CROを辞めたいと思ったとき|出ていく前に切り分けておくこと


この記事のポイント
- ✓CROを辞めたいと感じたときに
- ✓原因が案件なのか会社なのか職種なのかを切り分ける方法を整理します
- ✓CRAの1日で負荷が溜まる場所
CROを辞めたいと思ったとき、最初に決めておきたいのは「何から離れたいのか」です。結論から言うと、CROで働く人のしんどさの多くは、職種そのものより「いま担当している案件」と「会社の割り当ての仕組み」から来ています。ここを切り分けないまま転職すると、別のCROに移っても同じ壁にぶつかる傾向が見られます。
この記事では、CROという職場の中で実際に何が起きているのかを、1日の流れと人員体制から整理します。そのうえで、辞める前に切り分けておくこと、社内に残る道、外に出る場合の行き先ごとの違い、求人票で確かめる点までを順に書いていきます。辞めることを勧める記事でも、引き止める記事でもありません。自分の状況を整理して、納得して次の一歩を選ぶための材料として使ってください。
CROを辞めたいと感じやすいのは、受託という仕組みに理由がある
CRO(開発業務受託機関)は、製薬会社や医療機器メーカーから治験の業務を請け負う会社です。モニタリング、データマネジメント、統計解析、メディカルライティング、安全性情報の管理などを、依頼主の代わりに進めます。ここで押さえておきたいのは、CROの仕事は「自社の薬」ではなく「クライアントの試験」だという点です。
受託である以上、スケジュールと品質の基準はクライアントが決めます。症例の登録目標、データ固定の日程、報告書の様式は、契約の段階でほぼ固まっています。現場の担当者が「この施設は登録が遅いので期限を延ばしたい」と思っても、自分の判断では動かせません。製薬会社の開発職であれば社内調整で済む話が、CROでは契約変更の話になり、担当者の手元に届くころには「なんとか間に合わせてほしい」という形になっている。この構造が、CROで働く人の疲れの根っこにあります。
もう1つの特徴は、働き方が「アサイン」で決まることです。同じ会社、同じCRAという職種でも、どの試験に入るかで忙しさがまったく変わります。がん領域の第III相試験で担当施設が10施設を超える人と、症例数の少ない試験で数施設を担当する人とでは、出張の回数も報告書の量も別物です。会社の評判を調べても実態がつかみにくいのは、このばらつきのせいです。
内資と外資、大手と中堅でも経験できる範囲は変わります。人材紹介の立場から、CROの違いについて次のように説明されています。
CROといっても、内資・外資、大手・中堅によって経験できる領域やキャリアパス、働き方には違いがあります。アポプラスステーションでは、あなたの経験や希望をもとに、どのような環境がキャリアに合うのか、CROや外部就労先の選択肢について無料でご相談いただけます。 出典: cra-recruit.com
人員体制にも、CRO特有の事情があります。CROの売上は受注した試験の数と規模で決まるため、大きな案件を取れば人が足りなくなり、試験が終われば人が余ります。人が足りない時期には、経験の浅いCRAにも多くの施設が割り当てられ、教える側のリードCRAも自分の担当を抱えたまま新人を見ることになります。入社した時期が受注の山と重なるかどうかで、最初の1年の経験が大きく変わるわけです。
評価の仕組みも、案件単位で動く職場ならではの難しさがあります。日常の仕事を見ているのはプロジェクトのリードで、人事評価をするのはラインマネージャーという二重の体制を取る会社が多く、両者の情報がうまく伝わらないと「頑張っているのに見てもらえない」という感覚が生まれます。
つまり「CROが合わない」と感じていても、実際には「この会社のこの案件の、この体制が合わない」だけかもしれません。CRO業界は人の行き来が多く、経験者の転職も珍しくありません。だからこそ、次の職場で同じことを繰り返さないために、辞める理由を細かく分けておく価値があります。
CROの1日と、負担が溜まっていく場所
CROで最も人数が多いのはCRA(臨床開発モニター)なので、ここではCRAの1日を例にします。在宅勤務と施設訪問を組み合わせる会社が増えていますが、流れはおおむね次のようになります。
