翻訳を副業にする|実力の測り方と最初の仕事の取り方

長谷川 奈津
長谷川 奈津
翻訳を副業にする|実力の測り方と最初の仕事の取り方

この記事のポイント

  • 翻訳副業を始めたい人へ
  • 機械翻訳が普及した後に残った仕事の種類
  • TOEICでは測れない実力の確かめ方

翻訳を副業にしたい、という相談を受けるとき、私が最初に伝えるのは「語学力があるかどうか」より「どの種類の翻訳をやるか」を決めるほうが先だという話です。翻訳という言葉でひとくくりにされていますが、契約書の翻訳と映像の字幕と観光向けの紹介文では、求められる能力も単価も仕事の取り方も全く違います。ここを決めないまま勉強を始めると、時間の使い方を間違えます。

そしてもう一つ、機械翻訳と生成AIが普及した後の市場では、仕事の中身が変わりました。ゼロから訳す仕事が減り、機械の出力を直す仕事が増えています。これ、変化の速さを知らずに入ってくる人が本当に多いんです。この記事では、いま残っている仕事の種類、分野ごとの単価の幅、実力の測り方、最初の1件の取り方、そして契約と守秘義務で必ず確認すべき項目までを順に整理します。

翻訳の仕事は「機械の後始末」が中心になった

まず市場の状況です。機械翻訳の精度が上がったことで、翻訳の依頼の形が変わりました。以前は原文を渡してゼロから訳してもらう形が主流でしたが、いまは機械翻訳にかけた文章を人が直す形、いわゆるポストエディットの案件が増えています。

この変化は、単価と求められる能力の両方に影響しています。単価は、ゼロから訳す場合の6割から7割程度に設定されることが多い。一方で求められる能力は下がっていません。機械が出した自然に見える文章の中から、意味が反転している箇所、専門用語の取り違え、主語が入れ替わっている箇所を見つけて直す。これは、原文と訳文の両方を正確に読める人にしかできない作業です。つまり、楽になったわけではなく、別の難しさに置き換わったということです。

もう一つの変化は、間違いの見つけにくさです。人が誤訳すると文章として不自然になることが多いのですが、機械の誤訳は文章としては整っています。だから読み流すと通過してしまう。この性質のせいで、確認の負荷は上がっています。実務では、原文と訳文を1文ずつ突き合わせる工程が必須になります。

では、人の翻訳が要らなくなったのかというと、そうではありません。責任の所在が必要な文書は、人が確認しなければ使えません。契約書、医薬品の資料、特許の明細書、行政に提出する書類、製品の安全に関わる表示。間違いが金銭や安全に直結する文書は、機械の出力をそのまま使うという判断ができません。だから翻訳の仕事は残り、むしろ「確認できる人」の価値が上がっています。

副業として入るなら、この構造を前提に考えてください。量をこなして稼ぐ方向は機械と競合します。責任を持って確認できる領域、専門知識が要る領域に寄せるほうが、時間あたりの収入は安定します。

需要がある分野と、縮んでいる分野

分野ごとに状況を分けます。

実務翻訳、つまり産業翻訳は最も案件数が多い領域です。中でも需要が続いているのは、IT関連の技術文書やUIの文言、医療と医薬の資料、特許の明細書、金融のレポート、そして法務の文書です。共通するのは専門用語の体系が決まっていること、そして誤訳の代償が大きいことです。参入には分野の知識が要りますが、いったん入れば継続の依頼になりやすい。

映像翻訳は字幕と吹替の台本です。配信サービスの拡大で需要は増えました。ただし字幕には文字数の制約があり、話す速度に合わせて情報を削る技術が必要です。語学力とは別の訓練が要るので、専門の講座で学ぶ人が多い領域です。

ゲームやアプリのローカライズは、文章を訳すというより体験を移す仕事です。キャラクターの口調、画面に収まる文字数、文化的な前提の置き換え。創作寄りの能力が評価されます。

マーケティングの翻訳も、機械では置き換えにくい領域です。広告のコピーやブランドの紹介文は、直訳すると伝わりません。読者に効く言い方へ作り替える作業になるので、書く力が必要です。この領域を狙うなら、日本語で書く力そのものを鍛える価値があります。Webライターが文字単価を上げる方法|1円→5円にステップアップする戦略【2026年版】には、読み手に伝わる文章の作り方と、それをどう単価に反映させるかが整理されています。翻訳でも同じ論理が働きます。

