個人クリニックは職場によって何が違うのか|規模と運営で変わる働きやすさ

長谷川 奈津
長谷川 奈津
個人クリニックは職場によって何が違うのか|規模と運営で変わる働きやすさ

この記事のポイント

  • 個人クリニックの選び方を
  • 開設者が院長個人か医療法人か
  • 診療科と自費診療の比重から整理しました

個人クリニックの選び方で、最初に見るべきなのは何か。先に結論を書きます。「開設者が院長個人か医療法人か」「看護スタッフが何人いるか」「開業から何年たっていて、院長が何歳か」「保険診療と自費診療のどちらが中心か」の4つです。

時給や通勤時間はもちろん大切です。ただ、個人クリニックは同じ「クリニック」という看板でも、この4つによって働き方がまるで違います。社会保険に入れるかどうか、休みを取りやすいかどうか、何年先まで職場が続くのか。これ、知らない人が本当に多いんです。

この記事では、個人クリニックが職場によって何が違うのかを、法律や制度の仕組みとあわせて整理し、求人票と面接でどこを確かめればよいかをお伝えします。

まず「開設者」の違いを知る

個人クリニックの違いを考えるとき、最初に押さえておきたいのが「誰が開設しているか」です。

厚生労働省の医療施設調査には、診療所の開設者の内訳と、その前年からの変化がこう書かれています。

一般診療所は「医療法人」が 46,717 施設(一般診療所総数の 44.5%)と最も多く、次いで「個人」が 39,208 施設(同 37.4%)となっている。 出典: 厚生労働省 令和5年医療施設(静態・動態)調査 結果の概要

同じ調査では、前年と比べて、一般診療所は医療法人が750施設増え、個人が856施設減ったとされています。つまり、院長個人が開設するクリニックが減り、医療法人の形をとるクリニックが増えている、ということです。

求人の世界で「個人クリニック」と言うとき、そこには院長個人が開設している診療所と、院長1人が理事長を兼ねる小規模な医療法人の診療所の両方が含まれていることが多いです。見た目はどちらも同じ「〇〇クリニック」ですが、働く側から見ると、法律上の扱いがいくつか変わります。

院長個人が開設しているクリニック

院長個人が開設している場合、雇い主は院長その人です。つまり、雇用契約の相手は「〇〇クリニック院長 〇〇〇〇」という個人になります。

クリニックの売上も、借入も、院長個人のものです。院長が引退したり、亡くなったりすると、原則としてクリニックはそこで閉じることになります。

医療法人が開設しているクリニック

医療法人が開設している場合、雇い主は「医療法人社団〇〇会」といった法人です。院長は法人の理事長を兼ねていることが多いですが、雇用契約の相手はあくまで法人です。

法人は院長とは別の存在なので、院長が交代しても法人は続きます。後継の医師が見つかれば、クリニックを続けることができます。

求人票で見分ける方法

求人票の「法人名」「事業所名」の欄を見てください。「医療法人社団」「医療法人財団」などとあれば医療法人、院長の個人名や「〇〇医院」とだけあれば個人開設の可能性が高いです。はっきりしないときは、クリニックのホームページの「医院概要」や、面接で「開設者は医療法人ですか」と聞けば確認できます。

開設者の違いで、何が変わるのか

では、開設者が個人か法人かで、働く人にとって具体的に何が変わるのか。ここは制度の話なので、少し丁寧に見ていきます。

社会保険に入れるかどうか

一番大きな違いは、健康保険と厚生年金です。

法人の事業所は、従業員が1人でもいれば、社会保険の適用事業所になります。医療法人のクリニックで常勤として働けば、原則として社会保険に加入します。

一方、個人が開設している事業所は、常時雇っている人が5人以上なら適用事業所になりますが、5人未満なら強制ではありません。つまり、院長個人が開設していて、スタッフが4人以下の小さなクリニックでは、常勤で働いても社会保険に入れないことがある、ということです。

この場合、国民健康保険と国民年金に自分で加入することになります。国民健康保険には、病気で休んだときの傷病手当金や、出産で休んだときの出産手当金が原則ありません。将来の年金も、厚生年金の分がなくなります。

求人票に「社会保険完備」とあれば安心ですが、書かれていない場合は面接で必ず確認してください。

就業規則があるかどうか

労働基準法では、常時10人以上の労働者を使う事業場に、就業規則の作成と届出を義務づけています。つまり、10人未満の小さなクリニックでは、就業規則がないことがあります。

就業規則がないと、休職や退職の手続き、有給休暇の取り方、賞与の決め方などが、院長の判断で決まることになります。書面にない約束は、あとで「言った、言わない」になりやすいです。

