・単価相場に相場がまとまっています。派遣、直接雇用のパート、常勤のどれを選ぶかを考えるとき、提示された時給や年収が相場と比べてどうなのかを確かめる物差しになります。

契約する前に確かめておきたいこと

最後に、派遣で個人クリニックに入る前に、書類と面談で確かめておきたいことをまとめます。

就業条件明示書の「業務内容」

派遣会社から渡される就業条件明示書には、業務内容、就業場所、指揮命令者、就業日と就業時間、休憩時間、派遣期間などが書かれています。

とくに業務内容の欄は、細かく読んでください。「受付業務、会計業務、レセプト業務、電話対応」と具体的に書かれているか、「医療事務全般」とだけ書かれているかで、あとから頼まれる仕事の範囲が変わります。曖昧な書き方なら、どこまでを含むのかを担当者に確認しておきましょう。

就業場所がどこか

看護師の派遣求人の場合は、就業場所の欄を必ず確認してください。「クリニック」と書かれた求人でも、実際の就業場所がクリニックの外で行う巡回健診の会場や、クリニックが運営に関わる介護施設ということがあります。

紹介予定派遣なら、直接雇用後の条件

紹介予定派遣では、直接雇用に切り替わったあとの雇用形態、給与、勤務時間の見込みを、派遣の段階で示してもらえます。派遣中の時給が高くても、直接雇用後の条件が大きく下がることがあるので、ここは必ず比べてください。

派遣会社のフォローの仕組み

担当者がどれくらいの頻度で職場を訪問してくれるのか、困ったときの連絡先はどこか。個人クリニックは職場の中に相談相手がいないことが多いので、派遣会社のフォローの厚さは、働きやすさに直結します。

残業と休憩の扱い

個人クリニックは終業が延びやすい職場です。延びた時間の賃金がどう計算されるのか、休憩が取れなかった日はどう扱うのか。派遣では、この管理の責任が派遣会社と派遣先の両方にあります。記録の付け方を最初に確認しておきましょう。

派遣から直接雇用に切り替わるときに見ること

紹介予定派遣で直接雇用に切り替わるときや、通常の派遣のあとにクリニックから「うちで直接働きませんか」と声がかかったとき、見落としやすい点がいくつかあります。

1つ目は、有給休暇です。雇い主が派遣会社からクリニックに変わるので、派遣会社で付いていた有給休暇は、原則としてクリニックには引き継がれません。切り替える前に、残っている有給を消化できるかを派遣会社に相談しておきましょう。

2つ目は、試用期間です。紹介予定派遣では、派遣期間を経て直接雇用された場合、改めて試用期間を設けないよう求められています。直接雇用の契約書に試用期間が書かれていたら、確認してみてください。

3つ目は、社会保険の切り替えです。院長個人が開設しているクリニックで、常時雇っている人が5人未満だと、社会保険の適用事業所になっていない場合があります。派遣会社では加入できていた健康保険や厚生年金に、切り替えたあとは加入できない、ということが起こりえます。医療法人のクリニックなら、この心配はありません。

4つ目は、時給の変化です。直接雇用に切り替わると、時給が派遣のときより下がることがよくあります。個人クリニックの人件費の枠は、派遣会社に払っていた派遣料金とは別の考え方で決まるからです。賞与や昇給、退職金の有無まで含めて、年間でいくらになるかを比べてから決めましょう。

トラブルになったときの相談先

派遣で働いていて困ったことが起きたとき、相談先は1つではありません。これも知らない人が多いところです。

就業条件明示書には、派遣会社側と派遣先側、それぞれの「苦情の申出を受ける者」の名前と連絡先が書かれています。個人クリニックの場合、派遣先側の担当者は院長本人か事務長であることが多いので、院長に言いにくい内容なら、まず派遣会社側の担当者に伝えましょう。

派遣会社に伝えても改善されない場合は、都道府県の労働局にある需給調整事業の担当窓口に相談できます。派遣の契約そのものが法律に沿っているかを見てもらえる窓口です。賃金の未払いやハラスメントなど、働き方全般の悩みなら、各地の総合労働相談コーナーでも話を聞いてもらえます。

相談するときは、いつ、誰に、何を言われたか、何時から何時まで働いたかをメモしておくと、話が早く進みます。スマートフォンのメモで十分です。※未払い賃金の請求や損害賠償など、金銭の請求まで考える場合は、弁護士に相談してください。

運営者として見てきたこと

フリーランスや在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、働き方で長く困らない人ほど、「誰と契約しているのか」「どこまでが自分の仕事なのか」を最初に確かめています。派遣でも直接雇用でも業務委託でも、この2つが曖昧なまま始めると、あとで必ず揉めます。

業務委託のように依頼者と直接やり取りする働き方でも同じです。間に仲介の手数料が挟まらない分、同じ報酬額でも手元に残る分が厚くなり、依頼する側も同じ予算でより多くを頼めます。その代わり、条件の確認は自分でするしかありません。契約の相手と仕事の範囲を確かめる習慣は、どの働き方にも持っていける財産です。

臨床や医療事務の経験を、働く人の相談に乗る仕事に活かしたいと考える方もいます。職場のトラブルや働き方の悩みを聞き、次の選択肢を一緒に考える仕事の中身は、職場・転職・キャリア相談のお仕事にまとまっています。派遣と直接雇用の違いのような働き方の仕組みを知っていることは、こうした仕事で相手の状況を整理するときに役立ちます。

法律は、知っている人の味方です。個人クリニックで派遣を考えるときは、「この仕事は派遣で入ってよい業務か」「契約書の業務内容に何が書かれているか」の2つから確かめてみてください。

よくある質問

Q. 看護師が個人クリニックに派遣で働くことは違法ですか?

外来の看護業務への一般的な派遣は、労働者派遣法で原則禁止されています。診療所も禁止の対象になる医療機関に含まれるためです。ただし、直接雇用を前提にした紹介予定派遣、産休や育休などの代わりの派遣、へき地の医療機関への派遣は例外として認められています。求人を見るときは就業場所と派遣の種類を確認してください。

Q. 個人クリニックの医療事務は派遣で働けますか?

働けます。受付や会計、レセプトの作成などの医療事務は、派遣が禁止される医療関連業務にあたらないため、個人クリニックでも派遣の求人は普通にあります。派遣会社によっては、医療事務に詳しい担当者が配属後も訪問してフォローする仕組みを持っているので、ブランクのある方でも戻りやすい働き方です。

Q. 紹介予定派遣で直接雇用されなかったら、理由を聞けますか?

聞けます。紹介予定派遣で直接雇用に至らなかった場合、派遣労働者が求めれば、派遣会社はクリニック側に理由を確認し、本人に明示しなければならない決まりがあります。本人の働きぶりとは関係のない、人員計画の変更などが理由のこともあるので、一人で悩まずに派遣会社へ確認を依頼してください。

Q. 個人クリニックで派遣と直接雇用のパートはどちらが時給が高いですか?

一般的には派遣のほうが時給は高めに設定されることが多いです。ただし、賞与や昇給、交通費の扱い、紹介予定派遣なら直接雇用後の条件など、時給以外の待遇に差があります。同じクリニックで3年を超えて働きたい場合は派遣の期間制限もかかるので、働きたい期間とあわせて比べることをお勧めします。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年2月22日最終更新:2026年9月18日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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