支店を出したときの法人設置届出書|本店とは別に出す


この記事のポイント
- ✓会社を作ったときだけでなく支店や事務所を新しく設けたときにも出す書類です
- ✓税務署ではなく都道府県と市町村が出し先になる理由
- ✓自治体ごとに15日から2か月まで開く期限の差
会社を作ったときに出した書類と同じ名前なのに、今度は税務署ではないらしい。支店を出した直後に「法人設立設置届出書」を調べている人の多くが、ここで止まります。結論を先に書きます。この書類は地方税の書類で、出し先は支店がある場所の都道府県と市区町村です。税務署には出しません。そして期限は国の書類のように全国一律ではなく、自治体ごとに15日から2か月まで開きがあります。
まず、安心してください。手続そのものは難しくありません。難しいのは、どこに何日以内に出すのかが役所ごとに違うことと、そもそも自分の作った拠点が「事務所等」に当たるのかという線引きです。ここではその2つを中心に、各自治体と国の公式案内をそのまま確認しながら順に並べていきます。
「設立」と「設置」は別の出来事を指している
書類の名前に「設立」と「設置」が並んでいるせいで混乱しますが、この2語は別の出来事を指しています。設立は会社そのものが生まれたこと、設置は会社がその自治体に拠点を持ったことです。同じ1枚の用紙が、両方の場面で使われます。
静岡市の案内が、この書類の守備範囲をいちばん素直に書いています。
静岡市内に法人等を設立した場合又は事務所、事業所若しくは寮、宿泊所、クラブ等を新設した場合にご提出ください。 提出時期 法人を設立または設置した日から15日以内 出典: city.shizuoka.lg.jp
読み直すと、対象が2つ並んでいるのが分かります。市内に法人を設立した場合と、市内に事務所などを新設した場合です。東京に本店がある会社が静岡に営業所を開いたなら、後者に当たります。会社が生まれたわけではないので設立ではありませんが、静岡市から見れば新しく課税する相手が市内に現れたので、知らせてもらう必要がある。それが「設置」の届出です。
そして書類名に寮や宿泊所やクラブまで書かれていることにも意味があります。売上を立てる営業拠点だけが対象ではありません。この点は後の節で詳しく扱います。
出し先は都道府県と市区町村。税務署ではない
支店を出したときの届出で最初に押さえるのは、窓口の分かれ方です。会社にかかる税金は国に納める法人税と、地方に納める法人住民税および法人事業税に分かれていて、窓口はそれぞれ別です。
| 何が起きたか | 税務署(国) | 都道府県 | 市区町村 |
|---|---|---|---|
| 会社を作った | 法人設立届出書を出す | 法人設立・設置届出書を出す | 法人設立・設置届出書を出す |
| 支店・事務所を新しく設けた | 原則として出さない | その都道府県に初めてなら出す | その市区町村に初めてなら出す |
| 本店を移した、商号を変えた | 異動届出書を出す | 異動届出書を出す | 異動届出書を出す |
税務署への届出が支店では不要になるのは、法人税が会社という単位にかかる税金だからです。国から見れば、支店が1つ増えても納税者は同じ1社のままで、新しい納税者は生まれていません。国税庁が案内している法人設立届出書の対象も、会社そのものの誕生に絞られています。
内国普通法人等を設立した場合の手続です。 [提出時期]法人設立の日(設立登記の日)以後2月以内 出典: nta.go.jp
一方、地方税はまったく考え方が違います。法人住民税は、その自治体に事務所や事業所を持っている会社に課税されます。東京都の案内は、誰が納めるのかをこう説明しています。
都内に事務所又は事業所のある法人や収益事業を行う人格のない社団や財団などです。 また、都内に寮、保養所、宿泊所、クラブなどをもつ法人や収益事業を行わない公益法人・特定非営利活動法人等も、均等割だけは課税されます。 出典: tax.metro.tokyo.lg.jp
拠点があるかどうかで課税されるので、拠点が増えれば課税する自治体も増えます。だから地方税だけ、支店を出すたびに届出が要ります。ここが国税との決定的な違いです。
もう1つ注意したいのが、同じ自治体の中で2つ目の拠点を作った場合です。大阪市は、すでに市内に事務所がある会社がさらに市内に事務所を増やしたときは設置の届出ではなく異動届を使うよう案内しています。都道府県も市区町村も、「その自治体に初めて拠点を持ったとき」が設置届の出番で、2回目以降は異動届に切り替わる、と覚えておくと迷いません。
期限は自治体ごとに違う。15日から2か月まで開く
