字幕翻訳の提案文は在宅で何を使えるかを先に書くと通る

長谷川 奈津
長谷川 奈津
字幕翻訳の提案文は在宅で何を使えるかを先に書くと通る

この記事のポイント

  • ✓字幕翻訳の提案文が在宅案件で落ち続ける原因は語学力ではなく
  • ✓稼働条件と使用環境が読み取れないことです
  • ✓発注側が最初に確認する項目

先日、映像翻訳スクールを修了したばかりという方から相談を受けました。「在宅の字幕翻訳案件に30件近く提案文を送ったのに、返信が1件もない」と。提案文を見せてもらって、原因はすぐに分かりました。語学力の問題ではありません。提案文の冒頭が「はじめまして。この度は貴重な機会をいただきありがとうございます」で始まり、使用している字幕制作ソフトの名前が本文の最後の行にしか書かれていなかったのです。

結論から言います。字幕翻訳の提案文が在宅案件で通るかどうかは、冒頭の数行で「この人に何を渡せるか」が読み取れるかどうかで決まります。つまり、対応言語、使える字幕制作ソフト、納品できるファイル形式、週の稼働時間。この4つが最初に書いてあるかどうかです。これ、知らない人が本当に多いんです。挨拶と熱意を先に書くのが礼儀だと思い込んでいる方が、あまりにも多い。

この記事では、在宅の字幕翻訳案件で提案文が落ちる構造的な理由、発注側が実際に何を見ているか、そして通る提案文の組み立て方を、契約実務の視点まで含めて書いていきます。法律の話も出てきますが、必ず「つまり」で言い換えますので安心してください。

在宅の字幕翻訳市場では、提案文は選考書類ではなく仕様書として読まれる

まず前提を揃えます。在宅の字幕翻訳案件で提案文を読む人は、人事担当者ではありません。多くの場合、制作進行の担当者か、翻訳会社のコーディネーターです。この人たちは、目の前にある案件を誰に振るかを決めるために提案文を読んでいます。人物評価をしているのではなく、割り当て可能かどうかを判定しているのです。

この違いは決定的です。正社員採用の応募書類なら、人柄や成長可能性を伝える文章に意味があります。しかし在宅の業務委託案件では、来週火曜までに45分のバラエティ番組の字幕を仕上げられる人を探しているだけです。人柄は、その条件を満たした人の中で比較されるにすぎません。

求人媒体に出ている募集要項を見ると、この構造がよく分かります。

在宅ワーク可能な韓国語から日本語への映像翻訳者を募集しています。バラエティやアイドルの字幕翻訳、ドラマの字幕翻訳業務を担当していただきます。業務内容は字幕翻訳、タイムコード修正、用語集作成です。韓国語の読解・リスニング力が高く、日本語ネイティブの方、ガイドラインを理解し反映できる方、映像翻訳経験者、他の翻訳者へのフィードバック経験がある方を求めています。勤務時間は指定なしです。 出典: 求人ボックス

注目してほしいのは、業務内容が「字幕翻訳」だけで終わっていないことです。タイムコード修正と用語集作成が並んでいます。つまり、訳文を作る作業と、字幕という形式に落とし込む作業と、案件全体の品質を揃える作業が、ひとつの発注にまとめて入っている。提案文で語学力しか書いていない人は、この3つのうち1つしか答えていないことになります。

在宅前提の案件が増えたことで、選考基準が変わった

映像翻訳の在宅化は、コロナ禍を境に一気に進みました。以前は制作会社に出向いて素材を受け取り、スタジオの端末で作業するのが当たり前だった工程が、クラウド上での素材受け渡しに置き換わりました。この変化が、提案文の読まれ方を変えています。

対面前提だった頃は、まず会って話し、そこで人となりと環境を確認できました。今は提案文とオンラインの短い面談だけで判断します。だから発注側は、提案文の段階で環境情報を欲しがるようになりました。回線速度、作業用のマシン、使用ソフトのバージョン、セカンドモニターの有無。これらは以前なら聞かなくても分かったことですが、在宅では書いてもらわないと分かりません。

