歯科医院へ転職するという選択|前の職場との落差と、決め手


この記事のポイント
- ✓歯科医院への転職で戸惑いやすいのは
- ✓院長との距離の3つです
- ✓病院・一般企業・別の歯科医院など前の職場別の落差
歯科医院への転職を考えるとき、多くの人が気にするのは給与と休日です。もちろん大事ですが、実際に転職した人がつまずくのは、そこではないことが多いという傾向があります。結論から書くと、歯科医院への転職で落差が大きいのは「組織の小ささ」「予約制が作る時間の流れ」「院長との距離」の3つです。そして、決め手になるのは求人票の条件ではなく、見学と面接で確かめた実態です。
この記事では、歯科医院への転職市場の現状を押さえたうえで、前の職場別にどんな落差があるのか、待遇や社会保険で見落としやすい点はどこか、求人をどう探し、何を確かめて決めればいいのかを順に整理します。
歯科医院への転職市場はどうなっているか
最初に、市場の全体像を確認します。厚生労働省の医療施設調査によると、全国の歯科診療所は約6万7千施設あります。一般診療所(医科のクリニック)が約10万5千施設ですから、医療機関の中で歯科が占める割合は小さくありません。そのほとんどが、歯科医師である院長が経営する個人医院か、小規模な医療法人です。
働く人の数を見ると、就業している歯科医師は約10万人、就業している歯科衛生士は約14万5千人です。歯科衛生士の就業先は9割以上が歯科診療所で、病院や介護施設、行政で働く人は少数派にとどまります。つまり、歯科衛生士にとって「転職」は、ほとんどの場合「歯科医院から歯科医院へ」を意味します。
採用する側の事情も見ておきます。歯科衛生士は養成校への求人倍率が20倍を超える年が続いており、慢性的な売り手市場です。歯科助手や受付は資格が要らないため、他業種からの未経験採用が一般的に行われています。近年は、複数の分院を持つ医療法人が増え、訪問歯科を始める医院も広がっています。職場の選択肢そのものは増えている、というのが現状です。
一方で、注意すべき傾向もあります。院長の高齢化に伴う閉院や承継が各地で起きており、承継の前後で方針が大きく変わる医院があります。また、医院の数が多い分、条件の差も大きい。同じ市内、同じ職種でも、年間休日が100日を切る医院と120日を超える医院が並んでいる、ということが普通に起こります。
正直なところ、「歯科医院は人手不足だからどこでも入れる」という言い方は半分だけ正しい。入るのは難しくありませんが、合う医院を選ぶのは難しい。この前提で読み進めてください。
なお、ここでいう「歯科医院」には、一般歯科のほか、矯正専門、小児歯科、訪問歯科を中心にする医院も含まれます。専門によって1日の流れも求められる技術も変わるため、転職先を探すときは「歯科医院」とひとくくりにせず、診療科目の欄まで目を通すことが出発点になります。
前の職場別に見る、歯科医院との落差
同じ歯科医院への転職でも、前にどこで働いていたかで戸惑うポイントはまったく違います。代表的な4つのパターンで整理します。
病院から移る場合
看護師や、病院の歯科口腔外科で働いていた歯科衛生士が歯科医院へ移ると、まず組織の平坦さに驚きます。病院には師長や主任、医事課、人事部があり、困ったときの相談先が複数あります。歯科医院では、相談先も評価者も院長1人です。
夜勤がなくなり、生活のリズムが安定するのは大きな利点です。その代わり、土曜日の診療がある医院が多く、土日の両方を休める職場は限られます。病院で当たり前だった研修制度やマニュアルは、個人医院にはないことが多い。医療職としての基礎があっても、「この医院のやり方」は見て覚える形になります。
看護師から歯科医院の受付や助手に移る人もいますが、年収は下がるのが一般的です。看護師の年収水準や働く場所ごとの違いは看護師の年収・単価相場にまとまっているので、移る前に比べておくと、何を手放して何を得るのかがはっきりします。
一般企業の事務職から移る場合
オフィスワークから歯科医院の受付や歯科医療事務に移る人は、PCでの入力や電話対応の経験がそのまま活きます。一方で戸惑うのは、医療用語と、診療報酬の請求(レセプト)の仕組みです。歯科の点数は医科と体系が違い、最初の数か月は覚えることが多くなります。基礎を先に学んでおきたいなら、試験の内容や勉強の進め方がまとめられている医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)が1つの目安になります。