一方、縮んでいるのは定型の短文、社内向けの参考訳、意味が通れば十分な下書きの翻訳です。ここは機械翻訳で足りるという判断が広がりました。クラウドソーシングの単価が低い案件は、この層に集中しています。

出版翻訳は、憧れる人が多い一方で入口が狭い領域です。副業として始めるには向きません。まず実務翻訳で実績を作り、そこから広げるほうが現実的です。

単価の相場を、仕事の種類ごとに押さえる

単価は依頼元と分野で大きく変わります。幅で示します。

翻訳会社を通した実務翻訳では、英語から日本語の場合、原文1ワードあたりの単価で計算されるのが一般的です。専門分野や難易度によって幅があり、一般的な文書より医薬や特許のような専門領域のほうが高く設定されます。日本語から英語の場合は原文1文字あたりで計算されることが多い。業界団体が公表している料金の目安もあるので、契約前に相場観を持っておくと交渉ができます。

クラウドソーシングの案件は、これより低い水準から始まります。1ワード1円台の案件も見かけますが、この単価だと処理量を相当上げないと時間あたりの収入が確保できません。実績を作る目的で数件やるのは合理的ですが、ここに留まると消耗します。

英語翻訳・英文翻訳の仕事・案件一覧ページです。クラウドソーシング・アウトソーシングに強いランサーズでは、英語翻訳・英文翻訳の仕事情報の検索から納品、報酬の受け取りまで、すべて完結します。時間や場所にとらわれず、在宅や副業などさまざまな働き方を実現可能です。 出典: lancers.jp

こうした場所は、案件の量と種類を知るには有用です。実際に登録して案件の文面を読むと、どの分野にどんな依頼があるのかが具体的に分かります。ただし表示されている単価をそのまま相場と受け取らないでください。プラットフォーム経由の案件は、翻訳会社の直接取引より低めに出る傾向があります。

ポストエディットの案件は、前述のとおり通常の翻訳より低い単価設定になります。ただし作業時間も短くなるので、時間あたりで比べる必要があります。機械の出力が粗い案件を通常の7割の単価で受けると、実質的にゼロから訳すより効率が落ちます。受注前にサンプルを見せてもらい、出力の質を確認してください。

映像翻訳は、映像1分あたりの単価で計算されるのが一般的です。字幕は文字数の制約があるため、1分あたりの作業時間が読みにくい。慣れないうちは想定の倍かかります。

副業として現実的な目標設定についても触れます。相談の場でよく聞くのは、こういう形の希望です。

まずは月5万〜程度を、安定して得たいのですが、実際上記のような条件で副業をするとなると、どのように始めればいいのか 出典: detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

この質問への答えは、単価と処理量の掛け算で逆算することです。自分が1時間に何ワード処理できるかを実測し、狙う単価で掛ける。そのうえで、週に使える時間をかける。この計算をすると、必要な単価水準が見えます。低い単価の案件を積み上げて届かせるのは、時間的に無理があると分かります。

単価の交渉についても触れておきます。上げるタイミングは、実績が溜まったときではなく、相手が自分を手放したくないと感じている時期です。継続して依頼が来ていて、納期も守れていて、指摘も少ない。この状態で、扱う分野の難易度が上がったときや、作業範囲が増えたときに相談するのが自然な形です。理由を添えるのが大事で、単に上げてほしいと伝えるより、確認の工程を増やしている、用語集の整備も担っている、といった根拠を示すと通りやすくなります。逆に、繁忙期に納期を落とした直後の交渉はまず通りません。

実力の測り方。TOEICの点数では測れない

ここは誤解が多いところです。TOEICの点数は翻訳の実力を示しません。理由は明確で、測っている能力が違うからです。TOEICが測るのは主に聞く力と読む力です。翻訳で必要なのは、原文を正確に読み取る力と、日本語で正確かつ読みやすく書く力です。後者は日本語の能力であって、英語の試験では測られません。

実務で見ていて、点数が高いのにトライアルに通らない人の躓き方は共通しています。原文の意味は取れているのに、日本語が硬い。主語と述語が対応していない。一文が長くて読めない。専門用語が業界の慣行と違う言い方になっている。つまり、落ちる理由の多くは日本語側にあります。

では何で測るか。実質的な物差しは3つです。

第一に、翻訳会社のトライアルです。実際の案件に近い課題を訳して提出し、合否が返ってきます。これが最も正確な物差しです。通らなかった場合でも、どこが不足しているかを考える材料になります。

第二に、翻訳の検定試験です。業界団体が実施している試験があり、分野別に受けられます。合格が実績として認められる場合があるので、実務経験が無い段階では履歴書に書ける材料になります。

