訪問で働くあん摩マッサージ指圧師|施設との違いと、1日の動き方

長谷川 奈津
長谷川 奈津
訪問で働くあん摩マッサージ指圧師|施設との違いと、1日の動き方

この記事のポイント

  • ✓訪問で働くあん摩マッサージ指圧師の1日の流れ
  • ✓療養費と同意書の仕組み
  • ✓契約形態ごとの注意点を

あん摩マッサージ指圧師の働き方を調べていると、必ず出てくるのが「訪問」という選択肢です。求人票では在宅マッサージ、訪問リハビリマッサージ、機能訓練など、いろいろな呼ばれ方をします。ただ、実際に何が違うのかは、求人票だけを読んでもよくわからない。これ、知らないまま応募して入ってから戸惑う人が本当に多いんです。

先に結論を書きます。訪問と施設の最大の違いは、施術の中身ではなく、1日の時間の使われ方と、契約の形です。訪問は移動が業務時間の中に組み込まれるため、1日に何件回れるかが担当エリアの広さで決まります。そして契約は、雇用と業務委託の両方が存在します。つまり、同じ「訪問マッサージの仕事」でも、労働時間の考え方も、社会保険の扱いも、契約次第でまったく別物になるということです。この記事では、その違いを1つずつ解きほぐしていきます。

訪問という働き方が伸びている背景

まず、なぜ訪問の求人が増えているのかという話から始めます。理由はシンプルで、通院が難しい人が増えているからです。加齢や疾患によって自力での移動が困難になった人に対して、施術者が自宅や入居先へ出向く。この形が制度と社会構造の両方に支えられて広がっています。

高齢化が進む日本において、介護保険の利用者は年々増加しています。 訪問マッサージは、「自宅や施設にお伺いしてマッサージ治療を行う」サービスであるため、介護保険利用者との親和性が非常に高く、その需要は年々伸びており、今後も業界としての需要は伸びていく見込みです。 出典: magonoteclub.co.jp

つまり、訪問という働き方は一時的な流行ではなく、人口構成の変化に紐づいた需要だということです。介護を必要とする人の数が増えている限り、この需要が急に消えることは考えにくい。求人の安定性という観点では、この点は押さえておいていい材料です。

一方で、需要があるからといって誰にとっても働きやすいとは限りません。訪問は環境が整った施術室で行う仕事ではなく、相手の生活空間に入っていく仕事です。ベッドの高さも、部屋の広さも、家族の同席の有無も、訪問先ごとに違います。ここに適応できるかどうかで、続くかどうかが決まります。技術の問題ではなく、環境への対応力の問題です。

制度面から見ても、訪問という形は複数の仕組みに支えられています。健康保険の療養費に基づく施術、介護保険の枠組みで提供される機能訓練、自費でのサービス。同じ「自宅に伺って施術する」という行為でも、根拠となる制度が違えば、必要な書類も報酬の出どころも変わります。求人を見るときは、その事業所がどの制度を軸に運営しているのかを把握しておくと、業務の全体像がつかみやすくなります。これ、入る前に確認している人が意外と少ないんです。

もう1つ、訪問の現場では医療職や介護職との連携が日常的に発生します。ケアマネジャー、訪問看護、デイサービスの職員、そして主治医。1人の利用者を複数の職種で支える構図の中に入るため、報告や情報共有のやり取りが施術以外の時間として発生します。この部分を「面倒な事務」と捉えるか「仕事の一部」と捉えるかで、印象が大きく変わる分野です。

訪問の1日は、こう動く

具体的な1日の流れを見ていきます。事業所によって差はありますが、大まかな骨格は共通しています。

朝は事業所への出勤か、直行のどちらかです。直行を認めている事業所では、自宅から最初の訪問先へ直接向かいます。出勤する場合は、その日の訪問先の確認、必要な物品の準備、前日の申し送りの確認から始まります。訪問件数は事業所と担当エリアによりますが、1日4件から7件程度で組まれることが多い形です。

1件あたりの施術時間は、療養費の対象となる施術では20分から30分程度で設定されることが一般的です。ここに、到着してからの挨拶、体調の確認、施術後の記録、次回の予定調整が加わるため、実際に1件に費やす時間は施術時間より長くなります。訪問先での滞在時間全体で40分前後を見込んでおくと、予定が崩れにくくなります。