※就業規則がない職場でも、労働基準法などの法律は当然適用されます。有給休暇や残業代は、就業規則の有無にかかわらず権利として発生します。

閉院したときの扱い

個人開設のクリニックで気をつけておきたいのが、院長の引退や病気による閉院です。

閉院によって職を失う場合、雇い主は原則として30日以上前に解雇を予告するか、足りない日数分の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。これは個人開設でも医療法人でも同じです。

ただ、院長が急に亡くなった場合など、個人開設のクリニックでは雇い主そのものがいなくなるので、手続きが混乱しやすくなります。未払いの給与や退職金は、院長の相続人との話し合いになることがあります。

※閉院にともなう未払い賃金や解雇の有効性で揉めている場合は、労働基準監督署に相談し、必要に応じて弁護士に相談してください。

ある閉院の事例

匿名にした事例を1つ紹介させてください。

ある方が、70代の院長が1人で開設している内科クリニックで、10年近く常勤として働いていました。院長は元気で、スタッフとの関係も良好でした。ところがある年、院長が体調を崩して入院し、そのまま閉院が決まりました。

スタッフは4人で、社会保険の適用事業所ではありませんでした。退職金の規程もなく、就業規則もなかったため、退職金の話は院長の家族との口約束で終わってしまったそうです。

これ、院長が悪い人だったわけではありません。仕組みとして、個人開設の小さなクリニックでは、こういうことが起こりえるのです。院長の年齢や後継の見込みを、働き始める前に少しだけ気にしておく。それだけで、10年後の備え方が変わります。

規模の違い:看護スタッフが何人いるか

次に、規模の違いです。個人クリニックの働きやすさは、看護スタッフの人数で大きく変わります。

平均は2人から3人

同じ医療施設調査によると、一般診療所で働く看護師は常勤換算で177,361.0人、准看護師は74,826.7人です。一般診療所の数で割ると、1施設あたりの看護職は常勤換算で2.4人ほどです。

入院ベッドのある診療所も含めた平均なので、外来だけのクリニックでは、看護職は常勤換算で1人から3人程度というところが多いと考えられます。

看護職が1人から2人の職場

看護スタッフが自分を入れて1人から2人の職場では、次のようなことが起きやすくなります。

・休みを取ると、その日の看護が院長だけ、または1人だけになる ・急な休みの代わりがいない ・物品の発注や滅菌など、看護以外の仕事も1人で抱える ・合わない人がいたとき、距離を取る方法がない

一方で、自分の判断で段取りを決められる範囲が広く、院長との意思疎通が早いという良さもあります。

看護職が4人以上の職場

看護スタッフが4人以上いる職場では、シフトで休みを回しやすくなります。子どもの急な発熱で休むときも、誰かが代わりに入れる可能性があります。業務も、処置担当、検査担当、在庫担当のように分担されていることがあります。

ただし、人数が多いと、長く勤めている人を中心にした派閥ができることもあります。人数だけで判断せず、見学でスタッフ同士の声のかけ方を見ておくと安心です。

医師が複数いるかどうか

もう1つ、医師の人数も見ておきたいところです。同じ調査では、一般診療所の医師は常勤換算で152,771.7人、そのうち非常勤が45,686.7人とされています。院長のほかに、曜日によって非常勤の医師が診療しているクリニックは珍しくありません。

非常勤の医師が入る曜日は、指示の出し方や診療の進め方が院長と違うことがあります。「火曜は〇〇先生のやり方」というように、曜日ごとに動き方を切り替える必要があるかどうかも、面接で聞いておくと働き始めてから戸惑いません。

入院ベッドがあるかどうか

一般診療所のうち、入院ベッドを持つ有床診療所は5.4%です。有床診療所では夜勤や当直があり、外来だけのクリニックとは働き方がまったく違います。「クリニックなら夜勤はない」と思い込まず、求人票の「有床」「病床数」の記載を確認してください。

運営の違い:開業年数と院長の年齢

同じ規模のクリニックでも、開業からどれくらいたっているか、院長が何歳かで、職場の空気は変わります。

開業したばかりのクリニック

開業から数年以内のクリニックは、仕組みがまだ固まっていない職場です。

良い面は、職場のルールを一緒に作っていけることです。電子カルテや予約システムも新しく、スタッフ全員が同じスタートラインに立っています。先輩のやり方に合わせる必要が少ないので、人間関係のしがらみも生まれにくいです。

難しい面は、患者さんの数が安定するまで、経営が揺れやすいことです。開業にかかった借入の返済もあり、院長が人件費に敏感になっている時期でもあります。勤務時間の変更や、シフトの調整を頼まれることもあります。