朝はメールとEDC(電子的な症例データの入力システム)の確認から始まります。担当施設で新しい症例が登録されていないか、データに問い合わせが必要な箇所がないか、重篤な有害事象の報告が来ていないかを見ます。重篤な有害事象は報告の期限が短いので、朝のうちに気づけるかどうかでその日の予定が変わります。
午前から午後にかけては施設訪問です。医療機関で原資料(カルテや検査結果)と症例データを突き合わせるSDVを行い、治験責任医師やCRC(治験コーディネーター)と打ち合わせをします。医師の外来が終わるのを待って数分だけ話す、ということもよくあります。移動に片道2時間かかる施設を担当していると、訪問だけで1日が終わります。
夕方以降は報告書です。訪問の記録、逸脱の記録、施設ごとの課題の整理をまとめ、社内のリードCRAやプロジェクトマネージャーに上げます。週に1回はクライアントとの定例会議があり、登録の進み具合を説明する資料を作ります。
負担が溜まる場所は、大きく3つあります。
1つ目は、施設とクライアントの間に立つ位置です。施設からは「これ以上の症例は難しい」と言われ、クライアントからは「登録目標に届いていない理由を説明してほしい」と言われます。どちらの言い分も分かるのに、自分では決められない。この板挟みが続くと、仕事量より先に気持ちが削られます。
2つ目は、締切が重なる時期です。症例登録の終盤、データ固定の直前、監査や適合性調査の前は、複数の施設で同時に作業が発生します。普段は定時で上がれる人でも、この時期だけは夜まで報告書に向かうことになります。
3つ目は、評価が見えにくいことです。CRAの仕事は「問題が起きなかった」ことが成果になりやすく、目に見える形で残りにくい。上司が別の案件に入っていて日常の仕事を見ていない、という体制もあり、頑張りが評価に結びつかない感覚が生まれます。
CRA以外の職種にも、それぞれの負担の溜まり方があります。データマネジメントは在宅で働ける日が多い一方、データ固定の前は問い合わせの締切に追われ、施設からの回答を待つ時間が読めません。プロジェクトマネージャーは移動が少ない代わりに、クライアントからの問い合わせの最初の受け手になり、夜や休日のメールにも気を配ることになります。メディカルライティングは1人で集中できる時間が長いものの、医学専門家やクライアントのレビューが何度も戻ってきて、締切の直前に大きな修正が入ることがあります。
職種ごとに負担の形が違うので、「CROはどこも同じようにしんどい」と決めつける必要はありません。自分が苦しいのは移動なのか、締切なのか、人との調整なのか、成果の見えにくさなのか。ここが分かれば、同じCROの中でも合う場所を探せます。
自分のしんどさが3つのどこから来ているかを書き出すだけで、次に何を変えればよいかがかなり絞れます。
辞める前に切り分けたい3つの層:案件、会社、職種
辞めたい理由を「案件」「会社」「職種」の3層に分けて考える方法を紹介します。層によって、取るべき行動がまったく違うからです。
案件の層の問題は、担当している試験の難しさ、担当施設の数や場所、クライアントの担当者との相性、リードCRAの進め方などです。これらは試験が終われば入れ替わります。第III相試験は数年単位で続くこともありますが、途中でアサインが変わることもあります。案件の層の問題で会社を辞めるのは、正直なところ、もったいない選択になりがちです。
会社の層の問題は、人員体制、評価制度、アサインの決め方、在宅勤務の可否、出張の扱い、給与水準などです。「どの案件に入っても担当施設が多すぎる」「人が辞めても補充されない」「上司との面談が形だけ」といった状態が続いているなら、それは会社の層です。この場合は、社内にいても状況は変わりにくいので、転職を具体的に考える段階に入ります。
職種の層の問題は、CRAという仕事自体が合わないケースです。移動が多い働き方が体に合わない、人と調整する仕事より資料やデータに向き合う仕事のほうが好き、医療機関とのやり取りに強いストレスを感じる、といったものです。この場合、会社を変えても同じCRAなら解決しません。職種を変えることを考えます。
私自身、以前の職場で辞めたいと思ったとき、理由を紙に書き出してみたことがあります。書く前は「会社が嫌だ」とひとまとめにしていましたが、書いてみると半分以上が特定のプロジェクトと、その進め方に関するものでした。結局そのときは、担当を外れたいと上司に伝えるだけで状況がかなり変わりました。あのとき勢いで辞めていたら、次の職場で同じ種類の不満を抱えていたと思います。