もう1つの落差は、1日の時間の区切り方です。これは次の章で詳しく書きます。
販売・接客業から移る場合
販売や飲食の経験がある人は、患者さんへの声かけや待合室の気配りで強みを発揮します。歯科医院の患者さんの多くは、痛みや不安を抱えて来院します。表情を読んで先回りできる人は、院長にとってありがたい存在です。
戸惑うのは、感染対策の厳密さと手先の作業です。器具の洗浄と滅菌には決まった手順があり、省略は許されません。立ち仕事である点は販売と同じですが、中腰で診療台の横に付く姿勢は、慣れるまで腰に負担がかかります。
別の歯科医院から移る場合
経験者の転職で最も多いパターンです。落差は小さいと思われがちですが、実際には「同じ職種なのに任される範囲がまるで違う」ことに戸惑う人が多いという傾向があります。前の医院では予防処置を1人の患者さんに45分かけていたのに、次の医院では治療の補助が中心で、衛生士業務がほとんどない。あるいはその逆もあります。
経験者ほど「前の医院ではこうだった」が出やすく、それが新しい職場での摩擦になります。移る前に、前の医院と次の医院で何が違うのかを言葉にしておくことが大切です。
時間の使い方の落差:予約制と中抜けの勤務
歯科医院に転職した人が口をそろえて挙げるのが、時間の流れの違いです。
典型的な歯科医院の診療時間は、午前が9時半から13時、午後が14時半から19時ごろです。昼休みは1時間半から2時間と長めに取られています。一見ゆとりがあるように見えますが、朝は診療開始の30分前には準備に入り、夜は最終の患者さんが帰った後に片付けと翌日の準備があります。結果として、朝9時から夜19時半まで、医院にいる時間は10時間を超えることになります。
一般企業で9時から18時の勤務に慣れていた人にとって、この「拘束時間の長さ」は想像以上に響きます。昼休みが長くても、自宅が遠ければ家に帰ることはできず、医院の休憩室で過ごすことになります。平日の夜に予定を入れにくくなるのも、よく聞く不満です。
もう1つの特徴は、予約表がすべてを決めることです。歯科医院では、15分や30分の枠が朝から夕方まで埋まっています。前の患者さんの治療が延びると、後ろの予約が全部押していきます。急患が入れば昼休みが削られる。自分のペースで仕事を調整する余地は、オフィスワークよりずっと小さいと考えた方がいいでしょう。
求人票の読み方も変わります。「勤務時間9:00〜19:30(休憩120分)」とあれば、実働は8時間半です。これに毎日の片付けの延長が加わると、週の労働時間は法定の40時間を超えやすくなります。変形労働時間制を採っている医院もあるので、週の所定労働時間が何時間になっているかは面接で確認しておきたいところです。
休日の形も独特です。日曜と祝日に加えて、平日のどこか1日(木曜が多い)を休診にし、土曜は診療する医院が多数派です。週休2日でも、土日の連休にならない。家族や友人と休みが合わないことを、転職してから気付く人は少なくありません。
逆に言えば、この時間の流れが合う人にとって、歯科医院はとても働きやすい職場です。夜勤はなく、診療時間が決まっているので、帰りの時刻がおおむね読めます。平日の休みで役所や銀行の用事を済ませやすい、という声もあります。時間の組み方を柔軟にしたい人には、午前だけ、午後だけといったパートの選び方もあり、その具体的な組み方は歯科医院のパートという働き方|勤務時間の組み方と、任される範囲で整理されています。
組織の落差:院長との距離、教育、評価
歯科医院の組織は、大きく分けると「院長1人の個人医院」と「複数の医院を持つ医療法人」の2種類です。この2つでは、働き方の前提がかなり違います。
個人医院は、院長の考えがそのまま職場になる
個人医院では、院長が経営者であり、治療の責任者であり、スタッフの上司です。休みの取り方、残業の扱い、昇給の基準、服装のルールまで、院長の考え方で決まります。良い院長のもとでは、判断が早く、スタッフの声がすぐに反映される職場になります。反対に、院長と合わないと逃げ場がありません。