ここが支店設置でいちばん事故が起きるところです。国の法人設立届出書は全国どこでも2か月以内ですが、地方税の届出期限は各自治体が条例で決めているため、日数がそろっていません。実際に公式案内を開いて確認すると、こうなります。
| 自治体 | 書類の名前 | 期限 |
|---|---|---|
| 東京都 | 法人設立・設置届出書 | 事業を開始した日から15日以内 |
| 静岡市 | 法人設立設置届出書 | 設立または設置した日から15日以内 |
| 名古屋市 | 法人の設立・事務所事業所新設廃止申告書 | 新設または廃止することとなった日から30日以内 |
| 大阪市 | 法人設立・事務所等開設申告書 | 設立または開設の日から2月以内 |
東京都は都税条例で15日と定めています。
法人を設立した場合、都内に初めて支店等を設置した場合、法人設立・設置届出書を所管の都税事務所(都税支所)・支庁に提出してください(東京都都税条例第26条第1項、都税条例規則第12条の2)。 事業を開始した日から15日以内に申告をお願いします。 出典: tax.metro.tokyo.lg.jp
名古屋市は30日以内、大阪市は2月以内です。最短の15日と最長の2か月では4倍の差があります。国の2か月に慣れていると、東京都に支店を出したときに確実に間に合いません。支店を出す場所が決まった時点で、その都道府県名と市区町村名に「法人設立 設置 届出」を足して公式サイトを引き、日数を先に確かめるのが唯一の確実な方法です。
なお、東京23区に支店を出す場合は窓口が1つで済みます。23区内の法人住民税は、市町村民税に当たる部分も都が都民税としてまとめて課税するため、区役所への届出は要らず、都税事務所への届出だけで足ります。都内でも武蔵野市や町田市のような市部に出すなら、都税事務所と市役所の両方です。同じ東京でも扱いが変わるので、住所の市区町村名まで見てから判断してください。
「事務所等」に当たるかどうかが最初の分岐
届出が要るかどうかは、作った拠点が地方税でいう事務所または事業所に当たるかで決まります。看板を出したかどうか、支店という名前を付けたかどうかは関係ありません。東京都の案内が、判定の物差しを具体的に示しています。
事務所又は事業所とは、それが自己の所有に属するものであるか否かにかかわらず、事業の必要から設けられた人的及び物的設備であって、そこで継続して事業が行われる場所をいいます。 人的設備とは事業活動に従事する自然人をいい、正規従業員だけでなく、派遣労働者や、アルバイト、パートタイマー、役員等も含まれます。 出典: tax.metro.tokyo.lg.jp
条件は3つです。人がいること、設備があること、そこで継続して事業が行われていること。この3つがそろって初めて事務所等になります。
人的設備には役員も含まれる、と書かれている点が重要です。従業員を1人も置いていなくても、代表取締役が毎日そこで仕事をしているなら人的設備はあることになります。1人会社が2拠点目を借りた場合でも、対象になり得るということです。
物的設備は、机や椅子や通信回線といった、事業を行うための道具や場所を指します。自社で所有していても、借りていても扱いは同じです。賃貸のワンルームでも、そこに機材を置いて仕事をしているなら物的設備はあります。
継続して、という条件が実務上いちばん効きます。単発のイベントのために2週間だけ借りた会場、工事のために設けた仮設の現場事務所、短期間で撤収する出張拠点は、継続性がないので事務所等に当たらないと判断されるのが一般的です。ただし何日から継続と見るかは法律に数字で書かれておらず、自治体が実態を見て判断します。判断に迷う形の拠点を作るなら、その自治体の課税課に電話で事情を説明して確認するのが早くて確実です。
逆に、当たらないと思い込んで見落としやすいのが次の3つです。1つ目は倉庫。人がいて継続的に出荷作業をしているなら事務所等に当たり得ます。単に物を置いているだけの無人の保管場所なら人的設備がないので該当しません。2つ目は社宅や独身寮。売上は立ちませんが、東京都の案内に寮が明記されているとおり、均等割だけは課税されます。3つ目はレンタルオフィスやコワーキングスペースの法人契約。住所だけを借りるバーチャルオフィスは物的設備も人的設備もないので通常は該当しませんが、固定の個室を借りて人が常駐しているなら該当します。
拠点が増えると均等割が積み上がる
届出を出す意味は、そこから税金が発生するからです。法人住民税は法人税割と均等割の2つでできています。法人税割は法人税の額をもとに計算するので赤字なら出ませんが、均等割のほうは決算の結果に関係なくかかります。金額は資本金等の額と従業者の数で区分され、儲かっていてもいなくても毎年同じ額を払います。
