株主総会の議事録は何のために残すのか|作らないと困る場面


この記事のポイント
- ✓株主総会議事録とは何かを
- ✓作る義務の話だけで終わらせず「作っていないと具体的に何が止まるか」から説明する
- ✓事業承継の場面ごとに必要になる理由と
株主総会議事録とは何かを調べている人の多くは、「作らないといけないらしいが、なぜ必要なのかが分からない」という状態にある。株主が自分ひとりしかいない会社で、誰とも議論していないのに会議の記録を残す。その意味が腑に落ちないまま、義務だからという理由だけで書くのは苦しい。この記事では、株主総会議事録がどういう書類なのかを定義から説明したうえで、それを作っていない会社が実際にどこで止まるのかを場面ごとに並べる。意味が分かると、何をどこまで書けばよいかも自然に決まる。
株主総会議事録は「会議のメモ」ではなく「決まった証拠」
まず言葉の整理から始める。株主総会とは、会社の持ち主である株主が集まって、会社の重要なことを決める場だ。株主総会議事録は、その場でいつ何が決まったかを記録した書類を指す。
紛らわしいのは「議事録」という言葉の響きだ。一般の会議で作る議事録は、参加者があとから内容を思い出すためのメモに近い。株主総会議事録はそうではない。これは会社の外に向けて「この決定は正しい手続きを踏んで行われた」と示すための証拠書類だ。
株主総会議事録とは、株主総会で決定された事項などを記載した書類で、会社法により作成・保存が義務とされています。
記載内容の責任や管理は取締役が担い、作成も取締役が実施することが一般的です。
株主総会議事録は、株主や会社の債権者からの求めに応じて提示しなければなりません。また、登記・税務調査時に提出しなければならないこともあります。 出典: freee.co.jp
証拠書類であるという性質から、いくつかの特徴が出てくる。決まった項目を必ず含めること、作った人の名前を残すこと、長期間保存すること。どれも「あとから第三者が読む」ことを前提にしたルールだ。会社の中だけで完結する書類なら、こうした縛りは要らない。
会社法のルールは、e-Gov法令検索で条文そのものを確認できる。議事録に関する部分は短く、「法務省令で定めるところにより議事録を作成しなければならない」「株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければならない」という2点が骨格になっている。
ここから先は、この「証拠」が実際にどこで必要になるのかを見ていく。義務があるから作る、という説明では動けなかった人も、止まる場面を知れば優先順位をつけられる。
困る場面1:登記の申請が受け付けられない
最も分かりやすく、そして最も多くの会社が直面するのが登記だ。
会社の情報のうち、商号、本店の所在地、事業の目的、役員の氏名といった項目は、法務局が管理する登記簿に記録されている。この内容を変えるときは、変更の登記を申請する必要がある。そして申請書には、なぜ変更するのかを裏づける書類を添える。株主総会で決めた事項であれば、その書類が株主総会議事録になる。
法務局が公開している商業・法人登記の申請書様式を開き、役員変更の記載例を見ると、添付書類の欄に株主総会議事録がはっきり書かれている。議事録がなければ、申請書の形は整っていても、登記は進まない。
ここで多くの人が誤解するのは、「あとからまとめて作ればいい」と考えてしまう点だ。確かに、総会の日から時間が経ってから議事録を作っても、申請自体は受け付けられる。ただし登記には期限がある。登記すべき事項が発生してから2週間以内に申請することが法令で定められており、遅れると代表者に対して裁判所から100万円以下の過料が科される可能性がある。
さらに重いのが、放置し続けた場合だ。最後の登記から12年が経過している株式会社は、実態がないものとみなされて解散の登記をされる対象になる。役員の任期が満了しているのに選び直しの手続きをしていない会社は、このみなし解散の対象に近づいていく。任期満了に伴う選び直しは株主総会で決めるので、議事録を作る習慣がない会社ほど、この状態に陥りやすい。