教育の仕組みも、院長次第です。マニュアルや研修の時間を用意している医院もあれば、先輩の動きを見て覚える医院もあります。評価制度がなく、昇給が「院長がそう判断したから」という形で決まることも珍しくありません。
医療法人の分院は、仕組みが整う代わりに異動がある
複数の分院を持つ医療法人では、就業規則や給与テーブル、研修制度が整っていることが多く、評価の基準も比較的はっきりしています。分院長の歯科医師が現場を見て、法人本部が人事や労務を管理する形です。
その代わり、分院間の異動がある場合があります。通勤時間が変わる可能性や、分院長が交代して方針が変わる可能性も考えておく必要があります。
スタッフ同士の距離
どちらの形でも、1つの医院で働く人数は5人から15人程度です。人間関係が濃くなりやすく、1人との関係がこじれると職場全体に影響します。前の職場が大きな組織だった人ほど、この距離の近さに戸惑います。
私自身、前の職場を離れて小さなチームで働き始めたとき、会議も稟議もなく、決めたことがその日のうちに動く速さに驚きました。同時に、誰かと意見がぶつかったとき、間に入ってくれる人がいないことにも気付きました。規模が小さい職場の良さと難しさは、どの業界でも同じ構造をしています。
転職先を見分けるときの手がかりとして、個人医院か医療法人かは、医院のホームページの「医院概要」や、求人票の事業者名で分かります。事業者名が「医療法人社団」や「医療法人」から始まっていれば医療法人です。ただし、医療法人でも1医院だけの小さな法人は多く、実態は個人医院とほとんど変わりません。分院がいくつあるか、法人本部に事務の担当者がいるかまで確認すると、組織の実態がつかめます。
待遇の落差:給与、社会保険、福利厚生
条件面で、転職前に必ず確認しておきたい点を整理します。
給与の目安
厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、歯科衛生士の平均年収は約400万円前後で推移しています。歯科助手や受付の正社員は、地域差はありますが月給18万円から23万円程度の求人が中心です。
見落としやすいのは、賞与と退職金です。個人医院では、賞与が「業績による」とされて金額の定めがなかったり、退職金の制度そのものがなかったりすることがあります。月給が高く見えても、年間で見ると前の職場より下がる、というケースは珍しくありません。求人票の「年収例」ではなく、「賞与の実績(前年度は何か月分だったか)」を聞くのが確実です。
社会保険の種類
歯科医院の多くは、協会けんぽではなく、歯科医師国民健康保険組合(歯科医師国保)に加入しています。歯科医師国保は保険料が比較的抑えられている一方、組合によっては出産手当金や傷病手当金の給付がない、または内容が異なります。病気で長く休む可能性や、出産を考えている人にとっては、大きな違いです。
また、個人経営の医院で常時雇用する人が5人未満の場合、厚生年金への加入義務がありません。その場合、スタッフは国民年金に加入することになり、将来の年金額に差が出ます。「社会保険完備」と書かれていても、健康保険と年金がそれぞれ何なのかを確認してください。
福利厚生の中身
歯科医院特有の福利厚生として、スタッフ本人や家族の治療費の割引、ホワイトニングの無料提供などがあります。学会やセミナーの参加費補助を出す医院もあり、歯科衛生士にとっては専門性を高める機会になります。
正直なところ、治療費の割引は魅力的に見えても、給与や社会保険の差を埋めるほどのものではありません。条件を比べるときは、目立つ特典より、毎月の手取りと保険の中身を優先して見るべきです。
比べ方の具体例を1つ挙げます。前の職場と転職先の条件を、「月給」「賞与の実績」「残業代の計算方法」「健康保険の種類」「年金の種類」「退職金の有無」「年間休日」の7項目で表にしてみてください。月給だけで見ると上がっていても、賞与と退職金を足すと下がる、あるいは年間休日が10日以上減る、ということが一目で分かります。
求人の探し方と、転職エージェントの使い方
歯科医院の求人を探す経路は、主に5つあります。ハローワーク、一般の求人サイト、歯科に特化した求人サイトや転職エージェント、医院のホームページ、知人からの紹介です。
経路ごとの特徴