そして均等割は、拠点がある自治体ごとにかかります。東京都が公開している均等割の税率表には、複数の区にまたがる場合の足し算の仕方が書かれています。
2以上の特別区に事務所等を有する場合は、主たる事務所等所在の特別区の均等割額に、従たる事務所等所在の特別区の数に応じた均等割額を加算します。 出典: tax.metro.tokyo.lg.jp
支店を1つ増やすということは、毎年払う固定費を1つ増やすということです。税率の区分は資本金等の額と従業者の数で決まるので、正確な金額は各自治体の税率表を見る必要がありますが、構造だけは先に理解しておいてください。赤字でも出ていく、拠点の数だけ積み上がる、この2点です。
もう1つ、法人税割のほうにも影響があります。2つ以上の都道府県に事務所等を持つ会社は、法人税額を従業者の数で按分して、それぞれの自治体に申告します。1か所だけのときは総額をそのまま申告すればよかったのが、拠点が増えた瞬間に按分の計算が入ります。決算のときの手間がひとつ増えるので、顧問税理士がいるなら支店を出す前に一報を入れておくのが無難です。
届出書の欄は9割が本店の情報
用紙は自治体ごとに少しずつ違いますが、聞かれることはほぼ共通です。上から順に見ていきます。
法人名、本店所在地、代表者の氏名と住所、法人番号。ここは登記事項証明書に書いてあるとおりに写します。ふりがなを求める欄があるので、法人名の読みも埋めます。法人番号は13桁で、国税庁の法人番号公表サイトか、登記完了後に届く通知書で確認できます。
設立年月日と資本金の額。これも登記事項証明書のとおりです。支店の設置であっても、聞かれるのは会社の設立年月日で、支店を開いた日ではありません。混同しやすいところです。
事業年度。定款に書いた期間を書きます。4月1日から翌年3月31日まで、といった形です。
事業の種類または目的。定款の目的欄に並んでいるもののうち、実際に行っている事業を書きます。定款には将来やるかもしれない事業まで幅広く書くのが普通なので、全部を転記すると実態とずれます。現に営んでいるものを中心に書き、定款に記載しているものを別欄で求められたらそちらに並べます。
そして支店の届出でいちばん重要な、事務所等の欄です。今回新しく設けた拠点の所在地、名称、電話番号、設置した年月日、その拠点の従業者数、その拠点で行う事業内容を書きます。設置年月日は、登記の日でも契約の日でもなく、実際にそこで事業を始めた日を書くのが基本です。東京都が期限の起算点を「事業を開始した日」と書いているのと同じ考え方です。
最後に、その自治体の中に既にある事務所等を書く欄があります。初めての設置なら空欄、2つ目以降ならすべて書き出します。ここが埋まる場合、そもそも使う用紙が異動届のほうに変わる自治体が多いので、記入前にもう一度確認してください。
添付書類は登記事項証明書と定款の写し
税務署に出す法人設立届出書の添付書類は定款の写しだけでしたが、地方税のほうは登記事項証明書を求める自治体が多数派です。静岡市の案内では、提出書類として登記事項証明書(履歴事項証明書)の写しと定款の写しの2点が挙げられています。大阪市はこれに株主または出資者の名簿が加わります。名古屋市は、国税で登記事項証明書の添付が不要になった後も、法人市民税では引き続き写しの添付を求めると明記しています。
登記事項証明書は法務局の窓口か、オンラインの登記情報提供サービスで取得できます。名古屋市のように、登記情報提供サービスで取得した情報を印刷したもので代用できると明記している自治体もあります。窓口に行く時間がないときは、その一文があるかどうかを確認してから印刷に切り替えると往復が減ります。
発行からの期間に条件を付けている自治体もあるので、取得してから何か月も寝かせないほうが安全です。届出を出すと決めたら、登記事項証明書を取る、定款のPDFを印刷する、用紙をダウンロードして埋める、の3つをまとめて1日で片付けるのが結局いちばん早い進め方です。
提出方法は、窓口への持参、郵送のほか、地方税の電子申告システムであるeLTAXが使えます。静岡市も大阪市もeLTAXでの手続に対応していると案内しています。支店を複数の自治体に同時に出す場合は、電子のほうが明らかに楽です。1回の手続で複数の提出先を選べるので、用紙を人数分印刷して封筒を分ける作業が消えます。
支店の登記は、支店の場所ではしなくなった
税金の話から少し離れますが、支店を出すときに必ず調べることになるので触れておきます。かつては支店を設けたとき、本店の管轄の法務局と支店の管轄の法務局の両方に登記を申請する必要がありました。これが2022年9月1日から変わっています。