クラウドソーシング型のプラットフォームでも、映像翻訳のカテゴリは独立した区分として扱われています。

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検索から納品、報酬受け取りまでが同じ画面で完結するということは、逆に言えば、提案文以外に自分を説明する場がほとんどないということです。応募ボタンを押した先の入力欄に書いた文章が、選考資料のすべてになります。

単価帯によって、提案文で見られる箇所が変わる

字幕翻訳の報酬体系は、案件によって大きく分かれます。おおまかには、映像1分あたりで計算する分単価、字幕1枚あたりで計算する枚数単価、作品1本あたりの固定額の3種類です。案件により幅がありますが、分単価であればおおむね数百円台から1,000円を超える帯まで分布します。

低単価帯の案件では、提案文で最も見られるのは「量をこなせるか」です。週に何分の素材を処理できるか、連続した納期に耐えられるか。ここが判定軸になります。高単価帯の案件では、逆に「精度の担保方法」が見られます。専門用語をどう調べるか、原語の聞き取りに不安がある箇所をどう処理するか、確認事項をどのタイミングで出すか。

提案文を書く前に、その案件がどちらの帯にいるのかを見極めてください。単価が明示されていない募集でも、素材の種類でおおよそ判別できます。バラエティやリアリティ番組の量産案件は前者、企業のIR動画や医療系の講演字幕は後者です。ここを取り違えると、量産案件に精度アピールを長々と書いて「話が長い人」と判定されます。

提案文が落ちる本当の理由は、語学力ではなく読み取りコストの高さ

相談を受けて提案文を実際に見ていくと、落ちるパターンには共通点があります。文章が下手なのではありません。読み手が知りたい情報にたどり着くまでに時間がかかる構造になっているのです。

制作進行の担当者は、ひとつの募集に対して数十件の提案文に目を通します。1件あたりに使える時間は30秒あるかどうかです。その30秒で条件を満たすかどうかが分からなければ、後回しにされ、そのまま埋もれます。落ちたのではなく、読まれていないのです。

落ちる提案文の典型パターン1:挨拶と経緯が長い

「はじめまして。数ある募集の中から拝見させていただき、貴社の作品への情熱に感銘を受けました」という書き出しは、丁寧ですが情報がゼロです。この2文で読み手の時間の3分の1を消費しています。

さらに悪いのが、志望のきっかけを最初に書いてしまうパターンです。学生時代に海外ドラマに救われた話、留学先で字幕の力を知った話。こうした背景は面談で聞かれたら話せばいい内容であって、提案文の冒頭に置く情報ではありません。

落ちる提案文の典型パターン2:使用ソフトを書いていない

これが最も多く、そして最も致命的です。字幕翻訳の作業は、字幕制作ソフト上で行います。Babel、SST G1、Aegisub、Subtitle Edit、あるいは発注側が指定するクラウド型のツール。どれを使えるか、どのバージョンを持っているかで、渡せる案件が変わります。

SST G1のライセンスを持っている人には、スポッティング作業から丸ごと依頼できます。持っていない人には、既にタイムコードが切られた状態のファイルを渡して訳出だけ依頼することになります。この違いは、発注側にとって工程設計そのものです。書いていなければ、確認のメールを1往復挟むことになる。その手間を惜しんで、書いてある人に決まります。

無償ツールしか使えない場合でも、それを正直に書いたほうが通ります。「Subtitle Editでの字幕編集とSRT納品が可能です。SSTのライセンスは未所持のため、スポッティング済み素材をいただく前提でご相談させてください」と書けば、発注側は自分の工程に当てはめられます。

落ちる提案文の典型パターン3:稼働可能時間が曖昧

「柔軟に対応いたします」「できる限り対応します」は、稼働時間を書いていないのと同じです。むしろ、後で「その日は無理です」と言われるリスクを感じさせるので、書かないほうがましなくらいです。