移動は、自転車、原付、自動車のいずれかが中心です。都市部では自転車や原付、郊外では自動車という分かれ方をします。移動手段の指定と、その費用を誰が負担するかは事業所によって扱いが違います。※ここは契約前に必ず確認してください。ガソリン代や駐車場代が自己負担になっている契約で、担当エリアが広い場合、実質的な手取りが想定より下がります。

昼の休憩は、訪問と訪問のあいだに取る形になります。事業所に戻るのではなく、車内やコンビニの駐車場で済ませるという人も少なくありません。この点は、施設勤務の休憩室がある環境と比べると、はっきり差があります。逆に、1件終えるごとに自分のペースで動けるという自由度は、施設にはない部分です。

夕方は、最後の訪問を終えてから記録の仕上げと報告を行います。訪問した内容の記録は、療養費の請求や関係職種との共有の根拠になるため、雑には書けません。ここに毎日30分程度かかることを前提に、1日のスケジュールを組む必要があります。この記録の時間が勤務時間に含まれるのかどうかも、契約で確認しておくべき点の1つです。

訪問で使う道具と、始める前に整えておくこと

訪問は手ぶらで行ける仕事ではありません。何を持ち歩き、何を事業所が用意してくれるのかは、事前に確認しておく価値があります。

まず、施術に使う消耗品です。タオル、消毒用のアルコール、使い捨ての手袋、フェイスペーパーといった品目が日常的に必要になります。これを事業所が支給するのか、施術者が自分で用意するのかは契約によって違います。業務委託の場合、消耗品が自己負担になっていることは珍しくありません。1件あたりの報酬が高く見えても、消耗品と移動費が自己負担なら、実際に残る額は変わってきます。求人票の数字を比べるときは、この負担の所在まで揃えて比べてください。

次に、記録に使う道具です。紙の記録用紙を使う事業所もあれば、タブレットやスマートフォンのアプリで記録する事業所もあります。端末が支給されるのか、自分の携帯端末を使うのかも確認しておきたいところです。※自分の端末を業務に使う場合、通信費の扱いと、利用者の個人情報をその端末で扱うことのルールがどうなっているかを聞いておいてください。個人情報の管理は、事業所と施術者の双方に責任が生じる領域です。

服装と身だしなみも、訪問では意味を持ちます。相手の生活空間に入るため、清潔感は施術の技術と同じくらい評価されます。爪の長さ、香りの強い整髪料を使わないこと、冬場に冷たい手で触れないための準備。細かいことですが、こうした配慮の有無で利用者の受け止め方は変わります。事業所によっては制服が支給されますが、支給がない場合は自分で用意することになります。

最後に、移動手段の準備です。自動車で回る事業所では、運転免許に加えて任意保険の加入状況を確認されることがあります。自家用車を業務に使う場合、業務使用が保険の対象に含まれているかは重要な論点です。ここを確認しないまま業務で運転して事故を起こすと、保険が適用されない可能性があります。※車を使う契約を結ぶ前に、必ず保険会社に業務使用の扱いを確認してください。

施設や治療院との違いを、項目ごとに比べる

訪問と、施設や治療院での勤務を、実務の観点で比べます。

環境の面では、施術台の有無が最も大きな差です。治療院なら高さの合った施術台があり、道具も揃っています。訪問では、利用者のベッドや布団の上で施術することになり、施術者の姿勢に負担がかかります。ここは体力の消耗に直結する部分で、長く続けるなら自分の身体の使い方を工夫する必要があります。

訪問サービスであることから、移動をする事や、治療院の様に施術環境が整っていない状態で施術を行わなければいけないことはデメリットです。 出典: magonoteclub.co.jp

引用の通り、環境が整わないことは訪問の明確な弱点です。これを承知したうえで選ぶ分にはいいのですが、求人票の「未経験歓迎」という文字だけを見て入ると、想定とのずれが大きくなります。

人間関係の面では、訪問は同僚と顔を合わせる時間が短いという特徴があります。施設勤務なら同じフロアに他職種がいて、その場で相談できます。訪問は基本的に単独行動なので、判断に迷ったときは電話やチャットで事業所に確認することになります。人と関わるのが得意でない人には向いている面がありますが、逆に孤立感を覚える人もいます。ここは向き不向きがはっきり分かれるところです。