第三に、自分で作る比較です。公開されている日英両方の文書、たとえば企業のプレスリリースや行政の多言語資料を使って、自分で訳してから公式の訳文と比べる。差が出た箇所が自分の弱点です。この方法は費用がかからず、繰り返せます。

文章を整える基礎を固めるという意味では、ビジネス文書検定の範囲も役に立ちます。敬語の使い方、文書の構成、読み手に合わせた表現。実務翻訳の納品物はビジネス文書なので、ここの精度がそのまま評価につながります。技術分野を狙うなら、扱う製品の知識も必要です。ネットワーク関連の文書を訳すならCCNA(シスコ技術者認定)の学習範囲が用語の理解に直結します。用語が分からないまま訳すと、機械翻訳と同じ間違いをします。

最初の仕事をどう取るか

入口は3つあります。順番に難易度と条件が違います。

翻訳会社のトライアルを受けるのが本筋です。応募の際に求められるのは、経歴書、対応可能な分野、単価の希望、稼働できる量です。実務経験が無い場合、専門分野の知識で補います。本業で医療機器を扱っている、法務部にいた、経理の実務が長い。こうした経験は、その分野の翻訳で評価されます。語学の経歴だけで勝負しようとすると、経験者との比較で埋もれます。

トライアルに落ちても、それで終わりではありません。会社ごとに求める水準と分野が違うので、複数受けてください。ただし同じ会社に短期間で繰り返し応募するのは避けます。落ちた理由を検討して、力をつけてから再挑戦するほうが結果が出ます。

クラウドソーシングは、実績が無い段階でも受注できる場所です。単価は低いですが、納品のやり取りを経験できます。ここで大事なのは、実績を作るという目的を明確にすることです。何件やるか、いつまでにやるかを決めて、そこから抜ける計画を持ってください。目的なく続けると単価が上がりません。

直接の取引は、最も単価が高くなる形です。専門分野の知識があり、相手の業務を理解して提案できるなら、翻訳会社を介さずに依頼を受けられます。ただし営業と契約の管理を自分で行う必要があります。提案の材料として、自分の訳文を見せられる形にしておくと有利です。ポートフォリオの作り方はWebライターのポートフォリオの作り方|案件獲得率が上がるテンプレート付き【2026年版】に型があります。翻訳の場合は守秘義務があるので実際の納品物を載せられないことが多く、公開文書を訳したサンプルを用意する形になります。

応募のときに単価を聞かれたら、答えを用意しておいてください。「お任せします」と答えると低い方に決まります。分野と難易度を確認したうえで、幅で希望を伝える。そして下限を自分の中で決めておく。ここを曖昧にすると、後から上げるのが難しくなります。

トライアルで落ちる原因と、提出前の確認手順

トライアルは、内容を知っていれば通過率が変わります。評価されている点が決まっているからです。

見られているのは5つです。第一に、誤訳が無いこと。意味の取り違え、数値の写し間違い、否定の見落とし。ここに1つでもあると、他が良くても通りません。第二に、用語が指定に従っていること。指示書や用語集が渡された場合、そこに書かれた訳語を使わないと減点されます。自分の好みの訳語を使う人が意外に多い。第三に、日本語として読めること。一文が長い、修飾の対応が不明、主語が抜けている。第四に、指示を守っていること。ファイル形式、ファイル名、納品方法、期限。第五に、表記の統一。数字の半角と全角、括弧の種類、送り仮名、カタカナの長音。

提出前の確認手順を決めておくと、取りこぼしが減ります。私が勧めているのは4回に分ける方法です。1回目は原文と訳文を1文ずつ突き合わせて、訳し漏れと意味のずれを探します。2回目は訳文だけを読んで、日本語として不自然な箇所を直します。3回目は数値、単位、固有名詞、日付だけを拾って原文と照合します。4回目は指示書を読み返して、守れていない項目が無いかを確認します。

この4回のうち、飛ばされやすいのは3回目です。数値と固有名詞の誤りは、文章としては自然に読めるので見つかりません。そして実務では、この種の誤りが最も重大な影響を出します。金額の桁、日付、製品名、人名。ここだけを見る工程を独立させる価値があります。

時間の使い方についても一言。トライアルは期限が設けられていますが、早く出すことが評価されるわけではありません。確認の工程を省いて早く出すより、期限内で精度を上げたほうが通ります。ただし期限を過ぎるのは論外です。期限の管理ができない人に仕事は来ません。