書き出すときは、「いつから」「どんな場面で」「誰との間で」を具体的にしておくと、層の見分けがつきやすくなります。「3か月前に新しい試験に入ってから」なら案件の層、「入社したときからずっと」なら会社か職種の層、というように、時期がヒントになります。
切り分けに迷ったときは、「いまの案件が明日終わったら、この会社で働き続けたいか」と自分に聞いてみる方法があります。すぐに「続けたい」と思えるなら案件の層、「それでも辞めたい」なら会社か職種の層です。さらに「別のCROで同じCRAをやるなら続けたいか」と聞いて、それでも気が進まなければ職種の層と考えられます。問いを2つ重ねるだけで、転職先の探し方がかなり具体的になります。
もう1つ確認したいのは、体と気持ちの状態です。眠れない、朝起きられない、休日も仕事のことが頭から離れないという状態が続いているなら、層の切り分けより先に休むことを優先してください。産業医や社内の相談窓口、外部の相談先に話すことは、辞めるかどうかとは別に使える手段です。
同じCROの中に残るという選択肢
辞めたい理由が案件の層、あるいは職種の層でも社内で動ける範囲に収まるなら、会社を変えずに状況を変える方法があります。CROは職種の幅が広いので、他の業界より社内で動ける余地が大きい職場です。
まず考えたいのはアサインの変更です。担当施設の数や地域、試験の領域について、ラインマネージャーとの面談で希望を伝えます。「辛いので外してほしい」だけでは通りにくいので、「移動時間が月にどれくらいあり、報告書の遅れにつながっている」「この領域は経験があるので次はこちらで力を出せる」というように、業務の話として伝えるのがコツです。すぐには変わらなくても、次の試験が始まるタイミングで考慮してもらえることがあります。
次に、社内異動です。CROには、CRAのほかに次のような職種があります。
・データマネジメント(症例データの点検やデータベースの構築) ・品質管理や品質保証(手順どおりに業務が行われているかの確認) ・プロジェクトマネジメント(試験全体の進行管理とクライアント対応) ・安全性情報(有害事象の情報の収集と報告) ・メディカルライティング(治験実施計画書や総括報告書の作成) ・薬事(承認申請に向けた書類の整理)
CRAの経験は、どの職種でも役に立ちます。施設で何が起きているかを知っているデータマネジメント担当者は、問い合わせの出し方が的確になりますし、品質管理でも現場の事情が分かる人は重宝されます。移動が負担になっているなら、在宅中心の職種に移ることで働き方が大きく変わります。
3つ目は外部就労への切り替えです。CROの社員として、製薬会社の開発部門に常駐して働く形です。クライアントの中で働くので、試験全体の意思決定に近いところで仕事ができます。一方で、所属はCROのまま職場は製薬会社という二重構造になるため、評価や相談の窓口が分かりにくくなる面があります。
4つ目は、リードCRAやプロジェクトマネージャーへのステップアップです。担当施設を持つ働き方から、チームをまとめる働き方に変わります。移動は減りますが、クライアントとの調整の比重は増えます。「板挟みがつらい」ことが辞めたい理由なら、この道はむしろ負担を増やす可能性があります。自分の理由と照らし合わせて選んでください。
社内で動くときに気をつけたいのは、異動の希望を出したことが評価に響くのではという不安です。実際には、CROは職種間の異動を前提に人を育てている会社も多く、希望を出すこと自体が不利になるとは限りません。気になるなら、過去に同じ異動をした先輩がいるかを確かめてから相談すると、話の進め方も見えてきます。社内の公募制度がある会社なら、上司を通さずに応募できる場合もあります。
CROの外に出るなら、行き先ごとに変わること
会社の層、あるいは職種の層の問題で外に出ると決めたなら、行き先によって仕事の中身と働き方がどう変わるかを知っておきます。治験に関わる職場は複数あり、同じ経験が違う形で求められます。
製薬会社の臨床開発は、CRA経験者の転職先として最もよく名前が挙がります。依頼する側に回るので、試験の計画段階から関われます。一方で、社内の会議や調整が増え、CROに業務を委託して管理する立場になります。中途採用の枠は多くなく、英語力や特定の領域の経験を求められる傾向があります。