利用者との関係の面では、訪問のほうが継続性が高くなります。同じ人を週に複数回、何か月も担当することが普通にあります。生活の様子まで見えるため、変化に気づきやすい。関係が深くなる分だけ、こちらの体調不良で急に休みにくいという面もあります。代わりの施術者を立てられる体制が事業所にあるかどうかは、確認しておくと安心です。

収入の面では、事業所によって設計が大きく違います。固定給に件数の歩合が乗る形、完全歩合の形、時給制の形。どれもあります。どの形であっても、移動時間の扱いと担当エリアの広さを合わせて見ないと、実際の時間あたりの収入は比較できません。件数だけで比べるのは危険です。

療養費と同意書。訪問マッサージを支える仕組み

訪問マッサージの多くは、健康保険の療養費という仕組みと関わります。ここは制度の話なので、丁寧に整理します。

あん摩マッサージ指圧の施術について、一定の要件を満たす場合に健康保険から療養費が支給される仕組みがあります。この際に必要になるのが、医師の同意書です。つまり、利用者が「受けたい」と言えば誰でも保険の対象になるわけではなく、医師が施術の必要性を認めていることが前提になります。この同意には有効期間があり、期間が過ぎれば改めて同意を得る必要があります。

※ここは重要な注意点です。同意書の様式、有効期間、支給の要件、請求の方法は、制度改正によって変わることがあります。この記事に書いた内容を最終的な根拠にせず、必ず厚生労働省の案内や、加入している保険者の説明で最新の取り扱いを確認してください。施術者が自分で請求を行う立場になる場合は、なおさら一次情報に当たる必要があります。

働く側の視点で言うと、この仕組みを理解しているかどうかで、事業所での動きやすさが変わります。同意書の期限が近い利用者について事業所に共有する、医師への再同意の依頼が必要な時期を把握しておく。こうした動きは施術そのものではありませんが、事業所の運営に直結する部分です。ここを気にかけられる人は、現場で重宝されます。

なお、介護保険の枠組みで提供される機能訓練とは、制度としては別の話です。同じ訪問という形でも、どの制度に基づくサービスなのかによって、必要な書類も報告の相手も変わります。求人に応募する段階で「この事業所が提供しているのは、どの制度に基づくサービスか」を確認しておくと、入ってからの理解が早くなります。ここを曖昧にしたまま働き始めると、記録の意味がわからないまま書き続けることになります。

雇用か業務委託か。訪問の世界で必ず確認すべき論点

ここが、この記事で一番お伝えしたい部分です。訪問マッサージの求人には、雇用契約のものと業務委託契約のものが混在しています。そして、この2つは法律上まったく違う扱いになります。

雇用契約であれば、労働基準法の適用を受けます。労働時間、休憩、時間外の割増、有給休暇。これらは法律で定められた最低ラインが保証されます。移動時間が労働時間に当たるかどうかについても、使用者の指揮命令下にあるかどうかで判断される考え方があります。つまり、「移動中は自由に過ごしていい」わけではなく、次の訪問先に向かうことを指示されている状態であれば、労働時間として扱われる余地があるということです。

業務委託契約の場合、労働基準法の保護は基本的に及びません。1件いくらの報酬で、移動時間には報酬が発生しない設計になっていることが多い。その代わり、働く時間の自由度は高くなります。報酬は事業所得または雑所得として自分で申告することになり、経費の計上が可能になります。どちらが有利かは、担当エリアの広さと件数の密度で変わります。

※判断に迷うケースとして多いのが、契約書には「業務委託」と書かれているのに、実態は勤務時間も訪問順序も細かく指示され、断る自由がないという場合です。契約の名称ではなく実態で判断されるという考え方があるため、疑問を感じたときは労働基準監督署や専門家に相談してください。名称だけで諦める必要はありません。

確認すべき具体的な項目を挙げます。1つ目は移動時間の扱い。2つ目は移動にかかる実費の負担者。3つ目はキャンセルが出たときの報酬の扱い。4つ目は記録や報告にかかる時間の扱い。5つ目は担当エリアの範囲と、それが変更される場合の手続き。この5つを書面で確認できれば、入ってからのトラブルはかなり減ります。口頭の説明だけで済ませないでください。