落ちた場合の扱いも決めておいてください。不合格の理由は通知されないことが多いので、自分で課題文を見直します。時間が経ってから自分の訳文を読み返すと、提出時には気づかなかった不自然さが見えます。その気づきを次に持ち込む。これを繰り返すのが、遠回りに見えて一番速い道です。

言語の組み合わせで変わる需要

英語以外の言語についても整理します。案件数と単価の関係が英語とは違うからです。

英語は案件数が最も多い一方、対応できる人も最も多い。だから単価の競争が起きます。英語で勝負するなら、分野の専門性で差をつけるほかありません。

中国語と韓国語は、案件数が多く、分野も幅広い領域です。製造業の技術文書、ECの商品説明、観光関連、ゲームやコンテンツのローカライズ。日本語との組み合わせで需要が安定しています。

欧州の言語、たとえばドイツ語、フランス語、スペイン語は、案件数は英語より少ないものの、対応できる人も少ないため単価が高めに出る傾向があります。特定の産業に紐づく案件が多く、機械や化学、医療機器などの分野で継続の依頼になりやすい。

東南アジアの言語は、製造拠点や市場の拡大に伴って需要が増えています。ベトナム語、タイ語、インドネシア語などです。対応できる翻訳者が限られるため、参入の余地があります。

どの言語でも共通して重要なのは、日本語側の質です。外国語から日本語に訳す方向では、最終的な成果物は日本語の文書です。つまり評価されるのは日本語の出来です。逆に日本語から外国語に訳す方向では、母語話者による確認が求められる案件が多く、日本語を母語とする人が単独で完結させる形は限られます。この非対称を理解しておくと、自分がどちらの方向で勝負するかを決めやすくなります。

複数の言語を扱える人は強いですが、中途半端に広げるのは逆効果です。1つの言語で専門分野を確立してから2つ目に広げる。この順番のほうが実績として説明しやすく、依頼側も判断しやすくなります。

契約で必ず確認する6項目

法務の側から、ここは強く言わせてください。翻訳は業務委託の契約になります。確認すべき項目は6つです。

第一に、報酬の計算方法です。原文基準か訳文基準かで金額が変わります。日本語から英語に訳す場合、訳文のワード数で計算すると、作業前に金額が確定しません。原文基準のほうが見積もりが立ちます。

第二に、支払いの時期です。2024年11月に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、いわゆるフリーランス法では、発注者は成果物を受け取った日から原則60日以内のできる限り短い期間内に報酬を支払う義務があります。つまり、納品したのに支払日が決まっていない、という状態は本来あってはいけないんです。加えて、この法律は取引条件を書面や電子メールなどで明示することも義務づけています。口頭だけの発注は、この点で既に問題があります。

第三に、修正対応の範囲です。何回まで、どの範囲の修正が報酬に含まれるのか。「納品後の修正は無制限」という条件を受けると、終わらない作業になります。回数と範囲を決めてください。

第四に、著作権の扱いです。翻訳物は、原文とは別に翻訳者の著作物として扱われる性質があります。契約で権利の帰属をどうするかを定めるのが通常なので、譲渡するのか、利用を許諾するのかを確認します。譲渡する場合は、その分を単価に反映させる交渉が成り立ちます。

第五に、秘密保持です。多くの案件でNDA(エヌディーエー)の締結が求められます。内容を読まずに署名する人がいますが、義務の範囲と期間、違反した場合の扱いは確認してください。

第六に、検収の基準です。何をもって完成とするかが決まっていないと、「品質が低い」という主観的な理由で支払いを止められる余地が残ります。用語集に従うこと、指定のスタイルガイドに従うこと、といった客観的な基準を契約や指示書で明確にしておくと、双方が守られます。

※実際に報酬が支払われない、契約と違う要求をされたといった段階になったら、早めに専門家へ相談してください。フリーランス法に関する相談窓口も設けられています。取引の適正化については公正取引委員会の情報も参考になります。(公正取引委員会) 法律はあなたの味方です。使えることを知っているだけで、交渉の姿勢が変わります。

機械翻訳に原稿を貼らない。守秘義務の実務

これは翻訳の副業で最も見落とされている事故の芽です。無料の機械翻訳サービスや生成AIのサービスに、預かった原稿をそのまま貼り付ける行為です。

何が問題かというと、入力した内容がサービス側で保存され、場合によっては品質向上のために利用される可能性があるからです。つまり、顧客の未公開情報を外部に渡したことになりかねません。NDAを結んでいれば契約違反になり得ますし、結んでいなくても信用の問題になります。医薬品の開発資料、未発表の製品情報、契約書の条項。これらが外に出たときの影響は、翻訳料の何倍にもなります。