令和4年9月1日から、支店・従たる事務所の所在地における登記が廃止されます。 したがって、同日から、支店の所在地における登記は不要となり、仮にこれを申請しても、商業登記法第24条第2号により却下されることとなります。 なお、本店の所在地における支店の設置、移転又は廃止等の登記は引き続き必要ですので、御注意ください。 出典: moj.go.jp
つまり、支店の登記は1回で済むようになりました。本店の管轄法務局にだけ申請します。支店の所在地の法務局に申請しても受け付けてもらえません。数年前の記事や書籍には両方に出すと書かれているものが残っているので、古い情報に当たらないよう気をつけてください。
ここで大事なのは、登記と税務の届出が別物だということです。支店を登記したからといって、都道府県や市区町村に自動で伝わるわけではありません。逆に、登記をしない実質的な事業所であっても、事務所等の3条件を満たすなら地方税の届出は必要です。登記簿に載っているかどうかと、届出が要るかどうかは、連動していません。
給与を支店で払うなら、税務署への届出が1つ増える
支店設置で税務署に出す書類は原則ないと書きましたが、例外が1つあります。その支店で給与の支払事務を扱うなら、給与支払事務所等の開設届出書が必要です。国税庁の案内はこうなっています。
給与の支払者が、国内において給与等の支払事務を取り扱う事務所等を開設、移転又は廃止した場合に、その旨を所轄税務署長に対して届け出る手続です。 [提出時期]開設、移転又は廃止の事実があった日から1か月以内に提出してください。 出典: nta.go.jp
出し先にも注意が必要です。この届出は本店の所轄税務署ではなく、給与支払事務所等の所在地の所轄税務署に出します。つまり支店で給与計算をして支払うなら、支店の所在地を管轄する税務署が窓口になります。
ただし、支店に人を配置しても給与計算を本社でまとめてやっているなら、給与の支払事務を扱う場所は本社のままです。この場合は新しい届出は要りません。判断の基準は人がどこにいるかではなく、給与の支払事務をどこで処理しているかです。ここを取り違えて、支店ができるたびに届出を出している会社を見かけますが、本社一括なら不要です。
支店ごとに源泉徴収の事務を分ける場合は、納付先も支店の所轄税務署に分かれます。事務が煩雑になるので、支店ができても給与計算は本社に集約したままにする会社が大半です。なお、給与を支払う人数が常時10人未満なら、源泉所得税を年2回にまとめて納める特例が使えます。
1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税・・・7月10日 7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税・・・翌年1月20日 出典: nta.go.jp
この10人未満という数え方は、事務所ごとではなく給与支払事務所等の単位で見ます。給与計算を本社に集約しているなら、全社の人数で判定することになります。支店を増やして人数が10人以上になったら、特例の要件を外れた旨の届出が別に必要です。
社会保険の手続は、支店の扱い方で分かれる
税金の届出と同じ時期に検討することになるのが、社会保険です。健康保険と厚生年金は事業所単位で適用されるのが原則で、新しく適用事業所になるときの届出は非常に短い期限で設定されています。
「新規適用届」は、事業所が厚生年金保険および健康保険に加入すべき要件を満たした場合に事業主が日本年金機構へ提出します。 提出時期 事実発生から5日以内 出典: nenkin.go.jp
5日です。地方税の15日よりさらに短い。ただし、支店を出したら必ずこの届出が要るわけではありません。給与計算や人事の管理を本社で一括してやっているなら、本社の適用事業所に支店の従業員をぶら下げる形で処理できる場合があります。どちらの形にするかで手続も保険料の納付先も変わるので、支店を開く前に管轄の年金事務所に相談しておくと、5日という短い期限に追われずに済みます。
従業員を雇うなら、労災保険と雇用保険の手続も発生します。窓口は労働基準監督署とハローワークで、税務署とも年金事務所とも別です。支店を独立した事業所として扱うのか、本社の一部として扱うのかで、ここでも扱いが分かれます。
出し忘れたときに何が起きるか
法人設立設置届出書を期限までに出さなかったら何が起きるのか。正直に書くと、その1枚を遅らせたこと自体で罰金が来るという運用は、実務上ほとんど見かけません。条例には罰則の規定を置いている自治体もありますが、適用されるのは意図的に隠したような事案です。