ハローワークは地域の個人医院の求人が多く、掲載にお金がかからないため、採用に費用をかけられない小規模な医院も載せています。一般の求人サイトは件数が多い一方、医院の内部事情までは分かりません。医院のホームページの採用ページは、院長の考え方が直接書かれていることが多く、情報量は少なくても参考になります。
歯科に特化した転職エージェントは、希望を聞き取ったうえで医院を紹介し、見学や面接の日程調整まで代行してくれます。
最初は自分で就活をやっていたのですが、なかなか決まらず困っていたときに歯科転職ナビさんを友達から紹介していただきました。本当にこの人にお願いしていいのか、信頼していいのか最初は不安だったのですが、親身になって相談に乗ってくださり、とても感謝しております。面接や見学もついてきて下さり、安心して就職を決めることができました! 出典: shika-tenshoku.com
見学や面接に同行してもらえるのは、1人では聞きにくい条件面の質問をしてもらえるという点で、確かに利点です。
エージェントの仕組みを知っておく
ただし、仕組みも知っておくべきです。有料の職業紹介では、採用が決まったときに、医院側が紹介会社へ手数料を支払うのが一般的です。つまり、求職者は無料で使える一方、エージェントの売上は「どこかに決まること」から生まれます。
これ自体は問題ではありませんが、「急いで決めさせようとしていないか」「こちらが断りにくい雰囲気になっていないか」は冷静に見ておく必要があります。また、紹介手数料を払えない、あるいは払いたくない小規模な医院はエージェントに求人を出していないため、エージェントだけで探すと選択肢が偏ります。複数の経路を並行して使うのが基本です。
方向性そのものに迷っているなら、求人の紹介とは切り離して話を聞いてもらう方法もあります。仕事の悩みや転職の方向性を一緒に整理する仕事の内容は、職場・転職・キャリア相談のお仕事で解説されています。
決め手になるのは、見学と面接で確かめた実態
ここからは、転職を決める段階の話です。歯科医院の求人票は、条件の書き方が医院ごとにばらばらで、比較が難しいという特徴があります。だからこそ、決め手は見学と面接で確かめた実態に置くべきです。
見学で見るべき5つのこと
1つ目は、診療が終わった直後の片付けの様子です。誰がどう分担しているか、院長がその場に残っているか。可能なら、午後の最後の時間帯に見学を入れてもらいます。
2つ目は、院長がスタッフに声をかけるときの言葉です。治療中の指示が短く穏やかか、患者さんの前でスタッフを叱っていないか。
3つ目は、滅菌室や器具の棚の整頓です。感染対策に手を抜いていない医院は、働く人の安全にも気を配っていることが多いという傾向があります。
4つ目は、診療台の数とスタッフの人数の比率です。診療台が5台なのに歯科衛生士と助手が合わせて3人なら、1人あたりの負担は大きくなります。
5つ目は、スタッフ同士の会話です。休憩室や受付の奥で、自然なやり取りがあるかどうか。
面接で必ず聞くこと
面接では、次の質問を用意しておきます。「最終受付の後、実際に帰れるのは何時ごろですか」「この1年で何人が入職し、何人が退職しましたか」「前年度の賞与は何か月分でしたか」「健康保険は協会けんぽですか、歯科医師国保ですか」「試用期間中の給与と条件は本採用と同じですか」。
これらの質問に曖昧な答えしか返ってこない医院は、入った後も曖昧なままである可能性が高い。はっきり答えてくれる医院は、それだけで信頼の材料になります。
内定後に書面で確認する
口頭で聞いた条件は、内定後に労働条件通知書で必ず確認します。労働基準法では、賃金や労働時間などの条件を書面で明示することが事業主に義務付けられています。書面の内容が面接で聞いた話と違えば、入職前に確認して修正してもらいます。
歯科医院の中には、労働条件通知書を用意していない、あるいは入職日に初めて渡す医院もあります。その場合は、「条件を確認してから今の職場に退職を伝えたいので、書面でいただけますか」と伝えれば十分です。この依頼に不快感を示す医院は、入職後の労務管理も期待しにくいと判断してよいでしょう。
歯科衛生士に絞った求人の読み方や面接の聞き方は、歯科衛生士が転職を決める前に|求人の見方と面接で確かめることでさらに詳しく整理されています。
転職の時期と、在職中に進める段取り