困る場面2:役員報酬の根拠を説明できない
次に大きいのが税務だ。
取締役が受け取る報酬は、定款に金額を書いていなければ、株主総会の決議で決めることになっている。これは会社法のルールで、上場企業でもひとり会社でも変わらない。
なぜこうなっているかというと、役員報酬は会社の利益を役員自身が持ち出す行為だからだ。放っておけば、社長が自分の報酬を好きなだけ引き上げて、会社の利益を消してしまえる。だから持ち主である株主の承認を通す仕組みになっている。ひとり会社では社長と株主が同じ人物なので形式的に見えるが、決議を経たという記録が要る点は同じだ。
税務調査で役員報酬が話題になったとき、株主総会で決めた記録がないと、いくらに決めたのか、いつから適用したのかを示す書類が何もない状態になる。税務上、役員報酬は毎月同じ額を払うといった条件を満たさないと経費として認められにくい扱いがあり、金額を変えたタイミングが問題になることがある。個別の判断は金額や事情によって変わるので、実際の扱いは税務署か税理士に確認する必要があるが、少なくとも「決めた記録がある」ことは、説明を始めるための最低条件になる。
役員退職金も同じ構図だ。金額の妥当性が問われる場面では、どういう根拠でその額に決めたかを示す記録があるかどうかで、話の進み方が変わる。
帳簿や書類の保存については、国税庁が帳簿書類等の保存期間として、確定申告書の提出期限の翌日から7年間、欠損金が生じた事業年度については10年間という期間を示している。会社法が議事録に求める10年とおおむね重なるので、決算書類と一緒にまとめて保管しておくと管理が楽になる。
困る場面3:株主や債権者から見せてほしいと言われる
会社法は、株主と債権者に議事録を見る権利を与えている。会社の営業時間内であればいつでも、書面の閲覧やコピーを請求できる。電子データで作っている場合は、それを表示したものの閲覧やコピーを請求できる。
この請求を正当な理由なく断ると、過料の対象になりうる。つまり「見せない」という選択肢は制度上ほとんど残されていない。
ひとり会社では、そもそも他の株主がいないので、この場面は遠い話に見える。しかし債権者は違う。取引先が売掛金を回収できずにいる、金融機関から借入がある、といった状況では、相手は債権者の立場に立つ。会社の意思決定がどう行われているかを確認したいと考えるのは自然なことだ。
また、事業が伸びて出資を受け入れた瞬間に、会社は「株主が複数いる会社」になる。出資者は、自分が知らないところで重要な決定が行われていないかを確認する手段として、議事録の閲覧を使う。そのときになって過去5年分の議事録が1枚もないと分かれば、出資の話そのものが止まる。
事業承継や会社の売却を考える局面でも同じことが起きる。買い手側は、会社が適法に運営されてきたかどうかを書類で確認しようとする。役員の選任や重要な契約の承認が、決議を経ずに行われていた形跡があれば、その部分は法的に不安定な状態として扱われる。過去にさかのぼって議事録を作り直すことはできないので、ここは時間を巻き戻せない領域になる。
困る場面4:登記に添える他の書類も連鎖して作れない
議事録がないことの影響は、議事録だけにとどまらない。登記に出す書類は互いに紐づいているため、1枚欠けると周辺も揃わなくなる。
代表的なのが株主リストだ。2016年10月1日以降の登記申請では、登記する事項について株主総会の決議が必要な場合、株主リストの添付が求められるようになった。
株主リストの添付は,次の2つの場合に必要となります。
1 登記すべき事項につき株主総会の決議(種類株主総会の決議)を要する場合
2 登記すべき事項につき株主全員の同意(種類株主全員の同意)を要する場合 出典: moj.go.jp