では放っておいていいのかというと、まったく違います。困るのは別のところです。
1つ目は、申告書や納付書が届かないことです。届出を出して初めて、その自治体の税務システムに会社が登録されます。登録されなければ、決算期が来ても申告書の用紙も納付書も送られてきません。そのまま気づかずに申告期限を過ぎると、今度は本物の不利益が来ます。無申告加算税や延滞金は、届出の遅れではなく申告と納付の遅れに対して課されるものです。
2つ目は、まとめて請求が来ることです。届出が数年遅れて発覚した場合、その間の均等割は消えません。遡って課税されます。毎年払っていれば気にならない金額でも、3年分がまとめて請求されると資金繰りに響きます。
3つ目は、補助金や金融機関の審査です。地方自治体の補助金には、その自治体に事業所があることを要件にしているものが少なくありません。届出を出していないと、事業所があることを示す資料が用意できず、要件を満たしているのに申請できないという事態が起こります。
気づいたときの対処は単純です。遅れたことを電話で伝えて、届出書を出します。日付は実際に設置した日を書きます。設置日を遅らせて書けば期限内に収まるように見えますが、登記簿や賃貸契約と突き合わせればすぐ分かるうえ、虚偽の届出になります。素直に事実を書いて、遡って課税される分を払うのが結局いちばん早く終わります。
拠点が2つ以上になると、申告書の作り方が変わる
届出を出した次に来るのが、決算のときの計算です。1か所だけなら課税標準の総額をそのまま申告すればよかったのが、2つ以上の自治体に事務所等を持った瞬間から、按分の作業が入ります。東京都主税局は按分の物差しをこう整理しています。
・都民税の法人税割は、算定期間の末日現在における従業者の数で按分する ・法人事業税は主たる事業の種目で物差しが変わり、建設業、通信業、卸売業、小売業、不動産業、サービス業、ソフトウェア業などは、課税標準の総額の2分の1を事業所等の数で、残りの2分の1を従業者の数で按分する ・製造業は従業者の数だけで按分する
根拠として挙げられているのは地方税法第57条、第321条の13、第72条の48です。
数字を入れてみます。本店が東京で従業者8人、新しく出した大阪の支店が2人だとします。住民税の法人税割は従業者の数だけで割るので、東京が8割、大阪が2割です。ところがサービス業として事業税を計算すると、半分は事業所等の数で割るので東京と大阪が1か所ずつで25%ずつ、残りの半分を8人と2人で割るので東京40%と大阪10%。合わせると東京65%、大阪35%になります。
人数の少ない支店でも、事業所が1つ増えるだけで事業税の取り分がその自治体に3割以上動く。これが按分の効き方です。決算の直前に気づくと、申告書の様式を追加で用意することになります。支店を出した時点で、顧問税理士か会計ソフトの担当に「次の決算から分割の申告になる」と伝えておくと、決算期の手戻りがなくなります。
もう1つ、東京都に本店がなく都内に複数の支店を置く場合の扱いも覚えておくと迷いません。東京都主税局は、都内に複数の支店を設置する場合はその中の1つを都内の主たる事務所等として、その区を所管する都税事務所へ届け出るよう案内しています。均等割の計算でも、都内の1つを主たる事務所等、それ以外を従たる事務所等として扱います。どの拠点を主たる事務所等にするかは会社が決めるので、届出のときに決めて、以後の申告でも同じ扱いを続けます。
なお、按分に使う従業者の数の数え方には細かい決まりがあり、事業年度の途中で支店を設けた場合の扱いも様式の記載要領に書かれています。初めて分割の申告をする年は、様式だけ先に開いて、どの数字を集めておく必要があるかを確認しておくと、決算のときに数え直しが発生しません。
拠点を増やす前に、運営者が見てきた分かれ道
ここからは、在宅ワークと業務委託の市場を20年見てきた運営者の視点で、届出の話より一段手前のことを書きます。
拠点を増やす相談で最も多いのは、「人が増えたので場所を借りる」という順番です。運営者として見てきた限りでは、増やしたあとに畳むことになった拠点には共通点があります。場所を先に決めて、そこで何をするかを後から考えている。逆にうまく回っている拠点は、その土地でしか取れない仕事が先にあって、場所はその仕事を受けるために後から借りています。順番が逆なだけで、毎年の均等割と原状回復費用という形で数年分のコストが残ります。
もう1つ、働く場所の考え方そのものが、この20年でかなり変わりました。以前は、地方の発注者と組むには現地に拠点を置くしかありませんでした。今は契約も納品も打ち合わせもオンラインで完結する仕事が増え、拠点を持たずに全国の案件を受けている会社が普通にあります。拠点を1つ増やすかどうかを考えるときは、その支店でしかできないことが本当にあるのかを先に確かめてほしいと思います。答えが「なんとなく信用のため」なら、固定費に見合わないことが多い。