具体的に書いてください。「平日は19時から23時、土日は日中6時間ほど確保でき、週あたり26時間前後の稼働が可能です。月曜と木曜の日中は本業の会議が入るため、確認のご連絡は夕方以降にいただけると確実です」。ここまで書いて、ようやく相手はスケジュールに組み込めます。

副業として在宅で字幕翻訳をする方は、この部分を隠したがります。本業があると不利になると思うからです。しかし発注側から見れば、不確定な人よりも、確定した枠が少ない人のほうが扱いやすい。読める人が選ばれます。

落ちる提案文の典型パターン4:訳文サンプルが案件と無関係

熱意の証明としてサンプル訳を添付する方がいます。方向としては正しいのですが、内容がずれていることが多い。ドキュメンタリー案件に対して、映画のワンシーンの詩的な訳を送っても評価されません。

サンプルを出すなら、募集要項に書かれた素材の種類に合わせてください。バラエティ案件なら、テロップとの兼ね合いや話者のかぶりをどう処理したかが分かるものを。企業向け動画なら、専門用語の統一と表記ルールへの準拠が見えるものを。同じ1分のサンプルでも、伝わる情報量がまったく違います。

発注側が提案文の冒頭で確認している4項目

では、何を先に書けばいいのか。制作進行の立場で提案文を読むときの確認順序は、ほぼ決まっています。

項目1:対応言語の方向

「英日」「日英」「韓日」のように、どちらからどちらへ訳せるかを書きます。両方向できるなら両方書き、得意な方向を明示します。「英語対応可」だけでは、日英もできるのかが分かりません。

複数言語を扱える場合は、レベルを分けて書いてください。「英日は実務経験あり、韓日は学習中で監修前提なら対応可」のように書くと、無理な案件を振られる事故が防げます。実力以上に見せて受注し、納品でつまずくのが、この業界で最も信用を失う流れです。

項目2:使用可能な字幕制作環境

ソフト名とバージョン、対応できる納品形式を並べます。SRT、VTT、SDB、CAP、独自形式など、発注側の指定はさまざまです。「SRT、VTT、およびSSTのSDB形式で納品可能です」と書いてあれば、それだけで工程の心配が消えます。

あわせて作業環境も一行で。「Windows 11、有線1Gbps回線、デュアルモニター環境で作業しています」。素材のダウンロードに何時間もかかる環境では、短納期案件は任せられません。これは能力の問題ではなく設備の問題なので、正直に書いて合う案件を取るのが正解です。

項目3:週の稼働時間と、直近で空いている日程

先ほど書いた通りです。加えて、いつから着手できるかを書きます。「本日から着手可能」「8月20日以降であれば連続した枠を確保できます」。急ぎの案件は、着手日が書いてある提案文から順に見られます。

項目4:直近で扱ったジャンルと分量

実績は「何をどれだけ」の形で書きます。「配信ドラマの英日字幕を通算40話分、うち12話はスポッティングから担当」。会社名は守秘義務で書けないことがほとんどなので、ジャンルと分量で表現します。

守秘義務のある案件について、うっかり作品名を書いてしまう方がいます。これは契約違反になり得ます。多くの映像制作の業務委託契約には秘密保持条項があり、担当作品名も対象に含まれるのが通例です。つまり、実績を語りたいがために作品名を出すと、それ自体が「この人は情報を漏らす」という評価につながります。ジャンル、話数、言語方向。この3つで十分伝わります。

そのまま使える提案文の骨格

構造を示します。上から順に読んだときに、条件判定が先に終わる並びです。

冒頭ブロック:条件の要約を4行で

・対応:英日字幕(日英は簡易案件のみ)
・環境:SST G1所持/Subtitle Edit/納品形式 SDB・SRT・VTT
・稼働:週26時間前後(平日19時〜23時、土日日中)/本日より着手可
・直近:配信ドラマ英日 通算40話、企業向け説明動画 通算8時間分