株主リストには、議決権の多い上位10名の株主か、議決権の割合を上から足して3分の2に達するまでの株主か、少ないほうについて、氏名または名称、住所、株式数、議決権数、議決権数の割合を書き、代表者が証明する。この書類は「株主総会の決議があった」ことを前提に作るものなので、議事録と内容が食い違うと、そこで手続きが止まる。
就任承諾書も連鎖する書類のひとつだ。新しく取締役になる人が就任を承諾したことを示す書類だが、議事録に「被選任者は席上その就任を承諾した」と書いてあれば、別に作らずに議事録の記載を使うことができる。議事録を丁寧に書くほど、添える紙が減るという関係になっている。
作らなかった場合に何が起きるか
議事録を作らない、または保存しないことに対するペナルティは、会社法に定められている。取締役や監査役などに対して、100万円以下の過料が科される可能性がある。
過料は刑罰ではないので前科はつかない。ただし、裁判所から通知が届き、代表者個人が支払うことになる。会社の経費ではなく個人の負担になる点は、知っておいたほうがよい。
現実には、議事録がないという理由だけで過料が科される例はそう多くない。実務で先に来るのは、登記が進まない、税務調査で説明に窮する、取引先や金融機関から信用されないといった、より地味で継続的な不利益のほうだ。過料の存在は「制度としてそれだけ重く扱われている」という目安として読むのが適切だろう。
もうひとつ見落とされやすいのが、決議そのものの有効性が争われるリスクだ。議事録は決議の有効性を証明する唯一の手段ではないが、記録がなければ「本当に決議があったのか」を示すのが難しくなる。株主が複数いる会社で後から意見が割れたとき、書面がある側とない側では立場がまったく違う。
取締役会議事録との違いを押さえておく
会社の中には複数の種類の議事録がある。混同すると、必要な書類を取り違える。
株主総会議事録は、持ち主である株主が決めたことの記録だ。会社の根本に関わる事項、たとえば定款の変更、役員の選任と解任、決算の承認、合併といったテーマを扱う。
取締役会議事録は、経営を任された取締役たちが決めたことの記録だ。取締役会を置いている会社では、代表取締役を誰にするか、重要な財産を処分するか、といった経営判断をここで決める。取締役会を置いていない会社には、そもそも取締役会議事録が存在しない。
小さな会社でよくあるのが、取締役会を置いていないのに「取締役会議事録」という表題で書類を作ってしまうケースだ。存在しない機関の議事録を出しても登記は通らない。自社の定款を開いて、取締役会を置いているかどうかを確認することが出発点になる。
もうひとつ、取締役が複数いて取締役会を置いていない会社では、代表取締役を「取締役の互選」で決める方法がある。この場合に作るのは互選書という別の書類で、株主総会議事録でも取締役会議事録でもない。どの機関がその事項を決める権限を持っているかによって、作る書類が変わる。
いつ作るのか、誰が作るのか
議事録を作る義務を負うのは会社だが、実際に手を動かすのは取締役だ。議事録には作成の職務を行った取締役の氏名を書くことになっているので、誰が作ったかが記録に残る。ひとり会社では代表取締役本人がこれに当たる。
タイミングは、総会が終わったらできるだけ早くが原則だ。法律は「総会後何日以内に作れ」とは定めていないが、登記に使う場合は2週間以内の申請期限に間に合わせる必要があるため、実質的には数日以内に作ることになる。
記憶が新しいうちに作るべき理由は期限だけではない。時間が経つと、開会と閉会の時刻、誰が何を説明したか、出席した株主の議決権数といった細部があいまいになる。あいまいなまま書くと、数字と文章がかみ合わない議事録ができあがり、あとで読み返したときに矛盾が見つかる。
定時株主総会は毎年同じ時期に開くので、事業年度のカレンダーに組み込んでおくのが確実だ。決算日から起算して、計算書類をまとめ、総会を開き、議事録を作り、必要なら登記を申請する。この一連の流れを毎年同じ順番で回せるようになると、年に1回の作業として定着する。