SMO(治験施設支援機関)でCRCとして働く道もあります。医療機関の側で、被験者への説明や来院の調整、症例報告書の作成支援をします。CRAだった人がCRCになると、施設の苦労を体で知ることになり、以前の自分の依頼の出し方を振り返る人もいます。看護師や臨床検査技師の資格を持っていると入りやすい職場です。在宅でできる治験の仕事の範囲については、看護師が治験コーディネーターとして就ける在宅業務の整理も参考になります。
医療機関の治験事務局や臨床研究支援部門も選択肢です。治験審査委員会の運営、契約、費用の管理などを担当します。移動はほとんどなくなり、勤務時間も安定しやすい職場です。医療事務の知識があると入口が広がるので、医療事務技能審査試験(メディカルクラーク)の資格ガイドで試験の範囲を見ておくと、自分の経験とどこが重なるかがつかめます。
別のCROに移る場合は、前の職場で何が合わなかったのかを面接で確かめることが欠かせません。担当施設数の目安、在宅勤務の比率、アサインの決め方、評価の仕組みは、同じ業界でも会社によって差があります。
行き先を比べるときは、「誰のために、どの距離で試験に関わるか」で整理すると分かりやすくなります。製薬会社は試験を持つ側、CROは試験を代わりに動かす側、SMOと医療機関は試験を実際に行う現場の側です。CROで板挟みがつらかった人は、依頼する側か現場の側のどちらかに寄ることで、立場のあいまいさから抜けられます。反対に、いろいろな試験やクライアントに触れられることが楽しかった人は、製薬会社で1つの製品に長く関わる働き方を物足りなく感じることがあります。
働き方の面では、移動の量が大きく変わります。CRAは施設訪問が仕事の中心ですが、製薬会社の臨床開発は社内会議が中心で、訪問は重要な局面に限られます。CRCは1つか少数の医療機関に通う形なので、長距離の出張はほぼなくなります。医療機関の治験事務局は院内での勤務です。移動の負担が辞めたい理由の上位にあるなら、この違いだけで候補を絞り込めます。
治験の外に出る人もいます。医療系の人材紹介会社のコンサルタント、医療機器メーカーの学術、ヘルスケア系のIT企業のプロジェクトマネージャーなど、調整力とGCPの知識を活かせる仕事は少なくありません。人の相談にのる仕事に関心があるなら、キャリアコンサルタントの資格ガイドで、受験資格や学ぶ範囲を確認できます。
求人票と面接で「同じ失敗」を避けるための確認点
転職で同じ失敗を避けるには、前の職場で困ったことを、そのまま次の職場での確認項目に変えることです。CROの求人票には「CRA募集」「経験者優遇」とだけ書かれていることも多く、実態は面接で聞かないと分かりません。
求人票で見ておきたいのは、次の点です。
・勤務形態(在宅勤務の日数、直行直帰の可否、出張の扱い) ・労働時間の制度(フレックス、裁量労働制、みなし残業の時間数) ・担当する領域と試験のフェーズ ・外部就労の可能性があるかどうか ・入社後の研修の期間と、独り立ちまでの目安
みなし残業が月30時間や45時間と書かれている場合、その時間を超えた分がどう扱われるかを確かめます。裁量労働制と書かれていれば、実際の働き方がどの程度自分で決められるかを聞いておきます。
面接では、聞きにくいことこそ具体的に聞きます。「CRA1人あたりの担当施設数は平均でどれくらいですか」「アサインはどのように決まり、希望はどの程度考慮されますか」「直近1年でCRAの方が辞めた理由として多いものは何ですか」といった質問です。答えにくそうにされたら、それ自体が1つの情報になります。
外部就労の可能性がある会社では、「入社後、最初から外部就労になることはありますか」「外部就労先はどのように決まり、本人の希望は聞かれますか」も確認します。求人票ではCROの社員として募集していても、実際には入社後すぐ製薬会社に常駐する働き方になる場合があります。常駐先の勤務時間や出社の頻度は、常駐先の規則に合わせることが多いので、在宅勤務を重視している人ほど聞いておくべき点です。
面接官がどの立場の人かにも注目します。人事担当者だけの面接では現場の実態が分かりにくいので、選考の途中で配属予定の部署のマネージャーと話せるかを聞いてみてください。現場の人と話せれば、担当施設の数や繁忙期の働き方について、求人票より具体的な答えが返ってきます。