この4行を読めば、担当者は割り当て可否を判断できます。ここで通れば、以降の文章が読まれます。

第2ブロック:案件への適合理由を3文で

募集要項に書かれた条件のうち、自分が確実に満たすものを名指しします。「ガイドライン遵守が条件とのことですが、前案件では40ページ規模のスタイルガイドに沿って作業し、表記ゆれの指摘はゼロでした」。抽象的な「丁寧に対応します」ではなく、要件と実績を対応させます。

第3ブロック:確認したい事項を箇条書きで2つか3つ

これを書くと、仕事の進め方が伝わります。「素材の尺と本数、ご希望の納品形式、既存の用語集の有無を確認させてください」。質問があるということは、工程を想像できているということです。逆に何も聞かない人は、言われた通りにしか動けない人に見えます。

ただし数を増やしすぎないこと。5つ以上並べると、手のかかる人だと判断されます。

第4ブロック:報酬と支払い条件の確認

ここは遠慮せず書いてください。「単価の算定基準(分単価か枚数単価か)と、お支払いサイトをご教示いただけますと幸いです」。この一文があるかないかで、後のトラブル発生率が変わります。

報酬の話を先に出すと印象が悪いのではと心配される方が多いのですが、業務委託は対等な取引契約です。取引条件を確認するのは当然の行為であり、これを嫌がる発注者とは、そもそも取引しないほうがいい。私が相談を受けるトラブルの多くは、「聞きづらかったので聞かずに始めた」ところから始まっています。

経験が浅い段階での提案文の書き方

実績欄に書けるものがない段階が、いちばん苦しいところです。ここで嘘を書くと後で必ず崩れるので、別の書き方をします。

学習内容を「工程」の言葉に翻訳する

スクール修了生であれば、課題として作った字幕があるはずです。それを実績ではなく、対応可能な工程として書きます。「スクール課題として、スクリプト全文の訳出、映像に合わせたカッティング、字幕ルールに沿った調整、映像に載せた最終確認までを通しで6本経験しています」。

実際、映像翻訳の教育課程は工程を分解して積み上げる形をとっています。

実際の授業では、「映像字幕翻訳」の制作プロセスに合わせて進めていきます。課題は、スクリプト(台本)の全文を訳出、映像にあわせてカッティング、字幕制作のルールに従って翻訳、作成した字幕を映像に載せて確認、さらなる字幕のブラッシュアップ。1つの映像教材について数回にわたって翻訳作業を繰り返して字幕の品質を向上させていきます。 出典: issnet.co.jp

この工程の言葉をそのまま使うと、経験の有無ではなく「作業の流れを分かっている人」として読まれます。発注側が恐れているのは、経験が浅いことではなく、工程を知らないまま受けて途中で止まることです。

隣接スキルを明示する

字幕翻訳の周辺には、報酬につながる作業がいくつもあります。用語集の作成と維持、既存字幕の校正、タイムコードのずれ修正、書き起こし。これらは訳出そのものより単価は下がりますが、入り口としては有効です。

「訳出案件の実績は少ないですが、用語集作成と表記統一のチェック作業であれば即戦力として対応できます」と書けば、そこから入って信頼を積む道が開きます。字幕翻訳の仕事の全体像は映像翻訳・字幕・通訳のお仕事にまとまっていて、訳出以外にどんな作業が発注されているかを確認できます。入り口を訳出だけに絞らないほうが、最初の1件は早く決まります。