会議を開かずに全株主の同意で決める方法を使う場合は、同意が揃った日が決議のあった日とみなされる。この日付を起点に、議事録の作成と、同意書の保存が始まる。同意書は決議があったとみなされた日から10年間、本店に備え置く必要がある。
何をどこまで書けば「作った」ことになるのか
意味が分かったところで、最低限どこまで書けば議事録として成立するのかを確認しておく。会社法は書式を定めていないが、内容に含めるべき項目を法務省令で挙げている。
含めるのは、開いた日時と場所、議事の経過の要領とその結果、決まった場面で述べられた意見や発言の概要、出席した取締役や監査役などの氏名、議長がいるならその氏名、議事録を作った取締役の氏名。この6つだ。
このうち「議事の経過の要領」という言い方が分かりにくいが、あらすじで足りるという意味だ。発言を一字一句書き起こす必要はない。議長が議案を出し、説明し、賛否を諮り、可決した。この流れが読み取れれば要件を満たす。
「決まった場面で述べられた意見」は、監査役が辞任の理由を総会で述べた場合など、法律が特に記録を求めている場面を指す。小さな会社ではこの場面に当たらないことがほとんどで、当たらないなら書く必要はない。
場所の書き方には注意が要る。本店で開いたなら「当会社の本店において」で足りるが、オンラインで参加した役員や株主がいるなら、どうやって参加したかを書き添える。会議室を借りたなら、その住所を書く。
抜けやすいのは最後の「議事録を作った取締役の氏名」だ。末尾に代表取締役の署名があるので作成者も書いたつもりになるが、署名は決議の内容を確認したという意味で、作成者の記載とは別の役割を持つ。ひとり会社なら「議長兼議事録作成者」と併記しておけば、1行で両方を満たせる。
なお、株式の数や議決権の数は、この6項目には入っていない。それでも登記に使う議事録では冒頭に並べるのが一般的だ。決議が成立するだけの株主が出席していたことを、読み手が数字で確認できるようにするためで、法務局の記載例もこの形になっている。
保存する期間と場所、そして10年が過ぎたあと
作ったあとは保存が続く。会社法は、総会の日から10年間、議事録を本店に備え置くことを求めている。支店があるなら、写しを5年間、その支店に置く。
支店の写しについては例外がある。議事録を電子データで作っていて、支店で閲覧請求に応じられる措置をとっている場合には、支店に写しを置かなくてよい。支店が複数ある会社では、紙を配るより社内で共有できる場所にデータを置くほうが運用は軽くなる。支店がない会社には関係のない話で、本店に10年とだけ覚えておけばよい。
「備え置く」という言葉は、単に保管するという意味ではなく、請求があったら見せられる状態にしておくという意味を含む。倉庫の奥に段ボールで積み上げたまま、どこにあるか誰も分からない状態は、備え置いているとは言いにくい。年ごとにファイルを分け、背表紙に事業年度を書いておくだけでも、必要になったときの手間が大きく変わる。
10年が過ぎれば法律上の保存義務はなくなる。ただし、捨てることを勧める理由はほとんどない。過去の決議が争点になったとき、証拠として提出できるのは記録が残っている場合だけだからだ。紙の分量としても、年に1回から数回の総会であれば10年分でもファイル1冊に収まる。電子データなら容量の心配すら要らない。
電子データで作る場合、会社の中に置いておくだけなら電子署名は必須ではない。一方で、登記をオンラインで申請し、その添付書類として電子データを使うなら、決められた形式の電子署名が要る。紙で窓口に出すのか、オンラインで出すのかによって準備するものが変わるので、作る前に申請の方法を決めておきたい。
初めて作る人がよく取り違えること
最後に、相談の場で繰り返し出てくる勘違いを4つ整理しておく。