歯科医院の求人には、時期による波があります。これを知っているかどうかで、選べる医院の数が変わります。
求人が増えるのは年明けから春
歯科衛生士の養成校は3月に卒業、国家試験も3月に実施され、新卒の入職は4月に集中します。そのため、医院側は秋から冬にかけて新卒の採用を進め、年明けから春にかけて「新卒で埋まらなかった枠」や「年度末で退職する人の後任」の求人を出します。経験者にとっては、1月から3月が選択肢の多い時期です。
一方、夏から秋にかけては、急な退職による欠員募集が中心になります。件数は少なめですが、医院側が急いでいるぶん、条件の交渉がしやすいことがあります。どちらが良いということではなく、自分が動ける時期と求人の波を合わせて考えることが大切です。
在職中に見学まで進めておく
歯科医院の見学は、診療時間中に行うのが基本です。在職中だと時間を作りにくいのが難点ですが、今の医院の休診日(平日の休み)を使えば、他の医院の診療を見学できます。これは、平日に休みがある歯科医院勤務ならではの利点です。
見学を先に済ませ、内定の見通しが立ってから今の医院に退職を伝える。この順番にすると、収入の空白期間を作らずに移れます。
退職を伝える時期と、入職日の決め方
今の職場が歯科医院なら、担当患者さんの引き継ぎや後任の採用を考えて、退職希望日の2か月から3か月前に伝えるのが一般的です。法律上は、期間の定めのない雇用なら2週間前の申し入れで退職できますが、狭い業界なので、段取りよく伝えた方が後々のためにもなります。
入職日を決めるときは、賞与の支給日と有給休暇の残日数を確認します。賞与の支給日に在籍していることを条件にしている医院は多いので、数週間の違いで数十万円の差が出ることもあります。また、健康保険が切り替わる月をまたぐと、手続きの手間が増えます。月末退職、翌月1日入職の形にすると、保険の空白が生まれにくくなります。
正直なところ、焦って決めた転職ほど、条件の確認が甘くなります。時期の波を知っていれば、「今決めないと次がない」と思い込まずに済みます。
転職後の最初の3か月で起きること
入職してからの3か月は、歯科医院への転職の成否が見えてくる期間です。何が起きやすいのかを先に知っておくと、戸惑いを必要以上に大きくせずに済みます。
最初の1か月は、医院のやり方を覚える期間
経験者でも、最初の1か月は「医院のやり方」を覚えることが中心になります。器具の呼び方、トレーの並べ方、滅菌の手順、カルテの書き方、院長が好む準備の順番。こうした細かい違いは、どの医院にもあります。
ここで経験者がやりがちなのが、「前の医院ではこうしていました」と口にすることです。善意の提案でも、入ったばかりの人から言われると、既存のスタッフには否定に聞こえます。改善の提案は、医院のやり方を一通り理解してから、具体的な理由と一緒に出す方が受け入れられやすい傾向があります。
2か月目から3か月目に、条件と実態のずれが見えてくる
慣れてくると、面接で聞いた話と実態のずれが見えてきます。「残業はほとんどない」と聞いていたのに、実際は毎日30分から1時間の片付けがある。「有給は取りやすい」と聞いていたのに、誰も取っていない。
ずれに気付いたら、感情的に不満を伝えるのではなく、事実を記録しておきます。打刻の時刻、実際に帰った時刻、有給を申請したときのやり取り。記録があれば、院長に相談するときも、万が一また職場を移ることになったときも、判断の材料になります。
試用期間の扱いを確認しておく
多くの歯科医院は、入職後3か月程度の試用期間を設けています。試用期間中は給与が低めに設定されていたり、社会保険の加入が本採用後とされていたりすることがあります。ただし、社会保険は条件を満たせば試用期間中から加入させるのが原則です。入職時の労働条件通知書で、試用期間の長さと条件を確認しておいてください。
3か月たった時点で、一度自分で振り返りをするのがおすすめです。前の職場で感じていた落差のうち、何が解消して、何が新しく生まれたのか。ここを整理しておくと、この医院で長く働くのか、早めに次を考えるのかの判断がぶれません。
振り返りの結果、合わないと感じた場合でも、すぐに辞めるのが最善とは限りません。3か月では見えない良さもありますし、短期間での退職が続くと、次の面接で理由を問われます。まずは院長に、配置や勤務時間の調整を相談する余地があるかを確かめてからでも遅くはありません。