額面ではなく手取りで考える癖も、長く続いている人に共通しています。同じ仕事でも、仲介が何割か抜く経路を通ると手元に残る額が変わります。中間マージンが乗らない直接取引なら、発注する側は同じ予算でより多く頼め、受ける側は手数料0%で手取りが厚くなる。拠点を増やす前に、今の取引経路で抜かれている分を見直したほうが、支店1つ分の固定費より大きく効くことがあります。
自分の単価が相場のどのあたりにいるかを確かめておくと、拠点を持つ判断もしやすくなります。開発の仕事ならソフトウェア作成者の年収・単価相場に全国平均と都道府県別の水準が並んでいます。都道府県別の数字が出ているので、支店を出そうとしている土地の相場がそのまま読めます。文章や編集の仕事なら著述家,記者,編集者の年収・単価相場のほうです。
仕事の幅を広げる方向で考えるなら、予算が付きやすい領域を見ておくのが早い。AIコンサル・業務活用支援のお仕事は生成AIの導入戦略から社内研修までを引き受ける仕事で、企業側が投資として扱うため単価が落ちにくい分野です。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事も、技術と事業の両方が分かる人が少ないので同じ傾向があります。受託開発を軸にするならアプリケーション開発のお仕事が近い領域です。
会社の器が大きくなると、書類仕事そのものの量も増えます。届出書や契約書の精度を上げたいならビジネス文書検定のような検定が土台になりますし、技術側の基礎を客観的に示したいならCCNA(シスコ技術者認定)のような資格が使えます。個人事業のときの税の感覚を整理し直すなら確定申告 メリットを最大化!フリーランスが知るべき節税と還付のコツが参考になりますし、拠点に回す資金と手元に残す資金の配分を考えるなら【20年で2倍?】毎月10万円の積立投資で資産形成する最強のポートフォリオのような長期の視点も要ります。
届出書を埋める作業そのものは、慣れれば20分で終わります。時間がかかるのは、その拠点を持つかどうかの判断と、持つと決めた後に走り出す期限の管理です。支店の場所が決まったその日に、都道府県と市区町村の期限を調べてカレンダーに入れる。これだけで、後から遡って請求される事態はほぼ防げます。
よくある質問
Q. 支店を出したら税務署にも法人設立設置届出書を出しますか?
出しません。税務署に出す法人設立届出書は、会社そのものを設立したときの書類です。支店の設置で出すのは、支店がある都道府県と市区町村への法人設立・設置届出書です。ただし、その支店で給与の支払事務を扱うなら、支店の所在地の税務署に給与支払事務所等の開設届出書を開設から1か月以内に出す必要があります。
Q. 期限は何日以内ですか?
自治体ごとに違います。東京都と静岡市は15日以内、名古屋市は30日以内、大阪市は2月以内と案内しています。国の法人設立届出書は全国一律で2か月以内ですが、地方税は各自治体の条例で決まるため統一されていません。支店を出す都道府県名と市区町村名で公式サイトを開いて、日数を先に確かめてください。
Q. 倉庫やバーチャルオフィスも届出の対象になりますか?
人がいて継続して業務をしている倉庫は対象になり得ます。物を置いているだけの無人の保管場所は、人的設備がないので通常は対象外です。住所だけを借りるバーチャルオフィスも、人も設備もないので通常は対象になりません。固定の個室を借りて人が常駐するレンタルオフィスは対象になります。迷う形の拠点なら、その自治体の課税課に実態を説明して確認するのが確実です。
Q. 届出を出し忘れていたことに気づいたら、どうすればいいですか?
気づいた時点で自治体に連絡し、実際に設置した日を書いて届出書を出します。この書類の遅れ自体で罰金が来る運用はまれですが、届出がないと申告書も納付書も届かず、申告と納付の遅れとして加算税や延滞金の対象になります。過去の均等割も遡って請求されるので、放置するほど一度に払う額が増えます。設置日を実際より遅く書くのは虚偽の届出になるので避けてください。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
前田 壮一@SOHO編集部
元メーカー管理職・43歳でフリーランス転身
大手電機メーカーで品質管理を20年間担当した後、42歳でフリーランスに転身。中高年のキャリアチェンジや副業の始め方を、自身の経験をもとに発信しています。
関連記事
カテゴリから探す