報酬の見方。件数と歩合と移動をまとめて計算する

訪問の求人は、報酬の設計が事業所ごとにばらつきます。比べ方を間違えると、条件のいい求人を落とすことになります。ここでは、比較の手順を整理します。

まず、報酬の型を確認します。大きく分けて、時給制、固定給に件数の歩合を加える型、完全歩合の型の3つです。時給制は収入が読みやすい代わりに、件数を伸ばしても報酬が増えません。歩合型はその逆で、件数が伸びれば報酬が増えますが、キャンセルが多い月は落ち込みます。どちらが向いているかは、担当エリアの需要の安定度で変わります。

次に、1日の総拘束時間を出します。ここが最も大事な工程です。訪問の求人票に書かれている「1件あたり3,000円」といった数字は、施術時間だけを見た金額です。実際には移動と記録が乗ります。1日5件で移動と記録を含めて8時間拘束されるなら、時間あたりの報酬は件数単価の見た目より下がります。この計算をしてから、複数の求人を並べてください。件数単価だけを見て選ぶと、担当エリアが広い事業所に当たったときに、想定と大きくずれます。

3つ目に、自己負担になるものを引きます。移動にかかるガソリン代、駐車場代、車両の維持費、消耗品費、通信費。業務委託の場合、これらが報酬から出ていくことになります。経費として計上できるとはいえ、手元から出ていく事実は変わりません。年間でどれくらいかを概算しておくと、条件の比較が正確になります。

4つ目に、収入が途切れるリスクを見ます。担当していた利用者が入院した、退居した、施術を終了した。訪問ではこうした事情で担当件数が減ることがあります。完全歩合の契約では、これがそのまま収入減になります。新規の利用者をどう配分するのか、事業所にどれくらいの利用者数があるのか。この2点を面接で聞いておくと、収入の安定度を見積もれます。

訪問で身につくものと、次につながる道

訪問という働き方には、技術面での固有の価値があります。通院が難しい状態の人を担当するため、治療院では出会いにくい症例に触れる機会が多くなります。

訪問マッサージを紹介している事業者の説明では、この職種で一定年数の実務経験を積むことが介護支援専門員の受験資格につながる道として案内されています。福祉の分野と密接に関わるのは訪問のほうであるため、将来的に介護支援専門員を目指す場合には訪問での経験が生きるという整理です。あわせて、通院が難しい状態の人を担当する機会が多いことから、治療家としての技術を磨く場としての価値も語られています。

この受験資格の話は、キャリアを考えるうえで重要な視点です。※ただし、受験資格の要件は制度改正で変わることがあり、実務経験としてどの勤務が算入されるかにも要件があります。受験を視野に入れるなら、都道府県の担当窓口で早めに確認してください。「5年働けば自動的に受けられる」と思い込んで進むと、後で要件を満たしていないことに気づく可能性があります。

技術面以外では、多職種と連携する経験が積み上がります。ケアマネジャーに状況を伝える、家族に説明する、看護職と情報を共有する。この経験は、施術の技術とは別軸のスキルとして残ります。将来的に管理者側に回る、独立して事業所を立ち上げるといった選択を考えるとき、この連携の経験が土台になります。

医療や介護に近い職種では、資格を持ったまま働く場所を変えることでキャリアの幅が広がることがあります。同じ資格でも配属先によって働き方がどう変わるかを整理した看護師におすすめの職場・働き方・転職支援ツールを徹底解説は、場所を変えるという発想を持つときの参考になります。臨床以外の場で国家資格を活かす道筋については、企業薬剤師への転職ガイド|年収・働き方・中途採用の壁を突破する方法【2026年版】が具体的な事例として読めます。

訪問先で起きやすい場面と、その備え方

訪問は相手の生活の場に入る仕事なので、施術室では起きないことが起きます。よくある場面をいくつか挙げて、対応の考え方を整理します。

1つ目は、訪問時に利用者の体調がいつもと違う場合です。顔色、呼吸、受け答えの様子に普段と違う点があるとき、どう動くかは事前に決めておく必要があります。※施術者が医学的な判断を下す立場にはありません。異変を感じたら施術を中止し、事業所と、必要に応じて家族やケアマネジャー、看護職へ連絡する。この手順を事業所のルールとして確認しておいてください。「様子を見て施術した」が後から問題になることがあります。