開業から10年以上たったクリニック

長く続いているクリニックは、患者さんがついていて、経営が安定していることが多いです。仕事の流れも固まっているので、覚えることがはっきりしています。

一方で、長く勤めているスタッフのやり方が「職場のルール」になっていることが多く、新しく入った人は、まずそれに合わせることを求められます。

院長の年齢と後継

院長が60代、70代のクリニックでは、後継のことを考えておく必要があります。

子どもや親族に医師がいて継ぐ予定がある、ほかの医師に承継する話が進んでいる、医療法人化して体制を整えている。こうした見通しがあれば安心材料になります。反対に、見通しがはっきりしない場合は、数年のうちに閉院する可能性も考えておくべきです。

面接で「院長先生のあとは、どなたかが継がれる予定ですか」とは聞きにくいと思います。「長く働きたいと考えているのですが、クリニックの今後の体制について伺ってもよいですか」と聞けば、角が立ちにくいです。

承継されたクリニック

最近は、引退する院長から別の医師がクリニックを引き継ぐ「承継」も増えています。承継されたクリニックでは、院長が変わったことで、診療方針や職場のルールが大きく変わることがあります。スタッフはそのまま引き継がれることが多いですが、雇用契約の相手が変わる場合は、条件が引き継がれるかを必ず書面で確認してください。

診療の中身の違い:保険診療か、自費診療か

最後の軸は、診療の中身です。とくに、保険診療が中心か、自費診療が中心かで、働き方は大きく変わります。

増えている診療科、減っている診療科

医療施設調査では、診療所がかかげる診療科目の変化も分かります。令和2年と比べて、一般診療所では皮膚科が775施設、美容外科が612施設増えた一方で、小児科は1,020施設、外科は632施設減っています。

求人でも、皮膚科や美容のクリニックの募集が目につくのは、こうした流れがあるからです。

保険診療が中心のクリニック

内科、小児科、整形外科、耳鼻科など、保険診療が中心のクリニックでは、診療報酬の仕組みの中で経営が成り立っています。1人あたりの診療の単価は国が決めているので、売上は患者さんの数でほぼ決まります。

看護スタッフに求められるのは、たくさんの患者さんを滞りなく診療に通すための段取りと、採血や注射などの手技の確かさです。売上の目標を個人に課されることは、ほとんどありません。

自費診療が中心のクリニック

美容皮膚科や美容外科など、自費診療が中心のクリニックでは、施術の料金をクリニックが自由に決められます。時給や給与は、保険診療のクリニックより高めに設定されることが多いです。

その代わり、施術の予約件数や、患者さんへの説明の丁寧さが、そのまま売上に結びつきます。クリニックによっては、看護師がカウンセリングを担当し、施術のメニューを案内する役割を持つこともあります。

ここは職場によって差が大きいところです。院長の方針で「患者さんが必要とする施術だけを勧める」クリニックもあれば、売上の目標を設けて、スタッフに高額なメニューの案内を求める職場もあります。面接で「スタッフに売上の目標はありますか」「カウンセリングは誰が担当しますか」と聞いておくと、入ってからの違和感を減らせます。

在宅医療や健診をしているクリニック

外来に加えて、訪問診療や健診を行っているクリニックもあります。訪問診療があれば、看護スタッフが院長に同行して患者さんの自宅を回ることがあります。健診を受けているクリニックでは、健診の時期に検査の件数が大きく増えます。

こうした業務は、クリニックのホームページの診療案内を見れば分かります。応募する前に目を通しておきましょう。

仕組みの違い:同じ診療科でも、1日の回り方が変わる

開設者も規模も診療科も同じなのに、働きやすさがまるで違う。そういうことが起きるのは、クリニックの中の「仕組み」が職場ごとに違うからです。求人票にはあまり書かれない部分ですが、毎日の忙しさに直結します。

予約制か、順番制か

予約制のクリニックでは、1時間あたりに来る患者さんの数がある程度読めます。処置や検査の準備を前もってしておけるので、看護スタッフは段取りを組みやすくなります。

順番制、つまり来た順に診るクリニックでは、朝の開始直後や、雨上がり、連休明けに患者さんが集中します。忙しさの波が大きく、終わる時間も読みにくくなります。最近はWebで順番を取る仕組みを入れているクリニックも多く、この場合は予約制と順番制の中間のような動き方になります。

院内処方か、院外処方か

院内処方、つまりクリニックの中で薬を出しているところでは、薬の在庫管理や、薬を袋に詰める作業が発生します。薬剤師がいないクリニックでは、医師の監督のもとで看護スタッフが薬の準備を手伝うこともあります。