前の職場の不満を面接で話すときは、言い方に注意が必要です。「上司が合わなかった」ではなく、「担当施設が多く、1施設あたりにかけられる時間が足りなかった。1施設ずつ丁寧に向き合える体制で働きたい」というように、次の職場で実現したいことに言い換えます。採用する側は、同じ理由でまた辞めないかを見ています。辞めた理由と、次の職場を選んだ理由がつながっていれば、その心配は小さくなります。
転職活動を始める時期も考えておきたいところです。担当している試験が症例登録の終盤やデータ固定の直前にある場合、その時期に抜けると引き継ぎの負担が大きくなります。業界は狭く、同じ施設やクライアントと別の会社で再会することもあります。区切りのよい時期を選んで退職を伝えることは、次の職場での評判を守ることにもつながります。
辞めると決めたあとの進め方:伝える順番と引き継ぎ
辞めると決めたら、進め方にも気を配っておきたいところです。CROの退職は、一般的な会社より引き継ぎの範囲が広くなります。担当施設との関係、進行中の逸脱の対応、未提出の報告書、クライアントとの約束事など、自分しか把握していない情報が多いからです。
伝える順番は、まずラインマネージャー、次にプロジェクトのリードです。プロジェクトのリードに先に話すと、ラインマネージャーが後から知ることになり、社内の調整がこじれることがあります。就業規則に退職の申し出の期限が書かれているはずなので、確認してから日程を決めます。法律上は申し出から2週間で雇用契約を終えられるとされていますが、CROの引き継ぎを考えると、1か月から2か月前に伝えるのが現実的です。
引き継ぎの資料は、施設ごとにまとめると受け取る側が助かります。施設の担当者の名前と連絡の取りやすい時間帯、治験責任医師の方針、過去に起きた逸脱と対応の経緯、次に訪問するときに確認すべきことを1枚にまとめておきます。施設には、後任の担当者と一緒に最後の訪問をして挨拶できると理想的です。
有給休暇の消化も計画に入れておきます。引き継ぎが長引いて有給を使い切れないまま退職日を迎える人は少なくありません。退職日から逆算して、引き継ぎの期間と有給の期間を先に決め、その日程で上司と合意しておくと、最後の数週間が慌ただしくなりません。
退職を引き止められることもあります。昇給や異動を条件に出されたとき、それで辞めたい理由が解消されるなら考え直す価値はあります。ただ、辞めたい理由が会社の層にある場合、条件だけが変わっても数か月後に同じ気持ちに戻る傾向があります。前の章で書き出した理由を見返して、条件の変更で本当に解決するのかを確かめてから答えてください。
次の職場が決まる前に辞めるかどうかも迷うところです。CROの経験者は転職市場で求められやすいとはいえ、収入が途切れる期間は気持ちの余裕を奪います。体調に問題がなければ、在職中に内定を得てから伝えるほうが、条件の交渉でも落ち着いて判断できます。
退職後に気をつけたいのは、守秘義務が退職で終わらないことです。入社時に交わした秘密保持の誓約書には、退職後も一定期間、業務で知った情報を漏らさない約束が含まれているのが一般的です。次の職場の面接で「前の会社でどんな試験を担当していたか」を話すときも、開発品の名前やクライアント名、未公表の試験デザインは出さず、「循環器領域の第III相試験で、担当施設は8施設」のように一般化して伝えます。この話し方ができること自体が、面接では情報管理の意識の表れとして受け取られます。
年収データと在宅の働き方から見た、次の選択肢
最後に、辞めたあとの選択肢を年収と働き方の面から整理します。CRAの年収は、経験年数、内資か外資か、外部就労かどうかで幅があります。求人票でよく見る幅は、経験の浅い層で400万円前後、経験を積んだ層やリードの立場で600万〜800万円程度という傾向が見られます。
CROには、薬剤師や看護師の資格を持つ人も多く働いています。資格を活かして医療現場に戻る場合と、CROに残る場合で年収がどう変わるかは、比較してから決めたいところです。薬剤師の年収データでは、病院、調剤薬局、ドラッグストア、企業といった勤務先ごとの相場がまとまっているので、薬剤師の年収・単価相場で自分の条件に近い層を確認できます。看護師の場合も、病棟、クリニック、企業で水準が変わるので、看護師の年収・単価相場と比べておくと判断材料になります。