語学以外の職歴を捨てない

前職で医療機器メーカーにいた人が医療系の映像を訳せる、金融機関にいた人がIR動画を訳せる。この掛け算は、翻訳歴10年の人にも勝てる領域です。

提案文には「前職で医療機器の薬事申請書類を扱っていたため、添付文書や治験関連の用語には土地勘があります」と書きます。語学力の勝負を避けて、専門領域の勝負に持ち込む。これが、経験が浅い段階での最も現実的な戦い方です。文書作成能力そのものを客観的に示したい場合は、ビジネス文書検定のような文書運用系の資格を添えると、日本語側の精度に説得力が出ます。字幕翻訳は外国語を読む仕事だと思われがちですが、実際には日本語を短く正確に書く仕事の比重が高い。ここを示せる材料は持っておいて損がありません。

提案文の段階で確認しておくべき契約条件

ここからは法務の話です。堅くなりますが、実務で最も損失が出やすい部分なので、噛み砕いて書きます。

報酬の支払期日は、法律で上限が決まっている

2024年に施行されたフリーランス保護新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、発注者は成果物を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに報酬を支払う義務を負います。つまり、「納品から90日後払い」といった条件は、原則として認められません。

これ、知らない人が本当に多いんです。字幕翻訳の在宅案件では、制作会社から翻訳会社を経由して個人に届く多層構造が普通で、「元請けの入金待ちなので支払いは3か月後です」と言われることがあります。しかし法律上、あなたと直接契約している発注者の支払義務は、元請けの入金とは切り離されています。提案文の段階で支払サイトを確認しておけば、この手のずれは事前に潰せます。

取引条件の明示は発注者の義務

同法では、発注者は業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を書面または電磁的方法で明示する義務を負います。つまり、口頭やチャットの断片だけで作業を始めさせるのは、法の求める形ではありません。

提案文に「ご発注の際は、業務範囲と報酬、納期、支払期日を記載した書面またはメールをいただけますと幸いです」と一行入れておくと、この確認が自然に済みます。堅苦しく見えることを心配される方がいますが、まともな発注者ほど「話が早い」と受け取ります。逆に、この一文を嫌がる相手は、後で必ず揉めます。

制度の詳細は公正取引委員会の公表資料で確認できます。※個別の契約書の解釈や、実際にトラブルが発生した後の対応については、弁護士にご相談ください。私の立場でお伝えできるのは、契約前に条件を書面化しておくと争いになりにくい、という一般的な整理までです。

修正回数と検収基準を先に決める

字幕翻訳で最も揉めるのが、修正の範囲です。「イメージと違う」という理由で無限に直しを求められ、報酬が変わらないまま作業時間だけが増えていく。この構図は、Webデザインの現場と同じです。

防ぐには、提案文または見積時に修正の扱いを書いておきます。「初稿納品後、ガイドラインからの逸脱および誤訳の修正は無償で対応します。演出上の好みによる表現変更が3回を超える場合は、別途お見積りとさせてください」。

つまり、直しの理由を「間違い」と「好み」に分けておくということです。間違いは無償で直す、好みは有償。この線引きを最初に共有しておけば、後から言い出すより10倍楽に話が通ります。

著作権と二次利用の取り決め

字幕の訳文には著作物性が認められる余地があります。実務上は、契約で発注者に権利を移転する形が一般的ですが、その場合でも移転の範囲と対価は明示されているべきです。

提案文の段階で細かく交渉する必要はありませんが、契約書を受け取ったときに、権利移転の条項と報酬額が対応しているかは必ず確認してください。「全世界、全媒体、永久」の権利移転が、通常の分単価だけで設定されているケースは珍しくありません。それ自体が直ちに違法というわけではありませんが、条件を知ったうえで受けるのと、知らずに受けるのとでは、後の納得感がまるで違います。

提案文を出したあとの流れで落ちるパターン

提案文が通っても、そこから先で消えることがあります。よくある3つを挙げます。

返信が遅い

制作の現場は動きが速く、提案文への返信から24時間返事がないと、次の候補者に話が行きます。在宅の副業として取り組んでいる方は、日中の返信が難しいことがあります。それ自体は問題ないので、提案文に「平日日中は返信が3時間ほど遅れます」と先に書いておいてください。予告された遅れは、遅れとして扱われません。