院外処方で、近くの薬局で薬を受け取ってもらう形なら、こうした作業はありません。その分、診療と処置に集中できます。

検査を院内でするか、外に出すか

血液検査を院内の機械で行うクリニックでは、検体の処理や機械の管理が看護スタッフの仕事になります。結果がその場で出るので、患者さんへの説明までの流れが早い一方、作業は増えます。検査会社に外注しているクリニックでは、検体を集荷の時間までに準備することが仕事になります。

電子カルテか、紙カルテか

電子カルテのクリニックでは、受付から会計までの情報が画面でつながっていて、スタッフ同士の伝達がスムーズです。紙カルテのクリニックでは、カルテの出し入れや、手書きの指示の読み取りが必要になります。長く続いているクリニックほど紙カルテが残っていることがあるので、パソコンが苦手な方には合う場合もあります。

発熱した患者さんをどう診ているか

発熱した患者さんの診療を、時間や場所を分けて行っているかどうかも、職場ごとに違います。専用の診察室や時間帯を設けているクリニックでは、防護具の着脱や動線の管理が看護スタッフの仕事に加わります。見学のときに、待合室の分け方を見ておくと、感染対策にどれくらい手をかけている職場かが分かります。

待遇の違い:時給以外の小さな仕組み

最後に、求人票の時給や月給には表れにくい待遇の違いも見ておきます。1つずつは小さくても、何年も働くうちに差が大きくなる部分です。

有給休暇の取り方

有給休暇は法律で付与されるものですが、取り方の仕組みは職場ごとに違います。年に10日以上の有給が付く人には、そのうち年5日を取らせることが雇い主に義務づけられています。

少人数のクリニックでは、お盆や年末年始の休診に有給を充てる「計画的付与」を使っているところもあります。この場合、自分で自由に使える有給の日数は減ります。計画的付与をするには労使協定が必要なので、どう運用しているかを聞いておくと、実際に自由に使える日数が分かります。

労働時間の記録の仕方

タイムカードや勤怠のシステムで出退勤を記録しているクリニックでは、延びた時間が残業として扱われやすくなります。記録の仕組みがなく、「だいたいの時間」で給与を計算しているクリニックでは、延びた時間がうやむやになりがちです。

雇い主には、労働者の労働時間を客観的な方法で把握する義務があります。面接で「出退勤はどうやって記録していますか」と聞くのは、まったく失礼なことではありません。

研修や勉強会の費用

外部の研修や学会に参加するときの費用を、クリニックが負担してくれるかどうかも、職場によって違います。院長が勉強熱心なクリニックでは、スタッフの研修費を出してくれることがあります。

また、院内の勉強会や、業務に必要な研修への参加を指示されたときは、その時間は労働時間として扱われるのが原則です。休日に参加を求められる勉強会が、給与の対象になっているかも確かめておきましょう。

スタッフの健康への配慮

インフルエンザなどの予防接種をスタッフも無料で受けられる、年に1回の健康診断をクリニックで受けられる。こうした仕組みは、医療機関ならではの福利厚生です。更衣室や休憩室が用意されているかどうかも、毎日の過ごしやすさに関わります。

求人票と面接で確かめること

ここまでの4つの軸を、求人票と面接で確かめるための項目にまとめます。

求人票で見るところ

・法人名、事業所名(医療法人か、個人開設か) ・社会保険の加入欄(健康保険、厚生年金、雇用保険の記載があるか) ・従業員数(10人以上か、5人以上か) ・診療科目と、有床か無床か ・診療時間と休診日 ・開業年、または設立年 ・賞与、退職金の有無

求人票の従業員数は、パートも含めた数のことが多いです。常勤とパートの内訳は、面接で聞いてください。

面接で聞くこと

・看護スタッフは常勤とパートで何人ずつですか ・非常勤の先生が診療する曜日はありますか ・就業規則はありますか。見せていただくことはできますか ・長く勤めている看護スタッフは多いですか ・クリニックの今後の体制について伺ってもよいですか ・スタッフに売上や件数の目標はありますか(自費診療のクリニックの場合)

就業規則の閲覧を求めるのは、失礼なことではありません。就業規則がある職場では、労働者に周知することが法律で義務づけられています。

雇用契約書で確かめること

内定が出たら、労働条件通知書または雇用契約書を必ず書面で受け取ってください。雇い主は、賃金、労働時間、就業場所、業務の内容、契約期間などを、書面で明示しなければなりません。