CROで身につけた力は、会社員として働く以外の形でも使えます。GCPの知識、治験文書を正確に読む力、医療用語を扱う文章力は、メディカルライティングの補助、治験関連文書の翻訳やチェック、医療系コンテンツの監修補助といった業務委託の仕事につながります。いきなり独立するのではなく、在職中や転職の合間に小さな案件で試してみると、自分に合う働き方が見えてきます。
ただし、在職中に業務委託の仕事を受けるときは、就業規則の副業の規定と、秘密保持の約束を必ず確認してください。CROの社員は、クライアントの試験情報や未公表の開発品の情報に触れています。副業の内容がクライアントと競合する会社に関わるものだったり、仕事で知った情報を使うものだったりすると、規則違反では済まない問題になります。副業として受けるなら、治験と直接関係のない一般向けの医療情報の執筆や、公開済みの論文の要約など、業務上の情報と切り離せる仕事から選ぶのが安全です。
20年この市場を見てきた立場から言えば、専門職の人が業務委託で長く続けられるかどうかは、単価の高さより「この人に頼むと確認の手間が減る」と思ってもらえるかで決まる傾向があります。CROで報告書の差し戻しを減らす工夫を積み重ねてきた人は、この点で強みを持っています。また、中間マージンが乗らない直接の取引では、依頼する側は同じ予算でより多くを頼め、受ける側の手取りも厚くなります。手数料0%の取引は、金額の大きさより、双方にとって無理のない関係を長く保てるという点に価値があります。
仕事の悩みを誰かに整理してもらいたいとき、あるいは自分が人の相談にのる側に回りたいときは、職場・転職・キャリア相談のお仕事で、どんな相談の形があるかを見ておくと視野が広がります。
CROを辞めたいと思ったときに大切なのは、辞めるか残るかを急いで決めることではなく、何から離れたいのかをはっきりさせることです。案件の問題なら担当を変える、会社の問題なら職場を変える、職種の問題なら仕事の中身を変える。層を分けてから動けば、次の職場は「前よりまし」ではなく「自分で選んだ場所」になります。
よくある質問
Q. CROを辞めたいと思ったら、まず何をすればよいですか?
辞めたい理由を「案件」「会社」「職種」の3つに分けて書き出すことから始めてください。担当試験やクライアントに関する不満なら、アサインの変更で解決する可能性があります。人員体制や評価の仕組みなら転職、移動や調整の仕事そのものが合わないなら職種の変更を考えます。心身の不調が続いている場合は、切り分けより休むことを優先してください。
Q. CRAを数年で辞めると転職で不利になりますか?
経験2〜3年でも、施設対応やGCPに沿った業務の経験は評価されやすい傾向があります。不利になりやすいのは、辞めた理由と次に選ぶ理由がつながっていない場合です。面接では前職の不満ではなく、次の職場で実現したい働き方として説明できるよう準備しておくと、同じ理由で辞めるのではという懸念を持たれにくくなります。
Q. CROから製薬会社の臨床開発に転職するのは難しいですか?
中途採用の枠は多くなく、特定の疾患領域の経験や英語力を求められることが多いため、簡単とは言えません。一方で、CRAとして施設対応やモニタリングを経験した人は、委託先を管理する立場でも力を発揮しやすいと見られています。すぐに移れない場合は、外部就労で製薬会社に常駐する経験を積むという段階を踏む方法もあります。
Q. CROを辞めずに移動の多さだけを減らす方法はありますか?
あります。担当施設の地域や数についてラインマネージャーに希望を伝える、在宅勤務やリモートでの確認作業が多い試験への配属を相談する、データマネジメントや品質管理など在宅中心の職種へ社内異動する、といった方法です。希望を伝えるときは、移動時間が業務にどう影響しているかを具体的に示すと検討してもらいやすくなります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
朝比奈 蒼@SOHO編集部
ITメディア編集者
IT系メディアで編集・ライティングを担当。クラウドソーシング業界の動向やサービス比較など、客観的な視点での記事を執筆しています。
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