ひとつ目は「会議を開いていないから作れない」という思い込みだ。会社法は、全株主が書面または電子データで同意すれば、実際に集まらなくても決議があったものとみなす仕組みを用意している。この方法を使った場合も議事録は作るが、書く項目が変わり、決議があったとみなされた事項の内容、提案した人の氏名、みなされた日、作成した取締役の氏名の4点になる。開催の日時や議事の経過は存在しないので書かない。
ふたつ目は「議事録に押印は必ず必要」という思い込みだ。会社の中に保管するだけの議事録には、法律上の押印義務はない。押印が問われるのは登記に出すときで、しかも場面が限られる。取締役会を置いていない会社が株主総会で代表取締役を決めた場合には、議長と出席取締役が押した印について市区町村長が作った印鑑証明書を添えることになる。ただし、その印が前の代表取締役が法務局に届け出ている印と同じであれば、添付は要らない。
みっつ目は「議事録は長いほどよい」という思い込みだ。分量はA4で1枚から2枚に収まるのが普通で、必要な項目が入っていれば短くても問題はない。むしろ、書かなくてよい発言まで細かく書き込むと、あとから内容の矛盾を指摘される材料を自分で増やすことになる。
よっつ目は「定時と臨時で書き方が大きく違う」という思い込みだ。表題と扱う議案の中身は違うが、含めるべき項目も、保存の期間も、押印のルールも共通している。定時株主総会は毎事業年度の終了後に開いて決算を承認する場、臨時株主総会はそれ以外の必要が生じたときに開く場、という位置づけの違いと理解しておけばよい。
1年の流れのどこで作ることになるのか
議事録づくりを重く感じる原因のひとつは、それが年間のどこに入る作業なのかが見えていないことだ。決算日を起点に並べ直すと、位置がはっきりする。
3月31日を決算日とする会社を例にする。
・4月から5月 計算書類と事業報告をまとめる。監査役がいれば監査を受け、取締役会があればそこで承認する ・5月中旬 招集の通知を出す。全株式に譲渡制限をつけている会社なら、総会の1週間前までで足りる ・5月下旬 定時株主総会を開き、決算の承認と、任期が満了する役員の選び直しを決める ・総会の当日か翌日 議事録を作る。数字が頭に残っているうちに書くのがいちばん早い ・総会から2週間以内 役員の変更など登記すべき事項があれば、法務局へ申請する ・5月31日まで 法人税と地方税の申告を済ませる
最後の行が全体の位置を決めている。法人税法は、確定申告書を各事業年度の終了の日の翌日から2か月以内に提出することを求めている。3月決算なら5月末が期限だ。そして申告は確定した決算に基づいて行うものなので、その前に定時株主総会で決算を承認しておく必要がある。つまり総会の時期は、申告期限から逆算して自動的に決まっている。
どうしても2か月では総会を開けない会社には、申告期限を1か月延ばす仕組みがある。定款の定めなどによって決算後2か月以内に定時総会が招集されない状況にあると認められる場合に、税務署長へ申請して延長を受けるものだ。ただし申請は、延長したい事業年度の終了の日までに出す必要がある。決算が終わってから思い立っても間に合わないので、使うなら決算日より前に動く。
この並びを1枚のメモにして、決算のファイルの先頭に入れておく。翌年はそれをなぞるだけになり、毎年ゼロから思い出す必要がなくなる。
見せてほしいと言われたときに、どこまで応じるのか
閲覧を求められたときの扱いは、株主名簿とくらべると性質がはっきりする。
株主名簿については、会社法が請求の理由を明らかにすることを求めていて、しかも会社が断れる場合をいくつか挙げている。権利の確保や行使に関する調査以外の目的で請求してきたとき、会社の業務を妨げる目的のときなどだ。
議事録には、この条件が置かれていない。株主と債権者は、会社の営業時間内であればいつでも、書面またはその写しの閲覧か謄写を請求できる。理由を述べる必要はなく、会社が断れる場合も並べられていない。この書類が「外に見せるための記録」であることは、この差にそのまま表れている。