個人クリニックでは「うちは口約束で大丈夫」という院長もいますが、書面の明示は雇い主の義務です。とくに、試用期間中の給与、残業代の計算方法、賞与の支給条件は、あとで揉めやすいので確認しておきましょう。

相場を知っておく

提示された給与が妥当かどうかを判断するには、相場を知っておく必要があります。看護師の年収・単価相場には、看護師の年収や時給の水準がまとまっています。保険診療のクリニックと自費診療のクリニック、常勤とパートなど、条件の違う求人を見比べるときの物差しになります。

受付や医療事務として個人クリニックで働く場合も、見るべき軸は同じです。医療事務の仕事の中身を事前に知っておきたい方は、医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)の出題範囲を見ておくと、受付や会計、診療報酬の請求など、クリニックで任される業務の全体像がつかめます。

職場の違いを知っておくことが、その先の働き方を守る

最後に、ここまでの話を、その先の働き方にどうつなげるかをお話しします。

「違い」を言葉にできる人は、次の選択で迷わない

個人クリニックは、開設者、規模、運営、診療の中身の4つの軸で、職場ごとに大きく違います。この違いを知らないまま働き始めると、「社会保険に入れると思っていた」「休みを取れると思っていた」というずれが、あとから見つかります。

反対に、4つの軸で職場を見る習慣がある人は、今の職場で困ったことが起きたとき、「どの軸が原因なのか」を切り分けられます。次の職場を選ぶときも、同じずれを繰り返さずに済みます。

働き方の相談に乗る側に回る道

医療の現場で働いた経験と、職場ごとの違いを見分ける目は、働く人の相談に乗る仕事でも活かせます。転職や職場の悩みを聞き、どんな職場が合うかを一緒に考える仕事の中身は、職場・転職・キャリア相談のお仕事にまとまっています。国家資格として取り組むなら、キャリアコンサルタントの受験資格や試験の構成を確認しておくと、準備の見通しが立ちます。

運営者として見てきたこと

フリーランスや在宅ワークの市場を20年運営してきた立場から言えば、働き方で長く困らない人ほど、条件の良し悪しより先に「相手はどういう形で事業をしているのか」を確かめています。個人か法人か、何人で回しているのか、何年続いているのか。これは雇われて働く場合も、業務委託で依頼を受ける場合も同じです。

依頼者と直接やり取りする働き方では、間に仲介の手数料が入らない分、同じ予算で依頼者はより多くを頼め、受け手の手元に残る分は厚くなります。その代わり、相手の事業の形や契約の中身を確かめるのは、自分の役目になります。個人クリニックを4つの軸で見る目は、組織を離れて働くときにも、そのまま自分を守る力になります。

法律と制度の仕組みを知っていれば、職場選びで損をすることはぐっと減ります。法律はあなたの味方です。気になる個人クリニックがあったら、まず求人票の法人名と社会保険の欄から見てみてください。

よくある質問

Q. 個人クリニックと医療法人のクリニックでは、働く側にとって何が違いますか?

一番大きいのは社会保険と、院長が引退したときの扱いです。医療法人は従業員が1人でもいれば社会保険の適用事業所ですが、院長個人が開設するクリニックは常時雇う人が5人未満だと適用が強制されません。また個人開設は院長の引退や病気で閉院しやすく、医療法人は後継の医師がいれば続けられるという違いがあります。

Q. 小さな個人クリニックに就業規則がないのは違法ですか?

常時10人未満の労働者しかいない事業場では、就業規則の作成と届出は義務ではないため、ないこと自体は違法ではありません。ただし就業規則がなくても労働基準法は適用されるので、有給休暇や残業代は権利として発生します。口約束で決まりやすい賞与や退職金の条件は、雇用契約書などの書面で確認しておくと安心です。

Q. 個人クリニックの求人票で、まず見るべき欄はどこですか?

法人名と社会保険の欄です。医療法人社団などの記載があれば法人、院長名や医院名だけなら個人開設の可能性があります。社会保険の欄に健康保険と厚生年金が書かれているかも確認してください。あわせて従業員数、有床か無床か、開業年を見ておくと、規模や夜勤の有無、職場の落ち着き具合の見当がつきます。

Q. 自費診療のクリニックで働くときに注意することはありますか?

給与が高めに設定されやすい一方で、施術の予約件数や説明の仕方が売上に直結するため、職場によってはスタッフに目標が設けられることがあります。看護師がカウンセリングを担当する職場もあります。面接で、スタッフに売上や件数の目標があるか、カウンセリングは誰が担当するかを聞いておくと、入職後のずれを減らせます。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年7月15日最終更新:2026年9月23日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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