2つ目は、家族から施術以外のことを頼まれる場面です。買い物、掃除、荷物の移動。悪意のある依頼ではなく、目の前にいる人に頼みたくなるという自然な流れで起こります。ただ、これを引き受けると業務の範囲が曖昧になり、断りにくい関係が積み上がっていきます。事業所の業務範囲として何が含まれるのかを明確にしておき、範囲外の依頼は「事業所に確認します」と一度持ち帰る。この対応を最初から徹底しておくほうが、結果として関係は良好に保てます。

3つ目は、予定していた訪問が当日キャンセルになる場合です。体調不良、通院、家族の都合。理由はさまざまですが、一定の頻度で発生します。このときの報酬の扱いが契約でどうなっているかは、収入の安定に直結します。完全に報酬が発生しない設計なのか、一定の補償があるのか。移動を開始した後のキャンセルはどう扱われるのか。ここを確認せずに業務委託で始めると、月によって収入が大きく振れることになります。

4つ目は、記録や報告に関するやり取りです。療養費の請求に関わる記録は、正確さが求められます。日付、施術部位、実施内容。書き方のルールは事業所ごとに定められているはずなので、入職時に必ず確認してください。曖昧なまま自己流で書き続けると、後から遡って修正することになり、その作業が無報酬で発生する可能性があります。

訪問が向いている人、慎重に考えたほうがいい人

ここまでの内容を踏まえて、向き不向きを整理します。断定ではなく、判断材料として読んでください。

向いているのは、1人で動くことに抵抗がない人です。訪問は基本的に単独行動で、判断もその場で求められます。指示待ちが苦手で、自分で段取りを組みたい人には合います。また、同じ人を長く担当することに価値を感じる人にも向いています。週に何度も会う関係の中で、少しずつ変化を見ていく仕事です。

体力面では、移動と姿勢の負担があることを前提に考えてください。夏の移動、冬の移動、雨の日の移動。これが毎日続きます。自動車での移動が中心の事業所なら負担は軽くなりますが、都市部で自転車移動が中心なら、体力の消耗は無視できません。自分の生活リズムと合うかどうかを、実際の担当エリアの広さで判断してください。

コミュニケーションの面では、高齢の利用者やその家族と落ち着いて話せることが求められます。専門用語をそのまま使わず、日常の言葉に置き換えて説明できる人は、訪問の現場で確実に評価されます。逆に、説明を省いて施術だけを進めるスタイルだと、家族から不安を持たれることがあります。何をして、どういう狙いがあり、次回はどうするのか。この3点を毎回短くても伝えられるかどうかが、継続の分かれ目になります。

慎重に考えたほうがいいのは、施術の技術だけを磨きたいと考えている人です。訪問では、記録、報告、連携、予定調整といった施術以外の業務が一定の割合を占めます。この部分を負担に感じるなら、施術に集中できる環境のほうが満足度は高くなります。どちらが偉いという話ではなく、自分が時間を使いたい対象がどこかという話です。

季節の影響も見ておいてください。訪問は屋外の移動が伴うため、真夏と真冬の負担が大きくなります。夏は移動中の熱中症対策が必要になり、冬は路面の状況によって移動時間が伸びます。年間を通して同じペースで働けるとは限らないという前提で、無理のない件数を設定してください。体調を崩して長期に休むことになれば、担当していた利用者にも事業所にも影響が出ます。

もう1つ、契約の形に無頓着な人は注意が必要です。訪問の求人には業務委託の形が多く含まれます。契約書を読まずに始めると、移動時間が無報酬だったり、キャンセル時の扱いが不利だったりすることに、働き始めてから気づくことになります。契約書は自分を守る道具です。読むのに時間がかかっても、必ず目を通してください。

市場を見てきた立場からの観察

在宅ワークやフリーランスの市場を20年運営してきた立場から見ると、訪問という働き方は「業務委託が広がる領域で、受け手の条件が事業所ごとにばらつく」という典型的な構図に当てはまります。同じ職種、同じ地域でも、条件の設計がまるで違う。この状態では、複数の事業所を比べずに1件目で決めてしまうと、後から損に気づくことになります。