運営者として見てきた、転職がうまくいく人の傾向
在宅ワークやフリーランスの市場を長く見てきた立場から、職場を移る人の傾向について1つ観察を書いておきます。
転職がうまくいく人は、前の職場を「嫌だったから離れる場所」としてではなく、「自分に何が合わなかったのかが分かった場所」として説明できる傾向があります。組織が大きすぎたのか、時間の流れが合わなかったのか、評価の仕組みに納得できなかったのか。そこが言葉になっていると、次の歯科医院で見学するときに、見るべきものが自然に決まります。
もう1つは、仲介を通すかどうかで働く側の手取りや条件が変わる構造を理解している人ほど、選択を急がないということです。紹介手数料や仲介のマージンが大きい経路では、その分が採用する側の負担になり、結果として給与の上限や採用人数に影響することがあります。直接やり取りできる経路を併用している人は、同じ予算でも条件の交渉がしやすく、双方にとって無理のない形で話がまとまりやすい。これは歯科医院の転職に限らず、仕事を受ける場面すべてに共通する構造です。
さらに言えば、医療系の資格や経験を持つ人の中には、転職をきっかけに「医院の中だけで働く」という前提を見直す人もいます。歯科衛生士が臨床と並行して口腔ケアの記事監修やオンライン相談を受ける、受付の経験者が医療事務の在宅の仕事を少しずつ受ける、といった形です。常勤の医院を1つに決めるのではなく、パートと外部の仕事を組み合わせることで、職場の人間関係や院長との相性に生活のすべてを預けずに済む。この発想を持っている人は、転職先の医院を選ぶときにも、条件の優先順位をはっきり付けられている傾向があります。
反対に、転職を繰り返してしまう人に共通しているのは、次の職場を「今の不満がない場所」という消去法で選んでいることです。院長が怖くなければいい、残業がなければいい。そうして選んだ医院で、今度は別の不満が見つかる。落差を事前に知り、自分が何を優先するのかを決めてから動く人ほど、1回の転職で落ち着いているように見えます。
歯科医院への転職は、職場が小さい分、合えば長く働ける場所になり、合わなければ早く離れたくなる場所になります。条件の数字だけでなく、落差がどこに生まれるのかを知ったうえで見学に行くこと。それが、転職を後悔しないための最も確実な方法です。
よくある質問
Q. 未経験でも歯科医院に転職できますか?
歯科助手や受付であれば、資格が要らないため未経験での採用が一般的に行われています。販売や事務の経験は、患者さんへの対応や予約管理で活きます。一方、歯科衛生士や歯科医師として働くには国家資格が必要です。未経験で応募する場合は、教育を誰がどのくらいの期間担当するのかを面接で確認しておくと安心です。
Q. 病院から歯科医院に転職すると、働き方はどう変わりますか?
夜勤がなくなり生活のリズムは安定しますが、土曜診療がある医院が多く、土日の連休は取りにくくなります。組織は院長を中心とした小さな形になり、相談先や評価者が院長1人に集中します。研修制度やマニュアルがない医院も多いため、見学の段階で教育の仕組みを確認しておくことが大切です。
Q. 歯科医院の求人で、社会保険について何を確認すべきですか?
健康保険が協会けんぽか歯科医師国保かを確認してください。歯科医師国保は組合によって出産手当金や傷病手当金の給付がない場合があります。また、個人経営で常時雇用5人未満の医院は厚生年金の加入義務がなく、国民年金になることがあります。「社会保険完備」の表記だけで判断しないことが重要です。
Q. 歯科医院への転職で、転職エージェントは使った方がよいですか?
見学や面接の日程調整、条件面の質問を代行してもらえる利点があります。ただし、紹介手数料を払わない小規模な医院はエージェントに求人を出していないことが多く、エージェントだけで探すと選択肢が偏ります。ハローワークや医院のホームページなど複数の経路を並行して使い、決める前に必ず見学することをおすすめします。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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