対策は3つあります。第一に、依頼元に機械翻訳の使用可否を確認することです。使用を禁じている会社もあり、逆に指定のツールを使うよう求める会社もあります。第二に、業務で使う場合は、入力内容を学習に使わない契約形態のサービスを、依頼元の了解のもとで使うことです。第三に、固有名詞や数値を伏せてから入力するという方法もありますが、これは万全ではありません。文脈から特定できる場合があります。

翻訳支援ツールの扱いも整理しておきます。翻訳メモリや用語集を使う支援ツールは、訳文の一貫性を保つために実務で広く使われています。これは機械翻訳とは別のもので、過去の訳を再利用する仕組みです。依頼元が特定のツールの使用を前提としている案件もあるので、対応できると受注の幅が広がります。

AIをどう業務に組み込むかという論点は、翻訳に限らず多くの現場で起きています。AIコンサル・業務活用支援のお仕事を見ると、情報の取り扱いを整理しながら業務にAIを入れる仕事が実際に発生していることが分かります。翻訳者としてこの領域の知識を持っていると、単に訳すだけの人より相談される立場になれます。

稼働の設計と、続けるための準備

副業として続けるには、時間の設計が要ります。

まず自分の処理速度を測ってください。1時間で何ワード処理できるか。分野と難易度で変わるので、種類別に記録します。この数字がないと、受注できる量が判断できません。納期を守れないことが最も評価を落とすので、余裕を持った見積もりが必要です。

次に、受注の波に備えます。翻訳の依頼は突然まとまって来ます。本業がある人は、平日の夜と週末で処理できる量を上限として決めておく。断ることを恐れないでください。無理に受けて品質が落ちるほうが、次の依頼を失います。断るときは、対応できる時期を添えると関係が続きます。

道具の準備も実務に効きます。用語集を自分で作って蓄積する。分野ごとの参考文献や公式の対訳資料を手元に揃える。行政機関が公開している多言語の資料は、用語の確認に使えます。日本の制度を英語で説明する場面では、省庁が出している英訳を確認するのが確実です。(総務省)

作業環境も無視できません。長時間画面を見る仕事なので、椅子と机の高さ、画面の位置は作業効率に直結します。原文と訳文を並べて見る必要があるので、画面が広いほうが確認の精度が上がります。画面を2つ使えるなら、片方に原文、もう片方に訳文を置くだけで照合の速度が上がります。紙に印刷して読み返すという方法も、見落としを減らす手として有効です。媒体を変えると気づき方が変わるからです。

本業との両立で気をつけたいのは、情報の混在です。勤務先の業務で使う端末で副業の作業をしない。逆に、副業で預かった資料を勤務先の環境に置かない。どちらも情報管理の規程に触れる可能性があります。端末を分ける、少なくとも保存場所とアカウントを分ける。ここは面倒でも最初に整えてください。後から整理するほうが手間がかかります。

私が独立した当初、記録を取っていなかったことを後悔しました。どの案件にどれだけ時間がかかったかを残していなかったので、見積もりが毎回感覚になってしまう。案件名、分野、分量、所要時間、単価。これを毎回残しておくと、半年後には自分の適正な受注量と単価が数字で分かります。これは翻訳に限らず、業務委託で働くすべての人に当てはまります。

専門分野をどう作るか

最後に、長く続けるための設計です。

翻訳で単価を上げる最も確実な方法は、専門分野を持つことです。分野を持つとは、その業界の文書を読み慣れていて、用語の使い分けが分かり、原文の誤りにも気づけるという状態です。ここに到達すると、依頼元から見て置き換えにくい人になります。

分野の作り方は3通りあります。第一に、本業の知識を使う。医療従事者なら医薬、金融機関勤務なら金融、法務部なら契約書。これが最も速い道です。第二に、学習で作る。資格の勉強を通じて用語体系を身につけ、その分野の案件に応募する。第三に、案件から作る。受けた案件の分野を掘り下げ、同じ分野の依頼を増やしていく。

分野を決めるときの判断材料も挙げておきます。案件が継続して発生しているか、機械翻訳で置き換えにくいか、そして自分が原文の内容を判断できるか。この3つが揃う分野を選んでください。継続して発生していない分野は、勉強した労力に対して回収の機会が来ません。機械で足りる分野は単価が下がり続けます。内容を判断できない分野は、誤りに気づけないので危険です。