運営者として見てきた限りでは、長く続いている人ほど、施術の件数を追わずに「連絡が早い」「記録が正確」という部分で信頼を積み上げています。訪問の現場では、施術の腕前を客観的に比べる機会がほとんどありません。代わりに評価されるのは、予定通りに来ること、状況の共有が的確なこと、家族への説明が丁寧なこと。この3つができる人は、担当を外されません。地味に見えますが、これが実際の競争力です。

もう1点、中間に仲介が入るかどうかで、受け手の手取りは構造的に変わります。仲介手数料が引かれない手数料0%の直接取引では、依頼する側は同じ予算でより多く頼めて、受ける側の手元に残る額も厚くなります。訪問のように1件あたりの時間が決まっている仕事では、この差がそのまま「同じ働き方でどれだけ残るか」に直結します。件数を増やして稼ぐより、1件あたりの手取りが厚い環境を選ぶほうが、身体への負担は軽くなります。

職種ごとの単価の考え方を数字で比較したい場合は、職種別に相場を整理したデータが参考になります。たとえば著述家,記者,編集者の年収・単価相場では、同じ職種の中でも雇用と業務委託で収入の分布がどう違うかを確認できます。分野は違っても、契約の形によって手取りの構造が変わるという点は共通しています。専門職が独立して単価をどう組み立てているかという観点では、インテリアコーディネーターのフリーランス独立ガイド|年収・案件獲得・働き方に、案件の取り方と単価設計の具体例がまとめられています。分野は違いますが、業務委託で働くときの考え方の型として使えます。

複数の事業所を比べるときは、面接で同じ質問を全部に投げてみてください。移動時間の扱い、実費の負担、キャンセル時の報酬、記録にかかる時間の扱い、担当エリアの範囲。この5つの答えを並べると、条件の差が数字ではなく設計思想の差として見えてきます。働く人の時間をどう扱っているかが、そのまま答えに表れます。曖昧な返答しか返ってこない事業所は、入ってからも曖昧な運用になる可能性が高い。

最後に1つ。訪問という働き方を選ぶかどうかは、施術が好きかどうかだけでは決まりません。移動を含めた1日の使い方、契約の形、制度への理解。この3つを自分が受け入れられるかどうかで決まります。判断に必要な情報は、求人票ではなく契約書と面接での質問から得られます。聞きにくいことを聞ける関係を、入る前に作っておいてください。制度の詳細は公式の窓口に、契約の疑問は専門家に。確認する先を持っていること自体が、あなたを守ります。

よくある質問

Q. 訪問マッサージは1日に何件くらい回るのですか?

事業所や担当エリアの広さによりますが、1日4件から7件程度で組まれることが多い形です。1件あたりの施術時間は20分から30分程度でも、挨拶や体調確認、記録や次回調整を含めると滞在は40分前後になります。移動時間を含めた1日の総拘束時間で見積もってください。

Q. 訪問と治療院勤務では、何が一番違いますか?

施術の中身より、環境と時間の使われ方が違います。治療院には高さの合った施術台と道具がありますが、訪問では利用者のベッドや布団の上で行うため姿勢の負担が大きくなります。また移動が業務に組み込まれるため、担当エリアの広さが1日の件数を左右します。

Q. 移動時間は勤務時間に含まれますか?

雇用契約か業務委託契約かで扱いが変わります。雇用の場合は指揮命令下にあるかどうかで判断される考え方があり、業務委託では移動に報酬が発生しない設計が多く見られます。契約前に移動時間と実費負担の扱いを書面で確認し、疑問があれば労働基準監督署や専門家に相談してください。

Q. 訪問マッサージに保険は使えるのですか?

一定の要件を満たす場合に健康保険の療養費が支給される仕組みがあり、その前提として医師の同意書が必要です。同意には有効期間があります。様式や要件は改正されることがあるため、厚生労働省の案内や加入している保険者の説明で最新の取り扱いを必ず確認してください。

この記事について

@SOHO
編集部

監修:@SOHO編集部

2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

公開:2026年4月14日最終更新:2026年9月10日
長谷川 奈津

この記事を書いた人

長谷川 奈津@SOHO編集部

行政書士・元企業法務

企業法務で数多くのフリーランス契約を扱った経験を活かし、フリーランス向けの法律・契約・権利に関する記事を執筆。「法律はあなたの味方です」がモットー。

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