テスト課題で条件を読み落とす

多くの案件で、短いテスト課題が出ます。ここで落ちる人の大半は、訳文の質ではなく指定の読み落としです。1行あたりの最大文字数、1秒あたりの表示文字数、句読点の扱い、記号の使用可否。ガイドラインに書いてあることを守れているかが最初に見られます。

私が見てきた限り、テスト課題の評価表は「ルール準拠」「誤訳の有無」「日本語の自然さ」の順に並んでいることが多い。訳の巧拙は3番目です。凝った訳を作る前に、文字数制限を守ってください。

面談で稼働条件が提案文と食い違う

提案文に週26時間と書いたのに、面談で「繁忙期は難しいかもしれません」と言ってしまう。これで一気に信用が落ちます。書いた条件は守れる範囲にとどめ、面談ではその条件を再確認するだけにしてください。多めに書いて後から引くより、少なめに書いて後から増やすほうが、関係は長続きします。

この市場を長く見てきた立場からの観察

在宅ワークの仲介を20年運営してきた立場から言えば、字幕翻訳で長く仕事が続く人と、数件で消える人の差は、訳の上手さではありません。差がつくのは、発注側の工程に自分をどう差し込むかを説明できるかどうかです。

長く続く人の提案文は、共通して短い。そして、相手の作業が減る書き方をしています。「この形式で納品します」「この日程で動けます」「ここは確認させてください」。読んだ担当者が、自分の工程表にそのまま貼り付けられる。だから次も声がかかる。単発の作業をこなす人ではなく、この人に任せると自分の手間が減る、という関係を最初の提案文から作っているのです。

もうひとつ、運営者として見てきた限りでは、手取りの構造を理解している人ほど長続きします。同じ仕事でも、間に何社入るかで受け手に届く金額は変わります。中間マージンが乗らない直接取引の場では、依頼者は同じ予算でより多くの分量を頼めて、受け手は同じ作業で手取りが厚くなる。手数料0%という条件は、金額の大小の話ではなく、働いた分がそのまま残るという質の話です。字幕翻訳のように工数が読みにくい仕事ほど、この差は効いてきます。1本の作品で見れば小さな差でも、年間50本訳す人にとっては働き方そのものを変える差になります。

そして、これは何度でも言いますが、最初の1件を取るまでの提案文は、量ではなく形で決まります。30件送って返信ゼロなら、31件目を送る前に冒頭4行を書き換えてください。

職種データから見る、字幕翻訳の提案文の位置づけ

在宅の職種別データを見ていくと、字幕翻訳は「成果物の仕様が細かく決まっている職種」の代表格です。この特徴が、提案文の書き方を規定しています。

たとえばソフトウェア作成者の年収・単価相場を見ると、開発職は使用言語とフレームワークの組み合わせで単価帯が分かれます。字幕翻訳もこれと同じ構造で、対応言語と使用ソフトの組み合わせが単価帯を決めます。だから提案文では、まずスペックを書く。開発職の職務経歴書が技術スタックの列挙から始まるのと同じ発想です。

一方、著述家,記者,編集者の年収・単価相場のような文章系の職種では、実績記事のポートフォリオが評価軸になります。字幕翻訳は、この両方の性質を持っています。ツールのスペックと、日本語の質。提案文にはスペックを先に書き、日本語の質はサンプルで示す。この役割分担ができている提案文が通ります。

隣接領域を見ておくことも役に立ちます。AI・マーケティング・セキュリティのお仕事の分野では、機械翻訳の出力を人が整えるポストエディットの案件が増えています。字幕翻訳者にとっては単価が下がる要因でもありますが、逆に言えば、機械が出せない部分を提案文で言語化できる人には追い風です。話者の関係性、間の取り方、テロップとの兼ね合い。これらは、自動生成された字幕では処理しきれません。