どの道でも共通して必要なのは、原文の背景を理解する努力です。契約書を訳すなら契約の仕組みを知る。医薬の資料を訳すなら承認の手続きを知る。訳語を当てるだけの作業から抜けると、確認や助言も求められるようになり、それが単価に反映されます。

他分野の収入水準を知っておくことも判断材料になります。文章を扱う仕事全体の相場は著述家,記者,編集者の年収・単価相場に、技術寄りの仕事はソフトウェア作成者の年収・単価相場にまとまっています。翻訳だけで組み立てるのか、書く仕事や技術の仕事と組み合わせるのか。選択肢を並べて考えると、時間の投資先を決めやすくなります。

20年この市場を見てきた立場からの観察

20年ほど在宅ワークとフリーランスの市場を運営してきた立場から言えることがあります。翻訳で長く続いている人は、訳文の巧さで選ばれているというより、やり取りの安定で選ばれています。納期を守る、疑問点を納品前にまとめて確認する、原文の誤りに気づいたら指摘する。運営者として見てきた限り、依頼側が手放したくないと感じるのはこの3つができる人です。単発の作業を安く速くこなす人より、任せると安心だと思われる人のほうが、結果として単価も上がっています。

もう一点、額面と手取りの話をします。仲介が入る仕組みでは、依頼側が払った金額から一定割合が引かれて訳者に届きます。中間のマージンが乗らない直接の取引なら、同じ予算でも依頼側はより多く頼めて、受け手は手元に残る額が厚くなる。手数料0%という条件の価値は、1件が派手に高くなることではなく、同じ相手と長く続けたときに手取りが崩れにくいという質のほうに出ます。翻訳は継続の依頼になりやすい仕事なので、この差が年間では大きく効いてきます。

最後に、これから始める人へ。機械翻訳が普及したことで、翻訳の仕事は減ったのではなく形が変わりました。求められているのは、責任を持って確認できる人、専門分野を理解している人、情報の扱いを守れる人です。語学の勉強を続けることも大事ですが、それだけでは選ばれません。専門分野を1つ決めて、契約の読み方を覚え、記録を残しながら実績を積む。この3つを並行して進めるのが、副業として立ち上げる最短の道だと思います。

始める順番をもう一度整理します。まず扱う分野を1つ決める。次に自分の処理速度を測り、必要な単価を逆算する。その水準で募集している依頼元を探し、トライアルを受ける。合格したら契約の6項目を確認し、情報の扱い方を整えてから着手する。この順番なら、途中で条件の不利に気づいて手戻りすることがありません。語学の学習はその間も続ければよく、仕事を取るために完璧を待つ必要はありません。完璧になるまで待っている間に、市場の求めるものが変わってしまいます。今の実力で受けられる範囲から始めて、案件のたびに精度を上げていく。それが現実的な進め方です。

よくある質問

Q. 翻訳の副業はTOEICで何点あれば始められますか?

点数は基準になりません。TOEICが測るのは主に聞く力と読む力で、翻訳で必要なのは原文を正確に読む力と日本語で正確に書く力です。実際に落ちる理由の多くは日本語側にあります。実力を確かめるには翻訳会社のトライアルを受けるのが最も正確で、翻訳の検定試験も実績として使えます。

Q. 単価はどのくらいが相場ですか?

依頼元と分野で大きく変わります。翻訳会社経由の実務翻訳は英日で原文1ワードあたり、日英で原文1文字あたりで計算され、医薬や特許などの専門分野は高めに設定されます。クラウドソーシングは1ワード1円台の案件もあり、実績作り以外では効率が合いません。機械翻訳の修正案件は通常の6割から7割程度が目安です。

Q. 実務経験がない場合、どこから始めればよいですか?

本業の専門知識を使えるかを先に考えてください。医療、法務、金融、ITなどの業務経験は、その分野の翻訳で評価されます。そのうえで翻訳会社のトライアルを複数受けるのが本筋です。クラウドソーシングは納品の流れを経験する場として使い、何件で抜けるかを決めて利用してください。

Q. 預かった原稿を無料の機械翻訳に入力してはいけないのですか?

避けてください。入力した内容が保存され、品質向上のために利用される可能性があり、顧客の未公開情報を外部に渡したことになりかねません。秘密保持契約の違反にもなり得ます。依頼元に機械翻訳の使用可否を確認し、使う場合は入力内容が学習に使われない形態を了解のもとで選んでください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年9月15日最終更新:2026年9月21日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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