クラウドソーシング入門
クラウドソーシングの基礎知識・始め方・サイト比較

職種別ガイド
職種・スキル別の案件獲得方法と単価相場

副業・在宅ワーク
副業・在宅ワークの始め方と対象者別ガイド

フリーランス
フリーランスの独立・営業・実務ノウハウ

スキルアップ
プロフィール・提案文・単価交渉などのテクニック

比較・ランキング
サービス比較・おすすめランキング

AI活用
職種別にChatGPT・生成AIを活用して業務効率化・収益化するノウハウ

最新トレンド
市場動向・法改正・AIなど最新情報

発注者向けガイド
クラウドソーシングで外注・人材探しをする企業・個人向け

転職・キャリア
転職エージェント・転職サイト比較・キャリアチェンジ

看護師の転職・求人
看護師の転職・派遣・単発バイト・副業など働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

薬剤師の転職・求人
薬剤師・登録販売者の転職・派遣・パートなど働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

介護職の転職・求人
介護職・介護福祉士・ケアマネジャー・訪問介護員の転職・派遣・夜勤など働き方のガイド

保育士の転職・求人
保育士・保育補助・幼稚園教諭の転職・派遣・パートなど働き方のガイド

医療職の転職・求人
医師・産業医・リハビリ職・歯科衛生士・管理栄養士・医療事務の転職や働き方のガイド。診療や医学の情報は扱いません

保険
生命保険・医療保険・フリーランスの保険設計

採用・求人
無料求人掲載・採用コスト削減・人材募集の方法

オフィス・ワークスペース
バーチャルオフィス・コワーキング・レンタルオフィス

法律・士業
契約トラブル・士業独立開業・フリーランス新法

シニア・50代
シニア世代のキャリアチェンジ・副業・年金

セキュリティ
サイバーセキュリティ・脆弱性対策・情報保護

金融・フィンテック
暗号資産・決済・ブロックチェーン・金融テクノロジー

経営・ビジネス
経営戦略・ガバナンス・事業承継・知財

ガジェット・機材
フリーランスに役立つPC・デバイス・周辺機器

子育て×働き方
子育てと在宅ワークの両立・保育園・時間管理

補助金・助成金
個人事業主・フリーランスが使える公的補助金・助成金・給付金の申請ガイド

アウトソーシング・外注ガイド
SNS運用・経理・広告など、業務のアウトソーシング(外注)を検討する企業・個人向け。費用相場・依頼の流れ・失敗しない選び方