正当な理由なく拒むと過料の対象になる。会社法が100万円以下の過料を定めている場面には、閲覧や謄写を拒んだときと、備え置くべき書類を備え置かなかったときの両方が入っている。作っていないことと、作ったのに出せないことが、同じ重さで扱われているわけだ。
親会社がある会社では、もう1段ある。親会社の株主などが子会社の議事録を見たいときは、裁判所の許可を得てから請求することになっている。会社が直接その場で応じる相手ではないので、グループの上の会社から議事録を見せてほしいと言われた場合は、どの立場での請求なのかを先に確かめればよい。
実務で決めておくとよいのは、請求されたときに何を渡すかである。原本を手渡すのではなく写しを渡す、社外に出す前に代表者が中身を確認する、渡した日と相手を1行メモに残す。この3つを先に決めておけば、急に言われても慌てずに済む。
総会を開かないこと自体も、過料の対象に入っている
議事録の話をするときに抜けやすいのが、その手前の段階だ。会社法は、定時株主総会を毎事業年度の終了後の一定の時期に招集しなければならないと定めている。開くかどうかは会社の裁量ではない。
そして、招集を怠ったときも100万円以下の過料の対象として挙げられている。議事録を作らなかった場合と同じ枠である。「総会を開いていないから議事録がない」という説明は、理由になっていないどころか、もう1つの不備を自分から申告していることになる。
株主が1人の会社で、決算の数字を自分で確認して承認する。これで総会を開いたことになる。かかる時間は数十分で、そのまま議事録を書けばひとつの作業として終わる。開かない理由を探すより、開いて記録を残すほうが早い。
合同会社に株主総会議事録はない
同じ法人でも、合同会社には株主も株主総会も存在しない。出資して経営に関わる人を社員と呼び、意思決定は社員の同意や業務を執行する社員の決定で行う。会社法は持分会社に議事録の作成を義務づけていないので、株主総会議事録という書類自体が出てこない。
では登記のときに何を添えるのか。合同会社の登記では、総社員の同意書や業務を執行する社員の決定書といった書面が、株式会社の議事録に当たる役割を果たす。名前は違うが、外に対して決まったことを示す証拠という性質は同じだ。
義務がないからといって何も残さない運用は勧められない。社員が複数いる合同会社で、誰がいつ何に同意したかの記録がなければ、あとから意見が分かれたときに拠り所がなくなる。株式会社と同じ様式で作る必要はないので、日付、決めたこと、同意した社員の名前を書いた1枚を都度残しておけば足りる。
株式会社から合同会社へ、あるいはその逆へ組織を変えることを検討しているなら、この書類の作り方も一緒に変わる。手続きの入口が違うので、変更を考え始めた段階で司法書士に確認したほうが確実だ。
記録を残す習慣が、外部との取引を軽くする
在宅で働く人や小さな会社を長く見てきた立場から言うと、書類を残す習慣があるかどうかは、事業の規模よりも取引の速度に効いてくる。
新しい取引先と契約を結ぶとき、相手が確認したいのは「この会社は約束を守る体制があるか」という一点だ。財務の数字はもちろん見られるが、それ以前に、意思決定の記録が整っているかどうかで印象が決まる場面は多い。議事録や契約書がすぐに出てくる会社は、話が早いと評価される。逆に、書類を探すのに数日かかる会社は、それだけで交渉のテンポが落ちる。
運営者として見てきた限りでは、長く続いている事業者ほど、この手の事務を「面倒な義務」ではなく「あとで自分を助ける記録」として扱っている。年に1回の議事録作成に30分かけることが、数年後の融資審査や事業承継の場面で何日分もの時間を節約する。
書類の型を身につけたい人には、文書の作法を体系的に扱うビジネス文書検定の学習範囲が実務のチェックリストとして使える。議事録に限らず、見積書や報告書の組み立て方まで共通の考え方でまとまっている。