音や映像の周辺職種も同じ発注元から出ることが多く、作曲・編曲・効果音・ジングルのお仕事のような領域と発注担当者が重なるケースがあります。映像制作の座組を理解している人は、字幕以外の相談も受けるようになり、結果として仕事が途切れにくくなります。

技術系の資格が直接効く職種ではありませんが、納品環境やファイル転送、クラウド上での共同作業に関する基礎知識は評価されます。CCNA(シスコ技術者認定)のようなネットワーク系の知識は必須ではないものの、大容量素材の受け渡しやVPN経由の作業環境を求められる案件では、話が通じる相手として重宝されます。

働き方そのものの持続性も、提案文に間接的に表れます。在宅ワーカーのメンタルヘルスケア|孤独・燃え尽きを防ぐ5つの習慣【2026年版】で扱われているように、在宅で長時間の集中作業を続ける職種は、稼働の谷を作らない設計が重要です。無理な稼働時間を提案文に書いて、2か月で消耗して連絡が取れなくなる。この流れが、発注側にとっては最も避けたい事態です。だからこそ、控えめで確実な稼働時間を書いた人が選ばれます。

契約実務の周辺を扱う職種の働き方も参考になります。法律事務所のパラリーガルの働き方|在宅・時短勤務の現状【2026年版】では、守秘性の高い資料を在宅で扱う際の環境要件が整理されています。字幕翻訳も未公開作品を扱うため、要求される情報管理の水準は近い。提案文に「作業端末は業務専用、クラウド保存は指定ストレージのみ、作業後に素材を削除」と書けるだけで、未公開コンテンツを扱う案件での通過率が変わります。

文書作成のスキルを客観的に示す道も残っています。ビジネス文書検定で文書作成の副業力アップ|在宅ライティング案件で解説されている通り、日本語の運用能力を第三者評価で示す資格は、翻訳職でも意味を持ちます。字幕翻訳の合否は最終的に日本語の質で決まるため、外国語の資格だけを並べた提案文より、日本語側の担保がある提案文のほうが説得力があります。

最後にもう一度整理します。在宅の字幕翻訳で提案文が通るかどうかは、冒頭4行で、対応言語、使用ソフトと納品形式、週の稼働時間、直近のジャンルと分量が読み取れるかどうかで決まります。熱意はその後です。そして契約条件は、始まる前に文字にしておく。法律はあなたの味方ですが、味方に動いてもらうには、何を約束したかの記録が要るのです。

よくある質問

Q. 字幕制作ソフトを持っていなくても在宅の字幕翻訳案件に提案できますか?

提案できます。ただし提案文に「SSTなどの有償ソフトは未所持、Subtitle Editでの編集とSRT納品が可能」と明記してください。発注側はスポッティング済み素材を渡す工程に切り替えて依頼できます。曖昧にしておくと確認の往復が発生し、書いてある人に決まってしまいます。

Q. 実務経験がゼロでも提案文で勝負できる部分はありますか?

あります。スクール課題で通した工程(訳出、カッティング、ルール適用、映像上での確認)を作業単位で書くこと、そして前職の専門領域を掛け合わせることです。医療や金融など専門用語の土地勘がある分野なら、翻訳歴の長さより評価されることがあります。

Q. 提案文で報酬や支払期日を質問すると印象が悪くなりませんか?

なりません。業務委託は対等な取引契約で、取引条件の確認は当然の行為です。フリーランス保護新法では発注者に取引条件の明示義務があり、報酬は受領日から60日以内の支払期日設定が求められます。確認を嫌がる相手とは、後で必ず揉めます。

Q. 提案文はどのくらいの長さが適切ですか?

冒頭に条件要約4行、適合理由3文、確認事項2つか3つ、報酬条件の確認1文で十分です。担当者が1件に使う時間は30秒程度なので、長さより上から読んだときに条件判定が先に終わる並びかどうかが重要です。志望のきっかけや熱意は面談で話す内容です。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月9日最終更新:2026年9月17日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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