事務作業を自分で抱えきれなくなったときは、外に出すという選択肢がある。文書の作成や編集を仕事にしている人の単価の目安は著述家,記者,編集者の年収・単価相場で確認でき、依頼するときの予算感を作れる。業務システムの内製や委託を考えているならソフトウェア作成者の年収・単価相場が参考になる。
実際にどんな仕事が在宅で受け渡しされているかを知ると、自社のどの部分を外に出せるかの判断がつく。開発まわりはアプリケーション開発のお仕事、業務の進め方そのものの相談はAIコンサル・業務活用支援のお仕事、集客やセキュリティを含めた領域はAI・マーケティング・セキュリティのお仕事が、それぞれ市場の様子をつかむ入口になる。技術系の委託先を評価する目を持ちたいなら、ネットワークの基礎を問うCCNA(シスコ技術者認定)の出題範囲に目を通しておくと、提案書の中身を読み解けるようになる。
外注するときに一緒に整えておきたいのが、発注と支払いの条件だ。発注書に何を書くべきかはフリーランスを守る「下請法(取適法)」の知識|発注書・契約書の必須項目チェックリストにまとめてある。支払いでもめた場合の進め方は未払い報酬を回収する!弁護士の着手金・成功報酬と支払督促の流れ【2026年最新】が実務的だ。決算や税務の相談相手を探しているなら、その分野の専門家がどう働いているかを知る意味で会計士の副業ガイド|監査法人勤務でもできる高収入の稼ぎ方【2026年版】も目を通しておくとよい。
20年この市場を見てきて実感するのは、中間業者を挟まない直接の取引では、同じ予算でも依頼側はより多くを頼めて、受ける側の手取りは厚くなるということだ。手数料0%という条件の値打ちは、金額そのものよりも、双方が納得して関係を長く続けやすいという質にある。議事録のような記録をきちんと残している会社は、その関係を支える信用の土台を同時に積み上げている。
よくある質問
Q. 株主総会議事録とは具体的にどんな書類ですか?
株主総会でいつ何が決まったかを記録し、会社の外に向けて決議があったことを示す証拠書類です。会社法で作成と保存が義務づけられており、開催した日時と場所、議事の経過と結果、出席した役員の氏名、議長の氏名、作成した取締役の氏名などを含めます。会議のメモとは性質が異なります。
Q. 議事録を作っていないと、どこで一番困りますか?
登記です。役員の変更、商号や目的の変更、本店移転などを法務局に申請するとき、株主総会議事録が添付書類として求められます。議事録がなければ申請が進みません。登記は事項の発生から2週間以内という期限があり、遅れると代表者に100万円以下の過料が科される可能性があります。
Q. 株主がひとりでも作る意味はありますか?
あります。ひとり会社でも登記や税務調査で議事録の提示を求められる場面は同じように来ます。特に役員報酬は株主総会の決議で決めることになっているため、金額の根拠を示す記録として機能します。将来に出資を受けたり事業を承継したりする際、過去の記録の有無が確認されます。
Q. 取締役会議事録との違いは何ですか?
株主総会議事録は会社の持ち主である株主が決めたことの記録で、定款変更、役員の選任、決算の承認などを扱います。取締役会議事録は経営を任された取締役が決めたことの記録です。取締役会を置いていない会社には取締役会議事録が存在しないため、自社の定款で機関設計を確認することが先になります。
この記事について
編集部
監修:@SOHO編集部
2004年よりフリーランス・在宅ワーク向けサービスを20年運営。編集部が事実確認のうえ公開しています。

この記事を書いた人
丸山 桃子@SOHO編集部
アパレルEC運営支援・SNSコンサル
アパレル企業でMD・ECバイヤーとして勤務後、フリーランスに独立。アパレルブランドのEC運営支援・SNS運用を手がけ、ファッション・EC系の記事を執筆しています。
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